(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような保護膜は、通常、セル間接続部材の基材上に、導電性金属酸化物微粒子を含有するペーストからなる塗膜を形成して、その塗膜を焼結することにより形成することができる。しかし、このような塗膜を焼結する場合に、緻密な保護膜を形成させるために焼結助剤をペーストに混合しておくことが想定される。しかし、このような焼結助剤を用いたとしても、保護膜を緻密に形成することはできても、前記保護膜の基材に対する密着性を高めることは困難であった。基材に対する保護膜の密着性が低下した場合には、基材から保護膜への接触抵抗が大きくなるとともに、金属成分の飛散が激しくなるなどの問題点があり、基材に対する保護膜の密着性を向上させる技術が求められている。
【0007】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、セル間接続部材基材上に保護膜を形成する場合、保護膜を緻密に形成するための焼結助剤をより有効に働かせ、かつ、保護膜と基材との密着性を高める技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明のセル間接続部材の製造方法は、Crを含有する合金または酸化物からなる基材に、導電性金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、前記基材上に、導電性金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の第一塗膜を形成するとともに、その塗膜上に、焼結助剤を主成分として含有する未焼結の第二塗膜を形成し、前記第一塗膜と前記第二塗膜とをともに焼結して保護膜を形成することを特徴とする。
【0009】
〔作用効果1〕
上記構成によると、Crを含有する合金または酸化物からなる基材は、通常緻密な構造を有し、表面に導電性金属酸化物微粒子を主成分として含有する第一塗膜を形成し、その第一塗膜を焼結させたとしてもその第一塗膜が緻密かつ密着性高く基材上に形成されるとは言い難いと考えられている。というのは、以下のような現象によるものと考えられる。
【0010】
第一塗膜を焼結する際に、基材と第一塗膜とはともに加熱されるが、この際に、基材はもともと焼結体であるから、ほとんど焼結に伴う収縮を起こさない。この基材が緻密であればなおさら収縮を起こしにくい。一方、第一塗膜を焼結させると、第一塗膜に含有する分散媒の揮発等によって生じた粒子間の隙間(空孔)を埋めるように微粒子の集合化が生じ、大きく収縮しようとする。すると、基材と第一塗膜との間の界面における収縮率の差に起因する応力が生じ、これが第一塗膜と基材との密着強度を上回った場合、剥離が生じる恐れがある。
逆に第一塗膜と基材との密着強度が強い場合は、第一塗膜が基材に拘束されるために、緻密化に必要な粒子の集合化が抑制され、緻密化できず、気孔が残りやすい。
また、第一塗膜の焼結性が低い場合は、第一塗膜の収縮量が小さいために剥離等は生じにくいが、粒子の集合化が不十分であるため、気孔が残りやすい。
【0011】
第一塗膜の中に焼結助剤が存在する場合には、第一塗膜に含まれる微粒子が焼結する際に、焼結助剤の効果により、粒子の集合化が促進されるが、上記と同様の問題が生じる。
【0012】
これに対して、本発明者らが鋭意検討したところ、導電性金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の第一塗膜を形成するとともに、その塗膜上に、焼結助剤を主成分として含有する未焼結の第二塗膜を形成し、その両者をともに焼結させると、保護膜を緻密にでき、基材との密着性も高めることができることを見出した。これは、以下の現象に基づくものと考えられる。
【0013】
第一塗膜の焼結が進行する過程で、第一、第二塗膜の分散媒が揮発した後、第二塗膜に含まれる焼結助剤が徐々に第一塗膜内に浸み込むために、第一塗膜の分散媒の揮発によってできた隙間(空孔)がある程度埋められる。つまり、焼結の過程で、第一塗膜が焼結助剤である程度密に詰まった状態となっているため、粒子の集合がそれほど生じずとも緻密化されやすくなる。また、緻密化に必要な粒子の集合による収縮量も小さくなるため、基板との収縮率差に伴う応力が小さくなり、密着性も維持されやすい。
【0014】
〔構成2〕
前記焼結助剤としては、CuO、Bi
2O
3、Sb
2O
3、PbO、V
2O
5、PdO、MoO
3から選ばれる少なくとも一種を主材とすることができる。
【0015】
〔作用効果2〕
焼結助剤としては、種々公知のものを利用することができるが、中でも上述の各物質は融点が、CuOで、1000〜1200℃、Bi
2O
3で、820℃、Sb
2O
3で、656℃、PbOで、888℃、V
2O
5で、690℃、PdOで、870℃、MoO
3で、795℃と、比較的低く、通常用いられる導電性金属酸化物を焼結させるのに汎用性があり、かつ、基材やSOFC用の空気極材料等に対して悪影響を与えにくいという面から好適に用いられる。
