特許第5943807号(P5943807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943807
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】回転体の案内・固定構造及びバイス
(51)【国際特許分類】
   B23Q 16/10 20060101AFI20160621BHJP
   B23Q 1/28 20060101ALI20160621BHJP
   B23Q 1/52 20060101ALI20160621BHJP
   B25B 1/22 20060101ALI20160621BHJP
   F16B 2/16 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   B23Q16/10 C
   B23Q1/28 A
   B23Q1/52
   B25B1/22
   F16B2/16 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-231713(P2012-231713)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83603(P2014-83603A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228257
【氏名又は名称】日本オートマチックマシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清一
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭45−013288(JP,B1)
【文献】 実公昭47−031263(JP,Y1)
【文献】 特開2011−016194(JP,A)
【文献】 実開平04−063357(JP,U)
【文献】 米国特許第03455586(US,A)
【文献】 特開昭48−089485(JP,A)
【文献】 実公昭60−021577(JP,Y2)
【文献】 実開昭52−065764(JP,U)
【文献】 特公平03−003803(JP,B2)
【文献】 実公昭51−020946(JP,Y1)
【文献】 国際公開第2009/096348(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 16/10
B23Q 1/28
B23Q 1/52
B25B 1/22
F16B 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定構造であって、
前記ガイド体と前記回転体との間に溝が形成されており、
該溝に複数のボールが配置されており、
前記ボールに圧迫を加えて、前記ガイド体と前記回転体との間で前記ボールを突っ張らせる手段を備えるとともに、
前記溝が、前記回転体の回転軸方向に傾斜したテーパ部分を含むことを特徴とする回転体の案内・固定構造。
【請求項2】
ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定構造であって、
前記ガイド体と前記回転体との間には溝が形成されており、
該溝に複数のボールが配列されており、
該ボールの列を溝内に向けて押す手段を備えるとともに、
前記溝が、前記回転体の回転軸方向に傾斜したテーパ部分を含むことを特徴とする回転体の案内・固定構造。
【請求項3】
前記溝が円環状であって、前記回転体の回転軸方向に離れて複数の溝が形成されており、各溝に複数のボールが配列されていることを特徴とする請求項1又は2記載の回転体の案内・固定構造。
【請求項4】
前記回転体及びガイド体に、前記回転体の回転軸に交差する面で当接する部分が存在し、
前記テーパ部分が、前記当接面から離れるにしたがって、前記回転軸から遠くなる方向に傾斜していることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の回転体の案内・固定構造。
【請求項5】
