特許第5944296号(P5944296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944296
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】口腔疾患の治療剤、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/14 20060101AFI20160621BHJP
   A61K 36/886 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20160621BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20160621BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20160621BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
   A61K36/14
   A61K36/886
   A61K9/06
   A61K9/08
   A61K47/10
   A61K47/36
   A61P1/02
   A61P31/04
   A61K8/97
   A61Q11/00
   A61K127:00
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-237908(P2012-237908)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-88331(P2014-88331A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】511065266
【氏名又は名称】学校法人昭和薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086092
【弁理士】
【氏名又は名称】合志 元延
(72)【発明者】
【氏名】千葉 良子
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−157794(JP,A)
【文献】 特開昭55−120509(JP,A)
【文献】 特開2003−040752(JP,A)
【文献】 特開2011−102245(JP,A)
【文献】 特開2006−124315(JP,A)
【文献】 特開2002−226385(JP,A)
【文献】 Phytotherapy research,2007年,Vol.21, No.3,p.295-299
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/48
A61K 8/00−8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スギ葉精油を成分として含有すること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項2】
請求項1において、該治療剤は、唾液分泌の促進性と、口腔内細菌の増殖を抑制する抗菌性とを、備えていること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項3】
請求項2において、更に、基剤と増粘結合剤とを成分として含有すること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項4】
請求項3において、該基剤がグリセリンであり、該増粘結合剤がアルギン酸ナトリウムであること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項5】
請求項4において、更に、アロエ葉肉エキスを成分として含有すること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項6】
請求項5において、剤型は、ジェル剤,クリーム剤,液剤,軟膏剤の中から選択されること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項7】
請求項6において、投与対象が高齢の胃瘻造設患者であり、唾液分泌量低下,口腔内乾燥に基づく口腔疾患の予防や治療に用いられ、
投与により、唾液分泌量の増加や口腔内の湿潤治療と、口腔内細菌の増殖抑制治療とが、実施されること、を特徴とする口腔疾患の治療剤。
【請求項8】
口腔疾患の治療剤の製造方法であって、
粉砕した杉葉を水蒸気蒸留して得られた蒸留成分から、油性分を採取し、もってスギ葉精油を得る採取工程と、
該採取工程で得られた該スギ葉精油と、グリセリンとを攪拌して、混合物化する混合工程と、
アルギン酸ナトリウムをエタノールに溶解して、アルギン酸溶解液とする溶解工程と、
細断,濾過して得られたアロエ葉肉エキス液と該溶解工程で得られた該アルギン酸溶解液を攪拌して、アロエジェル化するジェル化工程と、
該ジェル化工程で得られた該アロエジェルと、該混合工程で得られた該混合物とを、攪拌,混合した後、剤型化することにより、該口腔疾患の治療剤を得る最終工程と、
を有してなることを特徴とする、口腔疾患の治療剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔疾患の治療剤およびその製造方法に関する。すなわち、高齢の胃瘻造設患者等について、唾液分泌低下,口腔内乾燥に基づく口腔疾患の治療に用いられる、治療剤および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
高齢者の増加と共に、例えば、高齢の胃瘻造設患者も急増している。そして、このような胃瘻造設患者については、胃瘻造設に伴い唾液分泌量低下,口腔内乾燥が顕著化し、口腔疾患発症が指摘されている。
すなわち、口腔内乾燥症や口唇痂皮、更には、唾液による抗菌性の低下,口腔内細菌叢の乱れから、誤嚥性肺炎のリスクも高まっている。又、舌苔の増殖により、口臭も指摘されている。
【0003】
《従来例について》
上述に鑑み、例えば要介護老人施設においては、胃瘻造設患者の口腔ケアの重要性が増している。これに対し、要介護老人施設において口腔ケアは、従来次のように行われていた。
a.日常の口腔ケアは、水で湿らせたガーゼによる拭き取りが、殆どとなっていた。
b.薬剤性洗口液も存在しているが(クロルヘキシジン,塩化セチルビリニウム,トリクロサン等)、高齢者の場合は、着色や味覚障害、ショック症状などの副作用の観点から使用が控えられることが多かった。
