(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などに用いられる各種の組成物では、外観色を付与するために、色素が用いられている。
【0003】
色素を含む組成物では、日光等の紫外線や蛍光灯等の光線により、分解反応や酸化還元反応が進行することがある。このため、色素を含む組成物が退色することがある。具体的には、色素を含む組成物が変色したり、色素を含む組成物の色の濃淡が変わったりする。特に、酸性色素を含む組成物では、紫外線や光線によって、著しい退色が生じることがある。食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品に用いられる組成物では、退色は大きな問題となることがある。
【0004】
従来、退色を抑えるための方法として、紫外線吸収剤、抗酸化剤、pH緩衝剤又は各種の抽出物を用いる方法が知られている。
【0005】
具体的には、下記の特許文献1には、ヒマワリの種子又はその搾油粕から水又は含水アルコールで抽出される成分と、L−アスコルビン酸又はその塩類とを含む退色防止剤が開示されている。下記の特許文献2には、ヤマモト科植物抽出物を用いる色素の安定化法が開示されている。下記の特許文献3には、脱脂卵黄の加水分解物と、水溶性抗酸化剤とを含むカロチノイド系色素の退色防止剤が開示されている。下記の特許文献4には、カムカム果汁及び/又はカムカム抽出物と、有機系紫外線吸収剤及び/又は無機系紫外線散乱剤とを含む退色防止組成物が開示されている。下記の特許文献5には、酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含むルチン誘導体組成物が開示されており、該ルチン誘導体組成物を色素の退色防止及び変色防止に用いることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜5に記載のように、色素を含む組成物の退色を抑える数多くの試みが検討されている。しかしながら、従来の退色防止組成物及び退色防止方法では、紫外線や光線によって、色素を含む組成物の退色を十分に抑制できないことがある。特に、組成物が香料を含まない場合には、退色を抑制できたとしても、組成物が香料を含む場合には、退色を十分に抑制できないことがある。特に、香料を用いかつ色素として酸性色素を用いた場合には、香料と酸性色素とを含む組成物の退色が特に生じやすいという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、香料を用いているにも関わらず、かつ色素として酸性色素を用いているにも関わらず、紫外線や光線による退色を抑えることができる退色防止組成物、並びに該退色防止組成物を用いた化粧品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広い局面によれば、香料と、紫外線吸収剤と、乳酸と、酸性色素とを含む、退色防止組成物が提供される。
【0010】
本発明に係る退色防止組成物のある特定の局面では、該退色防止組成物は、乳酸塩を実質的に含まない。
【0011】
本発明に係る退色防止組成物のある特定の局面では、前記酸性色素が、アゾ系酸性色素、トリフェニルメタン系酸性色素又はアントラキノン系酸性色素である。
【0012】
本発明に係る退色防止組成物のある特定の局面では、該退色防止組成物は、溶剤をさらに含む。
【0013】
本発明に係る退色防止組成物は、食品、化粧品、医薬品又は医薬部外品に好適に用いられる。
【0014】
本発明の広い局面によれば、容器と、前記容器内に充填されている化粧料とを備え、前記化粧料が、上述した退色防止組成物を含有する、化粧品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る退色防止組成物では、香料と紫外線吸収剤と乳酸と酸性色素とが組み合わされているので、香料を用いているにも関わらず、かつ色素として酸性色素を用いているにも関わらず、紫外線や光線による退色を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る退色防止組成物は、(A)香料と、(B)紫外線吸収剤と、(C)乳酸と、(D)酸性色素とを含む。
【0018】
本発明に係る退色防止組成物では、上述した成分(A)〜(D)が組み合わされているので、香料を用いているにも関わらず、更に用いている色素が(D)酸性色素であるにも関わらず、日光等の紫外線や蛍光灯等の光線による退色を抑えることができる。すなわち、本発明に係る退色防止組成物や、本発明に係る退色防止組成物を用いた食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品に、紫外線や光線が照射されても、変色を生じ難くし、かつ色の濃淡を変化し難くすることができる。本発明は、(A)香料と(D)酸性色素とを含む組成において、退色防止性を高めたことに特徴を有する。また、本発明では、(A)香料を含む組成において、(D)酸性色素としてある特定の酸性色素D1を用いる場合に、特定の酸性色素D1とともに(B),(C)成分を組み合わせることにより、特定の酸性色素D1とともに(B),(C)成分を組み合わせていない場合と比べて、退色を抑えることができる。
【0019】
(A)香料と(B)紫外線吸収剤と(C)乳酸と(D)酸性色素とを均一に混合するために、本発明に係る退色防止組成物は、(E)溶剤を含むことが好ましい。
【0020】
以下、本発明に係る退色防止組成物に用いられる各成分を具体的に説明する。
【0021】
((A)香料)
(A)香料は、付与したい香調に応じて適宜選定される。(A)香料の香調としては、シトラス系、グリーン系、フローラル系、フルーティ系及びフゼア系等が挙げられる。これらのいずれの香調の香料を用いてもよい。また、これら以外の香調の香料を用いてもよい。(A)香料は特に限定されない。(A)香料は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などの用途に応じて、(A)香料の配合量は適宜調整される。上記退色防止組成物100質量%中、(A)香料の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。(A)香料の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、香りを適度に調整でき、退色防止効果がより一層効果的に得られる。
【0023】
((B)紫外線吸収剤)
