(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受光部は、前記測定試料に光が照射されたときに前記測定試料中の細胞から生じる前方散乱光及び側方散乱光を受光して、受光された前方散乱光に関する前方散乱光信号及び受光された側方散乱光に関する側方散乱光信号を含む前記散乱光信号を出力するように構成されており、
前記細胞分析部は、前記蛍光信号と、前記前方散乱光信号及び前記側方散乱光信号の少なくとも一方とに基づき、所定範囲の蛍光強度及び散乱光強度を示す細胞を、異常リンパ球として検出するように構成されている、
請求項1に記載の血液分析装置。
前記受光部は、前記測定試料に光が照射されたときに前記測定試料中の細胞から生じる前方散乱光及び側方散乱光を受光して、受光された前方散乱光に関する前方散乱光信号及び受光された側方散乱光に関する側方散乱光信号を含む前記散乱光信号を出力するように構成されており、
前記細胞分析部は、前記前方散乱光信号、前記側方散乱光信号、及び前記蛍光信号から選択される少なくとも2つに基づいて、異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して芽球を検出するように構成されている、
請求項1又は2に記載の血液分析装置。
前記細胞分析部は、前記前方散乱光信号及び前記側方散乱光信号に基づき、所定範囲の前方散乱光強度及び側方散乱光強度を示す細胞を、異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して芽球として検出するように構成されている、
請求項3に記載の血液分析装置。
前記試料調製部は、カチオン性界面活性剤を実質的に含まずノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を含む前記溶血剤、血液検体、及び前記蛍光色素を混合して測定試料を調製するように構成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の血液分析装置。
前記細胞分析部は、前記検出処理として、前記第2蛍光信号および前記第2散乱光信号に基づき、第2所定範囲の蛍光強度および散乱光強度を示す細胞の数に基づく値を取得する取得処理を行い、取得した値が所定の閾値を超えない場合に、前記所定範囲の蛍光強度および散乱光強度を示す細胞を異常リンパ球として検出する、
請求項6に記載の血液分析装置。
前記蛍光信号及び前記散乱光信号を取得するステップにおいて、光が前記測定試料に照射されたときに前記測定試料中の細胞から生じる蛍光、前方散乱光及び側方散乱光を受光して、受光された蛍光に関する前記蛍光信号と、受光された前方散乱光に関する前方散乱光信号及び受光された側方散乱光に関する側方散乱光信号を含む前記散乱光信号とを取得し、
前記異常リンパ球を検出するステップにおいて、前記蛍光信号と、前記前方散乱光信号及び前記側方散乱光信号の少なくとも一方とに基づき、所定範囲の蛍光強度及び散乱光強度を示す細胞を、異常リンパ球として検出する、
請求項10に記載の血液分析方法。
前記蛍光信号及び前記散乱光信号を取得するステップにおいて、光が前記測定試料に照射されたときに前記測定試料中の細胞から生じる蛍光、前方散乱光及び側方散乱光を受光して、受光された蛍光に関する前記蛍光信号と、受光された前方散乱光に関する前方散乱光信号及び受光された側方散乱光に関する側方散乱光信号を含む前記散乱光信号を取得し、
前記前方散乱光信号、前記側方散乱光信号、及び前記蛍光信号から選択される少なくとも2つに基づいて、異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して芽球を検出するステップをさらに有する、
請求項10又は11に記載の血液分析方法。
前記芽球を検出するステップにおいて、前記前方散乱光信号及び前記側方散乱光信号に基づき、所定範囲の前方散乱光強度及び側方散乱光強度を示す細胞を、異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して芽球として検出する、
請求項12に記載の血液分析方法。
前記測定試料を調製するステップにおいて、カチオン性界面活性剤を実質的に含まずノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を含む前記溶血剤、血液検体、及び前記蛍光色素を混合して測定試料を調製する、
請求項10乃至13の何れか1項に記載の血液分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0033】
(実施の形態1)
[血液分析装置の構成]
図1は、本実施の形態に係る血液分析装置の外観を示す斜視図である。本実施の形態に係る血液分析装置1は、血液検体に含まれる血球である白血球、赤血球、血小板等を検出し、各血球を計数する多項目血球分析装置である。
図1に示すように、血液分析装置1は、測定ユニット2と、測定ユニット2の前面側に配置された検体搬送ユニット4と、測定ユニット2及び検体搬送ユニット4を制御可能な情報処理ユニット5とを備えている。
【0034】
患者から採取された末梢血である血液検体は、検体容器(採血管)に収容される。複数の検体容器がサンプルラックに保持され、このサンプルラックが検体搬送ユニット4により搬送されて、血液検体が測定ユニット2へ供給される。
【0035】
<測定ユニットの構成>
測定ユニットの構成について説明する。
図2は、測定ユニットの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、測定ユニット2は、検体である血液を検体容器(採血管)Tから吸引する検体吸引部21と、検体吸引部21により吸引した血液から測定に用いられる測定試料を調製する試料調製部22と、試料調製部22により調製された測定試料から血球を検出する検出部23とを有している。また、測定ユニット2は、検体搬送ユニット4のラック搬送部43によって搬送されたサンプルラックLに収容された検体容器Tを測定ユニット2の内部に取り込むための取込口(
図1参照)と、サンプルラックLから検体容器Tを測定ユニット2の内部に取り込み、検体吸引部21による吸引位置まで検体容器Tを搬送する検体容器搬送部25とをさらに有している。
【0036】
図2に示すように、検体吸引部21は、吸引管211を有している。また、検体吸引部21はシリンジポンプを備えている。また、吸引管211は、鉛直方向に移動可能であり、下方に移動されることにより、吸引位置まで搬送された検体容器T内の血液を吸引するように構成されている。
【0037】
試料調製部22は、混合チャンバMCを備えている。吸引管211は、シリンジポンプによって検体容器Tから所定量の全血検体を吸引し、吸引された検体は、混合チャンバMCへ移送され、前記シリンジポンプによって、混合チャンバMCへ所定量の全血検体を供給する。また、試料調製部22は、混合チャンバMCを加温するためのヒータHを備えている。
【0038】
試料調製部22は、第1試薬を収容する試薬容器221a、第2試薬を収容する試薬容器221b、及びシース液(希釈液)を収容する試薬容器223にチューブを介して接続されている。また、試料調製部22はコンプレッサに接続されており、当該コンプレッサにより発生される圧力により試薬容器221a,221b,223からそれぞれの試薬を分取することが可能となっている。
【0039】
第1試薬は、異常リンパ球、異型リンパ球、及び芽球を区別して検出するため溶血剤である。第1試薬としては、ノニオン性界面活性剤を含み、カチオン性界面活性剤を実質的に含まないものが使用できる。この溶血剤を使用することで、赤血球を溶血し、正常白血球及び異常単核球(異型リンパ球、異常リンパ球、及び芽球)の細胞膜に損傷を与えることができる。このため、正常白血球及び異常単核球は後述する蛍光色素により染色されやすくなる。
【0040】
なお、「異常リンパ球(abnormal lymphocyte)」とは腫瘍性の成熟リンパ球を指す。この異常リンパ球は、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫等の疾患のある患者の末梢血中に出現する。また、「異型リンパ球(atypical lymphocyte)」とは、抗原刺激により活性化したリンパ球で、刺激に反応して形態変化したものを指す。この異型リンパ球は、ウイルス感染症、薬物アレルギー等の疾患のある患者の末梢血中に出現する。
【0041】
また、「芽球」とは、骨髄芽球(myeloblast)及びリンパ芽球(lymphblast)等の未成熟な白血球を指す。骨髄芽球は、急性骨髄性白血病の患者の末梢血中に出現し、リンパ芽球は、急性リンパ性白血病の患者の末梢血中に出現する。
【0042】
ここで、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好ましい。具体的なポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤としては、以下の構造式(I)
R1−R2−(CH2CH2O)n−H(I)
(式中、R1は炭素数9〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり、R2は−O−、−COO−又は
【化1】
であり、nは10〜40の整数である)
【0043】
上記の構造式(I)で表される具体的な界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(15)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテルなど挙げられ、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルが好ましい。なお、第1試薬は、界面活性剤を1種類又は2種類以上含むことができる。
【0044】
第1試薬に含まれる界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類、溶血剤の浸透圧等に応じて適宜選択できる。例えば、界面活性剤がポリオキシエチレンオレイルエーテルである場合、第1試薬に含まれる界面活性剤の濃度は、0.5〜50.0g/Lであり、好ましくは1.0〜20.0g/Lである。
【0045】
なお、第1試薬は、溶血した赤血球を十分に収縮させて測定に影響をおよぼさないゴースト集団にするために、上述のノニオン性界面活性剤以外に可溶化剤を含むことができる。この可溶化剤は、ノニオン性界面活性剤による赤血球の溶血作用を補助するために用いられる。第1試薬に含まれる可溶化剤としてはアニオン性界面活性剤を用いることができ、サルコシン誘導体、コール酸誘導体、メチルグルカンアミド、n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレート、N−ホルミルメチルロイシルアラニンなどが挙げられ、特にサルコシン誘導体が好ましい。なお、第1試薬は、可溶化剤を1種類又は2種類以上含むことができる。
