(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943904
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】電流拡散層を有する発光ダイオードチップ
(51)【国際特許分類】
H01L 33/14 20100101AFI20160621BHJP
H01L 33/10 20100101ALI20160621BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20160621BHJP
H01L 33/48 20100101ALI20160621BHJP
【FI】
H01L33/00 150
H01L33/00 130
H01L33/00 184
H01L33/00 400
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-504213(P2013-504213)
(86)(22)【出願日】2011年4月8日
(65)【公表番号】特表2013-524547(P2013-524547A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011055566
(87)【国際公開番号】WO2011128277
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年4月8日
【審判番号】不服2015-18888(P2015-18888/J1)
【審判請求日】2015年10月20日
(31)【優先権主張番号】102010014667.6
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】サンドグレン ペトラス
(72)【発明者】
【氏名】バウアー エルマー
(72)【発明者】
【氏名】ホーエンアドラー マルチン
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン クレメンス
【合議体】
【審判長】
恩田 春香
【審判官】
▲高▼ 芳徳
【審判官】
星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−281559(JP,A)
【文献】
特開2007−103725(JP,A)
【文献】
特表2010−525585(JP,A)
【文献】
特開2006−287223(JP,A)
【文献】
特開2002−190619(JP,A)
【文献】
特開2007−189242(JP,A)
【文献】
特表2004−506331(JP,A)
【文献】
特開2006−344710(JP,A)
【文献】
特開昭52−124885(JP,A)
【文献】
特開昭51−149784(JP,A)
【文献】
特開平10−335696(JP,A)
【文献】
特開平7−307489(JP,A)
【文献】
特開2001−185755(JP,A)
【文献】
特開平4−212479(JP,A)
【文献】
実開昭58−92751(JP,U)
【文献】
特開2005−276899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化物化合物半導体材料を含んでいる半導体積層体(5)を備えた発光ダイオードチップであって、前記半導体積層体(5)が
− p型半導体領域(2)と、
− n型半導体領域(4)と、
− 前記p型半導体領域(2)と前記n型半導体領域(4)との間に配置されており、電磁放射を放出する役割を果たす活性層(3)と、
を含んでおり、
前記n型半導体領域(4)が前記発光ダイオードチップの放射出口領域(6)の側にあり、前記p型半導体領域(2)が前記発光ダイオードチップのキャリア(7)の側にある、発光ダイオードチップにおいて、
前記キャリア(7)と前記p型半導体領域(2)との間に、500nm未満の厚さを有する電流拡散層(1)が配置されており、前記電流拡散層が、1層または複数層のp型にドープされたAlxGa1−xAs層(0.5<x≦1)層を有し、
前記電流拡散層(1)が傾斜側端面(12)を有し、前記傾斜側端面(12)が、前記電流拡散層(1)の層平面に対して20゜〜70゜の範囲内(両端値を含む)の角度だけ傾いている、
ことを特徴とする、発光ダイオードチップ。
【請求項2】
前記電流拡散層(1)が、300nm未満の厚さを有する、
請求項1に記載の発光ダイオードチップ。
【請求項3】
前記電流拡散層(1)のアルミニウムの割合xについて、0.6≦x≦0.8が成り立つ、
請求項1または請求項2に記載の発光ダイオードチップ。
【請求項4】
前記電流拡散層(1)が、1×1019cm−3より高いドーパント濃度を有する、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項5】
