【文献】
斎藤 啓介, 黒澤 利行, 植木 定雄, 舟窪 浩,「多次元検出器と高分解能X線回折装置を用いた薄膜材料解析」,真空,社団法人日本真空協会,2006年 2月20日,Vol. 49, No. 2,p. 90-96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線源で発生させたX線を、試料台にセットした試料に照射し、この試料で回折したX線を検出器で検出するとともに、前記検出器として、互いに直角をなす第1の方向と第2の方向に2次元状に配列された複数の検出素子により形成された検出面を有し、前記検出面を形成する前記複数の検出素子ごとに、当該検出素子で受光したX線の強度に応じた検出信号を出力する検出器を用いるX線回折測定方法であって、
前記検出器の前記検出面に仮想マスクを設定するとともに、前記仮想マスクの開口条件として、少なくとも前記仮想マスクの開口寸法を前記第1の方向と前記第2の方向で独立に設定する仮想マスク設定工程と、
前記X線源で発生させたX線を、前記試料台にセットした試料に照射し、この試料で回折したX線を前記検出器で検出するX線検出工程と、
前記X線検出工程で前記検出器から出力された前記検出信号を、前記仮想マスク設定工程で設定された前記仮想マスクの開口条件に応じて処理する信号処理工程と、
を備えることを特徴とするX線回折測定方法。
【背景技術】
【0002】
試料の結晶性や結晶構造などを分析する装置の一つとしてX線回折装置が知られている。X線回折装置は、X線源で発生させたX線を試料に照射し、これによって発生する回折X線を検出器で検出してその強度を測定するものである。
【0003】
図27は従来のX線回折装置の測定光学系の構成例を示す模式図である。
図27においては、X線源1で発生させたX線の放射方向に、放物面多層膜ミラー2と、選択スリット3と、入射ソーラスリット4と、長手制限スリット5と、入射スリット6と、が配置されている。これらの構成要素は、試料台7にセットされる試料SにX線を入射する入射光学系を構成するものである。放物面多層膜ミラー2は、必要に応じて入射光学系に設置される。
【0004】
一方、試料台7の試料SにX線を入射したときに発生する回折X線の出射方向には、前段受光スリット8と、Kβフィルター9と、平板スリットアナライザ10aと、受光ソーラスリット10bと、後段受光スリット11と、アッテネーター12と、検出器13と、が配置されている。これらの構成要素は、試料台7上の試料Sから出射される回折X線を検出器13に受光させる受光光学系を構成するものである。平板スリットアナライザ10aは、必要に応じて受光光学系に設置される。
【0005】
上述した入射光学系、試料台7および受光光学系の相対的な位置関係は、図示しないゴニオメーターによって変更可能となっている。ゴニオメーターは、試料台7にセットされる試料Sの表面に入射するX線の入射位置を回転中心として、入射光学系および受光光学系をそれぞれ所定の角度ずつ回転させることにより、それらの相対位置関係を変更するものである。
【0006】
ゴニオメーターは、共通の回転軸を中心に入射光学系と受光光学系を回転させる。その場合、入射光学系が一方向に回転すると、受光光学系はそれと反対方向に同じ角度で回転する。このとき、一般に入射光学系と受光光学系の回転方向の相対位置は、試料表面に入射するX線の入射角度と試料表面で回折したX線の回折角度との関係がθと2θの関係を満たすように制御される。
【0007】
上記構成からなる測定光学系を備えたX線回折装置においては、ゴニオメーターの駆動によって入射光学系と受光光学系を同期回転させながら、あらかじめ決められた走査角度範囲で、次のような測定が行われる。すなわち、X線源1から試料台7に向けて出射されたX線が、放物面多層膜ミラー2および選択スリット3を通して入射ソーラスリット4に取り込まれる。入射ソーラスリット4を通過したX線は、長手制限スリット5および入射スリット6を通して試料台7上の試料Sの表面に照射される。
【0008】
一方、X線の照射によって試料Sの表面から出射した回折X線は、前段受光スリット8およびKβフィルター9を通して、平板スリットアナライザ10aおよび受光ソーラスリット10bに取り込まれる。受光ソーラスリット10bを通過した回折X線は、後段受光スリット11およびアッテネーター12を通して検出器13に到達し、そこで入射X線の強度が検出される。
【0009】
上記従来のX線回折装置においては、検出器13に入射するX線の線量を後段受光スリット11で制限する際に、どの程度のスリット幅で線量を制限するかによって、測定の分解能(以下、「測定分解能」という。)が変わる。すなわち、
図28(A)に示すように後段受光スリット11のスリット幅を相対的に狭くした場合は、ゴニオメーターの中心から見たX線の取り込み角度が狭くなるため、検出器13でX線を検出する際の測定分解能が相対的に高くなる。反対に、
図28(B)に示すように後段受光スリット11のスリット幅を相対的に広くした場合は、ゴニオメーターの中心から見たX線の取り込み角度が広くなるため、検出器13でX線を検出する際の測定分解能が相対的に低くなる。
【0010】
したがって、測定分解能を変更したい場合は、後段受光スリット11のスリット幅を変える必要がある。後段受光スリット11のスリット幅を変える手法には主に2つある。一つは、後段受光スリット11を手差し方式で着脱可能な構成とし、手差しによるスリット交換によってスリット幅を変える方法である。もう一つは、後段受光スリット11を開閉動作させる開閉機構を備えた構成とし、この開閉機構によって後段受光スリット11のスリット幅を変える方法である(たとえば、特許文献1を参照)。
【0011】
従来においては、X線回折装置を使用するユーザーが後段受光スリット11のスリット幅をスリット交換や開閉機構によって設定し、この設定条件のもとでX線回折装置を動作させることにより、所望の測定分解能でX線回折の測定を行っている。また、従来においては、X線回折装置が備える検出器の構成として、細長いセンサを互いに隣接させて並べたストリップ型のセンサ構成を採用し、隣接するいずれのセンサを使用して測定するかをユーザーが選択できるようにしたX線回折装置も知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
X線回折装置に用いられる検出器は、その検出面に位置の分解能(以下、「位置分解能」という。)を持っているかどうかによって、たとえば、0次元の検出器と1次元の検出器とに分かれる。0次元の検出器は、検出面に位置分解能を持たない検出器であり、1次元の検出器は、検出面に一方向の位置分解能を持つ検出器である。これらの検出器を用いたX線回折装置では、上述のように後段受光スリット11のスリット幅を変えることにより、測定分解能を変更可能となっている。
【0014】
上記手差し方式でスリット交換するタイプでは、測定分解能を変更するためにスリットを交換する必要がある。しかし、スリットの交換は、光学系や試料位置を調整するとき、あるいは実際に測定するときに、所望の測定条件に合わせ込むために頻繁に行われる。このため、スリット交換による測定分解能の変更は手間がかかるという問題があった。
【0015】
一方、スリットの開閉機構を備えるタイプでは、スリットの開閉動作によってスリット幅を変えることができるため、上述したスリット交換にともなう手間を省くことができる。ただし、スリットの開閉機構は、スリット交換を手差し方式で行うタイプに比べて高価であるため、X線回折装置のコストアップにつながるという問題がある。また、より高い測定分解能でX線を検出するために、試料台7上の試料Sから検出器13に向かうX線の光路中にモノクロメーター結晶やアナライザー結晶を配置する場合は、さらなるコストアップにつながってしまう。その理由は、以下のとおりである。
【0016】
すなわち、
図29(A)に示す測定光学系では、後段受光スリット11およびアッテネーター12を通して測定器13にX線が入射している。この場合、後段受光スリット11のスリット幅を変えずに測定分解能を上げるには、
