特許第5944280号(P5944280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5944280剪断補強材及びその製造方法、剪断補強材用緩み止め具並びに剪断補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944280
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】剪断補強材及びその製造方法、剪断補強材用緩み止め具並びに剪断補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   E04G23/02 E
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-195787(P2012-195787)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-51800(P2014-51800A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸三
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】西見 宣俊
(72)【発明者】
【氏名】藤波 亘
(72)【発明者】
【氏名】釜江 信
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−057289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04C 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入され、前記長孔内に充填される充填材で埋設される剪断補強材であって、
両側に全長に亘って延びる平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼と、
前記ねじ節異形棒鋼の端部に螺合されるナットと、
基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられる緩み止め具とを備え、
両側の前記突出片が前記ナットの螺合孔に挿入されて、前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置される
ことを特徴とする剪断補強材。
【請求項2】
前記ねじ節異形棒鋼の両端部に前記ナットと前記緩み止め具がそれぞれ設けられ、
前記ねじ節異形棒鋼の両端部の各々において両側の前記平滑面に前記突出片がそれぞれ沿うように係合配置される
ことを特徴とする請求項1記載の剪断補強材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の剪断補強材の製造方法であって、
前記ねじ節異形棒鋼の端部に前記ナットを螺合し、前記緩み止め具の両側の前記突出片を前記ねじ節異形棒鋼の両側の前記平滑面にそれぞれ対応するように配置して前記ナットの螺合孔に挿入し、前記緩み止め具の前記基板を打撃することにより、両側の前記突出片を両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置する
ことを特徴とする剪断補強材の製造方法。
【請求項4】
両側に全長に亘って延びる平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼の端部にナットが螺合され、コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入されて前記長孔内に充填される充填材で埋設される剪断補強材に対して、前記ナットを緩み止めする剪断補強材用緩み止め具であって、
基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられ、
両側の前記突出片が、前記ナットの螺合孔に挿入して前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置可能である
ことを特徴とする剪断補強材用緩み止め具。
【請求項5】
両側に全長に亘って延びる平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼と、前記ねじ節異形棒鋼の端部に螺合されるナットと、基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられる緩み止め具とを備え、両側の前記突出片が前記ナットの螺合孔に挿入されて、前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置される剪断補強材を用い、
前記剪断補強材が、コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入され、前記長孔内に充填される充填材で埋設される
