【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
1. クエン酸第二鉄の調製
実施例1:
鉄含有析出物形成工程
60.5 kg(Fe
3+として6.7 kg;120.0 mol)の塩化第二鉄水溶液を反応容器に入れ、102.9 kgの精製水で希釈して、4.1重量%のFe
3+を含有する塩化第二鉄水溶液を得た。この塩化第二鉄水溶液を、0〜5℃の液温となるように冷却した。予め0〜5℃の液温に冷却した139.6 kgの10重量%NaOH水溶液を、前記塩化第二鉄水溶液に0〜4.2℃の液温を維持しながら120分間かけて滴下して、最終pHを9.05とした。滴下終了後、得られた混合物を1.6〜3.8℃の温度(液温)で1時間撹拌した。pHを測定して、混合物のpHが8.0〜10.0の範囲であることを確認した。
【0070】
洗浄工程
上記の工程で得られた混合物を濾過しながら、120 kgの精製水で洗浄した。濾別されたフェリハイドライトを主成分とする鉄含有粗析出物(湿固体(1):70.52 kg)を、162.7 kgの精製水中で55分間撹拌洗浄した。この懸濁液を再度濾過し、フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物を得た(湿固体(2):53.26 kg)。
【0071】
クエン酸第二鉄水溶液形成工程
28.9 kg(150.5 mol)のクエン酸を38.74 kgの精製水に溶解して、67.64 kgのクエン酸水溶液を調製した。上記の工程で得られた53.26 kgの湿固体(2)と67.64 kgの前記クエン酸水溶液とを反応容器に入れ、室温(約25℃)で70分間、約67 rpmの撹拌速度でゆっくりと撹拌して混合物を形成させた。次いで、混合物の温度(液温)が80℃に到達するまで、該混合物の温度(液温)と外部温度との差が0〜15℃の範囲となるような条件でゆっくりと加熱昇温した。その後、混合物を80.1〜84.0℃の液温で120分間撹拌して、フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物を溶解させた。フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物が溶解したことを確認した後、混合物の液温が20〜30℃の範囲となるように該混合物を冷却した。得られた混合物中の不溶物を濾過で除き、クエン酸第二鉄水溶液を得た(118.0 kg)。
【0072】
クエン酸第二鉄析出工程
471.8 kgの95重量%アセトン(5重量%水を含有するアセトン)を反応容器に入れた。上記の工程で得られた118.0 kgのクエン酸第二鉄水溶液を、25分間かけて撹拌しながら反応容器中の95重量%アセトンに滴下した。滴下終了後、得られた混合物を21.1〜22.2℃の液温で40分間撹拌した。得られた混合物を濾過し、クエン酸第二鉄を含有する析出物を得た(湿固体(3):74.08 kg)。得られた74.08 kgの湿固体(3)を乾燥させて、目的の高純度クエン酸第二鉄を粉末として得た(収量:25.86 kg;収率:78.86%)。
【0073】
実施例2:
実施例2のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に4.0〜4.7℃の液温を維持しながら165分間かけて滴下して、最終pHを9.20とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:136.03 kg;収率:85.3%)。
【0074】
実施例3:
実施例3のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に4.0〜4.7℃の液温を維持しながら165分間かけて滴下して、最終pHを9.20とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:136.42 kg;収率:84.7%)。
【0075】
実施例4:
鉄含有析出物形成工程
639.5 kg(Fe
3+として67.3 kg;1205 mol)の塩化第二鉄水溶液を反応容器に入れ、1002 kgの精製水で希釈して、4.1重量%のFe
3+を含有する塩化第二鉄水溶液を得た。この塩化第二鉄水溶液を、0〜5℃の液温となるように冷却した。予め0〜5℃の液温に冷却した1467.9 kgの10重量%NaOH水溶液を、前記塩化第二鉄水溶液に3.5〜8.0℃の液温を維持しながら120分間かけて滴下して、最終pHを9.22とした。滴下終了後、得られた混合物を3.7〜4.7℃の温度(液温)で1時間撹拌した。pHを測定して、混合物のpHが8.0〜10.0の範囲であることを確認した。
【0076】
洗浄工程
上記の工程で得られた混合物を濾過しながら、2000 Lの精製水で洗浄した。濾別されたフェリハイドライトを主成分とする鉄含有粗析出物(湿固体(1):628.02 kg)を、1627.0 kgの精製水中で25分間撹拌洗浄した。この懸濁液を再度濾過し、フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物を得た(湿固体(2):530.75 kg)。
【0077】
クエン酸第二鉄水溶液形成工程