前記溝が、前記回転体又は前記ガイド体のいずれか一方に形成されたテーパ溝と、何れか他方に形成された方形溝との組合せであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の回転体の案内・固定構造。
【請求項6】
前記回転体が前記ガイド体と嵌合しており、
嵌合時の外側にある前記回転体又はガイド体の側面又は端面から、前記溝に至る貫通孔が開けられており、
該貫通孔に、前記ボール押し手段が挿入されていることを特徴とする請求項2〜のいずれか1項に記載の回転体の案内・固定構造。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の回転体の案内・固定構造を有するバイス。
【請求項8】
ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定方法であって、
前記ガイド体と前記回転体との間に、前記回転体の回転軸方向に傾斜したテーパ部分を含む溝を形成し、
該溝に複数のボールを配置し、
前記ボールに、前記溝の周方向への圧迫を加えて、前記ガイド体と前記回転体との間で前記ボールを突っ張らせ、前記回転体を前記ガイド体に対して固定することを特徴とする回転体の案内・固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える、回転体の案内及び固定構造及び方法に関する。特には、工作物(ワーク)の回転割り出しに使用されるロック構造に関する。さらには、このロック構造を有するバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
工作物(ワーク)に、所定の角度関係を有する複数箇所の加工を施す際には、ワークが保持された円テーブルやチャックを、ガイド体に対して回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替えることのできるロック構造を備えたバイスが使用される。このようなロック構造には、ワークが全長に渡って同軸上で回転するか(同軸度)や、ロック状態とゆるめ状態を切り替えた場合における、回転体の振れが小さいこと、が要求される。
【0003】
図8は、一般的なロック構造を有するバイスの構造を示す側断面図である。
このバイス100は、ワークが保持される回転体110(シャフト)と、回転体110を回転可能に案内するガイド体130(ホルダー)とを有する。この例では、ワークを保持するチャック3が回転体110の上面に固定されている。
【0004】
回転体110は、チャックが固定される円テーブル部111と、ガイド体130に嵌合する軸部113とを有する。軸部113の高さ方向の中央付近には、小径部114が形成されている。
ガイド体130の中心には、回転体110の軸部113が嵌合する軸孔131が開けられている。また、ガイド体130の側面から軸孔131に至る、回転軸に直交する方向に貫通する横孔133が開けられている。この横孔133は、回転体110の軸部113が、ガイド体130の貫通孔131に嵌合した際の、軸部113の小径部114に開口するように位置している。この横孔133には、ロックネジ140が螺合している。回転体110をガイド体130に嵌合させた状態でロックネジ140を締めると、同ネジ140の先端が回転体110の軸部113の小径部114に圧接されて、軸部113、すなわち、回転体110が回転不能にロックされる。ロックネジ140を緩めると、同ネジ140が軸部113から離れ、回転体110は回転可能となる。
【0005】
このようなロック機構は、回転体110を回転させた際の同軸度を良くするために、ガイド体130の貫通孔131や、回転体110の小径部114の外面の加工精度(真円度)とともに、両面間の隙間を小さくする必要がある。ただし、あまり隙間を小さくすると、回転体を回転させる際に大きな抵抗となり、回転しづらくなるという問題がある。一方、両面間の隙間を大きくすると、回転体をロックネジで締めた際に回転体の振れが大きくなるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであって、ロック状態とゆるめ状態を切り替えた場合にも、回転体の振れが小さい、回転体の案内・固定構造及び方法を提供することを目的とする。さらに、高精度であるにも関わらず加工費を低減できる回転体の案内・固定構造及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のベースとなる回転体の案内・固定構造は、 ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定構造であって、 前記ガイド体と前記回転体との間に溝が形成されており、 該溝に複数のボールが配置されており、 前記ボールに圧迫を加えて、前記ガイド体と前記回転体との間で前記ボールを突っ張らせる手段を備えることを特徴とする。