ことを特徴とする剪断補強構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば構造物の壁やカルバートなどコンクリート躯体の剪断補強に用いられる剪断補強材及びその製造方法、剪断補強材用緩み止め具並びに剪断補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の擁壁やカルバートなどコンクリート躯体の剪断補強として、コンクリート躯体の補強面から長孔状の挿入孔を形成し、挿入孔に棒状の剪断補強材を挿入すると共に、挿入孔と剪断補強材との間の空隙にモルタル等の充填材を充填することが行われている。この剪断補強は、補強面側からの簡単な施工で十分な剪断補強を行うことが可能である(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−113673号公報
【特許文献2】特開2012−102492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記剪断補強を行う場合に、その剪断補強材には、切断して任意の長さで使用可能である、剪断補強以外の用途にも使用できる高い汎用性を有する、現場で転がらない、両側の平滑面を工具で掴みやすい、低コストである等のメリットを有するねじ節異形棒鋼を用いることが望ましい。
【0005】
他方において、剪断補強材の定着力を高め、コンクリート躯体の剪断耐力を向上するためには、剪断補強材の端部に断面形状の大きな定着部分を設けることが好ましい。そのため、ねじ節異形棒鋼の端部に断面形状の大きな定着部分を簡単、低コストで、打設時等にぐらつかないように安定して設けることが可能であり、剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高められ、高い施工性を有する剪断補強材が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、ねじ節異形棒鋼の端部に断面形状の大きな定着部分を簡単、低コストで、安定して設けることが可能であり、剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高めることができると共に、高い施工性を有する剪断補強材及びその製造方法、その剪断補強材に用いられる剪断補強材用緩み止め具、並びにその剪断補強材を有する剪断補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の剪断補強材は、コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入され、前記長孔内に充填される充填材で埋設される剪断補強材であって、両側に全長に亘って延びる平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼と、前記ねじ節異形棒鋼の端部に螺合されるナットと、基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられる緩み止め具とを備え、両側の前記突出片が前記ナットの螺合孔に挿入されて、前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置されることを特徴とする。
この構成によれば、緩み止め具の突出片をねじ節異形棒鋼の端部の平滑面に係合配置することにより、ねじ節異形棒鋼よりも断面形状の大きいナットを定着部分として、ねじ節異形棒鋼の端部に簡単、低コストで、打設時等にぐらつかないように安定して設けることができ、ねじ節異形棒鋼で構成される剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高めることができる。また、緩み止め具の係合配置によるナットの取り付けは非常に簡単であることから、剪断補強の施工性を向上することができる。また、ねじ節異形棒鋼を切断して所要の長さにし、緩み止め具の係合配置によるナットの取り付けを容易に行えることから、剪断補強を要するコンクリート躯体の多様な厚さに対して、柔軟に適応することができる。
【0008】
本発明の剪断補強材は、前記ねじ節異形棒鋼の両端部に前記ナットと前記緩み止め具がそれぞれ設けられ、前記ねじ節異形棒鋼の両端部の各々において両側の前記平滑面に前記突出片がそれぞれ沿うように係合配置されることを特徴とする。
この構成によれば、ねじ節異形棒鋼の両端部にナットと緩み止め具を設けることにより、剪断補強材の引張抵抗の強化や、両端部のナットの間におけるコンクリートの圧縮応力の強化を図ることができ、剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力をより一層高めることができる。
【0009】