【0046】
サルコシン誘導体としては、以下の構造式(II)
【化2】
(式中、R1はC10−22のアルキル基であり、nは1〜5である。)
で示される化合物及びその塩が挙げられる。具体的なサルコシン誘導体としては、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシンなどが挙げられ、特にN−ラウロイルサルコシン酸ナトリウムが好ましい。
【0047】
コール酸誘導体としては、以下の構造式(III)
【化3】
(式中、R1は水素原子又は水酸基である。)
で示される化合物及びその塩が挙げられる。具体的なコール酸誘導体としては、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO([(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)などが挙げられる。
【0048】
メチルグルカンアミドとしては、以下の構造式(IV)
【化4】
(式中、nは5〜7である。)
で示される化合物が挙げられる。具体的なメチルグルカンアミドとしては、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)などが挙げられる。
【0049】
第1試薬に含まれる可溶化剤の濃度は、用いる可溶化剤の種類に応じて適宜選択できる。例えば、可溶化剤としてサルコシン誘導体を用いる場合、第1試薬に含まれる可溶化剤の濃度は、0.05〜3.0g/Lであり、好ましくは0.1〜1.0g/Lである。コール酸誘導体を用いる場合、第1試薬に含まれる可溶化剤の濃度は、0.1〜10.0g/Lであり、好ましくは0.2〜2.0g/Lである。メチルグルカンアミドを用いる場合、第1試薬に含まれる可溶化剤の濃度は、1.0〜8.0g/Lであり、好ましくは2.0〜6.0g/Lである。n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレート、N−ホルミルメチルロイシルアラニンを用いる場合、第1試薬に含まれる可溶化剤の濃度は、0.01〜50.0g/Lであり、好ましくは0.05〜30.0g/Lである。
【0050】
第1試薬のpHは、5.0〜9.0が好ましく、より好ましくは6.5〜7.5、さらに好ましくは6.8〜7.3である。第1試薬のpHは、緩衝剤又はpH調整剤で調整できる。緩衝剤としては、例えばHEPES、MOPS(3-morpholinopropanesulfonic acid)又はMOPSO(2-Hydroxy-3-morpholinopropanesulfonic
acid)などのグッド緩衝剤、リン酸緩衝剤などが挙げられる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸などが挙げられる。
【0051】
第1試薬の浸透圧は、上述の界面活性剤の種類及び第1試薬中の濃度に応じて、適宜設定することができる。具体的な第1試薬の浸透圧としては、10〜600mOsm/kgが挙げられる。また、第1試薬の浸透圧は、糖類、アミノ酸、塩化ナトリウムなどを第1試薬に添加することにより調整してもよい。具体的な糖類としては、単糖類、多糖類、糖アルコールなどが挙げられる。単糖類としては、グルコース、フルクトースが好ましい。多糖類としては、アラビノースが好ましい。糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、リビトールが好ましい。ここで、第1試薬に添加する糖類としては、糖アルコールが好ましく、特にキシリトールが好ましい。キシリトールを第1試薬に添加する場合、キシリトールの第1試薬中の濃度は、1.0〜75.0g/L、特に20.0〜50.0g/Lが好ましい。具体的なアミノ酸としては、バリン、プロリン、グリシン、アラニンなどが挙げられ、特にグリシン、アラニンが好ましい。グリシンを第1試薬に添加する場合、グリシンの第1試薬中の濃度は、1.0〜50.0g/L、特に10.0〜30.0g/Lが好ましい。
【0052】
また、第1試薬の電気伝導度は、0.01〜3mS/cmが好ましく、特に0.1〜2mS/cmが好ましい。さらに第1試薬には、キレート剤又は防腐剤などを添加することもできる。キレート剤としては、EDTA−2K、EDTA−3Naなどが挙げられる。防腐剤としては、Proxel GXL(Avecia社製)、マテリアルTKM−A(株式会社エーピーアイ コーポレーション)などが挙げられる。
【0053】
上述した第1試薬を使用することで、正常白血球及び異常単核球は、後述する蛍光色素により染色されやすくなり、さらに異常単核球は、異常リンパ球、異型リンパ球、芽球の間で染色の度合い及び細胞の大きさ等に差異が生じる。このため、血球由来の蛍光信号(蛍光強度)と散乱光信号(散乱光強度)に基づいて、異常単核球を異常リンパ球、異型リンパ球、芽球に区別して検出することができる。
【0054】
第2試薬は、血液試料中の有核細胞を蛍光染色するための染色液である。かかる第2試薬には、核酸を染色できる蛍光色素が含有されている。この蛍光色素としては、核酸を蛍光染色できるものであれば特に限定されない。このような色素を用いることにより、核酸を持たない赤血球はほとんど染色されず、核酸を有する異常リンパ球等の有核の血球は染色される。なお、核酸を染色できる蛍光色素は、光源から照射される光によって適宜選択することができる。核酸を染色できる蛍光色素としては、例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3‐[[4‐[[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]メチレン]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐1‐イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO−1)、4‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐2(3H)‐イリデン)メチル]‐1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO−PRO−1)、N,N,N',N'‐テトラメチル‐N,N'‐ビス[3‐[4‐[3‐[(3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム)‐2‐イル]‐2‐プロペニリデン]‐1,4‐ジヒドロキノリン‐1‐イル]プロピル]‐1,3‐プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO−3)、又は2‐[3‐[[1‐[3‐(トリメチルアミニオ)プロピル]‐1,4‐ジヒドロキノリン]‐4‐イリデン]‐1‐プロペニル]‐3‐メチルベンゾチアゾール‐3‐イウム・ジヨージド(TO−PRO−3)、及び以下の構造式(V)〜(XVIII)で示される蛍光色素が挙げられる。
【0055】
<構造式(V)>
【化5】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル基であり;nは1又は2であり;X−はアニオンであり;Zは硫黄原子、酸素原子、又は低級アルキル基で置換された炭素原子である)。
【0056】
構造式(V)中、低級アルキル基とは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。具体的な低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。また、Zとしては、硫黄原子が好ましい。X−におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4−、BCl4−、BBr4−など)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環ハロゲン或いはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオンなどが挙げられ、ヨウ素イオンが好ましい。
【0057】
構造式(V)で示されるもののうち、特に好ましい核酸を染色できる蛍光色素は、次の構造式(VI)で示されるNK−321である。
【化6】
【0058】
<構造式(VII)>
【化7】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル基であり;nは1又は2であり;X−はアニオンである)。
【0059】
構造式(VII)における低級アルキル基、並びにX−のアニオンは、構造式(V)と同様である。
【0060】
構造式(VII)で示されるもののうち、特に好ましい核酸を染色できる蛍光色素は、次の構造式(VIII)により示される。
【化8】
【0061】
<構造式(IX)>
【化9】
(式中、R1は水素原子又は低級アルキル基であり;R2及びR3は水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基であり;R4は水素原子、アシル基又は低級アルキル基であり;R5は水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基であり;Zは硫黄原子、酸素原子、又は低級アルキル基で置換された炭素原子であり;nは1又は2であり;X−はアニオンである)。
【0062】
構造式(IX)における低級アルキル基、並びにX−のアニオンは、構造式(V)と同様である。低級アルコキシ基は、炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。具体的な低級アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられ、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。アシル基としては、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましい。具体的なアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。置換されていてもよい低級アルキル基の置換基としては、水酸基及びハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)が挙げられる。置換されていてもよい低級アルキル基は、1〜3個の置換基で置換されることができる。置換されていてもよい低級アルキル基としては、特に1個の水酸基で置換された低級アルキル基が好ましい。なお、Zとしては硫黄原子が好ましく、X−は、臭素イオン又はBF4−が好ましい。
【0063】
構造式(IX)で示されるもののうち、特に好ましい核酸を染色できる蛍光色素は、以下の3つの構造式(X)〜(XII)により示される。