【0008】
ボールに圧迫を加えてガイド体と回転体との間でボールを突っ張らせることにより、ガイド体と回転体との間に、ボールを介しての押し付け力を発生させ、両者を回転不能な状態とすることができる(固定状態、ロック状態)。ボールへの圧迫を解除すれば、上記押し付け力がなくなって、ボールが回転しやすくなり、回転体が回転可能あるいは回転容易となる(非固定状態、ゆるめ状態)。ボールの圧迫をある程度加えることにより、適当な抵抗感の得られる状況下で回転体の角度を調整することもできる。
【0009】
ボールが収容される溝を、回転体の回転軸の全周に沿って設ければ、回転軸に対してほぼ均等な間隔で、ほぼ均等な力を与えることができるので、保持されるワークの同軸度の再現性を得やすくなる。
【0010】
本発明の回転体の案内・固定構造のより具体的な態様は、 ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定構造であって、 前記ガイド体と前記回転体との間には溝が形成されており、 該溝に複数のボールが配列されており、 該ボールの列を溝内に向けて押す手段を備えることを特徴とする。
【0011】
案内・固定構造をロックする手段として、一部のボールを、例えばネジの頭等で押す手段をとることができる。この場合、溝内に、ある程度のクリアランスをもって列状などの形態で配列されているボール群を溝の中に向けて押すと、各ボールは移動可能な方向に押されて、その結果、ボールが、溝の壁に圧接して移動不能となり、ガイド体と回転体との間で回転不能の状態となる。
【0012】
本発明の回転体の案内・固定構造を、バイスのような工作物(ワーク)保持装置・回転割り出し装置に用いる場合には、ロック状態とゆるめ状態を切り替える際における、回転体の振れが小さいことが求められる。加工や検査などの高精度の位置決め・回転を必要とする場合も同様である。そのような高精度用途には、ボールの真球度や溝の真円度などを高める必要がある。なお、バイスに用いた場合の構造と、各部の寸法の精度例については後述する。
【0013】
一方、上記の部分以外、例えば回転体とガイド体との嵌合部については、それほど高精度とする必要はない。これらの部分の面積は、比較的広いので、高精度に加工すると加工費が高額になる。本発明においては、高精度加工しなければならない部分の面積が狭くなるので、結果的に加工費が安くなる。なお、ボールについては、ボールベアリング用などとして、高精度なものが比較的安価に市販されている。
【0014】
本発明においては、 前記溝が円環状であって、前記回転体の回転軸方向に離れて複数の溝が形成されており、各溝に複数のボールが配列されていることとしてもよい。
【0015】
本発明においては、回転体を、回転軸方向に離れた複数の溝のボール群(列)で支えるので、回転体の回転軸に直交する方向の倒れも少ない状態とすることができる。なお、この場合は、回転体とガイド体との嵌合部は、溝部を除いて一般的な精度の加工ですむ。
【0016】
本発明においては、 前記溝が、前記回転体の回転軸方向に傾斜したテーパ部分を含むことが好ましい。
【0017】
ボールから溝テーパ部にかかる力は、回転軸に直交する方向の成分とともに、回転軸方向の成分を有しているので、回転体に、回転軸に沿う方向(上方向、下方向)の力も加えることができ、回転軸方向にも強く固定することができる。例えば、軸方向において、回転体をガイド体に対して引き込む(押し付ける)、あるいは、ガイド体から引き離す方向に力を加えることができる。
【0018】
本発明においては、 前記回転体及びガイド体に、前記回転体の回転軸に交差する面で当接する部分が存在し、 前記テーパ部分が、前記当接面から離れるにしたがって、前記回転軸から遠くなる方向に傾斜していることが好ましい。