図29(B)に示すように、後段受光スリット11よりも前段の部分に2つのモノクロメーター結晶14a,14bを設置し、各々のモノクロメーター結晶14a,14bでX線を反射させることにより、不要な成分を取り除くことが有効である。ただし、その場合は、モノクロメーター結晶14a,14bを設置する前と後で、検出器13の検出面に入射するX線の位置がLだけずれてしまう。このため、スリットの開閉機構を備えたタイプでは、X線の入射位置のずれ量Lに応じて後段受光スリット11のスリット位置を機械的に移動させることにより、後段受光スリット11の開閉中心位置をずらすための移動機構が別途必要になる。したがって、さらなるコストアップにつながってしまう。
【0017】
本発明の主な目的は、後段受光スリットを使用することなく測定分解能を変更可能であるとともに、後段受光スリットを使用する場合には実現不可能な測定分解能の変更にも柔軟に対応可能なX線回折装置およびX線回折方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、試料からのX線を検出するための検出器として2次元の検出器を用いる場合に、この2次元の検出器を用いる主目的である、広い範囲でX線の強度分布等を得るという目的にとらわれることなく、種々の可能性について検討した。その結果、これまでは後段受光スリットの差し替えや開閉機構によって行っていた「測定分解能を変更する」という物理的な操作を、後段受光スリットなしで実現することを思い付いた。さらに、その思い付きをきっかけとして、これまでにないX線回折の新たな測定手法を実現可能な斬新な着想を得て、本願発明を想到するに至った。
【0019】
本発明の第1の態様は、
X線源で発生させたX線を、試料台にセットした試料に照射し、この試料で回折したX線を検出器で検出するX線回折装置であって、
前記検出器は、互いに直角をなす第1の方向と第2の方向に2次元状に配列された複数の検出素子により形成された検出面を有し、前記検出面を形成する前記複数の検出素子ごとに、当該検出素子で受光したX線の強度に応じた検出信号を出力するものであり、
前記検出器の前記検出面に仮想マスクを設定するとともに、前記仮想マスクの開口条件として、少なくとも前記仮想マスクの開口寸法を前記第1の方向と前記第2の方向で独立に設定可能な仮想マスク設定部と、
前記検出器から出力された前記検出信号を、前記仮想マスク設定部で設定された前記仮想マスクの開口条件に応じて処理する信号処理部と、
を備えることを特徴とするX線回折装置である。
【0020】
本発明の第2の態様は、
前記仮想マスク設定部は、前記仮想マスクの開口条件として、前記仮想マスクの開口寸法のほかに、前記仮想マスクの開口中心位置を設定可能である
ことを特徴とする上記第1の態様に記載のX線回折装置である。
【0021】
本発明の第3の態様は、
前記仮想マスク設定部は、前記仮想マスクの開口条件として、前記仮想マスクの開口寸法のほかに、前記仮想マスクの開口個数を設定可能である
ことを特徴とする上記第1または第2の態様に記載のX線回折装置である。
【0022】
本発明の第4の態様は、
前記仮想マスク設定部は、前記仮想マスクの開口条件として、前記仮想マスクの開口寸
法のほかに、前記仮想マスクの開口形状を設定可能である
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれか一つに記載のX線回折装置である。
【0023】
本発明の第5の態様は、
前記仮想マスク設定部は、前記仮想マスクの開口条件として、前記仮想マスクの開口寸法のほかに、前記仮想マスクの開口の傾き角度を設定可能である
ことを特徴とする上記第1〜第4の態様のいずれか一つに記載のX線回折装置である。
【0024】
本発明の第6の態様は、
前記検出器を用いてX線回折の測定を行う際に適用する次元モードを設定する次元モード設定部を備え、
前記信号処理部は、前記検出器から出力される前記検出信号を、前記次元モード設定部で設定された前記次元モードに応じて処理する
ことを特徴とする上記第1〜第5の態様のいずれか一つに記載のX線回折装置である。
【0025】
本発明の第7の態様は、
X線源で発生させたX線を、試料台にセットした試料に照射し、この試料で回折したX線を検出器で検出するとともに、前記検出器として、互いに直角をなす第1の方向と第2の方向に2次元状に配列された複数の検出素子により形成された検出面を有し、前記検出面を形成する前記複数の検出素子ごとに、当該検出素子で受光したX線の強度に応じた検出信号を出力する検出器を用いるX線回折測定方法であって、
前記検出器の前記検出面に仮想マスクを設定するとともに、前記仮想マスクの開口条件として、少なくとも前記仮想マスクの開口寸法を前記第1の方向と前記第2の方向で独立に設定する仮想マスク設定工程と、
前記X線源で発生させたX線を、前記試料台にセットした試料に照射し、この試料で回折したX線を前記検出器で検出するX線検出工程と、
前記X線検出工程で前記検出器から出力された前記検出信号を、前記仮想マスク設定工程で設定された前記仮想マスクの開口条件に応じて処理する信号処理工程と、
を備えることを特徴とするX線回折測定方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、後段受光スリットを使用することなく測定分解能を変更可能であるとともに、後段受光スリットを使用する場合には実現不可能な測定分解能の変更にも柔軟に対応することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.X線回折装置の測定光学系
2.X線回折装置の第1構成例
3.X線回折測定方法
4.仮想マスクの設定画面の第1例
5.仮想マスクの開口条件と信号処理の関係
6.仮想マスクの設定画面の第2例
7.X線回折装置の第2構成例
8.実施の形態の効果
9.変形例等
【0029】
<1.X線回折装置の測定光学系>
図1は本発明の実施の形態に係るX線回折装置の測定光学系の構成例を示す模式図である。
図1においては、X線源1で発生させたX線の放射方向に、放物面多層膜ミラー2と、選択スリット3と、入射ソーラスリット4と、長手制限スリット5と、入射スリット6と、が配置されている。これらの構成要素は、試料台7にセットされる試料SにX線を入射
する入射光学系を構成するものである。放物面多層膜ミラー2は、必要に応じて入射光学系に設置される。
【0030】
X線源1は、試料Sに入射するためのX線を発生するものである。放物面多層膜ミラー2は、X線源1から放射されたX線を平行化かつ単色化するものである。選択スリット3は、X線回折の測定に不要な成分の通過を遮断するものである。選択スリット3は、放物面多層膜ミラー2の出射側に配置されている。入射ソーラスリット4は、選択スリット3を通して入射するX線の垂直発散を抑えるものである。長手制限スリット5は、入射ソーラスリット4を通過したX線の断面の長手方向においてX線が通過する幅を制限するものである。入射スリット6は、X線の断面の短手方向においてX線の発散角を制限するものである。試料台7は、X線回折の測定対象となる試料Sを保持するものである。
【0031】
一方、試料台7にセットされた試料Sに入射し、そこで回折したX線の出射方向には、前段受光スリット8と、Kβフィルター9と、平板スリットアナライザ10aと、受光ソーラスリット10bと、検出器15と、が配置されている。これらの構成要素は、試料台7上の試料Sから出射される回折X線を検出器15に受光させる受光光学系を構成するものである。平板スリットアナライザ10aは、必要に応じて受光光学系に設置される。なお、受光光学系においては、測定分解能を変更するための後段受光スリットと、X線を減衰させるためのアッテネーターとを設けていない。その理由は、後段で説明する。
【0032】
前段受光スリット8は、試料Sからの回折X線の散乱線を遮断するものである。Kβフィルター9は、Kβ線を除去するものである。平板スリットアナライザ10aは、平行に近いX線を通過させるものである。受光ソーラスリット10bは、前段受光スリット8およびKβフィルター9を通して入射するX線の垂直発散を抑えるものである。垂直発散とは、X線源1で発生したXが、X線源1を中心に円錐状に発散しつつ進行するときに、検出器15の走査方向(2θ方向)に対して直交する方向にX線が発散することをいう。
