(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944235
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20160621BHJP
【FI】
F16J15/32 311C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-130623(P2012-130623)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-253669(P2013-253669A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】古山 秀之
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−065216(JP,A)
【文献】
特開2002−206645(JP,A)
【文献】
特開2009−068720(JP,A)
【文献】
特開2000−179700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリップの内周面に、リップエッジ部と、このリップエッジ部から反密封空間側へ向けて大径になる反密封空間側円錐面が形成され、この反密封空間側円錐面に、前記リップエッジ部から離れた位置から円周方向に対して所定の傾斜角度をなして延びる多数の第一ねじ突条と、この第一ねじ突条の間にあって、前記リップエッジ部から離れた位置から前記第一ねじ突条と略平行な方向へ延びると共に前記第一ねじ突条より短い第二ねじ突条が形成され、この第二ねじ突条の高さが、前記第一ねじ突条における密封空間側の端部から所定の軸方向領域でこの第一ねじ突条の高さより高く、前記軸方向領域よりも反密封空間側で前記第一ねじ突条の高さが前記第二ねじ突条の高さより高く、前記リップエッジ部及び前記第二ねじ突条に初期つぶし代を有することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
第二ねじ突条の初期密接面が、リップエッジ部の初期リップラインから離間していることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や一般機械、産業機械等における回転体の外周をシールリップによって密封する密封装置において、特に、ねじシール作用による密封性を得るための突条をシールリップに形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじシール作用を得るための突条をシールリップに形成した密封装置として、
図8に例示したようなものが知られている。
【0003】
図8に示す密封装置は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されたシールリップ100を備え、このシールリップ100の内周面に、最も小径のリップエッジ部101を境にして、密封空間(機内)A側ほど大径になる密封空間側円錐面102と、反密封空間(機外)B側ほど大径になる反密封空間側円錐面103が形成され、反密封空間側円錐面103には、舟底形に隆起した多数のねじ突条104が形成されている。105は回転軸200に対するシールリップ100の緊迫力を補償するためのガータスプリングである。
【0004】
すなわちこの密封装置は、不図示のハウジングの内周面に密嵌固定され、シールリップ100の内径のリップエッジ部101が回転軸200の外周面に摺動可能に密接されることによって軸封機能を奏し、密封空間Aの流体が軸周から反密封空間Bへ漏洩するのを阻止するものである。そしてシールリップ100と回転軸200の摺動部を反密封空間Bへ漏出しようとする流体は、ねじ突条104のねじシール作用によって密封空間Aへ押し戻されるので、良好な密封機能を発揮することができるのである(例えば下記の特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−60089号公報
【特許文献2】特開2009−68720号公報
【特許文献3】特開2003−254439号公報
【特許文献4】特開平11−311338号公報
【特許文献5】特開平9−42463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の密封装置では、ねじ突条104がシールリップ100のリップエッジ部101に達しているため、シールリップ100の緊迫力が小さいものでは、回転軸200の外周面に対するリップエッジ部101の接触状態が安定しない問題がある。
【0007】
詳しくは、この種の密封装置においては、リップライン(回転軸200の外周面に対するリップエッジ部101の密接面)を安定させるにはねじ突条104の高さを低くする必要があるが、ねじ突条104を低くすると顕著なねじシール作用が得られなくなってしまい、逆に、ねじ突条104を回転軸200の外周面に強く当てるためにねじ突条104を高く形成すると、その圧接反力によって、ねじ突条104と交差する部分でリップエッジ部101が回転軸200の外周面から浮き上がってリップラインが途切れてしまい、したがって、ねじ突条104によるねじシール作用が得られない軸停止時には隙間漏れが発生するおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、ねじ突条によってリップラインが途切れることがなく、安定したリップラインを形成して優れた密封性を奏することの可能な密