(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円環状をなす断面三角状のビードフィラと、前記ビードフィラのタイヤ径方向内側に配置されるビードコアと、端部が前記ビードフィラ及びビードコアを挟み込むように折り返され、前記ビードフィラのタイヤ幅方向内側面に少なくとも接合されるカーカスプライと、を備え、
前記タイヤ幅方向内側面に、タイヤ径方向に延びるエア抜き溝がタイヤ周方向に沿って複数形成されており、
前記タイヤ幅方向内側面と前記カーカスプライとの間に、接着層が介在する領域と接着層が介在しない領域とがタイヤ周方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記ビードフィラのタイヤ幅方向内側面のうち少なくとも根本部には、タイヤ周方向に延びる周溝がタイヤ径方向に沿って複数形成されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
前記複数のエア抜き溝は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向けて、溝幅又は溝深さの少なくとも一つが変化させてある請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)に示すように、タイヤのビード部1は、円環状をなす断面三角状のビードフィラ11と、ビードフィラ11の径方向内側端部11dに接合されたビードコア10とを有する。カーカスプライ4の端部は、ビードフィラ11及びビードコア10を挟み込むように折り返されている。タイヤの製造工程のうち一つの工程として、
図2に模式的に示すように、カーカスプライ4やインナーライナー(不図示)をドラムDrの外周面に配置し、カーカスプライ4の端部にビードフィラ11及びビードコア10を配置し、ステッチャ等の押さえ具Stによりビードフィラ11をタイヤ幅方向内側WD1に向けて折り曲げながらカーカスプライ4を折り返す工程がある。この工程では、ステッチャ等の押さえ具Stが図中矢印で示す経路を移動することによりビードフィラ11が根本から先端に向けて順に押さえられ、ビードフィラ11がタイヤ幅方向内側WD1に向けて折り曲げながらカーカスプライ4に接合される。
【0003】
ところが、ビードフィラは、タイヤを構成するゴム部材のうち硬度の高いゴムで形成されるのが通例であるため、ステッチャ等の押さえ具で曲げにくく、ビードフィラのタイヤ幅方向内側面とカーカスプライとが接合しにくい問題がある。また、ビードフィラの折り曲げ時に、ビードフィラとカーカスプライとの間にエアを巻込んでしまい、エア入りによって不良品となる問題がある。
【0004】
ビードフィラとカーカスプライとを的確に接合するための一つの有効な手段として、特許文献1,2には、ビードフィラとカーカスプライとの接合面に接着層を設け、ビードフィラとカーカスプライとを接着した空気入りタイヤが開示されている。
【0005】
ビードフィラとカーカスプライとの間のエア入りを抑制するための一つの有効な手段として、特許文献3には、ビードフィラの根本(タイヤ径方向内側)から先端(タイヤ径方向外側)に亘ってタイヤ径方向に延びるエア逃がし溝を設け、エア逃がし溝を介してカーカスプライとビードフィラの間のエアを逃がす空気入りタイヤが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビードフィラとカーカスプライとの的確な接合と、両者の間へのエア入りの的確な抑制との両立が望まれる。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1,2のように、ビードフィラの全面に接着層を設けた構成では、ビードフィラの先端が根本よりも先にカーカスプライに接触した場合に、袋のようにエアを抱き込んでしまい、接着層により抱き込んだエアが抜けず、エア入りに弱い構成となってしまう。さらに、ビードフィラの全面に接着層があると、カーカスプライとの接着が強すぎて、取り扱いにくく、生産性が損なわれる。しかも、全面接着層により重量及びコストの増大を招来してしまう。
【0009】
一方、上記特許文献3のように、ビードフィラにエア逃がし溝を設けただけの構成では、ビードフィラとカーカスプライとの間のエア入りを低減できる一方、ビードフィラとカーカスプライとの接合が十分とはいえない。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、生産性悪化、コスト増大及び重量の増大を回避しつつ、ビードフィラとカーカスプライとの適切な接合と、両者間へのエア入りの低減とを両立する空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0012】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、円環状をなす断面三角状のビードフィラと、前記ビードフィラのタイヤ径方向内側に配置されるビードコアと、端部が前記ビードフィラ及びビードコアを挟み込むように折り返され、前記ビードフィラのタイヤ幅方向内側面に少なくとも接合されるカーカスプライと、を備え、
