(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記作業時予備制御モードでは50%以上の高デューティー比が用いられ、前記非作業時予備制御モードでは50%未満の低デューティー比が用いられる請求項1に記載の作業車。
前記非作業時予備制御モードの前記低デューティー比は、前記本制御モードにおいて前記偏差に基づいて算定されるデューティー比より低いデューティー比が設定されている請求項2または3に記載の作業車。
前記偏差に基づいて算定されるデューティー比を用いた駆動制御の不感帯は、前記作業状態時には前記非作業状態時より狭く設定される請求項1から7のいずれか一項に記載の作業車。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の作業車では、高速走行時における対地作業装置の傾きを迅速に調整することが可能で、高速走行時の走行安定性が得られる。また、作業時などの低速走行時においては、制御オーバーシュートが抑制される。しかしながら、低速の作業走行時においても、対地作業装置が地面に作用している作業の間にも、旋回時などにおいて一旦対地作業装置を上昇させて自由状態にし、その後地面に作用させるといったプロセスが頻繁に生じる。また、作業車の停止状態あるいは略停止状態においても対地作業装置を上昇させて自由状態にすることもある。対地作業装置が地面に作用している場合には、傾動抵抗があるため対地作業装置の傾動はゆったりしたものとなるが、対地作業装置が自由状態の場合にはその傾動は速いものとなる。
このような事態に対しては、走行速度だけをパラメータとするローリング制御では適切に対処できないため、対地作業装置の状態を考慮した、改善されたローリング制御技術が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ローリング制御される対地作業装置を走行車体に連結させた作業車において、上述した要望に応えるべく、本発明による1つの作業車は、油圧アクチュエータを用いて前記対地作業装置を前記走行車体に対してローリングさせるデューティー制御式電磁油圧弁と、ローリング角を検出するローリング角検出器と、前記対地作業装置が作業状態であることまたは非作業状態であることを判別する状態判別信号を出力する作業状態検知部と、前記ローリング角と前記状態判別信号とに基づいて前記電磁油圧弁を駆動制御するローリング制御モジュールとを備えている。さらに、前記ローリング制御モジュールによる駆動制御は、その駆動制御開始時に実施される予備制御モードと前記予備制御モードを引き継いで実施される本制御モードとで行われる。前記本制御モードでは、目標ローリング角度と実ローリング角度との偏差に基づいてデューティー比が算定される。前記予備制御モードには、前記作業状態において実施される作業時予備制御モードと前記非作業状態において実施される非作業時予備制御モードとが含まれ、
前記作業時予備制御モードにおいて算定されるデューティー比は、前記非作業時予備制御モードにおいて算定されるデューディー比よりも大きい。
【0007】
この構成では、ローリング制御プロセスが、予備制御モードで行う前段制御と本制御モードで行う後段制御とに区分けされている。本制御モードは、従来通り、目標ローリング角度と実ローリング角度との偏差に基づいて算定されるデューティー比で電磁油圧弁が駆動される。これに対して、予備制御モードは、作業時予備制御モードと非作業時予備制御モードとに分けられ、対地作業装置が作業状態であるときと、対地作業装置が非作業状態であるときでは、それぞれの状態に適したデューティー比を用いることができる。これにより、非作業状態の対地作業装置が、ローリング制御の始動により突然しかも高速で動いてしまう問題や、作業状態の対地作業装置のローリング制御の応答性が悪いという問題に対処することができる。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つとして、前記作業時予備制御モードでは50%以上の高デューティー比が用いられ、前記非作業時予備制御モードでは50%未満の低デューティー比が用いられることが提案される。この構成では、対地作業装置の作業時に実行される作業時予備制御モードでは、50%以上の高デューティー比が用いられるので、油圧経路に素早く圧油が流れ、油圧経路における油圧が迅速に立ち上がり、油圧シリンダ等で構成される油圧アクチュエータへの油圧供給が迅速に行われる。