(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944282
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】中空軸用ダイナミックダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/12 20060101AFI20160621BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
F16F15/12 L
F16C3/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-199384(P2012-199384)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-55602(P2014-55602A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】田子 邦久
【審査官】
鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−011762(JP,A)
【文献】
特開2003−247596(JP,A)
【文献】
特開平05−149386(JP,A)
【文献】
実開昭58−081129(JP,U)
【文献】
特開2008−185149(JP,A)
【文献】
特開2007−177830(JP,A)
【文献】
特開2007−147006(JP,A)
【文献】
特開2011−220445(JP,A)
【文献】
特開2011−140977(JP,A)
【文献】
特開2013−245802(JP,A)
【文献】
米国特許第6312340(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/10−15/36
F16C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動低減対象の中空軸の内周に遊挿される質量体と、この質量体の軸方向両側に結合されると共に前記中空軸の内周面に嵌着されるゴム状弾性材料からなる弾性体と、前記弾性体をその内周側から径方向へ向けて付勢するばねを備えることを特徴とする中空軸用ダイナミックダンパ。
【請求項2】
弾性体が円周方向複数に分割されたことを特徴とする請求項1に記載の中空軸用ダイナミックダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のプロペラシャフト等、中空軸の内周空間に取り付けられて、この中空軸に発生する振動や騒音を抑制するダイナミックダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンからトランスミッションを介して出力される駆動力を後輪に伝達するプロペラシャフトの内周空間に取り付けられて、このプロペラシャフトに発生する振動や騒音を抑制するダイナミックダンパの典型的な従来技術が、下記の特許文献1〜4に開示されている。
【0003】
このうち特許文献1に開示されたダイナミックダンパは、
図7に示すように、プロペラシャフト100の内周にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなる弾性層104を介して圧入されるアウターリング101と、その内周に配置した金属製の質量体102との間に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなる弾性体103を介在させ、この弾性体103に円周方向等間隔で形成した複数の弾性支持部103aによって、アウターリング101に質量体102を弾性的に連結したものである。
【0004】
また、特許文献2に開示されたダイナミックダンパは、
図8に示すように、プロペラシャフト200の内周に遊挿される金属製の質量体202の軸方向両側に、プロペラシャフト200の内周面に嵌着される筒状の弾性体201を一体成形したものであって、弾性体201が軸直角方向の入力振動に対して剪断ばねとなるため、ばね定数を低くして、低周波領域での優れた動的吸振特性を確保することができる。
【0005】
また、特許文献3に開示されたダイナミックダンパは、
図9に示すように、プロペラシャフト300の内周に遊挿される金属製の質量体302の軸方向両側に、固定金具303の圧入によってプロペラシャフト300の内周面に嵌着される筒状の弾性体301を一体成形したもので、
図8に示すダイナミックダンパと同様、弾性体301が軸直角方向の入力振動に対して剪断ばねとなるものである。
【0006】
さらに、特許文献4に開示されたダイナミックダンパも同様であって、
図10に示すように、プロペラシャフト400の内周に遊挿される金属製の質量体402の軸方向両側に、プロペラシャフト400の内周面に嵌着される環状の弾性体401を一体成形したものであり、弾性体401が軸直角方向の入力振動に対して剪断ばねとなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−53686号公報
【特許文献2】特開2007−177830号公報