289.30 kg(1506 mol)のクエン酸を389.0 kgの精製水に溶解して、678.3 kgのクエン酸水溶液を調製した。上記の工程で得られた530.75 kgの湿固体(2)と678.3 kgの前記クエン酸水溶液とを反応容器に入れ、室温(約25℃)で69分間、約50 rpmの撹拌速度でゆっくりと撹拌して混合物を形成させた。次いで、混合物の温度(液温)が80℃に到達するまで、該混合物の温度(液温)と外部温度との差が0〜15℃の範囲となるような条件でゆっくりと加熱昇温した。その後、混合物を80.0〜81.9℃の液温で120分間撹拌して、フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物を溶解させた。フェリハイドライトを主成分とする鉄含有析出物が溶解したことを確認した後、混合物の液温が20〜30℃の範囲となるように該混合物を冷却した。得られた混合物中の不溶物を濾過で除き、クエン酸第二鉄水溶液を得た(1226.5 kg)。
【0078】
クエン酸第二鉄析出工程
2453 kgのアセトンを反応容器に入れた。上記の工程で得られた613.2 kgのクエン酸第二鉄水溶液を、45分間かけて撹拌しながら反応容器中のアセトンに滴下した。滴下終了後、得られた混合物を24.0〜24.6℃の液温で40分間撹拌した。得られた混合物を濾過し、クエン酸第二鉄を含有する析出物を得た(湿固体(3):425.17 kg)。得られた425.17 kgの湿固体(3)を乾燥させて、目的の高純度クエン酸第二鉄を粉末として得た(収量:154.21 kg;収率:91.7%)。
【0079】
実施例5:
実施例5のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に3.5〜8.0℃の液温を維持しながら120分間かけて滴下して、最終pHを9.22とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:154.61 kg;収率:91.9%)。
【0080】
実施例6:
実施例6のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.6〜7.5℃の液温を維持しながら115分間かけて滴下して、最終pHを9.09とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:154.68 kg;収率:91.5%)。
【0081】
実施例7:
実施例7のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.6〜7.5℃の液温を維持しながら115分間かけて滴下して、最終pHを9.09とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:156.09 kg;収率:92.3%)。
【0082】
実施例8:
実施例8のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.4〜8.6℃の液温を維持しながら162分間かけて滴下して、最終pHを9.21とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:150.43 kg;収率:92.1%)。
【0083】
実施例9:
実施例9のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.4〜8.6℃の液温を維持しながら162分間かけて滴下して、最終pHを9.21とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:152.30 kg;収率:92.8%)。
【0084】
実施例10:
実施例10のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.6〜7.6℃の液温を維持しながら118分間かけて滴下して、最終pHを9.13とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:149.47 kg;収率:88.4%)。
【0085】
実施例11:
実施例11のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.6〜7.6℃の液温を維持しながら118分間かけて滴下して、最終pHを9.13とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:150.47 kg;収率:89.0%)。
【0086】
実施例12:
実施例12のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に0〜7.3℃の液温を維持しながら105分間かけて滴下して、最終pHを8.98とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:146.06kg;収率:87.7%)。
【0087】
実施例13:
実施例13のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に0〜7.3℃の液温を維持しながら105分間かけて滴下して、最終pHを8.98とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:146.56kg;収率:88.0%)。
【0088】
実施例14:
実施例14のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.3〜8.3℃の液温を維持しながら74分間かけて滴下して、最終pHを8.91とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:146.01 kg;収率:88.7%)。
【0089】
実施例15:
実施例15のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.3〜8.3℃の液温を維持しながら74分間かけて滴下して、最終pHを8.91とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:146.23 kg;収率:89.6%)。
【0090】
実施例16:
実施例16のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.5〜8.4℃の液温を維持しながら91分間かけて滴下して、最終pHを9.64とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:142.30 kg;収率:86.2%)。
【0091】
実施例17:
実施例17のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.5〜8.4℃の液温を維持しながら91分間かけて滴下して、最終pHを9.64とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:144.60 kg;収率:86.5%)。
【0092】
実施例18:
実施例18のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.9〜8.0℃の液温を維持しながら117分間かけて滴下して、最終pHを8.40とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:138.93 kg;収率:86.8%)。
【0093】
実施例19:
実施例19のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.9〜8.0℃の液温を維持しながら117分間かけて滴下して、最終pHを8.40とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:132.89 kg;収率:83.2%)。
【0094】
実施例20:
実施例20のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.4〜8.3℃の液温を維持しながら77分間かけて滴下して、最終pHを8.61とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:146.18 kg;収率:87.8%)。
【0095】
実施例21:
実施例21のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に1.4〜8.3℃の液温を維持しながら77分間かけて滴下して、最終pHを8.61とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:145.92 kg;収率:89.3%)。
【0096】
実施例22:
実施例22のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.2〜9.1℃の液温を維持しながら76分間かけて滴下して、最終pHを9.08とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:156.90 kg;収率:93.7%)。
【0097】
実施例23:
実施例23のクエン酸第二鉄は、実施例4の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.2〜9.1℃の液温を維持しながら76分間かけて滴下して、最終pHを9.08とした他は、実施例4と同様の方法で調製した(収量:153.60 kg;収率:90.4%)。
【0098】
実施例24:
鉄含有析出物形成工程
186.2 g(Fe
3+として24.6 g;0.440 mol)の塩化第二鉄水溶液を出発原料とし、NaOH水溶液を、前記塩化第二鉄水溶液に3.0〜5.3℃の液温を維持しながら100分間かけて滴下して、最終pHを9.08とした他は、実施例4と同様の方法で調製した混合物から鉄含有析出物を得た。上記鉄含有析出物を4等分したものを原料とし、クエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して1.00当量とした他は、実施例4の、クエン酸第二鉄水溶液形成工程およびクエン酸第二鉄析出工程と同様の方法で調整することにより、目的の高純度クエン酸第二鉄を得た(収量:24.76 g;収率:90.6%)。
【0099】
実施例25:
実施例25のクエン酸第二鉄は、実施例20で得られた鉄含有析出物を用い、実施例20のクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して2.50当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:26.79 g;収率:93.7%)。
【0100】
実施例26:
実施例26のクエン酸第二鉄は、実施例20で得られた鉄含有析出物を用い、実施例20のクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して2.50当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:26.88 g;収率:93.8%)。
【0101】
実施例27:
実施例27のクエン酸第二鉄は、実施例20で得られた鉄含有析出物を用い、実施例20のクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して3.00当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:27.96 g;収率:94.4%)。
