【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、大量の細胞中に含まれている少量の細胞を、コンタミネーションフリーかつサンプル全量を測定することについて、鋭意検討を重ねた結果、サンプルリザーバー及び回収リザーバー、並びにサンプルリザーバーの底部から回収リザーバーの底部へのマイクロ流路を基板上に含む、交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるフローサイトメーターを用い、サンプル液の全量を測定することによって、前記課題を解決できることを見出した。具体的には、前記マイクロ流路チップは、サンプルリザーバーの底部から直接マイクロ流路へサンプル液を全量流すことが可能であり、そしてサンプル液が全量流れた後に発生する気泡により、全量測定の終点を検出することが可能であることを見出した。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0019】
すなわち、本発明は、
[1]高濃度の細胞から特定の細胞の数を評価する方法であって、特定の細胞を生きたまま磁気濃縮し、蛍光染色処理を行う前処理過程と、特定の細胞をその蛍光信号強度に基づいて自動的に識別し、試料中の全ての特定細胞を計数する過程とを含み、前記細胞を計数する過程は、サンプルリザーバー及び回収リザーバー、並びにサンプルリザーバーの底部から回収リザーバーの底部へのマイクロ流路を基板上に含む、交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるフローサイトメーターにより、サンプル液を全量測定し、自動的に特定細胞を計数するものであって、前記サンプル液の全量測定の終点は、サンプルリザーバーのサンプル液が流れきった後にマイクロ流路内で発生する気泡を終点として検出することを特徴とする、特定細胞の数の評価方法、
[2]前記前処理過程において、特定の細胞を生きたまま濃縮し、前記細胞を計数する過程において、細胞を生死判定別に計数する、[1]に記載の特定細胞の数の評価方法、
[3]高濃度の血球を含む末梢血から末梢循環腫瘍細胞(CTC)を検出するCTC濃度評価方法であって、CTCの濃縮と蛍光染色処理とを含む前処理過程と、CTCを識別計数する過程とを含み、前処理過程は、上皮性細胞由来のCTCに発現しているEpCAMに磁気ビーズを付着させて磁石を利用してCTCを濃縮する処理と、CTCを抗EpCAM抗体又は5E11抗体を利用して蛍光標識する処理とを含み、CTCの識別計数過程は、サンプルリザーバー及び回収リザーバー、並びにサンプルリザーバーの底部から回収リザーバーの底部へのマイクロ流路を基板上に含む、交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるフローサイトメーターにより、サンプル液を全量測定し、CTCを計数するものであって、前記サンプル液の全量測定の終点は、サンプルリザーバーのサンプル液が流れきった後にマイクロ流路内で発生する気泡を終点として検出することを特徴とする、CTC濃度評価方法、
[4]前記前処理過程が、更に細胞膜透過性及び細胞膜非透過性の2種類の核染色処理を含み、前記識別計数過程が、生きているCTCと死んでいるCTCとを区別して計数する、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[5]前記前処理過程が、CTCに対して抗EpCAM抗体を固定した磁気ビーズを付着させて磁石を利用してCTCを濃縮する処理、APC標識抗EpCAM抗体によるCTCの蛍光標識処理、及びSYTO9及びPIによる核染色処理とを含み、CTCの識別計数過程は、波長640nm近傍の光励起で発生する波長が異なる2種類の蛍光信号強度の比率でAPC蛍光スペクトルを識別することでCTCの同定を行い、波長480nm近傍の光励起で発生するSYTO9とPIの蛍光信号によりCTCの生死判定を行う、[4]に記載のCTC濃度評価方法、
[6]前記前処理過程において、APC標識抗EpCAM抗体に代えて、APC標識5E11抗体を用いる、[5]に記載のCTC濃度評価方法、
[7]前記CTCを濃縮する処理が、APC標識抗EpCAM抗体によるCTCの蛍光標識、及び抗APC抗体磁気ビーズによるCTCへの磁気ビーズの付着を含む、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[8]APCの蛍光信号によるCTC識別と、PIによる死菌識別とを同時に解析可能とするために、PI蛍光励起用青色レーザー出力をAPC蛍光励起用赤色レーザー出力より、1/10以下に設定することを含む、[5]に記載のCTC濃度評価方法、又は
