特許第5943511号(P5943511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943511
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/06 20060101AFI20160621BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20160621BHJP
【FI】
   C09D11/06
   C09D11/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-158173(P2012-158173)
(22)【出願日】2012年7月14日
(65)【公開番号】特開2014-19763(P2014-19763A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】金子 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】久田 葵
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−179691(JP,A)
【文献】 特開昭61−243870(JP,A)
【文献】 特開平03−243672(JP,A)
【文献】 特開2002−060693(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/037037(WO,A1)
【文献】 特開2008−163063(JP,A)
【文献】 特開2008−260802(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0211790(US,A1)
【文献】 油脂化学入門−基礎から応用まで−,2010年 6月 8日,第5刷,P19-23
【文献】 改訂三版 油脂化学便覧,1992年 1月15日,第2刷発行,P99-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/06
C09D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、樹脂と、油成分と、を含む印刷インキ組成物であって、
前記油成分として菜種油、及び植物油由来の脂肪酸エステルを含み、
組成物中の前記菜種油の含有量が20質量%以上であり、
さらに、ブチルヒドロキシトルエンを含む印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記植物油由来の脂肪酸エステルが、下記一般式(1)で表される化合物を含む請求項1記載の印刷インキ組成物。
−COO−R (1)
(上記一般式(1)中、Rは、不飽和結合を含んでもよい炭素数5〜23のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記植物油由来の脂肪酸エステルとして、大豆油脂肪酸エステル、ココナッツ脂肪酸エステル、椰子油脂肪酸エステル、菜種油脂肪酸エステル、ひまし油脂肪酸エステル及びトール油脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1又は2記載の印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記樹脂として、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキド樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1〜のいずれか1項記載の印刷インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、油性である印刷インキ組成物が水に反発する性質を利用した印刷方式であり、凹凸を備える印刷版を用いる凸版印刷方式とは異なり、凹凸のない印刷版を用いることを特徴とした印刷方式である。この印刷版は、凹凸の代わりに親油性の画像部と親水性の非画像部とを備え、印刷に際して、まず、印刷版に供給された湿し水によって非画像部が湿潤される。すると、油性である印刷インキ組成物が印刷版に供給された際に、当該印刷インキ組成物は、湿し水で湿潤されて水分を帯びた非画像部には反発して付着せず、親油性の画像部のみに付着する。こうして、印刷版の表面に印刷インキ組成物による画像が形成され、その印刷インキ組成物による画像がブランケット及び紙に順次転移することにより印刷が行われる。
【0003】
また、上記のように湿し水を用いたオフセット印刷の他に、シリコーン樹脂により非画像部が形成された印刷版を用いた水無しオフセット印刷方式も実用化されている。この印刷方式では、湿し水が印刷インキ組成物と反発して非画像部を形成するのではなく、シリコーン樹脂が印刷インキ組成物と反発して非画像部となる。こうした点を除けば、水無しオフセット印刷もまた、上記のように湿し水を用いたオフセット印刷と共通の印刷方式である。そこで、本明細書では、湿し水を用いた印刷方式のみならず、水無し印刷方式をも含めた概念として「オフセット印刷」という用語を用いる。なお、水無しオフセット印刷では、湿し水による印刷インキ組成物の乳化が起こらないので、ドットゲインの小さな高品位印刷を行うことができるとされている。
【0004】
さて、一口に印刷といっても多種の用途がある。さらに、例えば、インテリアとしては高いアート性や装飾的価値の付加、製品のパッケージやカタログでは購買意欲の向上、新聞や雑誌では即時性と多量性とを兼ね備えた情報の伝達というように、印刷の目的も実に様々である。しかしながら、どの様な用途であっても、印刷物が鮮明で高精細であることは、基本的に好まれる要素である。
