【実施例1】
【0055】
本発明のレール絶縁短絡器用の電磁接触器に係る実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が電磁接触器70の要部機構41〜54,71に係る一部42〜44,47だけ断面の正面図、(b)が電磁接触器70の要部機構41〜54,71における伝動部48,53等の正面図とそのうちの二点鎖線楕円内部分の断面図、(c)が伝動部48,53等の右側面図とそのうちの二点鎖線楕円内部分の断面図である。
【0056】
この電磁接触器70が既述した電磁接触器40と相違するのは、可動鉄心47の頭部と主接点駆動部材52の従動側伝動部53植設部との間隙が少し広げられてそこに間隙保持部材71が追加された点である。
また、電磁接触器70では、既述した一般的な電磁接触器40に比べて、可動鉄心47の質量が軽量化されるとともに、接点保持弾性部材54の弾撥力が強化されている。
【0057】
間隙保持部材71は、例えば平ワッシャ状の板体で中央に穴が開いており、その穴に遊挿された従動側伝動部53によって可動鉄心47と主接点駆動部材52との間に保持されるが、両部材47,52の間隙が可動鉄心47の両側に存在するので、両間隙に一つずつ配設されている。間隙保持部材71が両部材47,52と強く擦れないよう、両部材47,52の間隙より間隙保持部材71は少し薄く形成されており、数値例を挙げると間隙が2mmで間隙保持部材71の厚みが1.5mmである。また、間隙保持部材71は、安価な真鍮や加工容易な快削黄銅といった非鉄材から作られて、非磁性であるとともに、鉄が主材の可動鉄心47や主接点駆動部材52より柔らかい低硬度のものとなっている。
【0058】
この実施例1のレール絶縁短絡器用の電磁接触器70について、その動作等を、図面を引用して説明する。
図2(a)〜(c)は、何れも、左側が電磁接触器70の要部機構41〜54,71の右半分に係る一部42〜44,47だけ断面の正面図であり、右側が電磁接触器70の要部機構41〜54,71に係る一部42〜44,47だけ断面の右側面図である。
【0059】
ここでも、二つの主接点のうち開いている方を対象にして切替動作をみると、対象側では、主接点駆動部材52の揺動部も、その従動側伝動部53に駆動側伝動部48が係合している可動鉄心47も、上がっていて(
図2(a)参照)、主接点駆動部材52の揺動端部が接点保持弾性部材54によって上向き付勢されるので、対象の主接点は開状態を維持する。その状態で、対象側の電磁コイル42に駆動電流が投入されると、電磁力によって可動鉄心47が下げられ、それに引かれて主接点駆動部材52の揺動部も下降し始める。接点保持弾性部材54の上向き付勢力が強化されているが、間隙保持部材71の導入によって可動鉄心47と主接点駆動部材52との摩擦力が低減されていて、電磁力の減殺要因の総和はさほど増えないので、電磁力によって可動鉄心47が下降し続け、随伴して主接点駆動部材52も揺動し続ける。
【0060】
揺動が継続されると、やがて主接点駆動部材52の対象側が上向きから下向きに転じるとともに、接点保持弾性部材54の付勢力も上向きから下向きに転じ、この付勢力が今度は主接点駆動部材52の揺動を加速するが、付勢力が強化されるとともに可動鉄心47が軽量化されたうえ摩擦力が低減されているので、主接点駆動部材52の揺動は急加速される。そして、可動鉄心47の駆動側伝動部48と主接点駆動部材52の従動側伝動部53との係合には遊びがあるため、対象側の主接点が閉じる前に可動鉄心47が止め部材43に当接し(
図2(b)参照)、主接点駆動部材52の揺動部が下がりきる前に可動鉄心47が下がりきって止まる。
【0061】
主接点駆動部材52の軽量化によって主接点駆動部材52の慣性力は低下するが、その一方で軽量化により主接点駆動部材52の揺動が高速になることと、接点保持弾性部材54の強化や摩擦力の低減によって接点駆動部材52の揺動が更に高速になることとが相まって、慣性力の低下が抑制されるとともに慣性力の対向力が低減されるので、主接点駆動部材52は安定して確実に慣性で揺動運動を続ける。そして、主接点駆動部材52の揺動部が下降するほど、強化された接点保持弾性部材54の下向き付勢力が増すので、主接点駆動部材52の揺動部が下がりきったときには対象側の主接点が強く当接して閉じる(
