(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944257
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】切屑吸引装置用工具ホルダ及び該工具ホルダを備えた工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
B23Q11/00 M
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-164434(P2012-164434)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-24129(P2014-24129A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】秀田 守弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康児
(72)【発明者】
【氏名】大出 久幸
(72)【発明者】
【氏名】松尾 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】中畑 達雄
【審査官】
五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3055019(JP,B1)
【文献】
特開2006−320991(JP,A)
【文献】
特開2007−245249(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0041713(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0203679(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102007030858(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23B 47/26
B23B 47/34
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切屑吸引装置を備えた工作機械に装着される工具ホルダであって、
該工具ホルダに、前記切屑吸引装置の切屑吸引経路のホルダ側部分を設け、該ホルダ側部分と、前記切屑吸引経路の機械本体に設けられた本体側部分との接続部は、該両接続部の軸芯が一致し、非吸引時及び吸引時の何れにおいても非接触構造となっていることを特徴とする切屑吸引装置用工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記接続部は、前記ホルダ側部分の下流端を雄テーパ状に形成し、前記本体側部分の上流端を雌テーパ状に形成し、該雌テーパ状と雄テーパ状との間に隙間を設けた構成となっていることを特徴とする切屑吸引装置用工具ホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記工具ホルダは、工作機械の主軸に自動工具交換機構によって着脱可能に装着され、
前記接続部は、前記ホルダ側部分の下流端と前記本体側部分の上流端とを前記主軸の軸線方向に隙間を設けて対向するように配置した構成となっていることを特徴とする切屑吸引装置用工具ホルダ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記切屑吸引経路は、前記工具ホルダの内部から径方向外方に向かい、前記機械本体側へと向かうよう形成されていることを特徴とする切屑吸引装置用工具ホルダ。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の切屑吸引装置用工具ホルダを備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切屑吸引装置用工具ホルダに関し、詳細には、加工雰囲気中の切屑吸引及び主軸への装着性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
切屑吸引装置では、工具ホルダ及び主軸の外部を通るように設けた外部吸引タイプの吸引経路を備えたものがある。この種の外部吸引経路を備えた場合、工具ホルダを主軸に装着する際に、工具ホルダ側の吸引通路と主軸側の吸引通路とを気密に接続する必要がある。この場合、両通路の接続部に切屑が残存していると接続が確実に行われないという問題がある。
【0003】
そこで特許文献1では、吸引通路の、工具ホルダ側部分と主軸側部分とを隙間を空けて対向配置し、かつ何れか一方を伸縮変形可能に形成し、吸引負圧が所定値以上になると両部分が密着するように構成している。これにより吸引開始時に接続部に残った切屑を吸い込むことで切屑が挟まれるのを防止し、両部分の接続を確実に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3055019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで切屑吸引装置を備えた工作機械では、加工ポイントで発生する切屑を吸引排出するのは勿論、吸引されずに加工雰囲気中に漂うように残存する切屑等についても吸引排出することが要請される。この要請に応えるため、従来の切屑吸引装置では、加工ポイントで発生する切屑については前記特許公報に記載の吸引装置で吸引し、加工雰囲気中に漂う切屑については別途専用の吸引装置を設けるのが一般的である。従って、吸引装置が複数必要となる分、装置コストが増加するという問題がある。