【0019】
回転体及びガイド体に、前記回転体の回転軸に交差する(例えば直交する)面で当接する部分(図1図6における、回転体10の円テーブル部11の下面とガイド体30の上端面)が存在する場合、テーパ部分を、回転軸方向において当接面から離れるにしたがって、回転軸から遠くなる方向に傾斜させれば、回転体の当接面をガイド体の当接面に押圧する力を加えることができる。したがって、回転体とガイド体とをより強固に固定することができる。詳しくは後述するように、図1図6のバイスにおいては、回転体10の円テーブル部11(フランジ部)の下面11aがガイド体30の上端面30aに押圧される。
【0020】
本発明においては、 前記溝が、前記回転体又は前記ガイド体のいずれか一方に形成されたテーパ溝と、何れか他方に形成された方形溝との組合せであることが好ましい。
【0021】
この場合、ボールが、回転体又はガイド体の一方に形成されたテーパ溝の奥側の壁と、もう一方に形成された方形溝の上側又は下側の壁とに圧接されるので、ボールを介した回転体とガイド体との押し付け力(回転軸方向の力を含む)を発生させやすい。
【0022】
本発明においては、 前記回転体が前記ガイド体と嵌合しており、 嵌合時の外側にある前記回転体又はガイド体の側面から、前記溝に至る貫通孔が開けられており、 該貫通孔に、前記ボール押し手段が挿入されていることとできる。
あるいは、 前記回転体が前記ガイド体と嵌合しており、 嵌合時の内側にある前記回転体又はガイド体の端面から、前記溝に至る貫通孔が開けられており、 該貫通孔に、前記ボール押し手段が挿入されていることとしてもよい。
【0023】
本発明のバイスは、上記に記載の回転体の案内・固定構造を有することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、保持されるワークを回転させたときの同軸度が高く、ロック・ロック解除時のワークの軸心の振れを少ないバイスを提供できる。
【0025】
本発明の回転体の案内・固定方法は、 ガイド体によって回転可能に案内されている回転体を、回転可能な状態と回転不能な状態とに切り替える回転体の案内・固定方法であって、 前記ガイド体と前記回転体との間に、前記回転体の回転軸方向に傾斜したテーパ部分を含む溝を形成し、 該溝に複数のボールを配置し、 前記ボールに、前記溝の周方向への圧迫を加えて、前記ガイド体と前記回転体との間で前記ボールを突っ張らせ、前記回転体を前記ガイド体に対して固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、ボールに圧迫を加えて、ガイド体と回転体との間にボールを介しての押し付け力を発生させ、両者を回転不能な状態とすることができる。ボールへの圧迫を解除すれば、押し付け力がなくなってボールが回転しやすくなり、回転体が回転可能あるいは回転容易となる。ボールの圧迫をある程度加えることにより、適当な抵抗感の得られる状況下で回転体の角度を調整することもできる。
また、ボールが収容される溝を、回転体の回転軸の全周に沿って設ければ、回転軸に対してほぼ均等な間隔で、ほぼ均等な力を与えることができるので、保持されるワークの同軸度の再現性を得やすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るロック構造を備えたバイスを示す図であり、図1(A)は正面図、図1(B)は一部縦断面図である。
図2図1のバイスの斜視図である。
図3図1のバイスのロック機構の溝及び該溝に収容されたボールの作用を説明する縦断面図であり、図3(A)はロック解除状態、図3(B)はロック状態を示す。
図4図1のバイスのロック機構の溝内に収容されたボールを説明する一部横断面図であり、図4(A)はロック解除状態、図4(B)はロック状態を示す。
図5】本発明の第2の実施の形態に係るロック構造を備えたバイスを示す一部縦断面図である。
図6】本発明の第3の実施の形態に係るロック構造を備えたバイスを示す図であり、図6(A)は一部縦断面図、図6(B)は図6(A)のB−B断面図である。
図7図6のバイスのロック機構の溝及び該溝に収容されたボールの作用を説明する縦断面図である。