【0005】
多くの印刷物は、微視的には各色の印刷インキ組成物からなるドットから構成されており、一般にそのドットが細かいほど高精細な印刷物が得られる。オフセット印刷では、版面にインキを供給した時に、画像部と画像部の間にわずかな非画像部が介在するだけで、油と水との反発又は油とシリコーン樹脂との反発により、画像部ごとの独立したインキ皮膜(ドット)を形成できるという特徴がある。この特徴を利用すると、より細かい画像部を版面に多数設けて、即ち、版面にインキを供給したときに細かいインキのドットを多数生じさせて印刷することが可能なことから、オフセット印刷は高精細な印刷物を得る代表的な印刷方式となっている。さらに製版におけるコストや時間、また、手間なども少なくて済み、こうした特性を有するオフセット印刷方式は多種の用途に向いていると言える。そして、内容物の高級感やリアリティー感を醸し出せるために、よく使用される用途の一つとして、食品等に用いられるパッケージの印刷を挙げることができる。
【0006】
パッケージで包装された食品では、外装の印刷が売上に影響することも少なくない。特に、商店にて、同じような知名度のメーカーの、同じような価格帯の商品が並んでいる場合には、外面に印刷された絵柄の印象が、最終的な購入の決め手になるケースが多々ある。そこで、最近の食品メーカーは、自社商品の味や品質を高めると同時に、外装にまでこだわることで、他社商品との差別化を図るようになっている。ところが、食品等に用いられるパッケージ印刷では、用途上から厳しい制約がいくつかある。
【0007】
例えば、化粧箱等と呼ばれる紙製のパッケージでは、印刷インキ組成物が外側に印刷されていても、流動成分や揮発成分等が基材である紙を透過して内側に移行するマイグレーション現象を生じることがある。その際、流動成分や揮発成分の中に、においを発するもの(におい成分)が含まれていると、におい成分に由来する臭気がパッケージの内部にこもり、ときには内容物である食品に移ることさえある。多くの場合、こもった臭気をかいだだけで内容物である食品を食する気は薄れ、ましてや印刷インキ組成物の臭気の移った食品など、とても食べられたものではない。
【0008】
以上により、臭気の発生は深刻な問題につながる可能性が極めて高いと言える。したがって、どれだけ鮮明で高精細な印刷物が得られても、臭気の発生する印刷インキ組成物は敬遠される。このような状況のもと、例えば特許文献1には、まず、におい成分である揮発性有機化合物成分を少なくするために、石油系の溶剤でなく植物油を主成分として用いた印刷インキ組成物が提案されている。さらに、本願出願人は、植物油中に固形樹脂を溶解させるときの温度を極力低く抑えた、印刷インキ組成物用の樹脂ワニスの製造方法を種々検討し、例えば特許文献2のように、固形樹脂を溶解させるに際して、当該固形樹脂を小粒径化しておく方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−253723号公報
【特許文献2】特開2010−031085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1にも記載されるように、印刷インキ組成物に含まれる揮発性有機化合物を少なくするために、印刷インキ組成物における主要な油成分として、鉱物油でなく植物油が広く用いられるようになっている。この場合、顔料の分散媒であるワニスを製造するために、バインダーとなる樹脂成分が植物油とともに150℃を超える高温で混合されることになる。また、特許文献2記載の製造方法を用いると、ほとんどの場合、150℃以下で樹脂ワニスを製造することが可能になるが、印刷インキ組成物の設計上、より難溶解性の樹脂を用いる必要があれば、やはり、樹脂成分が植物油とともに150℃を超える高温で混合されることになる可能性は否定できない。その際、油成分である植物油は、高温条件下で酸化や分解を受け、古くなった食用油に似た特有の臭気を発するようになる。上記のように、最近の印刷インキ組成物では鉱物油に代表される揮発性有機化合物の含有量が少なくなり、以前に比べれば印刷インキ組成物自体やそれを用いて印刷された印刷物の臭気が大幅に低減されている。しかし、パッケージの内側や内容物である食品から鉱物油の臭気がしても、誰もその様なものが食品に含まれているとは思わないであろうが、古くなった食用油の臭気がすると、食品メーカーがそういった油を使用していると勘違いされ、その方が、企業イメージが損なわれる可能性ははるかに高い。したがって、植物油に由来するにおい成分の発生についても、依然として厳しく制約される。
【0011】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、印刷によって得られた印刷物の臭気を抑制することのできるオフセット印刷用の印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、油成分である植物油として菜種油を用いて印刷インキ組成物を調製すると、印刷インキ組成物やそれを用いて印刷された印刷物の臭気を大幅に低減できるばかりでなく、後述するように、印刷インキ組成物中における凝固物の発生やマイグレーションを生じるといった問題を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、顔料と、樹脂と、油成分と、を含む印刷インキ組成物であって、上記油成分として菜種油、及び植物油由来の脂肪酸エステルを含み、組成物中の上記菜種油の含有量が20質量%以上であり、さらに、ブチルヒドロキシトルエンを含む印刷インキ組成物である。