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、シールリップの内周面に、リップエッジ部と、このリップエッジ部から反密封空間側へ向けて大径になる反密封空間側円錐面が形成され、この反密封空間側円錐面に、前記リップエッジ部から離れた位置から円周方向に対して所定の傾斜角度をなして延びる多数の第一ねじ突条と、この第一ねじ突条の間にあって、前記リップエッジ部から離れた位置から前記第一ねじ突条と略平行な方向へ延びると共に前記第一ねじ突条より短い第二ねじ突条が形成され、この第二ねじ突条の高さが、前記第一ねじ突条における密封空間側の端部から所定の軸方向領域でこの第一ねじ突条の高さより高く、前記軸方向領域よりも反密封空間側で前記第一ねじ突条の高さが前記第二ねじ突条の高さより高く、前記リップエッジ部及び前記第二ねじ突条に初期つぶし代を有することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載された構成において、第二ねじ突条の初期密接面が、リップエッジ部の初期リップラインから離間していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る密封装置によれば、第一ねじ突条及び第二ねじ突条はリップエッジ部より反密封空間側から立ち上がっているので、前記回転体からのリップエッジの浮き上がりを生じにくく、このため安定したリップラインが形成され、しかも第二ねじ突条には初期つぶし代が存在するので第一ねじ突条の高さが低いことによるねじシール作用が第二ねじ突条によって補償され、優れた密封性を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る密封装置の第一の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す部分断面図である。
【
図2】第一の実施の形態によるシールリップの断面形状と初期リップラインを示す説明図である。
【
図3】第一の実施の形態における第一ねじ突条と第二ねじ突条の関係を示す説明図である。
【
図4】第一の実施の形態によるシールリップの断面形状と摩耗が生じた状態でのリップラインを示す説明図である。
【
図5】本発明に係る密封装置の第二の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す部分断面図である。
【
図6】第二の実施の形態によるシールリップの断面形状と初期リップラインを示す説明図である。
【
図7】第二の実施の形態によるシールリップの断面形状と摩耗が生じた状態でのリップラインを示す説明図である。
【
図8】従来技術による密封装置のシールリップの断面形状とこのシールリップにおける突条の配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る密封装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず
図1〜
図4は、本発明に係る密封装置の第一の実施の形態を示すものである。
【0014】
第一の実施の形態の密封装置は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されたものであって、装着状態において密封空間(機内)A側を向くシールリップ1と、その先端近傍の外周に装着されて回転軸3の外周面に対する緊迫力を補償するためのガータスプリング2を備える。
【0015】
シールリップ1における先端近傍の内周面は、最も小径のリップエッジ部11と、このリップエッジ部11から密封空間(機内)A側へ向けて大径になる密封空間側円錐面12と、前記リップエッジ部11から反密封空間(機外)B側へ向けて大径になる反密封空間側円錐面13が形成され、すなわち互いに逆向きの密封空間側円錐面12及び反密封空間側円錐面13によって、リップエッジ部11は断面形状が略V字形に形成されている。
【0016】
反密封空間側円錐面13には、リップエッジ部11より反密封空間B側から、円周方向に対して所定の傾斜角度をなして延びる多数の第一ねじ突条14及び第二ねじ突条15が円周方向交互に形成されている。これら第一ねじ突条14及び第二ねじ突条15は、回転軸3の回転時に、密封空間A側から回転軸3の外周面とリップエッジ部11との密封摺動部(リップラインL)を反密封空間B側へ通過した密封対象油を、密封空間A側へ押し戻すねじシール作用を惹起する方向へ、螺旋の一部をなすように延びるものである。
【0017】
第一ねじ突条14及び第二ねじ突条15は、その幅及び嶺部14a,15aの高さ(反密封空間側円錐面13からの隆起高さ)が長さ方向中間部で最大となるように変化する舟底状の隆起形状に形成されている。そして第二ねじ突条15は、第一ねじ突条14より短いものであって、第一ねじ突条14及び第二ねじ突条15における密封空間A側の端部は、リップエッジ部11から適宜離れた位置で、かつ互いに同じ又はほぼ同じ軸方向位置にある。
【0018】
第二ねじ突条15の嶺部15aの曲率は、第一ねじ突条14の嶺部14aの曲率よりも大きく、第二ねじ突条15の密封空間A側の端部から所定の軸方向領域X
1では、その嶺部15aの高さが、第一ねじ突条14の嶺部14aの高さよりも高く、前記軸方向領域Mよりも反密封空間B側の領域X
2では、第一ねじ突条14の嶺部14aの高さが第二ねじ突条15の嶺部15aの高さより高くなっている。詳しくは