【0006】
また従来装置では、切屑吸引経路の工具ホルダ側部分と主軸側部分とを密着させるのが前提であるため、両部分の寸法精度を高く維持しておかないと工具ホルダの確実な装着が困難になるという問題もある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、加工ポイントで発生する切屑だけでなく加工雰囲気中に漂うように残存する切屑についても吸引排出でき、さらに主軸に工具ホルダを装着する際の切屑吸引経路のずれを吸収できる切屑吸引装置用工具ホルダ及び該工具ホルダを備えた工作機械を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、切屑吸引装置を備えた工作機械に装着される工具ホルダであって、
該工具ホルダに、前記切屑吸引装置の切屑吸引経路のホルダ側部分を設け、該ホルダ側部分と、前記切屑吸引経路の機械本体に設けられた本体側部分との接続部は
、該両接続部の軸芯が一致し、非吸引時及び吸引時の何れにおいても非接触構造となっていることを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記接続部は、前記ホルダ側部分の下流端
を雄テーパ状に形成し、前記本体側部分の上流端
を雌テーパ状に形成し、該雌テーパ状と雄テーパ状との間に隙間を設けた構成となっていることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記工具ホルダは、工作機械の主軸に自動工具交換機構によって着脱可能に装着され、
前記接続部は、前記ホルダ側部分の下流端と前記本体側部分の上流端とを前記主軸の軸線方向に隙間を設けて対向するように配置した構成となっていることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載の切屑吸引装置用工具ホルダにおいて、
前記切屑吸引経路は、前記工具ホルダの内部から径方向外方に向かい、前記機械本体側へと向かうよう形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし4の何れかに記載の切屑吸引装置用工具ホルダを備えた工作機械である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、屑吸引経路の、ホルダ側部分と本体側部分との接続部を非接触構造としたので、つまり請求項2に記載のように両接続部の間に隙間を設けたので、この隙間の部分から加工雰囲気に漂う切屑を吸引でき、加工雰囲気吸引専用の吸引装置を別途設けなくても加工雰囲気の吸引排出を実現できる。
【0014】
また両部分が非接触構造となっているので、工具ホルダを主軸に装着する場合に両者の接続部にずれがあっても前記隙間により吸収でき、従って両者の接続部の寸法精度をそれほど高くする必要がない。
【0015】
また請求項3の発明では、切屑吸引経路の、ホルダ側部分の下流端と本体側部分の上流端とを主軸の軸線方向に隙間を設けて対向するように配置したので、軸線方向のずれがあっても前記隙間で吸収でき、両部分の寸法精度を高くすることなく、より確実に工具ホルダを主軸に装着することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、切屑吸引経路を、工具ホルダの内部から径方向外方に向かい、前記機械本体側へと向かうよう形成したので、機械本体側へと向かう部分において、請求項2,3における構成を容易確実に実現できる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4の何れかに記載の切屑吸引装置用工具ホルダを備えた工作機械であるので、前記各項における効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1に係る工具ホルダを備えた工作機械の正面斜視図である。
【
図3】前記工具ホルダの接続部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図において、1は本発明の実施例1による切屑吸引装置用工具ホルダを備えた工作機械である。この工作機械1は、ベッド2と、該ベッド2の正面から見て奥部分に立設されたコラム3と、該コラム3の前面に上下方向(Z軸方向)に移動可能に支持された主軸頭4と、前記ベッド2の手前部分に前後方向(Y軸方向)に移動可能に支持されたサドル5と、該サドル5上に左右方向(X軸方向)に移動可能に支持されたテーブル6とを備えている。また前記コラム3の側面には、工具マガジン12,工具交換アーム13等を有する工具交換装置11が配設されている。
【0021】
前記主軸頭4内には、主軸7が挿入配置され、回転可能に支持されている。そして前記主軸7の下端部には工具ホルダ8が着脱可能に装着されている。
【0022】
また前記工作機械1は切屑吸引装置9を備えている。この切屑吸引装置9は、前記工具ホルダ8に装着された吸引カバー10と、機外に配設された吸引源21と、該吸引源21と前記吸引カバー10を連通接続する吸引経路22とを備えている。
【0023】
