(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944354
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】回転子鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
H02K15/02 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-164218(P2013-164218)
(22)【出願日】2013年8月7日
(62)【分割の表示】特願2012-1704(P2012-1704)の分割
【原出願日】2012年1月7日
(65)【公開番号】特開2013-226049(P2013-226049A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】小宮 大輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊雄
【審査官】
河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−036039(JP,A)
【文献】
特開2004−153928(JP,A)
【文献】
特開2003−116252(JP,A)
【文献】
特開2011−036068(JP,A)
【文献】
特開2010−213505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状金属薄板から中央に軸孔を有する回転子鉄心片を複数枚積層して形成する回転子鉄心の製造方法において、前記軸孔の形成はキー部打ち抜き工程と内径打ち抜き工程の2工程にて行われ、更に、前記キー部打ち抜き工程は、間欠制御によって交互に行われる第1のキー部打ち抜き工程と第2のキー部打ち抜き工程により行われ、かつ前記第1のキー部打ち抜き工程で第1のキー部と第1のミスマッチ孔が、前記第2のキー部打ち抜き工程で第2のキー部と第2のミスマッチ孔がそれぞれ同時に形成されることを特徴とする回転子鉄心の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転子鉄心の製造方法において、前記軸孔を形成した前記帯状金属薄板を最終打ち抜き工程に搬送し、前記帯状金属薄板から前記回転子鉄心片の外径抜きを行う際に、前記最終打ち抜き工程における下刃物を1ショット毎に90°回転させ、前記軸孔の向きを一方向に揃えて前記回転子鉄心片の積層を行うことを特徴とする回転子鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに使用する回転子鉄心及びその製造方法に関し、特に、キー部を有する軸孔の打ち抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯状金属薄板から円形板状の鉄心片を打ち抜き積層した際は、固定子鉄心又は回転子鉄心の場合、その板厚偏差における円周方向の磁気特性のバラツキをなくして均一化を計るために、積層する円形板状の各鉄心片を所定角度ずつ回転させて所定の厚さに積層(所謂転積)を行っているが、1枚毎に所定角度ずつ回転させて転積すると、転積に時間がかかり過ぎ、作業効率が大幅に低下していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−44367
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の鉄心片の転積方法は、回転子鉄心においては次のような課題が存在していた。すなわち、回転子鉄心片を転積することなく各回転子鉄心片を積層させた場合には、回転子鉄心における円周方向の磁気特性にバラツキが存在しているため、高精度の回転特性が要求されるモータには不向きであった。
特に、回転子鉄心においてはシャフトを挿入する軸孔を備えているため、軸孔の打ち抜き精度が低い場合や、転積が不十分で直角度の精度が低い場合は、大幅にモータ特性の低下を引き起こすおそれがあった。
しかしながら、回転子鉄心片を打ち抜く毎に毎回転積を行うと、転積が完了するまでの間は他工程の打ち抜きが行えず、生産性が低下してしまうという、相反する問題を抱えていた。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、特に、キー部を有する軸孔の打ち抜き工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転子鉄心の製造方法は、帯状金属薄板から中央に軸孔を有する回転子鉄心片を複数枚積層して形成する回転子鉄心の製造方法において、前記軸孔
の形成はキー部打ち抜き工程と内径打ち抜き工程の2工程にて行われ
、更に、前記キー部打ち抜き工程は、間欠制御によって交互に行われる第1のキー部打ち抜き工程と第2のキー部打ち抜き工程により行われ、かつ前記第1のキー部打ち抜き工程で第1のキー部と第1のミスマッチ孔が、前記第2のキー部打ち抜き工程で第2のキー部と第2のミスマッチ孔がそれぞれ同時に形成される。
【0009】
