(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943711
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】強磁性体フィルタ及びこれを備えた不純物除去器具並びに不純物除去方法
(51)【国際特許分類】
B03C 1/034 20060101AFI20160621BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20160621BHJP
B22F 5/10 20060101ALI20160621BHJP
B22F 3/00 20060101ALI20160621BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20160621BHJP
B03C 1/02 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B01D35/06 J
B22F3/11
B22F5/10
B22F3/00 D
B03C1/00 A
B03C1/00 Z
B03C1/02 Z
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-122733(P2012-122733)
(22)【出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2013-248540(P2013-248540A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】594205454
【氏名又は名称】技研パーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112988
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬戸 一宏
(72)【発明者】
【氏名】並木 禎尚
(72)【発明者】
【氏名】久世 純
【審査官】
増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−133809(JP,A)
【文献】
特開昭48−45063(JP,A)
【文献】
特開昭59−46111(JP,A)
【文献】
特開昭57−194021(JP,A)
【文献】
特開2000−342914(JP,A)
【文献】
特公昭49−19785(JP,B1)
【文献】
実開昭63−28112(JP,U)
【文献】
特開平9−47615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 1/034
B03C 1/00
B03C 1/02
B22F 3/00
B22F 3/11
B22F 5/10
C02F 1/48
B01J 19/08
G21F 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結された複数の金属球から構成され、前記複数の金属球がそれぞれ強磁性体を含む、流体を通すことが可能な一以上のフィルタと、
前記フィルタの少なくとも一部を磁化するように、前記フィルタに近接して配置された一以上の永久磁石
を備え、
強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通したときに、前記フィルタに前記不純物が引き付けられることにより、流体内から不純物を除去することが可能な不純物除去器具。
【請求項2】
前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、
前記永久磁石の数が二であり、前記二つの永久磁石が前記ケースを挟んで対向して配置された、請求項1に記載の不純物除去器具。
【請求項3】
前記二つの永久磁石の断面がいずれもコの字型又は左右を反転したコの字型である、請求項1に記載の不純物除去器具。
【請求項4】
前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、
前記永久磁石の数が四であり、前記四つの永久磁石のうちの二つが前記ケースを挟んで対向して配置され、前記四つの永久磁石のうちの別の二つも前記ケースを挟んで対向して配置された、請求項1に記載の不純物除去器具。
【請求項5】
少なくとも円筒状の部分を有する、前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、
前記フィルタの形状が、一端が円柱状で他端が円筒状である連続した立体、又は円柱状若しくは円筒状である、請求項1に記載の不純物除去器具。