その結果、例えば、対地作業装置の動きに対して抵抗が働いていても対地作業装置を迅速に目標ローリング角度に戻すことができる。対地作業装置の非作業時に実行される非作業時予備制御モードでは、50%未満の低デューティー比が用いられるので、例えば対地作業装置が上昇状態でフリーとなっていても、急にしかも高速で対地作業装置が動くという不都合が解消される。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業時予備制御モードの前記高デューティー比は前記偏差とは無関係に予め設定されている。この構成では、油圧が迅速に立ち上がるように油圧経路に合わせて予め設定された高デューティー比が制御開始時に用いられるので、作業中に突発的に生じたローリング制御でも遅れなく動き出し、あとは通常の、偏差に基づくデューティー比を用いた本制御モードに移行する。
【0010】
本制御モードにおいて偏差に基づいて算定されるデューティー比は、偏差が大きくなるほど大きくなるのが一般的である。従って、偏差が小さい場合には、非作業時予備制御モードにおいても本制御モードで用いられるような偏差とデューティー比の関係を利用することが可能であるが、偏差が大きい場合には、デューティー比が大きくなりすぎるので不都合となる。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記非作業時予備制御モードの前記低デューティー比は、前記本制御モードにおいて前記偏差に基づいて算定されるデューティー比より低いデューティー比が設定されるように構成されている。これにより、非作業時予備制御モードから本制御モードへの移行がスムーズとなり、結果的に対地作業装置の動きもスムーズになる。
【0011】
本発明で提案されている予備制御モードは、油圧経路における油圧が落ちている際には、油圧制御開始時に迅速に油圧を回復させて、油圧制御の遅れを回避することである。したがって、油圧弁や油圧配管を含む油圧経路に油圧が立てば(圧油が行きわたれば)、通常の油圧制御に戻すことが好都合である。したがって、本発明による好適な実施形態の1つでは、前記予備制御モードが実施される時間は、圧油が前記電磁油圧弁の圧力室を充填するまでの時間とされており、それ以降の制御は本制御モードに引き継がれる。
【0012】
非作業状態の対地作業装置は、フリー状態なので、作業状態に比べて動き抵抗が小さく、わずかな偏差に基づく制御にも敏感に反応することになる。このような敏感すぎる反応による対地作業装置の動きは不自然なものとなり、運転者に違和感を与える。このような敏感なローリング制御を抑制するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記偏差に基づいて算定されるデューティー比を用いた駆動制御の不感帯は、前記作業状態時には前記非作業状態時より狭く設定される。
【0013】
対地作業装置が作業中であるか非作業中であるかを判別するには、対地作業装置の種類によって様々な方法がある。対地作業装置のためのON・OFF選択デバイスが備えられている場合には、そのデバイスのON・OFF状態を検出することで作業状態を検知することができる。あるいは、対地作業装置が作業中であるか非作業中であるかを直接検知するセンサが設けられておれば、そのセンサからの信号から作業状態を検知することができる。作業車がトラクタであり、対地作業装置が耕耘装置である場合には、その構造的特徴から、以下の操作イベントを検知することで耕耘装置が作業中であるか非作業中であるかを判別することができる。その操作イベントとして、「車速がゼロである」、「変速位置が前進である」、「ロータリ耕
耘装置を昇降するリフトアームが作業位置である」、「ロータリ耕
耘装置への動力が伝達されている」、などが挙げられる。従って、対地作業装置がロータリ耕
耘装置である場合の、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業状態検知部は、車速がゼロかどうか、変速位置が前進かどうか、前記ロータリ耕
耘装置を昇降するリフトアームが作業位置かどうか、前記ロータリ耕
耘装置への動力が伝達されているかどうか、のいずれかあるいはその組み合わせに基づいて前記作業状態または前記非作業状態を判別するように構成されている。特に、上記のような操作イベントを検出するセンサは、元来作業車に装備されているので、低コストで作業状態検知部を構築することができる。