本発明の剪断補強材の製造方法は、本発明の剪断補強材を製造する製造方法であって、前記ねじ節異形棒鋼の端部に前記ナットを螺合し、前記緩み止め具の両側の前記突出片を前記ねじ節異形棒鋼の両側の前記平滑面にそれぞれ対応するように配置して前記ナットの螺合孔に挿入し、前記緩み止め具の前記基板を打撃することにより、両側の前記突出片を両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置することを特徴とする。
この構成によれば、緩み止め具の取り付けや、ナットを回転不能にする緩み止めを非常に簡単に行うことができ、施工現場でも所要の剪断補強材を容易に得ることができる。
【0010】
本発明の剪断補強材用緩み止め具は、両側に全長に亘って平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼の端部にナットが螺合され、コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入されて前記長孔内に充填される充填材で埋設される剪断補強材に対して、前記ナットを緩み止めする剪断補強材用緩み止め具であって、基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられ、両側の前記突出片が、前記ナットの螺合孔に挿入して前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置可能であることを特徴とする。
この構成によれば、緩み止め具の突出片をねじ節異形棒鋼の端部の平滑面に係合配置可能にすることにより、ねじ節異形棒鋼よりも断面形状の大きいナットを定着部分として、ねじ節異形棒鋼の端部に簡単、低コストで、打設時等にぐらつかないように安定して設けることができ、ねじ節異形棒鋼で構成される剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高めることができる。また、緩み止め具の係合配置によるナットの取り付けは非常に簡単であることから、剪断補強の施工性を向上することができる。また、ねじ節異形棒鋼を切断して所要の長さにし、緩み止め具の係合配置によるナットの取り付けを容易に行えることから、剪断補強材を、剪断補強を要するコンクリート躯体の多様な厚さに対して柔軟に適応可能なものとすることができる。
【0011】
本発明の剪断補強構造は、両側に全長に亘って平滑面が形成されているねじ節異形棒鋼と、前記ねじ節異形棒鋼の端部に螺合されるナットと、基板の両側から略直角に突出する突出片が設けられる緩み止め具とを備え、両側の前記突出片が前記ナットの螺合孔に挿入されて、前記ねじ節異形棒鋼の両側の平滑面にそれぞれ沿うように係合配置される剪断補強材を用い、前記剪断補強材が、コンクリート躯体の補強面から形成される長孔内に挿入され、前記長孔内に充填される充填材で埋設されることを特徴とする。
この構成によれば、緩み止め具の突出片がねじ節異形棒鋼の端部の平滑面に係合配置される剪断補強材により、ねじ節異形棒鋼よりも断面形状の大きいナットを定着部分として、ねじ節異形棒鋼の端部に簡単、低コストで、打設時等にぐらつかないように安定して設けられる剪断補強材とすることができ、この剪断補強材の設置で、剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高めることができる。また、緩み止め具の係合配置によって非常に簡単にナットが取り付ける剪断補強材を用いることにより、剪断補強の高い施工性を実現することができる。また、ねじ節異形棒鋼を切断して所要の長さにし、緩み止め具の係合配置によるナットの取り付けを容易に行える剪断補強材を用いることにより、剪断補強を要するコンクリート躯体の多様な厚さに対して、柔軟に適応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ねじ節異形棒鋼の端部に断面形状の大きな定着部分を簡単、低コストで、安定して設けることが可能であり、剪断補強材の定着力とコンクリート躯体の剪断耐力を安定して高めることができると共に、高い施工性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明の実施形態の剪断補強材の正面図、(b)はその剪断補強材のナットを断面にした状態を示す説明図、(c)はその剪断補強材の拡大側面図、(d)はA−A矢視拡大断面図。
図2】(a)は緩み止め具の平面図、(b)はその正面図、(c)は緩み止め具の折曲加工前の状態の平面図、(d)は緩み止め具の折曲加工前の状態の正面図。
図3】(a)〜(c)は実施形態の剪断補強材における緩み止め具の取り付けを説明する斜視説明図。
図4】実施形態の剪断補強材による剪断補強構造を示す一部断面説明図。
図5】コンクリート躯体の補強面から長孔を形成してセメントカプセルを挿入する施工工程を説明する説明図。
図6】実施形態の剪断補強材を長孔に挿入してセメントカプセルを破断し、長孔に充填材を充填する施工工程を説明する説明図。
図7】緩み止め具がない剪断補強材による比較例の剪断補強構造を示す一部断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態の剪断補強材及びその製造方法、剪断補強構造〕
