【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>各種酵素による配糖体の調製検討
各種糖転移酵素により、ジンゲロールへの配糖化能を検討した。
【0071】
まず、α−グルコシダーゼとして、Aspergillus niger由来、Acremonium sp.由来およびHalomonas sp.H11株(受託番号:NITE P−1098)由来のものを検討した。以後、Aspergillus niger由来の酵素を「ANG」、Acremonium sp.由来の酵素を「ACG」およびHalomonas sp.H11株由来の酵素を「HAG」と表記する。なお、ANGおよびACGはそれぞれ「製品名:トランスグルコシダーゼアマノ、アマノエンザイム製」および「製品名:テイスターゼ、キリン協和フーズ製」である。HAGは、下記の参考例1の方法にて調製し、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動的に単一バンドとして得られた精製酵素を使用した。
【0072】
10w/v%マルトース(日本食品化工製)、2.5w/v% 6−ジンゲロール(ナカライテスク製)、50mM緩衝液、各種α−グルコシダーゼをマルトース1gあたり1.5Uとなるよう反応溶液を調製し、10μLの系にて40℃にて反応させた。HAGおよびACGの反応にはHEPES−NaOH緩衝液(pH7)、ANGには酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を使用した。また、HAGにおける反応系には、硫酸アンモニウムを5mMとなるよう添加した。酵素の代わりに水を添加したpH7における溶液をコントロールとした。
【0073】
シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼによる反応においては、Bacillus stearothermophillus由来、Bacillus sp. No.38−2由来およびBacillus coagulans由来の酵素を使用した。以後、これらの酵素をそれぞれCGTase−1、CGTase−2およびCGTase−3と表記することがある。なお、CGTase−1はノボザイムズ製、CGTase−2およびCGTase−3は日本食品化工製である。
酵素反応条件は以下の通りである。
すなわち、10w/v%パインデックス#100(松谷化学工業製)、2.5 w/v%6−ジンゲロール、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH6)、12mM Ca
2+ 、パインデックス1gあたりシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ5Uとなるよう反応溶液を調製し、10μLの系にて反応させた。酵素の代わりに水を添加した溶液をコントロールとした。40℃にて24時間反応させ、反応溶液をメタノールにより10倍希釈し、そのうち1μLを薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析に供した。
【0074】
TLCには、TLCアルミプレート(シリカゲル60 F
254、 Merck製)を使用し、展開溶媒として、クロロホルム:メタノール:水=6:4:1(v/v)または2−プロパノール: 1−ブタノ―ル: 水=2:2:1(v/v)を使用し、10 v/v%硫酸/メタノール溶液を噴霧しオーブンで加熱することにより呈色させた。以後、上記TLC条件をそれぞれ、TLC条件1およびTLC条件2と記載する。標品としてグルコース(関東化学製)、マルトース(日本食品化工製)の1w/v %水溶液を1μL使用した。
【0075】
その結果、HAGによる反応溶液にのみ
図1中矢印で示した特異的な反応産物が観察された。本分析で使用したいずれの展開溶媒においても主要な反応生成物スポットが1つ確認された。また、若干ではあるものの、その下に6−ジンゲロール由来と推察されるスポットが2つ確認された。そこで、生成物をTLCにおいて上から、反応生成物X、Y、およびZとし、これらを単離精製した。
【0076】
<参考例1>Halomonas sp. H11由来α−グルコシダーゼの組換え発現および精製
可溶性澱粉(関東化学製)10g/L、ポリペプトン(和光純薬製)5g/L、酵母抽出物(商品名『イーストエキストラクト』、ベクトン・ディッキンソン製)5g/L、塩化ナトリウム(和光純薬製)35g/L、リン酸二水素カリウム(関東化学製)1g/L、硫酸マグネシウム七水和物(関東化学製)0.2g/L、および水からなるpH7の液体培地10mLを200mLのバッフル付きフラスコに調製し、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し冷却した。