前記電流拡散層(1)が、少なくとも5×1019cm−3のドーパント濃度を有する、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項6】
前記電流拡散層(1)がCによってドープされている、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項7】
側端面(11)を含んだ前記電流拡散層(1)に封止層(8)が設けられている、
請求項1から請求項6のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項8】
前記封止層(8)が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、または金属を含んでいる、
請求項7に記載の発光ダイオードチップ。
【請求項9】
前記電流拡散層(1)に少なくとも1本の溝(13)が形成されている、
請求項1から請求項8のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項10】
前記少なくとも1本の溝(13)が、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化亜鉛、または金属によって満たされている、
請求項9に記載の発光ダイオードチップ。
【請求項11】
前記少なくとも1本の溝(13)が前記p型半導体領域(2)の中まで達している、
請求項9または請求項10に記載の発光ダイオードチップ。
【請求項12】
InxGayAl1−x−yAs(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)からなる少なくとも1層が、前記電流拡散層(1)に隣接しており、前記少なくとも1層が、前記電流拡散層(1)よりも小さいバンドギャップと、より低いドーパント濃度とを有する、
請求項1から請求項11のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項13】
前記半導体積層体(5)から成長基板が分離されており、前記キャリア(7)が、前記半導体積層体(5)の成長基板とは異なる、
請求項1から請求項12のいずれかに記載の発光ダイオードチップ。
【請求項14】
前記キャリア(7)が、シリコン、モリブデン、またはゲルマニウムを含んでいる、
請求項13に記載の発光ダイオードチップ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発光ダイオードチップにおいては、活性層を通る電流の流れをできる限り均一にする目的で、良好な導電率を有する半導体材料からなる比較的厚い電流拡散層が、一般的には電気コンタクトと発光半導体積層体との間に配置されている。
【0002】
一例として、特許文献1には、発光領域がリン化物化合物半導体をベースとしており、p−AlGaAsからなる電流拡散層が電気コンタクトと発光領域との間に配置されている発光ダイオードチップが開示されている。電流拡散層の厚さは、1μm〜10μmの範囲内である。
【0003】
このようなAlGaAsからなる比較的厚い電流拡散層の場合、良好な電流拡散層を得ることができるが、その一方で、放出された放射のかなりの割合が吸収されることが判明した。特に、放出される放射の波長が短い、もしくは電流拡散層におけるアルミニウムの割合が低い、またはその両方の場合には、厚い電流拡散層による吸収を無視することができない。さらには、電流拡散層におけるアルミニウムの割合が増大すると、発光ダイオードチップが受ける湿気の影響も大きくなることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,426,518号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光の吸収が小さいと同時に湿気の影響を受けにくい電流拡散層を備えた発光ダイオードチップを開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1による発光ダイオードチップによって達成される。従属請求項は、本発明の有利な構造形態および発展形態に関する。
【0007】
少なくとも一実施形態によると、本発光ダイオードチップは、リン化物化合物半導体材料を含んだ半導体積層体を備えている。この半導体積層体は、特に、In
xGa
yAl
1−x−yP(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)からなる複数の層を備えている。
【0008】
半導体積層体は、特に、p型リン化物化合物半導体領域と、n型リン化物化合物半導体領域と、p型リン化物化合物半導体領域とn型リン化物化合物半導体領域との間に配置されており、電磁放射を放出する役割を果たす活性層と、を含んでいる。