前記タイヤ幅方向内側面に、タイヤ径方向に延びるエア抜き溝がタイヤ周方向に沿って複数形成されており、
前記タイヤ幅方向内側面と前記カーカスプライとの間に、接着層が介在する領域と接着層が介在しない領域とがタイヤ周方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする。
【0013】
このように、ビードフィラのうちカーカスプライと接合されるタイヤ幅方向内側面に、タイヤ径方向に延びるエア抜き溝が複数形成されているので、エア抜き溝を介してエアを適切に抜くことができ、エア入りを低減できる。加えて、ビードフィラのタイヤ幅方向内側面とカーカスプライとの間に、接着層が介在する領域と介在しない領域とがタイヤ周方向に沿って交互に配置されているので、接着層によりカーカスプライとビードフィラとを的確に接着できるとともに、接着層を介在しない領域によりエアを抱き込んでしまうおそれがなくなり、エア入りを低減できる。それでいて、接着層が全面に設けられるわけではないので、接着力が過度になりすぎず、取り扱いやすく生産性を向上させることができる。同時に、重量やコストも抑制することができる。
したがって、生産性悪化、コスト増大及び重量増大を回避しつつ、ビードフィラとカーカスプライとの的確な接合と、両者間へのエア入りの低減とを両立することが可能となる。
【0014】
エア入りをより一層抑制するためには、前記複数のエア抜き溝は、タイヤ径方向に対して傾斜していることが好ましい。
【0015】
エア入りをより一層抑制するためには、前記ビードフィラのタイヤ幅方向内側面のうち少なくとも根本部には、タイヤ周方向に延びる周溝がタイヤ径方向に沿って複数形成されていることが好ましい。
【0016】
エア入りをより一層抑制するためには、前記複数の周溝は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向けて、溝幅又は溝深さの少なくとも一つが変化させてあることが好ましい。
【0017】
エア入りをより一層抑制するためには、前記接着層が介在する領域と前記接着層が介在しない領域との界面は、タイヤ径方向に対して傾斜していることが好ましい。
【0018】
エア入りをより一層抑制するためには、前記複数のエア抜き溝は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向けて、溝幅又は溝深さの少なくとも一つが変化させてあることが好ましい。
【0019】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法としても特定可能である。
すなわち、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、
円環状をなす断面三角状のビードフィラのうちタイヤ幅方向内側となる面に、タイヤ径方向に延びるエア抜き溝をタイヤ周方向に沿って複数形成する工程と、
ビードフィラのタイヤ幅方向内側となる面とカーカスプライとを接合した場合に、接着層が介在する領域と接着層が介在しない領域とがタイヤ周方向に交互に配置されるように、接着層をビードフィラ又はカーカスプライの少なくとも一方に設ける工程と、
カーカスプライの端部に配置した前記ビードフィラを、押さえ具によりタイヤ幅方向内側となる方向に折り曲げながらカーカスプライに接合する工程と、を備える。
【0020】
この製造方法を実施すれば、上記効果を奏するため、生産性悪化、コスト増大及び重量増大を回避しつつ、ビードフィラとカーカスプライとの的確な接合と、両者間へのエア入りの低減とを両立することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態の空気入りタイヤ及びその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1(a)に示すように、空気入りタイヤは、一対の環状のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側RD2へ延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の外周側端に連なるトレッド部3と、その一対のビード部1の間に設けられるカーカスプライ4とを備えたラジアルタイヤである。ビード部1は、ビードフィラ11と当該ビードフィラ11のタイヤ径方向内側に設けられるビードコア10とを有する。カーカスプライ4は、トロイド状をなし、その端部はビードコア10とビードフィラ11を挟み込むようにして折り返されている。
