【文献】
ZEEUW, Dick de et al.,Albuminuria, a Therapeutic Target for CardiovascularProtection in Type 2 Diabetic Patients With Nephropathy,Circulation,2004年,Vol.110,No.8,p.921-927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
糖尿病腎症を、アンギオテンシンレセプターブロッカー(ARB)による治療方法に適切に応答しない患者で予防し、そのリスクを軽減し、その進行を遅らせ、その開始を引き延ばし、弱め、逆転させ又は治療する方法であって、前記方法が治療的に有効な量のリナグリプチンを場合によって1つ以上の他の治療物質と一緒に患者に投与する工程を含む、前記方法に使用するための医薬組成物の調製のためのリナグリプチンの使用。
アルブミン尿症を含む糖尿病腎症を、アンギオテンシンレセプターブロッカー(ARB)に適切に応答しない患者で治療するために、リナグリプチンをテルミサルタンと一緒に使用する方法に使用するための医薬組成物の調製のためのリナグリプチンの使用。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
酸化ストレスは反応性酸素種と反応性中間物質を迅速に無毒化するか又は生じた損傷を修復する生物学的システムの能力における不均衡である(反応性酸素種は遊離ラジカルを含み、前記は典型的にはその外側電子軌道の酸素系又は窒素系不対電子及び過酸化物を含む)。組織の正常なレドックス状態のかく乱は、細胞内の全構成要素(タンパク質、脂質及び核酸/DNAを含む)を損傷する過酸化物及び遊離ラジカルの生成により有害な影響を引き起こし得る。酸化ストレスは多くの器官(例えば血管、眼、心臓、皮膚、腎臓、関節、肺臓、脳、免疫系、肝臓、又は多重器官)を標的とし、多くの疾患又は症状で中心的に関与し得る。酸化ストレスと密接に関係する疾患又は症状の例には、アテローム性硬化症(例えば血小板の活性化及びアテローム原性斑の形成)、内皮機能不全、再狭窄、高血圧、末梢の閉塞性血管疾患、虚血-再灌流障害(例えば腎、肝、心又は脳虚血-再灌流損傷)、線維症(例えば腎、肝、心又は肺線維症);黄斑変性、網膜変性、白内障、網膜症;冠状動脈心疾患、虚血、心筋梗塞;乾癬、皮膚炎;慢性腎疾患、腎炎、急性腎不全、糸球体腎炎、腎症;関節リウマチ、変形性関節炎;喘息、COPD、呼吸窮迫症候群;卒中、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病)、精神分裂病、双極性障害、強迫障害;慢性全身性炎症、血管周囲炎、自己免疫疾患、多発性硬化症、エリテマトーデス、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎;NAFLD/NASH;慢性疲労症候群、多嚢胞性卵巣症候群、敗血症、糖尿病、代謝症候群、インスリン耐性、高血糖症、高インスリン血症、異常脂肪血症、高コレステロール血症、高脂肪血症などが含まれる。それらの本来の薬理学的特性に加えて、臨床的に用いられるある種の薬剤(抗高血圧剤、アンギオテンシンレセプターブロッカー及び抗高脂血症剤(例えばスタチン)が含まれるが、ただしこれらに限定されない)は、抗酸化ストレスメカニズムを介して多様な器官を保護する。
【0013】
酸化ストレス及び/又は血管ストレスを有するか又はそのリスクがある患者は、当該患者の酸化ストレスマーカー(例えば酸化LDL)、炎症状態マーカー(例えば炎症促進性性インターロイキン)、8-OHdG、イソプロステイン(例えばF2-イソプロステイン、8-イソプロステインF2アルファ)、ニトロチロシン又はN-カルボキシメチルリジン(CML)を決定することによって診断できる。
内皮機能不全(通常は内皮依存血管運動障害(例えば血管拡張と血管収縮との間の不均衡)として臨床的に判定される)は、内皮細胞(血管、動脈及び静脈の内側表面に整列する細胞)の生理学的不能であり、それら細胞がそれらの正常な生化学的機能の遂行を妨げる。正常な内皮細胞は、凝固、血小板粘着、免疫機能、体積及び血管内外の間隙の電解質含有量の制御に必要である。内皮機能不全は、動脈壁内の炎症促進、酸化促進性及び血栓促進性変化と密接に関係する。内皮機能不全は、アテローム性硬化症及び動脈硬化の発生及び進行において重要な事象であると考えられ、臨床的に明瞭な血管合併症に先行する。内皮機能不全の予後は、血管性疾患の検出及び有害な血管事象の予測に重要である。アテローム性硬化症及び血管性疾患/イベントのリスク因子は内皮機能不全と密接に関係する。内皮の損傷はまた、腎損傷及び/又は慢性若しくは進行性腎損傷、例えば管間隙線維症、糸球体腎炎、ミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症、腎症及び/又は慢性腎疾患又は腎不全の一因となる。酸化ストレスは内皮機能不全又は内皮の損傷だけでなく血管性疾患の一因となることを支持する証拠が存在する。
【0014】
2型真性糖尿病は、インスリン耐性及びインスリン分泌障害という二重の内分泌作用(その結果、正常範囲内に血漿グルコースレベルを維持するために必要な要件が満たされない)に中心的に関与する複雑な病態生理学から生じる一般的な慢性及び進行性疾患である。前記は、高血糖症及びそれに付随する微細血管及び大血管の合併症又は慢性損傷、例えば糖尿病腎症、網膜症若しくはニューロパシー、又は大血管(例えば心脈管系又は脳血管性)合併症をもたらす。血管性疾患の要素は重要な役割を果たすが、前記は糖尿病関連疾患域における因子であるだけではない。高頻度で生じる合併症は余命の顕著な短縮をもたらす。現時点で糖尿病は、糖尿病誘発合併症に起因する成人開始失明、腎不全、工業化社会の脚部切断の最大の原因であり、心脈管関係死リスクにおいては2から5倍の増加を伴う。
【0015】
初期(新規診断から5年まで)糖尿病の間の徹底的で厳密な血糖管理は持続的で有益な効果を有し、糖尿病合併症(微細血管性及び大血管性の両方の)リスクを軽減することが、任意抽出大規模試験で確立された。しかしながら、徹底的な血糖管理を受けているにもかかわらず、糖尿病の多くの患者がなお糖尿病合併症を進行させている。
疫学的及び予想的データは、初期(新規診断から5年まで)代謝管理の臨床結果に対する長期的影響を支持している。高血糖症は1型及び2型糖尿病の両方で長期間持続する有害な作用を有し、血糖管理は、糖尿病の非常に初期に開始しなければ、又は徹底的に若しくは厳密に提供されなければ、合併症を完全に緩和するには十分ではあり得ないことが見出された。
さらにまた、高血糖症の一過性エピソード(例えば高血糖症性イベント)は分子的変化を誘発し得ること、及びこれらの変化は持続し得るか又は正常血糖に復帰した後も不可逆的であることが見出された。
総合すれば、これらのデータは、代謝記憶は糖尿病の過程の初期に保存されること、及びある種の糖尿病の症状では、酸化ストレス及び/又は血管ストレスはグルコース正常化後も持続し得ることを提唱している。初期血糖環境及び/又は一過性高血糖症でさえも、標的末端器官(例えば血管、網膜、腎臓、心臓、四肢)における臨床的結果とともに記憶されるというこの現象は、最近“代謝記憶”と称されている。
【0016】
この“記憶”を伝播する潜在的メカニズムは、ある種の後成的変化、細胞タンパク質及び脂質の非酵素的糖化(例えば更なる糖化最終生成物の形成)、酸化的に改変されたアテローム形成性リポタンパク質、及び/又は過剰な細胞内反応性酸素及び窒素種(RONS)(前記は、特に糖化ミトコンドリアタンパク質レベルで発生し、ストレスシグナリングの維持のためにおそらくお互いに協調して機能する)である。
ミトコンドリアは細胞内の反応性酸素種(ROS)の主要な発生源の1つである。ミトコンドリアの機能不全は、電子のリーク及びミトコンドリア呼吸連鎖(MRC)のROS発生を増加させる。高レベルのグルコース及び脂質はMRCの複合酵素の活性を障害する。例えば、MRC酵素NADPHオキシダーゼは細胞内でNADPHから超酸化物を発生させる。NADPHオキシダーゼ活性の増加が糖尿病患者で検出できる。
さらにまた、遊離ラジカル、例えば反応性酸素種(ROS)の過剰生成は、グルコース正常化後の酸化ストレス及び血管ストレス並びに代謝記憶の発生及び/又は維持、したがって例えば内皮機能不全又は他の糖尿病合併症における高血糖症と細胞記憶作用との一体化の一因となるということを示す証拠が存在する。
【0017】
したがって、高血糖症(の慢性、初期又は一過性エピソード)によって誘発されるか、又は前記に付随する持続的な(長期的な)酸化ストレスに主として関係することによって、血糖を正常化しても、糖尿病の病理発生に関係する多くの経路の長期持続的活性化がなお存在し得るという点である種の代謝性症状が存在する。したがって、糖尿病の進行過程における主要な発見の1つは、正常血糖レベルにおいてさえも又は実際の血糖レベルとは別個に、遊離ラジカルの過剰生成がなお明白であり得るということの提示であった。例えば、内皮機能不全(糖尿病性血管合併症の原因性マーカー)は血糖正常化後も持続し得る。しかしながら、抗酸化剤療法と血糖正常化との組合せを用いて内皮機能不全をほぼ遮断できるという証拠が存在する。
