【実施例1】
【0018】
[ヘッド・サスペンションの概略構成]
図1は本発明の実施例1に係る圧電素子を備えたヘッド・サスペンションの概略構成の一例を示す斜視図、
図2は
図1のII−II線矢視に係る断面図、
図3は
図1の圧電素子の一側面側から見た斜視図、
図4は
図1の圧電素子の他側面側から見た斜視図である。
【0019】
ヘッド・サスペンション1は、
図1及び
図2のように、被駆動部材としてのロード・ビーム3と、基部としてのベース・プレート5と、圧電アクチュエータ7とを備えている。
【0020】
ロード・ビーム3は、先端側のヘッド部9に負荷荷重を与えるもので、剛体部11とばね部13とを備えている。剛体部11は、例えばばね性を有するステンレス鋼等の金属製薄板からなり、その板厚は、30〜150μm程度に設定されている。
【0021】
剛体部11の幅方向両側は、その延設方向の先端側から基端側にわたって曲げ縁15a,15bが立ち上げ形成され、剛体部11の剛性を向上している。剛体部11の基端側には、ばね部13が一体に設けられている。
【0022】
ばね部13は、幅方向中央部の窓部17を貫通形成することで形成され、窓部17両側の一対の脚部19a,19bからなっている。なお、ばね部は、剛体部とは別体で形成すると共にレーザー溶接等によって剛体部に固着してもよい。
【0023】
かかるロード・ビーム3には、フレキシャ21が取り付けられている。
【0024】
フレキシャ21は、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板(SST)等の導電性薄板23を備えている。導電性薄板23の板厚は、10〜25μm程度に設定されている。導電性薄板23上には、電気絶縁層25を介して信号伝送用及び給電用の配線パターン27が形成されている。
【0025】
このフレキシャ21は、ロード・ビーム3にレーザー溶接等によって固着され、ベース・プレート5側からロード・ビーム3の先端側にかけて配索されている。フレキシャ21の先端側には、ヘッド部9のスライダ(図示せず)が支持されている。スライダには、フレキシャ21の配線パターン27の一端が導通接続されている。
【0026】
前記ロード・ビーム3の基端側(ばね部13の基端側)は、ベース・プレート5に支持されている。従って、ベース・プレート5は、ロード・ビーム3を介してヘッド部9を支持する。
【0027】
このベース・プレート5は、例えばステンレス鋼等の金属製薄板からなり、その板厚は、150〜200μm程度に設定される。ベース・プレート5には、略円形状のボス部29が設けられている。このボス部29を介して、ベース・プレート5は、図示しないキャリッジ側に取り付けられボイス・コイル・モータによって旋回駆動されるようになっている。ベース・プレート5とロード・ビーム3との間には、圧電アクチュエータ7が介設されている。
【0028】
圧電アクチュエータ7は、アクチュエータ・ベース31及び一対の圧電素子33,33を備え、圧電素子33,33の給電状態に応じた変形によりロード・ビーム3を介してヘッド部9をスウェイ方向に微小駆動させるようになっている。
【0029】
アクチュエータ・ベース31は、ベース・プレート5の先端側に一体に設けられている。ただし、アクチュエータ・ベースは、ベース・プレートに対して別体に形成すると共にレーザー溶接等によって固着してもよい。
【0030】
アクチュエータ・ベース31の幅方向両側には、平面視で略矩形形状の一対の開口部35,35が設けられている。各開口部35は、アクチュエータ・ベース31の板厚方向両側で開口すると共に幅方向縁部で開口している。この開口部35には、受け部37,39が設けられている。
【0031】
受け部37,39は、開口部35の縁部において、アクチュエータ・ベース31に対するパーシャル・エッチング等によって形成されている。これにより、受け部37,39は、それぞれ開口部35の内周面41,43に一体に設けられている。この受け部37,39は、開口部35に対して磁気ディスク装置のディスク側の開口縁部に沿って配置され、ヘッド・サスペンション1の延設方向で開口部35の内周面41,43から内側に突出している。
【0032】
なお、受け部37,39は、開口部35の内周面41,43とは別体に構成することも可能である。この場合は、ロード・ビーム側に受け部材を一体に設け、これをアクチュエータ・ベースと重ね合わせることで開口部の開口縁部に沿った受け部を形成すればよい。
【0033】
開口部35内には、圧電素子33が接着剤45を介して収容状態で取り付けられている。圧電素子33は、
図1〜
図4のように、素子本体47とコーティング49,51とを備えている。
【0034】