c.口腔内乾燥の予防用としては、市販口腔ケアジェル、その他の市販口腔ケア用品も、多く存在していた。例えば市販口腔ケアジェルAの主成分は、天然酵素:ラクトペルオキシダーゼ、リゾチームなど、市販口腔ケアジェルBの主成分は、ヒノキチオール、グリチルリチン酸ジカリウムなど、市販口腔ケアジェルCの主成分は、水、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウムなど。これらは、インターネット上でも公開されている。
【0004】
《スギ葉精油について》
ところで本発明は、スギ葉精油を有効成分としている。そして従来、スギ葉精油を有効成分とした口腔ケア用品は、存在していなかった。
これに対し、スギ葉精油を有効成分とする医薬を開示する先行特許文献としては、例えば、次の特許文献1,2に開示されたものが挙げられる。
【特許文献1】特開2002−234846号公報
【特許文献2】特開2011−219423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような従来例については、次の点が指摘されていた。
《問題点》
上述した従来例、例えば、水で湿らせたガーゼで拭き取る従来例や、市販口腔ケアジェル等のケア用品等を使用する従来例については、口腔ケアが効果的でなく、口腔疾患の予防や治療効果が低い、という問題が指摘されていた。
すなわち従来例は、口腔内の簡単な汚れを除去することはできるが、唾液分泌量増加,口腔内湿潤促進は見られなかった。
もって、例えば要介護老人施設の胃瘻造設患者について、口腔内乾燥症や口唇痂皮は改善されず、例えば誤嚥性肺炎のリスクも軽減されなかった。又、舌苔の増殖も解消されず、患者の口臭が強く、もって、日々ケアにあたる看護師,介護士にとって、高齢胃瘻造設患者の口腔ケアは、モチベーション上も大きな問題となっていた。
このように従来例では、口腔疾患発症が依然として指摘されていた。
【0006】
《その他の問題点》
更に、薬剤性洗口液や市販口腔ケア用品等の従来品については、副作用や安全性に問題が指摘されていた。
すなわち、薬剤性洗口液に関しては着色や味覚障害が生じることが知られており、また日本医薬品集にはショック症状の発現例も記載されていることから高齢者への使用は控えられている。
又、市販口腔ケア用品は、抗酸化剤,防腐剤,殺菌剤,抗炎剤,保存剤,保存料,安定剤,ペーハー調整剤,緩衝剤,清掃助剤,等々の添加剤を含有している。そこで、特に高齢者そして胃瘻造設患者への使用については、副作用が懸念され、安全性の面でも問題になることが多い。
更に、これらの従来例については、コスト面にも問題が指摘されていた。すなわち、各種薬剤,添加剤の使用により製造コスト高となり、例えば要介護老人施設等では、医療費削減,諸経費抑制の観点から、使用が控えられることも多かった。
【0007】
《スギ葉精油の先行特許文献について》
本発明はスギ葉精油を有効成分としているが、同様にスギ葉精油を有効成分とした先行特許文献も、前述したように存在していた。しかしながら本発明は、これらの先行特許文献から、何らの示唆を受けるものではない。
すなわち、特許庁審査基準(第VII部第3章)にもあるように、医薬発明は用途発明であり、例え同様の成分例えばスギ葉精油を含有していても、用途が相違すれば、新規性,進歩性は肯定される。
本発明は後述するように、a.口腔(口〜咽頭)を対象とし、b.唾液分泌促進,口腔内細菌増殖抑制を薬効とし、c.もって口腔疾患を治療する。
これに対し引用文献1は、a.眼や鼻を対象とし、b.その粘膜に侵入したスギ花粉を被覆して抗体との結合を阻止することによる、アレルギー反応抑制を薬効とし、c.もって花粉症を治療する。
引用文献2は、a.皮膚を対象とし、b.そのアレルギー反応等による痒みの鎮痒作用を薬効とし、c.もって皮膚疾患を治療する。
このように、本発明と引用文献1,2とは、a.対象,b.薬効,c.治療内容等、用途が異なっている。本発明は、これまでにない新たな用途を対象とする。
その他、スギ葉精油を成分とした先行技術文献も散見されたが、いずれも、本発明のようにa.対象が口腔ではなく、b.唾液分泌や口腔内細菌抑制が薬効ではなく、c.口腔疾患治療用ではない等、用途が異なっている。
【0008】
《本発明について》
本発明の口腔疾患の治療剤およびその製造方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、唾液分泌が促進され、第2に、もって効果的な口腔ケアが実現されて、口腔疾患が予防,治療され、第3に、更に安全性や安定性に優れ、第4に、使用感等やコスト面にも優れた、口腔疾患の治療剤およびその製造方法を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、特許請求の範囲に記載したように、次のとおりである。
まず、請求項1の口腔疾患の治療剤は、スギ葉精油を成分として含有すること、を特徴とする。
請求項2の口腔疾患の治療剤は、請求項1において、該治療剤は、唾液分泌の促進性と、口腔内細菌の増殖を抑制する抗菌性とを、備えていることを特徴とする。
請求項3の口腔疾患の治療剤は、請求項2において、更に、基剤と増粘結合剤とを成分として含有すること、を特徴とする。
請求項4の口腔疾患の治療剤は、請求項3において、該基剤がグリセリンであり、該増粘結合剤がアルギン酸ナトリウムであること、を特徴とする。
請求項5の口腔疾患の治療剤は、請求項4において、更に、アロエ葉肉エキスを成分として含有すること、を特徴とする。
請求項6の口腔疾患の治療剤は、請求項5において、剤型は、ジェル剤,クリーム剤,液剤,軟膏剤の中から選択されること、を特徴とする。
請求項7の口腔疾患の治療剤は、請求項6において、投与対象が高齢の胃瘻造設患者であり、唾液分泌量低下,口腔内乾燥に基づく口腔疾患の予防や治療に用いられる。そして投与により、唾液分泌量の増加や口腔内の湿潤治療と、口腔内細菌の増殖抑制治療とが、実施されること、を特徴とする。
【0010】
請求項8の口腔疾患の治療剤の製造方法は、次の採取工程,混合工程,溶解工程,ジェル化工程,最終工程等を、有してなることを特徴とする。
すなわちこの製造方法は、粉砕した杉葉を水蒸気蒸留して得られた蒸留成分から、油性分を採取し、もってスギ葉精油を得る採取工程と、該採取工程で得られた該スギ葉精油とグリセリンとを攪拌して、混合物化する混合工程と、アルギン酸ナトリウムをエタノールに溶解して、アルギン酸溶解液とする溶解工程と、細断,濾過して得られたアロエ葉肉エキス液と該溶解工程で得られた該アルギン酸溶解液を攪拌して、アロエジェル化するジェル化工程と、該ジェル化工程で得られた該アロエジェルと該混合工程で得られた該混合物とを、攪拌,混合した後、剤型化することにより、該口腔疾患の治療剤を得る最終工程と、を有してなる。
【発明の効果】
【0011】
《第1の効果》