【0009】
活性層は、例えば、pn接合、ダブルヘテロ構造、多重ヘテロ構造、単一量子井戸構造、または多重量子井戸構造として具体化することができる。この場合、量子井戸構造という表現は、閉じ込めの結果として電荷キャリアにおいてエネルギ状態の量子化が起こる任意の構造を包含する。特に、量子井戸構造という表現は、量子化の次元について何らかの指定を行うものではない。したがって、量子井戸構造には、特に、量子井戸、量子細線、または量子ドットと、これらの構造の任意の組合せと、が含まれる。
【0010】
本発光ダイオードチップの場合、n型半導体領域が発光ダイオードチップの放射出口領域の側にあり、p型半導体領域が発光ダイオードチップのキャリアの側にある。本発光ダイオードチップは、いわゆる薄膜発光ダイオードチップであり、半導体積層体の成長に使用された成長基板が発光ダイオードチップから分離されていることが好ましい。元の成長基板は、特に、半導体積層体のn型半導体領域から分離することができる。発光ダイオードチップは、元の成長基板とは反対側のp型半導体領域の面において、例えばはんだ付け結合によってキャリアに結合されていることが好ましい。この場合、キャリアは、半導体積層体の成長基板とは異なり、シリコン、モリブデン、またはゲルマニウムを含んでいることが好ましい。従来のLED(一般的にはn型半導体領域が基板の側にあり、p型半導体領域が放射出口領域の側にある)とは異なり、本発光ダイオードチップの場合、p型半導体領域がキャリアの側にあり、n型半導体領域が放射出口領域の側にある。
【0011】
キャリアとp型半導体領域との間には、500nm未満の厚さを有する電流拡散層が配置されており、この電流拡散層は、1層または複数層のp型にドープされたAl
xGa
1−xAs層(0.5<x≦1)からなる。
【0012】
電流拡散層がキャリアとp型半導体領域との間に配置されていることによって、電流拡散層が発光ダイオードチップの放射出口面において周囲媒体(特に空気)に隣接している場合よりも、酸化もしくは湿気の作用またはその両方に対して電流拡散層が良好に保護される。
【0013】
さらには、厚さが500nm未満である電流拡散層は、比較的厚い電流拡散層よりも、酸化や湿気による影響を受けにくい。AlGaAS層の一部分が酸化すると層の体積が増す、という事実に基づいている。厚さが500nm未満である電流拡散層の場合、より厚い層の場合よりもこの効果が小さい。
【0014】
さらには、電流拡散層の厚さが500nm未満と小さいため、電流拡散層に要求される成長時間が短縮され、これは有利である。電流拡散層の成長は高い温度で行われるため、成長時間が短縮されることによって、隣接する半導体積層体から電流拡散層への不純物の拡散(例えば、半導体積層体のp型半導体領域からのドーパント(例:Mg、Zn)の拡散)も減少する。
【0015】
さらには、電流拡散層の厚さが500nm未満と小さいことによって、電流拡散層における光の吸収が減少し、これは有利である。したがって、半導体積層体の活性層において放出される放射のうち電流拡散層およびキャリアの方向に放出された放射が、電流拡散層によって吸収される程度は、大幅に厚い電流拡散層の場合よりも小さい。キャリアの方向に放出された放射は、キャリアの上に配置されているミラー層によって、発光ダイオードチップの放射出口面に向かう方向に反射されることが好ましい。
【0016】
さらには、電流拡散層を形成している1層または複数層のp型にドープされたAl
xGa
1−xAs層のアルミニウムの割合xが>0.5であるため、電流拡散層における光の吸収も比較的小さく、これは有利である。アルミニウムの割合が比較的大きいため、電流拡散層は比較的大きい電子バンドギャップを有し、これにより放射の吸収が減少する。
【0017】
好ましい一構造形態においては、電流拡散層は、300nm未満の厚さを有する。これによって、酸化もしくは湿気の作用またはその両方に対する電流拡散層の安定性がさらに向上し、光の吸収も減少する。
【0018】
電流拡散層におけるアルミニウムの割合xについて、0.6≦x≦0.8が成り立つならば、特に有利である。この場合、特に、電流拡散層における小さい光の吸収を達成することができる。
【0019】
電流拡散層は、Al
xGa
1−xAsからなる単一の層とする、または、Al
xGa
1−xAsからなる複数の部分層とすることができる。電流拡散層が複数の部分層からなる場合、本明細書に記載されている電流拡散層の有利な構造は、部分層全体を対象として適用される。特に、複数の部分層からなる電流拡散層の厚さは、全体で500nm未満、特に好ましくは全体で300nm未満である。
【0020】
電流拡散層は、1×10
19cm