したがって、特に血糖管理を超える(例えば細胞性反応種及び/又は糖化の軽減(例えば遊離酸素又は窒素ラジカルの生成の抑制による)によって)、酸化ストレス及び/又は血管ストレスの治療は、特に血糖の状態とは独立した治療は、高血糖症の記憶作用を有益に調節、緩和、遮断し若しくは前記に対して防御し、さらに当該リスクを軽減し、長期糖尿病合併症、特に酸化ストレスに付随するか又は前記によって誘発される合併症の開始を、その必要がある患者で予防し、治療し又は引き延ばすことができる。
【0018】
2型糖尿病の治療は典型的には食事と運動及び前記に続く経口抗糖尿病単独療法により開始されるが、いくらかの患者では血中グルコースは初期には制御可能であるが、前記治療はしかしながら高い二次的失敗率を伴う。血糖管理のための単剤療法の限界は、多剤を組合せて単剤による長期療法時には維持できない血中グルコースの減少を達成することによって、少なくともいくらかの患者で限定的期間においては克服できる。利用可能なデータは、2型糖尿病のほとんどの患者で、従来の単独療法は失敗し、多剤療法が要求されるという結論を支持している。しかしながら、2型糖尿病は進行性疾患であるので、通常の併用療法に良好な初期応答を示す患者でも、血中グルコースレベルを長期間安定に維持することは非常に困難であるので、最終的には投薬量の増加又はインスリンによるまた別の治療を要求するであろう。既存の併用療法は血糖管理の強化に潜在能力を有するが、前記療法には限界がある(特に長期有効性に関して)。さらにまた、慣用的治療方法は、副作用(例えば低血糖又は体重増加(前記副作用は前記治療方法の有効性及び許容性の妥協の結果であり得る))リスクの増加を示すことがある。
したがって、多くの患者にとって、これら既存の薬剤療法は、治療にもかかわらず代謝制御の進行性悪化をもたらし、特に長期の代謝状態を十分には制御することができず、したがって進行性又は後期2型糖尿病(通常の経口又は非経口抗糖尿病薬治療にもかかわらず不適切な血糖管理を示す糖尿病を含む)では血糖管理の達成及び維持に失敗する。
【0019】
したがって、高血糖症の徹底的な治療は慢性的損傷の発生を軽減するが、2型糖尿病の多くの患者は、部分的には通常の抗高血糖療法の長期有効性の限界、許容性及び投薬の不便性のために不適切に治療されたままである。
この治療失敗の高い発生率が、2型糖尿病患者における高率の長期高血糖症に付随する合併症又は慢性損傷(微細血管及び大血管合併症(例えば糖尿病腎症、網膜症若しくはニューロパシー)又は脳血管性若しくは心脈管系合併症(例えば心筋梗塞、卒中若しくは脈管関係死亡率もしくは有病率)を含む)の主要な一因である。
治療(例えば一番手若しくは二番手、及び/又は単独又は(最初の若しくは追加的)併用療法)で通常的に用いられる経口の抗糖尿病薬には、メトフォルミン、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン、グリニド及びα-グルコシダーゼ阻害剤が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
治療(例えば一番手若しくは二番手、及び/又は単独又は(最初の若しくは追加的)併用療法)で通常的に用いられる非経口(典型的には注射)抗糖尿病薬には、GLP-1又はGLP-1アナログ及びインスリン又はインスリンアナログが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
しかしながら、これらの通常的な抗糖尿病又は抗高血糖症薬剤の使用は多様な副作用を伴い得る。例えば、メトフォルミンは乳酸症又は胃腸管系副作用を伴い、スルホニルウレア、グリニド及びインスリン又はインスリンアナログは低血糖症及び体重増加を伴い、チアゾリジンジオンは浮腫、骨折、体重増加及び心不全/心臓への影響を伴い、さらにアルファ-グルコシダーゼブロッカー及びGLP-1又はGLP-1アナログは胃腸管系副作用(例えば消化不良、鼓腸若しくは下痢、又は吐き気若しくは嘔吐)及び極めて重大なことには(ただし稀)膵炎を伴い得る。
したがって、当業界では有効で、安全で許容し得る抗糖尿病治療方法がなお希求されている。
【0020】
さらにまた、2型糖尿病の治療方法では、長期の治療効果を達成するために、当該症状に固有の合併症を回避し、さらに病気の進行を遅らせながら当該症状を効果的に治療することが要求される。
さらにまた、抗糖尿病治療は、進行期の糖尿病でしばしば認められる長期合併症を予防するだけではなく、合併症(例えば腎障害)を発症した、又はそのリスクがある糖尿病患者の治療選択肢であることもまたなお希求されている。
さらにまた、通常的な抗糖尿病治療に付随する副作用又はそのリスクの予防又は緩和を提供することがなお希求されている。
CD26としても知られている酵素DDP-4(ジペプチジルペプチダーゼIV)は、N-末端にプロリン又はアラニン残基を有する多数のタンパク質のN-末端のジペプチドの切断を生じることが知られているセリンプロテアーゼである。この特性のために、DPP-4阻害剤は、ペプチドGLP-1を含む生物活性ペプチドの血漿レベルに干渉し、真性糖尿病の治療に有望な薬剤であると考えられる。
例えば、DDP-4阻害剤及びそれらの使用は以下に開示されている:WO 2002/068420、WO 2004/018467、WO 2004/018468、WO 2004/018469、WO 2004/041820、WO 2004/046148、WO 2005/051950、WO 2005/082906、WO 2005/063750、WO 2005/085246、WO 2006/027204、WO 2006/029769、WO2007/014886、WO 2004/050658、WO 2004/111051、WO 2005/058901、WO 2005/097798、WO 2006/068163、WO 2007/071738、WO 2008/017670、WO 2007/128721、WO 2007/128724、WO 2007/128761又はWO 2009/121945。
【0021】
真性糖尿病のモニタリングでは、HbA1c値(ヘモグロビンB鎖の非酵素的糖化の産物)が極めて重要である。その生成は本質的に血糖レベル及び赤血球の寿命に依存するので、HbA1cは、“血糖の記憶”という意味で4−12週前の平均血糖レベルを反映する。そのHbA1cレベルが、より徹底した糖尿病治療によって良好に管理されている糖尿病患者(すなわちサンプル中の全ヘモグロビンの6.5%未満)は、糖尿病性微細血管障害から極めて良好に防御される。糖尿病のために利用可能な治療は、患者のHbA1cレベルで1.0−1.5%の規模で平均的改善を糖尿病患者に提供できる。HbA1cレベルにおけるこの減少は、7.0%未満、好ましくは6.5%未満、より好ましくは6%未満のHbA1cの所望標的範囲にするためには全ての糖尿病患者で十分であるというわけではない。
本発明の意図するところでは、不適切または不十分な血糖管理とは、患者が、6.5%を超える、特に7.0%を超える、より好ましくは7.5%を超える、特に8%を超えるHbA1c値を示す状態を意味する。不適切な又は不十分な血糖管理を有する患者の態様には、7.5から10%(又は、別の態様では7.5から11%)のHbA1c値を有する患者が含まれる(ただし前記に限定されない)。不適切に管理された患者の態様の中の具体的な一態様は、9%以上のHbA1c値を有する患者(ただし前記に限定されない)を含む血糖管理が貧弱な患者である。
【0022】
血糖管理の中で、HbA1cレベルの改善に加えて、2型真性糖尿病患者のために推奨される他の治療目標は、飢餓時血漿グルコース(FPG)及び食後血漿グルコースレベルの正常又は可能な限り正常近くへの改善である。食前(飢餓時)血漿グルコースの推奨される所望標的範囲は70−130mg/dL(又は90−140mg/dL)又は110mg/dL未満で、食後2時間の血漿グルコースは180mg/dL未満又は140mg/dL未満である。
ある実施態様では、本発明の意味する糖尿病患者には、以前に抗糖尿病薬で治療されたことが無い患者(薬剤ナイーブ患者)が含まれ得る。したがって、ある実施態様では、本明細書に記載の治療方法はナイーブ患者に用いることができる。別の実施態様では、本発明の意味する糖尿病患者には、進行期又は後期2型真性糖尿病の患者(通常的な抗糖尿病薬治療に失敗した患者を含む)、例えば本明細書に規定した1つ、2つ又は3つ以上の通常的経口及び/又は非経口抗糖尿病薬により不適切に血糖管理された患者、例えばメトフォルミン、チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニルウレア、グリニド、GLP-1若しくはGLP-1アナログ、インスリン若しくはインスリンアナログ、又はα-グルコシダーゼ阻害剤による(単剤)療法にもかかわらず、又はメトフォルミン/スルホニルウレア、メトフォルミン/チアゾリジンジオン(特にピオグリタゾン)、スルホニルウレア/αグルコシダーゼ阻害剤、ピオグリタゾン/スルホニルウレア、メトフォルミン/インスリン、ピオグリタゾン/インスリン又はスルホニルウレア/インスリンによる二剤併用療法にもかかわらず血糖管理が不十分な患者が含まれ得る。したがって、ある実施態様では、本明細書に記載の治療方法を、例えば本明細書に記載した通常的な経口及び/又は非経口抗糖尿病単剤医薬又は二剤若しくは三剤組合せ医薬による治療の経験がある患者で用いることができる。