【0077】
上記培地10mLに、Halomonas sp.H11株のグリセロールストックを接種し、37℃、150rpmで16時間培養した。培養液を1.5mL容エッペンドルフチューブに1mLずつ分注し遠心分離(4℃、14,000rpm、2分間)し上清を取り除いた。5mg/mLのリゾチーム(生化学工業製)、TE溶液(pH8)をチューブ1本当たり350μL添加し、37℃にて1時間保持した。10%ドデシル硫酸ナトリウム溶液を50μL添加し転倒混和し37℃にて30分間保持した。TE飽和フェノールを400μL添加し穏やかに転倒混和した後遠心分離(室温、14,000rpm、5分間)した。上層を新たなエッペンドルフチューブに移した後、フェノールクロロホルム溶液を400μL添加し穏やかに転倒混和し、上記と同様に遠心分離した。それぞれの上層を一つのエッペンドルフチューブに移し、3mol/L酢酸ナトリウム水溶液および95(v/v%)冷エタノールを、それぞれ溶液の1/10容量および2倍容量添加し遠心分離(4℃、14,000rpm、15分間)した。得られた沈殿物を70%エタノールにてリンス洗浄し風乾した。0.2mg/mlのRNase/TE溶液を400μL添加し、35℃にて30分間保持した。フェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿法を上記と同様に行い、乾燥させた沈殿物をTE溶液100μLに溶解し、ゲノム溶液とした。
【0078】
クローニング用オリゴヌクレオチド、HAG−F−NdeI(5´−AAACATAT
GCAAGACAACATGATGTGGTG−3´)(配列番号1)およびHAG−R−XhoI(5´−AAACTCGAGTTAGGCAACCTGCATAAAGG−3´)(配列番号2)を用いてHalomonas sp. H11株のα−グルコシダーゼをクローニングした。すなわち、ゲノム100ng、10×KOD ver.2 buffer、 5μL、2mmol/L dNTPs 5μL、25mmol/L MgSO
4 3μL、20mmol/Lのプライマー溶液各1μL、KOD plus polymerase 1μLを混合し、水で50μLにメスアップした。なお、上記PCR用の試薬は全て東洋紡製である。PCR条件は以下の通りである。94℃に2分間保持した後、94℃に30秒間、55℃に30秒間、72℃に2分間からなるサイクルを30回繰り返し、最後に72℃に3分間保持した。このうち4μLを電気泳動に供し、約1.5kbの増幅断片を確認した。当該断片を市販のキット(GEヘルスケア製、商品名『illustra GFX
TM PCR DNA and Gel Band Purification Kit』、以後、「GFX」と表記する)にて精製した。これを、NdeIおよびXhoI(いずれもタカラバイオ製)で酵素処理し、GFXにて精製した。本DNA断片を、上記と同様にNdeIおよびXhoIで制限酵素処理したpET22b(ノバジェン製)に、通常のライゲーション反応にて連結させ発現用プラスミドを作製した。本プラスミドを『pET22b−HAG−H11』と命名した。
【0079】
上記pET22b−HAG−H11で、大腸菌BL21(DE3) Codon Plus RIL(ストラタジーン製)を形質転換した。
すなわち、50μg/mlアンピシリンを含むLB培地3mLに、上記形質転換体を接種し、37℃で一晩前培養した。このうち1mLを600mLの同培地に接種し、37℃で3時間培養した。それを氷冷し、0.1mol/Lのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(和光純薬製)を600μL添加した。これを16℃で24時間回転振盪培養した。得られた培養物を、定法に従い、遠心分離して菌体を回収した。菌体を20mmol/L HEPES−NaOH緩衝液(pH7)約40mLに懸濁して、超音波破砕機(microsom(商標) ultrasonic cell disruptor)にて細胞を破砕した(出力:4ワット、全出力時間: 20分間)。これを遠心分離した上清を粗酵素液とした。
【0080】
粗酵素液には89.1 mgのタンパク質、83.3 Uのα−グルコシダーゼ活性が含まれていた。比活性は0.93U/mgであった。なお、タンパク質の定量は、DC protein assay kit(Bio Rad社製)を使用して、添付のプロトコルに従って行った。タンパク質の標準曲線は0〜1mg/mlのbovine serum albumin(Bio Rad社製)を用いて作成した。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0081】