[9]末梢血から、CTC、CEC、及びCEPからなる群の少なくとも2つを同時に計数する方法であって、白血球に発現している表面マーカーのうちCEC及び/又はCEPに発現していない抗原に対する抗体磁気ビーズを利用したネガティブセレクションにより白血球を除き、前記抗体磁気ビーズと反応しなかった細胞に対して、CTC検出用として抗CD326抗体、CEC検出用として抗CD146抗体、及びCEP検出用として抗CD133抗体からなる群の少なくとも2つの抗体を用いて、異なる蛍光標識を行うことを含む、計数方法、
に関する。
【0020】
また、本明細書は、
[1]高濃度の細胞群から特定の少数の細胞数を評価する方法であって、高濃度細胞群から特定の細胞を生きたまま磁気濃縮し蛍光染色処理を行う前処理過程と、特定の細胞をその蛍光信号強度に基づいて自動的に識別し、計数する過程とを含み、細胞を計数する過程は、フローセルを含む送液系全体が検体毎に交換可能でかつサンプル液全量中の総細胞数が測定可能であるフローサイトメーターにより、蛍光信号強度により自動的に特定細胞を認識し、かつその細胞を生死判定別に計数する、特定細胞数の評価方法、
[2]前記細胞を検出する過程で用いるフローサイトメーターは、使い捨て交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるものであって、サンプル液の全量測定はマイクロ流路チップ基板上に形成したサンプルリザーバーの底から流れきった直後にマイクロ流路内で発生する気泡の検出信号を終点検出信号として利用する、[1]に記載の特定細胞数の評価方法、
[3]高濃度の血球群を含む末梢血から低濃度の末梢循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法であって、CTCを濃縮と蛍光染色処理を含む前処理過程と、CTCを識別計数する過程とを含み、前処理過程は、上皮性細胞由来のCTCに発現しているEpCAMに磁気ビーズを付着させて磁石を利用してCTCを濃縮する処理と、CTCの上皮性細胞の表面マーカーをEpCAM抗体又は5E11抗体を利用して蛍光標識する処理と、細胞膜透過性と非透過性の2種類の核染色を行う処理とを含み、CTCを識別計数過程は、フローセルを含む送液系全体が検体毎に交換可能でかつサンプル液全量計測が可能であるフローサイトメーターを用い、複数の蛍光信号強度の比率によりCTCを自動認識し、生きているCTCと死んでいるCTCを区別して計数することで、生死別CTCの血液量に対する絶対濃度を評価することを含む、CTC濃度評価方法、
[4]前記CTCを識別計数する過程で用いるフローサイトメーターは、使い捨て交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるものであって、サンプル液の全量測定はマイクロ流路チップ基板上に形成したサンプルリザーバーの底に接続するマイクロ流路にサンプル液が全量流れ終えた直後に流路内に発生する気泡の検出信号をサンプル液の終点検出信号として利用することでサンプル全量測定を行う、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[5]前記前処理過程が、CTCに対してヒトEpCAM抗体を固定した磁気ビーズを付着させる反応と、APC標識ヒトEPCAM抗体によるCTCの蛍光染色処理、SYTO9とPIによる核染色処理とを含み、CTCを識別検出する過程は、波長640nm近傍の光励起で発生する波長が異なる2種類の蛍光信号強度の比率でAPC蛍光スペクトルを識別することでCTCの同定を行い、波長480nm近傍の光励起で発生するSYTO9とPIの蛍光信号によりCTCの生死判定を行う、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[6]前記CTCを濃縮する過程が、ヒトEpCAM抗体磁気ビーズと蛍光標識ヒト5E11抗体の反応を含む、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[7]前記CTCを濃縮する過程が、ヒトEpCAM抗体APCラベルとそのAPCに対する抗体磁気ビーズを吸着させる抗体反応処理を含む、[3]に記載のCTC濃度評価方法、
[8]前記CTCの識別計数する過程が、CTC識別とCTCの生死判定とを行うこと含む、[3]に記載のCTC計数方法、
[9]前記CTCを蛍光染色する過程が、PIによる死細胞の核染色と、EpCAM抗体APCラベル染色とを含み、APCの蛍光信号によるCTC識別とPIによる死菌識別とが同時に解析可能とするために、PI蛍光励起用青色レーザー出力をAPC蛍光励起用赤色レーザー出力より、1/10以下に設定していることを含む、[3]に記載のCTC数の評価方法、