前記工具ホルダ8の基端部には、前記主軸7の下端部に形成された工具嵌合孔7aに嵌合するテーパ部8aが形成され、先端部には工具33が装着されている。この工具33の本体部33aの先端には刃具33bが固定され、また軸心部には吸引孔33cが貫通するように形成されている。
【0024】
また前記吸引カバー10は、前記工具ホルダ8により軸受34を介して相対回転自在に支持される基部10aと、該基部10aの下端部に前記工具33を囲み、ワークWの加工面に対向するように形成されたカバー部10bと、前記主軸7に対して係合し、該吸引カバー10の回転を阻止する回り止め部10cを有する。該回り止め部10cは後述する吸引経路22の本体側部分15が形成された接続具16の係合凹部16bに係合している。
【0025】
前記吸引経路22は、前記工具ホルダ8側に形成されたホルダ側部分14と、前記主軸7側に形成された本体側部分15とで構成されている。
【0026】
前記ホルダ側部分14は、前記カバー部10bにより形成された吸引室10dに連通し、径方向に延びる径方向吸引孔14aと、ここから主軸軸線方向に延びる接続孔14bとを有する。前記径方向吸引孔14aは前記吸引カバー10に形成されたホルダ側吸引部10e内に形成され、前記接続孔14bは接続部10f内に形成されている。
【0027】
前記吸引経路22の本体側部分15は、主軸軸線A方向に少し延びた後、径方向に延びる接続孔15aと、該接続孔15aから主軸軸線A方向に延びる軸線方向孔15bと、該軸線方向孔15bと前記吸引源21とを接続する吸引ホース15cとを有する。前記接続孔15aは前記主軸7の下端に固定された接続具16の接続部16a内に形成され、前記軸線方向孔15bは前記吸引ホース15cが接続されるホース接続部15d内に形成されている。
【0028】
前記吸引経路22の、前記ホルダ側部分14と本体側部分15との接続部22aは非接触構造となっている。詳細には、前記ホルダ側の接続部10fの下流端10f′と前記本体側部分の接続部16aの上流端16a′とは、主軸軸線A方向に、かつ間に隙間aを空けて対向するように配置されている。また前記下流端10f′は雄テーパ状に形成され、前記上流端16a′は雌テーパ状に形成されており、その結果、前記隙間aは外気を下流側に向けて導入する導入路となっている。
【0029】
ここで前記工具ホルダ8を主軸7に装着する場合、前記工具交換装置11の工具交換アーム13が工具ホルダ8を把持して主軸軸線A方向に移動させることにより、工具ホルダ8のテーパ部8aが主軸7の工具嵌合孔7aに嵌合し、回り止め部10cが係合凹部16bに係合する。この後、工具ホルダ8は、図示しないクランプ機構により上方に引き上げられ、主軸7にクランプされる。
【0030】
このとき、ホルダ側部分14の接続部10fの下流端10f′が本体側部分15の接続部16aの上流端16a′に隙間aを空けて対向する。
【0031】
加工時には、切屑吸引装置9が起動し、加工ポイントで発生した切屑は吸引室10dから吸引経路22のホルダ側部分14,本体側部分15を経て吸引源21に吸引される。
【0032】
一方、前記接続部22aの隙間aから外気が吸引経路22内に吸引され、これにより加工雰囲気、特に工具ホルダ8の主軸7への装着部付近に漂うように残存する切屑は、前記隙間aから吸引され吸引経路22を経て吸引源21に吸引される。
【0033】
このように本実施例では、切屑吸引経路22の、ホルダ側部分14と本体側部分15との接続部22aを非接触構造としたので、つまりホルダ側の接続部10fの下流端10f′と本体側の接続部16aの上流端16a′との間に隙間aを設けたので、この隙間a部分から加工雰囲気に漂う切屑を吸引でき、加工雰囲気吸引用の吸引装置を別途設けなくても加工雰囲気の吸引排出を実現できる。この場合、前記接続部22aを、雄テーパ状の下流端10f′と雌テーパ状の上流端16a′とで構成したので、前記隙間aが外気を下流側にスムーズに導入する導入路として機能し、外気吸引効果を高めることができる。
【0034】
また前記下流端10f′と上流端16a′とが非接触構造となっているので、工具ホルダ8を主軸7に装着する場合に両者の寸法精度をそれほど高くする必要がない。即ち、両者が軸直角方向にずれた場合でも、前記隙間aによりこのずれを吸収できるので、吸引経路22の接続に支障が生じるのを防止できる。
【0035】
また切屑吸引経路22の、ホルダ側部分14の下流端10f′と本体側部分15の上流端16a′とを主軸の軸線A方向に隙間aを設けて対向するように配置したので、軸線方向にずれが生じた場合でもこのずれを前記隙間aにより吸収でき、工具ホルダ8をより確実に主軸7に装着することができる。
【0036】
なお、本実施例では、工具33の軸心に吸引孔33cを形成したので、前記外部吸引経路に加えて内部吸引経路を構成することもできる。この場合、内部吸引経路と外部吸引経路とを途中で接続し、両経路の何れか又は両方を作動させる切換えバルブを設けることが望ましい。
【符号の説明】
【0037】
1 工作機械
7 主軸
8 工具ホルダ
9 切屑吸引装置
10f′ ホルダ側部分の下流端
11 自動工具交換機構
12 切屑吸引経路
12a 接続部
14 ホルダ側部分
14a 径方向吸引孔(工具ホルダの内部から径方向外方に向かう)い、前記機械本体側14b軸線方向吸引孔(主軸軸線方向へと向かう)
15 本体側部分
16a′ 本体側部分の上流端
a 隙間
A 主軸の軸線