特許第5943702号(P5943702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5943702-遮音壁の吸音板 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943702
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】遮音壁の吸音板
(51)【国際特許分類】
   E01F 8/00 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   E01F8/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-113827(P2012-113827)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-227838(P2013-227838A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591161759
【氏名又は名称】大東金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 英憲
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敬司
(72)【発明者】
【氏名】寺田 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 充弘
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124483(JP,A)
【文献】 特開2006−241966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 8/00
E01B 19/00
E04B 1/82〜 1/86
H02S 20/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面吸音板の下端部を折り返して形成したハゼ折返部を有するハゼ折部に、断面コ字状背面遮音板の底辺部の先端に形成した下方折返部を差し込んだハゼ嵌合部によって、前記前面吸音板と背面遮音板の底辺部を止着した吸音板において、前記前面吸音板のハゼ折返部の寸法を背面遮音板の底辺の下方折返部の寸法よりも長くし、かつハゼ折返部の最頂点を背面遮音板の底辺の折返部の手前で底辺裏側に当接させ、前記ハゼ嵌合部の最下点部に、このハゼ嵌合部内部に連通する排水窓を設けると共に前記排水窓に隣接する通気孔部を形成したことを特徴とする遮音壁の吸音板。
【請求項2】
前記背面遮音板の下方折返部の、前面吸音板のハゼ折部への差し込みと、前記前面吸音板と背面遮音板の頭頂部のリベット止めだけによって、前記前面吸音板と背面遮音板が止着された請求項1に記載の遮音壁の吸音板。
【請求項3】
前記前面吸音板の下部にエンボス加工が施された請求項1または2に記載の遮音壁の吸音板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路などの騒音対策に用いる遮音壁の吸音板に関し、その脆弱性を改良し、耐久性に優れた遮音壁を提供するための吸音板の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路などの遮音壁は、設置されてから約35年経過しているが、自然条件や排ガス等の化学物質による表面劣化はあるものの吸音板の基本性能を維持しているので許されている。しかし約20年経過した頃から部分的劣化が進行し、破断までに至る箇所が頻発し
出したため、今後この現象に伴う改良工事の増加は必然である。
例えば図2に示す吸音板は、雨水の溜まる形状であるため、所謂ハゼ嵌合部P内部が滞水の態又は湿気過多状態になる。滞水状態状況下での吸音板の背面材の溶融亜鉛めっき鋼板は、夏場の日射で45度以上の温水になると亜鉛が溶け出して裸の鉄生地になるため、前面材のアルミ材との間で電食が発生する結果、破断に至るまで腐蝕が進行することが判明している。
また冬季に凍結防止用で塩水が散布される地域での塩水の滞留はその電食による腐蝕と錆を加速する。その欠陥を改良することにより長寿命な吸音板を開発することで建設のトータルコストの低減を図るという時代的要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3167392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現行の遮音壁の吸音板は、構造上雨水が溜まる形状のため、その滞水構造の中で電食の誘発や冬季道路凍結防止材である塩水の影響で金属の腐蝕が進行しているので、滞水と湿気が残留する要因を改善することによって腐蝕原因を除去し製品寿命を倍増させる。
【0005】
遮音壁の吸音板の耐久性を向上することによって取換、交換時期を伸ばし、保守保全に掛かるランニングコストを低減する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、この発明は、前面吸音板の下端部を折り返して形成したハゼ折返部を有するハゼ折部に、断面コ字状背面遮音板の底辺部の先端に形成した下方折返部を差し込んだハゼ嵌合部によって、前記前面吸音板と背面遮音板の底辺部を止着した吸音板において、前記前面吸音板のハゼ折返部の寸法を背面遮音板の底辺の下方折返部の寸法よりも長くし、かつハゼ折返部の最頂点を背面遮音板の底辺の折返部の手前で底辺裏側に当接させ、前記ハゼ嵌合部の最下点部に、このハゼ嵌合部内部に連通する排水窓を設けると共に前記排水窓に隣接する通気孔部を形成した構成を採用したのである。
【0007】
前記排水窓は、一定長で等間隔に設けるのが好ましい。
【0008】
前記前面吸音板のハゼ折部への背面遮音板の下方折返部の差し込みと、前記前面吸音板と背面遮音板の頭頂部のリベット止めだけによって両者を止着することができる。
【0009】
前記通気孔部の断面形状を半円形にすることができる。
【0010】
また、前記前面吸音板の下部にエンボス加工を施すことができる。
【発明の効果】