【0033】
検出器15は、
図2に示すように、2次元状に配列された複数の検出素子16によって一つの矩形の検出面17を形成する2次元の検出器である。各々の検出素子16は、互いに直角をなす第1の方向(以下、「X方向」とする。)と第2の方向(以下、「Y方向」とする。)に格子状に並んでいる。検出面17の大きさは、たとえば、X方向の寸法(全幅)が約85mm、Y方向の寸法(全高)が約35mmの矩形になっており、各々の検出素子16の大きさは、たとえば、100μm角になっている。以降の説明では、便宜上、X方向を左右方向と表現し、Y方向を上下方向と表現する。
【0034】
各々の検出素子16は、それぞれに入射したX線の強度を検出するものである。具体的には、ある一つの検出素子16にX線が入射すると、この検出素子16は、入射したX線の強度に比例した検出信号(電気信号等)を生成する。このため、検出器15でX線を検出する場合は、検出面17を形成する検出素子16の個数分の検出信号が得られる。
【0035】
また、検出器15は、2次元の位置分解能を有している。位置分解能とは、検出面17に入射したX線の入射位置を識別する機能をいう。また、1次元の位置分解能とは、1次元的に検出素子を配列することによって実現される位置分解能であり、2次元の位置分解能とは、2次元的に検出素子を配列することによって実現される位置分解能である。
【0036】
検出器15の検出面17においては、各々の検出素子16ごとに、検出素子16の位置を特定(識別)可能な位置情報が割り当てられている。具体的に記述すると、たとえば、X方向には検出素子16の列ごとに固有の列番号が割り当てられ、Y方向には検出素子16の行ごとに固有の行番号が割り当てられている。そして、これらの行番号と列番号を組み合わせることにより、各々の検出素子16の位置を一義的に特定可能となっている。
【0037】
検出器15は、上述した位置情報と関連付けて、各々の検出素子16ごとに検出信号を出力する。このため、検出器15から出力される検出信号に関しては、この検出信号が検出面17内のどの位置に存在する検出素子16が生成したものであるかを位置情報によって判別可能となっている。したがって、複数の検出素子16から出力される電気信号は、検出面17に入射するX線の2次元の強度分布を示すものとなる。
【0038】
上述した入射光学系、試料台7および受光光学系の相対的な位置関係は、図示しないゴニオメーターによって変更可能となっている。ゴニオメーターは、図示しない回転軸を中心とした回転方向において、入射光学系および受光光学系の相対的な位置関係を変更するものである。具体的には、試料台7の上の試料Sの表面に入射するX線の入射角度が変化したときに、上記回転軸を中心とした円周(以下、「ゴニオサークル」ともいう。)上で検出器15の位置が変化するように、入射光学系、試料台7および受光光学系の相対的な位置を変更する。
【0039】
ゴニオメーターには、主に2つのタイプがある。一つは、入射光学系に対して試料台7を回転させ、これに同期して受光光学系を回転させるタイプである。もう一つは、試料台7を水平状態に固定しまま入射光学系と受光光学系を同期して回転させるタイプである。本実施の形態においては、一例として、後者のタイプのゴニオメーターを採用することとする。
【0040】
そうした場合、一般にゴニオメーターは、X線回折の測定に際して、試料台7に水平に置かれた板状の試料Sを固定したまま、上記回転軸を中心に入射光学系と受光光学系を回転させる。その場合、入射光学系が一方向に回転すると、受光光学系はそれと反対方向に同じ角度で回転する。このとき、入射光学系と受光光学系の回転方向の相対位置は、試料Sの表面に入射するX線の入射角度と試料Sの表面で回折したX線の回折角度との関係が、
図1に示すθと2θの関係を満たすように制御される。
【0041】
<2.X線回折装置の第1構成例>
図3は本発明の実施の形態に係るX線回折装置の第1構成例を示す機能ブロック図である。
図3においては、検出器15から出力される検出信号が信号処理部21に取り込まれるようになっている。
【0042】
信号処理部21は、検出器15によって得られた検出信号に種々の信号処理を施すものである。信号処理部21は、たとえば、デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサであるデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)やマイクロコンピュータ、あるいはハードウェア構成の信号処理回路等によって構成される。信号処理部21は、内部メモリおよび外部メモリの少なくとも一方(以下、「メモリ22」と総称する。)を有し、必要に応じて、このメモリ22にデータを記憶し得るようになっている。信号処理のためのプログラムとしては、X線回折による測定の目的に応じて種々のプログラム、たとえば、解析プログラムや演算プログラム、動作制御用のプログラム、表示や印刷のための描画プログラムなどがある。これらのプログラムはあらかじめ信号処理部21に組み込まれている。
【0043】
信号処理部21で解析等の処理が施された結果は、X線回折による試料の測定結果としてモニタ23に表示される。モニタ23は、上記測定結果を表示したり、測定条件設定部25を用いて測定条件を設定するための設定画面を表示したり、他の画面を表示したり場合に用いられるものである。モニタ23は、たとえば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどを用いて構成される。
【0044】
入力操作部24は、X線回折装置を使用するユーザーが、このX線回折装置を使用する
ときに必要な情報を入力するために操作される部分である。入力操作部24は、たとえば、マウス、キーボードなどの入力機器や、モニタ23に付属するタッチパネルなどを用いて構成される。
【0045】
測定条件設定部25は、X線回折装置のユーザーがX線回折による測定の条件を設定するためのものである。測定条件設定部25は、ユーザーがX線回折による測定の条件を設定する場合に、そのための設定画面をモニタ23に表示させるとともに、入力操作部24を介してユーザーが指定した測定条件を受け付けるものである。測定条件設定部25で設定可能な測定条件には、たとえば、ゴニオメーターの駆動によって検出器15を回転移動させるときの走査条件(走査開始角度、走査終了角度、走査ステップ幅)など、種々のものがあり、その設定機能部の一つとして仮想マスク設定部26が設けられている。
【0046】
仮想マスク設定部26は、検出器15の検出面17に仮想マスク31を設定するものである。本明細書において記述する「仮想マスク」とは、物理的には存在しないマスクであって、検出器15の検出面17に仮想的に設定されるマスクである。仮想マスク31は、開口部32と遮蔽部33とを有している。開口部32は、検出面17に仮想マスク31を設定した場合、検出面17の各検出素子16を覆わない部分であり、遮蔽部33は、検出面17の各検出素子16を覆う部分である。ただし、仮想マスク31は物理的なマスクではないため、検出面17に仮想マスク31を設定した場合でも、仮想マスク31の設定によって検出面17に対するX線の入射が制限されることはない。
【0047】
仮想マスク設定部26においては、仮想マスクの開口条件として、少なくとも仮想マスク31の開口寸法をX方向とY方向で独立に設定可能になっている。仮想マスク31の開口寸法は、X方向では寸法Lwで規定され、Y方向では寸法Lhで規定される。仮想マスク設定部26によって設定された仮想マスクの開口条件は、仮想マスク設定部26から信号処理部21へと通知される。そして、実際のX線回折の測定に際して、検出器15の検出面17に仮想マスク設定部26により仮想マスクを設定した場合は、検出器15から出力される検出信号が仮想マスクの開口条件にしたがって信号処理部21により信号処理される。仮想マスクの開口条件と信号処理の関係については、後段で説明する。
【0048】
<3.X線回折測定方法>
次に、本発明の実施の形態に係るX線回折装置を用いて実現可能なX線回折測定方法について説明する。X線回折測定方法には、仮想マスク設定部26を用いた仮想マスク設定工程と、測定光学系によるX線検出工程と、信号処理部21による信号処理工程とが含まれる。