【0024】
ビードフィラ11は、
図1(b)及び
図1(c)に示すように、タイヤ径方向外側RD2に向けて先細り状の断面三角状をなす円環状のゴム部材で、図示しない押出機から帯状ゴムを押し出して形成される。そして、
図2に示すように、カーカスプライ4を含むタイヤ構成部材をドラムDrの外周面に配置し、カーカスプライ4の端部にビードフィラ11及びビードコア10を配置し、ステッチャ等の押さえ具Stによってビードフィラ11がタイヤ幅方向内側WD1に折り曲げられながらカーカスプライ4に接合される。本実施形態では、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aとタイヤ幅方向外側面11bの両面がカーカスプライ4に接合される。なお、本実施形態では、
図1(c)に示すように、ビードフィラ11の根本における幅W1は10mmであり、高さH1が50mmであり、ビードコア10(ビードワイヤー)の幅が10mmに設定してあるが、本発明においては、これに限定されず、種々のサイズに適用可能である。
【0025】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11a(倒れ込み側の面)には、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5がタイヤ周方向CDに沿って複数形成されている。エア抜き溝5は、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aのうちタイヤ径方向内側端11e(根本)からタイヤ径方向外側端11f(先端)に至るまで延びている。エア抜き溝5によって、折り曲げ時にビードフィラ11が抱き込むエアを排出可能となる。本実施形態では、
図3(b)に示すように、エア抜き溝5は、タイヤ径方向RDに沿って延びており、タイヤ径方向RDに対して傾斜していない。すなわち、タイヤ径方向RDに対する角度が0°である。エア抜き溝5は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aの全面に、一定間隔毎に複数形成されている。本実施形態では、
図3(b)及び
図3(c)に示すように、タイヤ径方向内側端11eに沿って測った場合に、10mmの間隔で配置している。エア抜き溝は、幅W2が1.0mmに、深さd2が0.3mmに設定されているが、これは一例であり、これに限定されない。
【0026】
図2及び
図3では図示していないが、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aとカーカスプライ4との間には、接着層が介在している。本実施形態では、接着層の厚みは0.3mmに設定されている。接着層は、タイヤ周方向CDに全面に亘って配置されているのではなく、
図4に示すように、タイヤ周方向CDに沿って間欠的に配置されている。すなわち、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aとカーカスプライ4との間に、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに沿って交互に配置される。なお、
図4ではエア抜き溝を図示していない。本実施形態では、タイヤ幅方向内側面11aのうちタイヤ径方向内側端11eに沿って測った場合に、接着層が介在する領域が50mmであり、接着層が介在しない領域が50mmに設定されている。本実施形態では、接着層が介在する領域Ar1と介在しない領域Ar2との配置間隔は50mmに設定されているが、これに限定されない。例えば、30〜50mmに設定することが挙げられる。また、本実施形態では、
図4に示すように、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2との界面brは、タイヤ径方向RDに対して傾斜していない(タイヤ径方向RDに対する角度が0°である)。
【0027】
図3(b)及び
図3(d)に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aのうち根本部には、タイヤ周方向CDに延びる周溝6がタイヤ径方向RDに沿って複数形成されている。ここでいう根本部は、ビードフィラ11のタイヤ径方向内側端11eからビードフィラ11の高さの1/2を超えない領域を意味する。本実施形態では、周溝6の幅W3が1mmで、深さd3が5mmに設定されており、同じ形状の周溝6が3つ形成されている。これにより、硬質ゴムで形成されるビードフィラ11が倒れ込みやすくなる。なお、周溝6のサイズは、種々変更可能である。
