特許第5943921号(P5943921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943921
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】13族元素窒化物膜の剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20160621BHJP
   C30B 33/08 20060101ALI20160621BHJP
   C30B 19/02 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B33/08
   C30B19/02
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-527949(P2013-527949)
(86)(22)【出願日】2012年7月13日
(86)【国際出願番号】JP2012068534
(87)【国際公開番号】WO2013021804
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2014年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-175217(P2011-175217)
(32)【優先日】2011年8月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-63322(P2012-63322)
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】岩井 真
(72)【発明者】
【氏名】平尾 崇行
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆史
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−008416(JP,A)
【文献】 特開2011−105586(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092736(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/024987(WO,A1)
【文献】 特表2009−507364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶基板上にフラックス法によってフラックスおよび13族元素を含む融液から窒素含有雰囲気下に育成された13族元素窒化物膜を備えている積層体に対して、前記種結晶基板の背面側からレーザー光を照射してレーザーリフトオフ法によって前記13族元素窒化物膜を前記種結晶基板から剥離する方法であって、
前記13族元素窒化物膜が、前記13族元素窒化物膜の前記種結晶基板側の界面から50μm以下の領域に設けられる、前記融液の成分に由来するインクルージョンが分布するインクルージョン分布層と、このインクルージョン分布層上に設けられた、前記インクルージョンに乏しいインクルージョン欠乏層とを含んでおり、前記インクルージョンは、前記13族元素窒化物膜中に分散される異相であり、前記インクルージョンが、光学顕微鏡で倍率200倍で観測したときに観測できるものであり、前記インクルージョン分布層のインクルージョン面積比率が1%以上、10%以下であり、前記インクルージョン欠乏層のインクルージョン面積比率が1%未満であることを特徴とする、13族元素窒化物膜の剥離方法。
【請求項2】
前記13族元素窒化物膜の横断面に沿って見たときに前記インクルージョン分布層における前記インクルージョンの最大面積が60μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記13族元素窒化物が窒化ガリウム、窒化アルミニウムまたは窒化アルミニウムガリウムであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記13族元素窒化物に、ゲルマニウム、珪素、酸素の少なくとも1つが含まれており、n型を示すことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、前記インクルージョン欠乏層の厚さが20〜0.1であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記種結晶基板が、単結晶基板、およびこの単結晶基板上に設けられた種結晶膜を備えており、前記種結晶膜上に前記13族元素窒化物膜を育成し、前記単結晶基板の背面側から前記レーザー光を照射して前記13族元素窒化物膜を剥離させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記13族元素窒化物膜を前記種結晶基板から剥離した後、前記インクルージョン分布層を除去することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記13族元素窒化物膜上に、n型半導体層、発光領域およびp型半導体層を形成し、次いで前記13族元素窒化物膜を前記種結晶基板から剥離することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13族元素窒化物膜を種結晶基板から剥離する方法に関するものである。13族元素窒化物膜およびその積層体は、高演色性の白色LEDや拘束高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータ用のパワーデバイスなどに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウムなどの13族元素窒化物を用いて、青色LEDや白色LED、青紫色半導体レーザなどの半導体デバイスを作製し、その半導体デバイスを各種電子機器へ応用することが活発に研究されている。従来の窒化ガリウム系半導体デバイスは、主に気相法により作製されている。具体的には、サファイア基板やシリコンカーバイド基板の上に窒化ガリウムの薄膜を有機金属気相成長法(MOVPE)などによりヘテロエピタキシャル成長させて作製される。この場合、基板と窒化ガリウムの薄膜との熱膨張係数や格子定数が大きく異なるため、高密度の転位(結晶における格子欠陥の一種)が窒化ガリウムに生じる。このため、気相法では、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることが難しかった。
【0003】
このため、特開2002−217116では、種結晶基板上に気相法によってGaN単結晶等からなる下層を成膜し、次いで下層上に再び気相法によってGaN等からなる上層を形成する。そして、下層と上層との境界には、ボイドないしインジウム析出部位を設け、下層から上層へと向かう貫通転移を抑制することを試みている。
【0004】
一方、気相法のほかに、液相法も開発されている。フラックス法は、液相法の一つであり、窒化ガリウムの場合、フラックスとして金属ナトリウムを用いることで窒化ガリウムの結晶成長に必要な温度を800℃程度、圧力を数MPaに緩和することができる。具体的には、金属ナトリウムと金属ガリウムとの混合融液中に窒素ガスが溶解し、窒化ガリウムが過飽和状態になって結晶として成長する。こうした液相法では、気相法に比べて転位が発生しにくいため、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることができる。
【0005】
こうしたフラックス法に関する研究開発も盛んに行われている。例えば、特開2005−263622には、従来のフラックス法における窒化ガリウムの厚み方向(C軸方向)の結晶成長速度が10μm/h程度の低速であることや気液界面で不均一な核発生が起こりやすいことから、これらの課題を克服する窒化ガリウムの作製方法が開示されている。
【0006】
本出願人は、特開2010−168236で、攪拌の強さとインクルージョン発生の相関について出願した。この特許では、インクルージョンの無い結晶を成長させるため、成長速度を好適範囲とし、坩堝の回転速度や反転条件を調整することを開示した。
【0007】
更に、特開2006−332714には、サファイア等の単結晶基板表面上に、基板とは材質の異なる少なくとも2層の半導体層と発光領域とを積層構造に成膜した半導体発光素子が記載されており、発光領域で発生した光を上側半導体層又は下側の単結晶基板から取り出す。こうした発光素子においては、単結晶基板の転移を低減すると共に、欠陥密度を低減することで、内部量子効率を改善することが求められている。
【0008】
更に、特開2002−293699、特開2007−149988では、サファイア基板上に形成されたGaN系化合物結晶層を該サファイア基板の裏面からレーザー光を照射することにより剥離するレーザーリフトオフ技術が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、特開2010−168236記載のように、種結晶上にフラックス法で形成される窒化物単結晶において、インクルージョンを解消することで、窒化物単結晶の品質を更に向上させるために研究を続けていた。窒化物単結晶の品質という点では、欠陥密度を一層低減することが、発光効率の向上等の点からきわめて重要である。しかし、この点で技術的限界があり、ブレークスルーが望まれていた。