(B)紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸メチル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル、サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸フェニル、サリチル酸オクチル、サリチル酸ブチルフェニル、サリチル酸ホモメンチル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、メトキシケイ皮酸エトキシエチル、ジメトキシケイ皮酸モノエチルヘキサン酸グリセリル、ヒドロキシメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、オクチルトリアゾン、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、オクトクリレン、ポリシリコン−15、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、オキシベンゾン−3、2,4,6−トリス[4−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]−1,3,5−トリアジン、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ベンゾトリアゾール、ベンジリデンカンファー、トリメトキシケイヒ酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル、及びフェニルベンズイミダゾールスルホン酸等が挙げられる。これら以外の紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0024】
(B)紫外線吸収剤は、UV−A領域(320〜400nmの波長領域)に吸収能を有するものであっても、UV−B領域(280〜320nmの吸収波長)に吸収能を有するものであってもよく、特に限定されない。退色をより一層効果的に防止する観点から、UV−A領域(320〜400nmの波長領域)に吸収能を有する紫外線吸収剤がより好ましい。
【0025】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などの用途に応じて、(B)紫外線吸収剤の配合量は適宜調整される。上記退色防止組成物100質量%中、(B)紫外線吸収剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。(B)紫外線吸収剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、退色防止効果がより一層効果的に得られる。
【0026】
((C)乳酸)
上記退色防止組成物では、乳酸塩ではなく、(C)乳酸を用いる。組成物中で(A),(B),(D)成分とともに(C)乳酸が含まれていることにより、退色防止性能がかなり向上する。
【0027】
本発明に係る上記退色防止組成物は、乳酸塩を実質的に含まないことが好ましい。これにより、退色防止効果をさらに向上させることが可能となる。尚、本発明における「実質的に乳酸塩を含有しない」とは、「別途、乳酸塩を含有させることはしない」という意味であり、乳酸と各配合成分中に含まれる成分により形成される微量の乳酸塩までをも除外するものではない。
【0028】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などの用途に応じて、(C)乳酸の配合量は適宜調整される。上記退色防止組成物100質量%中、(C)乳酸の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0029】
((D)酸性色素)
色素としては、酸性色素、塩基性色素及び天然色素等が存在する。これらの色素の中で、本発明に係る退色防止組成物は、(D)酸性色素を含む。(D)酸性色素は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
(D)酸性色素としては、アゾ系酸性色素、キサンテン系酸性色素、トリフェニルメタン系酸性色素、アントラキノン系酸性色素、ピラゾロン系酸性色素、フタロシアニン系酸性色素及びインジゴイド系酸性色素等が挙げられる。
【0031】
なかでも、本発明の上記組成の採用により、退色をより一層抑制可能であることから、(D)酸性色素は、アゾ系酸性色素、トリフェニルメタン系酸性色素又はアントラキノン系酸性色素であることが好ましい。また、アゾ系酸性色素、トリフェニルメタン系酸性色素及びアントラキノン系酸性色素は汎用性にも優れている。(D)酸性色素は、アゾ系酸性色素であることが好ましく、トリフェニルメタン系酸性色素であることが好ましく、アントラキノン系酸性色素であることも好ましい。
【0032】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などの用途に応じて、(D)酸性色素の配合量は適宜調整される。上記退色防止組成物100質量%中、(D)酸性色素の含有量は、好ましくは0.0000001質量%以上、より好ましくは0.000001質量%以上、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。(D)酸性色素の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、退色防止効果がより一層効果的に得られる。
【0033】
((E)溶剤)
(A)香料と(B)紫外線吸収剤と(C)乳酸と(D)酸性色素とを均一に混合するために、本発明に係る退色防止組成物は、(E)溶剤を含むことが好ましい。(E)溶剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