第1に、唾液分泌が促進される。すなわち、本発明の口腔疾患の治療剤は、まず、口腔への塗布により、三大唾液腺等が刺激されると共に粘膜から吸収され、もって唾液分泌が促進される。
これと共に、スギ葉精油の香りが、副交感神経を優位化させ、脳内α波を増加せしめ、もってリラクゼーション効果によっても、唾液分泌が促進される。
もって本発明では、このような唾液分泌量の増加により、口腔内湿潤が進行する。更に、アロエ葉肉エキスの保湿力も、これらに効果的に作用する。
前述したこの種従来例で指摘されていた口腔内乾燥問題は回避され、例えば高齢の胃瘻造設患者について、口腔内乾燥が解消される。
【0012】
《第2の効果》
第2に、もって効果的な口腔ケアが実現されて、口腔疾患が予防,治療される。すなわち、本発明の口腔疾患の治療剤は、口腔への塗布により、上述した第1のように唾液分泌が促進される。
そこでまず、口腔内湿潤が進行するので、口腔内乾燥症や口唇痂皮等が、予防や治療される。又、唾液の抗菌性が発揮され、口腔内細菌,口腔内微生物の増殖が抑制される。更に、スギ葉精油の抗菌性からも、口腔内細菌,口腔内微生物の増殖が抑制される。
そこで、例えば誤嚥性肺炎や日和見感染菌感染等のリスクも低下し、舌苔減少により口臭も軽減され、前述したこの種従来例で指摘されていた口腔疾患は、予防,治療される。例えば、高齢の胃瘻造設患者についても、効果的な口腔ケアが実現される。
【0013】
《第3の効果》
第3に、更に安全性や安定性も優れている。すなわち、本発明の口腔疾患の治療剤は、スギ葉精油、アロエ葉肉エキス、グリセリン等の基剤,アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤を、成分としている。
もって、味覚障害や副作用の虞がなく、安全性に優れている。高齢者や胃瘻造設患者等についても、安全に使用可能である。又、スギ葉精油の抗菌性に基づき、室温で最低1ヵ月間保存可能であり、臨床現場での品質安定性にも優れている。
【0014】
《第4の効果》
使用感等やコスト面にも、優れている。すなわち、本発明の口腔疾患の治療剤は、まず、適度な粘性,軟質硬度等を備えており、口腔内への塗布しやすさ,滞留性,使用感等にも優れている。
更に、コスト面にも優れている。すなわち、スギ葉精油,アロエ葉肉エキス,グリセリン,アルギン酸ナトリウム等は、いずれも安価に入手可能であり、又、添加剤等は一切必要がなく、更に、その製造方法も簡単容易である、等々により製造コスト面にも優れている。医療費削減,諸経費抑制の渦中にある例えば要介護老人施設等でも、容易に導入可能である。
このように、従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る口腔疾患の治療剤およびその製造方法について、発明を実施するための形態の説明に供し、本発明実施例ジェルについて、粘度測定結果を示す折れ線グラフである。
図2】同発明を実施するための形態の説明に供し、本発明実施例ジェルについて、歯科医師による口腔内所見を示す、折れ線グラフである。
図3】同発明を実施するための形態の説明に供し、唾液量測定結果を示す、棒グラフである。そして(1)図は、本発明実施例ジェルに関し、(2)図は、市販口腔ケアジェルに関する。
図4】同発明を実施するための形態の説明に供し、口腔ケアのアンケート調査結果の円グラフである。そして(1)図は、本発明実施例ジェルに関し、(2)図は、市販口腔ケアジェルAに関する。
図5】同発明を実施するための形態の説明に供し、口腔ケアのアンケート調査結果の円グラフである。そして(1)図は、市販口腔ケアジェルBに関し、(2)図は、市販口腔ケアジェルCに関する。
図6】同発明を実施するための形態の説明に供し、本発明実施例ジェルの臨床写真である。そして(1)図〜(6)図は、塗布前,塗布後,塗布中止後の経過ステップを示す。
図7】同発明を実施するための形態の説明に供し、市販口腔ケアジェルの臨床写真である。そして(1)図は、市販口腔ケアジェルAについて、塗布前,塗布後の経過ステップを示し、(2)図は、市販口腔ケアジェルBについて、塗布前,塗布後の経過ステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
そしてまず、「本発明の概要」,「スギ葉精油」,「グリセリン等の基剤」,「アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤」,「アロエ葉肉エキス」等について、順に説明する。
それから、「処方等」,「剤型」,「製造方法」,「作用等」,「実施例」等について、順に説明する。
【0017】
《本発明の概要》
本発明の口腔疾患の治療剤は、スギ葉精油を成分として含有する。そして、この口腔疾患の治療剤は、唾液分泌の促進性と、口腔内細菌の増殖を抑制する抗菌性とを、備えている。
更に、この口腔疾患の治療剤は、グリセリン等の基剤と、アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤と、アロエ葉肉エキス等を、成分として含有している。
もって、この口腔疾患の治療剤は、投与対象が例えば高齢の胃瘻造設患者であり、唾液分泌量低下や口腔内乾燥に基づく口腔疾患の予防や治療に、用いられる。そして投与により、唾液分泌量の増加や口腔内の湿潤治療と、口腔内細菌の増殖抑制治療とが、実施される。
本発明の概要については、以上のとおり。以下、このような本発明について、更に詳述する。
【0018】
《スギ葉精油について》
まず、この口腔疾患の治療剤の各成分について、詳述する。スギ葉精油については、次のとおり。
スギ葉精油は、粉砕した杉葉を水蒸気蒸留して得られた蒸留成分から、油性分を採取することにより得られる、油状成分よりなる(その詳細については、後述する製造方法の欄を参照)。
得られたスギ葉精油の組成については、ガスクロマトグラフ−マススペクトル(GC−MS)により分析した所、次の表1の結果が得られた。
【0019】
【表1】
【0020】
この結果は1例に過ぎないが、モノテルペン,モノテルペノール,セスキテルペン,セスキテルペノール,エステル等が、含有されていると考えられる。
そしてスギ葉精油は、抗菌性と、香りによるリラクゼーション効果の、両機能を備えている。まず、スギ葉精油の抗菌性に基づき、(唾液の抗菌性も相俟って)口腔内細菌の増殖が抑制され、もって、誤嚥性肺炎のリスク低下や、舌苔減少による口臭低減が実現される。更に抗菌性は、長期保存性にも寄与する。
又、スギ葉精油の香りは、嗅覚を介して脳を刺激し、もって副交感神経を優位化させ、脳内α波を増加せしめる。このようなリラクゼーション効果により、唾液分泌促進が実現される。
スギ葉精油については、以上のとおり。
【0021】
《グリセリン等の基剤について》