【特許文献3】特開平5−149386号公報
【特許文献4】特開2003−294025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図7〜
図10(特許文献1〜4)のダイナミックダンパは、いずれもプロペラシャフトの内周面に対する所要の嵌合力や固有振動数を確保するため、弾性体がプロペラシャフトの内周面に圧入嵌着される構造となっており、このため、プロペラシャフトの内径寸法の変更に対して弾性体が追従できず、プロペラシャフトの内周面に対する嵌合力が大きく変化してしまうため、プロペラシャフトの内径寸法に合わせた弾性体の径寸法などの変更が必要になっていた。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、プロペラシャフトなどの中空軸の内周面に取り付けられるダイナミックダンパにおいて、中空軸の内径寸法の変更などに対する汎用性に優れたダイナミックダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る中空軸用ダイナミックダンパは、振動低減対象の中空軸の内周に遊挿される質量体と、この質量体の軸方向両側に結合されると共に前記中空軸の内周面に嵌着されるゴム状弾性材料からなる弾性体と、前記弾性体をその内周側から径方向へ向けて付勢するばねを備えるものである。なお、ここでいうゴム状弾性材料は、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料のことである。
【0011】
請求項1の構成を備える中空軸用ダイナミックダンパによれば、弾性体が質量体の軸方向両側に結合されると共に中空軸の内周面に嵌着されることによって、径方向に対して剪断ばねとなるので、径方向への自由度が高くなる。そしてこの弾性体は、その内周側に配置されたばねで径方向外側へ向けて付勢されることによって中空軸の内周面に対する所要の嵌合力が確保され、中空軸の内周面の径寸法の変更に対する弾性体の追随性がばねの付勢力によって補償される。
【0012】
請求項2の発明に係る中空軸用ダイナミックダンパは、請求項1に記載された構成において、弾性体が円周方向複数に分割されたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の構成を備える中空軸用ダイナミックダンパによれば、弾性体が円周方向複数に分割されたことによってその径方向の自由度が大きくなるため、中空軸の内周面の径寸法の変更に対する弾性体の追随性が一層向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパによれば、中空軸の内周面の径寸法の変更に対する弾性体の追随性がばねの付勢力によって向上し、中空軸の内周面に対する弾性体の嵌合力がばねの付勢力によって補償されるので、中空軸の内径寸法の変更に対する汎用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す装着状態の断面図である。
【
図2】本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。
【
図4】本発明で用いられるばねの一例を示す斜視図である。
【
図5】本発明で用いられるばねの他の例を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を異形のプロペラシャフトに装着した状態を、軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【
図7】従来の中空軸用ダイナミックダンパの一例を、軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【
図8】従来の中空軸用ダイナミックダンパの他の例を、軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。
【
図9】従来の中空軸用ダイナミックダンパの他の例を、軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【
図10】従来の中空軸用ダイナミックダンパの他の例を、軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る中空軸用ダイナミックダンパの好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示すように、この実施の形態におけるダイナミックダンパ1は、自動車のプロペラシャフト2の内周面2aに取り付けられるものである。なお、プロペラシャフト2は請求項1に記載された中空軸に相当する。
【0018】
ダイナミックダンパ1は、振動低減対象のプロペラシャフト2の内周に遊挿される質量体11と、この質量体11に、その軸方向両側に位置してゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体成形された弾性体12,12と、各弾性体12をその内周側から径方向外側へ向けて付勢するばね13,13を備える。
【0019】
このうち、質量体11は例えば金属製の比較的厚肉の円筒体からなるものであって、プロペラシャフト2の内周面2aよりも小径に形成されている。