粗酵素液を20mmol/L HEPES−NaOH緩衝液(pH7)で平衡化されたイオン交換カラムに、以下の条件で供し、塩化ナトリウム濃度0.1mol/L付近に溶出された画分(部分精製酵素1)を回収した。
【0082】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) DEAE−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ: φ26mm×200mm
ゲル量 : 106mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES−NaOH緩衝液(pH 7)
塩化ナトリウム濃度0mol/L〜0.5mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 2mL/分
溶出液量 : 120mL
【0083】
部分精製酵素1には、54mgのタンパク質、374Uの酵素活性が含まれていた。比活性は6.93U/mgであった。なお、本α―グルコシダーゼは、アルカリ金属塩に活性化される特徴を有することから、粗酵素液と比較して総活性が上昇した原因は、溶出液中に含まれるNaClの影響であると考えられた。
【0084】
前記部分精製酵素1に、硫酸アンモニウムを少量ずつ加え、終濃度1.5mol/Lとした。これを1.5mol/L硫酸アンモニウムを含む20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)で平衡化した疎水カラムに、以下の条件で供した。そして、硫酸アンモニウム濃度1.0mol/L付近で溶出された画分、約50mLを回収した。これを、5mmol/LのHEPES−NaOH緩衝液(pH7)5Lで2回透析し、精製酵素とした。
【0085】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) BUTHYL−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ : φ16mm×150mm
ゲル量 : 30mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)
硫酸アンモニウム濃度1.5mol/L〜0mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 1mL/分
溶出液量 : 120mL
【0086】
精製酵素には、17.8mgのタンパク質と、67.5Uの酵素活性が含まれており、比活性は3.8U/mgであった。粗酵素液からの回収率は、81.4%であり、精製度は4.1倍であった。この画分を1μg、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した結果、1本のバンドのみが検出されたことから、酵素は単一に精製されていることが分かった。得られた精製酵素を実施例に用いた。
【0087】
上記記載において、比活性はタンパク質1mgあたりの酵素活性(U/mg)を示し、回収率は、粗酵素液の総活性に対する酵素活性の残存率(%)を示し、精製度は、粗酵素液の比活性に対する倍率(倍)を示す。
【0088】
<実施例2>生成物の精製
ジンゲロール配糖体の単離精製法は以下の通りである。まず、30w/v%マルトース、5w/v%6−ジンゲロール、5mM硫酸アンモニウム、30mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7)およびマルトース1gあたり3UのHAGとなるよう、計3mLの溶液を調製しよく攪拌した後、40℃で48時間インキュベートした。反応溶液をPLCガラスプレート(シリカゲル60F
254、2mm、Merck製)に500μL/枚となるようにスポッティングし、クロロホルム:メタノール:水=6:4:1(v/v)またはクロロホルム:メタノール:酢酸=80:20:5で展開した。展開プレートの方端を前述の方法と同様に呈色させ、各反応生成物のスポットと同Rf値の展開をスパーテルで掻き取り、50v/v%メタノール水溶液で抽出した。抽出液をろ紙(No.5、アドバンテック製)でろ過し、減圧濃縮した。これを水に溶解し、0.45μmフィルター(ミリポア製)にてろ過し凍結乾燥させた。これを以後の実験に用いた。
【0089】
<実施例3>反応生成物Xの構造解析
(トリフルオロ酢酸による分解)