次に、この口腔疾患の治療剤の成分である、グリセリン等の基剤について、説明する。
グリセリンCは、周知のごとく代表的な三価のアルコールであり、粘性液体として油脂の形で存在する。そして、この口腔疾患の治療剤では、湿潤調整用として、比較的軟らかなクリーム状に形成するための基剤として使用されており、治療剤に適度な粘性,硬度等を与えている。
なお基剤としては、グリセリン以外にも各種の油性基剤が採用可能であり、例えば、キサンタンガムやワセリンをグリセリンに代えて使用することも可能である。
グリセリン等の基剤については、以上のとおり。
【0022】
《アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤について》
口腔疾患の治療剤の成分である、アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤について、説明する。
アルギン酸ナトリウムは、藻類から抽出された水に可溶な粉末よりなり、増粘結合剤として知られており、食品や医薬にも広く添加使用されている。この口腔疾患の治療薬では、グリセリン等の基剤およびスギ葉精油と、アロエ葉肉エキスとを増粘結合すべく、つまりオイル系と水系とを結合すべく使用されている。
なお増粘結合剤としては、アルギン酸ナトリウムが代表的に使用されるが、これに代え、ステアリン酸その他公知の各種結合剤も使用可能である。
アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤については、以上のとおり。
【0023】
《アロエ葉肉エキスについて》
口腔疾患の治療剤の成分である、アロエ葉肉エキスについて、説明する。アロエ葉肉エキスは、アロエベラ等のアロエ葉肉を細断,濾過して得られた粘性液体よりなる(その詳細については、後述する製造方法の欄を参照)。そして保湿性,抗炎症性が知られており、外傷薬等として使用されている。
この口腔疾患の治療薬では、このようなアロエ葉肉エキスの高い保湿性に特に着目すると共に、口腔ケア用に他の成分と組み合わせて採用してなり、グリセリンとの組み合わせにより治療剤に適度な粘性,硬度等を与えている。なお、このようなアロエ葉肉エキスに代え、例えばキサンタンガムを使用することも考えられる。
アロエ葉肉エキスについては、以上のとおり。
【0024】
《処方等について》
本発明の口腔疾患の治療剤は、代表的には、このようなスギ葉精油,グリセリン等の基剤,アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤,アロエ葉肉エキス等を、成分とする。
その代表的処方については、次のとおり。全量100mLとした場合のmL値つまり体積%は、例えば次のとおり(後述する製造方法も参照)。なおカッコ内は重量換算値であり、全体重量は112.104g〜115.542gとなっている。
・スギ葉精油 : 2%(1.568〜1.970g)
・グリセリン :48%(60.672g)
・アロエ葉肉エキス:44%(44.000g)
・エタノール : 6%(4.854g)
・アルギン酸ナトリウム1gが、エタノールに溶解されている。
なおスギ葉精油について、重量換算値に幅があるのは、スギの種類,産地,採取時期,採取抽出条件等,製造方法等により、その比重が異なることに起因する。
ところで、本発明の口腔疾患の治療剤は、このような処方,代表例に限定されるものではなく、更に広く各種の処方や成分とすることも可能である。すなわち、スギ葉精油を成分として含んでさえいれば、その他各種の成分構成とすることも可能である。
処方等については、以上のとおり。
【0025】
《剤型について》
この口腔疾患の治療剤の剤型は、ジェル剤,クリーム剤,液剤,軟膏剤の中から、選択される。
すなわち、口腔内への塗布しやすさや滞留性を有する剤型であれば、つまり使用感に優れた所定の硬度や粘性等を有するものであれば、上記各種の剤型形態をとることが可能である。
そして、中でもジェル剤は、塗布,投与の取扱性,簡便性に優れると共に、口腔内での滞留性,徐放性,治療効果持続性等に優れている。そこで、この口腔疾患の治療剤の剤型としては、ジェル剤が最も好ましいと言える。そこで、後述する実施例中では、本発明の実施例としてジェル剤を使用する(本発明実施例ジェル)。
剤型については、以上のとおり。
【0026】
《製造方法について》
次に、本発明の口腔疾患の治療剤の製造方法について、説明する。この製造方法は、次のa.採取工程,b.混合工程,c.溶解工程,d.ジェル化工程,e.最終工程、等を有してなる。
a.採取工程では、粉砕した杉葉を水蒸気蒸留して得られた蒸留成分から、油性分を採取し、もってスギ葉精油を得る。b.混合工程では、a.採取工程で得られた該スギ葉精油と、グリセリンとを攪拌して、混合物化する。
c.溶解工程では、アルギン酸ナトリウムをエタノールに溶解して、アルギン酸溶解液とする。d.ジェル化工程では、細断,濾過して得られたアロエ葉肉エキス液と、c.溶解工程で得られた該アルギン酸溶解液とを攪拌して、アロエジェル化する。
e.最終工程では、d.該ジェル化工程で得られた該アロエジェルと、b.混合工程で得られた該混合物とを、攪拌,混合した後、剤型化することにより、該口腔疾患の治療剤を得る。
【0027】
このような製造方法について、その一例に基づき更に詳述する。まず、a.採取工程については、次のとおり。
a.採取工程では、スギが花粉を付けていない時期に採取された秋田県産等国内産の杉葉が集められる。そして、必要に応じ洗浄した後、例えば園芸用ハサミを使用して粉砕する。
それから、常圧水蒸気蒸留法(温度80℃〜100℃、圧力0.1MPa)で蒸留し、その発生気体を冷却して得られた蒸留成分のうち、油性分を採取することにより、スギ葉精油が得られる(なお常圧水蒸気蒸留法によらず、減圧水蒸気蒸留法,加圧水蒸気蒸留法,搾り出しによる圧縮法,その他公知の精油採取法によることも可能である)。
原材料の杉葉に対するスギ葉精油の比率は1.5%(重量換算すると1.4775g)であった。このようにして得られたスギ葉精油の組成については、前述した表1の通り。
b.混合工程については、次の通り。b.混合工程では上記a.採取工程で得られたスギ葉精油例えば20mLを、基剤となるグリセリン例えば480mLに加える。そしてミキサー等で十分に攪拌して、混合物化する。
【0028】
c.溶解工程については、次の通り。c.溶解工程では、アルギン酸ナトリウム例えば10gを、エタノール例えば60mLに加え、ミキサー等で攪拌して、ペースト状のアルギン溶解液とする。
d.ジェル化工程については、次のとおり。d.ジェル化工程では、上記c.溶解工程で得られた上記アルギン溶解液60mLに、細断,濾過して準備されていたアロエ葉肉エキス液440mLを加え、ミキサー等で攪拌してアロエジェルを作製する。