【0014】
さらに、本発明の別な実施形態では、前記作業時予備制御モードでは、前記本制御モードで算定されるデューティー比が用いられ、前記非作業時予備制御モードでは、前記本制御モードで算定されるデューティー比が予め設定された初期制限値より高い場合、当該デューティー比より低い初期制限値に置き換えられる。この構成では、対地作業装置が非作業状態であるときでは、目標ローリング角度と実ローリング角度との偏差の大きさにかかわらず、予め設定された初期制限値であるデューティー比が用いられる。したがって、非作業状態の対地作業装置が、ローリング制御の始動により突然しかも高速で動いてしまう問題は解消される。その際、前記初期制限値が、時間経過とともに大きくなるように設定されていると、ローリング制御の始動時はゆっくり動いても、徐々にその動きは速くなるので、ローリング制御の遅れは抑制される。
【0015】
ローリング制御される対地作業装置を走行車体に連結させた作業車において、上述した要望に応えるべく、本発明による他の1つの作業車は、油圧アクチュエータを用いて前記対地作業装置を前記走行車体に対してローリングさせるデューティー制御式電磁油圧弁と、ローリング角を検出するローリング角検出器と、前記対地作業装置が作業状態であることまたは非作業状態であることを判別する状態判別信号を出力する作業状態検知部と、前記ローリング角と前記状態判別信号とに基づいて前記電磁油圧弁を駆動制御するローリング制御モジュールとを備え、前記ローリング制御モジュールによる駆動制御には、
前記対地作業装置が作業状態及び非作業状態のいずれの場合でも実施される本制御モードと、前記対地作業装置が
作業状態である場合及び非作業状態である場合のうち作業状態である場合にのみ前記本制御モードに先立って実施される作業時予備制御モードとが含まれており、
前記本制御モードでは、目標ローリング角度と実ローリング角度との偏差に基づいてデューティー比が算定され、前記作業時予備制御モードでは、50%以上の高デューティー比、好ましくは90%以上の高デューティー比が用いられる。
この構成では、対地作業装置が作業状態である場合にのみ、偏差にかかわらず、ローリング制御開始時に50%以上の高デューティー比、好ましくは90%以上の高デューティー比が用いられ、油圧経路に素早く圧油が流れ、油圧経路における油圧が迅速に立ち上がり、油圧シリンダ等で構成される油圧アクチュエータへの油圧供給が迅速に行われる。ただし、上述した発明技術では採用されていた、非作業時におけるローリング制御開始時に行われていた作業時予備制御モードは省略されている。これは、対地作業装置の種別によっては、慣性モーメントが大きく、対地作業装置がフリーの状態で急にローリング制御が始動しても、それほど急激な動きにはならないからである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による作業車の具体的な実施形態を説明する前に、
図1を用いて、本発明で採用されているローリング制御の基本的な原理の1つを説明する。
図1では、ローリング機構が組み込まれた連結機構を介して、対地作業装置の一例であるロータリ耕耘装置15を走行車体に連結させたトラクタが、本発明の作業車として取り扱われている。
【0018】
このローリング機構は、油圧アクチュエータの動作によってロータリ耕耘装置15をローリングさせる機能を有する。油圧アクチェータは、デューティー制御式電磁油圧弁(以下単に電磁油圧弁と称する)によって制御される油圧によって駆動される。車体に対するロータリ耕
耘装置15のローリング角を検出するローリング角検出器32と、ロータリ耕
耘装置15が作業状態であること、または非作業状態であることを判別する状態判別信号を出力する作業状態検知部31とが備えられている。前記ローリング角と前記状態判別信号とに基づいて、電磁油圧弁に与えるデューティー比駆動信号を算定するローリング制御モジュール50もトラクタのECUの1つとして備えられている。
【0019】
ここでは、作業状態検知部31は、耕耘装置15が作業状態であるか非作業状態である