精製した生成物Xおよび6−ジンゲロール標品をそれぞれ0.5 mgずつ量り取り、それに純水50μLを添加した。これに4Mトリフルオロ酢酸(関東化学製、以下TFAと表記することがある)を400μL添加し、100℃に1時間保持した。減圧下にて濃縮・乾固させたものを50v/v%メタノール水溶液40μLに溶解し、実施例1で上述したTLC条件2で分析した。なお、TFA添加前のサンプルも同様に分析した。その結果、生成物Xは、
図2に示すように、TFA処理により6−ジンゲロール(もしくはその分解物)とグルコースの位置にスポットを生じた。このことから、反応生成物Xは6−ジンゲロールとグルコースから構成される化合物である可能性が示唆された。
【0090】
(MS(質量分析、Mass Spectrometry)解析)
反応生成物Xを0.1mg/mLとなるようメタノールに溶解し、質量分析に供した。分析には、LCQ(Thermo electron製)を用い、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)により実施した。測定はポジティブモードで行った。その結果、
図3に示したようなMSスペクトルが得られ、そのピークおよび対応する分子量(M)は、表1の通りであった。
【0091】
【表1】
【0092】
すなわち、反応生成物Xにおいては、6−ジンゲロール(分子量294)にグルコースが一つ付加した配糖体(分子量456)およびESIによってその配糖体のグリコシド結合が切断され、さらに、それにより生じた6−ジンゲロールが脱水し生成したと考えられるショウガオール(分子量276)に相当するピークが検出された。
【0093】
(NMR解析)
BRUKER社製 AV400MdigitalNMR(400MHz)を使用しH−H COSY、HMQCおよびHMBCの二次元分析を行った。詳細には、精製し凍結乾燥した反応生成物X10mgを0.5mLのD
2O(ナカライテスク、99.90%D)に溶解し、標準物質として0.1mg/mLの3−(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム−2,2,3,3−d
4(TSP、和光純薬)を2μL滴下したものを分析に供した。分析時の温度を303ケルビンに設定した。
NMR解析の結果から、各シグナルを以下のように帰属した。なお、
1H NMRおよび
13C NMRの解析結果は
図4〜9に示した。
【0094】
1H NMR (400MHz,D
2O)
δ6.93(s,1H,16),6.88(d,1H,13), 6.75(d,1H,12),5.00(d,1H,1´),4.05(m,1H,6),3.90(dd,1H,6´a),3.85(s,3H,17),3.70(dd,1H,6´b), 3.60(t,1H,3´),3.50(t,1H,2´),3.49(t,1H,5´),3.42(t,1H,4´),2.95(d,2H,9),2.88(dd,1H,7a),2.85(d,2H,10),2.52(dd,1H,7b),1.53(m,1H,5a), 1.38(m,1H,5b),1.25(m,2H,2),1.22(t,2H,3), 1.22(t,2H,4),0.85(t,3H,1)
【0095】
13C NMR (400 MHz, D2O)
δ147.36(15),143.10(14),133.56(11),121.08(12),115.56(13),112.88(16),96.57(1´),75.97(5´),74.16(6),73.84(3´),72.95(8),71.28(2´),69.29(4´),60.19(6´),56.01(17),47.43(7),44.66(9),32.41(5),30.97(4),28.92(10),23.55(3),21.83(2),13.26(1)
【0096】
HMBCにおいてH1´−C6およびH6−C1´の相関が確認されたため、配糖化部位をC6のOH基と決定した。
以上、TFA処理、MS解析およびNMR解析の結果より、HAGによる6−ジンゲロールの配糖化反応により生じた主生成物Xは、下記式(IV)で示される、6−ジンゲロールの側鎖のOH基にグルコースがα−1位で結合したジンゲロール配糖体であることが明らかとなった。以降、反応生成物Xを簡易的に、ジンゲロール6−グルコシドと呼ぶことがある。
【0097】
【化11】
【0098】
<実施例4>反応生成物YおよびZの構造解析
(反応生成物YおよびZのMS解析)
各精製物を実験3と同様の方法にてMS解析した。その結果、
図10および11に示したようなMSスペクトルが得られ、その主要ピークおよび対応する分子量(M)は表2の通りであった。
【0099】
【表2】
【0100】