【0014】
上記植物油由来の脂肪酸エステルが、下記一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
−COO−R (1)
(上記一般式(1)中、Rは、不飽和結合を含んでもよい炭素数5〜23のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
【0015】
上記植物油由来の脂肪酸エステルとして、大豆油脂肪酸エステル、ココナッツ脂肪酸エステル、椰子油脂肪酸エステル、菜種油脂肪酸エステル、ひまし油脂肪酸エステル及びトール油脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0017】
上記樹脂として、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキド樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、印刷によって得られた印刷物の臭気を抑制することのできるオフセット印刷用の印刷インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の印刷インキ組成物の一実施形態について説明する。
【0020】
本発明の印刷インキ組成物は、オフセット印刷用として使用されるものであり、印刷によって得られた印刷物の臭気を抑制することが可能であるため、食品等に用いられるパッケージ印刷用途としても好ましく用いられる。なお、本発明の印刷インキ組成物は、湿し水を用いたオフセット印刷はもちろん、湿し水を用いない水無し印刷に適用されてもよい。本発明の印刷インキ組成物は、顔料と、樹脂と、油成分と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0021】
[顔料]
顔料としては、印刷インキ組成物に着色力を付与するための着色顔料と、印刷インキ組成物に主として粘弾性等といった特性を付与するための無色顔料とが挙げられる。まずは、これらの顔料について説明する。
【0022】
着色顔料は、印刷インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来から印刷インキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0023】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料等が例示される。
【0024】
着色顔料の添加量としては、印刷インキ組成物の全体に対して8〜30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエロー印刷インキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタ印刷インキ組成物を、シアン顔料を使用してシアン印刷インキ組成物を、黒色顔料を使用してブラック印刷インキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色の印刷インキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0025】
無色顔料は、体質顔料とも呼ばれ、印刷インキ組成物における粘弾性等といった特性を調節するために好ましく使用される。無色顔料としては、クレー、タルク、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ベントナイト、酸化チタン等が例示される。無色顔料の添加量としては、印刷インキ組成物全体に対して0〜33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0026】
[樹脂]
樹脂は、印刷用紙の表面で上記顔料を固定するバインダーとして機能する成分であり、また、上記顔料を印刷インキ組成物中に分散させるために用いられる成分でもある。このような樹脂としては、印刷インキ組成物の分野で通常使用されるものを特に制限なく挙げることができ、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、アルキド樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等が例示される。これらの樹脂の重量平均分子量としては、1000〜30万程度を好ましく例示することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
これらの樹脂の中でも、良好な顔料分散性及び印刷品質、並びに長時間にわたる安定な印刷適性といった観点からは、樹脂として、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキド樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、ロジン変性マレイン酸樹脂を含むことがより好ましい。ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、1万〜30万程度を例示することができ、アルキド樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、1000〜3万程度を例示することができる。なお、樹脂の添加量としては、印刷インキ組成物全体に対して、10〜45%程度を好ましく例示できる。
【0028】