【請求項6】
前記フィルタの材質が、鉄系、ニッケル系又はステンレスである、請求項1乃至5のいずれかに記載の不純物除去器具。
【請求項7】
それぞれ強磁性体を含む複数の金属球を焼結することにより製造される、流体を通すことが可能な一以上のフィルタと、
前記フィルタの少なくとも一部を磁化するように、前記フィルタに近接して配置された一以上の永久磁石
を備えた不純物除去器具内において、強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通すことと、
前記フィルタに前記流体内の前記不純物が引き付けられること
を含む、流体内から不純物を除去する方法。
【請求項8】
強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通す前に、特定の物質を吸着する強磁性体を前記流体内に添加することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記特定の物質がセシウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
焼結された複数の金属球から構成され、前記複数の金属球がそれぞれ強磁性体を含む、流体を通すことが可能な強磁性体フィルタ。
【請求項11】
前記金属球の直径が3ミリメートル以下である、請求項10に記載の強磁性体フィルタ。
【請求項12】
前記フィルタの材質が、鉄系、ニッケル系又はステンレスである、請求項10又は11に記載の強磁性体フィルタ。
【請求項13】
金型内に強磁性体を含む複数の金属球を入れることと、
前記複数の金属球を焼結させること
を含む、流体を通過させることが可能な強磁性体フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体用のフィルタに関し、特に、磁気を帯びさせることが可能な焼結金属フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水、石油等の液体や、空気、可燃ガス等の気体を含む流体内の異物や不純物を除去するために、焼結金属製のフィルタが利用されている。焼結金属とは、固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱すると固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象を使用して、金属固体粉末から製造される金属素材である。
【0003】
材料である金属固体粉末の形状や寸法に依存して、焼結金属内には気孔が形成される。このような気孔を有する焼結金属に流体を通すと、ポーラス(孔)部に流体内の異物や不純物が溜まり、結果として流体から異物や不純物が除去される。この性質から、焼結金属を所望の形状に切断又は成形すればフィルタとして利用することが可能となる。
【0004】
従来製造及び使用されていた焼結金属フィルタは、銅及びその合金等の銅系や、オーステナイト系ステンレスといった非磁性の材質のものが主流であった。このような弱磁性体の焼結金属フィルタによれば、除去されるのは流体を通すことによってポーラス部に溜まる異物や不純物のみであり、ポーラス部に溜まらない異物や不純物を除去することは出来ない。
【0005】
また、従来の焼結金属フィルタによっては、フィルタのポーラス部の大きさより遥かに小さい粒子から構成される物質を流体から除去することは殆ど不可能である。そのため、合成樹脂製のフィルタに比べてカビや雑菌等が繁殖しにくいという衛生面での利点があるにも関わらず、非常に細かい粒子の物質の除去が必要とされる場合には焼結金属フィルタそのものが選択されないという問題があった。
【0006】
一方、焼結金属フィルタに代えて金網や合成樹脂製のスポンジを使用した場合、金網の隙間部分やスポンジのポーラス部はすぐに目詰まりしてしまう。そのため、金網やスポンジ等の頻繁な交換が必要となり、費用面や手間において使用者に大きな負担が掛かることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の焼結金属フィルタにおいてポーラス部に溜まらない異物や不純物を流体から除去することである。また、本発明が解決しようとするさらなる課題は、他の特定の粒子と組み合わせて使用することにより、ポーラス部の大きさよりも遥かに小さい目的物質を流体から除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による不純物除去器具は、強磁性体を含む複数の金属球を焼結することにより製造される、流体を通すことが可能な一以上のフィルタと、前記フィルタの少なくとも一部を磁化するように、前記フィルタに近接して配置された一以上の磁石を備え、強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通したときに、前記フィルタに前記不純物が引き付けられることにより、流体内から不純物を除去することが可能であり、これにより上記課題を解決する。