【0028】
上記空気入りタイヤは、下記の製造方法により製作される。
【0029】
図3に示すように、円環状をなす断面三角状のビードフィラ11のうちタイヤ幅方向内側WD1となる面11aに、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5をタイヤ周方向CDに沿って複数形成する工程を実施する。この工程では、例えば押出機のダイリップ形状により押出時にエア抜き溝5をビードフィラ11に一体に形成してもよく、押出後にエア抜き溝5に対応する凸部を設けたローラで挟み込むことでエア抜き溝5をビードフィラ11に形成してもよく、押出後の切削加工によりエア抜き溝5をビードフィラ11に形成してもよい。
【0030】
図4に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側WD1となる面11aとカーカスプライ4とを接合した場合に、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されるように、接着層をビードフィラ11又はカーカスプライ4の少なくとも一方に設ける工程を実施する。作業の容易性を確保するためには、接着層をビードフィラ11に設けるのが好ましい。一方、ビードフィラ11を、カーカスプライ4に設けた接着層に対して精度良く位置決め可能な場合には、カーカスプライ4に接着層を設けてもよい。
【0031】
次に、
図2に示すように、カーカスプライ4の端部に配置したビードフィラ11を、ステッチャ等の押さえ具Stによりタイヤ幅方向内側WD1となる方向に折り曲げながらカーカスプライ4に接合する工程を実施する。
【0032】
その後、適宜、他のタイヤ構成部材を組み付け、未加硫タイヤを加硫することで空気入りタイヤを得る。上記エア抜き溝5及び周溝6は、加硫時後の空気入りタイヤにおいて溝空間を有さないが、溝の跡が界面として確認できる。
【0033】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、円環状をなす断面三角状のビードフィラ11と、ビードフィラ11のタイヤ径方向内側RD1に配置されるビードコア10と、端部がビードフィラ11及びビードコア10を挟み込むように折り返され、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aに少なくとも接合されるカーカスプライ4と、を備え、タイヤ幅方向内側面11aに、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5がタイヤ周方向CDに沿って複数形成されており、タイヤ幅方向内側面11aとカーカスプライ4との間に、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに沿って交互に配置されている。
【0034】
また、本実施形態の空気入りタイヤの製造方法は、円環状をなす断面三角状のビードフィラ11のうちタイヤ幅方向内側WD1となる面11aに、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5をタイヤ周方向CDに沿って複数形成する工程と、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側WD1となる面11aとカーカスプライ4とを接合した場合に、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されるように、接着層をビードフィラ11又はカーカスプライ4の少なくとも一方に設ける工程と、カーカスプライ4の端部に配置したビードフィラ11を、ステッチャ等の押さえ具Stによりタイヤ幅方向内側WD1となる方向に折り曲げながらカーカスプライ4に接合する工程とを含む。
【0035】
このように、ビードフィラ11のうちカーカスプライ4と接合されるタイヤ幅方向内側面11aに、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5がタイヤ周方向CDに沿って複数形成されているので、エア抜き溝5を介してエアを適切に抜くことができ、エア入りを低減できる。加えて、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aとカーカスプライ4との間に、接着層が介在する領域Ar1と介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに沿って交互に配置されているので、接着層によりカーカスプライ4とビードフィラ11とを的確に接着できるとともに、接着層を介在しない領域Ar2によりエアを抱き込んでしまうおそれがなくなり、エア入りを低減できる。それでいて、接着層が全面に設けられるわけではないので、接着力が過度になりすぎず、取り扱いやすく生産性を向上させることができる。同時に、重量やコストも抑制することができる。