【0049】
まず、上記構成からなるX線回折装置の基本的な動作について説明する。
X線回折装置を用いてX線回折測定を行う場合は、この測定に先立って、上述した光学系の調整、試料台7にセットした試料Sの位置調整などを行う。次に、測定条件設定部25を用いてユーザーがX線回折の測定条件(仮想マスクの開口条件を含む)を指定した後、測定の開始を指示する操作を行う。これにより、X線回折装置は、ユーザーが指定した測定条件にしたがって試料のX線回折測定を行う。具体的にはX線回折装置が以下のように動作する。
【0050】
まず、ゴニオメーターの駆動により、あらかじめ決められた走査開始位置から入射光学系および受光光学系がそれぞれ共通の回転軸(不図示)を中心に回転を開始する。その後、入射光学系および受光光学系があらかじめ決められた走査終了位置まで回転した時点で、ゴニオメーターが停止する。この回転中に、入射光学系においては、X線源1から放出されたX線が、放物面多層膜ミラー2、選択スリット3、入射ソーラスリット4および長手制限スリット5を通して、試料台7上の試料Sの表面に入射する。
【0051】
一方、受光光学系においては、試料Sの表面で回折したX線が、前段受光スリット8、Kβフィルター9、平行スリットアナライザ10aおよび受光ソーラスリット10bを通して、検出器15の検出面17に入射する。このとき、検出器15は、検出面17をゴニオサークル上に配置しつつ回転方向(図中の2θ方向)に移動する。検出器15が回転移動する方向は、検出面17のY方向に沿う方向になる。また、検出器15の回転移動中は、検出面17の各検出素子16からX線の強度に応じた検出信号が出力される。
【0052】
検出器15の各検出素子16が出力する検出信号は、一定の周期で立ち上がる読み出しパルスP1,P2,P3,…が立ち上がるたびに、各々の立ち上がり期間に信号処理部21に読み出される。また、信号処理部21には、ゴニオメーターの駆動によって回転移動する検出器15の走査角度の情報が取り込まれる。そして、信号処理部21においては、各々の検出素子16から読み出した検出信号と検出器15の走査角度の情報とが、互いに関連付けてメモリ22に記憶される。このため、試料SのX線回折の測定結果としては、たとえば、縦軸にX線強度、横軸に回折角度をとったグラフがモニタ23に表示される。
【0053】
次に、仮想マスク設定部26を用いて設定される仮想マスクの開口条件とこれに基づく信号処理部21の信号処理の具体例について説明する。
【0054】
<4.仮想マスクの設定画面の第1例>
図4は仮想マスク設定部によってモニタに表示される仮想マスクの設定画面の第1例を示す図である。
図4においては、「仮想マスクの設定画面」の下方に、仮想マスク31のイメージ画像を表示しているが、このイメージ画像については必要に応じて表示すればよい。この点は、以降の説明でも同様である。図示した仮想マスクの設定画面においては、仮想マスクの開口条件の一つとなる開口寸法を、仮想マスクの開口幅Lwと、仮想マスクの開口高さLhとによって指定可能となっている。仮想マスクの設定画面においては、開口幅Lwおよび開口高さLhを、それぞれmm単位で指定可能となっている。
【0055】
仮想マスク設定部26は、仮想マスクの設定画面でユーザーがmm単位で指定した開口寸法が、検出素子16の個数で何個分に相当するかを換算する機能、またはそのための換算テーブルを有している。そして、ユーザーが仮想マスクの開口寸法をmm単位で指定した場合は、この指定寸法を検出素子16の個数に換算することにより、その個数分だけ仮想マスクを開口するように設定する。これにより、ユーザーは、従来の後段受光スリットのスリット幅を指定する操作と同様の感覚で、仮想マスクの開口寸法を指定することが可能となる。また、実際の操作においては、ユーザーが入力操作部24を用いて仮想マスクの開口幅Lwと開口高さLhを指定した後、図中の「登録」ボタンを押下(マウスでクリック等)する。そうすると、ユーザーが指定した開口条件にしたがって検出器15の検出面17に仮想マスク31が設定される。
【0056】
すなわち、
図5に示すように、検出面17においては、検出面17の中心で直交する水平基準線35および垂直基準線36の位置を基準に、ユーザーが指定した開口幅Lwおよび開口高さLhをもって仮想マスク31が設定される。このとき、ユーザー指定の開口幅Lwは、X方向において垂直基準線36を中心に左右均等な寸法で規定される。また、ユーザー指定の開口高さLhは、Y方向において水平基準線35を中心に上下均等な寸法で規定される。
【0057】
<5.仮想マスクの開口条件と信号処理の関係>
続いて、仮想マスクの開口条件と信号処理の関係について説明する。
図6は仮想マスクの開口条件の第1設定例を示す模式図である。
この第1設定例においては、仮想マスク31の開口部32を最大の開口寸法(全開状態
)となるように設定している。具体的には、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを検出面17の全幅と同じ寸法に設定し、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高と同じ寸法に設定している。このような開口条件で検出面17に仮想マスク31を設定した場合は、検出面17を形成するすべての検出素子16が仮想マスク31の開口部32内に配置される。そうした場合、信号処理部21は、検出面17を形成する各々の検出素子16から出力される検出信号をすべて有効な信号として認識し、所定の信号処理を行う。
【0058】
図7は仮想マスクの開口条件の第2設定例を示す模式図である。
この第2設定例においては、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを検出面17の全幅よりも短い寸法に設定するとともに、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高よりも短い寸法に設定している。具体的には、仮想マスク31の開口寸法を全体的に縮小し、これによって検出面17の中央寄りの部分だけが仮想マスク31の開口部32内に配置されるように、仮想マスクの開口条件を設定している。この設定条件のもとでは、仮想マスク31の開口部32よりも外側に位置する検出素子16が、仮想マスク31の遮蔽部33によって覆われる。
【0059】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合、信号処理部21は、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号を有効な信号とし、それ以外の検出素子16から出力される検出信号を無効な信号として認識する。このため、信号処理部21においては、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号だけを対象に信号処理する。なお、信号処理部21において、仮想マスクの開口条件に応じて信号処理の対象とする検出信号を取捨選択する手段としては、たとえば、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16に関する位置情報が関連付けられた検出信号を通過させ、それ以外の検出信号の通過を遮断するフィルター回路などを用いて行えばよい。
【0060】
図8は仮想マスクの開口条件の第3設定例を示す模式図である。
この第3設定例においては、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを検出面17の全幅と同じ寸法に設定するとともに、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高よりも小さい寸法に設定している。具体的には、仮想マスク31の開口形状が全体的に横長のスリット形状となるように、検出面17のY方向では中央部分だけを開口し、X方向では検出面17の全幅にわたって開口するように、仮想マスクの開口条件を設定している。この設定条件のもとでは、仮想マスク31の開口部32よりも上側および下側に位置する検出素子16が、仮想マスク31の遮蔽部33によって覆われる。