【化10】
【0066】
<構造式(XIII)>
【化13】
(式中、X1及びX2は、独立してCl又はIである)
【0068】
<構造式(XV)>(NK−1570)
【化15】
【0069】
<構造式(XVI)>(NK−1049)
【化16】
【0070】
<構造式(XVII)>(NK−98)
【化17】
【0071】
<構造式(XVIII)>(NK−141)。
【化18】
【0072】
上記の核酸を染色できる蛍光色素のうち、第2試薬に含まれる特に好ましい蛍光色素は、次の構造式(XIX)で示されるNK−321である。
【化19】
【0073】
上記の核酸を染色できる蛍光色素の第2試薬中の濃度は、10〜500mg/Lが好ましく、特に30〜100mg/Lが好ましい。なお、第2試薬は、核酸を染色できる蛍光色素を1種類又は2種類以上含むことができる。
【0074】
検出部23は、フローサイトメトリー法により検体の測定を行うことができる光学検出器Dを有している。光学検出器Dによる検体測定においては、血液検体、第1試薬、及び第2試薬が混合された測定試料が光学検出器Dに供給され、このときに光学検出器Dによって測定試料中の血球から光学情報(蛍光強度、前方散乱光強度及び側方散乱光強度)が検出される。検体測定によって得られた光学情報は情報処理ユニット3に供給され、これによって血液検体中に異常リンパ球が存在するか否か、及び芽球が存在するか否かが判定される。
【0075】
図3は、光学検出器Dの概要構成を示している。この光学検出器Dは、フローセル231に測定試料及びシース液を送り込み、フローセル231中に液流を発生させ、フローセル231内を通過する液流に含まれる血球に半導体レーザ光を照射して測定するものであり、シースフロー系232、ビームスポット形成系233、前方散乱光受光系234、側方散乱光受光系235、蛍光受光系236を有している。
【0076】
シースフロー系232は、測定試料をフローセル231内にシース液に包まれた状態で流すように構成されている。ビームスポット形成系233は、半導体レーザ237から照射された光が、コリメータレンズ238とコンデンサレンズ239とを通って、フローセル231に照射されるよう構成されている。また、ビームスポット形成系233は、ビームストッパ240も備えている。
【0077】
前方散乱光受光系234は、前方への散乱光を前方集光レンズ241によって集光し、ピンホール242を通った光をフォトダイオード(前方散乱光受光部)243で受光するように構成されている。
【0078】
側方散乱光受光系235は、側方への散乱光を側方集光レンズ244にて集光するとともに、一部の光をダイクロイックミラー245で反射させ、フォトダイオード(側方散乱光受光部)246で受光するよう構成されている。
【0079】
光散乱は、光の進行方向に血球のような粒子が障害物として存在すると、粒子により光がその進行方向を変えることによって生じる現象である。この散乱光を検出することによって、粒子の大きさや材質に関する情報を得ることができる。特に、前方散乱光からは、粒子(血球)の大きさに関する情報を得ることができる。また、側方散乱光からは、粒子内部の情報を得ることができる。血球粒子にレーザ光が照射された場合、側方散乱光強度は細胞内部の複雑さ(核の形状、大きさ、密度や顆粒の量)に依存する。したがって、これら散乱光強度は、白血球の分類、芽球の検出等に利用することができる。
【0080】
蛍光受光系236は、ダイクロイックミラー245を透過した光をさらに分光フィルタ247に通し、アバランシェフォトダイオード(蛍光受光部)248で受光するよう構成されている。
【0081】
蛍光物質により染色された血球に光を照射すると、照射した光の波長より長い波長の光を発する。蛍光の強度はよく染色されていれば強くなり、この蛍光強度を測定することによって血球の染色度合いに関する情報を得ることができる。したがって、蛍光強度の差は、白血球の検出、異常リンパ球の検出、芽球の検出等に利用することができる。
【0082】
次に、
図2に戻って、検体容器搬送部25の構成について説明する。検体容器搬送部25は、検体容器Tを把持可能なハンド部25aを備えている。ハンド部25aは、互いに対向して配置された一対の把持部材を備えており、この把持部材を互いに近接及び離反させることが可能である。かかる把持部材を、検体容器Tを挟んだ状態で近接させることにより、検体容器Tを把持することができる。また、検体容器搬送部25は、ハンド部25aを上下方向及び前後方向(Y方向)に移動させることができ、さらに、ハンド部25aを揺動させることができる。これにより、サンプルラックLに収容され、検体供給位置43aに位置した検体容器Tをハンド部25aにより把持し、その状態でハンド部25aを上方に移動させることによりサンプルラックLから検体容器Tを抜き出し、ハンド部25aを揺動させることにより、検体容器T内の検体を撹拌することができる。
【0083】
また、検体容器搬送部25は、検体容器Tを挿入可能な穴部を有する検体容器セット部25bを備えている。上述したハンド部25aによって把持された検体容器Tは、撹拌完了後移動され、把持した検体容器Tを検体容器セット部25bの穴部に挿入する。その後、把持部材を離反させることにより、ハンド部25aから検体容器Tが開放され、検体容器セット部25bに検体容器Tがセットされる。かかる検体容器セット部25bは、図示しないステッピングモータの動力によって、図中Y1及びY2方向へ水平移動可能である。
【0084】
測定ユニット2の内部には、バーコード読取部26が設けられている。検体容器セット部25bは、バーコード読取部26の近傍のバーコード読取位置26a及び検体吸引部21による吸引位置21aへ移動可能である。検体容器セット部25bがバーコード読取位置26aへ移動したときには、バーコード読取部26により検体バーコードが読み取られる。また、検体容器セット部25bが吸引位置へ移動したときには、検体吸引部21により、セットされた検体容器Tから検体が吸引される。
【0085】
<情報処理ユニットの構成>
次に、情報処理ユニット5の構成について説明する。情報処理ユニット5は、コンピュータにより構成されている。
図4は、情報処理ユニット5の構成を示すブロック図である。情報処理ユニット5は、コンピュータ5aによって実現される。
図4に示すように、コンピュータ5aは、本体51と、画像表示部52と、入力部53とを備えている。本体51は、CPU51a、ROM51b、RAM51c、ハードディスク51d、読出装置51e、入出力インタフェース51f、通信インタフェース51g、及び画像出力インタフェース51hを備えており、CPU51a、ROM51b、RAM51c、ハードディスク51d、読出装置51e、入出力インタフェース51f、通信インタフェース51g、及び画像出力インタフェース51hは、バス51jによって接続されている。
【0086】
CPU51aは、RAM51cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、後述するような血液分析用並びに測定ユニット2及び検体搬送ユニット4の制御用のコンピュータプログラム54aを当該CPU51aが実行することにより、コンピュータ5aが情報処理ユニット5として機能する。
【0087】
ハードディスク51dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU51aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。後述する処理をCPUに実行させるためのコンピュータプログラム54aも、このハードディスク51dにインストールされている。また、このコンピュータプログラム54aは、イベントドリブン型のコンピュータプログラムである。
【0088】
読出装置51eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体54に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体54には、コンピュータを情報処理ユニット5として機能させるためのコンピュータプログラム54aが格納されており、コンピュータ5aが当該可搬型記録媒体54からコンピュータプログラム54aを読み出し、当該コンピュータプログラム54aをハードディスク51dにインストールすることが可能である。
【0089】
また、ハードディスク51dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のマルチタスクオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係るコンピュータプログラム54aは当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0090】
入出力インタフェース51fは、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又はIEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース51fには、キーボード及びマウスからなる入力部53が接続されており、ユーザが当該入力部53を使用することにより、コンピュータ5aにデータを入力することが可能である。また、入出力インタフェース51fは、測定ユニット2及び検体搬送ユニット4に接続されている。これにより、情報処理ユニット5は、測定ユニット2及び検体搬送ユニット4のそれぞれを制御可能となっている。
【0091】
通信インタフェース51gは、Ethernet(登録商標)インタフェースである。通信インタフェース51gはLANを介してホストコンピュータ6に接続されている(
図2参照)。コンピュータ5aは、通信インタフェース51gにより、所定の通信プロトコルを使用して当該LANに接続されたホストコンピュータ6との間でデータの送受信が可能である。
【0092】
[血液分析装置の検体測定動作]
以下、本実施の形態に係る血液分析装置1の動作について説明する。血液分析装置1は、光学検出器Dを用いた検体測定を実行可能である。かかる検体測定の工程は、測定試料を測定する測定工程と、測定工程によって得られた測定データを解析処理するデータ処理工程によって構成される。
【0093】
まず、検体容器Tを保持したサンプルラックLがオペレータによって検体搬送ユニット4に載置される。検体搬送ユニット4によってサンプルラックLが搬送され、測定対象の検体が収容されている検体容器Tが検体供給位置43aに位置する。次に、測定ユニット2のハンド部25aにより、当該検体容器Tが把持され、サンプルラックLからこの検体容器Tが取り出される。ハンド部25aはその後揺動運動を行い、検体容器Tの内部の検体が撹拌される。次に、検体容器セット部25bにこの検体容器Tが挿入され、Y方向へと検体容器セット部25bが移動し、バーコード読取部26による検体バーコード読み取りを行った後、吸引位置に到達する。その後、以下の測定工程が実行される。