したがって、生産性悪化、コスト増大及び重量増大を回避しつつ、ビードフィラ11とカーカスプライ4との的確な接合と、両者間へのエア入りの低減とを両立することが可能となる。
【0036】
さらに、本実施形態では、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側面11aのうち少なくとも根本部には、タイヤ周方向CDに延びる周溝6がタイヤ径方向RDに沿って複数形成されている。この構成によれば、ビードフィラ11がタイヤ幅方向内側WD1に向かって倒れやすくなり、ドラム形状に沿い、根本から先端に向けて順に接着でき、エア入りを抑制できる。また、適切に押圧できるので、的確に接合可能となる。
【0037】
[他の実施形態]
一般的に、ドラムDrを回転させた状態でステッチャ等の押さえ具Stをビードフィラ11の根本側から先端側に徐々に移動させるので、ステッチャ等の押さえ具Stは、ビードフィラ11の根本側から先端側に向けて螺旋状の経路を辿ることになる。そこで、
図5(a)に示すように、エア抜き溝5を、タイヤ径方向RDに対して傾斜させることが好ましい。特に、エア抜き溝5は、押さえ具Stの進み方向に沿って傾斜しているのが好ましい。このようにすれば、タイヤ径方向RDに対して傾斜していない場合に比べて、エア抜き溝5がステッチャ等の押さえ具Stの経路に沿うことにより、効果的なエア抜きを実現することが可能となる。ただし、エア抜き溝5のタイヤ径方向RDに対する傾斜角度が大きくなり過ぎると、排気経路が長くなり過ぎ、排気性能が損なわれるおそれがあるので、傾斜角度αは、α≦30°とするのが好ましい。なお、エア抜き溝5は、
図5(a)に示すように円弧などの曲線で形成されていてもよく、直線状でもよく、直線と曲線との組み合わせでもよい。一方、
図3(b)に示す本実施形態のように、エア抜き溝5は、タイヤ径方向RDに傾斜していなければ、エア抜き溝5で形成される排気経路を最短にすることができ、ステッチャ等の押さえ具Stの経路によってはエア抜き効果を向上させることが可能となる。
【0038】
本実施形態では、
図4に示すように、接着層が介在する領域Ar1と接着層が介在しない領域Ar2との界面brは、タイヤ径方向RDに対して傾斜していないので、ステッチャ等の押さえ具Stが界面br(段差)を乗り越えるときに、ステッチャ等の押さえ具Stのうち界面brを同時に通過する部位が大きく、押さえ具Stの浮きが大きくなる。そこで、
図5(b)に示すように、上記界面brをタイヤ径方向RDに対して傾斜させているのが好ましい。特に、上記界面brは、押さえ具Stの進み方向に沿って傾斜しているのが好ましい。このようにすれば、ステッチャ等の押さえ具Stのうち界面brを同時に通過する部位を少なくでき、押さえ具Stの浮きを抑制して、ステッチャ等の押さえ具Stによる的確な押さえが可能となる。したがって、押さえ具Stの適切な押圧によりエア抜きを向上でき、且つ、両者を的確に接合できる。上記界面brは、
図5(b)に示すように円弧などの曲線で形成されていてもよく、直線状でもよく、直線と曲線との組み合わせでもよい。
【0039】
本実施形態では、
図3(c)に示すように、エア抜き溝5は、深さ及び幅が共に一定であるが、
図6(a)に示すように、タイヤ径方向内側RD1(根本側)からタイヤ径方向外側RD2(先端側)に向けて、溝幅又は溝深さの少なくとも一つを変化させてもよい。
図6(a)の例では、エア抜き溝5の幅は一定であるが、深さを根本側から先端側に向かうにつれて浅くしている。根本部における溝深さd4は1.0mmである。この構成によれば、ビードフィラ11の厚み等の寸法に応じて溝幅又は溝深さを変化させることで、エア入りの効果的な低減と軽量化とを両立する設計が可能となる。
【0040】
本実施形態では、
図3(d)に示すように、周溝6は、深さ及び幅が共に一定であるが、
図6(b)に示すように、タイヤ径方向内側RD1(根本側)からタイヤ径方向外側RD2(先端側)に向けて、溝幅又は溝深さの少なくとも一つを変化させてもよい。この構成によれば、ビードフィラは、厚みや折り曲げ部位に応じて倒れ込み方が異なるため、倒れ込み態様に応じて溝幅又は溝深さを変化させることで、ビードフィラの倒れ込み時のシワを適切に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0041】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、下記比較例、従来例および実施例について下記の評価を行った。