【0061】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合、信号処理部21は、上記同様に仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号を有効な信号とし、それ以外の検出素子16から出力される検出信号を無効な信号として認識する。このため、信号処理部21においては、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号だけを対象に信号処理する。したがって、上記
図6に示す第1設定例の場合と比べて、開口部32のY方向の開口寸法が縮小するため、その分だけY方向の測定分解能を上げることができる。また、第3設定例の変形として、
図9に示すように、仮想マスク31の開口部32の開口高さLhを変化(図例では増加)させることにより、Y方向の測定分解能を自在に変更(調整)することができる。
【0062】
図10は仮想マスクの開口条件の第4設定例を示す模式図である。
この第4設定例においては、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを検出面17の全幅よりも小さい寸法に設定するとともに、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高と同じ寸法に設定している。具体的には、仮想マスク31の開口形状が全体的に縦長のスリット形状となるように、検出面17のX方向では中央部分だけを開口し、Y方向では検出面17の全高にわたって開口するように、仮想マスクの開口条件を設定している。こ
の設定条件のもとでは、仮想マスク31の開口部32よりも左側および右側に位置する検出素子16が、仮想マスク31の遮蔽部33によって覆われる。
【0063】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合、信号処理部21は、上記同様に仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号を有効な信号とし、それ以外の検出素子16から出力される検出信号を無効な信号として認識する。このため、信号処理部21においては、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号だけを対象に信号処理する。したがって、上記
図6に示す第1設定例の場合と比べて、開口部32のX方向の開口寸法が縮小するため、その分だけX方向の測定分解能を上げることができる。また、第4設定例の変形として、
図11に示すように、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを変化(図例では増加)させることにより、X方向の測定分解能を自在に変更(調整)することができる。
【0064】
図12は仮想マスクの開口条件の第5設定例を示す模式図である。
この第5設定例においては、上記第2設定例と同様に、仮想マスク31の開口部32の開口幅Lwを検出面17の全幅よりも小さい寸法に設定するとともに、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高よりも小さい寸法に設定している。
【0065】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合、信号処理部21は、上記同様に仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号を有効な信号とし、それ以外の検出素子16から出力される検出信号を無効な信号として認識する。このため、信号処理部21においては、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16から出力される検出信号だけを対象に信号処理する。
【0066】
<6.仮想マスクの設定画面の第2例>
図13は仮想マスク設定部によってモニタに表示される仮想マスクの設定画面の第2例を示す図である。図示した仮想マスクの設定画面においては、仮想マスク設定部26で設定可能な仮想マスクの開口条件として、上述した仮想マスクの開口寸法(開口幅Lw、開口高さLh)のほかに、仮想マスクの開口中心位置をシフト量SHx、SHyの指定により設定可能となっている。仮想マスクの開口中心位置とは、仮想マスク31の開口部32の中心位置32aを意味する。仮想マスクの開口中心位置の設定は、検出面17の中心で交差する水平基準線35と垂直基準線36の交点37の位置を基準に、X方向とY方向で独立に指定可能となっている。また、仮想マスクの設定画面においては、仮想マスクの開口幅Lwおよび開口高さLhと同様に、X方向のシフト量SHxとY方向のシフト量SHyをそれぞれmm単位で指定可能となっている。
【0067】
X方向のシフト量SHxは、上記交点37の位置を基準に、仮想マスク31の開口部32の中心位置32aを、左右いずれの方向に、どの程度ずらすかを数値で指定するものである。すなわち、検出面17のX方向においては、上記交点37からのシフト量SHxで開口部32の中心位置32aが規定される。このため、シフト量SHxの数値がゼロで指定されたときは、X方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置に設定される。また、シフト量SHxの数値が正の値で指定されたときは、X方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置よりも右側に、指定のシフト量SHxだけずれた位置に設定される。また、シフト量SHxの数値が負の値で指定されたときは、X方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置よりも左側に、指定のシフト量SHxだけずれた位置に設定される。
【0068】
Y方向のシフト量SHyは、上記交点37の位置を基準に、仮想マスク31の開口部32の中心位置32aを、上下いずれの方向に、どの程度ずらすかを数値で指定するものである。すなわち、検出面17のY方向においては、上記交点37からのシフト量SHyで
開口部32の中心位置32aが規定される。このため、シフト量SHyの数値がゼロで指定されたときは、Y方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置に設定される。また、シフト量SHyの数値が正の値で指定されたときは、Y方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置よりも上側に、指定のシフト量SHyだけずれた位置に設定される。また、シフト量SHyの数値が負の値で指定されたときは、Y方向の開口部32の中心位置32aが、交点37の位置よりも下側に、指定のシフト量SHyだけずれた位置に設定される。
【0069】
続いて、仮想マスクの開口条件と信号処理の関係について説明する。
図14は仮想マスクの開口条件の第6設定例を示す模式図である。
この第6設定例においては、仮想マスク31の開口部32の開口寸法に関して、上記
図8に示す第3設定例と同様に、開口幅Lwを検出面17の全幅と同じ寸法に設定するとともに、開口部32の開口高さLhを検出面17の全高よりも小さい寸法に設定している。このため、仮想マスク31の開口形状が全体的に横長のスリット形状になっている。また、第6設定例においては、X方向のシフト量SHx(不図示)をゼロに設定するとともに、Y方向のシフト量SHyを負の値で設定している。このため、仮想マスク31の開口部32の中心位置が水平基準線35よりも下側にずれている。
【0070】
このように仮想マスクの開口中心位置をシフト量SHyの指定によりY方向にずらして設定した場合は、従来のように後段受光スリットの開閉中心位置を機械的に移動させなくても、X線の入射位置のずれに対応することができる。以下、具体的に説明する。
【0071】
まず、X線回折装置においては、たとえば