【0094】
測定工程
まず、測定工程について説明する。血液分析装置1は、測定工程では、全血検体(17.0μL)と第1試薬(1000μL)と第2試薬(20μL)とを混合して測定試料を作成し、この測定試料を光学検出器Dにてフローサイトメトリー法によって測定する。
【0095】
ここで、本実施の形態においては、第1試薬として、以下に示される試薬が用いられる。
<第1試薬>
MOPS 2.09g/L
ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル 1.25g/L
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.268g/L
EDTA−2K 0.5g/L
上記各成分を混合しさらにNaOHを添加してpHを7.3に調製した。第1試薬の浸透圧は37mOsm/Kg、電気伝導度は0.745mS/cmであった。
<第2試薬>
NK−321 50mg/L
エチレングリコールに溶解されたNK−321(50mg/L)を第2試薬とした。
【0096】
図5は、測定工程での血液分析装置1の動作手順を示すフローチャートである。まず、CPU51aは、検体吸引部21を制御して、吸引管211により検体容器Tの全血検体を定量吸引する(ステップS101)。ステップS101の処理は、具体的には、吸引管211が検体容器Tの中に挿入され、シリンジポンプの駆動によって、全血検体が定量(39.0μL)吸引される。
【0097】
次に、CPU51aは、測定ユニット2を制御することにより、試薬容器221aから第1試薬(1000μL)を、試薬容器221bから第2試薬(20μL)を、吸引管211から全血検体(17.0μL)を、混合チャンバMCにそれぞれ供給する(ステップS102)。このステップS102において混合チャンバMCに供給される検体は、上述したステップS101において吸引管211により吸引された全血検体の一部である。
【0098】
次に、CPU51aは、混合チャンバMCへの第1試薬、第2試薬及び全血検体の供給から18.5秒間経過したか否かを判定し(ステップS103)、18.5秒間待機する。ここで、ヒータにより混合チャンバMCは34.0℃に加温されており、これにより、第1試薬と第2試薬と血液検体との混合液が34.0℃で18.5秒加温され、測定試料が調製される。
【0099】
そして、測定試料を対象に光学検出器Dにて光学測定が行われる(ステップS104)。ステップS104の処理においては、具体的には、測定試料とシース液とが同時に光学検出器Dのフローセル231に供給され、そのときの前方散乱光がフォトダイオード243で受光され、側方散乱光がフォトダイオード246で受光され、蛍光がアバランシェフォトダイオード248で受光される。この光学測定では、光源として、励起波長633nmの赤色半導体レーザを用い、蛍光シグナルは650nm以上の波長の蛍光(赤蛍光)を検出した。このような光学検出器Dの各受光素子により出力される出力信号(アナログ信号)は、図示しないA/D変換器によりデジタル信号に変換され、所定の信号処理が施されてデジタルデータである測定データに変換され、情報処理ユニット5にこの測定データが送信される。この信号処理においては、測定データに含まれる特徴パラメータとして、前方散乱光信号(前方散乱光強度)、側方散乱光信号(側方散乱光強度)、及び蛍光信号(蛍光強度)が得られる。これにより、測定工程が終了する。また、後述するように、情報処理ユニット5のCPU51aは、測定データに対して所定の解析処理を実行することにより、異常リンパ球又は芽球を検出し、この検出結果を含む分析結果データを生成し、ハードディスク51dに分析結果データを記憶する。
【0100】
データ処理工程
次に、データ処理工程について説明する。
図6は、本実施の形態に係る血液分析装置のデータ処理工程での処理手順を示すフローチャートである。血液分析装置1の情報処理ユニット5は、測定ユニット2から測定データを受信する(ステップS201)。CPU51aによって実行されるコンピュータプログラム54aはイベントドリブン型のプログラムであり、測定データを受信するイベントが発生すると、ステップS202の処理が呼び出される。
【0101】
ステップS202において、CPU51aは、測定データを用いて異常リンパ球の細胞群(以下、「異常リンパ球群」という。)を検出し、検出された異常リンパ球群に含まれる血球数CN1を計数する(ステップS202)。
【0102】
ステップS202の処理を模式図を用いて説明する。
図7は、測定ユニット2から受信した前方散乱光強度及び蛍光強度の測定データを2次元平面上にプロットした場合に得られるスキャッタグラムの模式図であり、
図8は、測定ユニット2から受信した蛍光強度及び側方散乱光強度の測定データを2次元平面上にプロットした場合に得られるスキャッタグラムの模式図である。これらのスキャッタグラムでは、図に示す原点Oからの距離に応じて強度が大きくなるように示されている。
図7に示すスキャッタグラムでは、芽球のクラスター、顆粒球(好中球と好酸球と好塩基球とからなる血球群)のクラスター、リンパ球のクラスター、及び単球のクラスターが現れる。また、
図8に示すスキャッタグラムでも、芽球のクラスター、顆粒球のクラスター、リンパ球のクラスター、及び単球のクラスターが現れる。
【0103】
本実施の形態においては、
図7において破線で示す前方散乱光強度及び蛍光強度の範囲を、異常リンパ球群の検出領域A1として定める。
図7に示すように、検出領域A1は、リンパ球及び単球の出現領域よりも蛍光強度が高い部分に設けられる。本願発明者らは、臨床検体を使用した実験を行い、実験結果の詳細な検討を実施した結果、この検出領域A1及び
図8に示す領域A11において異常リンパ球が出現し、
図7に示す領域A21及び
図8に示す領域A22において芽球が出現することを見出した。
図8に示す領域A11も、リンパ球及び単球の出現領域よりも蛍光強度が高い領域である。
図7に示す領域A21及び
図8に示す領域A22は、リンパ球及び単球の出現領域よりも蛍光強度が低い領域である。また、発明者らは、詳細に実験結果を評価した結果、異型リンパ球は、上述した領域A1、A11、A21、及びA22の何れにも出現せず、正常白血球の出現領域に出現することを見出した。したがって、
図7に示す領域A1又は
図8に示す領域A11を用いることで、異常リンパ球を異型リンパ球及び芽球と区別して検出できることが分かった。ステップS202においては、上述した検出領域A1の内部に出現する細胞群が異常リンパ球群として検出され、血球数CN1が計数される。
【0104】
次にCPU51aは、CN1が所定の閾値T1より大きいか否かを判定する(ステップS203)。閾値T1は、血液検体中に異常リンパ球が存在するか否かを判定するための基準値である。ステップS203では、CN1が閾値T1よりも大きい場合には、血液検体中に異常リンパ球が存在すると判定され、CN1が閾値T1以下の場合には、血液検体中に異常リンパ球が存在しないと判定される。
【0105】
ステップS203において、CN1>T1の場合には(ステップS203においてYES)、CPU51aは、RAM51cに設けられた異常リンパ球フラグに「1」をセットし、芽球フラグに「0」をセットする(ステップS204)。ここで、異常リンパ球フラグは血液検体における異常リンパ球の有無を示すフラグであり、「1」がセットされている場合には異常リンパ球が存在していることを示し、「0」がセットされている場合には異常リンパ球が存在していないことを示す。また、芽球フラグは血液検体における芽球の有無を示すフラグであり、「1」がセットされている場合には芽球が存在していることを示し、「0」がセットされている場合には芽球が存在していないことを示す。その後、CPU51aは、ステップS209へ処理を移す。
【0106】
一方、ステップS203において、CN1≦T1の場合には(ステップS203においてNO)、CPU51aは、測定データを用いて芽球の細胞群(以下、「芽球群」という。)を検出し、検出された芽球群に含まれる血球数CN2を計数する(ステップS205)。
【0107】
ステップS205の処理について詳しく説明する。
図9は、測定ユニット2から受信した前方散乱光強度及び側方散乱光強度の測定データを2次元平面状にプロットした場合に得られるスキャッタグラムの模式図である。
図9に示すスキャッタグラムでは、顆粒球のクラスター、リンパ球のクラスター、及び単球のクラスターが現れる。また、本実施の形態においては、
図9において破線で示す前方散乱光強度及び側方散乱光強度の範囲を、芽球群の検出領域A2として定める。
図9に示すように、検出領域A2は、リンパ球の出現領域よりも前方散乱光強度が高い部分に設けられる。本願発明者らは、臨床検体を使用した実験を行い、実験結果の詳細な検討を実施した結果、この検出領域A2において芽球が出現し、異常リンパ球及び異型リンパ球が出現しないことを見出した。したがって、検出領域A2を用いることで、芽球を異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して検出できることが分かった。ステップS205においては、上述した検出領域A2の内部に出現する細胞群が芽球群として検出され、血球数CN2が計数される。なお、上述したように、
図7に示す領域A21及び
図8に示す領域A22において芽球が出現し、これらの領域には異常リンパ球及び異型リンパ球が出現しないことも本願発明者らは見出している。そのため、領域A21又は領域A22を用いて、芽球を異常リンパ球及び異型リンパ球と区別して検出してもよい。
【0108】
次にCPU51aは、CN2が所定の閾値T2より大きいか否かを判定する(ステップS206)。閾値T2は、血液検体中に芽球が存在するか否かを判定するための基準値である。ステップS206では、CN2が閾値T2よりも大きい場合には、血液検体中に芽球が存在すると判定され、CN2が閾値T2以下の場合には、血液検体中に芽球が存在しないと判定される。
【0109】
CN2>T2の場合には(ステップS206においてYES)、CPU51aは、RAM51cに設けられた芽球フラグに「1」をセットし、異常リンパ球フラグに「0」をセットする(ステップS207)。その後、CPU51aは、ステップS208へ処理を移す。
【0110】
一方、CN2≦T2の場合には(ステップS206においてNO)、CPU51aは、RAM51cに設けられた異常リンパ球フラグ及び芽球フラグのそれぞれに「0」をセットする(ステップS208)。その後、CPU51aは、ステップS209へ処理を移す。
【0111】
ステップS209において、CPU51aは、上述のようにして得た分析結果(異常リンパ球フラグ及び芽球フラグを含む)をハードディスク51dに格納する。次にCPU51aは、ハードディスク51dに記憶した分析結果を示す分析結果画面を画像表示部52に表示させ(ステップS210)、処理を終了する。
【0112】