【0016】
〔構成3〕
また、前記焼結助剤の粒径は、0.01μm以上10μm以下が好ましい。
【0017】
〔作用効果3〕
焼結助剤は、第一、第二塗膜を焼結させる際に溶融して、第一塗膜内に溶融して浸入するとともに、第一塗膜を構成する導電性金属酸化物を焼結させるが、粒径が大きすぎるとペーストを形成したときの流動性が低下し、第二塗膜を均一に形成することが困難になるとともに第一塗膜内に浸入させにくくなると考えられることから10μm以下が好ましい。粒径の下限は特にないが、取扱の便宜上0.01μm以上が好適である。
【0018】
〔構成4〕
また、前記第一、第二塗膜の塗布厚さが、5μm以上200μm以下とすることが好ましい。
【0019】
〔作用効果4〕
第一、第二塗膜の塗布厚さは、薄すぎると第一塗膜が保護膜としての機能を果たさず、第二塗膜の焼結助剤を十分量供給することができないために5μm以上とすることが好ましく、第一塗膜が厚すぎると第二塗膜成分が基材と第一塗膜の界面まで溶け込みにくくなるとともに、第二塗膜自体の溶融流動性を損なうことが考えられることから、200μm以下とすることが好ましい。
【0020】
〔構成5〕
また、焼結を行う際の温度が、800℃以上1200℃以下であることが好ましい。
【0021】
〔作用効果5〕
上記第二塗膜に含有される焼結助剤は、第一塗膜や基材の焼結を必要以上に進行させにくくするためにも、比較的融点の低いものを選択することが好ましく、容易に融解して第一塗膜に浸入する1200℃以下で焼結することが好ましい。しかし、第一塗膜の焼結可能な温度において溶融する必要があるので、800℃以上、さらに好ましくは1000℃以上とすることが好ましい。
【0022】
〔構成6〕
また、前記Crを含有する合金または酸化物は、LaCrO
3系酸化物から選ばれる少なくとも一種を主材とするものとすることができる。また、後述の実施例に基づけば、本願のセル間接続部材の製造方法によると、基材としてフェライト系ステンレスと類似した物性を有するGDCを用いた場合に、LaCrO
3系酸化物を用いた場合と同等に保護膜を、緻密かつ密着性高く形成できることを明らかにしており、Crを含有する合金または酸化物としてフェライト系ステンレスを用いることができる。なお、熱膨張率はLaCrO3系材料:9.5〜11×10
-6/K、GDC:約9.3×10
-6/K、フェライト系ステンレス:約11×10
-6/Kで、近似した値となっている。
【0023】
〔作用効果6〕
基材を構成するCrを含有する合金または酸化物としては、種々公知のものを利用することができるが、中でも上記物質はSOFC用のセル間接続部材基材として汎用されており好適な物性を備える。
【0024】
〔構成7〕
また、前記導電性金属酸化物が、NiMn
2O
4、Co
xMn
3-xO
4、Mn
xFe
3-xO
4、Zn
x(Co
yMn
1-y)
3-xO
4(0<x≦1、0≦x≦1)、ZnFe
2O
4から選ばれる少なくとも一種を主材とするものとすることができる。
【0025】
〔作用効果7〕
保護膜を構成する導電性金属酸化物は、緻密であって導電性が高く、基材と熱膨張率の近似したものを採用することが望ましく、中でも上記物質は、一般的に用いられるSOFC用のセル間接続部材基材に対して、好適な物性を備える。
【0026】
〔構成8〕
また、前記導電性金属酸化物微粒子の粒径が、0.4μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0027】
〔作用効果8〕
前記導電性金属酸化物微粒子から保護膜を形成する場合、粒径が小さすぎると、焼結時の収縮量が大きくなり、保護膜が割れたり、基材から剥離したりする恐れがあるために、0.4μm以上とすることが好ましい。また、粒径が大きすぎると、保護膜が緻密で高強度なものにならず、導電性の面でも物性が低下することから、3μm以下とすることが好ましい。
【0028】
〔構成9〕
また、本発明のSOFC
の製造方法の特徴構成は、空気極と燃料極とを、上記セル間接続部材を介して接合
する点にある。
【0029】
〔作用効果9〕
先述のセル間接続部材の製造方法によれば、基材との密着性が高く、緻密な保護膜を備えたセル間接続部材が得られるので、基材の化学的安定性を高めることができ、例えば、基材の酸化劣化に基づき飛散する物質によってSOFCの空気極が汚染劣化するような状況を防止することができる。また、SOFCの熱サイクルによる膨張収縮に対しても高い耐久性を有するものとなり、長期使用によっても安定に動作しうるSOFCを
製造することができる。
【0030】