【0009】
本発明による別の不純物除去器具は、強磁性体を含む複数の金属球を含む、流体を通すことが可能な一以上のフィルタと、前記フィルタの少なくとも一部を磁化するように、前記フィルタに近接して配置された一以上の磁石を備え、強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通したときに、前記フィルタに前記不純物が引き付けられることにより、流体内から不純物を除去することが可能であり、これにより上記課題を解決する。
【0010】
前記各不純物除去器具は、前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、前記磁石の数が二であり、前記二つの磁石が前記ケースを挟んで対向して配置されていてもよい。また、前記二つの磁石の断面がいずれもコの字型又は左右を反転したコの字型であってもよい。
【0011】
あるいは、前記各不純物除去器具は、前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、前記磁石の数が四であり、前記四つの磁石のうちの二つが前記ケースを挟んで対向して配置され、前記四つの磁石のうちの別の二つも前記ケースを挟んで対向して配置されていてもよい。
【0012】
あるいは、前記各不純物除去器具は、少なくとも円筒状の部分を有する、前記フィルタを覆うためのケースをさらに備え、前記フィルタの形状が、一端が円柱状で他端が円筒状である連続した立体、又は円柱状若しくは円筒状であってもよい。
【0013】
前記各不純物除去器具においては、前記フィルタの材質が、鉄系、ニッケル系又はステンレスであってもよい。
【0014】
本発明による強磁性体フィルタは、強磁性体を含む複数の金属球を焼結することにより製造され、流体を通すことが可能であることにより、上記課題を解決する。
【0015】
本発明による別の強磁性体フィルタは、強磁性体を含む複数の金属球と、前記複数の金属球を内部に保持し、外部から内部に流体を通すことが可能な容器を備えており、これにより上記課題を解決する。前記金属球の直径は3ミリメートル以下であってもよく、前記フィルタの材質は鉄系、ニッケル系又はステンレスであってもよい。
【0016】
本発明による流体を通過させることが可能な強磁性体フィルタの製造方法は、金型内に強磁性体を含む複数の金属球を入れることと、前記複数の金属球を焼結させることを含み、これにより上記課題を解決する。
【0017】
本発明による流体内から不純物を除去する方法は、強磁性体を含む複数の金属球を焼結することにより製造される、流体を通すことが可能な一以上のフィルタと、前記フィルタの少なくとも一部を磁化するように、前記フィルタに近接して配置された一以上の磁石を備えた不純物除去器具内において、強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通すことと、前記フィルタに前記流体内の前記不純物が引き付けられることを含み、これにより上記課題を解決する。
【0018】
前記方法は、強磁性体を含む不純物を有する流体を前記フィルタに通す前に、特定の物質を吸着する強磁性体を前記流体内に添加することをさらに含んでいてもよい。また、前記特定の物質はセシウムであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の強磁性体フィルタを含む不純物除去器具及び不純物除去方法によれば、空気、水、油等の流体から、強磁性を有する異物や不純物を容易に除去することができる。また、用途に応じてフィルタのポーラス部の寸法を決めておくことにより、強磁性を有しない異物や不純物を流体から除去することが可能である。さらに、特定の物質を吸着する強磁性体を流体に添加しておくことにより、弱磁性体や非磁性体の不純物を流体から除去することも可能である。
【0020】
本発明の不純物除去器具においては、内部の強磁性体フィルタの交換が可能であるため、器具を衛生的かつ安全な状態に保つことができる。とりわけ、放射性セシウムを除去する場合においては、内部の強磁性体フィルタに多量の放射性物質が付着するが、内部の強磁性体フィルタを廃棄することによって、不純物除去器具自体を継続して使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