図2(c)参照)。それから、強化された接点保持弾性部材54の下向き付勢力によって主接点の接触圧力・押圧力が強く維持されるので、大電流による酸化膜等の破壊が加わるまでもなく機械的当接だけで主接点の接触抵抗ひいては電圧損失が十分に小さくなる。
【0062】
大電流切替用の一般的な電磁接触器が元になっているが接点保持弾性部材54を強化し可動鉄心47を軽量化した電磁接触器40の場合、切替動作不良の発生頻度は1回/1万6千回であった。
これに対し、本発明の電磁接触器70の場合、切替動作不良の発生頻度は0回/ 5万回であった。
このように、電磁接触器70は、安定して切り替わる。しかも、主接点の接触抵抗が電気車電流の通電に適うとともに軌道回路信号電流の通電にも適う抵抗値にまで小さくなっている。
【実施例2】
【0063】
本発明のレール絶縁短絡器と軌道回路切替システムに係る実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図3は、上述の電磁接触器70を一対用いたレール絶縁短絡器70,70と、そのレール絶縁短絡器70,70を複数用いた軌道回路切替システム80とに係る記号図であり、
図4は、複数の電磁接触器70に係る切替信号の結線図である。
【0064】
この軌道回路切替システム80は(
図3参照)、在来線と新幹線とを併用可能にしたものであり、既存の在来線の設備から引き継いだものとして、在来線の複条軌道11,12をなす一対の既設レール11及び既設レール12と、在来線の既設レール11,12に対して介挿設置され図示の例では軌道回路区間2T,3Tの境界と軌道回路区間3T,4Tの境界と軌道回路区間4T,5Tの境界との三カ所に設置された既設レール絶縁14,14と、三カ所のうち中央すなわち軌道回路区間3T,4Tの間の既設レール絶縁14,14の所で既設レール11,12に接続された軌道回路境界設備25と、三カ所のうち両側二カ所すなわち軌道回路区間2T,3Tの間と軌道回路区間4T,5Tの間の既設レール絶縁14,14の所で既設レール11,12に接続された軌道回路境界設備23,23と、各軌道回路区間2T〜5Tにおいて既設レール11,12に接続されて軌道回路信号を送受信する複数・多数の既設TD送信器21及び既設TD受信器22とを具備している。
【0065】
また、軌道回路切替システム80は、新幹線用に追加設置された設備として、上述した三カ所のうち中央すなわち軌道回路区間3T,4Tの間の既設レール絶縁14,14の上方の電車線10(10a,10b,10c)に設けられた新幹線のき電区分の切替セクションと、この切替セクションで電車線10に接続されて電気車電流の電源を切り替える切替開閉器30と、在来線軌道11,12の一方の既設レール11を共用することで新幹線の複条軌道11,13をなす新設レール13と、上述した中央の既設レール絶縁14,14の両側で具体的には軌道回路区間23T,34Tの境界と軌道回路区間34T,45Tの境界との二カ所で既設レール11,12及び新設レール13に介挿設置された新設レール絶縁17,17,17とを具備している。
【0066】
さらに、軌道回路切替システム80は、昼間などには在来線で営業運行が行われるが夜間などには新幹線で試験運行が行われるのに対応して、何れの運行も行われない運行休止時に、在来線用の軌道回路区間2T〜5Tの区間割と新幹線用の軌道回路区間23T,34T,45Tの区間割とを切り替えることと、帰線15による帰線電流を吸い上げ箇所を在来線の軌道回路区間3T,4Tの境界一カ所と新幹線の軌道回路区間23T,34Tの境界および軌道回路区間34T,45Tの境界二カ所とを切り替えることも行うために、軌道回路区間23T,34Tの境界の新設レール絶縁17,17,17の所には軌道回路境界設備81が付設され、軌道回路区間3T,4Tの境界の既設レール絶縁14,14の所には軌道回路境界設備82が付設され、軌道回路区間34T,45Tの境界の新設レール絶縁17,17,17の所には軌道回路境界設備83が付設されている。
【0067】