かどうかを示す作業状態検知信号を生成する。その際、その判別のために、車速、変速位置、耕耘装置15の昇降位置、耕耘装置15への動力伝達状態などが用いられる。例えば、耕耘装置15は作業状態においては下降しており、非作業状態では上昇していると判断できるので、耕耘装置15の高さが所定高さ以上では非作業状態とみなし、所定高さ未満では作業状態とみなすることができる。このような判別条件を用いて、作業状態検知部31は「作業」検知信号、または「非作業」検知信号を出力する。ローリング角検出器32は、実ローリング角が出力される。この実ローリング角θrから、予め設定されている目標ローリング角を用いて偏差を求めることができる。
【0020】
ローリング制御モジュール50による駆動制御は、毎回の電磁油圧弁に対する駆動制御開始時に実施される予備制御モードと本制御モードとで行われる。予備制御モードは本制御モードに先行して実行されるものであり、その実行時間は油圧配管系に所定の油圧が立ち上がる程度である。本制御モードでは、目標ローリング角度と実ローリング角度との偏差に基づいてデューティー比が算定される。この偏差が、ローリング制御によって修正される。予備制御モードには、前記作業状態において実施される作業時予備制御モードと前記非作業状態において実施される非作業時予備制御モードとが含まれている。その際、作業時予備制御モードでは50%以上の高デューティー比が用いられ、非作業時予備制御モードでは50%未満の低デューティー比が用いられる。
【0021】
図1で例示されたトラクタ耕耘作業におけるローリング制御を説明する。
図1において「P1」で示された走行位置では、ロータリ耕
耘装置15が下降されており、耕耘作業が行われている。したがって、ローリング制御モジュール50には、作業状態検知部31から「作業」検知信号が入力されるとともに、ローリング角検出器32からは実ローリング角:θrが入力される。実ローリング角:θrから、予め設定されている目標ローリング角:θtを用いて偏差:Δθが求められる。偏差:Δθがしきい値(不感帯)を超えている場合、ローリング制御が始動する。まず、作業状態検知部31からの作業状態信号がチェックされ、それが「作業」検知信号であれば、本制御モードでのローリング制御に先立って作業時予備制御モードでのローリング制御が実行される。この例では、作業時予備制御モードは、90%を超える大きなデューティー比(
図1では90%としているが、例えば100%を用いてもよい)をもつ駆動信号が短時間だけ出力される。続いて、現状の偏差:Δθからデューティー比:Drが導出される。このため、偏差:Δθを変数としてデューティー比:Drを算出する関数:Fが予め作成されているが、この関数:Fは通常テーブル化(マップ化)されているので、偏差:Δθからすぐにデューティー比:Drが読み出される。なお、一般には、関数:Fは、Dr=100%で一定となる1次または2次の単調増加関数が採用されるが、それ以外でもよい。以上のことから、「P1」位置では、最初のごくわずかな時間だけ、大きなデューティー比の駆動信号が電磁油圧弁に供給され、油圧ポンプからの圧油が電磁油圧弁の圧油室が急速に充填される。その後は、本制御モードに移行し、偏差:Δθに応じたデューティー比:Drをもつ駆動信号が電磁油圧弁に供給され、偏差:Δθがしきい値内に入るまで、ローリング制御が続けられる。
【0022】
次に、
図1において「P2」で示された走行位置では、トラクタはロータリ耕
耘装置15が上昇させて、180°旋回が行われている。つまりこの時点では、耕耘作業が行われておらず、非作業状態である。しかしながら、旋回走行中に、ロータリ耕
耘装置15が横揺れする可能性は少なくない。ここでは、ローリング制御モジュール50には、作業状態検知部31から「非作業」検知信号が入力されるとともに、ローリング角検出器32からは実ローリング角:θrが入力され、その偏差:Δθは、しきい値(不感帯)を超え、ローリング制御が始動する。したがって、本制御モードでのローリング制御に先立って非作業時予備制御モードでのローリング制御が実行される。この例では、非作業時予備制御モードは、20%のデューティー比をもつ駆動信号が短時間だけ出力される。但し、しきい値にもよるが、偏差:Δθが小さい時には、偏差:Δθから関数:Fを用いて導出されるデューティー比:Drが20%デューティー比より小さい場合がある。そのような小さな偏差:Δθの場合には、非作業時予備制御モードで20%デューティー比の駆動信号を供給するより、偏差:Δθから導出されるデューティー比:Drを用いて、ゆっくりとローリング制御を行った方が好ましい。したがって、この例では、非作業時予備制御モードで実際に電磁油圧弁に供給される駆動信号は、非作業時予備制御モードで決定されるデューティー比:Drと、関数:Fを用いて導出されるデューティー比:Drとの小さい方のデューティー比:Drをもつように設定されている。