図1Aは、本発明による不純物除去器具の斜視図である。また、
図1Bは、
図1Aの不純物除去器具を軸A‐A´を中心に奥に90°回転した斜視図である。本発明の不純物除去器具は、強磁性体フィルタを内部に含むケース1と、ケース1に近接して取り付けられた二つの磁石2a,2bと、ジョイント3を備えている。
【0023】
図1A及び
図1Bにおいて、磁石2a,2bはケース1を挟んで対向して設けられている。ケース1は磁気を通すことが可能な任意の材料から構成されており、その内部形状については後述する。ケース1は、好適には厚さ0.5〜5mm程度の金属又は合成樹脂等から構成されている。ケース1は一体成型されていてもよいが、複数の部品の組み合わせであってもよく、例えば金属製の側面と合成樹脂製の底面を組み立てたものであってもよい。
【0024】
磁石2a,2bは、公知の永久磁石又は電磁石であり、鉄、ニッケル等の強磁性体を引き付ける性質を有する。好適には、磁石2a,2bはネオジウム系の強力な永久磁石である。磁石2a,2bは、ボルト及びナット、接着剤等の任意の手段により、ケース1の側面上に固定されている。ケース1が強磁性体の金属であって磁石2a,2bが強い磁力を有する場合には、前記のような固定手段が存在しなくてもよい。また、磁石2a,2bはケース1の内部に磁力を及ぼす状態であれば必ずしもケース1に接触している必要はなく、ケース1に接しないケース1の外部の固定手段により、ケース1の側面に近接された状態で固定されていてもよい。磁石2a,2bには、それらの磁力を完全に失わせない任意のカバー等が取り付けられていてもよい。
【0025】
図1A及び
図1Bにおいてケース1の右上部には、ホース(不図示)に接続するためのジョイント3が取り付けられている。ジョイント3は任意の材料、好適には厚さ0.5〜5mm程度の金属又は合成樹脂等から構成されている。前記ホースは、ジョイント3の接続部3aの内径又は外径に適合するようなゴム、金属、合成樹脂等により構成される。
【0026】
図2Aは、
図1Aの不純物除去器具を軸A‐A´を含む平面で切断した断面図である。
図2Aにおいては、ケース1内の強磁性体フィルタ及び磁石2a,2bの図示を省略している。ケース1の下部には、ケース1を通過する流体の流量を調節するためのバルブ又はコック4が設けられている。ケース1の上端と、ジョイント3の間には通常Oリングを挟むが、
図2Aにおいては図示を省略している。
【0027】
図2Bは、
図1Aに示したものとは別の構成の不純物除去器具の断面図である。
図2Bの構成は、
図1Aのケース1に相当する部分をケース1aと下部ジョイント1bに分けた点において、
図1Aの構成と相違している。そのため、
図2Bのケース1aの形状は円筒状となっている。また、上部ジョイント3bの形状も、ケース1aの内径に適合する点において、ケース1の外径に適合する
図1Aのジョイント3とは異なっている。なお、
図2Bにおいても、
図2Aと同様にケース内の強磁性体フィルタ及びケース側面の磁石の図示は省略している。
【0028】
図2Bに示した構成の利点は、例えばケース1aを金属製にして下部ジョイント1bを合成樹脂製にするなど、必要に応じた柔軟な材料の組み合わせが可能であることである。また、ケース1a、下部ジョイント1b及び上部ジョイント3bの形状が、
図1Aのケース1及びジョイント3と比べて単純であるため、生産性を高めて製造費用を下げやすいという利点もある。その反面、
図2Bの不純物除去器具においては、装置全体の強度が
図1Aの不純物除去器具に比べて劣るという欠点がある。
【0029】
以上の不純物除去器具の構成例において、ケース及びジョイントの接合は、ネジによる固定、嵌め込み、溶接等の任意の手段により行われる。
【0030】
図3Aは、本発明の不純物除去器具に含まれる強磁性体フィルタの斜視図である。強磁性体フィルタ5aは、多数の金属球を焼結することにより構成されており、その外形は円柱状である。強磁性体フィルタ5aは、焼結された金属球の間に多数のポーラス部を有しており、このポーラス部の存在によって水、空気、石油等の流体を通過させることが可能となっている。強磁性体フィルタ5aの製造方法及びその細部の構造については後述する。
【0031】
図3Bは、
図3Aに示したものとは別の本発明の強磁性体フィルタの斜視図である。強磁性体フィルタ5bの外形は、
図3Aの強磁性体フィルタ5aとは異なり円筒状である。強磁性体フィルタ5bも、強磁性体フィルタ5aと同様に多数の金属球を焼結することにより製造され、焼結された金属球の間に流体を通過させることが可能な多数のポーラス部を有している。強磁性体フィルタ5bにおいては、円筒の中央部にフィルタ効果を有しない空間を設けたことにより、強磁性体フィルタ5aより流体の通過性を高めている。