軌道回路境界設備82は、在来線から引き継いだ上述の軌道回路境界設備25に加え、新設された二組のレール絶縁短絡器を具備していて、中央の既設レール絶縁14,14すなわち軌道回路区間3T,4Tの境界の既設レール絶縁14,14の短絡解放を切り替えるようになっている。上記二組のレール絶縁短絡器のうち、既設レール11の既設レール絶縁14に対応したレール絶縁短絡器70,70は、一対の電磁接触器70,70を具備しており、そのうち一方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが既設レール絶縁14の軌道回路区間3T側で既設レール11に接続され、常閉の第1開閉端子40aが軌道回路境界設備25の軌道回路区間3T側のインピーダンスボンドZBの一次巻線の一端に接続されており、他方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが既設レール絶縁14の軌道回路区間4T側で既設レール11に接続され、常閉の第1開閉端子40aが軌道回路境界設備25の軌道回路区間4T側のインピーダンスボンドZBの一次巻線の一端に接続されており、何れの電磁接触器70も、常開の第2開閉端子40bが相方の第2開閉端子40bと互いに短絡接続されている。このようなレール絶縁短絡器の電磁接触器70,70は、何れも、それぞれの常閉の第1開閉端子40aがインピーダンスボンドZBの一次巻線の半分に相当する巻線(帰線電流吸上用リアクトル)を介して帰線15に接続されたものとなっている。
【0068】
また、軌道回路境界設備82における上記二組のレール絶縁短絡器のうち、既設レール12の既設レール絶縁14に対応したレール絶縁短絡器70,70も、やはり一対の電磁接触器70,70を具備しており、そのうち一方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが既設レール絶縁14の軌道回路区間3T側で既設レール12に接続され、常閉の第1開閉端子40aが軌道回路境界設備25の軌道回路区間3T側のインピーダンスボンドZBの一次巻線の他端に接続されており、他方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが既設レール絶縁14の軌道回路区間4T側で既設レール12に接続され、常閉の第1開閉端子40aが軌道回路境界設備25の軌道回路区間4T側のインピーダンスボンドZBの一次巻線の他端に接続されており、何れの電磁接触器70も、常開の第2開閉端子40bが相方の第2開閉端子40bと互いに短絡接続されている。このようなレール絶縁短絡器の電磁接触器70,70も、常閉の第1開閉端子40aがインピーダンスボンドZBの一次巻線の半分に相当する巻線(帰線電流吸上用リアクトル)を介して帰線15に接続されたものとなっている。
【0069】
軌道回路境界設備81,83は設置箇所が異なるだけで同一構造・同一機能のものなので、一方の設備81だけ詳述するが、軌道回路境界設備81は、新設された三組のレール絶縁短絡器と六個の帰線電流吸上用リアクトルL(前述の軌道回路境界設備27に相当)とを具備していて、左方の新設レール絶縁17,17,17すなわち軌道回路区間23T,34Tの境界の新設レール絶縁17,17,17の短絡解放を切り替えるようになっている。なお、帰線電流吸上用リアクトルLは、何れも、インピーダンスボンドZBの一部ではないがインダクタンス値が既述したインピーダンスボンドZBの一巻線の半分のインダクタンスに相当するリアクトル(コイル,インダクタンス部材)であり、一端が帰線15に接続されている。インピーダンスボンドZBでは不平衡を生じるためである。
【0070】
軌道回路境界設備81における上記三組のレール絶縁短絡器のうち、既設レール11の新設レール絶縁17に対応したレール絶縁短絡器70,70も、一対の電磁接触器70,70を具備しているが、そのうち一方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間23T側で既設レール11に接続され、常開の第1開閉端子40aが一つの帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、他方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間34T側で既設レール11に接続され、常開の第1開閉端子40aが他の帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、何れの電磁接触器70も、常閉の第2開閉端子40bが相方の第2開閉端子40bと互いに短絡接続されている。