【0042】
(1)エア入り発生
所定数製作した加硫後のタイヤのうちエア入りが発生した本数の割合を指数化した。比較例1の結果を100として指数で示し、数値が小さいほどエア入りの発生が少ないことを示す。
【0043】
従来例
接着層、エア抜き溝、及び周溝のいずれも設けずに、タイヤを製作した。
【0044】
比較例1
従来例に対し、ビードフィラのタイヤ幅方向内側となる面の全面に接着層を設け、タイヤを製作した。それ以外は、従来例と同じとした。
【0045】
比較例2
従来例に対し、ビードフィラのタイヤ幅方向内側となる面に、タイヤ径方向に延びるエア抜き溝を設け、タイヤを製作した。タイヤ周方向に延びる周溝及び接着層は設けていない。それ以外は、従来例と同じとした。
【0046】
比較例3
従来例に対し、ビードフィラのタイヤ幅方向内側となる面に、タイヤ周方向に延びる周溝を設け、タイヤを製作した。タイヤ径方向に延びるエア抜き溝及び接着層は設けていない。それ以外は、従来例と同じとした。
【0047】
実施例1
図3(c)及び
図4に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側WD1となる面11aに、タイヤ径方向RDに延びるエア抜き溝5をタイヤ周方向CDに沿って複数設けた。エア抜き溝5は、タイヤ径方向RDに対して傾斜していない(タイヤ径方向RDに対する角度が0°)。また、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側WD1となる面11aとカーカスプライ4とを接合した場合に、両者の間に接着層が介在する領域Ar1と介在しない領域Ar2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されるように、接着層をビードフィラ11に設け、タイヤを製作した。それ以外は、従来例及び比較例と同じとした。
【0048】
実施例2
図5(a)に示すように、実施例1のタイヤに対し、エア抜き溝5を、タイヤ径方向RDに対して30°傾斜させた。ステッチャ等の押さえ具Stの移動方向に沿って傾斜させている。また、
図5(b)に示すように、接着層が介在する領域Ar1と介在しない領域Ar2との界面をタイヤ径方向RDに対して傾斜させてある。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0049】
実施例3
実施例2に対し、
図3(d)に示すように、ビードフィラ11のタイヤ幅方向内側WD1となる面11aの根本部に、タイヤ周方向CDに沿って延びる周溝6を3つ設けた。周溝6の溝幅は1mm、溝深さは5mmでタイヤ周方向CDに沿って一定である。それ以外は実施例2と同じとした。
【0050】
実施例4
実施例3に対し、
図6(a)に示すように、タイヤ径方向RDにおいてエア抜き溝5の溝幅を一定に、エア抜き溝5の溝深さをタイヤ径方向に向かうにつれて浅くなるようにした。エア抜き溝5の根本端における溝深さd4は1.0mmである。エア抜き溝5は、タイヤ周方向CDに沿って5mm間隔をあけて複数配列している。それ以外は、実施例3と同じとした。
【0051】
実施例5
実施例4に対し、
図6(b)に示すように、タイヤ径方向外側RD2に向かうほど、周溝6の溝幅が広くなり、周溝の溝深さが浅くなるようにした。周溝は4つ設けられ、ビードフィラ11の根本から先端に向かって、溝幅が順に0.5mm、1.5mm、2.0mm、3.0mmに、溝深さが順に6.0mm、5.5mm、4.0mm、3.0mmに設定されている。それ以外は、実施例4と同じとした。
【0052】
【表1】
【0053】
表1より、実施例1〜5は、従来例及び比較例に対し、エア入り不良を低減できていることが分かる。
【0054】
実施例1と実施例2とを比較すれば、接着層の界面及びエア抜き溝について、タイヤ径方向RDに対して傾斜している方が、傾斜していない場合よりもエア入り不良を改善できることが分かる。
【0055】
実施例2と実施例3とを比較すれば、周溝を設けることで、エア入り不良を改善できることが分かる。
【0056】
実施例3と実施例4とを比較すれば、エア抜き溝の深さを可変にすることで、エア入り不良を改善できることが分かる。
【0057】
実施例4と実施例5とを比較すれば、周溝の幅、深さを可変にすることで、エア入り不良を改善できることが分かる。
【0058】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。