【0010】
また、特開2002−293699では、窒化ガリウム(GaCl)とV族源であるアンモニア(NH3 )とを原料とするハイドライド気相成長(HVPE)法によって窒化ガリウム単結晶膜を基板上に成膜し、レーザーを照射して窒化ガリウム単結晶膜を基板から剥離させている。また、特開2007−149988でも窒化ガリウム膜を成膜しているが、成膜方法は特開2002−293699と同様に気相成長法であり、具体的には有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)である。このため、フラックス法によって基板上に育成された窒化ガリウム単結晶膜を、レーザーリフトオフ法によってクラックなしに剥離させる技術ではない。
【0011】
本発明の課題は、種結晶基板上にフラックス法で形成される13族元素窒化物膜において、窒化物膜の表面欠陥密度を一層低減すると共に、レーザーリフトオフ法によってクラックなしに基板から剥離させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、種結晶基板上にフラックス法によってフラックスおよび13族元素を含む融液から窒素含有雰囲気下に育成された13族元素窒化物膜を備えている積層体に対して、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射してレーザーリフトオフ法によって13族元素窒化物膜を前記種結晶基板から剥離する方法であって、
13族元素窒化物膜の種結晶基板側の界面から50μm以下の領域に設けられる、融液の成分に由来するインクルージョンが分布するインクルージョン分布層と、このインクルージョン分布層上に設けられた、インクルージョンに乏しいインクルージョン欠乏層とを含前記インクルージョンは、前記13族元素窒化物膜中に分散される異相であり、前記インクルージョンが、光学顕微鏡で倍率200倍で観測したときに観測できるものであり、前記インクルージョン分布層のインクルージョン面積比率が1%以上、10%以下であり、前記インクルージョン欠乏層のインクルージョン面積比率が1%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明者は、窒化物単結晶をフラックス法で種結晶基板上に成膜する研究の過程で、インクルージョンを単に減少させるのではなく、適度に窒化物単結晶の種結晶側の界面近傍に残すことで、インクルージョンのほぼない窒化物単結晶と比較しても、窒化物単結晶の欠陥密度を一層低減できることを見いだした。
【0014】
すなわち、フラックス法による窒化物単結晶の成長初期の五十ミクロンの領域にのみ、数ミクロンの大きさのインクルージョンが存在する結晶を成長させることで、結晶の転位が著しく低下し、各種デバイスとして良好な特性をもたらすものである。こうした発見は、フラックス法による窒化物単結晶の育成に携わる当業者の常識に反するものである。
【0015】
これに加えて、得られた13族元素窒化物単結晶が、下地の種結晶基板から、レーザーリストオフ法によってクラックを生じることなく剥離可能であることを見いだし、本発明に到達した。この理由は明らかではないが、種結晶に隣接してインクルージョン分布層が存在することによって、基板からの剥離が促進されるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は、種結晶基板11を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、種結晶膜2上にフラックス法によって窒化物単結晶3を形成した状態を模式的に示す断面図である。
図2図2(a)、図2(b)は、それぞれ、窒化物単結晶3の種結晶膜近傍領域を模式的に示す図である。
図3図3(a)は積層体を模式的に示す図であり、図3(b)は13族元素窒化物膜3を示す図であり、図3(c)は、インクルージョン分布層を除去して得られた基材9Aを模式的に示す図である。
図4図4は、本発明の窒化物単結晶の製造に利用可能な装置を示す模式図である。
図5図5は、本発明の窒化物単結晶の製造に利用可能な容器を示す図である。
図6図6(a)は、種結晶基板を剥離させて得られた発光素子を模式的に示す図であり、図6(b)は、図6(a)の発光素子から更にインクルージョン分布層3aを除去して得られた発光素子を模式的に示す図である。
図7図7(a)は、種結晶基板11の背面1b側からレーザー光Aを照射している状態を示す模式図であり、図7(b)は、レーザーリフトオフ法によって基板から剥離された13族元素窒化物膜9を示す模式図である。
図8図8は、単結晶基板1、種結晶膜2、13族元素窒化物膜3、n型半導体層21、発光領域23およびp型半導体層25を備えている発光素子に対して、基板背面1b側からレーザー光Aを照射している状態を示す。
図9図9は、実施例1で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図10図10は、実施例2で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図11図11は、実施例3で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図12図12は、実施例4で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図13図13は、実施例5で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図14図14は、比較例1で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図15図15は、比較例2で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図16図16は、比較例3で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真である。
図17図17は、実施例1で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図18図18は、実施例2で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図19図19は、実施例3で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図20図20は、実施例4で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図21図21は、実施例5で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図22図22は、比較例1で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図23図23は、比較例2で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図24図24は、比較例3で得られた窒化物単結晶の顕微鏡写真を二値化して得られた画像である。
図25図25は、比較例における窒化ガリウム膜の厚さと反りとの関係を示すグラフである。
図26図26は、インクルージョン分布層の厚さと反り低減率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(種結晶基板)
まず、図1(a)に種結晶基板11を示す。単結晶基板1の上面1aに種結晶膜2が形成されている。1bは背面である。基板11と種結晶膜2との間にはバッファ層などを設けてもよい。また、種結晶基板は、種結晶からなる薄板であってもよい。
【0018】
種結晶基板を構成する単結晶基板の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl)、LiAlO、LiGaO、LaAlO,LaGaO,NdGaO等のペロブスカイト型複合酸化物、SCAM(ScAlMgO)を例示できる。また、組成式 〔A1−y(Sr1−xBa〕〔(Al1−zGa1−u・D〕O(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。
【0019】
種結晶膜を構成する材質は13族元素窒化物が好ましく、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化タリウム(TlN)、これらの混晶(AlGaN:AlGaInN等)が挙げられる。
【0020】
また、単結晶基板が13族元素窒化物の板からなる場合には、その材質は、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化タリウム(TlN)、これらの混晶(AlGaN:AlGaInN等)が挙げられる。
【0021】
バッファ層、種結晶膜の形成方法は気相成長法が好ましいが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法を例示できる。有機金属化学気相成長法が特に好ましい。
【0022】