素子本体47は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミックスからなり、給電状態に応じてヘッド・サスペンション1の延設方向で伸縮変形する。従って、本実施例では、ヘッド・サスペンション1の延設方向が圧電素子33の変形方向に一致し、幅方向が圧電素子33の変形方向に対する交差方向に一致する。
【0035】
素子本体47は、アクチュエータ・ベース31の開口部35よりも僅かに小さい略矩形板状に形成されている。素子本体47の板厚は、例えば、70〜200μm程度に設定される。
【0036】
素子本体47の一側面には、一側電極53が形成されている。一側電極53は、金(Au)等の導電性金属板からなる。この一側電極53は、表面が全体として外部に露出して、アクチュエータ・ベース31の表面55に略面一となっている。
【0037】
一側電極53の一部には、アクチュエータ・ベース31の表面55に対する被接続部57が形成されている。被接続部57は、例えば導電性ペースト58を介してアクチュエータ・ベース31の表面55に導電接続されている。
【0038】
これにより、圧電素子33は、アクチュエータ・ベース31に接地されている。従って、アクチュエータ・ベース31は、圧電素子33に対する給電用の他部材を構成している。
【0039】
素子本体47の他側面には、他側電極59が形成されている。他側電極59は、一側電極53と同様、金(Au)等の導電性金属板からなる。他側電極59上には、後述するコーティング49,51が幅方向の両側に形成されている。
【0040】
このため、他側電極59の表面は、幅方向の中間部のみが外部に露出する露出部61となっている。露出部61の中央部分には、フレキシャ21の配線パターン27に対する被接続部63が形成されている。
【0041】
他側電極61の外周側は、延設方向の両側で開口部35の受け部37,39に対向配置されている。この外周側が接着剤45を介して受け部37,39に受けられ支持されている。延設方向の受け部37,39間では、他側電極59の露出部61がディスク側に露出している。
【0042】
露出部61の被接続部63には、フレキシャ21の配線パターン27が導通接続されフレキシャ21を介して圧電素子33への給電が可能となっている。従って、フレキシャ21は、圧電素子33に対する給電用の他部材となっている。
【0043】
他側電極59の被接続部63とフレキシャ21の配線パターン27間の導通接続は、例えばボンディング・ワイヤー65によって行われている。なお、上記導通接続には、ボンディング・ワイヤー65に代えて、導電性接着剤等を用いることも可能である。
【0044】
素子本体47の外周には、平面からなる端面67,69,71,73が形成されている。延設方向の端面67,69(「変形方向の端面67,69」とも称する)は、開口部35の内周面41,43に対向すると共に接着剤45を介して接続されている。
【0045】
幅方向の端面71,73(「交差方向の端面71,73」とも称する)には、コーティング49,51が設けられている。コーティング49,51は、例えばポリ尿素やパリレン(ポリパラキシリレン系ポリマー)等の高分子化合物を端面71,73に蒸着重合することで形成されている。
【0046】
コーティング49,51は、圧電素子33の端面71,73から他側電極59の幅方向両側にかけて連続して被覆形成されている。また、圧電素子33の延設方向の端面67,69においても、少なくとも他側電極59と対応する範囲においてコーティング49,51が連続して形成されている。コーティング49,51の膜厚は、例えば1μm程度となっている。
【0047】
前記接着剤45は、圧電素子33の延設方向の端面67,69と開口部35の内周面41,43との対向間から圧電素子33と受け部37,39との対向間にかけて充填・硬化された非導電性の液状接着剤からなる。接着剤45としては、公知の非導電性接着剤を用いることができる。
【0048】
この接着剤45は、圧電素子33の端面67,69と開口部35の内周面41,43及び受け部37,39との間を埋め、圧電素子33のアクチュエータ・ベース31に対する取り付けと共に絶縁性及び変形(駆動力)の伝達性を確保する。加えて、接着剤45は、圧電素子33の延設方向の端面67,69を全体として被覆するコーティングとしても機能する。
【0049】
従って、圧電素子33は、延設方向の端面67,69が接着剤45によって被覆されると共に幅方向の端面71,73がコーティング49,51によって被覆されているので、端面67,69,71,73からの発塵が確実に防止されている。
[圧電素子の製造方法]