【0071】
軌道回路境界設備81における上記三組のレール絶縁短絡器のうち、既設レール12の新設レール絶縁17に対応したレール絶縁短絡器70,70も、やはり一対の電磁接触器70,70を具備しており、そのうち一方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間23T側で既設レール12に接続され、常開の第1開閉端子40aが一つの帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、他方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間34T側で既設レール12に接続され、常開の第1開閉端子40aが他の帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、何れの電磁接触器70も、常閉の第2開閉端子40bが相方の第2開閉端子40bと互いに短絡接続されている。
【0072】
軌道回路境界設備81における上記三組のレール絶縁短絡器のうち、新設レール13の新設レール絶縁17に対応したレール絶縁短絡器70,70も、やはり一対の電磁接触器70,70を具備しており、そのうち一方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間23T側で新設レール13に接続され、常開の第1開閉端子40aが一つの帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、他方の電磁接触器70は、共通接続端子40cが新設レール絶縁17の軌道回路区間34T側で新設レール13に接続され、常開の第1開閉端子40aが他の帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続されており、何れの電磁接触器70も、常閉の第2開閉端子40bが相方の第2開閉端子40bと互いに短絡接続されている。
【0073】
このように軌道回路境界設備81,83のレール絶縁短絡器の電磁接触器70,70は解放用の第1開閉端子40aが常開すなわち定常営業時に開状態になっているとともに短絡用の第2開閉端子40bが常閉すなわち定常営業時に閉状態になっているのに対し、軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器の電磁接触器70,70は解放用の第1開閉端子40aが常閉で短絡用の第2開閉端子40bが常開になっているので、既設レール絶縁14,14に係る軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器と新設レール絶縁17,17,17に係る軌道回路境界設備81,83のレール絶縁短絡器とは短絡と解放とを逆に行う。具体的には、図示しない制御装置から与えられる切替信号に応じて、定常営業の在来線運行時には新設レール絶縁17,17,17を短絡するとともに既設レール絶縁14,14を解放し、定常営業でなく試験である新幹線運行時には新設レール絶縁17,17,17を解放して既設レール絶縁14,14を短絡するようになっている。また、短絡箇所ではそこのレールを帰線15から切り離し、解放箇所ではそこのレールを帰線電流吸上用リアクトルL経由で帰線15に繋ぐようにもなっている。
【0074】