樹脂は、後述する油成分とともに加熱されることにより溶解又は分散され、ワニスとされた状態で使用される。ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得られた溶解ワニス中に金属キレート化合物や金属石けん等のゲル化剤を投入し、ゲル化ワニスとしてもよい。樹脂からゲル化ワニスを調製し、これを印刷インキ組成物の調製に用いることにより、印刷インキ組成物に適度な粘弾性を付与することができるので好ましい。
【0029】
[油成分]
油成分は、上記樹脂を溶解又は分散させてワニスとしたり、印刷インキ組成物の粘度を調節したりするために用いられる。本発明の印刷インキ組成物では、油成分として、菜種油、及び植物油由来の脂肪酸エステルを含む。以下、これら各種の油成分について説明する。
【0030】
本発明の印刷インキ組成物は、油成分として菜種油を含む。本発明者らは、印刷によって得られた印刷物の臭気を抑制すべく、印刷インキ組成物に含まれる各種成分が臭気の程度に与える影響を鋭意調査した。その結果、本発明者らは、意外にも、樹脂を溶解又は分散させる油成分として菜種油を用いることによって、こうした臭気が顕著に抑制されることを見出した。周知のように、印刷インキ組成物の分野では、財団法人日本エコマーク事務局が認定する、印刷インキ組成物におけるエコマーク基準(類型名:印刷インキVersion2.0、基準:印刷インキ組成物中の石油系溶剤が30質量%以下)に適合させるという観点から、油成分をこれまで用いられてきた鉱物油から植物油に切り替えようとする動きが進んでいる。また、これも周知であるが、このような植物油の中でも、豊富な流通量やコスト面等の要素に加えて、アメリカ大豆協会が設定するソイシール商標の使用基準を満たすために、主として大豆油が用いられている。このような中にあって、本発明者らは、主たる油成分として大豆油ではなく敢えて菜種油を用いることによって、本発明の課題を全て解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。菜種油は、不飽和結合含量が比較的少ない植物油であり、加熱に伴うにおい成分の発生が極めて少ない。そしてそればかりでなく、菜種油は、同じく不飽和結合含量の少ない椰子油等の植物油では印刷インキ組成物が製造及び保管されたり用いられたりする温度領域において凝固してしまうことがあるのと対照的に、このような温度領域で液体状態を維持することができる。すなわち、本発明は、高温となるワニス製造過程でもにおい成分になり難いことに加えて、万一、におい成分になったとしても拡散(マイグレーション)の度合いが低く、また、印刷インキ組成物が製造及び保管されたり用いられたりする温度領域において印刷インキ組成物中で凝固せず、これらの温度領域における印刷インキ組成物の品質安定性にとって優れた性状を備えた植物油成分である菜種油をより多く含有させることを特徴とする。そして、その結果として、本発明によれば、鮮明で高精細というオフセット印刷の本来の特徴はそのままで、さらに、印刷物の臭気を抑制することのできるオフセット印刷用の印刷インキ組成物が提供されることになる。
【0031】
印刷インキ組成物中の菜種油の含有量は、20質量%以上である。印刷インキ組成物中の菜種油の含有量が20質量%以上であることにより、印刷インキ組成物自身や、当該印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物の臭気を効果的に抑制することができる。印刷インキ組成物中の菜種油の含有量は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の印刷インキ組成物は、油成分として、上記菜種油に加えて植物油由来の脂肪酸エステルを含む。植物油由来の脂肪酸エステルは、印刷インキ組成物に含まれる樹脂の溶解性を高めるとともに、印刷インキ組成物が印刷用紙に印刷された際に、当該印刷用紙上で印刷インキ組成物から速やかに分離して印刷用紙に浸透する。このような作用により、植物油由来の脂肪酸エステルは、印刷用紙に印刷された印刷インキ組成物を速やかにセットされた状態へと導くことに寄与する。なお、印刷インキ組成物がセットされた状態とは、印刷された印刷インキ組成物の指触でのべたつきが消失し、乾燥した状態になることをいう。
【0033】
植物油由来の脂肪酸エステルは、酸触媒又は塩基触媒の存在下で、トリグリセリドである植物油と脂肪族アルコールとの間でエステル交換反応を行うことで合成される。植物油由来の脂肪酸エステルとしては、下記一般式(1)で表されるものを挙げることができる。
【0034】
−COO−R (1)
(上記一般式(1)中、Rは、不飽和結合を含んでもよい炭素数5〜23のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
【0035】
上記一般式(1)中、Rは、植物油由来の脂肪酸からカルボキシル基を除いた残基である。植物油由来の脂肪酸には不飽和結合を持つものもあり、ゆえに、Rは不飽和結合を含んでもよいアルキル基となる。Rには、水酸基が含まれてもよい。
【0036】
上記一般式(1)中、Rは、エステル交換反応に用いた脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基である。Rは、直鎖のアルキル基であってもよいし、分岐鎖を有するアルキル基であってもよい。このようなRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が例示される。
【0037】