−3より高いドーパント濃度を有することが有利である。電流拡散層におけるドーパント濃度は、少なくとも5×10
19cm
−3であることが、特に好ましい。高いドーパント濃度の結果として、電流拡散層における高い導電率が得られ、これは有利である。
【0021】
好ましい一構造形態においては、電流拡散層は、ドーパントとしてCを含んでいる。AlGaAs層におけるドーパントとしてCを使用するとき、良好な再現性において高いドーパント濃度が得られることが判明し、これは有利である。
【0022】
さらなる好ましい構造形態においては、側端面(side flank)を含んでいる電流拡散層に、封止層が設けられている。封止層は、特に、酸化ケイ素、窒化ケイ素、透明導電性酸化物(例えば酸化亜鉛)、または金属を含んでいることができる。電流拡散層の側端面に封止層を設けることができるようにする目的で、例えば封止層を形成する前に、電流拡散層を構造化することができる。構造化するステップでは、一例として、電流拡散層の縁部領域を除去することができる。したがって、その後にコーティング法によって形成される封止層が電流拡散層の側端面も覆う。さらに封止層は、特に、環境的な影響、特に酸化もしくは湿気の作用またはその両方によって電流拡散層が受ける影響を減少させる。封止層は、異なる部分領域が異なる材料を含んでいることが可能である。一例として、封止層の特定の部分領域を電気絶縁性材料(例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素)から形成する一方で、封止層の別の領域を導電性材料(例えば酸化亜鉛)から、または金属から形成することができる。この場合、封止層のうち導電性の部分領域は、特に、電流拡散層に電流を印加する役割を果たす。
【0023】
さらなる好ましい構造形態においては、電流拡散層は、傾斜側端面(oblique side flank)を有し、傾斜側端面は、電流拡散層の層平面に対して20゜〜70゜の範囲内(両端値を含む)の角度だけ傾いている。このようにすることで、オプトエレクトロニクス部品からの放射の取り出しを改善することができる。特に、電流拡散層の傾斜側端面はマイクロプリズムとして機能することができ、活性層において放出される放射のうちキャリアの方向に放出された放射は、このマイクロプリズムによって発光ダイオードチップの放射出口面の方に反射される。傾斜側端面がリン化物化合物半導体積層体の中まで達して、半導体積層体の1層または複数の層が傾斜側端面を含んでいることも可能である。
【0024】
さらなる有利な構造形態においては、電流拡散層に少なくとも1本の溝が形成されている。少なくとも1本の溝は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化亜鉛、または金属によって満たされていることが好ましい。電流拡散層の溝の領域において、これら充填材料はp型半導体領域に直接隣接している。溝を利用することで、半導体積層体の中の電流経路を所望の様式で定義することが可能である。また、少なくとも1本の溝がp型リン化物化合物半導体領域の中まで達することも可能であり、これは有利である。
【0025】
さらなる有利な構造形態においては、In
xGa
yAl
1−x−yAs(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)からなる少なくとも1層が、電流拡散層に隣接しており、この層は、電流拡散層よりも小さいバンドギャップと、電流拡散層よりも低いドーパント濃度とを有する。この場合、小さいバンドギャップおよび低いドーパント濃度を有する層と、電流拡散層と、の間の界面において、伝導帯および価電子帯のバンド端の曲がりが起こる。これにより、高い伝導性を有する2次元正孔ガス(hole gas)が形成される。このようにすることで、電荷キャリアの濃度および移動性が高い領域を、所望の様式で形成することができる。
【0026】
電流拡散層の少なくとも1層のAlGaAs層は、1種類または複数種類の少量のさらなる元素を含んでいることが可能である。この場合、電流拡散層における、この1種類または複数種類のさらなる元素の割合は、10%未満である。1種類または複数種類のさらなる元素は、ドーパント、または周期表のIII族またはV族の少量のさらなる材料とすることができる。
【0027】
以下では、本発明について、例示的な実施形態に基づいて
図1〜
図5を参照しながらさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の例示的な実施形態による発光ダイオードチップの断面の概略図を示している。
【
図2】第2の例示的な実施形態による発光ダイオードチップの断面の概略図を示している。
【
図3】第3の例示的な実施形態による発光ダイオードチップの断面の概略図を示している。
【