なお、上記d.ジェル化工程用に予め準備されるアロエ葉肉エキス液は、例えば沖縄県産のアロエベラの皮を剥ぎ、葉肉を取出してミキサーにかけた後、冷凍したもの(チョッパー)1,000mLを、事後解凍して、例えばざるやガーゼ等を使用して濾過したものを使用する。
【0029】
e.最終工程では、上記d.ジェル化工程でアルギン酸ナトリウムとアロエ葉肉エキス液から得られたアロエジェルと、上記b.混合工程でスギ葉精油とグリセリンとから得られた混合物とが、攪拌,混合される。それから、例えば20mL注射筒を用いて、エタノール消毒した軟膏つぼに一回使用分として2mLずつ充填する。
このような工程を辿ることにより、ジェル剤化された本発明に係る口腔疾患の治療剤の実施例、つまり本発明実施例ジェルが製造される。
製造された治療剤は、全量1,000mLについて、スギ葉精油20mL,グリセリン480mL,アロエ葉肉エキス440mL,エタノール60mL(含.アルギン酸ナトリウム10g)、よりなる(処方等として前述した所を参照)。
製造方法については、以上のとおり。
【0030】
《作用等》
本発明の口腔疾患の治療剤およびその製造方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下の(1)〜(10)のようになる。
(1)口腔ケアが必要な症例が増加している。例えば要介護老人施設においては、高齢の胃瘻造設患者について、口腔ケアの重要性が増加している。
胃瘻造設に伴い経口摂取が途絶え、口腔領域が使用されず廃用されるので機能低下が著しく、廃用症候群により、唾液分泌の低下,口腔内の乾燥が顕著化している。
【0031】
(2)そこで、各種の口腔疾患発症が指摘される状態となっている。まず、口腔内乾燥症(口腔粘膜乾燥症)や、かさぶた状の口唇痂皮(剥離上皮膜)の発症が、指摘されている。
更には、唾液の抗菌性による自浄作用が低下して、口腔内細菌が増殖し、例えば誤嚥性肺炎や日和見感染菌感染等のリスクも指摘されている。又、舌表面での舌苔の増殖も進展し、口臭の顕著化も指摘されている。
【0032】
(3)これに対し、本発明の口腔疾患の治療剤つまり本発明実施例ジェル等を、口腔へ投与,塗布すると次の薬効が発揮される。
まず、唾液を分泌する三大唾液腺等が刺激を受けると共に、塗布された口腔粘膜から治療剤が吸収されることにより、唾液分泌量が増加する。
これと共に、治療剤のスギ葉精油の香りが、鼻の奥の嗅覚細胞を介して脳を刺激し、もって自律神経系の副交感神経を優位化させ、脳内α波を増加せしめる。このようなリラクゼーション効果により、上述に加えこの面からも、唾液分泌量が大きく増加するようになる。更に、治療剤のアロエ葉肉エキスのもつ保湿力も、これらに効果的に作用する。
【0033】
本発明の口腔疾患の治療剤を塗布すると、このように唾液分泌が促進され、もって口腔内の湿潤が進行する。高齢の胃瘻造設患者についても、口腔内の乾燥が解消され、効果的な口腔ケアが実現される。
【0034】
(4)このように、唾液による口腔内湿潤が進行するので、口腔内乾燥症や口唇痂皮等、口腔内の乾燥が原因となった口腔疾患が、予防,改善,治療されるようになる。
【0035】
(5)これと共に、唾液の持つ抗菌性が遺憾無く発揮され、その自浄作用により口腔内細菌,口腔内微生物の増殖が抑制される。かつ、この治療剤のスギ葉精油の持つ抗菌性からも、口腔内細菌の増殖が抑制される。
そこで、例えば誤嚥性肺炎や日和見感染菌感染等のリスクも低下し、舌苔も減少するので口臭も軽減される。このように、口腔内細菌,口腔内微生物が原因となる口腔疾患も、予防,改善,治療されるようになる。
【0036】
(6)特に、要介護老人施設にあっては、高齢の胃瘻造設患者について、口腔内乾燥症,口唇痂皮,誤嚥性肺炎等の口腔疾患が予防,改善,治療されることで、患者のQOL(Quality Of Life)が向上する。
又、増殖舌苔に起因した口臭も軽減されるので、日々ケアにあたる看護師,介護士にとっても、モチベーション上朗報となる。
【0037】
(7)さて、このように優れた薬効を発揮する本発明の口腔疾患の治療剤は、更に、安全性にも優れている。すなわち、この治療剤は、植物由来のスギ葉精油,アロエ葉肉エキス,グリセリン等の基剤,アルギン酸ナトリウム等の増粘結合剤を、成分としている。
そして、スギ葉精油のもつ抗菌性や、アロエ葉肉エキスのもつ抗炎性も相俟って、この種従来例の市販口腔ケア用品では多用されていた、抗酸化剤,防腐剤,殺菌剤,抗炎剤,保存剤,保存料,安定剤,ペーハー調整剤,緩衝剤,清掃助剤等々の添加剤は、一切含有していない。
そこで、高齢者や胃瘻造設患者等についても、副作用の懸念なく、安全に使用可能である。
【0038】
(8)又、本発明の口腔疾患の治療剤は、安定性にも優れている。すなわち、上述したように保存剤,保存料の添加がなくとも、治療剤中のスギ葉精油の抗菌性等に基づき、室温保存で最低1ヵ月間は、品質に変化なく保存可能である。
この治療剤は、このような保存状態,保存状況で保存可能であり、保存性,品質安定性にも優れている。
【0039】
(9)本発明の口腔疾患の治療剤は、使用感等にも優れている。この治療剤は、グリセリン等の基剤により、湿潤調整された比較的軟らかなクリーム状をなすと共に、保湿性に優れたアロエ葉肉エキス、増粘結合用のアルギン酸ナトリウム等が、付加されてなる。
もって、固過ぎず柔らか過ぎず、適度の好ましい粘性,硬度等を備えており、口腔内への塗布しやすさ,滞留性,使用感等に優れている。
【0040】
(10)本発明の口腔疾患の治療剤は、コスト面にも優れている。
a.この治療剤の成分であるスギ葉精油,アロエ葉肉エキス,グリセリン,アルギン酸ナトリウム等は、いずれも安価に入手可能であり、材料コスト面に優れている。
b.前述したように、その他に添加剤等は一切使用の必要がなく、この面からも材料コスト面に優れている。
c.この治療剤の製造方法は、前述したように、採取工程,混合工程,溶解工程,ジェル化工程,最終工程等よりなり、簡単容易に実施可能であり、製造コストも嵩まない。
本発明の作用等については、以上(1)〜(10)の通り。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明に係る口腔疾患の治療剤の実施例に関し、項目順に説明する。すなわち、スギ葉精油,グリセリン,アルギン酸ナトリウム,アロエ葉肉エキス等を成分とし、前述した処方,製造方法によりジェル剤化された本発明実施例ジェル等に関し、次の1〜9の項目順に説明する。
なお、項目1〜4は基礎研究に関し、項目5〜9は臨床研究に関する。
1.抗菌性試験(スギ葉精油)
2.抗菌性試験(本発明実施例ジェル等)
3.安定性試験
4.粘度および硬度測定
5.歯科医師による口腔内所見
