(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、
前記内輪の一端面に隣接し且つ外径が外輪の一端面の径方向幅内に位置する内輪間座を設けると共に、外輪の一端面に隣接し且つ内周面が前記内輪間座の外周面に対向する外輪間座を設け、
前記給排油機構は、
前記内輪間座の外周面に設けられた円周溝と、
前記外輪間座に設けられ、潤滑油を前記円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、
前記内輪間座の外周面と外輪間座の内周面とのすきま部に設けられ、円周溝から外輪の一端面に導かれる潤滑油の油量を絞る第一絞り部と、
前記外輪の一端面に設けられ、第一絞り部に連通してこの第一絞り部から導かれる潤滑油を収容する環状の油保有溝と、
前記外輪の一端面と、この外輪の一端面に臨む内輪間座の一端面との間に設けられ、油保有溝および内外輪の軸受空間にそれぞれ連通して、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を絞る第二絞り部と、
を有することを特徴とする転がり軸受装置。
請求項1または請求項2において、前記給排油機構は、前記外輪間座に設けられる排油口を含み、この排油口は、前記給油口とは異なる円周方向位置で円周溝に連通し、潤滑油を排出するものである転がり軸受装置。
請求項4または請求項5において、前記障壁は、排油口にて軸方向に並ぶ2つの壁部を有し、各壁部は、排油口における半径方向内方の円周方向一側部から、前記排油口における半径方向外方の円周方向他側部に至るようにそれぞれ傾斜すると共に、これら軸方向に並ぶ2つの壁部が互いに交差するように設けられる転がり軸受装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図15の構造では、軸受内へ多量の潤滑油が浸入し軸受内で潤滑油が滞留すると、攪拌抵抗が増加し、軸受の温度が上昇して、高速回転が不可能となる場合がある。
【0005】
ここで本件出願人は、
図16に示す転がり軸受装置を提案している。同図に示すように、内輪1には、軸方向に延びる内輪延長部6を設け、外輪2に隣接し且つ内周面が内輪延長部6に対向する間座7を設けている。この場合、軸受運転時、以下の(1)〜(5)のように潤滑油が軸受内部に浸入する。同図における矢符は潤滑油の流れを示す。
(1) 潤滑油を給油路9から供給する。
(2) 潤滑油が内輪円周溝8に当たる。
(3) 潤滑油は、回転中の内輪1から遠心力を受けて、間座7の内周面7aに当たる。
(4) 潤滑油は、内輪延長部6の外周面と、間座7の内周面との径方向すきまから軸受内に浸入する。このとき転がり軸受装置を例えば立軸の支持に用いる場合には、内周面7aに当たった潤滑油が、排油口に向かうまでの経路途中で重力等の作用により、排油口であまり排出されずに軸受内に多量に浸入する場合がある。
(5) このように潤滑油が多量に浸入すると、軸受内に潤滑油が滞留する。この滞留した潤滑油が軸受の発熱の原因となり、高速運転が不可能となる。
【0006】
この発明の目的は、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を抑制し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の一端面に隣接し且つ外径が外輪の一端面の径方向幅内に位置する内輪間座を設けると共に、外輪の一端面に隣接し且つ内周面が前記内輪間座の外周面に対向する外輪間座を設け、前記給排油機構は、前記内輪間座の外周面に設けられた円周溝と、前記外輪間座に設けられ、潤滑油を前記円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、前記内輪間座の外周面と外輪間座の内周面とのすきま部に設けられ、円周溝から外輪の一端面に導かれる潤滑油の油量を絞る第一絞り部と、前記外輪の一端面に設けられ、第一絞り部に連通してこの第一絞り部から導かれる潤滑油を収容する環状の油保有溝と、前記外輪の一端面と、この外輪の一端面に臨む内輪間座の一端面との間に設けられ、油保有溝および内外輪の軸受空間にそれぞれ連通して、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を絞る第二絞り部とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によると、軸受運転時、外輪間座の給油路から潤滑油を供給すると、内輪間座の外周面の円周溝に沿って潤滑油が流れる。これにより軸受を冷却する。軸受を冷却した油は、例えば、排出されるものと、軸受潤滑のために第一絞り部を通過して油保有溝に流れるものとに分かれる。この油保有溝に流れる潤滑油の少なくとも一部は、第二絞り部を通過して軸受空間内に浸入する。このように第一および第二絞り部を設けることにより、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を抑制することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