【0023】
本発明の意味する糖尿病患者のさらに別の実施態様は、メトフォルミン療法が不適当な以下を含む患者である:
−メトフォルミン療法が禁忌の患者、例えば付箋にしたがえばメトフォルミン療法に対して1つ以上の禁忌を有する患者、例えば腎疾患、腎障害又は腎機能不全(当該地域で承認されたメトフォルミンの製品情報によって指定される);脱水;不安定又は急性うっ血性心不全;急性又は慢性代謝性アシドーシス;及び遺伝性ガラクトース非寛容から選択される少なくとも1つの禁忌を有する患者、
−メトフォルミンに起因する1つ以上の許容し得ない副作用、特にメトフォルミンに付随する胃腸管系副作用に苦しむ患者、例えば吐き気、嘔吐、下痢、腸管ガス及び重度の腹部不快から選択される少なくとも1つの胃腸管系副作用に苦しむ患者。
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の実施態様には、通常のメトフォルミン療法が適切ではない糖尿病患者、例えば軽減用量のメトフォルミン療法が、メトフォルミンに対する耐性の低下、非許容性若しくは禁忌のため、又は腎機能の(軽度の)障害/低下のために(高齢(例えば60歳以上−65歳)患者を含む)要求される患者が含まれる(ただし前記に限定されない)。
【0024】
本発明の意味する糖尿病患者のさらに別の実施態様は、腎疾患、腎機能不全又は不十分な若しくは傷害された腎機能(軽度、中等度及び重度の腎障害を含む)を有する患者であり、前記は、例えば血清クレアチニンレベルの上昇(例えば患者の年齢に対して正常な上限を超える血清クレアチニンレベル、例えば男性で130−150μmol/L以上、又は1.5mg/dL以上、女性で1.4mg/dL以上(124μmol/L以上))、又は異常なクレアチニンクリアランス(例えば糸球体ろ過速度(GFR)が30−60mL/分以下)によって示唆される。
前記に関してさらに詳しい例示として、軽度の腎障害は、例えば50−80mL/分のクレアチニンクリアランス(男性で1.7mg/dL以下及び女性で1.5mg/dL以下の血清クレアチニンレベルにほぼ一致する)によって示唆され、中等度の腎障害は、例えば30−50mL/分のクレアチニンクリアランス(男性で1.7<から3.0mg/dL以下及び女性で1.5<から2.5mg/dL以下の血清クレアチニンレベルにほぼ一致する)によって示唆され;重度の腎障害は、例えば30mL/分未満のクレアチニンクリアランス(男性で3.0mg/dL<及び女性で2.5mg/dL<の血清クレアチニンレベルにほぼ一致する)によって示唆され得る。末期腎疾患の患者は透析を必要とする(例えば血液透析又は腹腔透析)。
より詳細な例として、腎疾患、腎機能不全又は腎障害を有する患者には、慢性的腎機能不全又は障害を有する患者が含まれ、前記は 糸球体ろ過速度(GFR、mL/分/1.73m
2)にしたがって以下の5つの病期に階層化することができる:90以上の正常なGFR+持続的なアルブミン尿症又は既知の構造性若しくは遺伝性腎疾患を特徴とする1期;軽度の腎障害を示す軽度のGFR低下(GFRは60−89)を特徴とする2期;中等度の腎障害を示す中等度のGFRの低下(GFRは30−59)を特徴とする3期;重度の腎障害を示す重度のGFRの低下(GFRは15−29)を特徴とする4期;及び透析を必要とするか又は完全な腎不全を示す15未満のGFRを特徴とする終末5期(末期腎疾患、ESRD)。
【0025】
本発明の意味する糖尿病患者のさらに別の態様は、腎臓合併症、例えば糖尿病性腎症(慢性及び進行性腎機能不全、アルブミン尿症、タンパク尿症、身体の液体貯留(浮腫)及び/又は高血圧)を有するか、又はその発生リスクがある2型糖尿病患者である。
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の実施態様には、腎臓合併症、例えば糖尿病性網膜症を有するかその発症リスクがある2型糖尿病患者が含まれ得る(ただし前記に限定されない)。
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の態様には、大血管合併症、例えば心筋梗塞、冠状動脈疾患、虚血性若しくは出血性発作、及び/又は抹消の閉塞性動脈疾患を有するかその発症リスクがある2型糖尿病患者が含まれ得る(ただし前記に限定されない)。
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の態様には、心脈管系又は脳血管性疾患若しくはイベントを有するかそのリスクがある2型糖尿病患者(例えば本明細書に記載の心脈管系リスクのある患者)が含まれ得る(ただし前記に限定されない)。
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の実施態様には、高齢及び/又は進行した糖尿病を有する糖尿病患者(特に2型糖尿病)、例えばインスリン治療による患者、三重抗糖尿病経口療法による患者、既存の心脈管系及び/又は脳血管性イベントを有する患者、及び/又は疾患の期間が長い患者(例えば5年以上から10年)が含まれ得る(ただし前記に限定されない)。
【0026】
本発明の治療方法に適合し得る糖尿病患者のさらに別の実施態様には、下記のA)、B)、C)及びD)から選択される1つ以上の心脈管系リスク因子を有する糖尿病患者(特に2型糖尿病患者)が含まれ得る(ただし前記に限定されない):
A)以前の又は現存する脈管系疾患(例えば心筋梗塞(例えば無症候性又は症候性)、冠状動脈疾患、経皮冠状動脈介入、冠状動脈バイパス移植、虚血性若しくは出血性発作、うっ血性心不全(例えばNYHAクラスI又はII、例えば左心室機能が40%未満)、又は末梢の閉塞性動脈疾患);
B)脈管関連末端器官疾患(例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、腎機能障害、慢性腎疾患及び/又はミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症);
C)高齢(例えば60歳以上−70歳);及び
D)以下から選択される1つ以上の心脈管系リスク因子:
−進行した2型真性糖尿病(例えば10年を超える期間)、
−高血圧(例えば>130/80mmHg、又は収縮期血圧>140mmHg、又は少なくとも1つの血圧降下治療、
−現時点で毎日の喫煙、
−異常脂肪血症(例えばアテローム形成性異常脂肪血症、食後脂肪血症、又は高レベルLDLコレステロール(例えばLDLコレステロールが130以上−135mg/dL)、低レベルHDLコレステロール(例えば男性で<35−40mg/dL又は女性で<45−50mg/dL)、及び/又は血中の高レベルトリグリセリド(例えば>200−400mg/dL)、又は脂質異常のための少なくとも1つの治療)、
−肥満(例えば腹部肥満及び/又は内臓肥満、又は体容積指数が45kg/m
2以上)、
−年齢が40歳以上で80歳以下、
−代謝症候群、高インスリン血症又はインスリン耐性、及び
−高尿酸血症、勃起不全、多嚢胞性卵巣症候群、睡眠時無呼吸、又は一親等における脈管系疾患又は心筋症の家族歴。
【0027】
ある種の実施態様では、本発明の治療方法に適合し得る患者は、1つ以上の以下の疾患、異常又は症状を有し得るか又はそのリスクがある:1型糖尿病、2型糖尿病、グルコース耐性障害(IGT)、飢餓時血中グルコース障害(IGF)、高血糖症、食後高血糖症、吸収後高血糖症、成人の潜伏性自己免疫糖尿病(LADA)、体重過多、肥満、異常脂肪血症(例えばアテローム形成性異常脂肪血症を含む)、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高NEFA血症、食後脂肪血症、高血圧、アテローム性硬化症、内皮機能不全、骨粗鬆症、慢性全身性炎症、非アルコール性脂肪肝症(NAFLD)、多嚢胞性卵巣症候群、高尿酸血症、代謝症候群、腎症、ミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症、タンパク尿症、網膜症、白内障、ニューロパシー、学習若しくは記憶障害、神経変性性若しくは認知異常、心脈管系若しくは脳血管性疾患、組織の虚血、糖尿病足若しくは糖尿病性潰瘍、アテローム性硬化症、高血圧、内皮機能不全、心筋梗塞、急性冠状動脈症候群、不安定狭心症、安定狭心症、末梢動脈閉塞性疾患、心筋症(例えば尿毒症性心筋症を含む)、心不全、心臓肥大、心臓リズム異常、血管再狭窄、卒中、(腎臓、心臓、脳又は肝臓の)虚血/再灌流損傷、(腎臓、心臓、脳又は肝臓の)線維症、(腎臓、心臓、脳又は肝臓の)血管リモデリング;糖尿病、特に2型糖尿病(真性であることが好ましい(例えば基礎疾患として))。