本実施形態の剪断補強材1は、コンクリート躯体10の補強面11から形成される長孔12内に挿入され、長孔12内に充填される充填材13で埋設されるものであり(図4参照)、図1に示すように、ねじ節異形棒鋼2と、ねじ節異形棒鋼2の端部に螺合されるナット3と、ナット3に挿入して配置される緩み止め具4とを備える。
【0015】
ねじ節異形棒鋼2は、対応する両側面に全長に亘ってねじ節21・21が形成されていると共に、ねじ節21が形成されていない対応する両側面に、全長に亘って延びる平滑面22・22が形成されている。ねじ節異形棒鋼2の両端部はそれぞれナット3の螺合孔31に螺合されており、本実施形態ではねじ節異形棒鋼2の両端部にナット3・3がそれぞれ設けられている。
【0016】
このナット3及びその螺合孔31は、ねじ節異形棒鋼2のねじ節21との嵌め合い長さを確保するため、長めに形成されている。また、ねじ節異形棒鋼2の端部のねじ節21にナット3の螺合は緩いものであるが、後述する緩み止め具4を設けることにより、ナット3がねじ節異形棒鋼2の端部に安定して定置されるようになっている。
【0017】
緩み止め具4は、図1図3に示すように、基板41の両側の縁から略直角に屈曲して突出する突出片42・42が設けられているものである。緩み止め具4は、両側の突出片42・42がナット3の螺合孔31に挿入され、ねじ節異形棒鋼2の両側の平滑面22・22に突出片42・42がそれぞれ沿うようにして係合配置される。本実施形態では、ねじ節異形棒鋼2の両端部にナット3と緩み止め具4がそれぞれ設けられ、ねじ節異形棒鋼2の両端部の各々において両側の平滑面22に突出片42がそれぞれ沿うように係合配置されている。
【0018】
緩み止め具4で平滑面22・22に突出片42・42をそれぞれ沿わせて係合配置することにより、ねじ節異形棒鋼2のねじ節21の連続性を突出片42が遮断し、ねじ節21とナット3の螺合の連続性が断たれるので、ナット3の回転、移動を妨げることができる。
【0019】
緩み止め具4は、図2(c)、(d)に示すように、例えば略楕円平板状の基板相当部位41aと、基板相当部位41aの両側から基板相当部位41aの面に沿って水平に突出する突出片相当部位42a・42aとから構成される緩み止め具の中間材4aを用い、この中間材4aの突出片相当部位42a・42aを折り曲げ加工することにより、所定形状に形成される。
【0020】
この剪断補強材1を製造する際には、図3に示すように、ねじ節異形棒鋼2の端部にナット3を螺合し、緩み止め具4の両側の突出片42をねじ節異形棒鋼2の両側の平滑面22にそれぞれ対応するように配置してナット3の螺合孔31に挿入し、緩み止め具4の基板41を例えばハンマー5で打撃することにより、両側の突出片42・42を両側の平滑面22・22にそれぞれ沿うように係合配置する。そして、この工程をねじ節異形棒鋼2の両端部のそれぞれについて行うことにより、本実施形態の剪断補強材1が得られる。
【0021】
また、剪断補強材1を用いてコンクリート躯体10に設けられる剪断補強構造は、図4に示すように、コンクリート躯体10の補強面11から形成される長孔12内に剪断補強材1が挿入され、剪断補強材1を定着するために長孔12内に充填される充填材13で剪断補強材1が埋設されることにより形成される。剪断補強材1は、ねじ節異形棒鋼2の両端部に緩み止め具4で緩み止めされたナット3をそれぞれ有することから、ナット3がねじ節異形棒鋼2の両端部に安定して設置され、この状態で充填材13に埋設されてコンクリート躯体10内に定着される。
【0022】
この剪断補強構造を施工する際には、例えば図5に示すように、セメントモルタルの充填材13が収容され、水を内部に吸水可能な充填材カプセル131を貯水トレー内の水Wに1〜3分程度浸漬して、充填材13に吸水させると共に、コンクリート躯体10の補強面11に長孔12を穿孔ドリル等で複数形成する。尚、充填材13は例えば無機系のプレミックスドライモルタル等とし、充填材カプセル131の外装材は紙やその他の親水性材料製等とすると好適であるが、充填材13を流動性硬化樹脂とする等、充填材13、充填材カプセル131の外装材には適用可能な適宜の素材を用いることが可能である。
【0023】
そして、穿孔した長孔12内には、水Wに浸漬した細長の充填材カプセル131を挿入配置する。なお、図示例においては、1つの長孔12に1本の充填材カプセル131を挿入しているが、長孔12と使用する充填材カプセル131の長さに応じて複数本の充填材カプセル131を直列に挿入配置してもよい。
【0024】
充填材カプセル131を長孔12内に挿入配置した後、図6に示すように、打ち込み用のハンマードリル等のドリルDで剪断補強材1を長孔12に打設し、充填材13が内包された充填材カプセル131を剪断補強材1の打設によって破断させ、セメントモルタル等の充填材13を長孔12内に流出させる。これにより、剪断補強材1が長孔12内に配置されると共に、長孔12と剪断補強材1との間の空隙に充填される充填材13により剪断補強材1が埋設され、剪断補強材1がコンクリート躯体10内に定着される。