[10]末梢血からCTCの他に別のバイオマーカーであるCECやCEPを同時に検出計数する方法であって、又は
赤血球を溶血した後に、白血球に発現している複数の表面マーカーのうちCECとCEPに発現していない抗原に対する抗体を利用したネガティブセレクションにより白血球を除き、前記抗体磁気ビーズと反応しなかった細胞に対して、CTC検出用としてCD326、CEC検出用としてCD146、CEP検出用としてCD133を用いて、それぞれ異なる蛍光標識を行うことを含む、複数バイオマーカー濃度の同時計数方法
を開示する。
【0021】
本発明では、上記状況を鑑み、まず一般的な特定細胞の評価に対しては以下の手段を提供する。
【0022】
本発明の特定細胞の数の評価方法は、高濃度の細胞群から特定の少数の細胞数を評価する方法であって、高濃度細胞群から特定の細胞を抗体磁気ビーズを付着させて磁場を利用した濃縮処理と、検出のための蛍光染色処理を行う前処理過程と、特定の細胞を蛍光信号に基づいて計数する過程とを含み、その細胞を計数する過程は、フローセルを含む送液系全体が検体毎に交換可能でかつサンプル液全量を計測可能であるフローサイトメーターを用いる計測過程であることを特徴とする細胞濃度評価方法である。
本発明の特定細胞の数の評価方法は、細胞を計数する過程において、細胞を生死判定別に計数してもよく、細胞の生死を判別せずに計数してもよい。特定細胞は、大量の細胞に含まれる少数の細胞であれば、特に限定されるものでないが、例えば末梢循環腫瘍細胞(CTC)、末梢循環血管内皮細胞(CEC)、又は骨髄由来の血管内皮前駆細胞(CEP)を挙げることができる。また、本明細書において、「少数の細胞」とは、例えば、生体内の血液中の細胞において1/10
5以下の濃度であれば特に限定されるものではないが、好ましくは1/10
6以下であり、より好ましくは1/10
7以下であり、更に好ましくは1/10
8であり、最も好ましくは1/10
9である。例えば、初期のがん患者において検出されるCTC濃度は通常1個/mL程度であることが知られており、例えば血液5mL中に含まれるCTCの総数は約5個程度と見積もられるが、このような低濃度の細胞濃度を正確に測定するためには、サンプル液の全量測定が効果的である。何故ならば、一般的にフローサイトメーターで行われているサンプル液の部分測定による少ない細胞数の結果からサンプル液全体の細胞数を計算で求める方法では、サンプル液中の細胞濃度が均一であるという前提が必要であるが、細胞は重力沈降の影響があるのでその前提は成り立たないのが普通である。従って、サンプル液中に含まれる特定の細胞濃度の絶対測定において、本願発明の効果が顕著に得られる。
【0023】
上記の手段のうち、検出する過程が特徴的であり、詳細は次のようになる。
【0024】
上記の細胞を検出する過程で用いるフローサイトメーターは、
図1に示した使い捨て交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるものであって、
図2に示したようにレーザー光源と、前方散乱光検出器62と側方散乱光検出器67と複数の蛍光検出器63, 64, 65, 66を有する。この装置によってサンプル液の全量測定する方法は、マイクロ流路チップ基板上に形成したサンプルリザーバー1に空気圧を加えることでリザーバーの底に接続したマイクロ流路内にサンプル液を全部流すことが可能であるため、サンプル液が全部流れるまで測定すればよい。サンプル全量が流れ終わった瞬間から、
図3のa)に示した様に、流路内に気泡が発生するので、その気泡の検出信号をサンプル液の終点検出信号として利用し、測定を自動終了させる。測定終了後に気泡を含まない検出信号データのみで細胞数を評価し、測定したサンプルの全体積に含まれる細胞数により、細胞濃度の絶対評価を行う。
【0025】
前記マイクロ流路チップ(フローセル)としては、例えば特許第4358888号に記載の、
「基板上に形成された、微粒子を含む試料液が導入される第1の流路と、第1の流路の両側に配置されてシース液が導入される第2及び第3の流路と、第1〜第3の流路が合流する第4の流路とを備えるフローセルであって、前記フローセルは、第4の流路の上流側に第1〜第3の流路を有し下流側に第5〜7流路を有し、更にその上流側と下流側にそれぞれ形成された第1貯水槽と第2貯水槽とを備え、シース液を導入する第2及び第3の流路は第1貯水槽に接続されており、試料液を導入する第1の流路は第1貯水槽の内側に設けられた第3貯水槽に接続しており、前記第2及び第3の流路は第1貯水槽内で共通の液面を有し、第3貯水槽は第1貯水槽とは独立しており第1貯水槽内でシース液と試料液が混合しない構造となっており、下流の中央の第5の流路は第2貯水槽の内側に設けられた第4貯水槽に接続し、両側の第6及び第7の分離流路が第2貯水槽に接続し、大気圧より高い一定の圧力の気体を第1貯水槽内に取り外し可能なキャップ構造を利用して導入し、当該気体圧力の制御によって試料液の流速を一定に制御する液体中微粒子計測装置において、第4の流路の上流側の第1〜第3の流路と下流側の第5〜7流路が対称パターンであって、下流側の第4貯水槽内に試料液が回収され、第2貯水槽にシース液が回収される構造となっているフローセル」を用いることができ、これらの構成は