本願でいう、単結晶の定義について述べておく。結晶の全体にわたって規則正しく原子が配列した教科書的な単結晶を含むが、それのみに限定する意味ではなく、一般工業的に流通している意味である。すなわち、結晶がある程度の欠陥を含んでいたり、歪みを内在していたり、不純物がとりこまれていたりしていてもよく、多結晶(セラミックス)と区別して、これらを単結晶と呼んで用いているのと同義である。
【0023】
(窒化物膜の特徴)
次いで、図1(b)に示すように、種結晶基板上にフラックス法によって窒化物膜3を形成する。ここで、本発明では、種結晶基板との界面から50μm以内にインクルージョン分布層3aが形成されており、その上にインクルージョン欠乏層3bが形成されているなお、Tは窒化物膜3の厚さであり、tはインクルージョン分布層の厚さであり、50μmとする。
【0024】
本発明では、13族元素窒化物膜の種結晶基板側の界面11aから50μm以下の領域にインクルージョン分布層3aが設けられる。5がインクルージョンである。ここで、インクルージョンとは、融液に含有される成分に由来する材質からなり,窒化物膜中に包含される異相のことである。融液に含有される成分とは、フラックス(ナトリウム等のアルカリ金属)、13族元素窒化物の材料である13族元素、およびその他の添加剤である。13族元素には、ガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。低融点金属は、ナトリウムの酸化防止を目的として添加する場合があり、高融点金属は、坩堝を入れる容器や育成炉のヒーターなどから混入する場合がある。
【0025】
インクルージョンを構成する材質は、典型的にはフラックスと13族元素との合金であり、また炭素であり、または13族元素窒化物の微結晶の集合体または多結晶である。
【0026】
本発明では、13族元素窒化物膜の種結晶基板側の界面11aから少なくとも表面に窒化ガリウム層を含む基板50μm以下の領域にインクルージョン分布層3aが設けられる。5がインクルージョンである。ここで、インクルージョンとは、融液に含有される成分に由来する材質からなり,窒化物膜中に包含される異相のことである。融液に含有される成分とは、フラックス(ナトリウム等のアルカリ金属)、13族元素窒化物の材料である13族元素、およびその他の添加剤である。13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。低融点金属は、ナトリウムの酸化防止を目的として添加する場合があり、高融点金属は、坩堝を入れる容器や育成炉のヒーターなどから混入する場合がある。
【0027】
インクルージョンを構成する材質は、典型的にはフラックスと13族元素との合金や金属単体と合金との混合物であり,または炭素であり,または13族元素窒化物の微結晶の集合体または多結晶である。
【0028】
インクルージョン分布層および欠乏層は、以下のようにして測定する。
すなわち、インクルージョン分布層では、インクルージョンが分散しており、これは透過光型光学顕微鏡によって観測可能である。具体的には、界面から視野高さ50μm×幅100μmの視野について倍率200倍で光学顕微鏡で観測したとき、インクルージョンが分散していることが観測できるものである。
【0029】
インクルージョン分布層では、インクルージョンが原則として界面方向に向かって存在する。ここでインクルージョンが界面方向に向かって配列されていて配列層を形成していて良いが、ランダムに分散していることもある。
【0030】
また、界面から厚さ50μm以下の領域の全体がインクルージョン分布層となっていて良いが、界面から厚さ50μm以下の領域のうち一部がインクルージョン分布層となっていて、残りはインクルージョンが存在しない場合でもよい。すなわち、界面から厚さ50μm以下の領域の全体にわたってインクルージョンが分散している必要はない。
【0031】
すなわち、界面から厚さ方向に向かって10μmごとに区切ったときの五つの層について、それぞれインクルージョンを観測する。そして、各層において、インクルージョンが分散しているか否かを観測する。更に好ましくは、少なくとも一つの層におけるインクルージョンの面積比率が1%以上となることが好ましく、2%以上が最も好ましい。この上限値は特にないが、インクルージョンが多過ぎると結晶性が劣化し易いので、この観点からは、インクルージョンの面積比率は10%以下が好ましく、7%以下が更に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0032】
界面から厚さ50μm以下の領域の全体について、インクルージョンの面積比率は1%以上とし、2%以上が最も好ましい。インクルージョンが多過ぎると結晶性が劣化し易いので、インクルージョンの面積比率は10%以下とし、7%以下が更に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0033】
ただし、インクルージョン分布層における面積比率は、以下のようにして計算する。すなわち、図2および後述する図6図13のように、種結晶およびその上の窒化物膜を横断面に沿って切り出し、横断面を粒径1ミクロン程度のダイヤモンドスラリーで研磨する。そして倍率200倍の透過型光学顕微鏡で横断面を撮影し、得られた画像に2値化処理を施す。2値化処理は、米国 Media Cybernetics社のImage pro plusによって施す。
【0034】
ここで2値化処理のやり方について具体的に記載しておく。まず透過光型光学顕微鏡像を無圧縮(TIFF形式)で、パソコンに取り込む。圧縮(jpeg)だと画像が劣化するため好ましくない。また画像はなるべく1Mピクセル以上の高画素数で取り込むことが好ましい。この画像を8ビットグレースケールに変換する。すなわち、画像の各画素が0〜255の階調に分類される。ソフトの強度分布機能(上述のソフトだと、「表示レンジ」を選択)によって、ピーク強度の階調を読み取る。これをXpeakとする。また、階調分布の上から99.9%に分布する階調の値を読み取る。これをX99.9とする。次に2値化の閾値を決める。この閾値以下の階調をすべて白、閾値以上の階調をすべて黒という具合に2分する。この閾値は、Xpeak×2−X99.9で求める。そして、2値画像の黒色部分がインクルージョンである。そして、目的とする範囲について、インクルージョンの面積をインクルージョン分布層の全体の面積で割ることによって、インクルージョン分布層における面積比率を算出する。
【0035】
例えば、図2(a)の例では、インクルージョン5が界面11a付近に配列しており,図2(b)の例では、インクルージョン5が界面11aから離れたところに配列している。いずれも、界面から10μmごとに分けたときの各層について、面積を分母とし、その中に含まれるインクルージョンの面積比率を分子とする。
【0036】
インクルージョン欠乏層は、視野高さ50μm×幅100μmの視野について、光学顕微鏡で倍率200倍で観測したとき、インクルージョンが分散していることが観測できないものである。ただし、インクルージョン欠乏層では、少量のインクルージョンが不可避的に析出することまでは妨げない。特には、前述したインクルージョンの面積比率が1%未満であ、0.5%以下であることが更に好ましく、実質的にインクルージョンが見られないことが最も好ましい。また、好ましくは、界面から厚さ50μmの場所から膜表面までインクルージョン欠乏層が占めている。
【0037】
また、インクルージョン分布層では、個々のインクルージョンの面積が小さいことが好ましく、具体的には60μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。ただし、製造時のゆらぎによって面積が60μmを超えるインクルージョンが析出することまでは妨げないが、その場合にも、面積が60μmを超えるインクルージョンの個数は、50μm×100μmの視野当たりで2個以下が好ましく、1個以下が更に好ましい。
【0038】
13族元素窒化物膜の厚さTは限定されないが、50μm以上が好ましく、100μm以上が更に好ましい。Tの上限も特にないが、製造上の観点からは5mm以下とすることができる。
【0039】
(本発明の窒化物膜の加工)
本発明では、種結晶基板から13族元素窒化物単結晶をレーザーリフトオフ法で剥離させる。例えば、図3(a)に示す積層体8のように、単結晶基板1を剥離させる。あるいは、図3(b)に示すように、更に単結晶膜2を除去し、13族元素窒化物単結晶のみとし、デバイス基材9として利用することができる。更に、図3(c)に示すように、窒化物膜3からインクルージョン分布層3aを除去し、インクルージョン欠乏層3bのみからなるデバイス基材9Aを提供することができる。
【0040】
本発明においては、13族元素窒化物膜をレーザーリフトオフ法によって基板から剥離させる。この際には、膜の反りが小さいと、レーザーの焦点を界面に合わせやすい。更に、種結晶基板と膜とを研磨してウエハーとし、支持基板に貼り付けて基板側からレーザー光を照射する際には、13族元素窒化物膜の反りが小さいと、ウエハーを支持基板に貼り付けることが容易である。更に、13族元素窒化物膜の上に気相法などによって機能層を形成する場合、その機能層の品質が向上する。
【0041】
ここで、本発明によってインクルージョン分布層を設けることは、膜の反り低減に効果がある。この効果は、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さが20〜0.1であるときに最も顕著である。