図8】一般的なロック機構を備えたバイスの構造を示す一部縦断面図である。
【発明を実施するための良好な形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1図2を参照して、本発明の第1の態様に係るロック機構を備えたバイスの構造を説明する。図1(A)は、バイスの正面図、図1(B)は、一部断面図である。図2は、図1のバイスの斜視図である。この例では、回転体の回転軸が垂直の場合を説明する。
バイス1は、ワークが保持される回転体10(シャフト)と、回転体10を回転可能に案内するガイド体30(ホルダー)と、回転体10とガイド体30とのロック構造50を構成するロックネジ51及び複数のボール53と、を有する。この例では、ワークはチャック3に保持されて、このチャック3が回転体10の上面に固定されている。なお、説明では、図1図3等の上下方向を「上下」と呼ぶが、実際のバイスの姿勢は回転体10の回転軸を水平方向とする場合や、斜め、逆さ方向とする場合もある。
【0029】
回転体10は、チャック3が固定される円テーブル部11と、円テーブル部11よりも小径で、同テーブル部11と同軸上に延びる円筒状の軸部13とを有する。回転体10の軸心には、貫通孔15が開けられている。貫通孔15は上部の小径部と、下部の大径部とからなる。
【0030】
円テーブル部11の側面には、全周に渡って例えば3°刻みの目盛が記されている。軸部13の外周面の、高さ方向のほぼ中央には、環状の溝17が全周に渡って形成されている。溝17は、断面形状が逆三角形で、ほぼ水平な上壁と、回転軸方向において図の上から下へ広がるように傾斜したテーパ状の奥壁とを有する(溝の形状の詳細については後述する)。
【0031】
ガイド体30は、直方体の形状であり、軸心には、回転体10の軸部13が嵌合する貫通孔31が開けられている。貫通孔31の径は、回転体10の軸部13の径とほぼ同じであり、回転体10の軸部13はガイド体30の貫通孔31に嵌合して、回転軸Aに沿って回転する。軸部13が完全に貫通孔31に嵌合した状態で、回転体10の円テーブル部11の下面11aは、ガイド体30の上端面30aに当接する。ガイド体30の上面の一辺には、段部33が形成されている。この段部33には、回転体10の円テーブル部11の側面に記された目盛に対応する副尺35(バーニャ)が取り付けられている。
また、ガイド体30には、バイス1を加工機等への取り付けるためのボルトを通すザグリ孔37が開けられている。
【0032】
ガイド体30の貫通孔31の内周面の、高さ方向のほぼ中央部には、環状の溝41が全周に渡って形成されている。この溝41は、回転体10の軸部13がガイド体30の貫通孔31に嵌合した状態で、軸部13に形成されたテーパ状溝17に対向する位置に形成される。溝41は、断面形状が方形で、ほぼ水平な上壁及び下壁と、ほぼ垂直な奥壁とを有する(溝の形状の詳細については後述する)。また、ガイド体30の外周面から方形溝41に至る、回転軸Aに直交する方向に貫通するネジ孔43が開けられている。このネジ孔43に、回転体10をロック状態と解除状態とに切り替えるためのロックネジ51が螺合する。
【0033】
ガイド体30の方形溝41と回転体10の軸部13のテーパ状溝17とが対向して形成される環状の溝(以降環状溝という)内と、ガイド体30のネジ孔43内には、複数のボール53が配列される。ボール53は真球であり、径は、ガイド体30の溝41の深さ(奥行き)よりも大きく、同溝41の高さよりもやや小さい。この例では、環状溝に20個、ネジ孔43に2個のボールが配列される。ボール53は高精度(真球度)を求められるが、ボールベアリング用の剛球等を使用することができる。
【0034】
ガイド体30の下面には、貫通孔31と同軸の円筒状の凹部45が形成されている。回転体10の軸部13がガイド体30の貫通孔31に完全に嵌合すると、軸部13の下端はこの凹部45内に突き出る。この突き出た軸部13には、回転体10の抜け止めナット47が螺合している。ただし、この例では、回転体10の抜け止めのために、この抜け止めナット47は必ずしも必要ではない。また、突き出た軸部13に駆動ギアやウオームホイールを取り付けて、回転体10をこれらの機構で回転させるようにしてもよい。この凹部45は、カバー49で閉じられている。