なお、本願で「材料Xを主材とする」という場合、構成材料としての材料Xが主たる原料の一つとしていることをいい、必要に応じて添加剤を添加していてもよく、その材料のもつ特性が現れていれば、配合割合に特に制限はなく、材料X単独では、必ずしも、混合物中で最も多い材料である必要はなく、好ましくは50%以上が材料Xから構成されることが好ましいが、それ以下であってもよい。すなわち、例えば上述の第一塗膜を構成するペースト材料にあっては、導電性金属酸化物を主たる原料の1つとして含有するほかに、代表的には、導電性金属酸化物をペースト状にするための分散媒、分散助剤等を含んでいる。なお、付して言えば、第一塗膜に対して焼結助剤が含まれる場合についても、主に第一塗膜の焼結に寄与する焼結助剤が第二塗膜から供給される形態であれば、上述の第一塗膜および第二塗膜のもつ特性が現れることが明らかであるため、本発明から積極的に除外するわけではない。
【発明の効果】
【0031】
したがって、耐久性が高く安定動作可能なSOFCを提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明のセル間接続部材の製造方法を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0034】
<固体酸化物型燃料電池>
本発明にかかるSOFC用セル間接続部材およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオンおよび電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30のほか方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された合金からなるセル間接続部材としてのインターコネクタ1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とインターコネクタ1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とインターコネクタ1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0035】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO
3(例えばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO
3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0036】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、インターコネクタ1の基材11としては、LaCrO3系酸化物から選ばれる少なくとも一種を主材とするものやフェライト系ステンレスが好適に利用される。
【0037】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたインターコネクタ1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたインターコネクタ1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、かかる積層構造のセルスタックでは、上記インターコネクタ1をセパレータと呼ぶ場合がある。
【0038】
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0039】
このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、
図1(b)に示すように、空気極31に対して隣接するインターコネクタ1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するインターコネクタ1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO
2が電子e
-と反応してO
2-が生成され、そのO
2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH
2がそのO
2-と反応してH
2Oとe
-とが生成されることで、一対のインターコネクタ1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0040】
<インターコネクタ>
前記インターコネクタ1は、
図2に示すように、Crを含有する合金または酸化物からなるインターコネクタ用の基材11の表面に導電性金属酸化物からなる保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0041】
前記保護膜12は、前記基材11上に、導電性金属酸化物微粒子を主成分として含有するペーストからなる第一塗膜を形成するとともに、その塗膜上に、焼結助剤を主成分として含有するペーストからなる第二塗膜を形成し、前記第一塗膜と前記第二塗膜とをともに焼結して形成する。なお、第一塗膜の形成後、第一塗膜上に第二塗膜を形成する場合、第二塗膜の形成操作により第一塗膜が破壊、変形しない程度に乾燥させておくことが好ましく、このような状況も含めて、「ペーストからなる第一塗膜」の上に「ペーストからなる第二塗膜」を形成したものとする。
【0042】