6.口腔内環境検査(日和見感染菌)
7.唾液量測定
8.アンケート調査
9.臨床写真
【0042】
《基礎研究について》
多くの高齢者が入居している要介護老人施設においては、例えば日和見感染菌に感染しやすい環境下にある。そこで、口腔内日和見感染菌を対象に、次の各試験を実施した。
・試験項目
項目1.抗菌性試験(スギ葉精油)
項目2.抗菌性試験(本発明実施例ジェル等)
項目3.安定性試験
・日和見感染の原因菌(代表的5種の菌種について試験した)
黄色ブドウ球菌 メチシリン耐性(MRSA)
:Staphylococcus aureus
黄色ブドウ球菌 メチシリン感受性(MSSA)
:Staphylococcus aureus
緑膿菌(Ps):Pseudomonas aeruginosa
肺炎桿菌(K.p):Klebsiella pneumonia
セラチア菌(S.m):Serratia marcescens
・培地:BHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地,MHB(ミューラー・ヒ
ントン・ブロス)培地,寒天培地(すべて米国BECTON DICKNSON社
製)
・菌株:MRSA(臨床分離株),MSSA(EDA209P),Ps(PA01),K
.p(K.p),S.m(S.m)の5種類
【0043】
《1.抗菌性試験(スギ葉精油)》
まず、スギ葉精油の抗菌性試験として、日本化学療法学会「微量液体希釈法によるMIC測定法」に準じてスギ葉精油の最小発育阻止濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)を測定した。
すなわち、スギ葉精油の濃度が0〜10%(体積)になるように、スギ葉精油と可溶化剤(DMSO:dimethyl sulfoxide)と培地を混合し、ミキサーで攪拌後これを100μLずつ96穴プレートに充填した。その後、滅菌生理食塩水で菌量が10cfu/mLになるように調製した試験菌液5μLを加え、37℃で24時間培養した。培養後、菌の発育の有無を肉眼で観察し、MICを測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果からスギ葉精油には、日和見感染の原因菌(MRSA,Ps,K.p,S.m)に対して抗菌作用が認められた。
抗菌性試験(スギ葉精油)については、以上のとおり。
【0046】
《2.抗菌性試験(本発明実施例ジェル等)》
抗菌性試験2として、カップ法を用いて、本発明実施例ジェル、その他の試料について抗菌性試験を実施した。日和見感染原因菌については、段落番号0042欄を参照。試料として次の4種類のジェルを調製し、用いた。
・試料A:スギ葉精油有,アロエ葉肉エキス有,グリセリン有,アルギン酸ナトリウム有
(本発明実施例ジェル)
・試料B:スギ葉精油有,アロエ葉肉エキス無,グリセリン有,アルギン酸ナトリウム有
・試料C:スギ葉精油無,アロエ葉肉エキス無,グリセリン有,アルギン酸ナトリウム有
・試料D:スギ葉精油無,アロエ葉肉エキス有,グリセリン有,アルギン酸ナトリウム有
具体的には、段落番号0043欄同様に調製した試験菌5μLを滅菌綿棒にて寒天培地に塗布し、円形のウエル(直径3mm)をあけ、ここに試料A,B,C,Dをいれて37℃で、24時間培養した。培養後、阻止円の有無と阻止円の直径を計測し抗菌性を確認した。
その結果を、下記表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3において、抗菌性は阻止円の有無および大きさで判断される。試料AはMRSAに対して8mm、Psに対して5mm、K.pに対して7mm、およびS.mに対して7mmの阻止円を形成し、本発明実施例ジェルの抗菌性が確認された。また試料BはMRSAに対して10mm、Psに対して5mm、K.pに対して7mm、S.mに対して7mmであった。一方、スギ葉精油を含有しない試料CおよびDについては、いずれの試験菌に対しても発育阻止作用は認められなかった。
これらにより、アロエ葉肉エキスに関しては、抗菌性が見られないことが判明した。又、アルギン酸ナトリウムの溶解に用いたエタノール量では、エタノールの抗菌性も見られなかった。
結論として、本発明実施例ジェル(試料A)の抗菌性が、スギ葉精油によるものであることが、裏付けられた。
抗菌性試験(本発明実施例ジェル等)については、以上のとおり。
【0049】
《3.安定性試験》
安定性試験は、本発明実施例ジェル1種類について、段落番号0046欄同様カップ法を用いて行った。
すなわち、臨床現場での使用を想定し、調製された本発明実施例ジェルを試料として、その保存状態,保存期間を検討した。なお日和見感染の原因菌等については、段落番号0042欄を参照。
・保存状態:冷凍マイナス20℃,冷蔵4℃,室温20℃の3パターン
・保存期間:調製直後から1ヵ月間(4週間)
その結果を、下記表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4において、抗菌性は阻止円の有無および大きさで判断される。本発明実施例ジェルは、冷凍保存では塊ができていたが、MRSAに対しては試料調製後から1か月後まで阻止円形成を認めた。しかし、それ以外の試験菌については阻止円の形成が不明瞭であった。これに対し、冷蔵保存および室温保存した本発明実施例ジェルは、MSSAを除きMRSA,Ps,K.pおよびS.mの4種類の試験菌に対して調製直後から1か月後まで阻止円形成が認められた。また、阻止円の大きさに変化は認められなかった。
結論として、本発明実施例ジェルの保存は、冷蔵保存または室温保存が適していることが判った。また、スギ葉精油の抗菌性(段落番号0048欄)に基づき阻止円の大きさに変化が見られなかったことから、本発明実施例ジェルは、保存剤を添加せずとも、冷蔵または室温保存にて調製後一か月間は安定的に使用可能であることが認められた。
安定性試験については、以上のとおり。
【0052】
《4.粘度および硬度測定》
粘度および硬度測定については、次のとおり。機器を使用して、本発明実施例ジェル等の試料について、粘度および硬度を測定した。
すなわち、ジェルの基剤がのび、たれなどの使用感等に影響を与えることに鑑み、その粘度を粘度計HADV2、硬度を光度計TA−XTplusを用いて測定した。そしてまず、次の4種類の試料を調製,準備した。すなわち、4種のジェル基剤を、それぞれスギ葉精油やアルギン酸ナトリウムと共に用いた試料1,2,3,4を、調製,準備した。
・試料1:ジェル基剤を、グリセリン+アロエ葉肉エキス(1.2:1.1,V/V)と
したもの(つまり本発明実施例ジェル)
・試料2:ジェル基剤を、10%キサンタンガム(水に溶解)としたもの
・試料3:ジェル基剤を、グリセリンとしたもの