図15に示すように、測定分解能を上げるために、2つのモノクロメーター結晶14a,14bを測定光学系の中に設置することにより、各々のモノクロメーター結晶14a,14bでX線を反射させて、X線の平行性や波長選択性を高める場合がある。その場合、モノクロメーター結晶14a,14bを設置する前と後ではX線の軌道が変わるため、検出器15の検出面17に入射するX線の位置が変化する。具体的には、検出面17に入射するX線の位置が上下方向にずれる。
【0072】
そうした場合、従来のX線回折装置においては、上記
図29に示すように、検出器13の検出面に対するX線の入射位置のずれ量Lに合わせて後段受光スリット11を機械的にY方向に移動させることにより、後段受光スリット11の開閉中心位置をX線の入射位置に合わせる必要がある。これに対して、本実施の形態に係るX線回折装置においては、上記
図13に示す設定画面でY方向のシフト量SHyを正負いずれかの値で指定することにより、仮想マスク31の開口部32の中心位置32aをY方向で自在にずらすことができる。このため、モノクロメーター結晶14a,14bを設置する前と後で、検出面17に対するX線の入射位置が変化する場合は、その変化の前後におけるX線の入射位置のずれ量Lに応じてY方向のシフト量SHyを指定することにより、X線の入射位置に仮想マスクの開口中心位置を合わせることができる。したがって、従来のように後段受光スリットを機械的に移動させなくても、X線の入射位置のずれに対応することが可能となる。
【0073】
なお、ここでは仮想マスクの開口中心位置をY方向にずらして設定する場合について説明したが、これ以外にも図示はしないが、仮想マスクの開口中心位置をX方向にずらして設定したり、X方向とY方向の両方にずらして設定したりすることも可能である。また、仮想マスク設定部26の機能としては、X方向のシフト量SHxおよびY方向のシフト量SHyのうち、いずれか一方だけを指定(設定)可能な構成としてもよい。
【0074】
また、仮想マスク設定部26の付加的な機能として、前述した仮想マスクの開口条件のほかに、たとえば、「仮想マスクの開口個数」、「仮想マスクの開口形状」、「仮想マスクの開口の傾き角度」などを設定可能な構成を採用してもよい。「仮想マスクの開口個数
」は、仮想マスク31に設定する開口部32の個数を意味する。「仮想マスクの開口形状」は、仮想マスク31に設定する開口部32の形状を意味する。「仮想マスクの開口の傾き角度」は、仮想マスク31に設定する開口部32の傾き角度を意味する。
【0075】
(仮想マスクの開口個数について)
仮想マスクの開口個数に関しては、仮想マスク設定部26がモニタ23に表示する開口マスクの設定画面において、その開口個数を数値で指定可能な構成とすればよい。また、仮想マスクの開口個数は、たとえば、初期値を「1」とし、必要に応じてユーザーが仮想マスクの開口個数を初期値「1」から「2以上」の数値に変更可能な構成とすればよい。
【0076】
図16は仮想マスクの設定画面とこれに基づく開口条件の第7設定例を示す模式図である。
図示した仮想マスクの設定画面においては、仮想マスクの開口個数を数値で指定可能となっている。第7設定例においては、仮想マスクの開口個数を「2」に設定している。このため、仮想マスクの設定画面では、2つの開口部32−1,32−2につき、仮想マスクの開口条件を別々に指定可能となっている。また、第7設定例においては、第1開口部32−1に関して、開口寸法をLw1、Lh1に設定し、開口中心位置をSHx1、SHy1に設定している。また、第2開口部32−2に関して、開口寸法をLw2、Lh2に設定し、開口中心位置をSHx2、SHy2に設定している。
【0077】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合、信号処理部21は、仮想マスク31の第1開口部32−1内の検出素子16から出力される検出信号と、第2開口部32−2内の検出素子16から出力される検出信号を、それぞれ有効な信号として認識し、それ以外の検出素子16から出力される検出信号を無効な信号として認識する。このため、信号処理部21においては、仮想マスク31の第1開口部32−1内の検出素子16から出力される検出信号と、第2開口部32−2内の検出素子16から出力される検出信号だけを対象に信号処理する。したがって、仮想マスク31の各開口部32−1、32−2ごとにX線回折の測定結果をモニタ23に表示させることができる。
【0078】
また、第7設定例の変形として、第1開口部32−1についての開口寸法(Lw1、Lh1)と開口中心位置(SHx1、SHy1)の指定と、第2開口部32−2についての開口寸法(Lw2、Lh2)と開口中心位置(SHx2、SHy2)の指定とを変えることにより、
図17(A)に示すような開口条件で仮想マスク31を設定することができる。この設定例においては、垂直基準線36を境にして遮蔽部33を左右2つの領域に区分している。そして、左側の領域には、仮想マスク31の開口条件として、開口寸法が開口高さLh1、開口幅Lw1の条件、開口中心位置がシフト量SHx1、SHy1(不図示)の条件で、第1開口部32−1を設定している。また、右側の領域には、仮想マスク31の開口条件として、開口寸法が開口高さLh2、開口幅Lw2の条件、開口中心位置がシフト量SHx2、SHy2(不図示)の条件で、第2開口部32−2を設定している。このうち、第1開口部32−1の開口高さLh1は、第2開口部32−2の開口高さLh2よりも大きい寸法で指定されている。また、第1開口部32−1の開口幅Lw1と第2開口部32−2の開口幅Lw2は、いずれも、検出面17の全幅の半分より少し小さい寸法で指定されている。X方向のシフト量SHx1、SHx2は、互いに絶対値が同じで、正負が異なる数値で指定されている。また、Y方向のシフト量SHy1、SHy2は、いずれもゼロの数値で指定されている。
【0079】
このように仮想マスクの開口条件を設定した場合は、
図17(B)に示すように、遮蔽部33の左側の領域と右側の領域で各々の開口部32−1、32−2の開口高さLh1、Lh2に差をつけたことにより、第1開口部32−1内の検出素子16から出力される検出信号を信号処理部21で信号処理して得られる測定結果の測定分解能と、第2開口部3
2−2内の検出素子16から出力される検出信号を信号処理部21で信号処理して得られる測定結果の測定分解能とが異なるものとなる。このため、測定分解能が異なる測定結果を1回の測定で得ることができる。
【0080】
なお、ユーザーが仮想マスクの設定画面で開口個数を複数個設定する場合は、検出面17に設定される仮想マスク31の面内において、各々の開口位置が相互に重なるなどして干渉する場合もあり得る。そのような場合は、たとえば、スピーカー等によって警告音や音声ガイダンスを発する、あるいはモニタ23に警告メッセージ等を表示するなどして、その旨をユーザーに知らせる構成を採用することが望ましい。
【0081】
また、仮想マスクの開口条件として仮想マスクの開口個数を設定する場合は、検出器15の検出面17を水平基準線35または垂直基準線36を境に2つに区分したり、あるいは4つに区分したりして、各々の区分領域ごとに、仮想マスクの開口寸法および開口位置を個別に設定可能な構成としてもよい。また、そのように検出面17を2つまたは4つに区分する場合は、仮想マスクの開口寸法および開口位置の少なくとも一方について、固定的に初期条件を設定しておき、この初期条件にしたがって検出面17に複数のマスク開口が設定される構成としてもよい。具体的には、たとえば、検出面17を4つに区分する場合は、仮想マスクの開口寸法を固定的に初期条件として設定しておき、仮想マスクの開口中心位置だけをユーザーが設定画面上で指定可能な構成としてもよい。また、仮想マスクの開口中心位置が各々の区分領域の中心となるようにその初期条件を固定的に設定しておき、仮想マスクの開口寸法だけをユーザーが設定画面上で指定可能な構成としてもよい。
【0082】
また、「仮想マスクの開口形状」および「仮想マスクの開口の傾き角度」についての具体的な仮想マスクの設定画面は例示しないが、これらの開口条件についてもユーザーの指定を仮想マスク設定部26で受け付けることにより、以下のような開口条件で仮想マスクを設定することが可能となる。
