(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944169
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20160621BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
F04B39/00 106A
F04C29/00 T
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-9835(P2012-9835)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-148037(P2013-148037A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田口 正則
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】小山 茂幸
【審査官】
佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−058388(JP,A)
【文献】
特開2007−064045(JP,A)
【文献】
特開2009−008009(JP,A)
【文献】
特開2010−065625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動回路により駆動制御されるモータが圧縮機構を駆動することにより冷媒を圧縮する電動圧縮機であって、前記駆動回路の電流出力部に接続されたリードピンと、該リードピンに装着されることにより前記駆動回路の電流出力部と前記モータの電流入力部とを導通可能なコネクタとを有し、
該コネクタが、前記リードピンへの装着時に前記リードピンと接触するコネクタ端子と、該コネクタ端子を収容するコネクタハウジングと、該コネクタハウジングの内部と外部とを連通し前記コネクタ端子と前記モータの電流入力部を導通する露出された導線束の空隙からなる真空引き流路と、該真空引き流路と前記コネクタハウジングの間を密封する絶縁性ゴム材料で形成された密封部材とを備えていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記コネクタハウジングと前記リードピンの間に電気絶縁体が介装されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記コネクタハウジングが、複数のコネクタ端子を収容するクラスタハウジングからなる、請求項1または2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
ポリアルキレングリコール系潤滑油により系内が潤滑される、請求項1〜3のいずれかに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ等の駆動回路により制御されるモータを備えた電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される電動圧縮機には、インバータからの出力電流をハーメチックプレートのリードピン(通電部)を介してモータ巻線に入力するためのコネクタ端子を備えた気密端子部が設けられる。このような場合に、複数のコネクタ端子を収容するクラスタハウジングを用いてコネクタ端子をハーメチックプレートに固定することが一般的に行われている。
【0003】
気密端子部は、電動圧縮機を小型に形成するために圧縮機ハウジング(密閉容器)内に設けられる。この圧縮機ハウジング内には被圧縮流体としての冷媒が流れるが、気密端子部の内部に液冷媒が流入しないように気密端子部を完全に密封・遮断すると、気密端子部の内部と外部の間で圧力差が生じてしまう。そこで、気密端子部の内外を液冷媒が出入り可能とするような貫通孔を設ける試みがなされている。
【0004】
ところが、圧縮機の密閉容器と気密端子部を連通させる貫通孔が設けられると、貫通孔を介して気密端子部内に液冷媒が侵入し、密閉容器内部で絶縁不良が生じやすくなる。このような絶縁不良を回避するために、特許文献1に記載の電動圧縮機においては、所定の絶縁距離延長部が設けられて絶縁性の確保が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される電動圧縮機に設けられる絶縁距離延長部は、やや複雑な構造を備えているため、少なからず圧縮機小型化の妨げとなる。また、絶縁距離延長部を設けることで、圧縮機構成部材の加工や圧縮機の組立てが複雑化しやすくなるという圧縮機製造上のデメリットも生じ得る。
【0007】
そこで本発明の課題は、製造容易であって、圧縮機内部の圧力を均一化しつつ圧縮機内部の絶縁性を確保することが可能な電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動圧縮機は、駆動回路により駆動制御されるモータが圧縮機構を駆動することにより冷媒を圧縮する電動圧縮機であって、前記駆動回路の電流出力部に接続されたリードピンと、該リードピンに装着されることにより前記駆動回路の電流出力部と前記モータの電流入力部とを導通可能なコネクタとを有し、
該コネクタが、前記リードピンへの装着時に前記リードピンと接触するコネクタ端子と、該コネクタ端子を収容するコネクタハウジングと、該コネクタハウジングの内部と外部とを連通する真空引き流路と、該真空引き流路と前記コネクタハウジングの間を密封する密封部材とを備えていることを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明の電動圧縮機においては、コネクタハウジングの内部と外部とを連通する真空引き流路が設けられ、該真空引き流路とコネクタハウジングの間が密封部材で密封されているので、コネクタハウジング内に液冷媒が流入した場合においても導電経路を真空引き流路内のみにとどめることができ、その結果、圧縮機内の均圧性と絶縁性の確保を両立して実現することが可能となる。
【0010】
このような本発明の電動圧縮機において、前記コネクタハウジングと前記リードピンの間に電気絶縁体が介装されていることが好ましい。このような電気絶縁体を設けることにより、コネクタハウジングの駆動回路側に接続されるリードピンからの電流漏洩を防止することができる。
【0011】
また、前記密封部材が電気絶縁体からなることが好ましい。例えば、密封部材を絶縁性ゴム材料で形成することによって、コネクタハウジング自体の絶縁性を効果的に確保することができる。コネクタハウジングとリードピンの間に介装される電気絶縁体の材質と密封部材の材質とは異なる材質であってもよいが、同じ材質で両者を形成すれば材料コストの増大を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る電動圧縮機において、前記真空引き流路が、前記コネクタ端子と前記モータの電流入力部を導通する導線束の空隙からなることが好ましい。このような導線束の空隙を利用して真空引き流路を確保することにより、コネクタハウジング内に流入する液冷媒の断面積を極力小さくすることが可能となる。具体的には、比較的大径のモータ巻線の数本を直出ししてコネクタ端子まで引き込むことで、微細な真空引き流路を容易に形成することが可能である。