本発明に係る回転子鉄心の製造方法は、前記軸孔を形成した前記帯状金属薄板を最終打ち抜き工程に搬送し、前記帯状金属薄板から前記回転子鉄心片の外径抜きを行う際に、前記最終打ち抜き工程における下刃物を1ショット毎に90°回転させ、前記軸孔の向きを一方向に揃えて前記回転子鉄心片の積層を行っている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法は、軸孔形成をキー部打ち抜き工
程と内径打ち抜き工程の2工程に分けて行っているため、パンチ刃物の交換が摩耗が進行
しやすいキー部打ち抜き用のパンチのみでよくなる。また、内径
打ち抜き工程ではキー部の打ち抜き線より内側を打ち抜いているので、打ち抜き線の2度切りを防止し、材料のズレや切滓の発生を抑えることができる。
【0011】
本発明に第2の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法は、第1のキー部打ち抜き工程と第2のキー部打ち抜き工程に分けて、互いに向きを異ならせたキー部を形成することで、外径打ち抜き工程における転積角度を小さくして、生産スピードを向上させることができる。また、第1のキー部打ち抜き工程、第2のキー部打ち抜き工程のそれぞれで、第1のミスマッチ孔、第2のミスマッチ孔を形成しているので、軸孔打ち抜きを2工程に分けることなく1工程で完成させることができ、軸孔の真円精度を落とすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法の説明図である。(A):キー部打ち抜き工程、(B):内径打ち抜き工程、(C):外径打ち抜き工程
【
図2】
図2は
図1の内径打ち抜き工程における拡大平面図である。
【
図3】
図3は本発明の第2の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法の説明図である。(A):第1のキー部打ち抜き工程、(B):第2のキー部打ち抜き工程、(C):内径打ち抜き工程、(D):外径打ち抜き工程
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。まず、本発明の第1、第2実施の形態に共通する回転子鉄心について説明する。回転子鉄心は
図1に示すように、厚みが例えば0.15〜0.5mm程度の帯状金属薄板19から、回転子鉄心片23を打ち抜き、所定の角度だけ回転を行い、積層して構成されるものである。ここで、回転子鉄心片23の積層方法には、かしめ、溶接、及び接着のいずれか1を適用することも、また、いずれか2以上を併用することもできる。
【0014】
この回転子鉄心2は、回転子鉄心2をモータとして使用する際にシャフト(図示せず)が挿入される軸孔25を有し、その軸孔25の外周の一部にシャフトのキー溝と嵌合するキー部24が形成されている。
さらに軸孔25を規定する回転子鉄心2のキー部24と隣り合う部分は、回転子鉄心2の径方向外側に向けて窪む凹部13が形成されている。
この凹部13はシャフトが回転子鉄心2に挿入された際にシャフトの周面から離れるように窪んでおり、シャフトからの応力が直接作用しないようになっている。
【0015】
そして、
図2に示すように、凹部13の内周面14とシャフトの周面15(すなわち軸孔の周面)には0.1〜0.5mm程度の段差Tが形成されている。
回転子鉄心2の内径打ち抜き工程に際しては、キー部打ち抜き工程と軸孔打ち抜き工程の2工程に分けて形成しているため、凹部13の内周面14の同一箇所の二度切りを防止する目的で段差Tを形成している。
また、この段差Tを形成することで、凹部13の内周面14とシャフトの周面15の距離を離すことができ、回転子鉄心とシャフトを焼き嵌め嵌合する際の凹部13にかかる応力集中を改善することができる。
【0016】
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
まず、
図1において、図示しないプレス装置内にフープ材からなる帯状金属薄板19がパイロット孔18をガイドとして搬送され、この帯状金属薄板19はプレス装置内の金型(図示せず)の1ショット動作と同期してパイロット孔18のピッチ毎に搬送されている。
【0017】
まず、キー部打ち抜き金型を用いてキー部の形成を行うキー部打ち抜き工程(A)について説明する。
図1に示すように軸孔25の形成予定箇所の中心から点対象に配置されるキー部20を打ち抜く。
この場合、キー部20は凸部21が径方向内側を向いて、軸孔25の形成予定箇所の中心から平面視して90°と270°の位置に2つ形成されている。
【0018】
続いて、内径打ち抜き金型を用いて回転子鉄心片23の軸孔25の形成を行う内径打ち抜き工程(B)について説明する。
図2に示すように、ここでは、内径22(前記キー部打ち抜き工程により形成したキー部20以外の箇所)を打ち抜き、軸孔25の形成を完成させる。このときキー部20を2度切りしてしまうと、軸孔25のズレや切滓を発生させてしまうため、すでに打ち抜き形成されたキー部20の打ち抜き線(すなわち凹部13の内周面14)より内側を重複させて、内径22の打ち抜きを行う。この内径22の打ち抜きはキー部20の打ち抜き線を2度切りしない程度に0.1〜0.5mmの間で内側にズレていれば良く、内径22の打ち抜き後は凹部13の内周面14と軸孔25の周面15には0.1〜0.5mm程度の段差Tが形成される。