より具体的には、植物油由来の脂肪酸エステルとして、大豆油脂肪酸エステル、ココナッツ脂肪酸エステル、椰子油脂肪酸エステル、菜種油脂肪酸エステル、ひまし油脂肪酸エステル、トール油脂肪酸エステル等を好ましく例示できる。これらの中でも、椰子油脂肪酸エステル、大豆油脂肪酸エステル、ひまし油脂肪酸エステル、トール油脂肪酸エステルをより好ましく例示できる。これらの脂肪酸エステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
印刷インキ組成物中の植物油由来の脂肪酸エステルの含有量としては、5〜30質量%を好ましく例示でき、10〜25質量%をより好ましく例示でき、10〜20質量%をさらに好ましく例示できる。
【0039】
本発明の印刷インキ組成物は、菜種油、及び植物油由来の脂肪酸エステルに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、菜種油以外の植物油や鉱物油を油成分として含んでもよい。
【0040】
このような植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等の乾性油や半乾性油等が例示される。これらの植物油は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、鉱物油としては、溶剤成分と呼ばれる軽質の鉱物油や、潤滑油状である重質の鉱物油等が例示される。
【0042】
軽質の鉱物油としては、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が例示される。このような非芳香族系石油溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製の0号ソルベント、同AFソルベント5号、同AFソルベント6号、同AFソルベント7号等が例示される。
【0043】
重質の鉱物油としては、スピンドル油、マシン油、ダイナモ油、シリンダー油等として分類されてきた各種の潤滑油を挙げることができる。これらの中でも、米国におけるOSHA基準やEU基準に適応させるとの観点からは、縮合多環芳香族成分の含有量が抑制されたものであることが好ましい。このような鉱物油としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のインクオイルH8、同インクオイルH35、三共油化工業株式会社製のSNH8、同SNH46、同SNH220、同SNH540等が例示される。
【0044】
[その他の成分]
本発明の印刷インキ組成物には、保存安定性を向上させたり、印刷性能を向上させたりする等の観点から、必要に応じて上記の各成分の他に各種成分を添加することができる。このような各種成分としては、酸化防止剤、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、ドライヤー、アルコール類等が例示される。
【0045】
酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン等のフェノール化合物や、酢酸トコフェロール等を好ましく例示することができ、中でもブチルヒドロキシトルエンをより好ましく例示することができる。印刷インキ組成物にこのような酸化防止剤が添加されることにより、油成分の酸化が抑制され、印刷インキ組成物自体や当該印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物の臭気がより抑制される。印刷インキ組成物中の酸化防止剤の含有量としては、0.1〜2質量%程度を例示することができる。
【0046】
上記の各成分を用いて本発明の印刷インキ組成物を製造するには、従来公知の方法が使用できる。このような方法としては、上記の各成分を混合した後にビーズミルや三本ロールミル等で練肉することで顔料を分散させた後、必要に応じて添加剤(酸化防止剤、アルコール類、ワックス類等)等を加え、さらに油成分の添加により粘度調整することが例示される。印刷インキ組成物における粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が2.0〜20Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明の印刷インキ組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0048】
<インキ組成物用ワニスの調製>
コンデンサー、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、アルキド樹脂及び第一油成分を表1及び2に示す配合にて仕込んだ後、内容物を200℃に昇温し、同温度を45分間維持することにより樹脂を溶解させ、さらに第二油成分を表1及び2に示す配合にて加えて撹拌することにより、ワニス1〜7及び比較ワニス1〜3を調製した。
【0049】
なお、表1及び2において、記載された各数値は質量部であり、ロジン変性マレイン酸樹脂は製品名Tertac 170(重量平均分子量5万〜6万、Respol社製)であり、ロジン変性フェノール樹脂は製品名Tergraf UZ−86(重量平均分子量5万〜6万、Respol社製)であり、アルキド樹脂は製品名SYNOLAC 7412(大豆油及び亜麻仁油変性アルキド樹脂、Cray Valley社製)である。
【0050】
上記ワニスの各々について、下記の方法にて凝固物の有無及び臭気を評価し、表1にそれらの評価結果を記載した。
【0051】
[凝固物の有無(ワニス)]
得られたワニスの各々について、10℃における凝固物の有無を目視にて評価した。評価基準は下記の通りである。
○ ワニスは透明であり、凝固物は認められない
× ワニスが白濁し、凝固物が認められた
【0052】