【0083】
(仮想マスクの開口形状について)
すなわち、仮想マスクの開口条件の一つとして、仮想マスクの開口形状を設定可能な構成とした場合は、たとえば、
図18(A)に示すように、円形の開口部32を有する仮想マスク31を設定したり、
図18(B)に示すように、円弧状の開口部32を有する仮想マスク31を設定したりすることができる。仮想マスクの開口形状は、たとえば、初期設定では矩形の開口形状が適用されるようにし、ユーザーの希望に応じて任意の形状に変更可能な構成とすることができる。また、仮想マスクの開口条件として、仮想マスクの開口形状とあわせて、仮想マスクの開口寸法および/または開口中心位置を設定可能な構成とすることにより、検出面17の面内の所望の位置に、所望の寸法で、所望の開口形状を有する仮想マスクを設定することが可能となる。
【0084】
(仮想マスクの開口の傾き角度)
一方、仮想マスクの開口条件の一つとして、仮想マスクの開口の傾き角度を設定可能とした場合は、たとえば、その傾き角度が「+10度」で指定されたとすると、
図19に示すように、仮想マスク31の開口部32を反時計回りにθ=10度だけ傾けた状態で設定することができる。仮想マスクの開口の傾き角度は、水平基準線35(又は垂直基準線36)に対する開口部32の傾き角度で指定可能となっている。具体的には、たとえば、マスク開口の傾き角度が0度の条件を初期設定とし、この傾き角度を正の値で指定した場合は、反時計回り方向に指定角度だけマスク開口が傾いた状態で設定され、傾き角度を負の値で指定した場合は、時計回り方向に指定角度だけマスク開口が傾いた状態で設定される。
【0085】
このような仮想マスクの開口の傾き角度を設定可能な構成とすることにより、たとえば
将来的に検出素子16のサイズが縮小された場合に、次のような対応をとることが可能となる。すなわち、試料台7の傾きや試料Sの表面の傾きに起因して、検出面17に入射するX線の断面形状に傾きが生じている場合に、試料台7などの機械的な位置調整を要することなく、または機械的な位置調整を行う前の予備調整として、その傾き補正のために仮想マスク31の開口部32を傾けて設定することが可能となる。
【0086】
<7.X線回折装置の第2構成例>
図20は本発明の実施の形態に係るX線回折装置の第2構成例を示す機能ブロック図である。図示したX線回折装置の構成においては、測定条件設定部25が、仮想マスク設定部26のほかに、次元モード設定部27を有している。次元モード設定部27は、検出器15を用いてX線回折の測定を行う際に適用する次元モードを設定するものである。次元モード設定部27によって設定可能な次元モードには、「0次元モード」、「1次元モード」、「2次元モード」の3つがある。0次元モードは、位置分解能を持たない次元モードである。1次元モードは、1次元の位置分解能をもつ次元モードである。2次元モードは、2次元の位置分解能をもつ次元モードである。次元モード設定部27は、上述した3つの次元モードのうち、いずれか一つの次元モードをユーザーが入力操作部24を用いて指定することにより、X線回折の測定を行う際に適用する次元モードを設定する。
【0087】
ユーザーの指定にしたがって設定した次元モードは、検出器15を用いてX線を検出した際に得られる各検出素子16からの検出信号を信号処理部21で信号処理する際の処理形態に反映される。具体的には、次元モードを0次元モードに設定した場合は、検出面17に設定した仮想マスクの開口内に存在する各々の検出素子16の検出信号をすべて積算するように処理する。また、次元モードを1次元モードに設定した場合は、検出面17に設定した仮想マスクの開口内に存在する各々の検出素子16の検出信号を行単位または列単位で積算して処理する。検出素子16の検出信号を行単位または列単位のいずれで積算するかについては、一元モードをX方向に設定するかY方向に設定するかによって変わる。2次元モードに設定した場合は、検出面17に設定した仮想マスクの開口内に存在する各々の検出素子16の検出信号を検出素子単位で処理する。
【0088】
以下に、仮想マスクの開口条件を上記
図7のように設定し、この設定条件で次元モードを設定した場合に、検出器15から出力される検出信号が、信号処理部21でどのように処理されるかについて説明する。
【0089】
次元モード設定部27で次元モードを0次元モードに設定した場合は、
図21に示すように、仮想マスク31の開口部32内に存在する各々の検出素子16から出力される検出信号を、信号処理部21がすべて積算処理する。これにより、実質的に0次元の検出器を用いた場合と同様の測定結果が得られる。
【0090】
次元モード設定部27で次元モードを2次元モードに設定した場合は、
図22に示すように、仮想マスク31の開口部32内に存在する各々の検出素子16から出力される検出信号を、信号処理部21が検出素子16単位で個別に処理する。これにより、実質的に2次元の検出器を用いた場合と同様の測定結果が得られる。
【0091】
次元モード設定部27で次元モードをY方向の1次元モードに設定した場合は、
図23に示すように、仮想マスク31の開口部32内に存在する各々の検出素子16から出力される検出信号を、信号処理部21が行単位で積算処理する。これにより、実質的にX方向に細長いライン状の検出素子をY方向に並べた構成の1次元の検出器を用いた場合と同様の測定結果が得られる。
【0092】
次元モード設定部27で次元モードをX方向の1次元モードに設定した場合は、
図24
に示すように、仮想マスク31の開口部32内に存在する各々の検出素子16から出力される検出信号を、信号処理部21が列単位で積算処理する。これにより、実質的にY方向に細長いライン状の検出素子をX方向に並べた構成の1次元の検出器を用いた場合と同様の測定結果が得られる。
【0093】
また、図示はしないが、上記
図21と比べて仮想マスク31の開口部32の寸法が全体的に小さくなるように、仮想マスクの開口条件を設定した場合は、0次元モードでX線を検出するときの測定分解能を上げることができる。
【0094】
また、仮想マスク設定部26を用いた仮想マスクの設定と、次元モード設定部27を用いた次元モードの設定とを適宜組み合わせることにより、種々の測定条件でX線回折の測定を行うことができる。たとえば、
図25に示すように、仮想マスク31の遮蔽部33に左右2つの開口部32−1,32−2を設定するとともに、左側の開口部32−1をX方向の1次元モード、右側の開口部32−2をY方向の1次元モードに設定して、X線回折の測定を行うことができる。また、
図26に示すように、仮想マスク31の遮蔽部33に上下2つの開口部32−1,32−2を設定するとともに、上側の開口部32−1をY方向の1次元モード、下側の開口部32−2を0次元モードに設定して、X線回折の測定を行うことができる。
【0095】
<8.実施の形態の効果>
以上説明した本発明の実施の形態に係るX線回折装置およびX線回折方法によれば、以下の(1)に記述する効果のほかに、(2)以降に記述する効果が得られる。
【0096】
(1)従来のように後段受光スリットを使用しなくても、仮想マスク設定部26を用いて仮想マスク31の開口寸法を設定することにより、X線回折の測定分解能を変更することができる。このため、X線回折装置の受光光学系の構成要素として後段受光スリットが不要になる。したがって、X線回折装置のコストを削減することができる。
【0097】
(2)仮想マスク設定部26を用いて仮想マスク31の開口寸法をX方向とY方向で独立に設定可能な構成となっているため、X方向とY方向で測定分解能を別々に変更することができる。このため、従来のように後段受光スリットを使用した場合には実現不可能な測定分解能の変更にも柔軟に対応することが可能となる。具体的には、従来のように後段受光スリットという物理的なスリットを用いてX方向とY方向で測定分解能を変えるには、X方向に開閉するスリットとY方向に開閉するスリットを同時に設置する必要がある。ただし、後段受光スリットとして機能するスリットは、ゴニオサークル上に設ける必要がある。このため、たとえば、Y方向に開閉するスリットをゴニオサークル上に設けた場合は、これとの位置的な干渉により、X方向に開閉するスリットをゴニオサークル上に設けることができなくなる。したがって、従来のように物理的なスリットを用いる場合は、測定分解能を一方向しか変更することができない。これに対して、本実施の形態においては、現実には存在しない仮想マスク31によって測定分解能を変更するものであるから、物理的な位置の干渉という問題が起こらない。このため、仮想マスク31のX方向でユーザーが求める測定分解能と、仮想マスク31のY方向でユーザーが求める測定分解能とが異なる場合でも、それぞれの方向で求められる測定分解能にあわせて仮想マスク31の開口寸法を設定することができる。したがって、従来では実現不可能な測定分解能の変更にも柔軟に対応することが可能となる。