【0013】
本発明は、前記コネクタハウジングが、複数のコネクタ端子を収容するクラスタハウジングからなる場合において顕著な効果を発揮することができる。クラスタハウジングを備えた電動圧縮機に本発明を適用することにより、1箇所に集約された気密端子部の絶縁性をより効率的に確保することが可能である。
【0014】
本発明は、とくに、ポリアルキレングリコール系潤滑油(PAGオイル)により系内が潤滑される電動圧縮機に適用されることが好ましい。ポリオールエステル系潤滑油(POEオイル)に比較して絶縁性が低いPAGオイルが潤滑油として用いられる場合には、コネクタハウジング内で絶縁不良が生じやすくなるため、本発明の作用効果のより顕著な発揮が期待される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷媒や潤滑油がコネクタハウジング内に流入することによる電気絶縁性の低下を回避することができるので、PAGオイルを潤滑油として用いる場合や、より高電圧の運転条件下においても十分な電気絶縁性が確保された電動圧縮機を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施態様に係る電動圧縮機を示す概略縦断面図である。
【
図2】
図1の電動圧縮機のコネクタ端子近傍を示す部分拡大縦断面図である。
【
図3】
図1の電動圧縮機を構成するコネクタハウジングとコネクタ端子を示し、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【
図4】
図1の電動圧縮機を構成するコネクタハウジングの装着操作を示し、(A)は密封部材装着工程を説明する斜視図、(B)はプレート装着工程を説明する斜視図である。
【
図5】本発明の他の実施態様に係る電動圧縮機のコネクタ端子近傍を示す部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る電動圧縮機1を示す縦断面図である。モータ2によって回転駆動される主軸3が可動スクロール4を旋回させることにより、可動スクロール4と固定スクロール5から構成される圧縮機構6において冷媒が圧縮される。モータ2にはモータ導線7を通して電流が入力され、この入力電流により生じる磁界の作用でロータ8がステータ9に対して回転することで主軸3が回転駆動される。
【0018】
モータ導線7は、数本のモータ巻線が直出しされ、先端部を残して被覆されたものであり、露出された先端部の導線束の空隙からなる真空引き流路10を経てコネクタ端子11に接続されている。コネクタ端子11はコネクタハウジング12内に収容されており、電動圧縮機1内を流動する冷媒および潤滑油は、真空引き流路10を介してコネクタハウジング12内に流入することができる。
【0019】
コネクタ端子11には、モータ2を駆動する駆動回路としてのインバータ13の電流出力部に設けられるハーメチックプレート14のリードピン15が接続されている。コネクタハウジング12は、リードピン15のハーメチックプレート14近傍の周囲に配置された環状のガイシ16に装着可能に形成され、装着部位を密封するために、コネクタハウジング12とリードピン15の間には電気絶縁体としてのゴムからなる密封部材17が介装されている。
【0020】
図2は、
図1の電動圧縮機1におけるコネクタ端子11近傍を示す部分拡大縦断面図である。モータ導線7の先端部において導線束の空隙として形成される真空引き流路10は、コネクタハウジング12の内部と外部を連通しているため、電動圧縮機1の系内に導入される冷媒や潤滑油は真空引き流路10を通してコネクタハウジング12内に流入することができる。電動圧縮機1の運転開始前の操作として、系内に冷媒を導入するために、系内の真空引きが実施されるが、この時に真空引き流路10を通してコネクタハウジング12の内部にも真空状態が形成される。続いて系内に冷媒が導入されると、真空引き流路10を通して冷媒や潤滑油がコネクタハウジング12の内部に流入する。本実施態様においては、真空引き流路10とコネクタハウジング12の間に電気絶縁体としてのゴムからなる密封部材18が介装されているので、冷媒や潤滑油が真空引き流路10のみを通してコネクタハウジング12内に流入し、それ以外の経路からコネクタハウジング12内に流入することが防止されている。このようにして、電動圧縮機1の系内圧力の均一化が図られるとともに、コネクタ端子11の周囲における電気絶縁性が十分に確保されている。
【0021】
図3は、
図1の電動圧縮機1を構成するコネクタハウジング12とコネクタ端子11を示しており、(A)は平面図、(B)は正面図である。本実施態様においては、コネクタハウジング12はいわゆるクラスタハウジング形状を有しており、複数のコネクタ端子を収容する複数の収容部を備えている。
【0022】
図4は、
図1の電動圧縮機を構成するコネクタハウジング12の装着操作を示しており、(A)は密封部材17をハーメチックプレート14に装着する密封部材装着工程を説明する斜視図、(B)はコネクタハウジング12をハーメチックプレート14に装着するプレート装着工程を説明する斜視図である。リードピン15とコネクタハウジング12の間には、リードピン15の周囲に配置される環状のガイシ16と、ガイシ16に嵌合される環状の密封部材17が介装されている。このようにコネクタハウジング12の装着部位が電気絶縁体のみを用いて隙間なく密封されることによって、電気絶縁性が確保されている。
【0023】
図5は、本発明の他の実施態様に係る電動圧縮機21におけるコネクタ端子の近傍を示す部分拡大縦断面図である。コネクタ端子や真空引き流路はコネクタハウジング22内に収容されているが、図示を省略する。本実施態様ではリードピン25と真空引き流路が一直線上に並ぶような平行配置が採用されており、この点において、リードピン15と真空引き流路10がほぼ直交するような直交配置が採用される
図2の実施態様と異なる。その他の点については
図2の実施態様と同様であるので、対応する部品に同じ部品番号を付すことにより説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る電動圧縮機は、電気自動車等に搭載されるスクロール型電動圧縮機等として利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1、21 電動圧縮機
2 モータ
3 主軸
4 可動スクロール
5 固定スクロール
6 圧縮機構
7 モータ導線
8 ロータ
9 ステータ
10 真空引き流路
11 コネクタ端子
12、22 コネクタハウジング
13 インバータ
14 ハーメチックプレート
15、25 リードピン
16 ガイシ
17、18 密封部材