なお、上記の説明では、作業時予備制御モード及び非作業時予備制御モードに用いられる駆動信号は、一定のデューティー比であったが、パルス毎に変化させてもよい。特に、非作業時予備制御モードに用いられる駆動信号のデューティー比はローリング制御の、初期制限値として用いられるものであるので、時間経過とともに大きくなるようなデューティー比をもつ駆動信号を採用するのが好ましい。
【0023】
さらに、
図2を用いて、本発明で採用されているローリング制御の基本的な原理の他の1つを説明する。ここでは、対地作業装置の一例であるロータリ耕耘装置15が搭載されたトラクタが、本発明の作業車として取り扱われている。このローリング制御の基本的な原理と、
図1で示された原理と
の違いは、本制御モードに先立っ
て用いられる予備制御モードが、作業時に限定されることである。つまり、非作業時におけるローリング制御では、非作業時予備制御モードが省略され、本制御モードだけが実施される。
図2から明らかなように、作業時にローリング制御が行われる場合には、まず作業時予備制御モードに基づくデューティー比駆動信号を用いて電磁油圧弁が操作される。これに対して、非作業時にローリング制御が行われる場合には、いきなり本制御モードが用いられ、偏差:Δθに応じで算定されるデューティー比:Drを有するデューティー比駆動信号で電磁油圧弁が操作される。
【0024】
次に、発明の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。この実施形態における作業車は、
図3に示されているように、ローリング制御される対地作業装置としてロータリ耕耘装置15を装着したトラクタである。ロータリ耕耘装置15はローリング制御可能な昇降機構4を介してトラクタの走行車体1(以下単に車体と称する)に連結されている。
【0025】
図3に示すように、左右一対の前輪1a、左右一対の後輪1bによって支持された車体1の前部にエンジン11が搭載され、車体1の後部にトランスミッション3が配置されている。このトラクタは、四輪駆動型であり、トランスミッション3からの動力を前輪に伝達する前輪デフ装置13と、後輪に伝達する後輪デフ装置14が設けられている。
【0026】
図4に示す操縦部2には、前輪1aを操向操作するステアリングハンドル21、運転座席22、左右の後輪1bを独立または共通に制動可能な、左右一対のブレーキペダル23が配置されている。運転座席22の右横側の前側に昇降レバー24が配置されている。昇降レバー24は任意の操作位置に保持可能であり、昇降レバー24の操作位置は位置センサ24aによって検出される。
【0027】
昇降機構4は、ロータリ耕耘装置15を車体1に昇降制御可能かつローリング制御可能に連結する。
図3及び
図5に示すように、昇降機構4は、トップリンク41、左右一対のロアリンク42、左右一対のリフトアーム43、リフトシリンダ44、ローリングシリンダ46、連係ロッド45を備えている。トップリンク41及びロアリンク42の一端は、車体1に、この実施形態ではトランスミッション3のハウジング3aの後部にブラケットを介して上下揺動自在に連結されている。トップリンク41及びロアリンク42の他端端は、ロータリ耕耘装置15に連結されている。リフトアーム43は、ハウジング3aの上部に上下揺動自在に連結されている。リフトシリンダ44は各リフトアーム43を上下に揺動駆動する単動型シリンダである。ローリングシリンダ46は、一端を右のリフトアーム43に、他端を右のロアリンク42に連結している複動型のシリンダである。連係ロッド45は、左のリフトアーム43と左のロアリンク42との間を連結している。トラクタ機体に対するリフトアーム43の上下角度は角度センサ43aによって検出される。ローリングシリンダ46の伸縮長さは、ストロークセンサ35によって検出される。
【0028】