【0009】
前記給排油機構は、外輪の外周面に設けられ、油保有溝に連通して潤滑油を排出する排油口を含むものとしても良い。前記第一絞り部を通過して油保有溝に流れ込んだ潤滑油は、外輪の排油口を通り回収されるものと、前記第二絞り部を通過して軸受空間内に浸入するものとに分かれる。このように外輪の外周面に排油口を設けた場合、外輪の外周面に排油口を設けない構成に比べて、排油効率を上げることができる。
前記外輪の排油口を2箇所以上設けても良い。この場合、排油効率の向上をさらに図ることができる。
【0010】
前記内輪間座の円周溝は、この内輪間座を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面が凹形状に形成されたものであっても良い。この場合、給油路から供給された潤滑油は、断面凹形状の円周溝の溝底面に跳ね返って、内輪回転に伴う遠心力により、第一絞り部などへ向かうようになっている。
【0011】
前記給排油機構は、前記外輪間座に設けられる排油口を含み、この排油口は、前記給油口とは異なる円周方向位置で円周溝に連通し、潤滑油を排出するものであっても良い。この場合、内輪間座の円周溝に沿って流れた潤滑油は、外輪間座の排油口から排出されるものと、軸受潤滑のために第一絞り部を通過するものとに分かれる。
前記外輪間座の排油口に、潤滑油の円周溝に沿う流れを規制する障壁を設けても良い。この場合、内輪の回転に伴い円周溝に沿って流れる潤滑油は、障壁に当たり、排油口に回収され易くなる。これにより、潤滑油が軸受内部に滞留することを抑制することができ、したがって、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し得る。
【0012】
前記障壁を、外輪間座の排油口における周方向長さの中央部に配設したものであっても良い。この場合、軸受が正回転する場合に、円周溝に沿って正回転方向に流れる潤滑油を前記障壁で規制し、排油口に円滑に導くことができる。軸受が逆回転する場合にも、円周溝に沿って逆回転方向に流れる潤滑油を前記障壁で規制し、排油口に円滑に導くことができる。
【0013】
前記障壁は、内輪間座における円周溝の底面付近まで延びる延在部を含むものとしても良い。この場合、内輪間座の円周溝に沿って流れる潤滑油を、障壁により確実に衝突させることができる。これにより、延在部がない障壁に比べて、排油口から回収される潤滑油の回収効率を高めることができる。
前記障壁は、潤滑油の流れ方向に応じて可動する弁構造であっても良い。この場合、軸受の正回転、逆回転にかからわず、潤滑油の流れ方向に応じて障壁を可動させて、潤滑油を排油口に円滑に導くことができる。
【0014】
前記障壁は、排油口における半径方向内方の円周方向一側部から、半径方向外方の開口縁に向かうに従って、前記排油口における周方向長さの中央部に至るように傾斜する傾斜部を含むものであっても良い。この場合、潤滑油が傾斜部に沿って円滑に流れるため、排油口から回収される潤滑油の回収効率の向上を図ることができる。
前記障壁は、排油口にて軸方向に並ぶ2つの壁部を有し、各壁部は、排油口における半径方向内方の円周方向一側部から、前記排油口における半径方向外方の円周方向他側部に至るようにそれぞれ傾斜すると共に、これら軸方向に並ぶ2つの壁部が互いに交差するように設けられるものであっても良い。この場合、軸受の正回転、逆回転にか
かわらず、潤滑油がいずれか一方の壁部に沿って円滑に流れるため、排油口から回収される潤滑油の回収効率の向上を図ることができる
。
前記第一および第二絞り部の各すき
まを、一つの前記転がり軸受における軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を抑制するように定めることで潤滑油の撹拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制可能としても良い。
前記いずれかの転がり軸受装置は、工作機械主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪の一端面に隣接し且つ外径が外輪の一端面の径方向幅内に位置する内輪間座を設けると共に、外輪の一端面に隣接し且つ内周面が前記内輪間座の外周面に対向する外輪間座を設け、前記給排油機構は、前記内輪間座の外周面に設けられた円周溝と、前記外輪間座に設けられ、潤滑油を前記円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、前記内輪間座の外周面と外輪間座の内周面とのすきま部に設けられ、円周溝から外輪の一端面に導かれる潤滑油の油量を絞る第一絞り部と、前記外輪の一端面に設けられ、第一絞り部に連通してこの第一絞り部から導かれる潤滑油を収容する環状の油保有溝と、前記外輪の一端面と、この外輪の一端面に臨む内輪間座の一端面との間に設けられ、油保有溝および内外輪の軸受空間にそれぞれ連通して、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を絞る第二絞り部とを有する。このため、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を抑制し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【