【0102】
実施例28:
実施例28のクエン酸第二鉄は、実施例20の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に2.3〜6.3℃の液温を維持しながら89分間かけて滴下して最終pHを9.13として、且つクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して1.10当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:37.05 g;収率:94.8%)。
【0103】
実施例29:
実施例29のクエン酸第二鉄は、実施例20の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に0〜5.9℃の液温を維持しながら97分間かけて滴下して最終pHを9.25として、且つクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して1.25当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:37.98 g;収率:93.5%)。
【0104】
実施例30:
実施例30のクエン酸第二鉄は、実施例20の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に3.1〜6.3℃の液温を維持しながら91分間かけて滴下して最終pHを9.21として、且つクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して1.40当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:37.15 g;収率:94.5%)。
【0105】
実施例31:
実施例31のクエン酸第二鉄は、実施例20の鉄含有析出物形成工程において、NaOH水溶液を塩化第二鉄水溶液に3.7〜5.4℃の液温を維持しながら90分間かけて滴下して最終pHを9.28として、且つクエン酸第二鉄水溶液形成工程において、クエン酸をFe
3+に対して1.55当量とした他は、実施例20と同様の方法で調製した(収量:37.69 g;収率:96.8%)。
【0106】
比較例1-4
特許文献1に記載された方法にしたがって調製した。但し、本発明の鉄含有析出物形成工程に相当する工程の条件は、下記表3に示す条件に改変した。
【0107】
比較例11
食品添加物用の市販のクエン酸第二鉄(関東化学社製;製造ロット番号:901X1445;製造年月:2007年1月)を使用した。このクエン酸第二鉄は、硫酸第二鉄とアンモニア水より製した水酸化第二鉄とクエン酸とを反応させ、得られた溶液を濃縮してシロップ状とし、これをガラス板上に薄く塗布し、小葉片として剥離するまで乾燥することによって調製される(食品添加物公定書解説書より)。
【0108】
比較例12
食品添加物規格に適合した市販のクエン酸第二鉄(SIGMA社製, Technical Grade;製造ロット番号:048K0125;製造年月:2008年6月)を使用した。このクエン酸第二鉄は、比較例11に記載の方法と同様の方法により調製される。
【0109】
2. クエン酸第二鉄の組成分析
比較例11及び12、並びに実施例1〜31のクエン酸第二鉄について、慣用の方法で第二鉄の量(滴定法)、クエン酸の量(液体クロマトグラフィー)及び水分の量(カールフィッシャー、電量法、標準試験方法コードB-021)を測定した。結果を表1A及びBに示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
表1Aに示すように、比較例11及び12のクエン酸第二鉄において、第二鉄とクエン酸とのモル比の平均値は1:1.10、第二鉄と水とのモル比の平均値は1:2.70であった。
【0113】
これに対し、表1Bに示すように、実施例1〜31のクエン酸第二鉄において、第二鉄、クエン酸及び水の量は、クエン酸第二鉄の総重量に対してそれぞれ17.6〜21.4重量%、58.6〜66.5重量%及び16.5〜19.4重量%であり、各実施例の測定結果に大きな違いはなかった。上記の測定値から求めた第二鉄とクエン酸とのモル比は、1:0.796〜1:1.098、第二鉄と水とのモル比は、1:2.412〜1:3.021であった。
【0114】
実施例1〜31のモル比の最大値及び最小値を分子式「Fe・x(C
6H
8O
7)・y(H
2O)」に当てはめると、xの範囲は0.796〜1.098となり、yの範囲は2.412〜3.021となった。
【0115】
3. クエン酸第二鉄の元素分析
比較例11及び12、並びに実施例1〜23のクエン酸第二鉄について、慣用の方法で元素分析を行い、炭素の量、水素の量及び酸素の量を測定した。結果を表2A及びBに示す。
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
表2Aに示すように、比較例11及び12において、第二鉄と炭素との組成比、第二鉄と水素との組成比及び第二鉄と酸素との組成比の平均値は、それぞれ1:6.7、1:10.6及び1:10.2であった。
【0119】
これに対し、表2Bに示すように、実施例1〜23において、第二鉄と炭素との組成比、第二鉄と水素との組成比及び第二鉄と酸素との組成比の平均値は、それぞれ1:5.09、1:9.30及び1:8.56であった。上記の組成比の平均値をクエン酸第二鉄の一態様である分子式「Fe・x(C