図1に示されているものである。
【0026】
次に、特にCTCの濃度評価の手段を記載する。
【0027】
CTC濃度評価方法は、高濃度の血球群を含む末梢血から低濃度の末梢循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法において、CTCを生きたままでの濃縮と蛍光染色処理を含む前処理過程とCTCを識別計数する過程とを含み、前処理過程は、例えばヒト上皮性細胞由来のCTCに発現している表面マーカーに対する抗体を固定した磁気ビーズをCTCに付着させて、磁石を利用してCTCを特異的に濃縮する処理と、ヒト上皮性細胞の表面マーカーである抗体を利用して蛍光標識する処理と、細胞膜透過性と非透過性の2種類の核染色を行う処理とを含み、CTCを識別して計数過程は、フローセルを含む送液系全体が検体毎に交換可能でかつサンプル液全量計測が可能であるフローサイトメーターを用い、複数の蛍光信号強度の比率によりCTCを自動認識し、生きているCTCと死んでいるCTCを区別して計数することで、生死別CTCの血液量に対する絶対濃度を評価することを特徴とするCTC濃度評価方法である。
なお、本発明において、細胞膜透過性と非透過性の2種類の核染色を行う処理、及び生きているCTCと死んでいるCTCを区別して計数することは、任意の工程であり、これらの工程を行うことが好ましいが、これらの工程を行わないCTC濃度評価方法も本願発明に含まれる。また、CTCはヒト由来のものに限定されるものではなく、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、又はラットなどの哺乳類由来のものを含む。
【0028】
上記の手段のうち、CTCを生きたままで濃縮と染色し、サンプル全量測定によって生きているCTCと死んでいるCTCを区別して計数し、それぞれ濃度評価することが好ましく、具体的には次のようになる。
【0029】
上記の手段において、CTCを生きたまま濃縮と染色する方法は、細胞膜に穴をあける必要があるサイトケラチン染色は行わずに、上皮性細胞由来のCTCの表面マーカーに対する抗体を利用することで磁気濃縮と染色を行うことで、CTCを特異的に濃縮し蛍光染色を行う。CTCを識別検出する過程で用いるフローサイトメーターは、使い捨て交換可能なマイクロ流路チップをフローセルとして用いるものであって、サンプル液の全量測定はマイクロ流路チップ基板上に形成したサンプルリザーバーの底に接続するマイクロ流路にサンプル液が全量流れ終えた直後に流路内に発生する気泡の検出信号をサンプル液の終点検出信号として利用することでサンプル全量測定を行うことでCTCの数え落としを極力低減したCTC濃度評価方法によって行うことができる。
【0030】
次に、上記手段のうち、例えばCTCの濃縮と染色に用いる具体的な抗体と蛍光標識としては、以下のものを利用することができる。
【0031】
CTCの磁気濃縮用磁気ビーズとしてはヒトEpCAM抗体を固定した磁気ビーズを利用し、CTCの特異的蛍光標識用抗体としてはAPC標識ヒトEPCAM抗体又はAPC標識ヒト5E11抗体のどちらかを利用し、CTCの生死判定用核染色剤としてはSYTO9とPIを利用する。CTCの特異的蛍光標識用抗体は
図4のプロセスフローチャートの内の抗体反応工程のTypeAとTypeBに相当する。TypeAの場合は磁気ビーズの抗体と同じ表面マーカーに対する抗体なので競争阻害が発生する可能性があるが、実際に行ったデータによると実用的には問題ない。TypeBの場合は競争阻害の問題はない。CTCを識別検出する過程は、
図2に示した様に、2種類のレーザー(発振波長が470から490nmまでの範囲の青色レーザーと発振波長が630nmから650nmまでの範囲の赤色レーザー)を同時に照射して蛍光4色以上検出する検出光学系を有する装置構成を利用し、以下の様にCTCを識別するための解析を行う。すなわち、
図6a)に示したように赤色レーザー照射で発生する蛍光を波長が異なる2種類の蛍光信号として検出し、