すなわち、反応生成物YのMS分析において検出された分子量は、6−ジンゲロール(分子量294)が脱メトキシされた物質(分子量246)および当該物質のモノグルコシド(410)に相当していた。本生成物は、生成量が微量でありNMR解析に不十分であったことから、MS分析結果より以下の構造であると推定した。
反応生成物Y:脱メトキシされた6−ジンゲロールのいずれかのOH基にグルコースが脱水結合した化合物。
反応生成物Zの、641m/zは、6−ジンゲロールにグルコース (分子量180)が2分子縮合し、ナトリウムイオンが付加した分子量 (294+180+180−18−18+23=641)と一致した。
【0101】
(反応生成物Zのグルコアミラーゼ処理)
反応生成物Zは、Yと同様に生成量がごく微量であったことから、NMR解析に不十分であった。そこで、反応生成物Zにグルコアミラーゼを作用させ、その反応生成物をTLCにて分析することにより、反応生成物Zの構造を推定した。すなわち、0.1g/mL反応生成物Z、4U/mLグルコアミラーゼ(生化学工業製)、4mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)となるよう混合し、40℃にて24時間インキュベートした。コントロールとして、グルコアミラーゼ無添加のものを同様にインキュベートした。2μLをTLCに供し、実施例1で上述のTLC条件2により分析した。なお、6−ジンゲロール、反応生成物XおよびY、およびグルコースを混合し50%メタノール水溶液に溶解させた溶液を標準物質としてスポッティングした。その結果、
図12に示すように、Zをグルコアミラーゼ処理すると反応生成物X(ジンゲロール6−グルコシド)を生成することが分かった。これは、反応生成物Zは、反応生成物Xのグルコース残基にさらにもう一分子のグルコースがα−1,4グルコシド結合した構造を取っていることを意味していた。さらに、本実施例の酵素反応において使用したHalomonas属由来α−グルコシダーゼは、α1,4型の転移酵素であることから、その結合様式はα−1,4であると考えられた。以上、MSおよび本結果より、反応生成物Zは、以下の構造であると推定した。
反応生成物Z:6−ジンゲロールの側鎖OH基にマルトースがα−1位で結合した化合物であることが明らかとなった。
【0102】
<実施例5>ジンゲロール6−グルコシドの外観、溶解性および吸収極大
精製したジンゲロール6−グルコシドの凍結乾燥品は、
図13に示すように、室温にて赤オレンジ色の粉末状であり、水に可溶であった。また、0.2w/v%の水溶液を調製し、幅10mmの石英セルにて、波長600〜200nmにおける吸収スペクトルを測定したところ、ジンゲロール6−グルコシドは、
図14に示すように、波長278nmに吸収極大を有していることがわかった。
【0103】
<実施例6>反応生成物の消化性
ジンゲロール6−グルコシドの、ラット小腸アセトンパウダー、ヒト人工胃液およびヒト人工腸液による、消化性試験を行った。
(ラット小腸アセトンパウダーによる消化性)
ラット小腸アセトンパウダー(Sigma製)50mgを純水1mLに溶解し、ボルテックスにてよく混合した後氷冷した。これを遠心分離(15,000rpm、10分、4℃)し、上清を酵素液として用いた。ジンゲロール6−グルコシド1mgに0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)10μL、および酵素液90μLを添加しよく混合し37℃でインキュベートした。これを経時的にサンプリングし、1μLをTLCプレートにスポッティングしドライヤーで即座に乾燥させることにより反応を停止した。実施例1で上述したTLC条件2にて分析し、スポットの消失を観察した。
【0104】
(ヒト人工胃液による消化性)
Pepsin 1:100 (和光純薬製)3.2mg、NaCl2.0mgおよびH
Cl 7μLを混合し、純水にて0.8mLにメスアップしたものを人工胃液とした。ジンゲロール6−グルコシドを0.5mg量り取り、純水10μLに溶解した。これに人工胃液を40μL添加し、37℃にてインキュベートした。これを経時的にサンプリングした。上記と同様の方法にて反応を停止し、TLC分析した。
【0105】
(ヒト人工腸液による消化性)
Pancreatin(和光純薬製)10 mg、0.2M KH
2PO
4 250μLおよび0.2M NaOH 118μLを混合し、純水にて0.8mLにメスアップしたものを人工腸液とした。ジンゲロール6−グルコシドを0.5mg量り取り、純水10μLに溶解した。これに人工腸液を40μL添加し、37℃にてインキュベートした。以後の操作は上記と同様である。