この実施の形態では、車体1に対するロータリ耕耘装置15のローリング角を検出するためにストロークセンサ35が用いられている。地面に対するロータリ耕耘装置15のローリング角は、車体側に設けられている傾斜センサ32aによって検出される検出値とストロークセンサ35による検出値とから算出される。したがって、地面に対するロータリ耕耘装置15のローリング角を制御値とするローリング制御の場合には、傾斜センサ32aと角度センサ43aとがローリング角検出器32として機能する。
【0029】
ロータリ耕耘装置15には、後部カバー15aが上下に揺動自在に取り付けられている。後部カバー15aはバネ15bにより下方に付勢されており、この後部カバー15aの揺動角がロータリ耕耘装置15の耕耘深さに対応する。この揺動角は、角度センサ15cによって検出される。
【0030】
以上の構造により、左右のリフトシリンダ44を伸縮作動させると、左右のリフトアーム43が揺動し、その結果ロータリ耕耘装置15が昇降する。また、油圧式のローリングシリンダ46を伸縮作動させると、左のロアリンク42を支点としたロータリ耕耘装置15のローリング調整がおこなわれる。つまり、この実施形態では、ローリングシリンダ46がロータリ耕耘装置15を車体1に対してローリングさせる油圧アクチュエータとして機能する。
【0031】
このロータリ耕耘装置15に対する耕耘制御は、
図6に模式的に示された制御ユニット5によって行われる。この制御ユニット5は、ECUとも呼ばれるコンピュータユニットであり、プログラムの起動により種々の機能を実現することができる。その機能の一例は、ポジション制御機能、昇降制御機能、ドラフト制御機能、ローリング制御機能などであるが、ここでは本発明に関係するローリング制御機能だけを説明する。このローリング制御機能は、制御ユニット5内に実質的にはプログラムで構築されているローリング制御モジュール50によって実現する。
【0032】
制御ユニット5の入力ポートには、上述した、昇降レバー用位置センサ24a、後部カバー用角度センサ15c、リフトアーム用角度センサ43a、傾斜センサ32a、ストロークセンサ35、さらにこれ以外のセンサ群として、ローリング角調節ダイヤル61、回転数センサ33、牽引負荷センサ34、なども接続されている。ローリング角調節ダイヤル61はロータリ耕耘装置15の目標ローリング角を設定するための操作デバイスである。回転数センサ33はエンジン11の回転数を検出する。牽引負荷センサ34は左右のロアリンク42の基部に掛かる牽引負荷を検出する。上述したように、傾斜センサ32aとストロークセンサ35は、ローリング角検出器32として機能する。
【0033】
また、制御ユニット5から、昇降機構4の油圧回路を構成する弁などに対する駆動信号が介して出力されるが、
図6では、リフトシリンダ44のためのリフト制御弁44aとローリングシリンダ46のための電磁油圧弁46aとに対する駆動信号線だけが図示されている。
【0034】
この実施の形態では、ロータリ耕耘装置15が作業状態であることまたは非作業状態であることを判別する作業状態検知部31も制御ユニット5内に実質的にはプログラムで構築されている。作業状態検知部31は、昇降機構4によるロータリ耕耘装置15の高さに対応する、リフトアーム43の上下角度を検出する角度センサ43aからの信号を利用している。つまり、作業状態検知部31は、ロータリ耕耘装置15が地面から持ち上げられている場合には、「作業状態」と判定し、そうでない場合には、「非作業状態」と判定する。
【0035】
ローリング制御モジュール50によって実行されるローリング制御において、基準面(地面または車体基準面)に対するロータリ耕耘装置15のローリング角がローリング角調節ダイヤル61の設定値に維持されるように、電磁油圧弁46aによりローリングシリンダ46が動作される。その際、このローリング制御では、実質的には、
図1を用いて説明されたローリング制御の基本原理が採用されている。
【0036】
図7に示すように、ローリング制御モジュール50には、ローリング角偏差算出部51と、不感帯設定部52と、予備制御用デューティー比マップ53と、本制御用デューティー比マップ54と、ローリング制御管理部55と、駆動信号生成部56とが備えられている。ローリング角偏差算出部51は、傾斜センサ32aとストロークセンサ35とからなるローリング角検出器32から得られる地面に対するロータリ耕耘装置15のローリング角(
図7ではθrで示されている)と、ローリング角調整ダイヤル61によって設定される目標ローリング角((
図7ではθtで示されている)とから偏差(