【0019】
次の最終工程では、外径打ち抜き金型を用いて回転子鉄心片23の外径26の打ち抜きを行う外径打ち抜き工程(C)について説明する。この外径抜きが行われた後に、外径抜き金型の下刃物(図示せず)を180°回転させると、外径抜きによって得られた1枚の回転子鉄心片23は、キー部の向きが常に一定となって積層されて回転子鉄心2が得られる。
【0020】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る回転子鉄心の製造方法について、
図3を参照しながら説明する。
まず、
図3において、図示しないプレス装置内にフープ材からなる帯状金属薄板1がパイロット孔3をガイドとして搬送され、この帯状金属薄板1はプレス装置内の金型(図示せず)の1ショット動作と同期してパイロット孔3のピッチ毎に搬送されている。
【0021】
まず、第1のキー部打ち抜き金型を用いてキー部の形成を行う第1のキー部打ち抜き工程(A)について説明する。
図3に示すように軸孔11の形成予定箇所の中心から点対象に配置される第1のキー部4と、第1のキー部4の中央角度位置の中間に配置される第1のミスマッチ孔5を打ち抜く。
この場合、第1のキー部4は凸部6が径方向内側を向いて、軸孔11の形成予定箇所の中心から平面視して0°と180°の位置に2つ形成されている。また、第1のミスマッチ孔5は軸孔11の形成予定箇所の中心から平面視して90°と270°の位置に2つ形成されている。
【0022】
次に、第2のキー部打ち抜き金型を用いてキー部の形成を行う第2のキー部打ち抜き工程(B)について説明する。
図3に示すように軸孔11の形成予定箇所の中心から点対象に配置される第2のキー部7と第2のキー部7の中央角度位置の中間に配置される第2のミスマッチ孔8を打ち抜く。
この場合、第2のキー部7は凸部9が径方向内側を向いて、軸孔11の形成予定箇所の中心から平面視して90°と270°の位置に2つ形成されている。また、第2のミスマッチ孔8は軸孔11の形成予定箇所の中心から平面視して0°と180°の位置に2つ形成されている。
【0023】
前述のプレス装置の打ち抜き金型によって、各キー部の凸部の向きは各々90°差となって形成されている。なお、第1のキー部打ち抜き工程(A)と第2のキー部打ち抜き工程(B)は同時に行わず、第1のキー部4の打ち抜きが行われている間は第2のキー部7の打ち抜きは中断した状態で、第2のキー部7の打ち抜きが行われている間は第1のキー部の4打ち抜きは中断した状態となり、つまり工程(A)と工程(B)は間欠制御により、交互に動作するものであり、このように工程(A)と工程(B)を経て、帯状金属薄板1は次工程に送られる。
【0024】
続いて、内径打ち抜き金型を用いて回転子鉄心片10の軸孔11形成を行う内径打ち抜き工程(C)について説明する。
図2に示すように、ここでは、内径16(前記第1、第2のキー部打ち抜き工程により形成したキー部4、7以外の箇所)を打ち抜き、軸孔11の形成を完成させる。このときキー部4、7を2度切りしてしまうと、軸孔11のズレや切滓を発生させてしまうため、すでに打ち抜き形成されたキー部4、7の打ち抜き線(すなわち凹部13の内周面14)より内側を重複させて、内径16の打ち抜きを行う。この内径16の打ち抜きはキー部4、7の打ち抜き線を2度切りしない程度に0.1〜0.5mmの間で内側にズレていれば良く、内径16の打ち抜き後は凹部13の内周面14と軸孔11の周面15には0.1〜0.5mm程度の段差Tが形成される。
【0025】
また、内径打ち抜き工程では第1、第2のキー部4、7のそれぞれに対応するために、軸孔11の中心から平面視して0°、90°、180°、270°の位置が内側に窪んだ形状で内径16の打ち抜きを行っている。
このため、前記した第1、第2のキー部4、7の打ち抜き工程では、キー部4、7の形成と同時に各々90°異なってミスマッチ孔5、8を形成することで、内径打ち抜き工程(C)で新たなキー部が軸孔11の中心から平面視して0°、90°、180°、270°の位置に4つ形成されるのを防止している。
【0026】
次の最終工程では、外径打ち抜き金型を用いて回転子鉄心片10の外径17の打ち抜きを行う外径打ち抜き工程(D)について説明する。この外径抜きが行われた後に、外径抜き金型の下刃物(図示せず)を90°回転させると、外径抜きによって得られた1枚の回転子鉄心片10は、各キー部の向きが常に一定となって搬出され、積層されて回転子鉄心2が得られる。
【0027】
したがって、前述の方法では、1枚の帯状金属薄板に各々キー部の向きが異なる状態で非対称の軸孔11を形成し、外径抜きを行った後に、90°回転させて回転子鉄心片10を積層しているため、周知の180°転積を行って回転子鉄心を形成した構成と全く同じとなっている。
【符号の説明】
【0028】
1:帯状金属薄板、2:回転子鉄心、3:パイロット孔、4:第1のキー部、5:第1のミスマッチ孔、6:凸部、7:第2のキー部、8:第2のミスマッチ孔、9:凸部、10:回転子鉄心片、11:軸孔、12:キー部、13:凹部、14:内周面、15:シャフト周面、16:内径、17:外径、18:パイロット孔、19:帯状金属薄板、20キー部、21:凸部、22:内径、23:回転子鉄心片、24:キー部、25:軸孔、26:外径