図5は本発明の実施例1に係る圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。なお、
図5では、圧電素子33の製造からヘッド・サスペンション1への組付けまでの全行程のフローチャートを示している。
【0050】
圧電素子33の製造方法は、ステップS1の母材形成工程であるPZT焼成、ステップS2の電極形成工程である電極形成・分極、ステップS3の切出工程であるダイシング、ステップS4のマスキング工程であるマスク取付、ステップS5のコーティング形成工程である蒸着重合コーティング、ステップS6の組付工程であるPZT組付けが行われる。
【0051】
まずステップS1のPZT焼成では、圧電材料であるPZTの材料粉を金型等で所定の圧力を加えながら昇温し、材料粉を焼結させて板状のPZTの母材75を焼成する。
【0052】
図6は、焼成された板状の圧電材料の母材を示す斜視図である。
【0053】
本実施例の母材75は、
図6のように、略矩形板状に形成され、その板厚tが100μm程度となっている。こうして母材75が形成された後は、ステップS2へ移行する。
【0054】
図7は、
図6の母材に導電性金属層を形成した状態を示す斜視図である。
【0055】
ステップS2の電極形成・分極では、
図7のように、母材75の両側面に、蒸着、スパッタリング、メッキ、又は金属ペースト等によって電極としての金(Au)等の導電性金属層77,79を成膜する。
【0056】
導電性金属層77,79を形成した後は、母材75の分極処理が行われる。分極処理は、導電性金属層77,79を介して母材75に対して直流高電界を印加し、強誘電体に圧電活性を与える。
【0057】
この分極処理としては、例えばシリコンオイルの中で高電圧を印加する方法やシリコンオイルを用いずに絶縁性の高いガス中で高電圧を印加したり或いはコロナ放電を利用する方法等がある。こうして分極処理が行われた後は、ステップS3へ移行する。
【0058】
図8は
図7の母材から複数の圧電素子を切り出した状態を示す平面図、
図9は
図8の複数の圧電素子の拡大斜視図である。
【0059】
ステップS3のダイシングでは、
図8及び
図9のように、母材75の一側面側に導電性金属層77を覆う保持シートとしてのダイシング・テープ81を予め取り付け、ダイシング・テープ81をダイシング・フレーム83に保持させておく。
【0060】
なお、母材75の他側面側にダイシング・テープ81を取り付けることも可能である。この場合は、以下の説明において母材75及び圧電素子33の一側と他側とを逆にして適用すればよい。
【0061】
この状態で、図示しないダイシング・ソーによって母材75から複数の圧電素子33を切り出す。このとき、圧電素子33には、導電性金属層77,79も共に切り出されて一側電極53及び他側電極59が形成される。
【0062】
切り出し時には、複数の圧電素子33を少なくとも給電による変形方向で同列上に隣接配置させ、隣接する圧電素子33の変形方向の端面67,69間に隙間G1を形成する。
【0063】
本実施例では、複数の圧電素子33を格子状に複数列配置し、各列の圧電素子33の端面71,73間に隙間G2が形成されている。なお、隙間G1及びG2は、例えば50μm程度に設定されている。
【0064】
この圧電素子33の切り出し後は、複数の圧電素子33をダイシング・テープ81上に保持した状態(保持セット85)でステップS4へ移行する。
【0065】
図10は
図8の複数の圧電素子に対するマスクの取り付け状態の一部を示す正面図、
図11は
図10の複数の圧電素子とマスクとの関係を示す平面図である。
【0066】
ステップS4のマスク取付では、
図10及び
図11のように、保持セット85の同列上の複数の圧電素子33にわたって帯状のマスク87を配置する。マスク取付には、マスク治具91が用いられる。
【0067】
マスク治具91は、複数本のマスク87が保持セット85の各列に対応してマスク本体部89に支持されている。このマスク治具91を保持セット85側に近接させ、各マスク87を対応する列の圧電素子33の他側電極59に当接させる。
【0068】
マスク87は、圧電素子33の変形方向に対する交差方向(以下、単に「交差方向」と称する)の寸法よりも狭い幅方向の寸法となっており、圧電素子33の交差方向の中央部を通っている。このため、マスク87は、同列上の圧電素子33の他側電極59中央部を覆い、少なくとも他側電極59の被接続部63を覆うことができる。
【0069】
また、各マスク87の隣接間には空間部Sが設けられ、空間部Sは隣接する列の圧電素子33の端面71,73間の隙間G2上に位置する。この空間部Sは、マスク87の取り付けによって閉じ断面となった隙間G2を拡大するように板厚方向で連通している。こうして保持セット85にマスク87を取り付けた状態(マスキングセット93)でステップS5に移行する。