図3】同転がり軸受装置における外輪の正面図である。
【
図4】同転がり軸受装置における
図2の要部の拡大図である。
【
図5】同転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図である。
【
図6】(A)は、この発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の平面図、(B)は同
図6(A)のVI(B) - VI(B) 線端面図である。
【
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の平面図である。
【
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の平面図である。
【
図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の平面図である。
【
図10】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置において、内輪が同図反時計回りに回転するときの状態を表す要部の平面図、(B)は、同内輪が同図時計回りに回転するときの状態を表す要部の平面図である。
【
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の外輪間座の斜視図である。
【
図12】同外輪間座の要部を内径側から拡大して示す斜視図である。
【
図14】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受装置を、工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。
【
図15】従来例の転がり軸受の潤滑装置の要部の断面図である。
【
図16】潤滑油が軸受内部へ浸入する参考提案例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図5と共に説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る転がり軸受装置は、転がり軸受Brと、給排油機構Kuとを備えている。
図2に示すように、転がり軸受Brは、内外輪1,2である一対の軌道輪と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受Brはアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。
【0018】
内輪1の軌道面1aの軸方向両側に、内輪外径面1bおよびこの内輪外径面1bに続く斜面1cと、斜面状のカウンタボア1dとがそれぞれ形成されている。この例の内輪外径面1bは、軌道面1aに対し接触角を成す作用線Lの偏り側から幅方向に延びる。この内輪外径面1bの軸方向外縁部に続く斜面1cは、軸方向一方(
図2の上方)に向かうに従って内径側に至るように傾斜する断面形状に形成されている。外輪2の軌道面2aの軸方向両側に、外輪内径面2b,2bがそれぞれ形成され、これら外輪内径面2b,2bに保持器4が案内されるように構成されている。
【0019】
図1に示すように、給排油機構Kuは、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を潤滑内(軸受内)に供給すると共に、軸受外に排出する機構である。内輪1の一端面に隣接して内輪間座6を設け、この内輪間座6の外径6aが、外輪2の一端面の径方向幅内に位置するように構成している。さらに外輪2の一端面に隣接して外輪間座7を設け、この外輪間座7の内周面を、内輪間座6の外周面に対向させている。給排油機構Kuは、内輪間座6の外周面に設けられた円周溝8と、外輪間座7に設けられた給油路9と、外輪間座7に設けられた排油口10と、第一絞り部11と、環状の油保有溝12と、外輪2の排油口13と、第二絞り部14とを有する。
【0020】
内輪間座6の外周面には、この内輪間座6を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面が凹形状となる円周溝8が設けられている。
図1左側に示すように、外輪間座7のうち円周方向の一部に、潤滑油を前記円周溝8へ向けて吐出する給油口18を有する給油路9が形成されている。この給油路9は、外輪間座7の外周面から、径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。
図5に示すように、給油路9から供給された潤滑油は、給油口18から吐出されて円周溝8に供給される。この潤滑油は、円周溝8に沿って、内輪1(
図1)の回転方向L1と同一方向に進み、軸受の冷却に供される。冷却に供された潤滑油は、排油口10,13(
図1)および後述の切欠部15から排出される。
【0021】