【0028】
さらに別の実施態様では、本発明の治療方法に適合し得る患者は糖尿病(特に2型真性糖尿病)を有し、さらに1つ以上の他の疾患、異常又は症状(例えば直前に記載したものから選択される)を有し得るか又はそのリスクを有する。
本発明の範囲において、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤(場合によって1つ以上の他の治療物質(例えば本明細書に記載したものから選択される)又は医薬組合せ物、医薬組成物と組み合わされる)は、又は本明細書に規定するそのようなDPP-4阻害剤の本発明による組合せ使用は、本発明の目的に対し及び/又は上記の要求の1つ以上の充足に対してそれらDPP-4阻害剤を適切にする特性を有することが今や見出された。
本発明はしたがって、本明細書に記載する治療方法で使用される、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用するためにメトフォルミンと組み合わされる、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用するためにピオグリタゾンと組み合わされる、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用するためにテルミサルタンと組み合わされる、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)に関する。
【0029】
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用される、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)を含む医薬組成物に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用される、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)及びメトフォルミンを含む医薬組成物に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する治療方法で使用される、本明細書に規定するある種のDPP-4阻害剤、好ましくはリナグリプチン(Bl1356)及びピオグリタゾンを含む医薬組成物に関する。
本発明はさらにまた、本明細書に記載の治療方法で特に同時に、別個に又は連続して使用される、ある種のDPP-4阻害剤(特にBl1356)及び本明細書に記載したものから選択される1つ以上の他の活性物質を含む組合せに関し、前記他の活性物質は、例えば他の抗糖尿病物質、血糖レベルを低下させる活性物質、血中脂質レベルを低下させる活性物質、血中HDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を低下させる活性物質、アテローム性硬化症又は肥満の治療で指示される活性物質、抗血小板剤、抗凝固剤、及び血管内皮保護剤から選択され、例えばその各々は本明細書に記載されたものである。
【0030】
本発明はさらにまた、本明細書に記載の治療方法で特に同時に、別個に又は連続して使用され、場合によってテルミサルタンと組み合わされる、ある種のDPP-4阻害剤(特にBl1356)及び1つ以上の他の抗糖尿病薬を含む組合せに関し、前記抗糖尿病薬は、メトフォルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、チアゾリジンジオン、PPAR-ガンマアゴニスト、アルファ-グルコシダーゼ阻害剤、インスリン若しくはインスリンアナログ、及びGLP-1若しくはGLP-1アナログから成る群から選択される。
本発明はさらにまた、代謝性疾患、特に2型真性糖尿病及び/又は前記と関連する症状(例えば糖尿病合併症)を治療及び/又は予防する方法に関し、前記方法は、メトフォルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、チアゾリジンジオン、PPAR-ガンマアゴニスト、アルファ-グルコシダーゼ阻害剤、インスリン若しくはインスリンアナログ、及びGLP-1若しくはGLP-1アナログから成る群から選択される1つ以上の他の抗糖尿病薬の有効量及び本明細書に規定のDPP-4阻害剤(特にBl1356)の有効量、並びに場合によってテルミサルタンの有効量を、その必要がある患者(特にヒト患者)に、例えば本明細書に記載の患者(リスク患者群を含む)に組合せ(同時、別個又は連続)投与する工程を含む。
【0031】
本発明はさらにまた、本明細書に記載する療法又は治療方法、例えば代謝性疾患、特に2型真性糖尿病及び/又は前記と関連する症状(例えば糖尿病合併症)を治療及び/又は予防する方法に関し、前記方法は、治療的に有効な量のリナグリプチン(Bl1356)及び場合によって1つ以上の他の治療薬剤、例えばメトフォルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、チアゾリジンジオン、PPAR-ガンマアゴニスト、アルファ-グルコシダーゼ阻害剤、インスリン若しくはインスリンアナログ、及びGLP-1若しくはGLP-1アナログ、及び/又はテルミサルタンから成る群から選択される抗糖尿病薬を、その必要がある患者(特にヒト患者)に、例えば本明細書に記載の患者(例えば本明細書に記載のリスク患者)に投与する工程を含む。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する療法又は治療方法、例えば代謝性疾患、特に2型真性糖尿病及び/又は前記と関連する症状(例えば糖尿病合併症)を治療及び/又は予防する方法に関し、前記方法は、治療的に有効な量のリナグリプチン(Bl1356)を、その必要がある患者(特にヒト患者)に、例えば本明細書に記載の患者(本明細書に記載のリスク患者(特に心脈管系若しくは脳血管性疾患又はイベントを有する患者若しくはリスク患者及び/又は腎疾患を有する患者若しくはリスク患者)を含む)に投与する工程を含む。
【0032】
本発明はさらにまた、本明細書に記載する療法又は治療方法、例えば代謝性疾患、特に2型真性糖尿病及び/又は前記と関連する症状(例えば糖尿病合併症)を治療及び/又は予防する方法に関し、前記方法は、治療的に有効な量のリナグリプチン(Bl1356)及びメトフォルミンを、その必要がある患者(特にヒト患者)に、例えば本明細書に記載の患者(本明細書に記載のリスク患者(特に心脈管系若しくは脳血管性疾患又はイベントを有する患者又はリスク患者)を含む)に投与する工程を含む。
本発明はさらにまた、本明細書に記載する療法又は治療方法、例えば代謝性疾患、特に2型真性糖尿病及び/又は前記と関連する症状(例えば糖尿病合併症)を治療及び/又は予防する方法に関し、前記方法は、治療的に有効な量のリナグリプチン(Bl1356)及びテルミサルタンを、その必要がある患者(特にヒト患者)に、例えば本明細書に記載の患者(本明細書に記載のリスク患者(特に心脈管系若しくは脳血管性疾患又はイベントを有する患者又はリスク患者及び/又は腎疾患のリスク患者)を含む)に投与する工程を含む。
本発明の治療方法に適合し得る、特に心脈管系疾患及び/又は腎疾患を有するかそのリスクがある患者で適合し得るそのような代謝異常又は疾患の例には、1型糖尿病、2型糖尿病、グルコース耐性障害(IGT)、絶食時血中グルコース障害(IFG)、高血糖症、食後高血糖症、吸収後高血糖症、成人の潜伏性自己免疫糖尿病(LADA)、体重過多、肥満、異常脂肪血症、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高NEFA血症、食後脂肪血症、高血圧、アテローム性硬化症、内皮機能不全、骨粗鬆症、慢性全身性炎症、非アルコール性脂肪肝症(NAFLD)、網膜症、ニューロパシー、腎症、多嚢胞性卵巣症候群、及び/又は代謝症候群が含まれ得るが、ただしこれらに限定されない。
【0033】
本発明はさらにまた、治療的に有効な量のある種のDPP-4阻害剤を、場合によって本明細書に記載の1つ以上の他の治療物質と組み合わせて投与する工程を含む、以下の方法の少なくとも1つに関する:
その必要がある患者(例えば本明細書に記載の患者、特に2型糖尿病患者)で、
特に、酸化ストレス、血管ストレス及び/又は内皮機能不全、又は前記と関連する若しくは前記に付随する疾患若しくは症状を有するか又はそのリスクがある患者で、又は
心脈管系及び/又は腎疾患(例えば心筋梗塞、卒中、又は末梢動脈閉塞性疾患、及び/又は糖尿病腎症、ミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症、又は急性若しくは慢性腎障害)を有するか又はそのリスクがある患者で、又は
A)以前の又は現存する脈管系疾患(例えば心筋梗塞(例えば無症候性又は症候性)、冠状動脈疾患、経皮冠状動脈介入、冠状動脈バイパス移植、虚血性若しくは出血性発作、うっ血性心不全(例えばNYHAクラスI又はII、例えば左心室機能が40%未満)、又は末梢の閉塞性動脈疾患);