【0042】
すなわち、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さが20以下であると、反りの抑制効果が顕著である。この観点からは、インクルージョン欠乏層の厚さは10以下が更に好ましい。
【0043】
また、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さが0.1以上であると、13族窒化物膜の上に形成する機能層の品質が向上する。この観点からは、インクルージョン欠乏層の厚さは0.5以上が更に好ましい。
【0044】
育成後の本発明の膜の反りは、200μm以下が好ましく、150μm以下が更に好ましい。
【0045】
(製造装置および条件)
図4図5は、本発明の窒化物膜の製造に利用できる装置の構成を示すものである。
結晶製造装置10は、真空引きをしたり加圧窒素ガスを供給したりすることが可能な耐圧容器12と、この耐圧容器12内で回転可能な回転台30と、この回転台30に載置される外容器42とを備えている。
【0046】
耐圧容器12は、上下面が円板である円筒形状に形成され、内部にヒータカバー14で囲まれた加熱空間16を有している。この加熱空間16は、ヒータカバー14の側面の上下方向に配置された上段ヒータ18a、中段ヒータ18b及び下段ヒータ18cのほか、ヒータカバー14の底面に配置された底部ヒータ18dによって内部温度が調節可能となっている。この加熱空間16は、ヒータカバー14の周囲を覆うヒータ断熱材20によって断熱性が高められている。また、耐圧容器12には、窒素ガスボンベ22の窒素ガス配管24が接続されると共に真空ポンプ26の真空引き配管28が接続されている。窒素ガス配管24は、耐圧容器12、ヒータ断熱材20及びヒータカバー14を貫通して加熱空間16の内部に開口している。この窒素ガス配管24は、途中で分岐して耐圧容器12とヒータ断熱材20との隙間にも開口している。ヒータカバー14は、完全に密閉されているわけではないが、ヒータカバー14の内外で大きな圧力差が生じないようにするために、窒素ガスをヒータカバー14の内外に供給する。窒素ガス配管24のうち加熱空間16の内部に通じている分岐管には、流量を調節可能なマスフローコントローラ25が取り付けられている。真空引き配管28は、耐圧容器12を貫通し、耐圧容器12とヒータ断熱材20との隙間に開口している。ヒータカバー14の外側が真空状態になれば窒素ガス配管24によって連結された加熱空間16も真空状態になる。
【0047】
回転台30は、円盤状に形成され、加熱空間16の下方に配置されている。この回転台30の下面には、内部磁石32を有する回転シャフト34が取り付けられている。この回転シャフト34は、ヒータカバー14及びヒータ断熱材20を通過して、耐圧容器12の下面と一体化された筒状のケーシング36に挿入されている。ケーシング36の外周には、筒状の外部磁石38が図示しないモータによって回転可能に配置されている。この外部磁石38は、ケーシング36を介して回転シャフト34の内部磁石32と向かい合っている。このため、外部磁石38が回転するのに伴って内部磁石32を有する回転シャフト34が回転し、ひいては回転台30が回転することになる。また、外部磁石38が上下に移動するのに伴って内部磁石32を有する回転シャフト34が上下に移動し、ひいては回転台30が上下に移動することになる。
【0048】
外容器42は、有底筒状で金属製の外容器本体44と、この外容器本体44の上部開口を閉鎖する金属製の外容器蓋46とを備えている。外容器蓋46には、下面中心から斜め上方に窒素導入パイプ48が取り付けられている。この窒素導入パイプ48は、回転台30の回転に伴って外容器42が回転して窒素ガス配管24に最接近したとしても、窒素ガス配管24に衝突しないように設計されている。具体的には、窒素導入パイプ48が窒素ガス配管24に最接近したときの両者の距離は、数mm〜数十cmに設定されている。外容器本体44の内部には、図5の内容器16が設置されている。
【0049】
すなわち、図5の例では内容器16が二層積層されている。各容器16は、本体16aと蓋16bとからなる。容器16の内側空間には、所定個数、例えば2個のルツボ14が収容され、積層されている。各ルツボ14は、本体14aと蓋14bとからなり、本体14a内に融液13の材料を収容する。
【0050】
このようにして構成された本実施形態の結晶板製造装置10の使用例について説明する。この製造装置10は、フラックス法により3B族窒化物を製造するのに用いられる。以下には、3B族窒化物結晶として窒化ガリウム結晶板を製造する場合を例に挙げて説明する。この場合、種結晶基板11としてはGaNテンプレート、3B族金属としては金属ガリウム、フラックスとしては金属ナトリウムを用意する。ルツボ14内で種結晶基板11を金属ガリウム及び金属ナトリウムを含む混合融液に浸漬し、回転台30を回転させると共に各ヒータ18a〜18dで加熱空間16を加熱しながら混合融液に加圧窒素ガスを供給することにより、混合融液中で種結晶基板上に窒化ガリウムの結晶を成長させる。混合融液にカーボンを適量加えると、雑晶の生成が抑制されるため好ましい。雑晶とは、種結晶基板以外の場所に結晶化した窒化ガリウムを意味する。ルツボ内の混合融液中で成長した窒化ガリウム結晶板は、冷却後、容器に有機溶剤(例えばメタノールやエタノールなどの低級アルコール)を加えて該有機溶剤にフラックスなどの不要物を溶かすことにより回収することができる。
【0051】
上述したように窒化ガリウム結晶板を製造する場合、加熱温度は加圧窒素ガス雰囲気下での混合融液の沸点以下に設定する。具体的には、700〜1000℃に設定するのが好ましく、800〜900℃に設定するのがより好ましい。加熱空間16の温度を均一にするには、上段ヒータ18a、中段ヒータ18b、下段ヒータ18c、底部ヒータ18dの順に温度が高くなるように設定したり、上段ヒータ18aと中段ヒータ18bを同じ温度T1に設定し、下段ヒータ18cと底部ヒータ18dをその温度T1よりも高い温度T2に設定したりするのが好ましい。また、加圧窒素ガスの圧力は、1〜7MPaに設定するのが好ましく、2〜6MPaに設定するのがより好ましい。加圧窒素ガスの圧力を調整するには、まず、真空ポンプ26を駆動して真空引き配管28を介して耐圧容器12の内部圧力を高真空状態(例えば1Pa以下とか0.1Pa以下)とし、その後、真空引き配管28を図示しないバルブによって閉鎖し、窒素ガスボンベ22から窒素ガス配管24を介してヒータカバー14の内外に窒素ガスを供給することにより行う。窒化ガリウム結晶が成長している間、窒素ガスは混合融液に溶解して消費されて加圧窒素ガスの圧力が低下するため、結晶成長中は加熱空間16に窒素ガスをマスフローコントローラ25により所定流量となるように供給し続ける。この間、窒素ガス配管24のうちヒータカバー14の外側に通じている分岐管は図示しないバルブにより閉鎖する。
【0052】
本発明の製法において、前記加圧雰囲気の圧力を、1〜7MPaの範囲で設定することが好ましい。こうすれば、数100MPaの圧力に設定する場合に比べて、製造装置の耐圧性は低くてよいため、小型・軽量化が図れる。
【0053】
ここで、前記容器を回転させるにあたり、前記容器を反転させてもよく、一方向に回転させてもよい。容器を一方向に回転させる場合には、回転速度を例えば10〜30rpmに設定する。また、容器を反転させる場合には、回転速度を例えば10〜30rpmに設定する。
【0054】
また、ルツボ14における融液を浅くすることによって、初期におけるインクルージョンの包含を促進できる。このためには、図5に示すように,高さの小さいルツボ14を用い、融液中でルツボの底に種結晶基板11を横に置くことが好ましい。また、高さの小さいルツボ14を複数個積層することが好ましい。また、結晶育成前の未飽和時間を短くすることによって、同様に初期段階でのインクルージョンの包含を促進できる。これらと同時に、回転速度を前記のように調節することで、育成の初期段階が過ぎた後のインクルージョンの発生を抑制することができる。
【0055】
更に、融液における13族元素窒化物/フラックス(例えばナトリウム)の比率(mol比率は、本発明の観点からは、高くすることが好ましく、18mol%以上が好ましく、25mol%以上が更に好ましい。これを大きくすることで初期段階でのインクルージョンの包含を促進できる。ただし、この割合が大きくなり過ぎると結晶品質が落ちる傾向があるので、40mol%以下が好ましい。
【0056】
(発光素子構造)
本発明においては、前述した13族元素窒化物膜上に所定の発光構造を形成する。この発光構造それ自体は公知であり、n型半導体層、p型半導体層およびこれらの間の発光領域からなる。
【0057】
本発明の13族元素窒化物膜は発光素子の製造に利用できる。発光素子は、例えば図6に模式的に示すような形態を有する。
【0058】
図6(a)の例では、13族元素窒化物単結晶3上にn型半導体層21、発光領域23、p型半導体層25が形成されており、発光構造31を構成する。図6(b)の例では、13族元素窒化物膜3のうちインクルージョン分布層が更に除去されており、インクルージョン欠乏層3b上に、n型半導体層21、発光領域23、p型半導体層25が形成されている。
【0059】