外輪間座7のうち、前記給油路9とは異なる円周方向位置には、潤滑油を外部に排出する排油口10が形成されている。排油口10は、
図1右側に示すように、外輪間座7の外周面から径方向に貫通して円周溝8に連通するように形成されている。
図5に示すように、給油路9に対し、排油口10の位相が所定の位相角度α(この例ではα=270度)となるように設けられている。
【0022】
図2に示すように、内輪間座6における、軸受とは軸方向逆側の外周面と、この外周面に対向する外輪間座7の内周面との間には、例えば、隣接する軸受等に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構Rkを設けている。このラビリンス機構Rkは、給油路9および排油口10(
図1)に連通し、広部と狭部とが軸方向に連なるものとしている。広部は、内輪間座6における前記軸方向逆側の外周面に設けられる円周溝6bと、この円周溝6bに対向する外輪間座7の内周面とを含んで構成される。前記円周溝6bは、軸方向に間隔をあけて複数配設される。前記狭部は、内輪間座6における前記外周面の突出先端部と、この突出先端部に対向する外輪間座7の内周面とを含んで構成される。潤滑油が給油路9から供給されラビリンス機構Rkに浸入した場合、この潤滑油は、内輪回転による遠心力により円周溝6bに沿って漏れ側とは反対方向に移動するため、隣接する軸受等に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。なお、内輪間座6の外周面に円周溝6bを設ける構成に代えて、外輪間座7の内周面に、円周溝を設けても良い。また内輪間座6および外輪間座7にそれぞれ円周溝を設けても良い。
【0023】
図4は、
図2の要部の拡大図である。
図2および
図5に示すように、内輪間座6における、ラビリンス機構Rkとは軸方向逆側の外周面と、外輪間座7の内周面とのすきま部には、円周溝8から外輪2の一端面に導かれる潤滑油の油量を絞る第一絞り部11が設けられている。したがって、内輪間座6の円周溝8に沿って流れ軸受を冷却した油は、排油口10から排出されるものと、軸受潤滑のために第一絞り部11を通過するものとに分かれる。この第一絞り部11を成す軸方向のすきまδ1は、例えば、上限値および下限値が管理され、これにより軸受側に導かれる潤滑油の油量を制御可能としている。
【0024】
図4に示すように、外輪2の一端面には、環状の油保有溝12が設けられている。この油保有溝12は、第一絞り部11に連通してこの第一絞り部11から導かれる潤滑油を収容する円周溝である。油保有溝12は、外輪2の一端面における径方向幅内で、且つ、断面矩形状に形成される。
図3は外輪2の正面図である。
図3および
図4に示すように、外輪2の外周面には、排油口13が設けられている。この排油口13は、例えば、円周方向等配に2箇所以上(2箇所の排油口13,13が設けられる場合、これら排油口13,13は180度対角位置にある)設けられている。各排油口13,13は、油保有溝12にそれぞれ連通し、潤滑油を排出する。
図3に示すように、この例の各排油口13は、軸方向長さL2よりも円周方向長さL3が長い長孔状に形成され、油保有溝12から円周方向に沿って流れ込む潤滑油を排油口13における長孔に沿って円滑に排油し得る。よって丸孔状のものより、排油効率が高められている。
図2に示すように、外輪2の各排油口13および油保有溝12は、外輪2における、軌道面2aに対し接触角を成す作用線Lの偏り側とは逆側の反偏り側に設けられている。なお排油口13を円周方向不等配に2箇所以上設けることも可能であり、排油口13を円周方向の一箇所のみに設けることも可能である。
【0025】
外輪2の一端面と、この外輪2の一端面に臨む内輪間座6の一端面との間には、第二絞り部14が設けられている。この第二絞り部14は、油保有溝12および内外輪1,2の軸受空間A1にそれぞれ連通して、軸受空間A1内に浸入する潤滑油の油量を絞る。つまり内輪間座6の円周溝8から第一絞り部11、第二絞り部14を順次、通過した潤滑油のみが、軸受空間A1内に浸入する。このように第一絞り部11、第二絞り部14を設けたことで、多量の潤滑油が軸受空間A1内に浸入することを防止し得る。前記「多量の潤滑油」とは、潤滑油が攪拌抵抗となって、例えば、実験やシミュレーション等により定められる温度以上に軸受が温度上昇するような潤滑油の油量を言う。
【0026】
図4に示すように、この例では、外輪2の一端面のうち、油保有溝12よりも内径側の径方向幅面を全周に渡って削る加工等を施すことにより、外輪2、内輪間座6間に、径方向のすきまδ2を形成する第二絞り部14が設けられる。この第二絞り部14を成す径方向のすきまδ2は、例えば、上限値および下限値が管理されている。第一および第二絞り部11,14のすきまδ1,δ2を管理することにより、軸受空間A1内に浸入する潤滑油の油量を制御可能としている。なお外輪2の一端面に加工等を施すのに代えて、または、外輪2の一端面に加工等を施すと共に、内輪間座6の一端面に加工等を施すことにより、第二絞り部14を設けても良い。
【0027】