さらに、何れの電磁接触器70も、既述の一般的な電磁接触器40と同じく主接点駆動部材52と遊びを持って係合している可動鉄心47の電磁駆動に応動して主接点駆動部材52が双方向に揺動することにより主接点が交互に開閉するとともに何れの揺動限界でも接点保持弾性部材54の弾撥力によって主接点駆動部材52の姿勢が維持される双投双刃形の接点機構部を有したものであることや、可動鉄心47は電磁接触器40の可動鉄心と同様であるが主接点駆動部材52が電磁接触器40の主接点駆動部材より軽量化されていること、接点保持弾性部材54の弾撥力が電磁接触器40の接点保持弾性部材より強化されていること、その軽量化と弾撥力強化とによって主接点の接触抵抗が電気車電流の通電時にも軌道回路信号電流の通電時にも十分に小さくなっていること、主接点駆動部材52と可動鉄心47との係合部に両者の何れよりも柔らかい非磁性の間隙保持部材71,71が配設されたことにより主接点駆動部材52と可動鉄心47との間隙が間隙保持部材71の厚み以上に維持されるとともに主接点駆動部材52および可動鉄心47と間隙保持部材71との摩擦面で擦れ合う部材に硬度差が確保されていることは、上述の通りである。
【0075】
また(
図4参照)、この軌道回路切替システム80では、多数の電磁接触器70が、何れも、それぞれの主接点に随伴して交互に開閉する補助接点56,57(
図12(b)で示した補助接点A1A2,A3A4,A5A6,A7A8,B1B2,B3B4,B5B6,B7B8のうち何れか二つに相当)を具備したものであり、さらに電磁駆動用電力として交流AC100Vが投入されるが、第1電磁コイル42aへの電磁駆動用電力投入ラインは第1切替信号入力端子55a経由の信号によって開閉され、第2電磁コイル42bへの電磁駆動用電力投入ラインは第1切替信号入力端子55a経由の信号によって開閉されるようになっている。
【0076】
そのような多数の電磁接触器70のうち少なくとも一つは(
図4では左側の電磁接触器70)、それの第1切替信号入力端子55a及び第2切替信号入力端子55bに、図示しない制御装置から送られてきた切替信号を入力することで、電磁駆動用電力投入ラインが直接的に切替信号に従って開閉される。また、他の電磁接触器70は(
図4では右側の電磁接触器70)、それの第1切替信号入力端子55a及び第2切替信号入力端子55bに、上記の電磁接触器70(
図4では左側の電磁接触器70)の補助接点57及び補助接点56の開閉状態に対応した信号を入力することで、電磁駆動用電力投入ラインが間接的に切替信号に従って開閉される。これにより、軌道回路切替システム80における多数の電磁接触器70も、軌道回路切替システム80に含まれる幾つかのレール絶縁短絡器において対をなす電磁接触器70も、連動して開閉するものとなっている。
【0077】
この実施例2の軌道回路切替システム80について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
図5,
図6は在来線運行時の電気車電流(矢付き波線)と軌道回路信号電流(矢付き点線)との経路を示す記号図であり、
図7,
図8,
図9は、新幹線運行時の電気車電流(矢付き波線)と軌道回路信号電流(矢付き点線)との経路を示す記号図である。各図の軌道回路境界設備81,82,83については、電磁接触器70の切替状態による電流経路の変化を明示するため、帰線電流(電気車電流)や軌道回路信号電流を流せる経路は実線で示し、帰線電流や軌道回路信号電流を流せない経路は点線で示した。
【0078】
在来線の営業運行時は(
図5,
図6参照)、切替信号の指示に応じてそれを直接的に受ける電磁接触器70が軌道回路境界設備81,83では新設レール絶縁17を短絡するように切り替わり軌道回路境界設備82では既設レール絶縁14を解放し且つその両側の既設レール11,12を軌道回路境界設備25のインピーダンスボンドZBの一次巻線に接続するように切り替わる。そして、その電磁接触器70の補助接点56,57を介して切替信号の指示を間接的に受ける他の電磁接触器70も、順次、同様に切り替わる。電磁接触器70の切替は実施例1で述べたように安定して行われ、切替後は大電流の帰線電流も小電流の軌道回路信号電流も低損失で安定に流せる状態になる。
【0079】
総ての電磁接触器70が在来線運行側に切り替わると、既設レール11でも既設レール12でも新設レール13でも新設レール絶縁17が軌道回路境界設備81,83のレール絶縁短絡器70,70によって短絡される一方、既設レール11,12の既設レール絶縁14,14が軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器70,70によって解放されるとともに、既設レール絶縁14,14の所では両側(軌道回路区間3T側と軌道回路区間4T側)で既設レール11,12が軌道回路境界設備25のインピーダンスボンドZBの一次巻線の両端に分かれて接続された状態になる。