【0035】
以下、回転体10及びガイド体30の溝17、41の位置関係とボール53と寸法例について図3(A)を参照して説明する。
前述のように、回転体10のテーパ状溝17は、断面形状が逆三角形で、ほぼ水平な上壁17aと、回転軸方向において、回転体10とガイド体30との当接面から離れる方向(この例では上から下方向に)に拡がるように傾斜したテーパ状の奥壁17bとを有する。ガイド体30の方形溝41は、断面形状が方形で、ほぼ水平な上壁41a及び下壁41bと、ほぼ垂直な奥壁41cとを有する。テーパ状溝17の高さH1は、方形溝41の高さH2よりも高く、方形溝41の上壁41aは、テーパ状溝17の上壁17aよりも低い位置にある。各溝等の寸法例を示す。
回転体10のテーパ状溝17の深さD1:2.4mm、
回転体10のテーパ状溝17の高さH1:9mm、
回転体10のテーパ状溝17の奥壁17bの垂直方向に対する角度θ:15°、
角度θは好ましくは10°〜30°、より好ましくは10°〜20°である、
ガイド体30の方形溝41の深さD2:3.8mm、
ガイド体30の方形溝41の高さH2:5.2mm、
回転体10の溝17の上壁17aとガイド体30の溝41の上壁41aとの差L1:0.4mm、
ボール53の径:5mm。
【0036】
次に、ロック解除動作とロック動作について、図3図4を参照して説明する。この例では、回転体10の回転軸が垂直の場合を説明する。
ロックネジ51が緩められてボール53に負荷がかかっていない状態においては、図3(A)と図4(A)に示すように、ボール53の回転軸Aから外側の約3/4以上の部分が方形溝41に収容され、内側の約1/4の部分がテーパ状溝17に収容されている。また、前述のような寸法の関係により、ボール53の高さ方向及び水平方向にクリアランスが存在する。一例として、図3(A)に示すように、ボール53が、方形溝41の下壁41bと奥壁41cに当接した状態で、ボール53と方形溝41の上壁41aとの間にクリアランスC1(例えば0.2mm)が存在し、ボール53とテーパ状溝17の奥壁17bとの間にクリアランスC2(例えば0.3mm)が存在する。あるいは、ボール53は、方形溝41の下壁41bと、テーパ状溝17の奥壁17bとに当接する場合もある。また、環状溝の周方向にもややクリアランスのある状態であると考えられる。つまり、各ボール53は環状溝内でフリーの状態であって回転可能であり、回転軸Aに近寄る方向への力が存在しないので、回転体10はガイド体30に対して回転可能となる。ここでは、図4に示すように、ネジ孔43に2個のボール53a、53bが収容され、溝17、41の、最もネジ孔43に近い部分に、ボール53c、53dが収容されているとする。
【0037】
ロックネジ51を締めると、図4(B)に示すように、ネジ孔43に収容されている外側のボール53aは、回転軸Aに近寄る方向(奥方向)に押される。そして、このボール53aの隣(奥側)のボール53bも、奥方向に押される。すると、ボール53bは、環状溝17、41内の、最もネジ孔43に近い部分に存在する53c、53dの間に割り込み、両側のボール53c、53dを環状溝17、41内に押し込む。その結果、環状溝17、41内のボール53は、周方向、径方向及び上下方向において、隣接するボールと溝の壁に押し付けられた(突っ張った)状態となる。つまり、前述のように、環状溝17、41に収容されているボール53は、高さ方向及び水平方向にクリアランスが存在するので、ボール53の各々は移動可能な方向に移動し、最終的には、ボール53が移動できない状態となる。具体的には、周方向においては、隣接するボールに圧接し、上下方向においては、方形溝41の上壁41a又は下壁41bに圧接し、径方向においては、方形溝41の奥壁41c又はテーパ状溝17の奥壁17bに圧接する。その結果、例えば、図4(B)に示すように、水平面において、ボール53が、方形溝41の奥壁41cとテーパ状溝17の奥壁17bとに交互に圧接すると考えられる。
【0038】