6H
8O
7)・y(H
2O)」に当てはめると、その平均組成式は「FeC
5.09H
9.30O
8.56」と算出され、平均分子量は263.33と算出された。
【0120】
4. クエン酸第二鉄の赤外吸収スペクトル測定
実施例1〜23のクエン酸第二鉄について、臭化カリウム錠剤法により赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定した。実施例4のクエン酸第二鉄のIRスペクトルを
図1に示す。
【0121】
図1に示すように、実施例4のクエン酸第二鉄のIRスペクトルには、1608 cm
-1付近にクエン酸の解離型カルボニウムイオンのC=O伸縮振動に由来すると推測される強い吸収が、1717 cm
-1付近にクエン酸の非解離型のカルボン酸のC=O伸縮振動に由来すると推測される弱い吸収が観測された。また、その他の実施例のクエン酸第二鉄も、実施例4のクエン酸第二鉄と同様のIRスペクトルパターンを示し、上記の波数付近に同程度の強度の吸収帯が観測された。
【0122】
5. クエン酸第二鉄の化学構造解析
上記のように、組成分析、元素分析及び赤外吸収スペクトルの結果から、実施例1〜31のクエン酸第二鉄の化学構造は、第二鉄と3価のクエン酸とのモル比が1:1の正塩の形態ではなく、Fe・x(C
6H
8O
7)・y(H
2O)(式中、xは0.796〜1.098であり、yは2.412〜3.021である)の錯体の形態であることが明らかとなった。
【0123】
6. クエン酸第二鉄の粉末X線回析
実施例4のクエン酸第二鉄について、粉末X線回折測定法により粉末X線回折スペクトルを測定した。なお、対陰極にはコバルトを用いた。結果を
図2に示す。
【0124】
図2に示すように、実施例4のクエン酸第二鉄の粉末X線回折スペクトルは、散漫性の極大を持つハローパターンを示したため、実施例4のクエン酸第二鉄は非晶質(非晶質の粉末)であると判断した。
【0125】
7. β酸化水酸化鉄の同定とβ酸化水酸化鉄の定量
実施例1〜31のクエン酸第二鉄について、夾雑物であるβ酸化水酸化鉄を定性及び定量分析するため、粉末X線回析法(コバルト管球)により観測された回折角40〜41°付近の回折ピークのピーク面積を自動積分法により測定して、以下の式:
β酸化水酸化鉄量(重量%)=(Q
T/Q
S) x 0.025 x CF
[式中、
Q
Tは、2.5%β酸化水酸化鉄から得られた回折角40〜41°付近の回折ピークのピーク面積であり;
Q
Sは、試料から得られた回折角40〜41°付近の回折ピークのピーク面積であり;
CFは、β酸化水酸化鉄標準物質の含有量(重量%)である]
を用いる外部標準法により、クエン酸第二鉄の試料中における該試料の総重量に対するβ酸化水酸化鉄量(重量%)を算出した。
【0126】
なお、粉末X線回折法の操作条件は下記のとおりである。
ターゲット: Co
X線管電流: 40 mA
X線管電圧: 45 kV
走査範囲: 2θ=38〜44°
ステップ: 2θ=0.01671°
平均時間/ステップ: 1000 s
固定発散スリット: 1/2°
回転速度: 毎分60回転
受光側のフィルター: Feフィルター
走査軸: ゴニオ
アンチスキャッタースリット:1°
【0127】
試験例1:水酸化ナトリウムの添加条件の検討
鉄含有析出物形成工程において、水酸化ナトリウムを添加する際の温度と時間が、β酸化水酸化鉄の生成及び結果として得られるクエン酸第二鉄の溶解性に与える影響について、検討した。
上記1で説明した方法にしたがって、実施例1〜31のクエン酸第二鉄を調製した。
【0128】
比較例として、特許文献1に記載された方法にしたがって、比較例1〜4のクエン酸第二鉄を調製した。
【0129】
比較例1〜4及び実施例1〜31のクエン酸第二鉄について、上記の粉末X線回折法によるβ酸化水酸化鉄由来のピークの有無、及び第15改正日本薬局方溶出試験法パドル法に基づき、30分における第15改正日本薬局方溶出試験第1液(日局溶出試験第1液)中の溶解性(パドル法、100回転、600 mg/900 ml、溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定し、その極大波長における吸光度をもとに算出)を評価した。結果を表3に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
表3に示すように、鉄含有析出物形成工程において、塩化第二鉄と水酸化ナトリウムとの反応温度(液温)は、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、0〜10℃の範囲であることが特に好ましい。
【0132】
鉄含有析出物形成工程において、水酸化ナトリウムの滴下時間は、3時間以内であることが好ましく、2時間以内であることがさらに好ましく、1時間以内であることがより好ましく、30分以内であることが特に好ましい。
【0133】
したがって、鉄含有析出物形成工程において、水酸化ナトリウムの滴下条件は、例えば3時間以内且つ15℃以下であり、10℃以下又は0〜10℃の範囲であることが好ましく、2時間以内且つ15℃以下であることがさらに好ましく、2時間以内且つ10℃以下であることがより好ましく、2時間以内且つ0〜10℃の範囲の温度(液温)であることが特に好ましく、1時間以内且つ0〜10℃の範囲であることがとりわけ好ましい。
【0134】
試験例2:β酸化水酸化鉄の定量