B)脈管関連末端器官疾患(例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、腎機能障害、慢性腎疾患及び/又はミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症);
C)高齢(例えば60歳以上−70歳);及び
D)以下から選択される1つ以上の心脈管系リスク因子:
−進行した2型真性糖尿病(例えば10年を超える期間)、
−高血圧(例えば>130/80mmHg、又は収縮期血圧>140mmHg、又は少なくとも1つの血圧降下治療)、
−現時点で毎日の喫煙、
−異常脂肪血症(例えばアテローム形成性異常脂肪血症、食後脂肪血症、又は高レベルLDLコレステロール(例えばLDLコレステロールが130以上−135mg/dL)、低レベルHDLコレステロール(例えば男性で<35−40mg/dL、女性で<45−50mg/dL)、及び/又は血中の高レベルトリグリセリド(例えば>200−400mg/dL)、又は脂質異常のための少なくとも1つの治療)、
−肥満(例えば腹部肥満及び/又は内臓肥満、又は体容積指数が45kg/m
2以上)、
−年齢が40歳以上で80歳以下、
−代謝症候群、高インスリン血症又はインスリン耐性、及び
−高尿酸血症、勃起不全、多嚢胞性卵巣症候群、睡眠時無呼吸、又は一親等における脈管系疾患若しくは心筋症の家族歴、
の上記A)、B)、C)及びD)から選択される1つ以上の心脈管系リスク因子を有する患者で、
−代謝異常又は疾患、例えば1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、グルコース耐性障害(IGT)、絶食時血中グルコース障害(IFG)、高血糖症、食後高血糖症、吸収後高血糖症、成人の潜伏性自己免疫糖尿病(LADA)、体重過多、肥満、異常脂肪血症、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高NEFA血症、食後脂肪血症、高血圧、アテローム性硬化症、内皮機能不全、骨粗鬆症、慢性全身性炎症、非アルコール性脂肪肝症(NAFLD)、網膜症、ニューロパシー、腎症、多嚢胞性卵巣症候群、及び/又は代謝症候群を予防し、その進行を遅らせ、引き延ばし、又は治療する方法;
−血糖管理を改善及び/又は維持する方法、及び/又は絶食時血漿グルコース、食後血漿グルコース、吸収後血漿グルコース及び/又はグリコシル化ヘモグロビンHbA1cを低下させるための方法;
−前糖尿病、グルコース耐性障害(IGT)、絶食時血中グルコース障害(IFG)、インスリン耐性を、及び/又は代謝症候群から2型真性糖尿病への進行を予防し、減速し、引き延ばし、又は進行を逆転させる方法;
−真性糖尿病の合併症、例えば微細血管又は大血管の疾患、例えば腎症、ミクロアルブミン若しくはマクロアルブミン尿症、タンパク尿症、網膜症、白内障、ニューロパシー、学習若しくは記憶障害、神経変性性若しくは認知異常、心脈管系若しくは脳血管性疾患、組織の虚血、糖尿病足若しくは糖尿病性潰瘍、アテローム性硬化症、高血圧、内皮機能不全、心筋梗塞、急性冠状動脈症候群、不安定狭心症、安定狭心症、末梢動脈閉塞性疾患、心筋症(例えば尿毒症性心筋症を含む)、心不全、心臓リズム異常、血管再狭窄、及び/又は卒中を予防し、そのリスクを軽減し、その進行を遅らせ、引き延ばし、又は治療する方法;
−体重及び/又は体脂肪を減少させ、又は体重及び/又は体脂肪の増加を防ぎ、又は体重及び/又は体脂肪の減少を促進する方法;
−膵臓ベータ細胞の変性及び/又は膵臓ベータ細胞の機能性の減退を予防し、減速し、又は治療する方法、及び/又は膵臓ベータ細胞の機能性を改善し、保持し及び/又は回復させるための方法、及び/又は膵臓のインスリン分泌の機能性を刺激し及び/又は回復させ又は保護する方法;
−非アルコール性脂肪肝症(NAFLD)(肝臓脂肪症を含む)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)及び/又は肝線維症を予防し、減速し、引き延ばし又は治療する方法(例えば肝臓脂肪症、(肝臓の)炎症及び/又は肝臓脂肪の異常蓄積を予防し、進行を遅らせ、減速させ、弱め、治療し又は逆転させる方法);
−通常の抗糖尿病単独又は併用療法が失敗に終わった2型糖尿を予防し、進行を遅らせ、引き延ばし、又は治療する方法;
−適切な治療効果のために要求される通常の抗糖尿病薬の用量の減少を達成する方法;
−通常の抗糖尿病薬に付随する副作用(例えば低血糖症及び/又は体重増加)のリスクを軽減する方法;及び/又は
−インスリン感受性を維持及び/又は改善する方法、及び/又は高インスリン血症及び/又はインスリン耐性を治療又は予防するための方法。
【0034】
本発明の他の特徴は上記及び下記の見解(実施例及び特許請求の範囲を含む)から当業者には明らかとなろう。
本発明の特徴、特に医薬化合物、組成物、組合せ物、方法及び使用は、上記及び下記で規定するDPP-4阻害剤に関する。
本発明の意図するDPP-4阻害剤には、上記及び下記に記載のDPP-4阻害剤の任意のもの、好ましくは経口的に活性なDPP-4阻害剤が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明の実施態様は、2型糖尿病患者であって、さらにまた腎疾患、腎機能不全又は腎障害を罹患する患者において代謝性疾患(特に2型真性糖尿病)の治療及び/又は予防で使用されるDPP-4阻害剤に関し、特に前記DPP-4阻害剤は、正常な腎機能を有する患者と同じ用量レベルで前記患者に投与され、したがって例えば前記DPP-4阻害剤は腎機能障害のための用量下方調整を必要としないことを特徴とする。
例えば、本発明のDPP-4阻害剤(特に腎機能障害を有する患者に適切であり得るもの)は、当該DPP-4阻害剤及びその活性代謝物が比較的広い(約>100倍)治療ウィンドウを有し、及び/又は主として肝臓代謝又は胆汁排出作用(好ましくは腎にさらに別の付加を加えることがない)により除去されるような経口DPP-4阻害剤であり得る。
【0035】
より詳細な例では、本発明のDPP-4阻害剤(特に腎機能障害を有する患者に適切であり得るもの)は、比較的広い(約>100倍)治療ウィンドウ(好ましくはプラセボに匹敵する安全性プロフィール)を有するか、及び/又は(好ましくはその経口治療用量レベルで)以下の薬物動態特性の1つ以上を充足するような経口投与DPP-4阻害剤であり得る:
−当該DPP-4阻害剤は、実質的に又は主として(例えば投与された経口投与した用量の80%を超えるか又は90%さえも超える部分が)肝臓を介して排出され、及び/又はそのために腎排出は実質的な排出経路を占めないか又はほんのわずかな排出経路しか占めない(例えば放射能標識炭素(
14C)物質の経口投与用量の排出を追跡することによって測定した経口投与用量の例えば10%未満、好ましくは7%未満);
−当該DPP-4阻害剤は、親薬剤から主に未変化で排出され(たとえば、尿および便中で平均して放射能標識炭素(
14C)物質の経口投与した用量の70%を越える、または80%を越える、または好ましくは90%)、及び/又は代謝によっては実質的でない程度またはごく僅かな程度でしか(たとえば、30%未満、20%未満、好ましくは10%)除去されない。
−当該DPP-4阻害剤の(主要)代謝物は薬理学的に不活性である。例えば主要代謝物は標的酵素DPP-4と結合せず、さらに場合によって前記は親化合物と比較して迅速に除去される(例えば代謝物の最終半減期は20時間以下又は好ましくは約16時間以下、例えば15.9時間である)。
ある実施態様では、3-アミノ-ピペリジン-1-イル置換基を有するDPP-4阻害剤の血漿中の(主要)代謝物(薬理学的に不活性であり得る)は、3-アミノ-ピペリジン-1-イル成分のアミノ基がヒドロキシル基によって置換され、3-ヒドロキシ-ピペリジン-1-イル成分(例えば3-(S)-ヒドロキシ-ピペリジン-1-イル成分、キラル中心の立体配置の反転によって生じる)を形成するような誘導体である。
【0036】
本発明のDPP-4阻害剤のさらに別の特性は以下の1つ以上であり得る:定常状態の迅速な達成(例えば治療的経口用量レベルによる治療の2日目から5日目に定常状態の血漿レベル(定常状態血漿濃度の90%を超える)に到達する)、ほとんど蓄積されない(例えば治療的経口用量レベルを用いた平均蓄積率R
A,AUCは1.4以下)、及び/又はDPP-4阻害に対する長期持続作用の維持(好ましくは1日1回を用いたとき)(例えば治療的経口用量レベルではほぼ完全な(90%を超える)DPP-4阻害、治療的経口薬用量の1日1回摂取後の24時間の間中80%を超える阻害)、治療用量レベルで食後2時間の血中グルコース変動域の顕著な低下(治療の初日で既に80%以上)、及び、尿中に排出される未変化親化合物の蓄積量は投与用量の1%未満であり、増加しても定常状態で約3−6%を超えないこと。
したがって、例えば本発明のDPP-4阻害剤は、主として非腎排出ルートを有する(すなわち前記DPP-4阻害剤は、非実質的程度又はわずかな程度(例えば経口投与用量、好ましくは経口治療用量の10%未満、好ましくは7%未満、例えば約5%)が腎臓から排出される)ことを特徴とし得る(例えば放射能標識炭素(