図4】第4の例示的な実施形態による発光ダイオードチップの断面の概略図を示している。
【
図5】第5の例示的な実施形態による発光ダイオードチップの断面の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図面において、同じ要素または同じ機能の要素には、同じ参照記号を付してある。個々の要素の大きさ、および要素の間の大きさの関係は、正しい縮尺ではないものとみなされたい。
【0030】
図1に示した薄膜発光ダイオードチップは、p型半導体領域2およびn型半導体領域4を備えた半導体積層体5を含んでいる。p型半導体領域2とn型半導体領域4との間には活性層3が配置されている。活性層3は、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有することが好ましい。
【0031】
半導体積層体5は、リン化物化合物半導体をベースとしており、すなわち、半導体積層体5に含まれている半導体層は、特に、In
xGa
yAl
1−x−yP(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)を含んでいる。特に、p型半導体領域2、活性層3、およびn型半導体領域4は、リン化物化合物半導体材料から形成されている。
【0032】
この発光ダイオードチップは、いわゆる薄膜LEDであり、半導体積層体5を成長させるために使用された成長基板が半導体積層体5から分離されている。特に、n型半導体領域4から成長基板を分離することができ、分離した後、n型半導体領域4は発光ダイオードチップの放射出口領域6を有する。元の成長基板および放射出口領域6とは反対側の面において、発光ダイオードチップはキャリア7に結合されており、キャリア7は、シリコン、ゲルマニウム、またはモリブデンを含んでいることが好ましい。したがって、この薄膜発光ダイオードチップの場合、n型半導体領域4が放射出口領域6の側にあり、p型半導体領域2がキャリア7の側にある。
【0033】
キャリア7とp型リン化物化合物半導体領域2との間には電流拡散層1が配置されている。電流拡散層1は、p型にドープされたAl
xGa
1−xAs層(0.5<x≦1)であり、500nm未満の厚さを有する。
【0034】
電流拡散層1の厚さは、300nm未満であることが好ましい。電流拡散層1におけるアルミニウムの割合xについて、0.6≦x≦0.8が成り立つことが好ましい。
【0035】
電流拡散層1は、キャリア7の側の面において、少なくとも一部分が電気コンタクト9に隣接している。発光ダイオードチップの少なくとも1つのさらなる電気コンタクト9は、例えば、発光ダイオードチップの放射出口面6(キャリア7とは反対側)に配置されている。電流拡散層1は、好ましくは1×10
19cm
−3より高いドーパント濃度、特に好ましくは5×10
19cm
−3より高いドーパント濃度を有する。このようにすることで電流拡散層1の高い横方向導電率が得られ、したがって、例えば、電流拡散層1の小さい中央領域のみに裏側コンタクト9が形成されている場合にも、半導体積層体5を通る電流の流れが比較的均一である。
【0036】
電流拡散層1は、その厚さが500nm未満、好ましくは300nm未満と小さく、かつアルミニウム含有率が0.5以上と高いことによって、光の吸収性が小さく、これは有利である。さらには、このような薄い電流拡散層1は、一般には厚さ1μm以上の従来の比較的厚い電流拡散層よりも、酸化や湿気の作用によって影響されにくいことが判明した。電流拡散層1では、厚さが小さいにもかかわらず良好な電流拡散が得られる。この場合、電流拡散層1のドーパント濃度が少なくとも1×10
19cm
−3、特に好ましくは少なくとも5×10
19cm
−3であるならば有利である。
【0037】
p型半導体領域2に隣接している電流拡散層1は、キャリア7とp型半導体領域2との間に配置されているならばさらに有利である。なぜならこの配置構造の場合、電流拡散層1が発光ダイオードチップの表面において周囲媒体に隣接している場合よりも、酸化や湿気などの外部の影響に対して良好に保護されるためである。
【0038】
電流拡散層1を、Al
xGa
1−xAs(0.5<x≦1)からなる複数の部分層(図示していない)から構成することが可能であり、これらの部分層は、例えばドーパント濃度もしくはアルミニウム含有率またはその両方に関して互いに異なっていることができる。この場合、本出願においては、部分層の全体を電流拡散層1とみなし、したがって特に、すべての部分層の合計厚さが、500nm未満、好ましくは300nm未満である。電流拡散層1、または電流拡散層1の部分層が、少量の追加材料(ただし全体に対する割合は10%未満)を有することも考えられる。
【0039】