【0020】
弾性体12,12は
図2又は
図3に示すようにそれぞれコレットチャックのような分割形状をなすものであって、すなわち、円錐台をV字凹部12a及びその最深部から径方向かつ軸方向へ延びる溝12bによって円周方向に分割した形状の、四つの弾性ブロック121からなり、円錐台の底面に相当する端面(円筒状の質量体11の中心軸線に対して直交する面)が軸方向外側を向くように、質量体11の軸方向両側に配置されると共に、各弾性ブロック121の根元部分が質量体11の軸方向両端部に加硫接着されている。
【0021】
各弾性体12を構成する弾性ブロック121,121,・・・は、その根元部分が互いに円周方向へ連続している。
【0022】
ばね13は、例えば
図4に示すように、金属管131を輪切りにしてそれを円周方向一カ所で切断したものや、
図5に示すように、ワイヤ132をC字形に成形したワイヤスプリングなどが好適に用いられる。そして各弾性体12の内周(弾性ブロック121の内周)は、円筒状の質量体11の内周穴11aと同心の円形穴12cとなっており、ばね13は、この円形穴12c内に配置されると共に、弾性体12における各弾性ブロック121の内周面と嵌合している。
【0023】
なお、ばね13は図示のものには限定されないが、径方向への付勢力を発生するものであって線形又はそれに近似するばね特性を有するものであることが好ましい。
【0024】
弾性体12の外径、言い換えれば各弾性ブロック121の外径部121aは、質量体11の外径より大径である。また、ばね13の拡径変形力により径方向外側へ向けて付勢された各弾性ブロック121の外径部121aは、プロペラシャフト2の内周面2aに対して適当な締め代をもっており、すなわちプロペラシャフト2への装着前の状態では、このプロペラシャフト2の内周面2aより適宜大径となっている。
【0025】
ダイナミックダンパ1の径方向共振周波数は、質量体11の質量と、弾性ブロック121の径方向剪断ばね定数によって、プロペラシャフト2に生じる径方向振動の振幅が最大となる周波数帯域に設定される。
【0026】
以上のように構成されたダイナミックダンパ1は、
図1に示すように、質量体11の軸方向両側の弾性体12,12を、プロペラシャフト2の内周面2aにおける所定の位置へ圧入嵌着することによって取り付けられる。
【0027】
このとき、弾性体12,12は、プロペラシャフト2の内周面2aへの圧入によって各弾性ブロック121が径方向内側へ撓む。このため、各弾性体12の内周の円形穴12cに弾性ブロック121の内周面と嵌合状態で配置されたばね13が縮径変形を受けることによって、弾性体12(弾性ブロック121)をプロペラシャフト2の内周面2aに押し付ける付勢力を生じる。
【0028】
ここで、例えばダイナミックダンパの固定力を、プロペラシャフトへの圧入による弾性体の圧縮反力にのみ依存する場合は、ゴム状弾性材料の圧縮反力は圧縮量に対して非線形的に変化するため、圧縮量が僅かに小さいだけでもプロペラシャフトの内周面に対する固定力が著しく減少し、逆に圧縮量が僅かに大きくなるだけでもプロペラシャフトの内周面に対する固定力が著しく増大し、しかも径方向共振周波数も大きく変化してしまう。
【0029】
これに対し、図示の実施の形態によれば、弾性体12は、それぞれ円周方向へ複数の弾性ブロック121に分割されたことによって径方向の自由度が大きく、しかも金属からなるばね13は、径方向への撓み量に対して線形的なばね特性を有するため、プロペラシャフト2の内周面2aに対する弾性体12(弾性ブロック121)の嵌合力を有効に補償することができる。すなわち、プロペラシャフト1の内径寸法の変更に対して弾性体12(弾性ブロック121)が追従して良好な嵌着状態を確保することができ、弾性体12自体の圧縮量の変化によるダンパ特性の変化も軽減されるため、プロペラシャフト1の内径寸法の変更に対する汎用性が向上する。
【0030】
しかも、弾性ブロック121の外径部121aに、プロペラシャフト2の内周面2aとの圧接によるヘタリを生じても、それによる嵌合力の低下がばね13によって補償されるので、長期間にわたって安定した嵌合力を維持することができる。
【0031】
また、
図6に示すように、プロペラシャフト2が異形のもの、例えば大径部分21と、その軸方向両側に小径部分22が形成されたものであって、ダイナミックダンパ1を大径部分21の内周面21aに装着したいような場合、従来構造のものでは、小径部分22を通過させる際に弾性体の圧縮量が過大となって圧入抵抗が大きくなり、このため装着が困難であったが、本発明に係るダイナミックダンパ1によれば、径方向に対する弾性体12(弾性ブロック121)の自由度が大きいので、プロペラシャフト2の小径部分22の内周面22aを容易に通過することができ、小径部分22を通過した後はばね13の付勢力によって弾性ブロック121が拡径され、プロペラシャフト2の大径部分21の内周面21aに対する十分な嵌合力を確保することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ダイナミックダンパ
2 プロペラシャフト(中空軸)
11 質量体
12 弾性体
121 弾性ブロック
13 ばね