14C)物質の経口用量の排出を追跡することによって測定)。
さらにまた、本発明のDPP-4阻害剤は、肝臓又は糞便を介して実質的に又は主として排出されることを特徴とし得る(例えば放射能標識炭素(
14C)物質の経口用量の排出を追跡することによって測定)。
【0037】
さらにまた、本発明のDPP-4阻害剤は、親薬剤として主に未変化で排出されること(例えば放射能標識炭素(
14C)物質の経口投与後の尿及び糞便中の排出放射能活性の平均70%を超えるもの、又は80%を超えるもの、又は好ましくは90%が未変化)、前記DPP-4阻害剤は、代謝を介してはほとんど排出されないか又はほんのわずかしか排出されないこと、及び/又は前記DPP-4阻害剤の主要代謝物は薬理学的に不活性であるか又は比較的広い治療ウィンドウを有することを特徴とし得る。
さらにまた、本発明のDPP-4阻害剤は、慢性的な腎の機能不全(例えば軽度、中等度若しくは重度の腎障害又は末期腎疾患)の2型糖尿病患者の糸球体機能及び/又は尿細管機能を顕著には傷害しないこと、及び/又は、軽度又は中等度の腎障害を有する2型糖尿病患者の血漿の前記DPP-4阻害剤のトロフレベルは正常な腎機能を有する患者のレベルと類似すること、及び/又は、前記DPP-4阻害剤は、腎機能障害(好ましくは腎障害の病期に関係がなく、例えば軽度、中等度若しくは重度の腎障害又は末期腎疾患)を有する2型糖尿病患者で用量調整の必要がないことを特徴とし得る。
さらにまた、本発明のDPP-4阻害剤は、その最低限の有効用量が50%を超える阻害をトロフ(最後の投与から24時間後)においてDPP-4活性の80%を超える患者でもたらす用量であること、及び/又はその十分に治療的な用量が80%を超える患者でトロフ(最後の投与から24時間後)においてDPP-4活性の80%を超える阻害をもたらす用量であることを特徴とし得る。
さらにまた、本発明のDPP-4阻害剤は、腎障害と診断されているか、及び/又は腎合併症を発症するリスクがある2型糖尿病患者、例えば糖尿病腎症(慢性及び進行性の腎臓の機能不全、アルブミン尿症、タンパク尿症、身体の液体貯留(浮腫)及び/又は高血圧を含む)を有するか又はそのリスクがある患者での使用に適切であることを特徴とし得る。
【0038】
第一の実施態様(実施態様A)では、本発明の関係のDPP-4阻害剤は、下記の式(I)若しくは式(II)若しくは式(III)若しくは式(IV)の任意のDPP-4阻害剤、又は医薬的に許容できるその塩である:
【0043】
式中、
R1は、([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル、(キナゾリン-2-イル)メチル、(キノキサリン-6-イル)メチル、(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル、2-シアノ-ベンジル、(3-シアノ-キノリン-2-イル)メチル、(3-シアノ-ピリジン-2-イル)メチル、(4-メチル-ピリミジン-2-イル)メチル、又は(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)メチルを意味し、R2は、3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル、(2-アミノ-2-メチル-プロピル)-メチルアミノ又は(2-(S)-アミノ-プロピル)-メチルアミノを意味する。
【0044】
第一の実施態様(実施態様A)に関して、好ましいDPP-4阻害剤は、以下の化合物及び医薬的に許容できるそれらの塩のいずれか又は全てである:
1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(142)と比較されたい):
【化5】
【0045】
1-[([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(252)と比較されたい):
【化6】
【0046】
1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2004/018468、実施例2(80)と比較されたい):
【化7】
【0047】
2-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-3-(ブタ-2-イニル)-5-(4-メチル-キナゾリン-2-イルメチル)-3,5-ジヒドロ-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン-4-オン(WO 2004/050658、実施例136と比較されたい):
【化8】
【0048】
1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-[(2-アミノ-2-メチル-プロピル)-メチルアミノ]-キサンチン(WO 2006/029769、実施例2(1)と比較されたい):
【化9】
【0049】
1-[(3-シアノ-キノリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2005/085246、実施例1(30)と比較されたい):
【化10】
【0050】
1-(2-シアノ-ベンジル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イルキサンチン(WO 2005/085246、実施例1(39) と比較されたい):
【化11】
【0051】
1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-[(S)-(2-アミノ-プロピル)-メチルアミノ]-キサンチン(WO 2006/029769、実施例2(4) と比較されたい):
【化12】
【0052】
1-[(3-シアノ-ピリジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2005/085246、実施例1(52) と比較されたい):
【化13】
【0053】
1-[(4-メチル-ピリミジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2005/085246、実施例1(81) と比較されたい):
【化14】
【0054】
1-[(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イルキサンチン(WO 2005/085246、実施例1(82) と比較されたい):
【化15】
【0055】
1-[(キノキサリン-6-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO 2005/085246、実施例1(83) と比較されたい):
【化16】
【0056】
これらのDPP-4阻害剤は構造的に類似するDPP-4阻害剤とは区別される。なぜならば、他の医薬的な活性物質と組み合わせたとき、それらは、非常に優れた潜在能力及び長期持続作用を好ましい薬理学的特性、レセプター選択性及び好ましい副作用プロフィールを併せ持ち、又は予期せぬ治療的利点又は改善をもたらすからである。それらの調製は言及した刊行物で開示される。
本発明の実施態様Aの上述のDPP-4阻害剤の中でより好ましいDPP-4阻害剤は、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン、特にその遊離塩基である(前記はまたリナグリプチン又はBl1356として知られている)。
本発明の中で特に好ましいDPP-4阻害剤はリナグリプチンである。本明細書で用いられるリナグリプチンという用語は、リナグリプチン若しくはその許容できる塩(水和物及び溶媒和物を含む)及びその結晶形を指し、好ましくは、リナグリプチンは1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを指す。結晶形はWO 2007/128721に記載されている。リナグリプチンの製造方法は、例えば特許出願WO 2004/018468及びWO 2006/048427に記載されている。リナグリプチンは構造的に類似するDPP-4阻害剤とは区別される。なぜならば、リナグリプチンは、非常に優れた潜在能力及び長期持続作用を好ましい薬理学的特性、レセプター選択性及び好ましい副作用プロフィールを併せ持つか、又は一剤若しくは二剤若しくは三剤組合せ療法で予期せぬ治療的利点又は改善を生じるからである。
【0057】
いかなる疑問も回避するために、具体的に示したDPP-4阻害剤との関連で上記に引用した上述文献及び下記文献の各々の開示内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
本発明では、本発明の組合せ物、組成物又は組合せ使用は、活性な成分又は要素の同時、連続又は別個投与を意図し得ることは理解されるべきである。