電流拡散層1を外部の影響に対してさらに良好に保護する目的で、好ましくは側端面11を含んだ電流拡散層1に、封止層8が設けられている。封止層8は、特に、透明誘電材料(例えば窒化ケイ素、酸化ケイ素)を含んでいることができる。しかしながら、これに代えて、封止層8が透明導電性酸化物(例えば酸化亜鉛または金属)を含んでいることも可能である。特に、誘電材料からなる封止層8の場合、電流拡散層1の側の電気コンタクト9を、封止層8の切欠き部に配置することができる。
【0040】
封止層8、電気コンタクト層9と、キャリア7との間には、金属または金属合金からなる積層体10が配置されている。この金属層10は、例えば、活性層3からキャリア7の方向に放出された放射を反射するためのミラー層を含んでいてもよい。さらには、金属層10は、発光ダイオードチップをキャリア7に結合するためのはんだ層を含んでいてもよい。
【0041】
図2に示した発光ダイオードチップの例示的な実施形態は、
図1の例示的な実施形態と異なる点として、電流拡散層1が傾斜側端面12を有する。傾斜側端面12は、電流拡散層1の層平面に対して20゜〜70゜の範囲内(両端値を含む)の角度を形成していることが好ましい。電流拡散層1の傾斜側端面12によって、発光ダイオードチップからの放射の取り出しを改善できることが判明した。電流拡散層1の屈折率と封止層8の屈折率とが異なるため、傾斜側端面12は反射器として機能し、放射を放射出口領域6の方向に反射することができる。特に、電流拡散層1の対向する傾斜側端面12がマイクロプリズムを形成することが可能である。傾斜側端面12が半導体積層体5の中に達することも可能である(図示していない)。
【0042】
それ以外の有利な構造形態に関しては、
図2に示した例示的な実施形態は、第1の例示的な実施形態と同じである。
【0043】
図3に示した発光ダイオードチップの例示的な実施形態は、
図1の例示的な実施形態と異なる点として、発光ダイオードチップの側端面の領域において金属積層体10がp型半導体領域2まで達している。結果として、側端面11を含んだ電流拡散層1が封止層8によって囲まれており、封止層8が金属積層体10によって囲まれている。このようにすることで、酸化または湿気の作用に対する電流拡散層1の特に良好な耐性が得られる。
【0044】
図3に示した発光ダイオードチップの例示的な実施形態は、
図1に示した例示的な実施形態とさらに異なる点として、In
xGa
yAl
1−x−yAs層14(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)が電流拡散層1に隣接している。In
xGa
yAl
1−x−yAs層14は、電流拡散層1よりも低いドーパント濃度と、より小さいバンドギャップとを有する。In
xGa
yAl
1−x−yAs層14は、電流拡散層1とp型半導体領域2との間に配置されていることが好ましい。In
xGa
yAl
1−x−yAs層14には、より高濃度でドープされている電流拡散層1との界面において、ポテンシャル井戸(potential well)が形成され、この井戸の中では、正孔としての自由電荷キャリアが蓄積する。正孔は、In
xGa
yAl
1−x−yAs層14において、いわゆる2次元正孔ガスを形成する。このようにすることで、In
xGa
yAl
1−x−yAs層14において特に高い横方向導電率が得られる。
【0045】
図4に示した発光ダイオードチップの例示的な実施形態の場合、電流拡散層1に2本の溝13が形成されており、これらの溝13の中に封止層8が突き出している。溝13の間に配置されている電流拡散層1の領域は、電気コンタクト9と金属積層体10とによって導電接続されている。これとは異なり、電流拡散層1の縁部領域1a,1bは電気的に接続されていない。このようにすることで、発光ダイオードチップの領域のうち、放射出口領域の縁部領域に配置されたコンタクト9の下に位置する領域において、放射の生成が減少する。
【0046】
図5は、発光ダイオードチップのさらなる例示的な実施形態を示しており、電流拡散層1に2本の溝が形成されている。この溝において、金属積層体10がp型半導体領域2の中まで達している。コンタクト9の領域の外側では、金属積層体10が封止層8によって電流拡散層1から絶縁されている。
【0047】
ここまで、本発明について例示的な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。本発明は、任意の新規の特徴および特徴の任意の組合せを包含しており、特に、請求項における特徴の任意の組合せを含んでいる。これらの特徴または特徴の組合せは、それ自体が請求項あるいは例示的な実施形態に明示的に記載されていない場合であっても、本発明に含まれる。
【0048】
本特許出願は、独国特許出願第102010014667.6号の優先権を主張し、この文書の開示内容は参照によって本出願に組み込まれている。