【0032】
図4Aは、
図1Aの不純物除去器具を切断線B‐B´を含む軸A‐A´に垂直な平面で切断した断面図である。
図4Aに示されるように、ケース1はその内径より小さい外径を有する強磁性体フィルタ5を覆っている。強磁性体フィルタ5は、
図3Aに示した強磁性体フィルタ5aであることを想定しているが、これに代えて、例えば
図3Bに示した強磁性体フィルタ5bを使用してもよい。強磁性体フィルタ5bを使用した場合、断面の中心に円形の空間が生じることになる。
【0033】
上述した通り、磁石2a,2bはケース1を挟んで対向して配置されており、これによって強磁性体フィルタ5の一部又は全部を磁化する。磁力は概ね磁石からの距離の3乗に反比例するため、強磁性体フィルタ5においては磁石2a,2bからの距離が近い部分ほど強い磁力を有することになる。
【0034】
なお、
図4Aにおいてはケース1と強磁性体フィルタ5の間に僅かな隙間が存在しているが、フィルタの除去効果を高めるためにこの隙間を小さくしたり無くしてもよい。また、
図1Aとはケース及びジョイントの構成が異なる
図2Bの場合においても、ケース1aに交差する
図2Bの断面に垂直な断面は
図4Aと同様になる。
【0035】
図4B及び
図4Cは、
図4Aとは別の磁石の配置を行う場合の不純物除去器具の断面図である。
図4Bに示されるように、それぞれ対向する二組の磁石2a,2bと磁石2c,2dを、ケース1を挟んで配置してもよい。好適には、磁石2a〜2dは、
図4Bのようにケース1の中心軸を中心として90度毎に配置される。また、
図4Cは、左右反転したコの字型の断面を有する磁石2eと、コの字型の断面を有する磁石2fを、ケース1を挟んで対向して配置した例を示している。
図4B及び
図4Cのいずれの例も、
図4Aの場合よりも強磁性体フィルタ5に与えられる磁力の強度を高めたものである。
【0036】
理解の容易化のために、
図4A乃至
図4Cにおいては強磁性体フィルタの存在する部分を斜線により表現したが、強磁性体フィルタの外観が
図3A及び
図3Bに示すようなものであることは上述の通りであり、本来は強磁性体フィルタの断面に焼結された複数の金属球の断面が現れることになる。
【0037】
また、以上の例においては、不純物除去器具に含まれる磁石の個数を2個又は4個として説明したが、これは不純物除去効果を高めるために磁石の個数を複数としたものである。不純物除去器具に1個以上の磁石が存在すれば、本発明の目的を達成することは可能である。
【0038】
図5A乃至
図5Dは、本発明の不純物除去器具の作用を示す説明図である。
図5A乃至
図5Dはいずれも断面図であり、不純物除去器具のケース及びジョイントの構成は、
図2Bに示したものと同様である。
図5A乃至
図5Dにおいて、矢印はいずれも流体の通過方向を示している。
図4A乃至
図4Cと同様に、
図5A乃至
図5Dにおいても強磁性体フィルタの存在する部分を斜線により表現しているが、本来は強磁性体フィルタの断面に焼結された複数の金属球の断面が現れることは上述の通りである。
【0039】
まず、
図5Aは、
図3Aに示した強磁性体フィルタ5aを使用する場合の例である。上部ジョイント3bの流路を通って流入した流体は、強磁性体フィルタ5aの内部に入り、強磁性体フィルタ5aの内部を下方向に進み、強磁性体フィルタ5aを抜けて最終的に下部ジョイント1bの流路に出る。
【0040】
上述したように、強磁性体フィルタ5aは磁石2a,2bに近い部分を中心に磁化されているため、流体中に含まれる鉄、ニッケル等の強磁性体は、強磁性体フィルタ5a内の表面又はポーラス部において強磁性体フィルタ5aに引き付けられ、それ以上流れることができない。その結果、下部ジョイント1bの流路から出てくる流体に含まれる強磁性体の量は、上部ジョイント3bの流路から入った流体に含まれる強磁性体の量よりも少なく、強磁性体フィルタ5aによって不純物たる強磁性体が除去されていると言える。
【0041】
また、流体中に含まれる不純物の粒子であって、強磁性体フィルタ5aのポーラス部より大きい粒子や、ポーラス部の大きさに近い粒子でポーラス部に引っ掛かった粒子は、強磁性体フィルタ5aのポーラス部を通過することができないので、磁性の有無にかかわらず強磁性体フィルタ5aによって除去されることになる。
【0042】
次に、
図5Bは、