(E)溶剤としては、水及びアルコールが挙げられる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等が挙げられる。上記アルコールは、炭素数4以下のアルコールであることが好ましく、炭素数2以下のアルコ−ルであることがより好ましい。上記アルコールは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などの用途に応じて、更に(A)香料と(B)紫外線吸収剤と(C)乳酸と(D)酸性色素との種類及び配合量に応じて、(E)溶剤の配合量は適宜調整される。上記退色防止組成物100質量%中、(E)溶剤の含有量は好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、好ましくは99.987999質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。(E)溶剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、配合成分の混合性がより一層高くなり、退色防止効果がより一層効果的に得られる。また、(E)溶剤を用いる場合に、上記退色防止組成物100質量%中、(A)香料と(B)紫外線吸収剤と(C)乳酸と(D)酸性色素との合計の含有量は、好ましくは0.012001質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0036】
(他の成分)
上記退色防止組成物には、可溶化剤、酸化防止剤、pH調整剤及び各種の抽出物を配合してもよい。また、これら以外の成分も必要に応じて、適宜配合可能である。上記退色防止組成物には、可溶化剤を含むことが好ましい。
【0037】
(退色防止組成物の他の詳細)
上記退色防止組成物は、食品、化粧品、医薬品又は医薬部外品に好適に用いることができる。上記退色防止組成物は、食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品などに用いられる適宜の有効成分と混合されて用いられてもよい。化粧料では、香料が用いられることが多い。また、化粧料では、退色は特に大きな問題になりやすい。また、化粧料は、美観を考慮して、透明又は半透明の容器内に充填されることがある。透明又は半透明の容器内に充填された化粧料は、日光の紫外線や蛍光灯の光線に晒される。従って、退色防止効果に優れている上記退色防止組成物は、化粧料により好適に用いることができる。
【0038】
上記退色防止組成物を含有する化粧料などは、(A)香料と、(B)紫外線吸収剤と、(C)乳酸と、(D)酸性色素とを含有する。
【0039】
上記退色防止組成物を含有する化粧料の性状としては、液状、ジェル状、クリーム状及び泡状等が挙げられる。液状には、ペースト状が含まれる。液状であっても退色防止効果が十分に得られることから、上記化粧料は、液状であることが好ましい。
【0040】
(化粧品)
本発明に係る化粧品は、容器と、該容器内に充填されている化粧料とを備える。該化粧料が、上記退色防止組成物を含有する。すなわち、上記化粧料は、(A)香料と、(B)紫外線吸収剤と、(C)乳酸と、(D)酸性色素とを含む。上記容器は、透明又は半透明の容器であってもよい。半透明の容器では、該容器を介して、容器内の物質を視認可能である。上記容器は、ガラス容器であってもよい。
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。本発明は以下の実施例にのみ限定されない。なお、配合量の単位は、特記しない限り「質量部」である。
【0042】
実施例及び比較例では、下記の成分を用いた。
【0043】
(A)香料
1)シトラス系香料
2)フルーティ系香料
3)フゼア系香料
【0044】
(B)紫外線吸収剤
1)紫外線吸収剤1(DSM ニュートリションジャパン社製「parsol1789」)
2)紫外線吸収剤2(BASF社製「UVINUL D−50」)
【0046】
(D)酸性色素
1)赤2(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
2)赤102(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
3)赤201(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
4)赤227(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
5)赤504(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
6)青1(トリフェニルメタン系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
7)黄5(アゾ系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
8)紫401(アントラキノン系酸性色素)含有液(酸性色素0.01質量%と精製水を99.99質量%とを含む)
【0047】
(E)溶剤
1)95質量%エタノール
2)精製水
【0048】
(他の成分)
可溶化剤(日光ケミカルズ社製「NIKKOL PEN−4630」)
【0049】
(実施例1〜18、参考例1〜36及び比較例1〜27)
【0050】
下記の表1〜6に示す各成分を下記の表1〜6に示す含有量で配合し、混合し、退色防止組成物を得た。なお、香料を用いていない退色防止組成物は、参考例とした。
【0051】
(退色防止性の評価)
得られた退色防止組成物に波長300〜700nmの紫外線及び可視光を30時間照射した。紫外線、可視光を照射していない退色防止組成物と、紫外線及び可視光を照射した退色防止組成物との色調及び色の濃淡を目視で確認した。退色防止性を下記の基準で判定した。
【0052】
[退色防止性の判定基準]
A:隣接比較で色の差異を識別できない
B:隣接比較で色の差異を識別できるが、離間比較では色の差異を識別できない
C:隣接比較及び離間比較において色の差異を識別できるが、紫外線の照射後に色調に変化はなく色の濃さに大きな差異はない
D:隣接比較及び離間比較において色の差異を識別でき、紫外線の照射後に色調が変化している
E:隣接比較及び離間比較において色の差異を識別でき、紫外線の照射後に無色又はほぼ無色になっている
F:退色防止組成物の調整直後(紫外線及び可視光の照射前)に無色になっている
【0053】
組成及び評価結果を下記の表1〜6に示す。
【0060】
実施例1と比較例1〜3との対比、実施例2と比較例4〜6との対比、実施例3と比較例7〜9との対比、実施例4と比較例10〜12との対比、実施例5と比較例13〜15との対比、実施例6と比較例16〜18との対比、実施例7と比較例19〜21との対比、実施例8と比較例22〜24との対比、実施例9と比較例25〜27との対比により、(A)香料を含む組成において、(D)酸性色素としてある特定の酸性色素を用いる場合に、特定の酸性色素とともに(B),(C)成分を組み合わせることにより、特定の酸性色素とともに(B),(C)成分を組み合わせていない場合と比べて、退色を抑えることができることがわかる。