【0106】
各種消化酵素による、ジンゲロール6−グルコシドの消化性試験の結果、
図15に示すように、ラット小腸アセトン抽出物、ヒト人工胃液およびヒト人工腸液にいずれにおいても、120分間の処理においてジンゲロール6−グルコシドは減少しなかった。すなわち、ジンゲロール6−グルコシドは、これらの消化酵素には分解されず、このような消化酵素に対して安定であることがわかった。
【0107】
<実施例7>ジンゲロール6−グルコシドの安定性
ジンゲロール6−グルコシドを1mg量り取り、50%エタノール、0.1M HClの水溶液1mLに溶解した。これを、密栓可能な容器で、60℃にて18時間インキュベートしたときの残存率を測定することにより、ジンゲロール6−グルコシドの安定性を評価した。すなわち、サンプルを20μLずつ採取し、これをアセトニトリル:水=80:20(v/v)の溶液180μLと混合した。これをHPLC分析に供した。インキュベート0時間におけるジンゲロール6−グルコシドのUV吸収ピーク面積を100(%)としたときの、18時間後における相対ピーク面積を残存率(%)とした。なお、比較対象として、6−ジンゲロールの安定性を同様に評価した。
【0108】
測定条件は下記の通りである。
カラム : YMC Pack Pro C18(AS−303、φ4.6mm×250mm)
溶媒 : アセトニトリル:水=7:3(v/v)
流速 : 1mL/分
温度 : 30℃
検出 : UV280nm
注入量 : 20μL
【0109】
なお、本条件における各物質の溶出時間は以下の通りである。
ジンゲロール6−グルコシド : 3.0分
6−ジンゲロール : 4.7分
6−ショウガオール : 7.8分
本試験の結果、処理18時間後において、6−ジンゲロールは、約半量が6−ショウガオールへ変換しており、残存率は49%であった。一方で、ジンゲロール6−グルコシドの残存率は94%であった。このことから、6−ジンゲロールの構造が変化しやすい0.1MのHCl溶液においても、ジンゲロール6−グルコシドは安定であることがわかった。
【0110】
<実施例8>ジンジャーオイルを基質とした反応
10%v/vジンジャーオイル(稲葉香料製)、20%w/vマルトース、5mM硫酸アンモニウム、50mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7)および0.3U/mL
のHAGを含む1mLの水溶液を調製し、40℃にて93時間酵素反応させた。なお、酵素無添加のものをコントロールとした。反応溶液を熱失活し、1μLを、実施例1で上記に示したTLC条件2にて分析した。なお、標品として、6−ジンゲロールおよび単離精製したジンゲロール6−グルコシドを分析に供した。
その結果、
図16に示すように、反応後の主生成物としてジンゲロール6−グルコシドと同Rf値にスポットが現れた。このことから、6−ジンゲロール以外の成分を含むジンジャーオイルを基質とした場合においても、HAGによりジンゲロール6−グルコシドを生成可能であることがわかった。
【0111】
<実施例9>Halomonas sp.A8株およびA10株由来酵素による反応
参考例1に示したHalomonas sp.H11株の培養と同条件において、Halomonas sp.A8株およびA10株を100mLの培地にて好気的に培養し、遠心分離により集菌した。菌体を20mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7)30mLに懸濁し、それぞれ超音波破砕機(microsom(商標) ultrasonic cell disruptor)にて細胞を破砕した(出力:4ワット、全出力時間:20分間)。これを遠心分離した上清を粗酵素液とした。Halomonas sp.A8株およびA10株の粗酵素液のα−グルコシダーゼ活性は、それぞれ0.032U/mLおよび0.023U/mLであった。
【0112】
10w/v%マルトース(日本食品化工製)、2.5w/v% 6−ジンゲロール(ナカライテスク製)、5mM硫酸アンモニウム、50mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7)、上記粗酵素液を、α−グルコシダーゼ活性としてマルトース1gあたり0.15Uとなるよう反応溶液を調製し、10μLの系にて37℃にて17時間反応させた。反応溶液1μLを実施例1で上記に示したTLC条件2にて分析した。その結果、
図17に示すように、ジンゲロール6−グルコシドが生成していた。このことから、Halomonas sp.A8およびA10株の未精製酵素においてもジンゲロール6−グルコシドを生成可能であることがわかった。