このうち、テーパ状溝17の奥壁17bに圧接されているボール53を考える。このボール53は、その両側のボールから奥方向へ押されて、テーパ状溝17の奥壁17bに押圧されている。この際、図3(B)に示すように、奥壁17bに垂直な方向への力F1が働く。奥壁17bはテーパ面であるため、その分力として、同壁に対して水平方向(回転軸Aへ近寄るの方向)の力F2と、回転軸Aの方向に下方向の力F3がかかる。なお、ボール53がテーパ状溝17の奥壁17b方向に押圧された場合も、ボール53のほとんどの部分は、方形溝41に収容されたままである。したがって、奥壁17bに対して垂直な方向(斜め下方向)への力F1の反力として、ボール53にはその反対方向(斜め上方向)の力F4がかかるが、この力F4により、ボール53は方形溝41の上壁41aに圧接される。
【0039】
つまり、回転体10とガイド体30間にボール53を介した押し付け力が発生し、この力により回転体10がガイド体30に対して、回転不能にロックされる。さらに、ボール53から回転体10の軸部13に対して、回転軸Aの方向に下方向の力F3がかかるので、回転体10は、回転軸Aの方向において下方向に引かれる。これにより、回転体10の円テーブル部11の下面11aが、ガイド体30の上端面30aに強く圧接されて固定される。これにより、前述の抜け止めナット47が不要となる。
【0040】
このロック機構においては、図3(B)に示すように、環状溝内のボール53が交互にテーパ状溝17の奥壁17bに圧接されている場合、回転体10の軸部13に全周からほぼ均等の間隔でほぼ均等の力がかかる。したがって、ロックとロック解除を繰り返しても、回転体10の軸心の振れを抑えることができ、再現性が得られる。
【0041】
また、ロックネジ51を押し込む力を変えることにより、ボール51が各溝の壁へ圧接する力を調整することができる。これにより、適当な抵抗感の得られる状況下で回転体10の角度を調整することもできる。
【0042】
高精度の位置決めを必要とする場合は、ボール53の真球度や溝17、41の真円度などを、例えば以下のように高める必要がある。
ボール53の真球度:±0.00013mm(一般購入品で±0.13μm)、
方形溝41の真円度:±0.01mm、
テーパ状溝17の真円度:±0.01mm、
方形溝41の同芯度:±0.01mm、
テーパ状溝17の同芯度:±0.01mm。
【0043】
ただし、上記の部分以外、例えば、回転体10とガイド体30との嵌合部については、高精度とする必要はない。これらの部分の面積は比較的広いので、高精度に加工すると加工費が高額になる。本発明においては、高精度加工しなければならない部分の面積は狭くなるので、結果的に加工費が安くなる。なお、ボールについては、ボールベアリング用などとして、高精度なものが比較的安価に市販されている。
【0044】
図5を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るロック機構を備えたバイスについて説明する。
この例のバイス1Aは、図1のバイス1のロック機構50が、回転体10の軸部13の高さ方向において離れた2ヶ所に設けられている。この例では、回転体10の軸部13を高さ方向に離れた2ヶ所でロックするので、回転体10の回転軸と直交する方向への倒れを少ない状態とすることができ、回転体10のガタつきもより低減される。さらしたがって、回転体10とガイド体30の嵌合部の加工精度を高める必要がなくなり、加工費をさらに低減できる。また、回転体10の円テーブル部11の下面とガイド体30の上面とが接触しなくてもロック状態とすることができる。
【0045】
図6を参照して、本発明の第3の実施の形態に係るロック機構を備えたバイスについて説明する。
この例のバイス1Bは、回転体10とガイド体30の主な構造は、図1のバイス1とほぼ同じであるが、この例では、回転体10に形成された溝17の形状が方形であり、ガイド体30に形成された溝41が三角形である。
【0046】
図7に示すように、回転体10の溝17は、図1の方形溝と同様に、断面形状が方形で、ほぼ水平な上壁及び下壁17bと、ほぼ垂直な奥壁とを有する。ガイド体30の溝41は、図1のテーパ状溝と上下逆の三角形で、回転軸方向において、回転体10とガイド体30との当接面から離れる方向(上から下方向に)に拡がるように傾斜したテーパ状の奥壁41cと、ほぼ水平な下壁とを有する。各溝の寸法や位置関係は、図1と同様である。
【0047】