図7ではΔθで示されている)を算出する。不感帯設定部52には、ローリング角偏差算出部51で算出された偏差がローリング制御を実行するべき大きさであるかどうかを決定するためのしきい値が設定されている。このしきい値は、操作デバイスによって人為的に設定可能であるが、装備される対地作業装置の種類やその作業状態によって自動選択される。この実施形態では、ロータリ耕耘装置15が「作業状態」または「非作業状態」によって異なるしきい値が設定されている。具体的には、作業状態検知部31で「作業状態」が検知されている時に用いられる作業状態時しきい値は、「非作業状態」が検知されている時に用いられる非作業状態時しきい値より小さい値が設定されている。
【0037】
予備制御用デューティー比マップ53は、予備制御モードにおいて用いられるデューティー比を導出する制御マップである。この実施形態ではローリング角の偏差にかかわらず導出されるデューティー比は一定値であり、ロータリ耕耘装置15の「作業状態」が検知されている時のデューティー比は100%であり、「非作業状態」が検知されている時のデューティー比は20%である。つまり、作業時予備制御モードで用いられるデューティー比は、非作業時予備制御モードで用いられるデューティー比よりはるかに大きく設定されている。
【0038】
本制御用デューティー比マップ54は、従来から一般的
に用いられているローリング制御マップであり、ローリング角の偏差の値に応じてデューティー比が設定されている。その関係は、偏差が大きくなるほどデューティー比が大きくなる単調増加関係であるが、もちろんデューティー比の最大値が100%で制限されている。
【0039】
ローリング制御管理部55は、ローリング角偏差算出部51で算出された偏差が不感帯設定部52で設定されているしきい値を超えた場合、ローリング制御を実行し、実ローリング角を目標ローリング角に近づける。その際、ローリング制御の開始時、具体的には80から100ミリ秒の間は、予備制御モードでローリング制御を行い、その後は本制御モードでローリング制御を行う。さらに、予備制御モードには、作業状態検知部31で「作業状態」が検知されている時に採用される作業時予備制御モードと、「非作業状態」が検知されている時に採用される非作業時予備制御モードとがある。作業時予備制御モードでは、予備制御用デューティー比マップ53から作業時予備制御のためのデューティー比が読み出される。ここでは、ローリング角偏差算出部51で算出された偏差と関係なく、読み出されるデューティー比は100%である。この100%デューティー比が、駆動信号生成部56に与えられる。
【0040】
これに対して、非作業時予備制御モードでは、初期制限値として、例えば5%から40%まで時間経過とともに増加するデューティー比が読み出されるが、最初の初期制限値である5%デューティー比がそのまま駆動信号生成部56に与えられるわけではない。この5%デューティー比は、ローリング角偏差算出部51で算出された偏差に応じて本制御用デューティー比マップ54から導出されるデューティー比と比較され、その小さい方が採用される。例えば、その時の偏差から導出されるデューティー比が30%なら、5%デューティー比が採用され、駆動信号生成部56に与えられる。時間が経過した時の偏差から導出されるデューティー比が15%なら、初期制限値としてのデューティー比が10%なら、なお10%デューティー比が採用され、駆動信号生成部56に与えられる。さらに、時間が経過して、偏差から導出されるデューティー比が30%で、初期制限値としてのデューティー比が40%なら、30%デューティー比が採用される。初期制限値は時間経過とともに大きくなるように設定されているので、所定時間が経過すれば、本制御モードと同様に、偏差から導出されるデューティー比が採用される。なお、予備制御用デューティー比マップ53及び本制御用デューティー比マップ54から導出されるデューティー比が不変である場合には、両者から導出されるデューティー比を比較するのではなく、予め比較して求められたデューティー比をマップ化しておいてもよい。
【0041】