【0080】
この状態は、既設レール11,12からなる在来線軌道11,12について見ると、既述した在来線だけの状態と同じである(
図10参照)。すなわち(
図5,
図6参照)、中央の既設レール絶縁14,14と左方の既設レール絶縁14,14とその間の既設レール11,12とその両端のインピーダンスボンドZBとで軌道回路区間3Tが画成されて、そこの在来線軌道11,12に接続された既設TD送信器21と既設TD受信器22等で送受信される軌道回路信号電流が軌道回路区間3Tを循環するとともに、中央の既設レール絶縁14,14と右方の既設レール絶縁14,14とその間の既設レール11,12とその両端のインピーダンスボンドZBとで軌道回路区間4Tが画成されて、そこに接続された既設TD送信器21と既設TD受信器22等で送受信される軌道回路信号電流が軌道回路区間4Tを循環する。
【0081】
そして(
図5参照)、在来線電車6がAセクション側からき電区分の切替セクションに向かって(図では左から右向きで)在来線軌道11,12を走行して来ると、き電区分の切替セクションの切替開閉器30が既述の切替状態Aになってセクション中間電車線10cがAセクション側電車線10aに接続されるので、電気車電流がAセクション側電車線10aから在来線電車6に流れ、その帰線電流が軌道回路区間3Tの既設レール11,12と軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器70,70と軌道回路境界設備25の軌道回路区間3T側のインピーダンスボンドZBとを経由して帰線15に吸い上げられる。
【0082】
それから(
図6参照)、在来線電車6が軌道回路区間3Tを過ぎて軌道回路区間4Tに進むと、き電区分の切替セクションの切替開閉器30が既述の切替状態Bになってセクション中間電車線10cがBセクション側電車線10bに接続されるので、電気車電流がBセクション側電車線10bから在来線電車6に流れ、その帰線電流が軌道回路区間4Tの既設レール11,12と軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器70,70と軌道回路境界設備25の軌道回路区間4T側のインピーダンスボンドZBとを経由して帰線15に吸い上げられる。そのため、在来線電車6は併用軌道11〜13のうち在来線軌道11,12を使用して在来線単独敷設時と同様に走行することができ、その列車検知も在来線単独敷設時と同じく軌道回路区間2T〜5T毎に行われる。
【0083】
こうして併用軌道11〜13でも在来線の営業運行が不都合なく従来通り行われ、その日の営業が終了すると、併用軌道11〜13での新幹線試験運行に先立って切替信号の指示が変更され、それを直接的に受ける電磁接触器70が軌道回路境界設備82では既設レール絶縁14を短絡するように切り替わり軌道回路境界設備81,83では新設レール絶縁17を解放し且つその両側の既設レール11,12及び新設レール13を対応する帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続するように切り替わる。そして、その電磁接触器70の補助接点56,57を介して切替信号の指示を間接的に受ける他の電磁接触器70も、順次、同様に切り替わる。電磁接触器70の切替は実施例1や在来線運行時の説明で述べたように安定して行われ、切替後は大電流の帰線電流も小電流の軌道回路信号電流も低損失で安定に流せる状態になる。
【0084】
総ての電磁接触器70が新幹線運行側に切り替わると(
図7〜
図9参照)、既設レール11でも既設レール12でも既設レール絶縁14が軌道回路境界設備82のレール絶縁短絡器70,70によって短絡される一方、既設レール11でも既設レール12でも新設レール13でも新設レール絶縁17が軌道回路境界設備81,83のレール絶縁短絡器70,70によって解放されるとともに、軌道回路境界設備81側の新設レール絶縁17,17,17の両側でも(軌道回路区間23T側と軌道回路区間34T側)、軌道回路境界設備83側の新設レール絶縁17,17,17の両側でも(軌道回路区間34T側と軌道回路区間45T側)、既設レール11,12及び新設レール13がそれぞれ対応する帰線電流吸上用リアクトルLの他端に接続された状態になる。