次に、具体的な血液検体を測定したときのスキャッタグラムの例を示し、本実施の形態に係る血液分析装置1による測定データの分析について説明する。
図10A〜
図10Eは、血液分析装置1による測定条件と実質的に同じ測定条件で得られたスキャッタグラムの例を示す図である。
図10Aは、骨髄芽球を含有する血液検体Aを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。
図10Bは、リンパ芽球を含有する血液検体Bを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。
図10Cは、異常リンパ球を含有する血液検体Cを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。
図10Dは、異型リンパ球を含有する血液検体Dを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。また、
図10Eは、正常な血液検体Eを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。
【0113】
図10Aに示すように、血液検体Aの測定データにおける前方散乱光強度及び蛍光強度のスキャッタグラム(異常リンパ球検出用のスキャッタグラム)SG11では、異常リンパ球の検出領域A1に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない(ごく僅かだけ存在しているが、血球数が閾値T1を超えていない)。
図10Aには、血液検体Aの測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG12も参考として示している。このスキャッタグラムSG12においても、異常リンパ球の出現領域A11には、実質的に血球が存在していないことが分かる。さらに、血液検体Aの測定データにおける前方散乱光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラム(芽球検出用のスキャッタグラム)SG13では、芽球の検出領域A2に、検出された血球に対応する粒子が存在している。つまり、このスキャッタグラムSG13から分かるように、血液検体Aからは芽球群が検出される。よって、本実施の形態に係る血液分析装置1が血液検体Aを分析したときには、CN1≦T1且つCN2>T2となり、芽球が存在すると判定される。
【0114】
血液検体Aに対し、用手法による検査(顕微鏡を使用した目視検査)を実施したところ、全白血球数に対する骨髄芽球の割合が15%であり、同じくリンパ芽球、異常リンパ球、及び異型リンパ球の割合がそれぞれ0%であった。したがって、血液分析装置1による血液検体Aの芽球の検出は妥当であることが分かる。
【0115】
図10Bに示すように、血液検体Bの測定データにおける異常リンパ球検出用のスキャッタグラムSG21では、異常リンパ球の検出領域A1に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。
図10Bには、血液検体Bの測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG22も参考として示している。このスキャッタグラムSG22においても、異常リンパ球の出現領域A11には、実質的に血球が存在していないことが分かる。さらに、血液検体Bの測定データにおける芽球検出用のスキャッタグラムSG23では、芽球の検出領域A2に、検出された血球に対応する粒子が存在している。つまり、このスキャッタグラムSG23から分かるように、血液検体Bからは芽球群が検出される。よって、本実施の形態に係る血液分析装置1が血液検体Bを分析したときには、CN1≦T1且つCN2>T2となり、芽球が存在すると判定される。
【0116】
血液検体Bに対し、用手法による検査を実施したところ、全白血球数に対するリンパ芽球の割合が23.5%であり、同じく骨髄芽球、異常リンパ球、及び異型リンパ球の割合がそれぞれ0%であった。したがって、血液分析装置1による血液検体Bの芽球の検出は妥当であることが分かる。
【0117】
図10Cに示すように、血液検体Cの測定データにおける異常リンパ球検出用のスキャッタグラムSG31では、異常リンパ球の検出領域A1に、検出された血球に対応する粒子が存在している。
図10Cには、血液検体Cの測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG32も参考として示している。このスキャッタグラムSG32においても、異常リンパ球の出現領域A11には、血球が存在していることが分かる。さらに、血液検体Cの測定データにおける芽球検出用のスキャッタグラムSG33では、芽球の検出領域A2に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。つまり、スキャッタグラムSG31及びSG32から分かるように、血液検体Cからは異常リンパ球群が検出される。よって、本実施の形態に係る血液分析装置1が血液検体Cを分析したときには、CN1>T1となり、異常リンパ球が存在すると判定される。
【0118】
血液検体Cに対し、用手法による検査を実施したところ、全白血球数に対する異常リンパ球の割合が9%であり、同じく骨髄芽球、リンパ芽球、及び異型リンパ球の割合がそれぞれ0%であった。したがって、血液分析装置1による血液検体Cの異常リンパ球の検出は妥当であることが分かる。
【0119】
図10Dに示すように、血液検体Dの測定データにおける異常リンパ球検出用のスキャッタグラムSG41では、異常リンパ球の検出領域A1に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。
図10Dには、血液検体Dの測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG42も参考として示している。このスキャッタグラムSG42においても、異常リンパ球の出現領域A11には、血球が実質的に存在していないことが分かる。さらに、血液検体Dの測定データにおける芽球検出用のスキャッタグラムSG43では、芽球の検出領域A2に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。つまり、スキャッタグラムSG41及びSG43から分かるように、血液検体Dからは異常リンパ球群及び芽球群の何れも検出されない。よって、本実施の形態に係る血液分析装置1が血液検体Dを分析したときには、CN1≦T1且つCN2≦T2となり、異常リンパ球及び芽球が存在しないと判定される。
【0120】
血液検体Dに対し、用手法による検査を実施したところ、全白血球数に対する異型リンパ球の割合が7%であり、同じく骨髄芽球、リンパ芽球、及び異常リンパ球の割合がそれぞれ0%であった。したがって、血液分析装置1が血液検体Dから芽球及び異常リンパ球を検出しなかったことは妥当であることが分かる。
【0121】
以上のように、異常リンパ球が含まれ、芽球及び異型リンパ球が含まれない血液検体が血液分析装置1により測定されたときには、異常リンパ球が検出され、芽球は検出されない。同じく、芽球が含まれ、異常リンパ球及び異型リンパ球が含まれない血液検体が血液分析装置1により測定されたときには、芽球が検出され、異常リンパ球は検出されない。また、異型リンパ球が含まれ、異常リンパ球及び芽球が含まれない血液検体を測定したときには、異常リンパ球及び芽球は検出されない。つまり、実施の形態に係る血液分析装置1によれば、異常リンパ球及び芽球をそれぞれ単独に検出することが可能である。
【0122】
正常な末梢血には、異常リンパ球、芽球、異型リンパ球は出現しない。
図10Eに示すように、血液検体Eの測定データにおける異常リンパ球検出用のスキャッタグラムSG51では、異常リンパ球の検出領域A1に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。
図10Eには、血液検体Eの測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG52も参考として示している。このスキャッタグラムSG52においても、異常リンパ球の出現領域A11には、血球が実質的に存在していないことが分かる。さらに、血液検体Eの測定データにおける芽球検出用のスキャッタグラムSG53では、芽球の検出領域A2に、検出された血球に対応する粒子が実質的に存在していない。スキャッタグラムSG51及びSG53から分かるように、血液検体Eからは異常リンパ球群及び芽球群の何れも検出されない。よって、本実施の形態に係る血液分析装置1が血液検体Eを分析したときには、CN1≦T1且つCN2≦T2となり、異常リンパ球及び芽球が存在しないと判定される。
【0123】
血液検体Eに対し、用手法による検査を実施したところ、全白血球数に対する骨髄芽球、リンパ芽球、異常リンパ球、及び異型リンパ球の割合がそれぞれ0%であった。したがって、血液分析装置1が血液検体Eから芽球及び異常リンパ球を検出しなかったことは妥当であることが分かる。
【0124】
図11は、血液分析装置1の分析結果画面を示す図である。
図11は、血液検体Cを血液分析装置1によって分析した場合に出力される分析結果画面を示している。上述したように、この血液検体Cには、異常リンパ球が含まれており、芽球及び異型リンパ球は含まれていない。
図11に示すように、分析結果画面R1においては、測定された測定項目(WBC、RBC、PLT等)の数値データが表示される。この血液検体Cに係る分析結果データでは、異常リンパ球フラグが「1」に、芽球フラグが「0」にセットされている。したがって、当該血液検体Cの分析結果画面R1では、
図11に示すように、異常リンパ球が存在している可能性を示す情報である「Abn Lympho?」の表示が、Flagの欄FLGに付される。また、ここでは図示しないが、芽球フラグが「1」にセットされており、異常リンパ球フラグが「0」にセットされている場合には、フラグ表示欄FLGに「Blasts?」が表示される。さらに、異常リンパ球フラグ及び芽球フラグの両方に「0」がセットされている場合には、上記の「Abn Lympho?」及び「Blasts?」の何れも分析結果画面に表示されない。これによって、オペレータは分析結果画面を見るだけで、その血液検体において異常リンパ球が検出されたか否か、及び芽球が検出されたか否かを把握することができる。また、この分析結果画面R1には、測定データの蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG32が表示される。オペレータはかかるスキャッタグラムを参照することによって、血液分析装置1による異常リンパ球及び芽球の検出結果の根拠を把握することができ、また血液分析装置1による異常リンパ球及び芽球の検出結果の妥当性を判断することができる。
【0125】