【0070】
図12は、蒸着重合ユニットを示す概略構成図である。
【0071】
ステップS5の蒸着重合コーティングでは、
図12のように蒸着重合ユニット95を用い、
図10及び
図11のマスキングセット93の各圧電素子33の交差方向の端面71,73にコーティング49,51を形成する。
【0072】
蒸着重合ユニット95は、物理蒸着法(PVD)によって蒸着重合を行うものであり、蒸着重合対象となるマスキングセット93を収容する重合室97を備えている。
【0073】
重合室97には、2種類の原料モノマーの供給源となる一対の気化器99a,99bが、一対の吸気管101a,101bを介して連通接続されている。一対の気化器99a,99bにおいて気化された原料モノマーは、それぞれ一対の吸気管101a,101bを介して重合室97へと導入される。
【0074】
一対の気化器99a,99bは、一対のハウジング103a,103bの内部に、原料モノマーを収容するための一対のモノマー容器105a,105bと、各原料モノマーを加熱するための一対の気化用熱源107a,107bと、をそれぞれ設けて構成されている。
【0075】
本実施例では、ポリ尿素を形成するための原料モノマーとして、例えば、モノマー容器105aに4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)等のジイソシアナート化合物が収容され、モノマー容器105bに4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)等のジアミン化合物が収容されている。
【0076】
なお、パリレンを形成する場合は、モノマー容器105a及び105bの一方にのみジパラキシリレン(DPX)固体を入れる。
【0077】
吸気管101a,101bには、それぞれ蒸着重合時に開閉される吸気弁102a,102bが設けられている。この吸気弁102a,102bの開閉により、コーティング49,51の膜厚を調整可能としている。
【0078】
重合室97は、モノマー混合槽109と反応槽111とが連通して設けられている。モノマー混合槽109は、供給された各原料モノマーを混合して反応槽111側に供給する。反応槽111は、供給された原料モノマーにより、マスキングセット93の各圧電素子33の端面71,73に対する蒸着重合反応を行わせる。
【0079】
反応槽111は、マスキングセット93が載置されるワーク台113を備えている。また、反応槽111は、排気管115が連通接続され、蒸着重合反応後の反応槽111内の雰囲気ガスを排気可能となっている。
【0080】
排気管115には、所定のタイミングで開閉される排気弁117が設けられている。この排気弁117及び上記一対の吸気弁102a,102bには、駆動制御部119が接続されている。駆動制御部119は、これらの弁117,102a,102bの開閉を制御すると共に蒸着重合反応プロセスに係るシーケンス制御を実行するようになっている。
【0081】
この蒸着重合ユニット95による蒸着重合では、重合室97のワーク台113にマスキングセット93を載置しておき、駆動制御部119からの動作指令により一対の吸気弁102a,102bを開放させて所定時間の蒸着重合反応プロセスが実行される。
【0082】
この蒸着重合は、高真空(真空蒸着)又は不活性ガスのような重合室97内の雰囲気条件下で、圧電素子33の分極が消失しない温度、例えばキュリー点の1/2〜1/3の範囲の温度で行われる。
【0083】
かかる蒸着重合反応プロセスにより、重合室97内では、気化した原料モノマーがマスキングセット93のマスク87の取付部分以外に蒸着重合してコーティング49,51を形成する。
【0084】
すなわち、気化した原料モノマーは、
図10及び
図11のマスキングセット93において、マスク治具91の空間部Sに入り込むと共に空間部Sに連通した圧電素子33の列間の隙間G2に入り込む。従って、各圧電素子33の交差方向の端面71,73及び空間部Sに面する他側電極59には、蒸着重合反応によるコーティング49,51が形成される。
【0085】
このように、本実施例では、蒸着重合によるガス化したポリマー雰囲気でコーティング49,51の形成を行う。このため、本実施例では、隙間G2の寸法が50μm程度と極めて狭い場合であっても、圧電素子33の交差方向の端面71,73に対して薄く均一な厚みのコーティング49,51を確実に形成することができる。
【0086】