図6b)に示すようにその二つの信号強度の比率によりAPC蛍光スペクトルを識別する。比率が共通である検出細胞は、
図6b)に示した様に一直線上に分布する。蛍光スペクトルが異なる場合は比率が異なるので、異なる直線状に分布するのでスペクトルを区別することができる。このようにして、APC蛍光スペクトルを有する細胞を識別することでCTCであると自動認識する。APC蛍光標識細胞としては、CTCの他に白血球への非特異的蛍光標識反応が考えられるので、APC-Cy7標識CD45抗体を用いて白血球を標識し、APC蛍光スペクトルからスペクトルをシフトさせることで白血球を区別する。更に、青色レーザーの照射で発生するSYTO9とPIの蛍光信号により、SYTO9のみで染色しているCTCを生細胞(LIVE-CTC)として、SYTO9とPIの両方で染色しているCTCを死細胞(DEAD-CTC)と判定して、CTCの生死判定を行う。上記のAPCの蛍光スペクトル識別とSYTO9とPIの蛍光スペクトル識別において、
図7のa)に示す蛍光スペクトルから分かるように問題が存在する。その問題とは、青レーザー励起のPIの蛍光スペクトルと赤レーザー励起のAPCの蛍光スペクトルが重なるということである。すなわち、APC蛍光検出信号とPI蛍光検出信号とは干渉する。
【0032】
この問題を解決するために、青レーザーの出力を赤レーザーの出力に比べて10分の1以下にすることでAPC検出用信号であるFL3とFL4におけるPI蛍光信号を無視できるほど小さくする。すなわち、
図7b)に示すように、473nmレーザー出力を1mW以下として640nmレーザーを30mW以上とすることで、APC蛍光検出信号とPI蛍光検出信号とは独立して解析可能である。これによって、
図7a)b)に示した様に、APCスペクトル識別によるCTC同定とCTCのLIVE/DEAD判定の両立を実現した。この解析方法のメリットの一つは、通常のフローサイトメトリー計測において必要とされる面倒な蛍光補正が不要である点である。
【0033】
次に、上記の手段において、CTCを濃縮する過程にヒトEpCAM抗体APCラベルとそのAPCに対する抗体磁気ビーズを吸着させる抗体反応処理とを含むことも可能である。これは、
図4のプロセスフローチャートにおける抗体反応のTypeCに対応する。この場合は、1種類のCD326抗体の特異的選択性に依存し、競争阻害の問題は存在しない。
【0034】
次に、CTCの他に、CECやCEPなど他のバイオマーカーを同時に検出することで、がん診断の進行状態を正確に評価するための手段を説明する。本発明においては、CTC、CEC、及びCEPからなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーを同時に検出してもよく、3つのバイオマーカーを同時に検出してもよい。
【0035】
CTCの他に同時に検出するCECやCEPを濃縮する方法は、それぞれの表面マーカーに対する抗体磁気ビーズによる磁気濃縮においてポジティブセレクションを行わずに、夾雑細胞に対するネガティブセレクションを利用する。すなわち、赤血球を溶血で除いた後は、全ての白血球を抗体磁気ビーズでトラップする。そのネガティブセレクションするための抗体磁気ビーズの抗体の種類は、全ての白血球で発現しており、CTC、CEC、及び/又はCEPで発現していない表面マーカーに対する抗体から選択する。例えば、CD2, CD3, CD4, CD5, CD8, CD10, CD11b, CD14, CD15, CD16, CD19, CD20, CD24, CD25, CD27, CD29, CD33, CD36, CD38, CD41, CD45, CD45RA, CD45RO, CD56, CD66b, CD66e, CD69, CD124から選ぶのがよい。通過した細胞に対して、以下の蛍光標識抗体による特異的蛍光標識を行う。すなわち、CTCはAPC蛍光標識CD326抗体であり、CECはAlexaFluor660蛍光標識CD146抗体である。CEPはAlexaFluor680蛍光標識CD34抗体を用いる。
図11a)は、蛍光標識分子であるAPCとAlexaFlou660とAlexaFlou680の蛍光スペクトルであるが、すべて640nmの赤レーザーで励起可能であり、FL3とFL4の蛍光信号強度の相関では
図11b)に示すように、それぞれ別々のラインに分布することで区別して計数することができる。この場合は白血球はネガティブセレクションにより取り除かれているので、APC-Cy7蛍光標識CD45抗体は不要である。この方法では、SYTO9とPIによる核染色により、
図7のb)で説明したLIVE/DEAD判定を、CTC, CEC, CEPそれぞれについて行うことが可能である。