以上のような構成とすることにより、血液分析装置1は、血液検体と、溶血剤が含有された第1試薬と、核酸を染色する蛍光色素が含有された第2試薬とを混合して調製した測定試料を光学検出器Dにより測定することにより、異常リンパ球及び芽球を個別に検出することができる。
【0126】
(実施の形態2)
以下、本実施の形態に係る血液分析装置について説明する。
【0127】
[血液分析装置の構成]
まず、本実施の形態に係る血液分析装置の構成について説明する。
【0128】
<測定ユニットの構成>
測定ユニットの構成について説明する。
図12は、本実施の形態に係る測定ユニットの構成を示すブロック図である。
図12に示すように、本実施の形態に係る血液分析装置200は、測定ユニット202を備えている。測定ユニット202は、試料調製部220を具備しており、試料調製部220には、2つの混合チャンバMC1,MC2が設けられている。吸引管211は、シリンジポンプ(図示せず)によって検体容器Tから所定量の全血検体を吸引し、第1混合チャンバMC1と第2混合チャンバMC2の位置へ移送され、前記シリンジポンプによって、それぞれのチャンバMC1,MC2へ所定量の全血検体を分配供給する。
【0129】
試料調製部220は、第1試薬を収容する試薬容器221a、第2試薬を収容する試薬容器221b、第3試薬を収容する試薬容器222a、第4試薬を収容する試薬容器222b、及びシース液(希釈液)を収容する試薬容器223にチューブを介して接続されている。また、試料調製部220はコンプレッサに接続されており、当該コンプレッサにより発生される圧力により試薬容器221a,221b,222a,222b,223からそれぞれの試薬を分取することが可能となっている。
【0130】
第3試薬は、有核赤血球(NRBC)測定用の溶血剤である。このNRBC測定用の溶血剤としては、例えばシスメックス(株)製ストマトライザーNR溶血剤が挙げられる。また、第4試薬は、蛍光色素を含有したNRBC測定用の染色液である。このNRBC測定用の染色液としては、例えばシスメックス(株)製ストマトライザーNR染色液が挙げられる。
【0131】
なお、第1試薬、第2試薬、及びシース液については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0132】
また、本実施の形態に係る血液分析装置200のその他の構成については、実施の形態1に係る血液分析装置1の構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0133】
[血液分析装置の動作]
次に、本実施の形態に係る血液分析装置200の検体測定動作について説明する。
【0134】
本実施の形態に係る血液分析装置200は、光学検出器Dを用いた異常リンパ球/芽球測定、及びNRBC測定を実行可能である。かかる測定の工程は、異常リンパ球/芽球測定試料を測定する第1測定工程と、NRBC測定試料を測定する第2測定工程と、第1測定工程及び第2測定工程によって得られた測定データを解析処理するデータ処理工程によって構成される。
【0135】
まず、検体容器Tを保持したサンプルラックLがオペレータによって検体搬送ユニット4に載置される。検体搬送ユニット4によってサンプルラックLが搬送され、測定対象の検体が収容されている検体容器Tが検体供給位置43aに位置する。次に、測定ユニット202のハンド部25aにより、当該検体容器Tが把持され、サンプルラックLからこの検体容器Tが取り出される。ハンド部25aはその後揺動運動を行い、検体容器Tの内部の検体が撹拌される。次に、検体容器セット部25bにこの検体容器Tが挿入され、Y2方向へと検体容器セット部25bが移動し、バーコード読取部26による検体バーコード読み取りを行った後、吸引位置に到達する。その後、第1測定工程及び第2測定工程が実行される。
【0136】
第1測定工程では、所定量の第1試薬と、所定量の第2試薬と、所定量の全血検体とが第1混合チャンバMC1に供給されることで異常リンパ球/芽球測定試料が調製され、光学検出器Dにより異常リンパ球/芽球測定試料の光学測定が行われる。かかる第1測定工程は、実施の形態1に係る測定工程と同様であるので、その詳細な説明を省略する。第1測定工程では、前方散乱光信号(前方散乱光強度)、側方散乱光信号(側方散乱光強度)、及び蛍光信号(蛍光強度)の特徴パラメータが含まれたデジタルデータである第1測定データが生成され、かかる第1測定データが情報処理ユニット5に送信される。
【0137】
第2測定工程
次に、第2測定工程について説明する。この第2測定工程は、第1測定工程と時間的に一部重複して実行される。血液分析装置200は、第2測定工程では、全血検体(17.0μL)と第3試薬(1.0mL)と第4試薬(0.030mL)とを混合してNRBC測定試料を作成し、このNRBC測定試料を光学検出器Dにてフローサイトメトリー法によって測定する。
【0138】
図13は、第2測定工程での血液分析装置200の動作手順を示すフローチャートである。CPU51aは測定ユニット202を制御することにより、試薬容器222aから第3試薬(1.0mL)を、試薬容器222bから第4試薬(0.030mL)を、吸引管211から全血検体(17.0μL)を第2混合チャンバMC2にそれぞれ供給する(ステップS301)。このステップS301において第2混合チャンバMC2に供給される検体は、上述した第1測定工程において吸引管211により吸引された全血検体の一部である。つまり、第1測定工程においては、第1混合チャンバMC1に供給する検体と、第2混合チャンバMC2に供給される検体とが一度に検体容器Tから吸引される。
【0139】
次に、CPU51aは、第2混合チャンバMC2への第3試薬、第4試薬及び全血検体の供給から7.0秒間経過したか否かを判定し(ステップS302)、7.0秒間待機する。ここで、ヒータにより第2混合チャンバMC2は41.0℃に加温されており、これにより、第3試薬と第4試薬と血液検体との混合液が41.0℃で7.0秒加温され、NRBC測定試料が調製される。
【0140】
そして、NRBC測定試料を対象に光学検出器Dにて光学測定が行われる(ステップS303)。ステップS303の処理においては、具体的には、NRBC測定試料とシース液とが同時に光学検出器Dのフローセル231に供給され、そのときの前方散乱光がフォトダイオード243で受光され、側方散乱光がフォトダイオード246で受光され、蛍光がアバランシェフォトダイオード248で受光される。このような光学検出器Dの各受光素子により出力される出力信号(アナログ信号)は、上述した第1測定工程(実施の形態1に係る測定工程)と同様に、デジタル信号に変換され、所定の信号処理が施されてデジタルデータである第2測定データに変換され、情報処理ユニット5にこの第2測定データが送信される。この信号処理においては、第2測定データに含まれる特徴パラメータとして、前方散乱光信号(前方散乱光強度)、側方散乱光信号(側方散乱光強度)、及び蛍光信号の(蛍光強度)が得られる。これにより、第2測定工程が終了する。また、後述するように、情報処理ユニット5のCPU51aは、第2測定データに対して所定の解析処理を実行することにより、NRBCの数値データを含む分析結果データを生成し、ハードディスク51dに分析結果データを記憶する。
【0141】
データ処理工程
次に、データ処理工程について説明する。
図14は、本実施の形態に係る血液分析装置のデータ処理工程での処理手順を示すフローチャートである。血液分析装置200の情報処理ユニット5は、測定ユニット202から測定データを受信する(ステップS401)。CPU51aによって実行されるコンピュータプログラム54aはイベントドリブン型のプログラムであり、測定データを受信するイベントが発生すると、ステップS402の処理が呼び出される。
【0142】
ステップS402において、CPU51aは、第1測定データを用いて異常リンパ球又はNRBCを含む細胞群(以下、「異常リンパ球/NRBC群」という。)を検出し、検出された異常リンパ球/NRBC群に含まれる血球数CN21を計数する(ステップS402)。
【0143】
本実施の形態においては、
図7における検出領域A1を、異常リンパ球/NRBC群を検出するための前方散乱光強度及び蛍光強度の範囲とする。本願発明者らは、臨床検体を使用した実験を行い、実験結果の詳細な検討を実施した結果、この検出領域A1及び
図8に示す領域A11において、異常リンパ球だけでなく、NRBCが出現することを見出した。即ち、
図7に示す領域A1又は
図8に示す領域A11において血球群が検出された場合に、それが異常リンパ球群ではなく、NRBCの細胞群(以下、「NRBC群」という。)である場合がある。なお、ステップS402において異常リンパ球/NRBC群を検出する処理は、実施の形態1のステップS202における異常リンパ球群を検出する処理と同様であるので、その詳細な説明を省略する。本実施の形態においては、検出領域A1に血球群が検出された場合に、その血球群が異常リンパ球群であるか、NRBC群であるかを、第2測定データを用いて判別する。
【0144】
次にCPU51aは、CN21が所定の閾値T21より大きいか否かを判定する(ステップS403)。閾値T21は、血液検体中に異常リンパ球又はNRBCが存在するか否かを判定するための基準値である。ステップS403では、CN21が閾値T21よりも大きい場合には、血液検体中に異常リンパ球又はNRBCが存在すると判定され、CN21が閾値T21以下の場合には、血液検体中に異常リンパ球及びNRBCが存在しないと判定される。
【0145】
ステップS403において、CN21>T21の場合には(ステップS403においてYES)、CPU51aは、第2測定データを用いてNRBC群と他の血球群とを分類し、有核赤血球の数CN22を計数する(ステップS404)。かかる処理について詳しく説明する。
図15は、第2測定データにおける前方散乱光強度及び蛍光強度のスキャッタグラムである。
図15に示すスキャッタグラムでは、有核赤血球のクラスター、白血球のクラスター、及び赤血球ゴーストのクラスターが現れる。本実施の形態においては、
図15において領域A3によって示された前方散乱光強度及び蛍光強度の範囲を、NRBC群の検出領域として定める。このスキャッタグラムに示されるように、第2測定データの前方散乱光強度及び蛍光強度を利用して、領域A3を用いることにより、有核赤血球のクラスターを、他のクラスターから弁別することができる。ステップS404の処理においては、CPU51aは、第2測定データの前方散乱光強度及び蛍光強度を用いて、有核赤血球を他のクラスターから弁別し、これによってNRBC群を検出する。さらに、CPU51aは、検出された有核赤血球の数CN22を計数する。なお、NRBC群の血球数CN22としては、例えば、血液1μLあたりのNRBC数、白血球100個あたりのNRBC数等を用いることができる。
【0146】