しかも、隙間G2は、マスク治具91の空間部Sにマスキングセット93の板厚方向で連通しているため、空間部Sから気化した原料モノマーを容易且つ確実に入り込ませることができる。この結果、圧電素子33の交差方向の端面71,73上で気化した原料モノマーを重合させてコーティング49,51を確実に形成することができる。
【0087】
さらに、隙間G2は、空間部Sに連通しながら閉じ断面となっているため、空間部Sと共に気化した原料モノマーを案内しながらコーティング49,51を確実に形成させることができる。
【0088】
なお、圧電素子33の変形方向の端面67,69間では、隙間G1上を板厚方向で閉止するようにマスク87が通っているため、上記のように空間部Sが隙間G1に連通していない。このため、圧電素子33の変形方向の端面67,69は、十分なコーティングを形成できないおそれがある。
【0089】
しかし、これらの端面67,69は、ヘッド・サスペンション1への取付状態で接着剤45による被覆が行われることから、コーティングが形成されなくても問題はない。ただし、空間部Sに面する部分では、圧電素子33の変形方向の端面67,69間においても隙間G1が空間部Sに連通し、この範囲においてコーティング49,51が連続して形成される。
【0090】
こうして形成された薄く均一な厚みのコーティング49,51は、圧電素子33の変位特性を損なうことがない。また、コーティング49,51は、圧電素子33の交差方向の端面71,73から他側電極59上の一部並びに変形方向の端面67,69の一部にかけて連続して形成されるため、強度の向上を図ることができる。
【0091】
一方、マスク87の取付部分では、圧電素子33の他側電極59上にコーティング49,51によって覆われない露出部61を形成し、この露出部61内にフレキシャ21に対する被接続部63を形成することができる。
【0092】
また、圧電素子33の一側電極53は、ダイシング・テープ81によって覆われているので、ダイシング・テープ81がマスクとして機能することにより表面全体が露出部となる。
【0093】
このようにコーティング49,51形成が行われた後は、ステップS6へ移行する。
【0094】
ステップS6のPZT組付けでは、予めヘッド・サスペンション1をサブ・アッセンブリー(図示せず)状態としておき、
図1及び
図2のようにアクチュエータ・ベース31の各開口部35に圧電素子33を取り付ける。取り付けの際は、開口部35の内周面41,43及び受け部37,39上に接着剤45を塗布し、開口部35内に圧電素子33を収容させる。
【0095】
このとき、圧電素子33は、変形方向の端面67,69が接着剤45によって被覆され、端面67,69,71,73全てが被覆されることになる。
【0096】
その後は、圧電素子33の一側電極53の被接続部57とアクチュエータ・ベース31の表面55との間を導電性ペースト58によって導通接続し、且つ他側電極59の被接続部63とフレキシャ21の配線パターン27との間をボンディング・ワイヤー65によって導通接続する。
【0097】
こうして、圧電素子33の製造及び製造された圧電素子33のヘッド・サスペンション1(圧電アクチュエータ7)への組付けが完了する。
[実施例1の効果]
本実施例の圧電素子33の製造方法では、板状の圧電材料の母材75から圧電素子33を切り出し該切り出しによって圧電素子33外周の端面67,69,71,73を形成する切出工程としてのダイシング(ステップS4)と、圧電素子33の交差方向の端面71,73に高分子化合物を蒸着重合してコーティングを形成するコーティング形成工程としての蒸着重合コーティング(ステップS5)とを行う。
【0098】
従って、本実施例の圧電素子33の製造方法では、母材75から複数の圧電素子33を切り出す場合であっても、圧電素子33間を近接させながら蒸着重合によるガス化したポリマー雰囲気で圧電素子33の端面71,73に対してコーティング49,51を確実に形成することができる。
【0099】
この結果、本実施例の圧電素子33の製造方法では、圧電素子33の歩留まりを低下させることなく端面71,73へのコーティングを容易且つ確実に形成することができる。
【0100】
しかも、形成されたコーティング71,73は、薄く均一な厚みを有し、圧電素子33の変形特性の影響を低減すると共に強度低下を抑制することができる。
【0101】
また、本実施例では、蒸着重合が圧電素子33の分極が消失しない温度で行われるので、製品としての圧電素子33を確実に得ることができ、歩留まりの低下を抑制することができる。
【0102】
しかも、本実施例では、蒸着重合がキュリー点の1/2〜1/3の範囲の温度で行われるので、より確実に歩留まりの低下を抑制することができる。
【0103】