・試料4:ジェル基剤を、5%キサンタンガム(水に溶解)としたもの
【0053】
まず、粘度については、次のとおり。粘度測定結果を図1に示す。
すなわち、室温25℃で回転数を上昇させながら、各回転数(rpm)における粘度値(mPa−s)を求めた。
その結果図1に示したように、どの回転数においても、粘度値は、試料2>試料1>試料4>試料3の順となり、試料1(ジェル基剤をグリセリンとアロエ葉肉エキスとしたもの)および試料4(ジェル基剤を5%キサンタンガムとしたもの)とが、ジェルとして適切な粘度(回転数10rpmで粘度25,360mPa−s〜33,120mPa−s)となった。
次に、硬度の測定結果を、下記表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
硬度については、次のとおり。硬度測定結果は、上記表5に示したように、最大荷重値で、試料2>試料1>試料4>試料3の順となった。そして、試料1(ジェル基剤をグリセリンとアロエ葉肉エキスとしたもの)と、試料4(ジェル基剤を5%キサンタンガムとしたもの)とが、固すぎないと共に軟らかすぎないジェルとして適切な硬度であった(最大荷重値約20g前後程度)。
機器を用いて測定した粘度および硬度から、ジェル基剤としてはアロエ葉肉エキスと5%キサンタンガムが適切であった。しかし、使用感の良さから、ジェル基剤としてアロエ葉肉エキスを採用した。
粘度および硬度測定については、以上のとおり。
【0056】
《臨床研究について》
本研究は、ヘルシンキ宣言に則り昭和薬科大学研究倫理委員会の承認のもとに実施した。要介護施設(T大学老人保健センター)に入所中の施設利用者のうち、書面にて本人または家族の同意が得られた10名を対象者(以下被験者)として、以下の臨床調査を実施した。
・被験者I群:胃瘻造設患者7名(平均年齢86±8.3才)
被験者II群:健常者(自分の口で咀嚼できる患者)3名(平均年齢81±2.5才)
・調査期間:2012年4月1日から〜2012年8月31日
・調査項目:以下の各項目
項目5.歯科医師による口腔内所見
項目6.口腔内環境検査(日和見感染菌)
項目7.唾液量測定
項目8.アンケート調査
項目9.臨床写真
・調査実施方法:
a.被験者I群および被験者II群について事前に、上腕部にて24時間のパッチテスト
を行い、アレルギーの有無を確認した。
b.看護師や介護士は、予め手術用手袋を両手に装着し、被験者I群および被験者II群
について朝昼夕食後、まず通常の口腔ケア(水を含ませたガーゼによる拭き取り)を
実施した。
c.そしてその直後、1回2mLの本発明実施例ジェルを、被験者I群および被験者II
群の口腔内全体に、まんべんなく塗布した。
d.被験者I群および被験者II群について、塗布後2時間は飲食を原則禁止すると共に
、2時間後に残った本発明実施例ジェルはガーゼにて拭き取った。
e.これを14日間にわたって、実施した。その後は、本発明実施例ジェルの塗布を中
止した。
【0057】
《5.歯科医師による口腔内所見》
まず、歯科医師による口腔内所見については、次のとおり。
歯科医師による定期健診を、被験者I群および被験者II群について週1回実施し、舌苔、口唇乾燥、口臭、唾液の分泌等の項目についてVAS法(目視法)にて観察し評価した。図2に被験者I群(胃瘻造設患者7名)の結果を示した。図中、縦軸の口腔環境スコアについては、各調査項目について、それぞれ最も良好なもののスコアを1点とし、順次悪くなるに従ってスコアを1点ずつ増加させ、不良つまり最悪なもののスコアを5点とすると共に、各被験者の口腔環境スコアを平均値±標準偏差で示した。横軸には、調査日をとった。
塗布10日目には、大幅な改善が見られた。得られた各スコアについて有意差検定(t検定)を行ったところ、口唇乾燥(p<0.001)、唾液分泌(p<0.001)、舌苔(p<0.01)および口臭(p<0.05)となり、塗布前に比べ塗布10日目ではスコアの有意な減少が認められた。
また被験者II群では、唾液分泌について塗布前(3.0±0.47)と塗布10日目(2.3±0.47)でスコアの減少が認められた。
このように、本発明実施例ジェルの唾液分泌促進効果や口腔疾患治療効果が、裏付けられた。
歯科医師による口腔内所見については、以上のとおり。
【0058】
《6.口腔内環境検査(日和見感染菌)》
次に、口腔内環境検査(日和見感染菌)については、次のとおり。
例えば高齢者の誤嚥性肺炎の原因とされている口腔内微生物について、簡易検査法である日和見感染菌検査キットを用い、本発明実施例ジェルの塗布前,塗布3日目について、各被験者(I群およびII群)の口腔内検査を実施した。
・日和見感染菌検査キット:東京都渋谷区千駄ヶ谷5−21−3 株式会社ビー・エム・
エル製
・日和見感染菌:MRSA(黄色ブドウ球菌),緑膿菌(Ps),セラチア菌(S.m)
,β溶連菌
・試料採取:まず、各被験者の左上顎臼歯部,相当部,頬側歯頸部の歯垢を、スワブの滅
菌キャップ付綿棒で数回(5往復)擦過した。そして更に、綿棒を180度回転し、数
回(5往復)擦過後、チューブ投入した。採取した試料は、検査室(上記ビ・エム・エ
ル社検査室)にて、判定した。
・塗布前の試料採取:試料の採取は、本発明実施例ジェルの塗布前については、各被験者
の夕食後において、通常の口腔ケアを行ってから2時間経過後に、同一看護師が採取し
た。
・塗布後の試料採取:試料の採取は、各被験者の夕食後において、通常の口腔ケアを行う
と共に、本発明実施例ジェルを塗布してから2時間経過後に、同一看護師が採取した。
その検査結果を、下記表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
簡易検査法である日和見感染菌キットにおける評価を、以下に示す。
被験者の口腔内から採取した試料1mLにおいて、(+1)は菌数10/mL、(+2)は10/mL、(+3)は105〜/mL、マイナス(−)は10/mL以下である。菌数が多いほど、また菌種が多いほど、日和見感染症を惹起しやすい口腔内環境と言える。塗布前の検査結果では、被験者I群(胃瘻造設患者)7名中6名において、最低1種類以上の日和見感染菌の存在を認めた。しかし、本発明実施例ジェルを塗布したところ、塗布3日目の検査では、被験者I群6名に明らかな菌数の減少が認められた。
(なお3日目以降、本発明実施例ジェルの塗布を続けると、その効果により唾液量が増加し、もって塗布した本発明実施例ジェルの希釈化,流動化が進行した。そこで、その影響に鑑み、今回の日和見感染菌検査の調査対象からは除外した。)
このように検査の結果、塗布3日目には、本発明実施例ジェルが抗菌作用を発揮することが確認され、本発明実施例ジェルのスギ葉精油による抗菌性が裏付けられた。
口腔内検査(日和見感染菌)については、以上のとおり。
【0061】