予備制御モード後に実行される本制御モードでは、ローリング角偏差算出部51で算出された偏差に応じて本制御用デューティー比マップ54から導出されるデューティー比がそのまま採用され、駆動信号生成部56に与えられる。駆動信号生成部56は、ローリング制御管理部54から転送されたデューティー比を用いて電磁油圧弁46aを動作させる駆動信号を生成する。電磁油圧弁46aは、駆動信号生成部56からの駆動信号に基づいてスプールをデューティー比に基づく比例制御することで、ローリングシリンダ46を操作し、実ローリング角を目標ローリング角に近づける。
【0042】
上述したような、ローリング制御時に本制御モードに先立って実行される予備制御モードにより、走行作業中などでロータリ耕耘装置15が作業状態であれば、瞬間的に電磁油圧弁46aに100%に近いデューティー比の駆動信号が与えられる。これにより、ローリング制御の応答性や制御速度が改善される。逆に、トラクタの停止中や旋回走行中である非作業状態では、始動段階でのそのような大きなデューティー比の駆動信号は、急激にロータリ耕耘装置15を動かし、大きなショックやハンチングをもたらす。これを防ぐため、非作業状態では、0%に近い、小さなデューティー比の駆動信号が電磁油圧弁46aに与えられる。
【0043】
ただし、作業状態であっても、前回のローリング制御との時間間隔が短い場合、油圧配管や電磁油圧弁46aなどに圧油が満たされているので、必ずしも始動段階で大きなデューティー比の駆動信号を電磁油圧弁46aに与える必要がない。このため、前回のローリング制御との時間間隔に応じて、作業時予備制御モードを省略するか、または作業時予備制御モードにおけるデューティー比を低減するように構成してもよい。
【0044】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、ローリング制御開始時の流量は、前もって設定されたデューティー比を用いた予備制御モードで調整されたが、これに代えて、ローリング制御開始時の所定期間だけ、本制御モードで用いられるデューティー比に調整係数を乗じた調整デューティー比を用いるような形態を採用してもよい。そのような調整係数として、作業時では1を超える係数を用いて開始時だけは大きな流量が流れるようにし、非作業時では1未満の係数を用いて開始時だけは小さな流量が流れるようにすることができる。
(2)
図3から
図7を用いた、上述の具体的な実施形態では、非作業時には非作業時予備制御モードが採用されていたが、
図2を用いて説明したような、非作業時には非作業時予備制御モードを用いずにすぐに本制御モードによるローリング制御を実施するような構成を採用してもよい。
(3)上述した実施形態では、作業状態検知部31は、リフトアーム43の上下角度を検出する角度センサ43aからの信号を用いて、ロータリ耕耘装置15が上昇している時は「作業状態」、ロータリ耕耘装置15が下降している時は「非作業状態」と判定するように構成されていた。つまり判別イベントとしてロータリ耕耘装置15の昇降位置が利用されていた。これに代えて、作業状態検知部31が、
(a)車速がゼロ以外の場合「作業状態」、車速がゼロの場合「非作業状態」、
(b)変速装置の変速位置が前進位置の場合「作業状態」、後進位置の場合「非作業状態」、
(c)ロータリ耕耘装置15へ回転動力を伝達するPTO軸に設けられたPTOクラッチが入り位置の場合「作業状態」、切り位置の場合「非作業状態」、
となるように、構成されてもよい。さらには、上述した判別イベントの組み合わせによって、「作業状態」「非作業状態」を検知するように構成してもよい。
(4)上述した実施形態では、作業状態検知部31が制御ユニット5内に構築されていたが、制御ユニット5から外して、スイッチやセンサなどからの信号を入力として作業状態を示す信号を出力する独立したモジュールとして構成してもよい。また、角度センサ43aなどの上述したイベントを検出するスイッチやセンサを作業状態検知部31として構成してもよい。
(5)上述した実施形態では、地面に対するローリング角を検出するローリング角検出器32を傾斜センサ32aとストロークセンサ35とで構成し、ローリング角検出器32からローリング制御モジュール50にローリング角が入力された。これに代えて、ローリング角検出器32を制御ユニット5内に構築して、傾斜センサ32aとストロークセンサ35から検出信号を入力されるようにしてもよい。また、傾斜センサ32aをローリング角検出器32としてもよい。
(6)
図7に示すように、ローリング制御モジュール50に構築された各機能部は、主に説明目的で区分けされているので、これらの機能部の統合化あるいは分散化は本発明の範囲内で可能である。