図2に示すように、固定側の軌道輪である外輪2には、軸受空間A1内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部15が設けられている。外輪2における、外輪間座7が設けられる軸方向逆側の外輪他端面に、切欠部15が設けられ
ている。この切欠部15を、
図5に示すように、内輪1の回転方向L1に沿う、給油路9と排油口10との間に配設している。この例では、切欠部15は、例えば、給油路9に対し90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口10に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0028】
作用効果について説明する。
図1に示すように、軸受運転時、外輪間座7の給油路9から潤滑油を供給すると、内輪間座6の円周溝8に沿って潤滑油が流れる。これにより軸受を冷却する。軸受を冷却した油は、外輪間座7の排油口10から排出されるものと、軸受潤滑のために第一絞り部11を通過して油保有溝12に流れるものとに分かれる。さらに油保有溝12に流れ込んだ潤滑油は、外輪2の排油口13を通り回収されるものと、第二絞り部14を通過して軸受空間A1内に浸入するものとに分かれる。このように第一および第二絞り部11,14を設けることにより、軸受空間A1内に浸入する潤滑油の油量を抑制することができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
【0029】
また、この例では、外輪2の外周面に排油口13を設けたため、外輪2の外周面に排油口13を設けない構成に比べて、排油効率を上げることができる。外輪2の排油口13を2箇所以上設けた場合、排油効率の向上をさらに図ることができる。内輪間座6の円周溝8は、断面凹形状に形成されたため、給油路9から供給された潤滑油は、断面凹形状の円周溝8の溝底面8aに跳ね返って、内輪回転に伴う遠心力により、外輪間座7の排油口10および第1絞り部11へ向かうようになっている。内輪間座6の外径6aを、外輪2の一端面の径方向幅内に位置するように径方向に厚肉に設けたうえで、この内輪間座6の円周溝8を径方向外方に開口する断面凹形状に形成したため、内輪間座6の外径6aが内輪1の一端面の径方向幅内に位置するものより、溝底をより深くして潤滑剤を供給可能な溝断面を大きくすることができる。これにより冷却および潤滑に必要十分な量の潤滑剤を円周溝8に供給することができ、特に冷却効果をより高めることができる。
【0030】
外輪2の各排油口13および油保有溝12は、外輪2における、軌道面2aに対し接触角を成す作用線Lの偏り側とは逆側の反偏り側に設けられているため、外輪2が許容し得る荷重が低下することはない。このため外輪2の剛性を高く維持することができ、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0031】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。
【0032】
図6(A),(B)に示すように、外輪間座7の排油口10に、潤滑油の円周溝8に沿う流れを規制する障壁16を設けても良い。この障壁16は、外輪間座7の排油口10における周方向長さLaの中央部に配設される半径方向に延びる矩形板状である。障壁16は、排油口10の開口縁から、同排油口10における半径方向内周付近まで延びる。この障壁16によると、内輪の回転に伴い円周溝8に沿って流れる潤滑油は、障壁16に当たり、排油口10に回収され易くなる。これにより、潤滑油が軸受内部に滞留することを抑制することができ、したがって、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し得る。また、障壁16を外輪間座7の排油口10における周方向長さLaの中央部に配設したため、軸受が正逆回転いずれの場合にも、円周溝8に沿って潤滑油を前記障壁16で規制し、排油口10に円滑に導くことができる。
【0033】
図7に示すように、障壁16は、内輪間座6における円周溝8の底面付近まで延びる延在部16aを含むものとしても良い。この場合、円周溝8に沿って流れる潤滑油を、障壁16により確実に衝突させることができる。これにより、延在部16aがない障壁に比べて、排油口10から回収される潤滑油の回収効率を高めることができる。
【0034】
図8に示すように、障壁16Aをテーパ形状にしても良い。この例の障壁16Aは、例えば、三角柱形状からなり、排油口10における周方向長さLaの中央部P1に至るように傾斜する傾斜部16Aa,16Aaを含む。前記中央部P1を通る半径方向に対する各傾斜部16Aa,16Aaの傾斜角度α1,α1は、同一角度に設定され、且つ、排油の回収を阻害しない角度に規定される。一方の傾斜部16Aaの半径方向内方側の端部と、他方の傾斜部16Aaの半径方向内方側の端部との距離Lbは、この障壁16Aを排油口10の外径方向から挿入して組み立てる組立性から、排油口10の周方向長さ(幅寸法)Laと略同一とされている。これら両端部を結ぶ辺が、外輪間座7における前記中央部P1を通る接線と平行になるように傾斜部16Aa,16Aaが設けられる。