次にCPU51aは、CN22が所定の閾値T22より大きいか否かを判定する(ステップS405)。閾値T22は、血液検体中にNRBCが存在するか否かを判定するための基準値である。ステップS405では、CN22が閾値T22よりも大きい場合には、血液検体中にNRBCが存在すると判定され、CN22が閾値T22以下の場合には、血液検体中にNRBCが存在しないと判定される。
【0147】
ステップS405において、CN22>T22の場合には(ステップS405においてYES)、CPU51aは、RAM51cに設けられたNRBCフラグに「1」をセットし、異常リンパ球フラグ及び芽球フラグにそれぞれ「0」をセットする(ステップS406)。ここで、NRBCフラグは血液検体におけるNRBCの有無を示すフラグであり、「1」がセットされている場合にはNRBCが存在していることを示し、「0」がセットされている場合にはNRBCが存在していないことを示す。なお、異常リンパ球フラグ及び芽球フラグについては、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。その後、CPU51aは、ステップS412へ処理を移す。
【0148】
一方、ステップS405において、CN22≦T22の場合には(ステップS405においてNO)、血液検体中にNRBCが存在しないと判定される。つまり、ステップS402において検出領域A1から検出された血球群は、異常リンパ球群であると確定される。したがって、この場合には、CPU51aは、RAM51cに設けられた異常リンパ球フラグに「1」をセットし、NRBCフラグ及び芽球フラグにそれぞれ「0」をセットする(ステップS407)。その後、CPU51aは、ステップS412へ処理を移す。
【0149】
また、ステップS403において、CN21≦T21の場合には(ステップS403においてNO)、CPU51aは、第1測定データを用いて芽球群を検出し、検出された芽球群に含まれる血球数CN23を計数する(ステップS408)。なお、ステップS408の処理は、実施の形態1において説明したステップS205の処理と同様であるので、その説明を省略する。
【0150】
次にCPU51aは、CN23が所定の閾値T23より大きいか否かを判定する(ステップS409)。閾値T23は、血液検体中に芽球が存在するか否かを判定するための基準値である。ステップS409では、CN23が閾値T23よりも大きい場合には、血液検体中に芽球が存在すると判定され、CN23が閾値T23以下の場合には、血液検体中に芽球が存在しないと判定される。
【0151】
CN23>T23の場合には(ステップS409においてYES)、CPU51aは、RAM51cに設けられた芽球フラグに「1」をセットし、異常リンパ球フラグ及びNRBCフラグにそれぞれ「0」をセットする(ステップS410)。その後、CPU51aは、ステップS412へ処理を移す。
【0152】
一方、CN23≦T23の場合には(ステップS409においてNO)、CPU51aは、RAM51cに設けられた異常リンパ球フラグ、芽球フラグ、及びNRBCフラグのそれぞれに「0」をセットする(ステップS411)。その後、CPU51aは、ステップS412へ処理を移す。
【0153】
ステップS412において、CPU51aは、上述のようにして得た分析結果(異常リンパ球フラグ、芽球フラグ、及びNRBCフラグを含む)をハードディスク51dに格納する。次にCPU51aは、ハードディスク51dに記憶した分析結果を示す分析結果画面を画像表示部52に表示させ(ステップS413)、処理を終了する。
【0154】
次に、具体的な血液検体を測定したときのスキャッタグラムの例を示し、本実施の形態に係る血液分析装置200による測定データの分析について説明する。
図16A及び
図16Bは、血液分析装置200による測定条件と実質的に同じ測定条件で得られたスキャッタグラムの例を示す図である。
図16Aは、異常リンパ球を含有する血液検体Fを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。また、
図16Bは、NRBCを含有する血液検体Gを測定したときのスキャッタグラムの例を示している。
【0155】
図16Aに示すように、血液検体Fの第2測定データにおける前方散乱光強度及び蛍光強度のスキャッタグラム(NRBC検出用のスキャッタグラム)SG211では、NRBCの検出領域A3に血球が実質的に存在していない(ごく僅かだけ存在しているが、血球数が閾値T22を超えていない)。
図16Aには、血液検体Fの第1測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG212も示している。このスキャッタグラムSG212においては、異常リンパ球又はNRBCの出現領域A11に血球が存在している。つまり、スキャッタグラムSG212から分かるように、血液検体Fからは異常リンパ球/NRBC群が検出されるが、スキャッタグラムSG211から分かるように、血液検体FからはNRBC群が検出されない。したがって、出現領域A11に出現している血球群は、異常リンパ球群であると確定される。よって、本実施の形態に係る血液分析装置200が血液検体Fを分析したときには、CN21>T21且つCN22≦T22となり、異常リンパ球が存在すると判定される。
【0156】
図16Bに示すように、血液検体Gの第2測定データにおける前方散乱光強度及び蛍光強度のスキャッタグラム(NRBC検出用のスキャッタグラム)SG221では、NRBCの検出領域A3に血球が存在している。
図16Bには、血液検体Gの第1測定データにおける蛍光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムSG222も示している。このスキャッタグラムSG222においては、異常リンパ球又はNRBCの出現領域A11に血球が存在している。つまり、スキャッタグラムSG222から分かるように、血液検体Gからは異常リンパ球/NRBC群が検出されており、スキャッタグラムSG221から分かるように、血液検体GからはNRBC群も検出されている。したがって、出現領域A11に出現している血球群は、NRBC群であると確定される。よって、本実施の形態に係る血液分析装置200が血液検体Gを分析したときには、CN21>T21且つCN22>T22となり、NRBCが存在すると判定される。
【0157】
以上のように、異常リンパ球が含まれ、芽球、NRBC及び異型リンパ球が含まれない血液検体が血液分析装置200により測定されたときには、異常リンパ球が検出され、芽球及びNRBCは検出されない。同じく、NRBCが含まれ、異常リンパ球、芽球及び異型リンパ球が含まれない血液検体が血液分析装置200により測定されたときには、NRBCが検出され、異常リンパ球及び芽球は検出されない。同じく、芽球が含まれ、異常リンパ球、NRBC及び異型リンパ球が含まれない血液検体が血液分析装置200により測定されたときには、芽球が検出され、異常リンパ球及びNRBCは検出されない。また、異型リンパ球が含まれ、異常リンパ球、芽球及びNRBCが含まれない血液検体を測定したときには、異常リンパ球、芽球及びNRBCは検出されない。つまり、実施の形態に係る血液分析装置200によれば、異常リンパ球、芽球及びNRBCをそれぞれ単独に検出することが可能である。
【0158】
また、図示しないが、NRBCフラグが「1」にセットされており、異常リンパ球フラグ及び芽球フラグのそれぞれが「0」にセットされている場合には、
図11に示す分析結果画面のフラグ表示欄FLGに「NRBC present」が表示される。また、異常リンパ球フラグが「1」にセットされており、NRBCフラグ及び芽球フラグのそれぞれが「0」にセットされている場合には、
図11に示すように、分析結果画面のフラグ表示欄FLGに「Abn Lympho?」が表示される。芽球フラグが「1」にセットされており、異常リンパ球フラグ及びNRBCフラグのそれぞれが「0」にセットされている場合には、フラグ表示欄FLGに「Blasts?」が表示される。さらに、異常リンパ球フラグ、芽球フラグ及びNRBCフラグのそれぞれに「0」がセットされている場合には、上記の「NRBC present」、「Abn Lympho?」、「Blasts?」の何れも分析結果画面に表示されない。これによって、オペレータは分析結果画面を見るだけで、その血液検体において異常リンパ球が検出されたか否か、芽球が検出されたか否か、NRBCが検出されたか否かを把握することができる。
【0159】
以上のような構成とすることにより、血液分析装置200は、血液検体と、溶血剤が含有された第1試薬と、核酸を染色する蛍光色素が含有された第2試薬とを混合して調製した異常リンパ球/芽球測定試料を光学検出器Dにより測定し、また、血液検体と、第3試薬と、第4試薬とを混合して調製したNRBC測定試料を光学検出器Dにより測定することにより、異常リンパ球、芽球、及びNRBCを個別に検出することができる。また、NRBCが異常リンパ球として誤って検出されることを抑制することができる。
【0160】
(その他の実施の形態)
なお、試料調製部22における、血液検体と第1試薬と第2試薬との混合の際の反応温度及び反応時間は、血液検体中の血球の損傷や染色の状態により適宜設定すればよく、特に制限されない。具体的には、反応温度が高いときは反応時間を短くし、反応温度が低いときは反応時間を長くするように調整することができる。より具体的には、血液検体と試薬の混合は、20℃〜45℃の温度において、3〜40秒間行うことが好ましい。
【0161】
また、上述した実施の形態においては、溶血剤を含む第1試薬及び核酸を染色できる蛍光色素を含む第2試薬を用いて、測定工程を行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。溶血剤及び核酸染色色素を含む1つの試薬を血液検体と混合して測定試料を調製し、異常リンパ球及び芽球の検出を行う構成としてもよい。この場合、界面活性剤及び蛍光色素の濃度は、上記試薬を混合した際に、上述の濃度になるように調整される。
【0162】
また、上述した実施の形態においては、測定データにおける前方散乱光強度及び蛍光強度において、異常リンパ球の検出領域A1の内部に出現した血球数CN1が閾値T1より大きいか否かによって、血液検体中に異常リンパ球が存在するか否かが判定される構成について述べたが、これに限定されるものではない。異常リンパ球の検出領域A1の内部に出現した血球数の全白血球数に対する割合を求め、この割合が所定の基準値よりも大きいか否かを判定することで、異常リンパ球が存在するか否かを判定する構成としてもよい。同様に、芽球の検出においても、芽球の検出領域A2の内部に出現した血球数の全白血球数に対する割合を求め、この割合が所定の基準値よりも大きいか否かを判定することで、芽球が存在するか否かを判定する構成としてもよい。
【0163】