本実施例では、高分子化合物がポリ尿素又はパリレンであるため、圧電素子33の分極が消失しない温度或いはキュリー点の1/2〜1/3の範囲の温度による蒸着重合を確実に実現することができる。
【0104】
また、本実施例の圧電素子33の製造方法では、圧電素子33の両側面に給電用の他部材であるアクチュエータ・ベース31及びフレキシャ21に接続される一側電極53及び他側電極59を形成する電極形成工程としての電極形成・分極(ステップS2)と、他側電極59のフレキシャ21に対する被接続部63を覆う蒸着重合用のマスク87を取り付けるマスキング工程としてのマスク取付(ステップS4)とを行う。
【0105】
従って、本実施例では、蒸着重合によって圧電素子33の交差方向の端面71,73にコーティング49,51を形成することができながら、他側電極59のフレキシャ21に対する導通接続を確保することができる。
【0106】
本実施例では、ダイシングにより、圧電素子33を複数隣接させて切り出すと共に該複数の圧電素子33を少なくとも給電による変形方向で同列上に配置させ、マスク取付により、同列上の複数の圧電素子33にわたって帯状のマスク87を配置する。
【0107】
従って、本実施例では、各圧電素子33に対して個別にマスク取付を行う必要がなく、容易且つ確実にマスク取付を行うことができる。
【0108】
さらに、本実施例では、複数の圧電素子33が格子状に複数列配置されると共に各列の隣接間に隙間G2を備え、該隙間G2を介して蒸着重合が行われるため、複数の圧電素子33に対する蒸着重合によるコーティング49,51の形成を容易且つ確実に行わせることができる。
【0109】
しかも、マスク治具91等を用いて複数列に対して同時にマスク87を取り付けることが可能となり、より容易且つ確実にマスク取付を行うことができる。
【0110】
マスク87は、マスク本体89に複数設けられ、その隣接間に隙間G2に連通する空間部Sを備えている。
【0111】
従って、本実施例では、マスク87が取り付けられた状態で、空間部Sから気化した原料モノマーを隙間G2に対して容易且つ確実に入り込ませることができる。この結果、圧電素子33の交差方向の端面71,73に対してコーティング49,51を確実に形成することができる。
【0112】
さらに、本実施例では、空間部Sが隙間G2と共に閉じ断面を構成するので、隙間G2が空間部Sと共に気化した原料モノマーを案内しながらコーティング49,51を確実に形成することができる。
【0113】
電極形成・分極の際は、母材75の両側面に対し圧電素子33と共に切り出されて板側電極53及び他側電極59を構成する導電性金属層77,79を形成し、ダイシング時には、母材75の一側面側に導電性金属層77を覆うダイシング・テープ81を取り付けると共に該ダイシング・テープ81上で圧電素子33の切り出しを行い、マスク取付時には、母材75の他側面側の導電性金属層79からなる他側電極59にマスク87の取り付けを行う。
【0114】
従って、本実施例では、母材75の一側面側に取り付けたダイシング・テープ81をマスクとして利用することができ作業の簡素化を図ることができる。
【0115】
また、本実施例の製造方法によって製造された圧電素子33は、給電状態に応じて変形する板状の素子本体47と、該素子本体47の外周に形成された端面67,69,71,73と、少なくとも素子本体47の変形方向に対する交差方向の端面71,73に形成され蒸着重合された高分子化合物からなるコーティング49,51とを備えている。
【0116】
従って、圧電素子33では、コーティング49,51が薄く均一な厚みを有し、コーティング49,51の変形特性への影響を低減すると共にコーティング49,51の強度低下を抑制できる。
【0117】
また、圧電素子33を有する圧電アクチュエータ7は、基部としてのベース・プレート5と被駆動部としてのロード・ビーム3との間に配置されたアクチュエータ・ベース31と、アクチュエータ・ベース31に設けられて圧電素子33を収容する開口部35と、開口部35の内周面41,43と圧電素子33の変形方向の端面67,69との間を接着すると共に該端面67,69を覆う接着剤45とを備えている。
【0118】
このため、圧電アクチュエータ7では、圧電素子33の変形方向の端面67,69が接着剤45によって被覆されると共に交差方向の端面71,73がコーティング49,51によって被覆され、全端面67,69,71,73からの発塵を確実に防止することができる。
【0119】
この圧電アクチュエータ7を備えたヘッド・サスペンション1は、圧電素子33からのパーティクルによる磁気ディスク装置の損傷を確実に防止することができ、長期信頼性を向上することができる。