図3Bに示した強磁性体フィルタ5bを使用する場合の例である。上部ジョイント3bの流路を通って流入した流体は、強磁性体フィルタ5bの内側の中空部分を通って下部ジョイント1bの流路に出る。その間に、流体内に含まれる強磁性体のみが、磁化された強磁性体フィルタ5bに引き付けられ、その表面又はポーラス部に着いたまま流れなくなる。強磁性体フィルタ5bのポーラス部の大きさに近い粒子でポーラス部に引っ掛かった粒子が除去され得ることは、
図5Aの場合と同様である。
【0043】
次に、
図5Cは、最下部のみが円柱状、それ以外の部分が円筒状となった強磁性体フィルタ5cを使用する場合の例である。上部ジョイント3bの流路を通って流入した流体は、強磁性体フィルタ5cの中空部分に向かって流れ、そこからケース1aとフィルタ5cの間の隙間部分(
図5Cにおいては左右方向)、又は下部ジョイント1bの流路(
図5Cにおいて下方向)に向かって流れる。その際に、流体は磁化された強磁性体フィルタ5cのいずれかの部分を通ることになるため、流体中の強磁性体は強磁性体フィルタ5cの表面又はポーラス部に引き寄せられて流れなくなる。
【0044】
図5Cの場合においても、強磁性体フィルタ5cのポーラス部より大きい粒子や、ポーラス部の大きさに近い粒子でポーラス部に引っ掛かった粒子は、磁性の有無にかかわらず強磁性体フィルタ5cによって除去される。なお、ケース1aと強磁性体フィルタ5cの間の隙間部分に流れた流体は、最終的には下部ジョイント1bの流路に向かって流れることになる。
【0045】
最後に、
図5Dは、円筒状の強磁性体フィルタ5dの底面に流体を通さない円形の板1cを取り付けたタイプである。強磁性体フィルタ5dの長さは、同じく円筒状である、
図3Bに示した強磁性体フィルタ5bの長さよりはやや短い。板1cは流体を通さない任意の部材であり、好適にはその材質は金属又は合成樹脂である。
【0046】
図5Dに示す場合においても、上部ジョイント3bの流路を通って流入した流体は、強磁性体フィルタ5dの中空部分に向かって流れる。しかし、板1cの存在により流体は下方に流れることができないため、磁化された強磁性体フィルタ5dを通ってケース1aと強磁性体フィルタ5dの隙間部分に向かって流れる(
図5Dにおいては左右方向)。その際に、流体内の強磁性体が強磁性体フィルタ5dの表面又はポーラス部に引き寄せられて流れなくなる。
【0047】
図5Dの場合においても、強磁性体フィルタ5dのポーラス部より大きい粒子や、ポーラス部の大きさに近い粒子でポーラス部に引っ掛かった粒子は、磁性の有無にかかわらず強磁性体フィルタ5dによって除去される。その後、前記隙間部分の流体は下方に向かって流れ、最終的には下部ジョイント1bの流路に到達する。
【0048】
なお、
図5A乃至
図5Dの説明においては、流体中から強磁性体及び強磁性体フィルタのポーラス部より小さい粒子を除去するものとしたが、上部ジョイント1bに入る前の流体に特定の物質を吸着する強磁性体を添加することにより、当該特定の物質の粒子の大きさや磁性の有無にかかわらず、当該特定の物質を除去することもできる。例えば、プルシアンブルー(Fe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3)は、セシウムを選択的に吸着することが知られているが、例えば上部ジョイント1bに入る前の水にプルシアンブルーを添加しておけば、放射性セシウムを含むセシウムを水から除去することが可能となる。
【0049】
放射性セシウムについては、現在東日本を中心とする日本国内の各地域においてその拡散が問題となっているが、本発明の強磁性体フィルタ及び不純物除去器具によれば、上記の方法を使用することにより、水を初めとする流体から放射性セシウムの効率的な除去を行うことができる。
【0050】
図6は、本発明の強磁性体フィルタの製造方法を示す説明図である。
図6の各図はいずれも断面図であり、二重線の矢印の方向(上から下)に向かって製造工程が進行する。まず、
図6の上方に示すように、金型10に多数の金属球11が流し込まれる。金型10の材質は、好適にはステンレス、カーボン、セラミック等である。多数の金属球11はいずれも強磁性体を含み、その材質は、例えば鉄系、ニッケル系、フェライト系ステンレス等であって、その直径は数
μmから3mm程度である。鉄系及びニッケル系の材質の例としては、鉄、ニッケルのほか、ニッケル鉄合金、鉄コバルト合金、四酸化三鉄(Fe
3O
4)等が挙げられる。前記各材質には、焼結性を高めるためにカーボンや銅を添加してもよい。
【0051】
そして、
図6の中央に示すように、金型10の全てのキャビティに多数の金属球11が充填される。金属球11が流し込まれる金型10のキャビティの形状は、製造対象の強磁性体フィルタの形状に合わせられており、例えば
図3A及び
図3Bの強磁性体フィルタ5a,5bを製造する場合にはキャビティの形状は円柱状及び円筒状である。