また、上述した実施の形態においては、測定試料をフローサイトメトリー法により光学測定し、蛍光強度、前方散乱光強度、及び側方散乱光強度を含む光学信号を取得し、かかる蛍光強度及び散乱光強度を用いて血液検体中において芽球及び異型リンパ球を含まず異常リンパ球を含む細胞群を検出する構成について述べたが、これに限定されるものではない。蛍光強度と共に、前方広角散乱光強度等の前方散乱光強度及び側方散乱光強度以外の散乱光情報を取得し、当該散乱光情報及び蛍光強度の所定の範囲において、芽球及び異型リンパ球を含まず異常リンパ球を含む細胞群を検出する構成としてもよい。
【0164】
また、上述した実施の形態においては、CPU51aが上記のコンピュータプログラム54aを実行することにより、測定ユニット2の制御及び測定データの処理を行う構成について述べたがこれに限定されるものではない。上記コンピュータプログラム54aと同様の処理を実行することが可能なFPGA又はASIC等の専用ハードウェアにより、測定ユニット2の制御及び測定データの処理を実行する構成としてもよい。
【0165】
また、上述した実施の形態においては、単一のコンピュータ5aによりコンピュータプログラム54aの全ての処理を実行する構成について述べたが、これに限定されるものではなく、上述したコンピュータプログラム54aと同様の処理を、複数の装置(コンピュータ)により分散して実行する分散システムとすることも可能である。
【0166】
また、上述した実施の形態2においては、CPU51aが、データ処理工程のS405においてCN22>T22となった場合には、検出領域A1に出現する血球群をNRBCであると判定しているが、S405においてCN22>T22となった場合には、CPU51aがさらに芽球の出現を判定する工程(S408およびS409)を実行してもよい。NRBCも芽球も通常は骨髄中に存在する血液細胞である。そのため、骨髄系の疾患により末梢血中にNRBCと芽球の両方が出現してくる可能性がある。
【0167】
また、上述した実施の形態2においては、CPU51aが、NRBCが存在するか否かの判定および異常リンパ球が存在するか否かの判定をデータ処理工程の中で行っているが、NRBCが存在するか否かを判定するための工程を、異常リンパ球が存在するか否かを判定するための工程とは独立して行ってもよい。
【0168】
また、NRBCが存在するか否かの判定に使用する閾値T22は、異常リンパ球が存在するか否かの判定に使用する閾値T21と同じ値を用いてもよいし、T21とは異なる値を用いてもよい。
【0169】
(性能評価実験)
本願発明者らは、上記血液分析装置1で行われる血液分析方法の性能評価実験を実施した。
【0170】
この実験では、複数の血液検体に対して用手法による顕微鏡検査を実施し、リンパ芽球、異常リンパ球、及び異型リンパ球の数を調べた。全白血球数に対してリンパ芽球の数が2%以上の場合に、リンパ芽球について「陽性」と判定した。全白血球数に対して異常リンパ球の数が10%以上の場合に、異常リンパ球について「陽性」と判定した。また、全白血球数に対して異型リンパ球の数が2%以上の場合に、異型リンパ球について「陽性」と判定した。また、リンパ芽球、異常リンパ球及び異型リンパ球の出現が全く確認されなかった血液検体を「陰性検体」と判定した。
【0171】
また、この実験では、上記の顕微鏡検査によりリンパ芽球について陽性と判定され、且つ、異常リンパ球及び異型リンパ球については陽性と判定されなかった検体(以下、「リンパ芽球陽性検体」という。)に対し、下記の要領でフローサイトメトリー法による測定を実施した。同じくこの実験では、顕微鏡検査により異常リンパ球について陽性と判定され、且つ、リンパ芽球及び異型リンパ球については陽性と判定されなかった検体(以下、「異常リンパ球陽性検体」という。)に対し、フローサイトメトリー法による測定を実施した。顕微鏡検査により異型リンパ球について陽性と判定され、且つ、リンパ芽球及び異常リンパ球については陽性と判定されなかった検体(以下、「異型リンパ球陽性検体」という。)に対しても、下記の要領で測定を実施した。さらに、上記の「陰性検体」に対しても、フローサイトメトリー法による測定を実施した。
【0172】
フローサイトメトリー法による測定においては、以下の試薬を使用した。
<溶血剤>
MOPS:2.09g/L
ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル:1.25g/L
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム:0.268g/L
EDTA−2K:0.5g/L
上記各成分を混合しさらにNaOHを添加してpHを7.3に調製した。第1試薬の浸透圧は37mOsm/Kg、電気伝導度は0.745mS/cmであった。
<染色試薬>
NK−321:50mg/L
エチレングリコールに溶解されたNK−321(50mg/L)を第2試薬とした。
【0173】
<測定>
全血検体(17.0μL)と溶血剤(1000μL)と染色試薬(20μL)とを混合して測定試料を調製し、この測定試料を光学検出器にてフローサイトメトリー法によって測定した。光源として、励起波長633nmの赤色半導体レーザを用い、蛍光シグナルは650nm以上の波長の蛍光(赤蛍光)を検出した。
【0174】
各検体について測定を実施した結果得られた前方散乱光強度及び蛍光強度のスキャッタグラムにおいて、
図7に示す検出領域A1に相当する領域(異常リンパ球を検出するための領域)に出現した血球数を計数し、当該血球数の全白血球数に対する割合HLF%を求めた。割合HLF%が基準値(1%)以上である場合には、異常リンパ球について陽性と判定し、割合HLF%が基準値未満である場合には、異常リンパ球について陰性と判定した。
【0175】
また、測定の結果得られた前方散乱光強度及び側方散乱光強度のスキャッタグラムにおいて、
図9に示す検出領域A2に相当する領域(芽球を検出するための領域)に出現した血球数LC1#を計数した。血球数LC1#が基準値(20)以上である場合には、芽球について陽性と判定し、血球数LC1#が基準値未満である場合には、芽球について陰性と判定した。
【0176】
表1にリンパ芽球陽性検体についての実験結果を示す。なお、表中の数値は検体数を示している(表2〜4についても同様。)。
【表1】
【0177】
リンパ芽球陽性検体である11検体の全てについて、フローサイトメトリー法による測定を実施した結果、異常リンパ球について陽性と判定された検体はなかった。つまり、リンパ芽球陽性検体のうち、フローサイトメトリー法による測定により異常リンパ球が検出された検体数は0であり、異常リンパ球が検出されなかった検体数は11であった。また、リンパ芽球陽性検体である11検体のうち、フローサイトメトリー法による測定による測定を実施した結果、芽球について陽性と判定された検体数は9であり、芽球について陰性と判定された検体数は2であった。つまり、リンパ芽球陽性検体のうちの81.8%の検体について、フローサイトメトリー法による測定により芽球が検出された。これにより、リンパ芽球陽性検体に含まれるリンパ芽球は、異常リンパ球を検出するための検出領域A1には実質的に出現せず、芽球を検出するための検出領域A2には出現することが分かる。つまり、実施の形態に係る血液分析方法によれば、リンパ芽球を含み、異常リンパ球及び異型リンパ球を含まない血液検体からは、異常リンパ球を誤検出することなく、正確に芽球を検出可能であるといえる。
【0178】
表2に異常リンパ球陽性検体についての実験結果を示す。
【表2】
【0179】
異常リンパ球陽性検体である12検体のうち、フローサイトメトリー法による測定を実施した結果、異常リンパ球について陽性と判定された検体数は8であり、異常リンパ球について陰性と判定された検体数は4であった。つまり、異常リンパ球陽性検体のうちの66.7%の検体について、フローサイトメトリー法による測定により異常リンパ球が検出された。また、異常リンパ球陽性検体である12検体の全てについて、フローサイトメトリー法による測定による測定を実施した結果、芽球について陽性と判定された検体はなかった。つまり、異常リンパ球陽性検体のうち、フローサイトメトリー法による測定により芽球が検出された検体数は0であり、芽球が検出されなかった検体数は12であった。これにより、異常リンパ球陽性検体に含まれる異常リンパ球は、異常リンパ球を検出するための検出領域A1に出現し、芽球を検出するための検出領域A2には実質的に出現しないことが分かる。つまり、実施の形態に係る血液分析方法によれば、異常リンパ球を含み、リンパ芽球及び異型リンパ球を含まない血液検体からは、芽球を誤検出することなく、正確に異常リンパ球を検出可能であるといえる。
【0180】
表3に異型リンパ球陽性検体についての実験結果を示す。
【表3】
【0181】
異型リンパ球陽性検体である34検体のうち、フローサイトメトリー法による測定を実施した結果、異常リンパ球について陽性と判定された検体数は2であり、異常リンパ球について陰性と判定された検体数は32であった。つまり、異型リンパ球陽性検体の殆ど全てについて、フローサイトメトリー法による測定により異常リンパ球が検出されなかった。また、異型リンパ球陽性検体である34検体の全てについて、フローサイトメトリー法による測定による測定を実施した結果、芽球について陽性と判定された検体はなかった。つまり、異型リンパ球陽性検体のうち、フローサイトメトリー法による測定により芽球が検出された検体数は0であり、芽球が検出されなかった検体数は34であった。これにより、異型リンパ球陽性検体に含まれる異型リンパ球は、異常リンパ球を検出するための検出領域A1及び芽球を検出するための検出領域A2のそれぞれには実質的に出現しないことが分かる。つまり、実施の形態に係る血液分析方法によれば、異型リンパ球を含み、リンパ芽球及び異常リンパ球を含まない血液検体からは、ほぼ芽球及び異常リンパ球が誤検出されることがない。
【0182】
表4に陰性検体についての実験結果を示す。
【表4】
【0183】
陰性検体である1179検体のうち、フローサイトメトリー法による測定を実施した結果、異常リンパ球について陽性と判定された検体数は11であり、異常リンパ球について陰性と判定された検体数は1168であった。つまり、陰性検体の殆ど全てについて、フローサイトメトリー法による測定により異常リンパ球が検出されなかった(異常リンパ球が検出されたのは陰性検体全体の0.9%であった。)。また、陰性検体である1179検体のうち、フローサイトメトリー法による測定を実施した結果、芽球について陽性と判定された検体数は4であり、芽球について陰性と判定された検体数は1175であった。つまり、陰性検体の殆ど全てについて、フローサイトメトリー法による測定により芽球が検出されなかった(芽球が検出されたのは陰性検体全体の0.3%であった。)。これにより、異型リンパ球陽性検体に含まれる異型リンパ球は、異常リンパ球を検出するための検出領域A1及び芽球を検出するための検出領域A2のそれぞれには実質的に出現しないことが分かる。つまり、実施の形態に係る血液分析方法によれば、異型リンパ球、リンパ芽球及び異常リンパ球を含まない血液検体からは、ほぼ芽球及び異常リンパ球が誤検出されることがない。