【0011】
水捌けを良くして内部が乾燥しやすい構造にすることで遮音壁の吸音板の下部のハゼ折嵌合部内部の水分に起因する電食や錆のおこる原因を除去することにより、吸音板の耐久性を向上させることができる。
【0012】
耐久性が向上することにより、遮音壁の吸音板の補修、取換、交換の施工サイクルを延長出来ることから、膨大な保守保全に掛かっていた費用が低減出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は吸音板の全体構成を示す斜視図、(b)は同上の縦断面図、(c)は前面吸音板と背面遮音板の底辺部のハゼ嵌合部を示す部分拡大斜視図、(d)はハゼ嵌合部の部分拡大縦断面図、(e)は前面吸音板及び背面遮音板の必要とする高さを示す拡大縦断面図である。
図2】(a)は従来型吸音板の全体構成を示す斜視図、(b)は同上の縦断面図、(c)は前面吸音板と背面遮音板の底辺部のハゼ嵌合部の部分拡大斜視図、(d)はハゼ嵌合部の部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1はこの発明の吸音板を示す。(a)は全体構成を示す斜視図で、(b)はその縦断面図である。(c)は前面吸音板1Aの底辺のハゼ嵌合部Pの拡大斜視図であり、(d)はハゼ嵌合部Pの拡大縦断面図である。(e)は前面吸音板1Aと背面遮音板2Aの縦方向寸法を示す図である。
【0015】
前面吸音板1Aは、アルミ板、亜鉛鋼板などをガラリ及び多孔に加工しており、下端部を裏側で上方に垂直に折り返して垂直ハゼ折返部1AHを形成する。背面遮音板2Aは、コの字状に折り曲げた溶融亜鉛めっき鋼板で構成し、コの字の底辺部の先端を下方に垂直に折り返して垂直折返部2AHを形成する。図1(d)に示すように、前面吸音板1Aの底辺部の溝状ハゼ折部に背面遮音板2Aの垂直折返部2AHを差し込んでハゼ嵌合部Pを構成する。前面吸音板1Aと背面遮音板2Aの組み立ては、底辺部をハゼ折部で嵌合させ後に頭頂部をリベットRで止めるだけで完成できるため、底辺部はリベット等の固定する部材なしに吸音パネルの組立ができる。前面吸音板1Aと背面遮音板2Aの間に、ポリエステルウールなどによる吸音材3を詰めることで吸音性能を維持している。ハゼ嵌合部Pには、排水窓5と通気孔部6が一定間隔で交互に設けられている。
【0016】
排水窓5については、図1(c)に示すように、ハゼ嵌合部Pに等間隔に一定長の大きさで設けることによりハゼ嵌合部P内部に雨水が溜まらない構造にする。これで水捌けが良くなり電食腐蝕要因が減る事で耐久性の大幅向上を実現する。
【0017】
通気孔部6については、等間隔に開けられた夫々の排水窓5と隣接するハゼ折部の谷折の内側最下点部に設けられており、前面吸音板1Aの底辺部のハゼ折の谷折の内側最下点部と、背面遮音板2Aの底辺の垂直に折返して差込んで嵌合する折返部2AHの先端部との間に、間隙空間が出来るように設計することで通気孔部6を確保する結果、常にハゼ嵌合部P内部を空気の通気が行われることによって、内部の乾燥状態を維持する事が可能になる為、湿気による劣化要因を除去させる事が出来る。
【0018】
間隙空間は、図1(d)に示すように前面吸音板1Aのハゼ折返部寸法1Sが背面遮音板2Aの底辺の垂直折返部寸法2Sより長くなるように設計されており、垂直ハゼ折返部1AHの最頂点は背面遮音板2Aの底辺の垂直に折り返される折返部2AHの手前で背面遮音板2Aの底辺裏側に当接させる事で確実に通気孔部6を確保している。
【0019】
さらに、間隙空間は、図1(e)に示すように前面吸音板1Aの最頂点と最下点間の寸法1Tが背面遮音板2Aの上部最頂点と底辺部の垂直折返部最下点間の寸法2Tより長くなるように設計する事で確実に通気孔部6を確保している。
【0020】
内部乾燥効率を高めるために設けられている通気孔部6の両端の通気孔口6Bは、形状を直角でなく半円形または斜角に切り取ることによって、その取込口表面積を大きくして空気流入量を増やしている。
【0021】
前面吸音板1Aの下部には、タワミ防止のためにエンボス7加工を設けている。エンボス加工には従来品の切込み8加工(図2(a)参照)よりも強度アップと水の侵入を防ぐ効果を出す。
【0022】
図2は従来型の遮音壁の、ハゼ折りにした吸音板の構成を示す。
(a)は全体構成を示す斜視図であり、(b)は全体構成を示す縦断面図である。(c)は前面吸音板1Bの底辺部のハゼ嵌合部Pの拡大斜視図であり、(d)は底辺部のハゼ嵌合部Pの拡大縦断面図である。
図2(b)に示すように、従来は前面吸音板1Bの底辺部をハゼ折にして、背面遮音板2Bの底辺部の垂直に折り返した先端部をハゼ折の中に入れた構成にしている。また前面吸音板1Bの下部の切込み8は、タワミ防止であるが切込みがあるため水が浸入する要因でもある。図2(d)は水4が滞留している状態を示す。
【産業上の利用可能性】
【0023】
道路等の社会的インフラは此処35年高速道路、新幹線は全国的に整備されたものの、構造物に付帯設置された遮音壁の吸音板は腐蝕、劣化が進行し、補修、取換、交換を余儀なくされ、今後十数年間に渡って膨大な保守保全費用が想定される。公共工事予算縮小の中で、社会的インフラは公共財産の観点から長寿命を要求される時代に入っており、その観点からこれからの建設、改良、補修工事に使用される材料のいずれも耐久年数の向上が命題となってくる。
その実現を図るべく数年わたる観察研究を継続した結果、長寿命の吸音板を開発した。この長寿命吸音板の使用で、騒音対策改善の中期長期のランニングコスト低減を実現できる。
【符号の説明】
【0024】
1A,1B 前面吸音板
1AH 前面吸音板1Aの下端部を裏側上方に折返した垂直ハゼ折返部
1S 前面吸音板1Aの垂直ハゼ折返部1AHの寸
1T 前面吸音板1Aの上部最頂点と底辺部最下点までの寸法
2A,2B 背面遮音板
2AH 背面遮音板2Aのコの字底辺部先端を垂直下方に折返した垂直折返部
2S 背面遮音板2Aの底辺部の垂直折返部2AHの寸
2T 背面遮音板2Aの上部最頂点と底辺部垂直折返部最下点までの寸法
3 吸音材
4 滞留水
5 排水窓
6 通気孔部
6A 通気孔
6B 通気孔口
7 エンボス
8 切込み
P ハゼ嵌合部
R 前面吸音板と背面遮音板上部結合部のリベット
図1
図2