[臭気(ワニス)]
得られたワニスの各々について、ワニス10gを内容量5Lのポリエチレン製の袋に入れ、当該袋に空気を充満させた上で室温にて5分間放置した。その後、10人のモニター試験者のそれぞれに上記袋内部の空気の臭いを嗅がせ、植物油が酸化や分解されたような臭気を感じた者の人数により評価を行った。評価基準は、下記の通りである。
◎ 植物油が酸化や分解されたような臭気を感じた者が2名以下である
○ 植物油が酸化や分解されたような臭気を感じた者が3〜5名である
△ 植物油が酸化や分解されたような臭気を感じた者が6〜9名である
× 全員が、植物油が酸化や分解されたような臭気を感じた
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
<印刷インキ組成物の調製>
ワニス1〜7又は比較ワニス1〜3、着色顔料、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、菜種油及び椰子油脂肪酸2−エチルヘキシルエステルを表3及び4に示す配合にて混合した後、さらに60℃で20分間撹拌してプレミキシングを行い、次いで三本ロールミルにて練肉することで実施例1〜8及び比較例1〜3の印刷インキ組成物を調製した。なお、表3及び4において、記載された各数値は質量部であり、着色顔料はピグメントイエロー12である。
【0056】
得られた実施例1〜8及び比較例1〜3の印刷インキ組成物の各々について、下記の方法にて凝固物の有無、臭気及びマイグレーションを評価し、表3及び4にそれらの評価結果を記載した。なお、マイグレーションは、印刷物から印刷インキ組成物由来の成分が紙面を通して透過する程度を示すものであり、これが少ないほど、その印刷インキ組成物がパッケージ印刷用途に適することになる。
【0057】
[凝固物の有無(インキ)]
得られた印刷インキ組成物の各々について、ガラス板上に印刷インキ組成物を薄膜塗布し、温度10℃・湿度50%に設定した恒温恒湿器に当該ガラス板を15時間以上放置することで、10℃における印刷インキ組成物での凝固物の有無を評価した。評価基準は下記の通りである。
○ 印刷インキ組成物の塗膜表面が常温時と同等であり、凝固物は認められない
× 印刷インキ組成物の塗膜表面が固化し、凝固物が認められた
【0058】
[臭気(インキ)]
得られた印刷インキ組成物の各々について、印刷インキ組成物を0.0875cc採取し、これをRIテスター(株式会社明製作所製)の1/2ロール(面積204cm)を用いてオーロラコート紙に展色し、自然乾燥させて展色紙面を作製した。この展色紙面約0.5gをヘッドスペースサンプラーにより90℃で40分間加熱して気化した成分をGC−MSにより分析した。臭気成分をアルデヒド物質と仮定し、その検出ピーク面積を比較した。評価基準は、下記の通りである。
◎ アルデヒド成分のピーク面積が50万未満である
○ アルデヒド成分のピーク面積が50万以上100万未満である
△ アルデヒド成分のピーク面積が100万以上150万未満である
× アルデヒド成分のピーク面積が150万以上である
【0059】
[マイグレーション]
MPPO(Modified polyphenylene oxide;60〜80メッシュ、商品名Tenax)を、アセトンを溶剤としたソックスレー抽出機により6時間洗浄後、シャーレに広げて溶剤を蒸発させた後に160℃のオーブンで6時間乾燥させた。次いで、得られた印刷インキ組成物の各々について、乾燥後のインキ重量が1〜2g/mとなるようにA4用紙に展色し、紙面上の印刷インキ組成物が乾燥した後に、展色面に20枚以上の紙面(0.02Kg/cm)を積んでアルミホイルで覆い、25℃で10日間保管した。その後、展色紙面を直径112mmの円形(面積1dm)に切り取り、これをサンプルとした。
【0060】
シャーレにMPPOを4g量り取り、このMPPOの上方に、展色面を上に向けた上記サンプルを載置し、シャーレの蓋をした。このシャーレを反転させ、ブランク(シャーレにMPPO4gのみを入れたものである。)となるサンプルとともに60℃に加温した恒温器に入れ、10日間放置した。その後、シャーレを取り出し、蓋を外して室温まで冷却した。
【0061】
シャーレの中のMPPOを三角フラスコに移し、アセトン20mLを注いで1分間振り混ぜた後、5分間静置し、50mLメスフラスコにアセトンを濾過しながら移した。この操作をもう一度行い、最後に50mLメスフラスコをメスアップした。そして、得られた溶液に含まれる印刷インキ組成物由来の成分をGC−MSにより定性及び定量した。評価基準は、下記の通りである。
◎ マイグレーション成分が2mg/dm未満である
○ マイグレーション成分が2mg/dm以上5mg/dm未満である
△ マイグレーション成分が5mg/dm以上10mg/dm未満である
× マイグレーション成分が10mg/dm以上である
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
表3及び4に示すように、本発明の印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物は、いずれも臭気が抑制されたものとなることが理解される。これらの中でも、酸化防止剤であるBHTを含有する実施例7(◎+評価)は、実施例1に比べて優秀だった。また、椰子油を用いたものは、臭気が抑制されていたものの、低温で印刷インキ組成物中に凝固物を生じてしまい、印刷に使用するには不適切だった。さらに、椰子油を20質量%以上用いる代わりに椰子油脂肪酸2−エチルヘキシルエステルを多用した比較例3では、臭気は抑制されていたものの、マイグレーションが多い結果だった。