【0035】
この構成によると、潤滑油が傾斜部16Aaに沿って円滑に流れるため、排油口10から回収される潤滑油の回収効率の向上を図ることができる。また各傾斜部16Aaにより、軸受が正逆回転いずれの場合にも、円周溝8に沿って流れる潤滑油を、傾斜部16Aaに沿って円滑に流し排油口10に円滑に導くことができる。
【0036】
図9の例は、
図8と同様に、障壁16Bをテーパ形状にした例であるが、障壁16Bを2分割構造とすることにより、一方の傾斜部16Baの半径方向内方側の端部と、他方の傾斜部16Baの半径方向内方側の端部との距離Lbを、排油口10の周方向長さLaよりも大きくしている。各傾斜部16Baの端部は、それぞれ内輪間座6における円周溝8の底面付近まで延びる。このように障壁16Bが内輪間座6と外輪間座7とにまたがる場合には、障壁16Bは組立性を考慮し排油口10の外径方向から挿入されるため、排油口10の幅寸法<前記距離Lbとすると、障壁16Bを2分割以上の構造にしないと成立しない。
図9の例では、各傾斜部16Ba,16Baの端部間の距離Lb>排油口10の周方向長さLaとし、障壁16Bを傾斜部16Ba,16Baを含む2分割構造とすることで、
図8の例よりも潤滑油の回収効率の向上をさらに図ることができる。また各傾斜部16Baを排油口10の外径方向から挿入して障壁16Bを容易に組み立てることができ、製造コストの低減を図れる。
【0037】
図10に示すように、障壁16Cは、潤滑油の流れ方向に応じて可動する弁構造であっても良い。
図10(A)は、内輪が同図反時計回りに回転するときの状態を表す要部の平面図であり、同図(B)は、同内輪が同図時計回りに回転するときの状態を表す要部の平面図である。外輪間座7の排油口10における半径方向内方には、弁体16Caの長手方向一端が揺動自在に支持されている。内輪が回転する場合、円周溝8に沿って内輪回転方向に流れる潤滑油が、弁体16Caの長手方向他端を押圧して可動させる。この場合、軸受の正回転、逆回転にか
かわらず、潤滑油の流れ方向に応じて障壁16Cを可動させて、潤滑油を排油口10に円滑に導くことができる。また弁体16Caを可動させる駆動源等が不要であるため、構造を簡単化することができる。
【0038】
図11〜
図13の例では、障壁16Dは、排油口10にて軸方向に並ぶ2つの壁部16Da,16Daを有する。
図12は外輪間座7の要部を内径側から拡大して示す斜視図であり、
図13は同外輪間座7の要部の平面図である。
図12,
図13に示すように、各壁部16Da,16Daは、排油口10における半径方向内方の円周方向一側部から、前記排油口10における半径方向外方の円周方向他側部に至るようにそれぞれ傾斜すると共に、これら軸方向に並ぶ2つの壁部16Da,16Daが互いに交差するように設けられる。
この場合、軸受の正回転,逆回転にかかわらず、潤滑油がいずれか一方の壁部16Daに沿って円滑に流れるため、排油口10から回収される潤滑油の回収効率の向上を図ることができる。
【0039】
図14は、前述のいずれかの転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。この例では、アンギュラ玉軸受を含む転がり軸受装置28,28を、2個背面組み合わせでハウジング29に設置し、これらの転がり軸受装置28,28により主軸30を回転自在に支持する。各軸受装置28における内輪1は、内輪位置決め間座31,31および主軸30の段部30a,30aにより軸方向に位置決めされ、内輪固定ナット32により主軸30に締め付け固定されている。主軸上側の間座7および主軸下側の外輪2は、外輪押え蓋34,34によりハウジング29内に位置決め固定されている。また主軸上側の外輪端面と、主軸下側の間座幅面との間には、間座35が介在されている。
【0040】
ハウジング29は、ハウジング内筒29aとハウジング外筒29bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に、冷却のための通油溝29cが設けられている。ハウジング内筒29aには、各軸受装置28にそれぞれ潤滑油を供給する供給油路36,36が形成されている。これら供給油路36,36は図示外の潤滑油供給源に接続されている。さらにハウジング内筒29aには、潤滑に供された潤滑油を排出する排油溝37および排油路38が形成されている。排油溝37は、各軸受装置28における切欠部15および排油口10にそれぞれ連通する。各排油溝37に、主軸軸方向に延びる排油路38が繋がり、この排油路38から潤滑油が排出されるようになっている。
【0041】
このように転がり軸受装置28,28を工作機械主軸30の支持に用いた場合、各転がり軸受装置28に、第一および第二絞り部11,14(
図1)を設けることにより、軸受空間内に浸入する潤滑油の油量を抑制することができる。このため、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
本実施形態に係る転がり軸受装置を、横型の工作機械主軸の支持に用いることも可能である。