また、前記発光構造には、更に、図示しないn型半導体層用の電極、p型半導体層用の電極、導電性接着層、バッファ層、導電性支持体などを設けることができる。
【0060】
本発光構造では、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は13族元素窒化物膜側から取り出す。なお、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0061】
n型半導体層、p型半導体層を構成する半導体の材質は、III −V 族系化合物半導体からなり、以下を例示できる。
AlyInxGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)
【0062】
n型導電性を付与するためのドープ材としては、珪素、ゲルマニウム、酸素を例示できる。また、p型導電性を付与するためのドープ材としては、マグネシウム、亜鉛を例示できる。
【0063】
発光構造の設けられた13族元素窒化物膜の表面は、平坦面であってもよい。しかし、特許文献4と同様に、13族元素窒化物膜表面に凹凸を設け、半導体層での光の導波方向を変えて、外部量子効率を上げることができる。
【0064】
電極の好ましい材料としては、Ni、Pd、Co、Fe、Ti、Cu、Rh、Au、Ru、W、Zr、Mo、Ta、Pt、Ag及びこれらの酸化物、窒化物からなる群から選択される少なくとも一種を含む合金または多層膜があげられる。これらは、400℃以上の温度でアニールすることにより、p型半導体層と良好なオーミック接触を得ることができる。特に、Niの上にAuの多層膜が好ましい。電極の総膜厚としては50Å〜10000Åが好ましい。特に、透光性の電極として用いる場合は、50Å〜400Åが好ましい。また、非透光性電極とする場合は、1000Å〜5000Åが好ましい。
【0065】
n型半導体層と13族元素窒化物膜との間には剥離層を形成することができる。こうした剥離層の材質は、GaNを例示できる。
【0066】
発光構造を構成する各半導体層の成長方法は、種々の気相成長方法を挙げることができる。例えば、有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)等を用いることができる。その中でもMOCVD法によると、迅速に結晶性の良好なものを得ることができる。MOCVD法では、GaソースとしてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としては、アンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。
【0067】
発光領域は、量子井戸活性層を含む。量子井戸活性層の材料は、n型半導体層およびp型半導体層の材料よりもバンドギャップが小さくなるように設計される。量子井戸活性層は単一量子井戸(SQW)構造であっても多重量子井戸(MQW)構造であってもよい。量子井戸活性層の材質は以下を例示できる。量子井戸活性層の好適例として、AlxGa1-xN/AlyGa1-yN系量子井戸活性層(x=0.15、y=0.20)であって、膜厚がそれぞれ3nm/8nmであるものを3〜5周期形成させたMQW構造が挙げられる。
導電性接着剤としては、例えばAu/Ge系半田を厚さ0.5〜100μm程度で使用することができる。また、前記発光構造を導電性接着剤を介して別体の導電性支持体に対して接合することができる。導電性支持体は、発光構造を支持する約割を担うと共に、p型半導体層への電流注入機能をも有する。導電性支持体の材料としては、GaAs、SiC、Si、Ge、C、Cu、Al、Mo、Ti、Ni、W、Ta、CuW、Au/Ni等が挙げられる。
【0068】
(レーザーリフトオフ法)
本発明では、図7(a)に示すように、種結晶基板11の背面1b側から矢印Aのようにレーザー光を照射し、図7(b)に示すように、13族元素窒化物膜3を基板1から剥離させて基材9とすることができる。13族元素窒化物膜3からなる基材9を基板1から剥離させた後に、前述のように発光構造31を形成することができる。
また、図8に示すように、種結晶基板を13族元素窒化物膜3から剥離させることなしに、13族元素窒化物膜3上に発光構造31を形成することができる。この場合には、発光構造31を形成した後に、基板の背面1b側から矢印Aのようにレーザー光を照射し、レーザーリフトオフ法によって種結晶基板11を発光素子から剥離させ、図6(a)の素子を得ることができる。この後に、前述のようにインクルージョン分布層3aを研磨等によって除去してもよい。
【0069】
レーザー発振器としては、結晶層を分解することにより基板から剥離することができるものであれば、いずれのレーザー発振器を用いることができる。そのようなレーザー発振器の例として、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Nd:YAGレーザーおよびYVO4レーザーを挙げることができる。また、レーザー光はパルス光として照射することができ、その場合の周波数としては0.1〜100kHz程度(あるいはパルス長としては1〜100ナノ秒程度)を使用することができる。
【0070】
レーザー光の波長は、剥離するべき13族元素窒化物の材質に合わせて適宜選択する。例えば、以下の材質を剥離させるためには、以下の波長のレーザー光を利用することが好ましい。
GaN: 200〜 360 nm
AlN: 150〜 200 nm
GaAlN: 200〜 250 nm
【0071】
レーザーリフトオフを行う方式も特に限定されない。例えば、レーザー発振器から放出されたレーザービームを、ビームエキスパンダ、柱状レンズないし凸レンズ、ダイクロイックミラーおよび集光レンズを介して集光レーザービームとし、XYステージ上の前記積層体ないし発光素子に基板背面側から照射する。柱状レンズと集光レンズを組み合わせることにより、焦点距離をx方向とy方向とで異なるようにし、例えばx方向において強くフォーカスされ、y方向にはデフォーカスされた楕円形レーザー光を形成することもできる。
【0072】
また、ビームスキャナを用いたレーザーリフトオフ装置も利用できる。すなわち、レーザー発振器から放出されたレーザービームを、ビームエキスパンダ、柱状レンズないし凸レンズ、反射鏡、ガルバノスキャナおよびfθレンズを介して集光レーザービームとし、移動するXYステージ上の前記積層体ないし発光素子に基板背面側から照射する。
【0073】
レーザーリフトオフを実施する際に、特開2002−293699記載のように、単結晶基板の主面に凹凸状領域を選択的に形成することができる。凹凸状領域の上にこの凹凸状領域の凹部を埋めると共にその上面が平坦となるように、窒化物からなる種結晶膜および13族元素窒化物膜を成長させることができる。これによって、レーザー光が照射された部分の応力は、窒化物からなる半導体層における母材基板の凹部を埋めた部分と他の部分とが、基板面に平行に劈開することにより開放されるため、基板面に垂直な方向のクラック及び割れが生じにくい。
【0074】
この実施形態においては、レーザー光を基板における凹凸状領域のうちの少なくとも凸部に照射することが好ましい。このようにすると、半導体層の全面を走査する必要がなくなるので、レーザの照射時間を短縮することができ、その結果、生産性を向上することができる。
【0075】
なお、単結晶基板の主面に凹凸状領域を形成する方法として、RIE法、イオンミリング法、ECRエッチング法等を用いることができる。さらには、サンドブラスト又は研磨等による物理的手段を用いても良く、また、選択成長等の堆積法を用いても良い。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
図4図5に示す結晶製造装置を用いて、窒化ガリウム結晶を作製した。以下、その手順を詳説する。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、内径φ70mmのルツボ14の底に種結晶基板(φ2インチのGaNテンプレート:サファイア上にGaN薄膜(厚さ5ミクロン)をMOCVD法で成膜したもの)を水平に配置した。
ここでGaN薄膜の表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、約8×10〜2×10/cmであった。
【0077】
次いで、金属ナトリウム15g、金属ガリウム10g、炭素39mg(Ga/Na比は18mol%、C/Na比は、0.5mol%)をルツボ14内に充填した。ルツボ14をステンレス製の内側器16内に入れ、さらに内容器16を外容器14内に入れ、外容器本体の開口を窒素導入パイプの付いた外容器蓋で閉じた。この外容器を、予め真空ベークしてある回転台の上に設置し、耐圧容器12に蓋をして密閉した。
【0078】
そして、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。続いて、上段ヒータ、中段ヒータ、下段ヒータ及び底部ヒータをそれぞれ860℃、860℃、870℃、870℃となるように調節して加熱空間の温度を865℃に加熱しながら、4.0MPaまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入し、外容器を中心軸周りに30rpmの速度でずっと時計回りに回転させた。加速時間a=1秒、保持時間b=15秒、減速時間c=1秒、停止時間d=0.5秒とした。そして、この状態で10時間保持した。その後、室温まで自然冷却したのち、耐圧容器の蓋を開けて中から坩堝を取り出し、坩堝にエタノールを投入し、金属ナトリウムをエタノールに溶かしたあと、成長した窒化ガリウム結晶板を回収した。この窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.1mm成長していた。従って、平均の結晶成長速度は約10μm/hと見積もることが出来る。