【0052】
充填された多数の金属球11は金型10ごと焼結される。すなわち、多数の金属球11の融点より低い一定の温度まで金型10を加熱し、そのまま金属球11を焼結させる。前記一定の温度は、例えば摂氏1100〜1300度であり、金型10の周囲を真空にしてもよい。焼結終了後、金型10の加熱を中止し、金型10が常温に戻った後に強磁性体フィルタ5a,5bを金型10から取り出す(
図6下方)。
【0053】
図7A及び
図7Bは、本発明の強磁性体フィルタの微細な構造を示す斜視透視図であり、それぞれ右下の点線内は一部拡大図である。
図7A及び
図7Bに示されるように、焼結された金属球11a,11bは理想的には6方向又は12方向において他の金属球と結合している。
図7Aのように6方向に結合された場合には金属球11aの隙間にポーラス部12aを有し、
図7Bのように12方向に結合された場合には金属球11bの隙間にポーラス部12bを有する。ポーラス部12a,12bは流体及び不純物が通過することが可能な隙間であり、ポーラス部12a,12bよりも
大きい物体は磁性の有無を問わず強磁性体フィルタを通過することができない。一般に、ポーラス部12bはポーラス部12aより狭い。金属球の直径に応じてポーラス部の大きさが決まるため、流体の種類や強磁性体フィルタの用途に応じて、材料となる金属球11の直径を選択することになる。
【0054】
なお、上記の各実施形態においては、強磁性体フィルタ5a,5bに代えて、単に複数の強磁性体を含む金属球を容器に入れた強磁性体フィルタを使用することも可能である。この場合、容器には金属球が通ることができない大きさの細孔が設けられているか、容器が対象の流体を通過させる性質を有する合成樹脂等により形成されている。このような強磁性体フィルタにおいては、流体を高圧で流した場合に内部の金属球の集合の形状が変形してしまうという欠点があるが、容器の形状を変更することによりフィルタの形状を自由に設定することができるという利点がある。
【0055】
また、上記の各実施形態における強磁性体フィルタやケース等の形状は例示であり、実際には強磁性体フィルタやケース等は、それらの機能を損なわない範囲において、直方体状や三角柱状等の任意の形状を採ることが可能である。また、以上の説明において複数の金属球を使用する場合、通常は球状の粒子を有する金属粉末を使用することになるため、粒子形状にばらつきが存在することもある。しかし、前記のような粒子形状のばらつきが存在しても強磁性体フィルタの不純物除去機能は損なわれないため、本発明の目的を達成することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
工場の排水に含まれる鉄粉除去、飲料水等の鉄分除去、農業及び林業用水内の鉄分除去、セシウムの除去、その他の磁化した異物に対する除去に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1A】本発明による不純物除去器具の斜視図である。
【
図1B】
図1Aの不純物除去器具を軸A‐A´を中心に奥に90°回転した斜視図である。
【
図2A】
図1Aの不純物除去器具を軸A‐A´を含む平面で切断した断面図である。
【
図2B】
図1Aに示したものとは別の構成の不純物除去器具の断面図である。
【
図3A】本発明の不純物除去器具に含まれる強磁性体フィルタの斜視図である。
【
図3B】
図3Aに示したものとは別の本発明の強磁性体フィルタの斜視図である。
【
図4A】
図1Aの不純物除去器具を切断線B‐B´を含む軸A‐A´に垂直な平面で切断した断面図である。
【
図4B】
図4Aとは別の磁石の配置を行う場合の不純物除去器具の断面図である。
【
図4C】
図4Aとは別の磁石の配置を行う場合の不純物除去器具の断面図である。
【
図5A】本発明の不純物除去器具の作用を示す説明図である。
【
図5B】本発明の不純物除去器具の作用を示す説明図である。
【
図5C】本発明の不純物除去器具の作用を示す説明図である。
【
図5D】本発明の不純物除去器具の作用を示す説明図である。
【
図6】本発明の強磁性体フィルタの製造方法を示す説明図である。
【
図7A】本発明の強磁性体フィルタの微細な構造を示す斜視透視図である。
【
図7B】本発明の強磁性体フィルタの微細な構造を示す斜視透視図である。
【符号の説明】
【0058】
1,1a ケース
1b 下部ジョイント
1c 板
2a,2b,2c,2d,2e,2f 磁石
3 ジョイント
3b 上部ジョイント
4 バルブ又はコック
5,5a,5b 強磁性体フィルタ
10 金型
11 金属球
11a,11b 焼結された金属球
12a,12b ポーラス部