【0085】
この状態は、既設レール11と新設レール13とからなる新幹線軌道11,13について見ると、既述した所望の新幹線運行状態と同じである(
図14参照)。すなわち(
図7〜
図9参照)、中央の既設レール絶縁14の所は短絡されて軌道回路区間の境界でなくなる一方、左方の新設レール絶縁17,17,17の所と右方の新設レール絶縁17,17,17の所が何れも軌道回路区間の境界になって、左方の新設レール絶縁17,17,17と右方の新設レール絶縁17,17,17とその間の既設レール11及び新設レール13とその両端の帰線電流吸上用リアクトルL,L,L,L(軌道回路境界設備27)とで軌道回路区間34Tが画成されて、そこの新幹線軌道11,13に接続された新設TD送信器63と新設TD受信器64等で送受信される軌道回路信号電流が軌道回路区間34Tを循環する。
【0086】
また、左方の新設レール絶縁17,17,17とそれより左方の既設レール11及び新設レール13とそこで両レールに接続された帰線電流吸上用リアクトルL,L(軌道回路境界設備27)とで軌道回路区間23Tが画成されて、そこの新幹線軌道11,13に接続された新設TD送信器63と新設TD受信器64等で送受信される軌道回路信号電流が軌道回路区間23Tを循環する。さらに、右方の新設レール絶縁17,17,17とそれより右方の既設レール11及び新設レール13とそこで両レールに接続された帰線電流吸上用リアクトルL,L(軌道回路境界設備27)とで軌道回路区間45Tが画成されて、そこの新幹線軌道11,13に接続された新設TD送信器63と新設TD受信器64等で送受信される軌道回路信号電流が軌道回路区間45Tを循環する。
【0087】
そして(
図7参照)、新幹線電車8がAセクション側からき電区分の切替セクションに向かって(図では左から右向きで)新幹線軌道11,13を走行して来ると、き電区分の切替セクションの切替開閉器30が切替状態Aになってセクション中間電車線10cがAセクション側電車線10aに接続されるので、電気車電流がAセクション側電車線10aから新幹線電車8に流れ、その帰線電流が軌道回路区間23Tの既設レール11及び新設レール13と軌道回路境界設備81のレール絶縁短絡器70,70及びその接続先の帰線電流吸上用リアクトルL,Lとを経由して帰線15に吸い上げられる。
【0088】
それから(
図8参照)、新幹線電車8が軌道回路区間23Tを過ぎて軌道回路区間34Tに進むと、き電区分の切替セクションの切替開閉器30が切替状態Bになってセクション中間電車線10cがBセクション側電車線10bに接続されるので、電気車電流がBセクション側電車線10bから新幹線電車8に流れ、その帰線電流が軌道回路区間34Tの既設レール11及び新設レール13と軌道回路境界設備81,83のレール絶縁短絡器70,70及びその接続先の帰線電流吸上用リアクトルL,L,L,Lとを経由して帰線15に吸い上げられる。
【0089】
さらに(
図9参照)、新幹線電車8が軌道回路区間34Tも過ぎて軌道回路区間45Tに進むと、新幹線電車8からの帰線電流が軌道回路区間45Tの既設レール11及び新設レール13と軌道回路境界設備83のレール絶縁短絡器70,70及びその接続先の帰線電流吸上用リアクトルL,Lとを経由して帰線15に吸い上げられる。
そのため、新幹線電車8は併用軌道11〜13のうち新幹線軌道11,13を使用して新幹線新設時と同様に走行することができ、その列車検知も在来線の区間割とは異なる新幹線独自の区間割の軌道回路区間23T,34T,45T毎に行われる。
【0090】
こうして、この軌道回路切替システム80を導入した併用軌道11〜13にあっては、在来線の営業運転と新幹線の試験運転とを切り替える際、軌道回路区間の区間割を切替信号にて簡便かつ適切に変更することができるうえ、その区間割変更に対応した帰線電流の引き上げ経路の変更も随伴して迅速かつ的確に行うことができる。