なお、融液の深さは約4mmであり、未飽和時間は約2時間である。
【0079】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図6に示し、図17に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の30μmの領域に、大きさ数ミクロンのインクルージョンが存在することがわかった。このインクルージョンをSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。また、各層におけるインクルージョン面積比率を表1に示す。なお、界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約4%であり、それより上のインクルージョン欠乏層におけるインクルージョン面積比率は約0%である。
【0080】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0081】
次いで、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。具体的には、レーザー光源として波長355nmのNd:YAGの3次高調波を用いている。パルス幅は約30nsで、パルス周期は約50kHzとしている。レーザ光10を集光して約20μm径の円形状ビームとすることにより、1.0J/cm2 程度の光密度を得ている。サファイアはレーザー光に対して透明である。
【0082】
得られた前記積層体をサファイア基板を上向きにしてXYステージ上に配置した。XYステージを30mm/秒で移動させながら、サファイア基板側からレーザー光を順次照射して種結晶膜を融解させ、積層体を約50℃に加熱してサファイア基板を除去した。13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、回転方向は周期的に反転させた。また、加速時間=1秒、保持時間=15秒、減速時間=1秒、停止時間=15秒とし、反転を繰り返した。
成長した結晶の断面観察を行った結果を図7に示し、図18に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域に、大きさ数ミクロンのインクルージョンが存在することがわかった。このインクルージョンをSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。各層におけるインクルージョン面積比率を表1に示す。また、界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約8%であり、それより上のインクルージョン欠乏層におけるインクルージョン面積比率は約0%である。
【0084】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0085】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0086】
(実施例3)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、回転方向は周期的に反転させた。また、加速時間=1秒、保持時間=15秒、減速時間=1秒、停止時間=15秒とし、反転を繰り返した。回転速度は10rpmとした。
【0087】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図8に示し、図19に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域に、大きさ数ミクロンのインクルージョンが存在することがわかった。このインクルージョンをSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。各層におけるインクルージョン面積比率を表1に示す。また、界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約2%であり、それより上のインクルージョン欠乏層におけるインクルージョン面積比率は約0%である。
【0088】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0089】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0090】
(実施例4)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、回転方向は時計回りのみとし、回転速度は30rpmとした。また、金属ナトリウム13.5g、金属ガリウム18g、炭素35mgとして、Ga/Na比を30mol%とした。
【0091】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図9に示し、図20に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の20μmの領域に、大きさ数ミクロンのインクルージョンが存在することがわかった。このインクルージョンをSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。各層におけるインクルージョン面積比率を表1に示す。また、界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約7%であり、それより上のインクルージョン欠乏層におけるインクルージョン面積比率は約0%である。
【0092】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0093】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0094】
(実施例5)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、金属ナトリウム13.5g、金属ガリウム18g、炭素35mgとして、Ga/Na比を30mol%とした。
【0095】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図10に示し、図21に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域に、大きさ数ミクロンのインクルージョンが存在することがわかった。このボイド部をSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。各層におけるインクルージョン面積比率を表1に示す。また、界面から25μmにおけるインクルージョン面積比率は約8%であり、それより上のインクルージョン欠乏層におけるインクルージョン面積比率は約0%である。
【0096】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0097】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0098】
(比較例1)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、金属ナトリウム10g、金属ガリウム5g、炭素39mgとして、Ga/Na比を10mol%とした。また、回転を停止することなく、15時間の間、ずっと時計回りに30rpmで回転しながら育成を行った。この窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.1mm成長していた。従って、平均の結晶成長速度は約6.7μm/hと見積もることが出来る。
【0099】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図11に示し、図22に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域にはインクルージョンが存在しないことがわかった。
【0100】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していたが、実施例1よりは欠陥が多かった。
【0101】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0102】
(比較例2)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、回転を停止することなく、15時間の間、ずっと時計回りに30rpmで回転しながら育成を行った。この窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.1mm成長していた。