この関係では、本発明の意味する “組合せ物”又は“組み合わされた”は、固定又は非固定(例えば遊離)形態(キットを含む)及び使用(例えば活性な成分又は要素の同時、連続又は別個使用を含む)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明の組合せ投与は、活性な成分又は要素を一緒に投与することによって、例えばそれらを1つの単一処方物として又は2つの別々の処方物若しくは調剤形として同時に投与することによって実施され得る。或いは、投与は、活性な成分又は要素を連続的に、例えば2つの別々の処方物又は調剤形として連続して投与することによって実施してもよい。
本発明の併用療法のためには、活性な成分又は要素は別々に投与するか(前記はそれらが別々に処方されることを示唆する)、又は一緒に処方することができる(前記はそれらが同じ調製物として又は同じ調剤形として処方されることを示唆する)。したがって、本発明の組合せの一方の成分の投与は、組合せの他方の成分の投与の前でも同時でも又はその後でもよい。
特段の記載がなければ、併用療法は、一番手、二番手若しくは三番手の治療方法、又は最初の若しくは付加併用療法又は置換療法を指すことができる。
【0058】
実施態様Aに関して、本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤の合成方法は当業者には公知である。有利には、本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤は、文献に記載された合成方法を用いて調製できる。したがって、例えば式(I)のプリン誘導体は、WO 2002/068420、WO 2004/018468、WO 2005/085246、WO 2006/029769又はWO 2006/048427(前記文献は参照により本明細書に含まれる)の記載にしたがって入手できる。式(II)のプリン誘導体は、例えばWO 2004/050658又はWO 2005/110999(前記文献は参照により本明細書に含まれる)の記載にしたがって入手できる。式(III)及び(IV)のプリン誘導体は、例えばWO 2006/068163、WO 2007/071738又はWO 2008/017670(前記文献は参照により本明細書に含まれる)の記載にしたがって入手できる。特に上記で述べたDPP-4阻害剤の調製は、それとの関係で言及した刊行物に開示されている。具体的なDPP-4阻害剤の多形性結晶改変及び処方は、それぞれWO 2007/128721及びWO 2007/128724(前記文献の開示内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる)に開示されている。具体的なDPP-4阻害剤とメトフォルミン又は他の組合せパートナーとの処方は、WO 2009/121945(前記文献は参照により本明細書にその全体が含まれる)に記載されている。
【0059】
リナグリプチン/メトフォルミンIR(即時放出)の二要素固定組合せ(錠剤)の典型的調剤強度は2.5/500mg、2.5/850mg及び2.5/1000mgであり、前記は1日1−3回、特に1日2回投与できる。
リナグリプチン/メトフォルミンXR(長期放出)の二要素固定組合せ(錠剤)の典型的調剤強度は5/500mg、5/1000mg及び5/1500mg(各々1つの錠剤)であるか、又は2.5/500mg、2.5/750mg及び2.5/1000mg(各々2つの錠剤)であり、前記は1日1−2回、特に1日1回投与でき、好ましくは夕方に食事とともに服用させることができる。
本発明はさらに、メトフォルミンとの(付加的又は最初の)併用療法で使用される(例えば1日の全量として500から2000mgの塩酸メトフォルミン、例えば500mg、850mg又は1000mgを1日1回又は2回)、本明細書に規定のDPP-4阻害剤を提供する。
温血脊椎動物(特にヒト)での医薬的応用のためには、本発明の化合物は、通常は0.001から100mg/kg体重、好ましくは0.01−15mg/kgの調剤として(各事例で1日1から4回)用いられる。この目的のためには、化合物は、場合によって他の活性物質と組み合わせて、1つ以上の不活性な担体及び/又は希釈剤(例えばトウモロコシデンプン、ラクトース、グルコース、微晶質セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、クエン酸、酒石酸、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロース又は脂肪物質(例えば固体脂肪若しくはその適切な混合物)と一緒に、通常的なガレノス調製物(例えばプレーン錠剤若しくは被覆錠剤、カプセル、散剤、懸濁物又は座薬)に取り込ませることができる。
【0060】
本明細書に規定のDPP-4阻害剤を含む本発明の医薬組成物はしたがって、当業界で記載されてあり、さらに所望される投与ルートに適した医薬的に許容し得る処方賦形剤を用いて当業者によって調製される。そのような賦形剤の例には、希釈剤、結合剤、担体、充填剤、滑沢剤、分散促進剤、結晶化遅延剤、崩壊剤、可溶化剤、着色剤、pH調節剤、界面活性剤及び乳化剤が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明のDPP-4阻害剤の経口用調製物又は調剤形は公知の技術にしたがって調製できる。
実施態様Aの化合物のために適切な希釈剤の例には、セルロース粉末、リン酸水素カルシウム、エリトリトール、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、マンニトール、前ゼラチン化デンプン又はキシリトールが含まれる。
実施態様Aの化合物のために適切な滑沢剤の例には、タルク、ポリエチレングリコール、ベヘン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、水素添加ひまし油又はステアリン酸マグネシウムが含まれる。
実施態様Aの化合物のために適切な結合剤の例には、コポビドン(ビニルピロリドンと他のビニル誘導体との共重合物)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、前ゼラチン化デンプン、又は低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)が含まれる。
実施態様Aの化合物のために適切な崩壊剤にはトウモロコシデンプン又はクロスポビドンが含まれる。
【0061】
本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤の医薬処方物を調製する適切な方法は以下である:
−適切な打錠賦形剤を含む粉末混合物中の活性物質の直接打錠;
−適切な賦形剤との顆粒化及びその後の適切な賦形剤との混合及びその後の打錠に加えてフィルムコーティング;又は
−粉末混合物又は顆粒のカプセルへの充填。
適切な顆粒化方法は以下である:
−強力ミキサー中での湿潤顆粒化とそれに続く流動層乾燥;
−一容器顆粒化;
−流動層顆粒化;又は
−適切な賦形剤との乾燥顆粒化(例えばローラー圧縮による)及びその後の打錠又はカプセルへの充填。
本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤の例示的組成物(例えば錠剤コア)は、第一の希釈剤マンニトール、付加的結合特性を有する第二の希釈剤としての前ゼラチン化デンプン、結合剤コポビドン、崩壊剤トウモロコシデンプン、及び滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを含み、ここでコポビドン及びトウモロコシデンプンは随意であり得る。
本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤の錠剤はフィルムコーティングすることができ、好ましくは、前記フィルムコートは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)、タルク、二酸化チタニウム及び酸化鉄(例えば赤色及び/又は黄色)を含む。
【0062】
医薬組成物(又は処方物)は多様な態様で包装することができる。一般的には、配送される製品は、適切な形態で1つ以上の医薬組成物を含む1つ以上の容器を含む。典型的には、容易な取り扱い、配送及び貯蔵のために、さらに貯蔵中の周囲との長期接触時の組成物の適切な安定性のために、錠剤は適切な一次包装中に束ねられる。錠剤のために一次容器はビン又はブリスターパックであり得る。
本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤を含む、例えば医薬組成物又は組合せ物(錠剤)のための適切なビンは、ガラス又はポリマー(好ましくはポリプロピレン(PP)又は高密度ポリエチレン(HD-PE))から製造され、ねじぶたで密閉することができる。ねじぶたには、小児が内容物に接近するのを予防又は防止するために小児対応安全閉鎖(例えば押し回し閉鎖)を提供できる。必要ならば(例えば湿度が高い領域では)、乾燥剤(例えばベントナイト粘土、分子篩又は好ましくはシリカゲル)の追加使用によって、包装組成物の陳列可能期間を引き延ばすことができる。