【0025】
この充填材カプセル131の長孔12内への挿入配置、剪断補強材1の長孔12への打設、剪断補強材1の打設による充填材カプセル131の破断、充填材13の長孔12内への流出、充填を、コンクリート躯体10に形成された複数の長孔12のそれぞれに行うことにより、上記剪断補強構造が形成される。
【0026】
上記剪断補強構造に対して、緩み止め具4を設けずにねじ節異形棒鋼2mの両端部に単にナット3m・3mを螺合した剪断補強材1mを埋設する剪断補強構造の比較例を図7に示す。図7において、剪断補強材1m、ねじ節異形棒鋼2m、ねじ節21m、平滑面22m、ナット3m、螺合孔31mは、上記実施形態の剪断補強材1、ねじ節異形棒鋼2、ねじ節21、平滑面22、ナット3、螺合孔31と同様である。
【0027】
図7の比較例では、ねじ節異形棒鋼2の端部に螺合されているナット3mの嵌め合いが緩いため、例えば長孔12内に剪断補強材1mをドリルDで打設する際に打撃振動でナット3mが緩んで徐々に動いてしまい、端部より中央寄りの位置など予期しない位置に両端部のナット3m・3mがそれぞれ移動した状態で、充填材13に埋設されてしまう。そのため、所要の剪断補強材1mの定着力とコンクリート躯体10の剪断耐力を安定して確保することが難しくなる。
【0028】
上記実施形態によれば、緩み止め具4の突出片42をねじ節異形棒鋼2の端部の平滑面22に係合配置することにより、ねじ節異形棒鋼2よりも断面形状の大きいナット3を定着部分として、ねじ節異形棒鋼2の端部に簡単、低コストで、打設時等にぐらつかないように安定して設けることができ、ねじ節異形棒鋼2で構成される剪断補強材1の定着力とコンクリート躯体10の剪断耐力を安定して高めることができる。また、緩み止め具4の係合配置によるナット3の取り付けは非常に簡単であることから、剪断補強の施工性を向上することができる。また、ねじ節異形棒鋼2を切断して所要の長さにし、緩み止め具4の係合配置によるナット3の取り付けを容易に行えることから、剪断補強を要するコンクリート躯体10の多様な厚さに対して、柔軟に適応することができる。
【0029】
また、ねじ節異形棒鋼2の両端部にナット3・3と緩み止め具4・4を設けることにより、剪断補強材1の引張抵抗の強化や、両端部のナット3・3の間におけるコンクリートの圧縮応力の強化を図ることができ、剪断補強材1の定着力とコンクリート躯体10の剪断耐力をより一層高めることができる。
【0030】
また、ねじ節異形棒鋼2の端部にナット3を螺合し、緩み止め具4の突出片42を平滑面22に対応配置してナット3の螺合孔31に挿入し、緩み止め具4の基板41をハンマー5等で打撃して剪断補強材1を得ることにより、緩み止め具4の取り付けや、ナット3を回転不能にする緩み止めを非常に簡単に行うことができ、施工現場でも所要の剪断補強材1を容易に得ることができる。
【0031】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0032】
例えば上記実施形態では、ねじ節異形棒鋼2の両端部にナット3と緩み止め具4をそれぞれ設ける剪断補強材1としたが、ねじ節異形棒鋼2の先端側或いは基端側(口元側)のいずれか一方の端部にナット3と緩み止め具4を設け、この一方の端部において、ねじ節異形棒鋼2の両側の平滑面22・22に緩み止め具4の突出片42・42がそれぞれ沿うように係合配置される剪断補強材1とすることも可能である。また、例えば複数のねじ節異形棒鋼2をカプラで接続し、カプラの孔から内部に充填材を注入する等により複数のねじ節異形棒鋼2を連結する場合に、連結された複数のねじ節異形棒鋼2の全体の一方の端部又は両端部にナット3と緩み止め具4を設けて剪断補強材とする場合も本発明に含まれる。
【0033】
また、長孔12への充填材13の充填方法は上記充填材カプセル131を剪断補強材1で破断させる方法以外にも適宜であり、例えば長孔12に剪断補強材1を挿入した後に、長孔12と剪断補強材1との間の空隙に充填材13を圧入して充填したり、或いは、現場で練り上げた充填材13を長孔12に注入してからその硬化前に剪断補強材1を挿入することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、例えば構造物の壁やカルバートなどコンクリート躯体の剪断補強に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1、1m…剪断補強材 2、2m…ねじ節異形棒鋼 21、21m…ねじ節 22、22m…平滑面 3、3m…ナット 31、31m…螺合孔 4…緩み止め具 41…基板 42…突出片 4a…緩み止め具の中間材 41a…基板相当部位 42a…突出片相当部位 5…ハンマー 10…コンクリート躯体 11…補強面 12…長孔 13…充填材 131…充填材カプセル W…水 D…ドリル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7