【0103】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図12に示し、図23に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域にはインクルージョンが存在しないことがわかった。
【0104】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していたが、実施例1よりは欠陥が多かった。
【0105】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0106】
(比較例3)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、金属ナトリウム13.5g、金属ガリウム18g、炭素35mgとして、Ga/Na比を30mol%とした。また、周期的な反転は行うが、回転速度は10rpmとした。この窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.1mm成長していた。
【0107】
成長した結晶の断面観察を行った結果を図13に示し、図24に2値化画像をしめす。図からわかるように、成長開始初期の50μmの領域に、大きなインクルージョンが存在することがわかった。このインクルージョンをSIMS分析したところ、ナトリウムとガリウムが検出された。また、界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約20%であり、それより上の領域におけるインクルージョン面積比率は約20%である。
【0108】
この成長した領域を厚さ70μmとなるよう研磨加工し、基板全体の厚さは0.4mmとなるように調整した。表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10/cm台であった。
【0109】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0110】
(実施例6)
実施例1に記載のようにして、種結晶基板11上に13族元素窒化物膜を形成した。次いで、得られた13族元素窒化物単結晶膜上に、n型半導体層、発光境域、p型半導体層をそれぞれMOCVDによって形成する。また、n型電極、p型電極を所定個所に形成し、波長約460nmの青色LEDを試作する。
【0111】
Siドープのn型GaNを4μm、SiドープのInGaNを500Å積層し、続いて発光領域となる多重量子井戸の活性層として、(井戸層、障壁層)=(アンドープのInGaN、SiドープのGaN)をそれぞれの膜厚を(70Å、300Å)として井戸層が6層、障壁層が7層となるように交互に積層する。InGaN井戸層のIn組成は、約15モル%とした。この場合、最後に積層する障壁層はアンドープのGaNとしてもよい。多重量子井戸の活性層を積層後、p型半導体層として、MgドープのAlGaNを200Å、アンドープのGaNを1000Å、MgドープのGaNを200Å積層する。p型半導体層として形成するアンドープのGaN層は、隣接する層からのMgの拡散によりp型を示す。
【0112】
次にn電極を形成するために、MgドープのGaNからp型半導体層と活性層及びn型半導体層の一部までをエッチングし、SiドープのGaN層を露出させる。次にp型半導体層の表面全面にNi/Auからなる透光性のp電極を、さらに透光性のp電極上において、n型半導体層の露出面と対向する位置にAuからなるpパッド電極を形成し、n型半導体層の露出面にW/Al/Wからなるn電極およびPt/Auからなるnパッド電極を形成する。
【0113】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜およびその上の発光構造31を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にクラックが見られなかった。
【0114】
次いで得られた発光素子について、内部量子効率をShockley-Read-Hall法で算出したところ、約90%と高い値が得られた。サファイア基板上に同じLEDを形成した場合の内部量子効率は約60%である。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
次に、インクルージョン分布層の厚さとインクルージョン欠乏層の厚さとの比率を種々変更し、膜の反りとの関係を調べた。
ただし、反りとは、膜の裏面からレーザー干渉計で高さ分布を測定し、最も高いところと最も低いところの差を「反り」とした。表面が凸形状のものが正の反り形状となり、表面が凹形状のものが負の反り形状となる。以下の実施例、比較例では、いずれも、膜表面が凸形状であった。
【0118】
(実施例7)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間を12時間にして育成を行った。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.125mm成長していた。
【0119】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の25μmの領域に、インクルージョン分布層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは4となる。また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、130μm反っていることがわかった。
【0120】
サファイア側にワックスを塗布して、研磨定盤にプレスして貼り付けたところ、ワックス厚さバラツキは10μmに抑えることができ、GaNの厚さが70μmとなるよう研磨加工し、その後、サファイア側も研磨加工し、全体の厚さが0.9mmとなるように調整してウェハーとした。ウェハーの反りは50μmであった。また、GaN表面の欠陥密度をCL(カソードルミネッセンス)測定により評価したところ、10〜10/cm台であり、種基板の欠陥密度よりも大幅に低減していた。
【0121】
このウェハーにMOCVD法により、青色LEDを作製した。具体的には、n−GaN層2μm成膜後、InGaN厚さ3nm、GaN厚さ5nmを1周期とする量子井戸構造を7周期作製し、その上に厚さ50nmのp−GaN層を成膜した。このウェハーのp−GaN側をメタルボンディングによって、厚さ0.3mmの導電性のシリコンウェハーと接合し、市販のレーザーリフトオフ装置を用いて、サファイア側からレーザー光を照射し、サファイア基板をGaNから分離した。分離したGaNはN面が露出している。N面を光取りだし率向上のためのモスアイ加工を施した後、n電極を取り付け、その後、1mm角に切断し、LEDチップを作製した。このLEDチップをヒートシンクに実装し、蛍光体を塗布し、350mAで駆動したところ、100ルーメン/W以上の高効率で発光することを確認した。
【0122】
(実施例8)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、上段ヒータ、中段ヒータ、下段ヒータ及び底部ヒータをそれぞれ880℃、880℃、890℃、890℃となるように調節して加熱空間の温度を885℃に加熱し、この状態で4時間保持した。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.025mm成長していた。
【0123】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の3μmの領域にインクルージョン分布層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは、22/3となる。
【0124】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、38μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0125】
(実施例9)
実施例8と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は10時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.105mm成長していた。
【0126】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の5μmの領域に、インクルージョンが存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは20となる。
【0127】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、155μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0128】
(実施例10)
実施例8と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は12時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.127mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の7μmの領域にインクルージョン分布層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは17となる。