図3に示すように、第二ねじ突条15の嶺部15aにおけるリップエッジ部11側の立ち上がり部の曲率は、第一ねじ突条14の嶺部14aにおけるリップエッジ部11側の立ち上がり部の曲率よりも大きく、第二ねじ突条15の嶺部15aにおけるリップエッジ部11側の立ち上がり部の接線角度は、回転軸3の外周面と同径の仮想円筒面に対して内周側へ角度αを成しているのに対し、第一ねじ突条14の嶺部14aにおけるリップエッジ部11側の立ち上がり部の接線角度は、回転軸3の外周面と同径の仮想円筒面に対して外周側へ角度βを成している。
【0019】
そして軸方向領域X
1における第二ねじ突条15の嶺部15aの最も高い部分は、リップエッジ部11とほぼ同一の径方向位置にあり、したがって
図2に示す初期装着状態では、回転軸3の外周面に対するリップエッジ部11の初期つぶし代によるリップラインLと、このリップラインLから僅かに離れて、第二ねじ突条15の初期つぶし代による密接部Mが形成され、第一ねじ突条14の嶺部14aは回転軸3の外周面に対して非接触又はそれに近い状態(殆どつぶし代のない状態)となるものである。また、この密接部Mは、第二ねじ突条15の嶺部15aに沿って形成されるため、リップラインLに対して所定の傾斜角度をなすものである。
【0020】
以上の構成を備える第一の実施の形態の密封装置は、シールリップ1が密封空間A側を向くように機器の軸孔ハウジングに嵌着されると共に、シールリップ1における先端近傍の内径のリップエッジ部11が、前記軸孔ハウジングに挿通された回転軸3の外周面に摺動可能に密接されることによって、密封空間A内の密封対象油が軸周から反密封空間Bの大気側へ漏洩するのを阻止するものである。
【0021】
ここで、この密封装置は、摺動トルクの低減及び摺動発熱の低減を図るために、回転軸3に対するシールリップ1の緊迫力が小さいものとなっており、このためリップエッジ部11のつぶし代が小さなもの(リップラインLが細いもの)となっているが、初期状態では、第一ねじ突条14は回転軸3の外周面に対してほぼ非接触であり、第二ねじ突条15のみに初期つぶし代与えられ、すなわち
図2に示すように、第二ねじ突条15の密接部MがリップラインLから僅かに離れて形成されるため、回転軸3の外周面に対する第二ねじ突条15の密接反力によってリップラインLが円周方向に不連続となるのを防止できる。
【0022】
また、初期状態においては第一ねじ突条14は回転軸3の外周面に対してほぼ非接触であるため、回転軸3の回転による第一ねじ突条14のねじシール作用は十分ではないが、第二ねじ突条15には初期つぶし代が与えられており、それによる密接部MがリップラインLに対して所定の傾斜角度をなして形成されるため、第二ねじ突条15が、第一ねじ突条14のねじシール作用を補償するように機能する。したがって、初期状態でも優れた密封性が確保され、かつ摺動トルクの低減及び摺動発熱の低減を図ることができる。
【0023】
そして
図4に示すように、回転軸3の外周面との摺動によってリップエッジ部11が徐々に摩耗してリップラインLの幅が広がって行くのに伴い、第二ねじ突条15も摩耗によってその密接部Mの長さ及び面積が増大して行き、さらに第一ねじ突条14が、その密封空間A側の端部において回転軸3の外周面に密接し、それによる密接部Nの長さ及び面積も経時的に増大して行くため、第一ねじ突条14にも顕著なねじシール作用が惹起され、優れた密封性が維持される。
【0024】
次に
図5〜
図7は、本発明に係る密封装置の第二の実施の形態を示すものである。この形態において、上述した第一の実施の形態と異なるところは第二ねじ突条15の隆起形状である。
【0025】
すなわち第二の実施の形態における第二ねじ突条15は、密封空間A側の端部近傍では幅及び嶺部15aの高さが直線的に増大し、嶺部15aの高さがリップエッジ部11とほぼ同一の径方向位置となった部分からは、幅及び嶺部15aの高さが不変となっており、したがって反密封空間側円錐面13と垂直な方向から見た外観は、削った鉛筆のような形状となっている。
【0026】
そしてこの場合も、第二ねじ突条15の密封空間A側の端部から所定の軸方向領域X
1では、その嶺部15aの高さが、第一ねじ突条14の嶺部14aの高さよりも高く、軸方向領域Mよりも反密封空間B側の領域X
2では、第一ねじ突条14の嶺部14aの高さが第二ねじ突条15の嶺部15aの高さより高くなっている。
【0027】
したがって第一の実施の形態と同様、初期状態では、第一ねじ突条14は回転軸3の外周面に対してほぼ非接触であり、第二ねじ突条15のみに初期つぶし代与えられ、すなわち
図6に示すように、第二ねじ突条15の密接部MがリップラインLから僅かに離れて形成されるため、回転軸3の外周面に対する第二ねじ突条15の密接反力によってリップラインLが円周方向に不連続となるのを防止できる。
【0028】
また、第二ねじ突条15の初期つぶし代による密接部MがリップラインLに対して所定の傾斜角度をなして形成されるため、第二ねじ突条15が、第一ねじ突条14のねじシール作用を補償するように機能し、初期状態でも優れた密封性が確保される。
【0029】
そして
図7に示すように、回転軸3の外周面との摺動によってリップエッジ部11が徐々に摩耗してリップラインLの幅が広がって行くのに伴い、第二ねじ突条15も摩耗によってその密接部Mの長さ及び面積が増大して行き、さらに第一ねじ突条14が、その密封空間A側の端部において回転軸3の外周面に密接し、それによる密接部Nの長さ及び面積も経時的に増大して行くため、第一ねじ突条14にも顕著なねじシール作用が惹起され、優れた密封性が維持される。
【符号の説明】
【0030】
1 シールリップ
11 リップエッジ部
12 密封空間側円錐面
13 反密封空間側円錐面
14 第一ねじ突条
14a,15a 嶺部
15 第二ねじ突条
A 密封空間
B 反密封空間
L リップライン
M,N 密接部