《7.唾液量測定》
次に、唾液量測定については、次のとおり。
唾液湿潤検査紙を用い、本発明実施例ジェルの塗布前,塗布3日目について被験者I群の唾液量測定を実施した。
すなわち文献によると、近年、高齢者の3人に1人が口腔乾燥感自覚しているとされている。そして胃瘻造設患者においては、口腔を使用しないことからの機能低下による廃用症候群により、唾液分泌が低下し、口腔乾燥,口唇痂皮により出血が見られるケースも多い。そこで、要介護高齢者や障害者の唾液量測定に有用とされる唾液湿潤検査紙を用いて、唾液量の測定を実施した。
・測定方法:本発明実施例ジェルの塗布前と塗布3日後に、各被験者の舌背部で、10秒
間測定
・唾液湿潤検査紙:神奈川県横浜市神奈川区大口仲町7−9 KISOサイエンス株式会
社製の唾液湿潤検査紙キソウウエット
その測定結果を、下記表7および図3の(1)図に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
測定の結果は、表7および図3の(1)に示したように、まず、本発明実施例ジェル塗布前は、被験者である胃瘻造設患者7名中5名は、唾液量が1mm以下であり、歯科医師の定期健診時において、重度乾燥症と診断されていた。この時の7名全員の平均唾液量は0.24mmであり、重度乾燥症である。
これに対し、本発明実施例ジェルを塗布すると、塗布3日目で、胃瘻造設患者7名全員の唾液分泌量が3mm〜7mmに増え大幅な改善が見られた。塗布後の平均唾液量は5mmとなり、文献から正常範囲(3mm以上)の唾液量と判断されるに至った。
なお、下記表8は、被験者II群(健常者:自分の口で咀嚼できる人)3名を対象に、段落番号0061欄に準じ、唾液量を測定した結果である。このように、胃瘻造設患者だけでなく自分の口で咀嚼できる健常者についても、本発明実施例ジェルにより、大幅な唾液分泌量の促進が確認できた。
【0064】
【表8】
【0065】
又、図3の(2)図は、市販口腔ケアジェルA、B,Cについて、上述と同様に、唾液湿潤検査紙を用いて塗布前と塗布3日目について、測定を実施した(本発明実施例ジェル塗布後、2ヵ月間は水で湿らせたガーゼで拭き取る通常の口腔ケアのみを行い、2ヵ月後に塗布を実施)。結果は、塗布3日目でも唾液分泌量の増加は、被験者I群(胃瘻造設患者),被験者II群(健常者)共に殆ど見られず、明らかに市販口腔ケアジェルは本発明実施例ジェルより劣っていた。
市販口腔ケアジェルAの主成分は、天然酵素:ラクトペルオキシダーゼ、リゾチームなど、市販口腔ケアジェルBの主成分は、ヒノキチオール、グリチルリチン酸ジカリウムなど、市販口腔ケアジェルCの主成分は、水、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウムなど。
結論として、本発明実施例ジェルの唾液分泌の促進効果が、市販口腔ケアジェルとの比較上からも、裏付けられた。
唾液量測定については、以上のとおり。
【0066】
《8.アンケート調査》
次に、アンケート調査結果については、次のとおり。
被験者I群について、ベッドサイドで日常ケアにあっている看護師や介護士を対象に、本発明実施例ジェルと市販口腔ケアジェルに関し、塗布前と塗布後の変化について、アンケート調査を実施した。
・看護師:8名,全員女性,(平均年齢±標準偏差、45.89±3才)
・介護士:27名,女性12名(平均年齢±標準偏差、32.33±2才),男性(平
均年齢±標準偏差、34.13±3才)
・アンケート対象:日常ケアを行っている被験者の口腔内変化
・アンケート内容:口腔内乾燥の変化,舌苔の変化,口臭の変化について、視覚判断に基
づく回答
アンケート結果を、図4図5に示す。
まず、本発明実施例ジェルについては、図4の(1)図に示した結果が得られた。すなわち、口腔内乾燥については、変化有97%(変化無3%)、舌苔については、変化有83%(変化無17%)、口臭については、変化有94%(変化無6%)となった。このように、本発明実施例ジェルの使用により、被験者について、口腔内変化を認めるものとなった。
これに対し、市販口腔ケアジェルについては、図4の(2)図,図5の(1)図,(2)図に示したとおりの結果となった。すなわち、口腔内乾燥については、変化無が63%,42%,26%と多かった。舌苔の変化については、変化無が74%,58%,42%とほぼ過半数を占めた。口臭の変化については、変化無が84%,79%,47%と圧倒的に多かった。なお、市販口腔ケアジェルについては、0063欄中の記載を参照。
このようなアンケート結果からも、本発明実施例ジェルが口腔内乾燥,舌苔,口臭等の改善効果に優れていることが、市販口腔ケアジェルとの比較上からも、裏付けられた。このように、唾液分泌の促進効果と口腔疾患の治療効果が裏付けられた。
アンケート調査については、以上のとおり。
【0067】
《9.臨床写真》
臨床写真については、次のとおり。
まず、被験者I群の胃瘻造設患者の口腔について、本発明実施例ジェルの塗布前,塗布後,塗布中止後にわたり、経時的変化を臨床的に撮影した。その結果を、図6に示す。
この図6の臨床写真を示したように、(1)図の塗布前に見られた口唇痂皮が、(2)図の塗布3日目そして(3)図の塗布7日目に至ると、治療されるに至った。なお(4)図に示したように、塗布14日目を経過し完治していたが、(5)図,(6)図に示したように、塗布中止後しばらく経過すると、口唇痂皮の再発症が見られた。このように、本発明実施例ジェルの塗布による治療効果が、確認できた。
これに対し上述に準じ、被験者である胃瘻造設患者の口腔について、市販口腔ケアジェルの塗布前,塗布後にわたり、経時的変化を臨床的に撮影した。その結果を、図7に示す。
この図7の臨床写真に示したように、市販口腔ケアジェルA,B共に、塗布前と塗布後について、大きな変化は見られなかった。つまり、塗布しても口唇痂皮の治療効果は、確認できなかった。なお、市販口腔ケアジェルについては、0063欄中の記載を参照。
このように、臨床写真による市販口腔ケアジェルとの比較上からも、本発明実施例ジェルの口腔疾患の治療効果が裏付けられた。
臨床写真については、以上のとおり。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明の口腔疾患の治療剤は、口腔への塗布により、唾液分泌が促進され、口腔疾患を効果的に予防,治療することができる。しかも安全性,安定性,使用感,コスト面等にも優れている。そこで本発明は、高齢の胃瘻造設患者のみならず、口腔疾患に係る各種の医療分野において、治療薬として広く利用される可能性を有するものである。このように本発明は、産業上の高い利用可能性を有している。
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図7