【0098】
(3)仮想マスク設定部26を用いて設定可能な仮想マスクの開口条件として、仮想マスクの開口寸法のほかに、仮想マスクの開口中心位置を設定可能な構成となっている。これにより、仮想マスクの開閉中心位置を、必要に応じて、検出面17の中心位置からずらして設定することができる。このため、X線の光路中にモノクロメーター結晶等を設置す
る前と後で、検出器15の検出面17に入射するX線の位置がずれる場合でも、そのずれにあわせて仮想マスクの開閉中心位置をシフトさせることにより、検出器15の検出面17においてX線の入射位置と仮想マスクの開閉中心位置とを合わせることができる。したがって、従来のように後段受光スリットのスリット位置を機械的に移動させる移動機構を設ける必要がなくなる。また、従来においては上記移動機構によって後段受光スリットの開閉中心位置をずらせる方向がY方向に制限されるが、本実施の形態においては、そのような制限がなく、仮想マスク31の開口中心位置をX方向およびY方向のどちらにもずらすことができる。このため、検出器15の検出面17上で仮想マスク31の開口中心位置を所望の位置に設定することができる。
【0099】
(4)仮想マスク設定部26を用いて設定可能な仮想マスクの開口条件として、仮想マスクの開口寸法のほかに、仮想マスクの開口個数を設定可能な構成となっている。これにより、たとえば、開口寸法が異なる複数の開口部32を設定してX線解析の測定を行った場合は、1回の測定によって、測定分解能が異なる測定結果を得ることが可能になる。
【0100】
(5)仮想マスク設定部26を用いて設定可能な仮想マスクの開口条件として、仮想マスクの開口寸法のほかに、仮想マスクの開口形状を設定可能な構成となっている。これにより、検出器15の検出面17の形状にかかわらず、ユーザーが所望する仮想マスクの開口形状を適用してX線回折の測定を行うことができる。
【0101】
(6)仮想マスク設定部26を用いて設定可能な仮想マスクの開口条件として、仮想マスクの開口寸法のほかに、仮想マスクの開口の傾き角度を設定可能な構成となっている。これにより、たとえば、検出器15の検出面17に入射するX線の断面形状に傾きが生じている場合に、この傾きにあわせて仮想マスクの開口の傾き角度を設定することができる。また、試料台7やこれにセットされた試料Sに傾きが生じている場合に、その傾きにあわせて仮想マスクの開口の傾き角度を設定することができる。
【0102】
(7)測定条件設定部25は、上述した仮想マスク設定部26に加えて、次元モード設定部27を備えた構成となっている。かかる構成では、仮想マスク設定部26と次元モード設定部27との組み合わせにより、X方向およびY方向で測定分解能を自在に変更し、かつ、検出器15の次元モードを0次元モード、1次元モード、2次元モードのいずれかに設定することができる。このため、たとえば、仮想マスク設定部26によって仮想マスクの開口寸法を所望の大きさに設定したうえで、検出器15を0次元検出器、1次元検出器または2次元検出器として機能させることができる。また、仮想マスク設定部26によって仮想マスクの開口個数をたとえば2個と設定した場合は、各々の開口部32ごとに異なる次元モードでX線回折の測定を行うことができる。さらにその場合は、各々の開口部32ごとに異なる測定分解能でX線回折の測定を行うこともできる。また、もともと二次元検出器である検出器15を、0次元モードや1次元モードで使用するメリットは、たとえば、次のような点にある。一般にX線回折装置の光学系の調整や試料位置の調整時には0次元モードを利用する。このため、試料位置の調整等を行う場合は、X線回折装置に0次元検出器を取り付ける必要がある。そして、その後のX線回折測定を2次元検出器で行う場合は、X線回折装置に取り付ける検出器を0次元検出器から2次元検出器に変更する必要がある。これに対して、上述のように検出器15の次元モードを次元モード設定部27によって切り替え可能な構成とした場合は、試料の位置調整等を0次元モードで行った後、検出器の変更(交換)なしで、X線回折測定を2次元モードで行えるため、自動化が可能となる。また、検出器15は、もともと位置分解能を有しているため、その一部分のみを利用することにより、仮想スリットとして使うことができる。さらに、一般的なX線回折装置で行われている、0次元の検出器を用いた疑似集中法光学系の測定と1次元検出器での高速測定を、光学系の配置を変更することなく行うことができる。また、0次元検出器は、二次元検出器に比べて検出器自体のコストが安くなるものの、位置分解能を有す
る二次元検出器で行える高速測定ができないというデメリットがある。
【0103】
(アッテネーターを設けていない理由)
ここで、本発明の実施の形態に係るX線回折装置でアッテネーターを設けていない理由について説明する。
検出器15に入射するX線の強度が強い場合、従来では上記
図28に示すように、検出器13の前にアッテネーター12を設置することにより、検出器13に入射するX線の強度をアッテネーター12で減衰させている。これに対して、本発明の実施の形態においては、高計数モードを備えた検出器15の採用により、アッテネーターレスの構成を実現している。高計数モードとは、たとえば、各々の検出素子16が生成する検出信号を、2つの16ビット回路を並列的に用いて出力する計数モードを通常計数モードとした場合に、この通常計数モードよりもX線の計数能力(計数限界)を高めた計数モードである。具体的には、高計数モードにおいては、上述した2つの16ビット回路を直列的に用いることにより、実質的に31ビット回路と同等の計数機能を実現している。これにより、通常計数モードではサチレーションを起こすような高強度のX線であっても、検出器15に適用する計数モードを通常計数モードから高計数モードに切り替えることにより、その計数機能を高めてサチレーションを回避することができる。このため、高価なアッテネーターの設置が不要となり、X線回折装置のコストを削減することができる。
【0104】
<9.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0105】
たとえば、仮想マスク設定部26による仮想マスク設定工程と、測定光学系によるX線検出工程と、信号処理部21による信号処理工程については、この記載順で行う以外にも、次のような順序で行うことができる。すなわち、最初に測定光学系によるX線検出工程を行う。その際、検出器15の検出面17に仮想マスクを設定することなく、X線の検出を行う。また、各々の検出素子16から出力されたすべての検出信号をメモリ22に記憶(蓄積)する。次に、仮想マスク設定部26による仮想マスク設定工程を行う。次に、信号処理部21による信号処理工程を行う。その際、信号処理部21は、仮想マスク設定工程で設定された仮想マスクの開口条件に基づいて、メモリ22から電気信号を読み出して信号処理する。たとえば、仮想マスクの開口条件が上記
図7に示す条件で設定された場合は、仮想マスク31の開口部32内の検出素子16が出力した電気信号をメモリ22から読み出して信号処理する。このような順序でX線回折の測定を行う場合は、X線検査工程で得られる電気信号を一旦、メモリ22に蓄積するため、この蓄積した検出信号を消去しないかぎり、ユーザーは仮想マスクの設定条件を何度も変更して、所望の設定条件に基づく測定結果を得ることができる。
【0106】
また、本発明に係る装置および方法は、たとえば、薄膜X線回折、粉末X線回折などを含む種々のX線回折に広く適用することが可能である。