前記保護膜12を形成するための導電性金属酸化物は、Mn,Co,Zn,Fe,Ni,Cr,Ti,V,Y,W,ランタノイドから選ばれる2種以上の金属を含むスピネル型酸化物を主材とするものが好適に採用されるが、下記実施の形態では、NiMn
2O
4、Co
xMn
3-xO
4、Mn
xFe
3-xO
4、Zn
x(Co
yMn
1-y)
3-xO
4(0<x≦1、0≦x≦1)、ZnFe
2O
4から選ばれる少なくとも一種を主材とするからなるスピネル型酸化物が特に好適に使用できる。また、導電性金属酸化物をペーストとする場合の粒径は、好適には、0.4μm以上3μm以下である。
【0043】
前記焼結助剤としては、CuO、Bi
2O
3、Sb
2O
3、PbO、V
2O
5、PdO、MoO
3から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、0.1μm以上10μm以下の粒径として用いることができる。
【0044】
<コーティング方法>
まず、ボールミル等で粒子径を調整してなる導電性金属酸化物の粉末および、焼結助剤の粉末をそれぞれ分散媒に添加し、所定濃度のペースト状に調整する。
【0045】
ここで用いられる分散媒としては、ポリエチレングリコールやグリセリン等、種々公知のものを適用することができる。
【0046】
また、各ペーストの濃度は、取扱容易な粘度、流動性となる範囲であれば特に制限されないが、好ましくは、導電性金属酸化物について200〜450重量%、焼結助剤について50〜300重量%程度が好ましい。
【0047】
次にインターコネクタ用の基材11の保護膜12を形成すべき部分以外に第一塗膜厚さのマスキングを施す。
【0048】
スキージを用い、導電性金属酸化物のペーストを基材11上に塗布する。これにより。基材11上にはマスキングの厚さ分の第一塗膜が形成される。次に、第一塗膜の乾燥後、もしくは乾燥前に、マスキングを除去し、第一塗膜上に第二塗膜を形成可能に新たなマスキングを施す。このマスキングを用いて第二塗膜を形成した後、マスキングを除去することにより第一、第二塗膜の積層されたものが得られる。
【0049】
なお、コーティング方法は、スキージ等を用いて塗布する方法のほか、ディップコーティング、スクリーン印刷等によって行うこともできる。
【0050】
また、第一、第二塗膜の厚さは、合計で5μm以上200μm以下程度が好適であり、さらに好ましくは50μm以上100μm以下である。
【0051】
得られた第一、第二塗膜は、空気中800℃〜1200℃に昇温することにより焼結されて単一の層の保護膜12となる。さらに好ましい焼結温度は1000℃以上1200℃以下である。
【0052】
〔実施例および比較例〕
以下に本発明の実施例を示す。なお、以下に示す実施例は発明の理解を容易にするために実例をあげて具体的に説明を行うものであって、本発明は下記の記載に限定されるものではない。
【0053】
(1)実施例
導電性金属酸化物としてNiMn
2O
4を、ポリエチレングリコール(分散媒)4g/mLで分散させたペーストを調製した。このペーストをスキージによりインターコネクタ用の基材11として、ランタン−クロム系酸化物(LaCrO
3系酸化物:LC)の表面に塗布して厚さ80μmの塗膜(第一塗膜)を形成した。
この塗膜上にさらに、焼結助剤としての酸化銅(CuO)を、ポリエチレングリコール(分散媒)1.3g/mLで分散させたペーストを同様に塗布して、厚さ20μmの塗膜(第二塗膜)を形成した。
【0054】
得られた第一、第二塗膜をともに1150℃で5時間焼結することにより保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図3のようになっており、緻密な導電性金属酸化物の被膜が形成されていることがわかった。また、目視観察によっても保護膜12は、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。なお、保護膜12の剥離、割れについては、サンプリングの際にかかる応力に基づく破損等が生じるためにSEM写真において判別することは難しく、図は保護膜12の緻密度を主に観察する趣旨で用いている。また、EDX等で保護膜12中の金属の分布を調べたところ、第二塗膜中に焼結助剤として含まれていたCuは、保護膜12の全領域にほぼ均一に分布していることもわかった。
【0055】
用いた材料をまとめると以下のようになる。
基材11:ランタン−クロム系酸化物(LaCrO
3系酸化物:LC)
導電性金属酸化物:NiMn
2O
4、粒径1μm
焼結助剤:CuO、粒径0.2μm
分散媒:ポリエチレングリコール(PEG)、重合度400
【0056】
また、塗膜と保護膜12の関係は以下のようになる。
第一塗膜:導電性金属酸化物のみ4g/mL(約350質量%)のペースト
第二塗膜:CuOのみ1.3g/mL(約120質量%)のペースト
焼結条件:1150℃、5時間
【0057】
(2)比較例