また、この例のバイス1Bは、回転体10の溝17とガイド体30の溝41で形成される環状溝に収容されているボール53に緊張力を与えるロックネジ51が、ガイド体30の側面からではなく、回転体10の底面から螺合する。
【0048】
つまり、この例では、回転体10に、回転軸方向の貫通孔は開けられておらず、回転体10の軸部13の底面の中心から、溝17の高さ位置まで、回転軸Aと同軸に延びるネジ孔71が開けられているとともに、このネジ孔71の先端(奥端)から溝17に至る、回転軸Aと直交する方向に延びる横孔73が開けられている。水平面において、横孔73は、ネジ孔71の中心(回転軸A)を越えて延びている。横孔73の高さは、軸部13の方形溝41の高さとほぼ等しい。ネジ孔71の径は、ボール53の径よりも大きい。ボール53は、環状溝とともに、このネジ孔71と横孔73にも配列されている。また、ネジ孔71には、ロックネジ51が螺合している。
【0049】
ロックネジ51が緩められてボールに負荷がかかっていない状態においては、図1の例と同様に、回転体10はガイド体30に対して回転可能である。
【0050】
ロックネジ51を締めると、ネジ孔71内のボール53が上方向に押され、最も上側のボール53が横孔73内のボールの間に割り込む。すると、その両側のボール53は横孔73の中方向(奥方向)または環状溝へ向かう外方向に移動しようとする。図6(B)に示すように、このうち、環状溝の方向に押された、最も環状溝側のボール53´が、環状溝内のボール53の間に割り込む。これにより、その両側のボール53が環状溝の奥方向に移動する。そして、図1のロック構造と同様に、図6(B)に示すように、水平面において、ボール53が、溝41の奥壁と溝17の奥壁とに交互に圧接すると考えられる。
【0051】
この例でも、溝41の奥壁41cに圧接されているボール53は、その両側のボールから外方向へ押されている。この際、図7に示すように、奥壁41cに垂直な方向への力F1が働く。奥壁41cはテーパ面であるため、その分力として、同壁に対して水平方向(回転軸Aから離れる方向)の力F2と、回転軸Aの方向に上方向の力F3がかかる。そして、奥壁41cに対して垂直な方向(斜め上方向)への力F1の反力として、ボール53にはその反対方向(斜め下方向)の力F4がかかるが、この力F4により、ボール53は方形溝17の下壁17bに圧接される。つまり、ボール53は、溝17、41の壁に押し付けられるとともに、ボール53から回転体10に対して下方向の力がかかる。そして、この力により、回転体10の円テーブル部11の下面11aが、ガイド体30の上端面30aに強く圧接されてより強固に固定される。
【0052】
次に、図1のバイスと、図8に示した従来例のバイスにおいて、同軸度と、ロック時の振れを計測した結果の一例を説明する。
同軸度とは、基準軸線と同一直線上にあるべき軸線の、基準軸線からのずれの大きさを示すものである。ここでは、チャックにロッド状のワークを保持させ、バイスを水平面上に寝かせた状態で、ロック時のワークの根元から30mmと根元から10mmの位置の、水平面からの高さを計測する。次に、ロックを解除し、回転体を90°回転させて再度ロックし、同様に、ワークの先端と根元の、水平面からの高さを測定する。これを、回転体を初期状態から180°、270°及び360°回転させたときの、ワークの先端と根元の計測値の平均値を示す。
ロック時の振れとは、同様に、チャックにロッド状のワークを保持させ、バイスを水平面上に寝かせた状態で、完全のロックした状態と、回転体が回転可能な程度に予圧をかけた半ロック状態での、ワーク上のある部分の高さの差を示す。
【0053】
測定結果を表に示す。
【表1】

表に示すように、本発明においては、同軸度及びロック時の振れとも、従来品よりも高い精度が得られた。
【符号の説明】
【0054】
1 バイス 3 チャック
10 回転体(シャフト) 11 円テーブル部
13 軸部 15 貫通孔
17 溝
30 ガイド体(ホルダー) 31 貫通孔
33 段部 35 副尺
37 ザグリ孔 41 溝
43 ネジ孔 45 凹部
47 ナット 49 カバー
50 ロック構造 51 ロックネジ
53 ボール
71 ネジ孔 73 横孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8