【0129】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、180μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0130】
(実施例11)
実施例4と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は6時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.030mm成長していた。
【0131】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の20μmの領域に、インクルージョン含有層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは0.5となる。
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、70μm反っていることがわかった。
【0132】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0133】
(実施例12)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は12時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.110mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の30μmの領域に、インクルージョン含有層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは、8/3となる。
【0134】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、130μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0135】
(実施例13)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は20時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.220mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の20μmの領域に、インクルージョン含有層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは10となる。
【0136】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、320μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0137】
(実施例14)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、上段ヒータ、中段ヒータ、下段ヒータ及び底部ヒータをそれぞれ870℃、870℃、880℃、880℃となるように調節して加熱空間の温度を875℃に加熱し、この状態で10時間保持した。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.100mm成長していた。
【0138】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の10μmの領域に、インクルージョン含有層が存在することがわかった。従って、インクルージョン分布層の厚さを1としたとき、インクルージョン欠乏層の厚さは9となる。
【0139】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、130μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離し、13族元素窒化物膜にはクラックは見られなかった。
【0140】
(比較例4)
比較例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は15時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.150mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長初期50μmの領域にはインクルージョンが存在しないことがわかった。
【0141】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、250μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0142】
(比較例5)
比較例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は5時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.050mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長初期50μmの領域にはインクルージョンが存在しないことがわかった。
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、85μm反っていることがわかった。
【0143】
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0144】
(比較例6)
比較例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、保持時間は20時間とした。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.200mm成長していた。
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長初期50μmの領域にはインクルージョンが存在しないことがわかった。
【0145】
また、この窒化ガリウム結晶板の反り形状を裏面のサファイア側から測定したところ、340μm反っていることがわかった。
次いで、実施例1と同様にして、種結晶基板の背面側からレーザー光を照射することによって、13族元素窒化物膜を基板から剥離させた。この結果、サファイア基板は剥離したが、13族元素窒化物膜にクラックが見られた。
【0146】
(比較例7)
実施例1と同様にして窒化ガリウム膜を形成した。ただし、上段ヒータ、中段ヒータ、下段ヒータ及び底部ヒータをそれぞれ850℃、850℃、860℃、860℃となるように調節して加熱空間の温度を855℃に加熱し、この状態で10時間保持した。この窒化ガリウムの大きさはφ2インチであり、種基板上に約0.100mm成長していた。
【0147】
成長した結晶の断面観察を行った結果、成長開始初期の50μmの領域だけでなく、50〜60μmの領域にもインクルージョン分布層が存在することがわかった。界面から50μmにおけるインクルージョン面積比率は約4%であり、50〜60μmの領域におけるインクルージョン面積比率は約3%である。
【0148】
また、この窒化ガリウム結晶板を用いてLED構造を成膜したところ、インクルージョン含有部は凹凸成長してしまい、LEDを作製することが出来なかった。
【0149】
(評価)
比較例4、比較例5及び比較例6で形成した窒化ガリウム膜の厚みと反りの関係を示したグラフを図25に示す。図よりインクルージョン分布層がない場合は厚みと反りが比例関係にあることがわかり、任意の窒化ガリウム膜の厚さにおける反りの大きさが予測される。
【0150】
さらに、実施例7から実施例14で形成された窒化ガリウム膜の反りの値(A)と、それぞれ同じ厚さでインクルージョン分布層がない場合に予想される反りの値(B)の差をBで除した比に100を掛けた値を反り低減率(%)とし、インクルージョン分布層の厚みと反り低減率の関係を示したグラフを図26に示す。この図より、インクルージョン分布層が存在すると反り低減率として約10%〜40%得られ、反り低減の効果があることがわかった。
【0151】
本発明の特定の実施形態を説明してきたけれども、本発明はこれら特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲の範囲から離れることなく、種々の変更や改変を行いながら実施できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図26
図9
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図13
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図15
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図19
図20
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