上記実施例(1)における第二塗膜を用いることなく第一塗膜のみを用いて、同様に1150℃で5時間焼結することにより保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図4のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、割れ剥離等を生じていなかったものの、緻密さが十分とは言えない結果になっていた。
【0058】
(3)比較例
上記実施例(1)における第一塗膜および第二塗膜を、あらかじめ、導電性金属酸化物および焼結助剤をともに含有するペーストから形成される第一塗膜のみとして、同様に1150℃で5時間焼結することにより保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図5のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、割れ剥離等を生じておらず、比較例(2)と比較すると焼結が進行しているものの、比較的大きな空孔が多く残っており、緻密さが十分とは言えない結果になっていた。
【0059】
(まとめ1)
上記(1)〜(3)によると、第一塗膜が、割れ、剥離を生じない条件下で第二塗膜から第一塗膜に対して焼結助剤が供給されると、緻密で基材11に対する密着性の高い保護膜12が得られることがわかる。
【0060】
(4)実施例
上記実施例(1)における焼結助剤をBi
2O
3に変更した以外は同様に基材11上に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図6のようになっており、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。
【0061】
用いた材料をまとめると以下のようになる。
基材11:ランタン−クロム系酸化物(LaCrO
3系酸化物:LC)
導電性金属酸化物:NiMn
2O
4、粒径1μm
焼結助剤:Bi
2O
3、粒径0.2μm
分散媒:ポリエチレングリコール(PEG)、重合度400
【0062】
また、塗膜と保護膜12の関係は以下のようになる。
第一塗膜:導電性金属酸化物のみ4g/mL(約350質量%)のペースト
第二塗膜:Bi
2O
3のみ1.7g/mL(約150質量%)のペースト
焼結条件:1150℃、5時間
【0063】
(5)比較例
上記実施例(4)において第一塗膜を形成したのち、前記第一塗膜を800℃で2時間焼結した。焼結された第一塗膜上に、実施例(4)と同様に第二塗膜を形成し、1150℃で5時間焼結することにより保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図7のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、割れ剥離等を生じておらず、比較例(2)と比較して焼結が進行しているものの、緻密さが十分とは言えない結果になっていた。
【0064】
(6)比較例
上記比較例(5)において、第一塗膜を900℃で2時間焼結した以外は同様に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図8のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、割れ剥離等を生じておらず、比較例(2)と比較して焼結が進行しているものの、緻密さが十分とは言えない結果になっていた。比較例(5)と比較しても緻密度は劣る結果であった。
【0065】
(まとめ2)
上記(4)〜(6)によると、焼結助剤としてはCuOに代えてBi
2O
3を用いた場合であっても、同様の保護膜12が得られていることがわかり、焼結助剤の種類によらず、第二塗膜から第一塗膜に対して焼結助剤が供給される条件下で、緻密で基材11に対する密着性の高い保護膜12が得られていることがわかる。
【0066】
また、第一塗膜と第二塗膜とを焼結して保護膜12を形成する場合、第一塗膜を第二塗膜塗布後の焼結温度よりも低温で焼結した状態で第二塗膜により焼結助剤を供給しても保護膜12の緻密さを向上させることができるが、第二塗膜を塗布する前に第一塗膜の焼結を進行させないほうが望ましいことがわかる。よって、第二塗膜の塗布時に、第一塗膜はペースト状態、もしくは分散媒を揮発させた乾燥状態であることが望ましいと示唆される。
【0067】
(7)実施例
上記実施例(1)において、焼結条件を1100℃に変えた以外は、同様に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図9のようになっており、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。
【0068】
(8)比較例
上記実施例(1)において、焼結条件を1050℃に変えた以外は、同様に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図10のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、割れ剥離等を生じていなかったものの、緻密さが十分とは言えない結果になっていた。