比較例1〜4並びに実施例1、4、5、6 、7及び10〜23のクエン酸第二鉄について、上記の粉末X線回折法により、クエン酸第二鉄の試料中における該試料の総重量に対するβ酸化水酸化鉄量(重量%)を算出した。結果を表4に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
8. 日局溶出試験第1液における溶出プロファイル
比較例1、11及び12、並びに実施例4、5、6、7、8及び9のクエン酸第二鉄について、第15改正日本薬局方溶出試験法パドル法に基づき、第15改正日本薬局方溶出試験第1液(日局溶出試験第1液)(pH1.2)における溶出プロファイルを比較した(パドル法、100回転、600 mg/900 ml)。なお、比較例1、並びに実施例4、5、6、7、8及び9のクエン酸第二鉄は、上記の方法にしたがって調製した試料の粉砕品を用いた。結果を
図3に示す。
【0137】
図3に示すように、本発明のクエン酸第二鉄の一態様は、日局溶出試験第1液(pH1.2、パドル法、100回転、600 mg/900 ml)におけるクエン酸第二鉄の95重量%以上が15分以内、好ましくは10分以内に溶出する溶出挙動を示すクエン酸第二鉄である。また、15分での溶出率が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、とりわけ好ましくは95%以上である。
【0138】
9. 比表面積の測定
比較例11及び12、並びに実施例1、4、5、6、7及び10〜23のクエン酸第二鉄について、窒素ガス吸着法(相対圧:0.05-0.3)により比表面積(BET表面積)を測定した。結果を表5に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
10. 薬理試験
使用例1:ラットにおけるリン吸収阻害作用
ラットにおいて、クエン酸第二鉄(実施例1)のリン吸収阻害作用を検討した。1群8〜9匹の雄性SD系ラットに、飼料の総重量に対して1.1重量%又は3.2重量%の実施例1のクエン酸第二鉄を含有する飼料を用いて、7日間混餌投与した。対照群には、クエン酸第二鉄を含有しない飼料を与えた。投与期間中は連日採糞及び採尿を実施した。採取した糞及び尿サンプル中のリン濃度を測定し、糞中リン排泄量及び尿中リン排泄量を算出した。摂餌量からクエン酸第二鉄量を差し引いた量に飼料中のリン含有率を乗じてリン摂取量を算出し、リン摂取量から糞中リン排泄量を差し引くことによりリン吸収量を算出した。対照群及び試験群のリン吸収量及び尿中リン排泄量の平均値(mg リン/日)を
図4に示す。
【0141】
11. 製剤試験
製剤例1:250 mg錠
1.680 kgのポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー(Kollicoat IR、BASF製)及び0.42 kgのポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体(POVACOAT Type:F、大同化成工業製)を25.9 kgの精製水に加えた後、プロペラミキサーにより溶解して結合液を調製した。
【0142】
38.3248 kg(無水物換算で30 kg)のクエン酸第二鉄(実施例4及び5で製造されたもののうち、それぞれ19.1624 kgずつを混合したもの)及び3.4591 kgの結晶セルロース(セオラス PH-102、旭化成ケミカルズ製)を流動層造粒乾燥機(WSG-60、パウレック製)に入れ、24.0 kgの前記結合液を噴霧して造粒後、乾燥させた。得られた乾燥顆粒を、スクリーンミル(U20型、パウレック製)により目開き1143μmのスクリーンで篩過し、整粒末を得た。
【0143】
得られた41.4048 kgの整粒末に、3.42 kgの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LH-11、信越化学工業製)及び0.57 kgのクロスポビドン(Kollidon CL-F、BASF製)を添加し、W型混合機(TCW-100、徳寿工作所製)を用いて毎分29回転で310秒混合した。次いで、0.7752 kgのステアリン酸カルシウム(日本薬局方ステアリン酸カルシウム、植物性、太平化学産業製)を加えて、W型混合機(TCW-100、徳寿工作所製)を用いて毎分29回転で104秒混合し、打錠末を得た。この打錠末を、ロータリー式打錠機(コレクト12HUK、菊水製作所製)を用いて打錠圧950 kgf/杵で打錠し、長径14.8 mm、短径6.8 mm、質量405 mgのカプセル型の素錠を得た。
【0144】
得られた12.15 kgの素錠を、自動コーティング機(HCT-60N、フロイント産業製)を用いて、600 gのヒプロメロース(TC-5M、信越化学工業製)、200 gの酸化チタン(Titanuim(IV) Oxide extra pure、メルク製)、100 gのタルク(ハイフィラー #17、松村産業製)、100 gのマクロゴール6000(マクロゴール6000P、日油製)及び7000 gの精製水を混合して得られたコーティング液でコーティングして、1錠あたり約18 mgのコーティング皮膜を有する錠剤(1錠あたり12 mgのポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、3 mgのポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、30 mgの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び5 mgのクロスポビドン含有)を得た。
製剤例1の粗錠及びコーティング皮膜を有する錠剤の成分組成を表6に示す。
【0145】
【表8】