【0069】
(9)比較例
上記実施例(1)において、焼結条件を1250℃に変えた以外は、同様に保護膜12を形成すると、得られた保護膜12は、基材11に含まれる元素を激しく拡散した状態で含有していることがわかり、好適ではないことがわかった。
(まとめ3)
上記(7)〜(9)によると、第一塗膜と第二塗膜とを焼結する条件は、1200℃以下とすることが好適であることがわかる。ただし、下限温度については、焼結助剤の融点以上であれば問題なく、割れ剥離等を生じないことから、後述のように、焼結助剤の使用量を増加させることにより調整することができる。
【0070】
(10)実施例
上記実施例(1)において導電性金属酸化物をCo
1.5Mn
1.5O
4とした以外は、同様に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図11のようになっており、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。
【0071】
(まとめ4)
上記(10)によると、導電性金属酸化物としては、NiMn
2O
4に限らず、Co
1.5Mn
1.5O
4などのほかの導電性金属酸化物であっても良好な保護膜12を形成することができることがわかる。
【0072】
(11)比較例
上記実施例(1)における導電性金属酸化物の粒径を0.3ミクロンに変更した以外は同様に、保護膜12を形成した。上記導電性金属酸化物は、実施例(1)におけるペーストをボールミルにより湿式粉砕して微粒子化した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図12のようになっており、導電性金属酸化物の被膜は、緻密に形成されているものの、割れ剥離等を生じていたため、良好とは言えない結果になっていた。
【0073】
(まとめ5)
上記(11)によると、導電性金属酸化物の粒径は細かすぎると、保護膜12の物性が十分なものとならないことがわかり、0.4μm以上3μm以下とすることが好ましいことがわかった。なお、焼結助剤についても同様に、粒径が、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0074】
(12)実施例
上記実施例(1)における基材11の材質を、Gd
0.1Ce
0.9O
2(GDC)に変えた以外は、同様に保護膜12を形成した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図13のようになっており、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。また、必用に応じて、EDX等で元素分析を行うとGDCと保護膜12間で元素の拡散は見られなかった。
【0075】
(まとめ6)
上記(12)によると、EDX等で元素分析を行うとGDCと保護膜12間で元素の拡散は見られないため、基材11としては、保護膜12と著しい固相反応を生じず、熱膨張率が近いものであれば特に限定されず、基材11としては、LaCrO
3系酸化物に限らず、フェライト系ステンレス等であっても良好な保護膜12を形成するのに適していることがわかる。
【0076】
(13)比較例
上記(8)において得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図10のようになっており、焼結後の保護膜12における焼結助剤の濃度(保護膜12中に含まれる金属イオンのうち焼結助剤由来の金属イオン濃度を焼結助剤濃度とした。)は、16%であった。図より、導電性金属酸化物の被膜は、緻密に形成されているものの、割れ剥離等を生じていたため、良好とは言えない結果になっていた。
【0077】
(14)実施例
上記(8)における第二塗膜の厚みを変えた以外は、同様に保護膜12を形成した。ここでは、第一塗膜の厚さを80μm、第二塗膜の厚さを40μmとなるように調整した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図14のようになっており、焼結後の保護膜12における焼結助剤の濃度は、39%であった。図より、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。
【0078】
(15)実施例
上記(8)における第二塗膜の厚みを変えた以外は、同様に保護膜12を形成した。ここでは、第一塗膜の厚さを40μm、第二塗膜の厚さを20μmとなるように調整した。得られた保護膜12をSEMにより観察すると、
図15のようになっており、焼結後の保護膜12における焼結助剤の濃度は、35%であった。図より、緻密な導電性金属酸化物の被膜が、割れ、剥離等を生じることなく良好に形成されていることが観察された。
【0079】
(まとめ7)
上記(13)〜(15)より、焼結助剤の使用量を増加させることにより、保護膜12の緻密さを向上することができ、また、第一塗膜の厚さに応じて第二塗膜の使用量を変更して適切な使用比率とすることが好ましいることがわかる。