本発明の実施態様AのDPP-4阻害剤を含む、例えば医薬組成物又は組合せ物(錠剤)のための適切なブリスターパックは、上部フォイル(錠剤によって破ることができる)及び底部(錠剤のためのポケットを有する)を含むか又は前記を形成する。上部フォイルは、その内側(シール側)が熱封入ポリマー層で被覆された金属箔、特にアルミ箔又はアルミ合金箔(例えば20μmから45μm、好ましくは20μmから25μmの厚さを有する)を含むことができる。底部は、多層ポリマーフォイル(例えばポリ(塩化ビニリデン)(PVDC)被覆ポリ(塩化ビニル)(PVC);又はポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)ラミネート化PVCフォイル)又は多層ポリマー-金属-ポリマーフォイル(例えば低温形成性ラミネート化PVC/アルミニウム/ポリアミド組成物)を含むことができる。
【0063】
特に高温多湿の気候条件下における長期保存期間を保証するために、多層ポリマー-金属-ポリマーフォイル(例えばラミネート化ポリエチレン/アルミニウム/ポリエステル組成物)から生成された追加のオーバー包装又はポーチをブリスターパックのために用いることができる。このポーチ包装内の補充乾燥剤(例えばベントナイト粘土、分子篩、又は好ましくはシリカゲル)は、そのような激烈な条件下で陳列可能期間をいっそう引き延ばすことができる。
製品はまたラベル又は包装挿入物を含むことができる。それらは、治療用生成物の商品包装に慣習的に含まれる指示に関し、そのような治療用生成物の使用に関する指示、扱い方、服用量、投与、禁忌及び/又は警告についての情報を含むことができる。ある実施態様では、ラベル又は包装挿入物は、当該組成物を本明細書に記載した目的のいずれについても用いることができることを指示する。
第一の実施態様(実施態様A)に関して、実施態様Aで本明細書に記載したDPP-4阻害剤の典型的に要求される投薬量は、静脈内投与のときには0.1mgから10mg、好ましくは0.25mgから5mgであり、経口的投与のときには0.5mgから100mg、好ましくは2.5mgから50mg又は0.5mgから10mg、より好ましくは2,5mgから10mg又は1mgから5mgであり、各事例で1日1から4回である。したがって、例えば1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの投薬量は、経口投与の場合は0.5mgから10mg/患者/日、好ましくは2.5mgから10mg又は1mgから5mg/患者/日である。
実施態様Aで本明細書に記載したDPP-4阻害剤を含む医薬組成物で調製した調剤形は、0.1−100mgの投薬範囲で活性成分を含む。したがって、例えば1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの具体的な投薬量強度は0.5mg、1mg、2.5mg、5mg及び10mgである。
【0064】
本発明のDPP-4阻害剤の特別な実施態様は、低用量レベルで治療的に有効な経口投与DPP-4阻害剤に関し、前記DPP-4阻害剤は、例えば<100mg又は<70mg/患者/日、好ましくは<50mg、より好ましくは<30mg又は<20mg、さらに好ましくは1mgから10mg、特に1mgから5mg(特に5mg)/患者/日の経口用量レベルで治療的に有効であり、前記は、必要な場合には、1から4回のシングル用量に、特に1回又は2回(同じサイズであり得る)のシングル用量に分割され、好ましくは経口的に1日1回又は2回(より好ましくは1日1回)投与され、有利には1日のうちの任意の時点で食物とともに又は食物を伴わずに投与される。したがって、例えばBl1356の1日の経口量5mgは、1日1回の投与レジメン(すなわち5mgのBl1356を1日1回)で、又は1日2回の投与レジメン(すなわち2.5mgのBl1356を1日2回)で1日の任意の時点で食物とともに又は食物を伴わずに投与される。
本発明の組合せ物及び組成物中の成分の投薬量は変動し得るが、ただし前記活性成分の量は、適切な調剤形が得られるようなものであろう。したがって、選択される投薬量及び選択される調剤形は、所望の治療効果、投与ルート及び治療期間に左右されるであろう。組合せ物の適切な投薬範囲は単一の薬剤の最大耐性用量からより低い用量、例えば最大耐性用量の1/10である。
【0065】
本発明の意図の中で強調されるべき特に好ましいDPP-4阻害剤は、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(Bl1356又はリナグリプチンとしても知られている)である。Bl1356は、高い潜在能力、作用の24時間持続、及び広い治療ウィンドウを示す。Bl1356を1日1回12日間、複数の用量で経口投与された2型糖尿病の患者では、Bl1356は、好ましい薬力学的プロフィール及び薬物消長プロフィールを示し(例えば下記表1参照)、定常状態への迅速な到達(例えば全用量グループにおいて2日目と5日目の処置の間に定常状態の血漿レベル(13日目のプレドース血漿濃度の90%<)に到達)、極めてわずかの蓄積(例えば1mgを超える用量で平均蓄積比R
A,AUCが1.4以下)、及びDPP-4阻害で長時間持続する作用の維持(例えば5mg及び10mgの用量レベルでほぼ完全な(>90%)DPP-4阻害、すなわちそれぞれ定常状態で92.3及び97.3%の阻害、及び薬剤摂取後24時間間隔の間80%を超える阻害)、並びに(用量2.5mg以上で既に1日目で)食後2時間の血中グルコース振幅の顕著な(80%以上の)低下、及び1日目に尿中に排出される未変化親化合物の累積量が投与用量の1%未満で増加は12日目で約3−6%を超えない(腎クリアランスC
LR,SSは経口投与用量について約14から約70mL/分で、例えば5mg用量について腎クリアランスは約70mL/分である)ことを示した。2型糖尿病の人々では、Bl1356はプラセボ様の安全性及び耐性を示す。約5mg以上の低用量で、Bl1356は完全に24時間持続のDPP-4阻害を示すまさに1日1回の経口薬として機能する。治療用経口用量レベルで、Bl1356は、主として肝臓を介して排出され、極めてわずかな程度が腎臓を介して排出されるだけである(経口投与用量の約7%未満)。Bl1356は原則として胆汁を介して未変化で排出される。腎臓を介して除去されるBl1356部分は時間の経過及び用量の増加で極めてわずか増加し、その結果患者の腎機能にしたがってBl1356の用量を修正する必要はおそらくないであろう。その低い蓄積能力及び広い安全限界範囲と併せてBl1356の非腎性除去は、腎臓の機能不全及び糖尿病性腎症を高率で有する患者集団で重要な利点であり得る。
【0066】
表1:定常状態(12日目)におけるBl1356の薬物消長パラメーターの幾何平均(gMean)及び変動の幾何係数(gCV)
*中央値及び範囲[最小−最大]
NC:ほとんどの値が定量の下限未満であるので計算していない
【0067】
種々の代謝機能異常がしばしば同時に生じるので、互いに異なる多数の作用原理を組み合わせることが極めて頻繁に指示される。したがって、DPP-4阻害剤が対応する異常に対して慣用的な活性物質、例えば他の抗糖尿病物質、特に血糖レベル又は血中脂質レベルを低下させ、血中HDLレベルを上昇させ、血圧を低下させ、又はアテローム性硬化症又は肥満の治療で指示される活性物質から選択される1つ以上の活性物質と組み合わされるならば、診断された機能異常に応じて治療成果の改善を得ることができる。
上記のDPP-4阻害剤はまた、単独療法での使用に加えて、他の活性な物質と一緒に用いることができ、それによって治療結果の改善を得ることができる。そのような組合せ治療は、当該物質の自由な組合せで、又は固定された組合せ形態(例えば錠剤又はカプセル)で提供され得る。前記のために要求される組合せパートナーを含む医薬処方物は、医薬組成物として市場で入手され得るか、又は当業者が通常の方法を用いて処方できる。医薬処方物として市場で入手できる活性物質は、従来技術の多数の場所で、例えば毎年刊行される薬剤リスト、米国製薬工業協会の“Rpte Liste(商標)”に、又は“Physicians’Desk Reference”として知られる処方薬に関する毎年更新される製造業者の編集物に記載されている。
【0068】
抗糖尿病薬の組合せパートナーの例は以下である:メトフォルミン;スルホニルウレア、例えばグルベンクラミド、トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリボルヌリド及びグリクラジド;ナテグリニド;レパグリニド;ミチグリニド;チアゾリジンジオン、例えばロシグリタゾン及びピオグリタゾン;PPAR-ガンマ調整物質、例えばメタグリダーゼ;PPAR-ガンマアゴニスト、例えばリボグリタゾン、ミトグリタゾン、INT-131及びバラグリタゾン;PPAR-ガンマアンタゴニスト;PPAR-ガンマ/アルファ調整物質、例えばテサグリタザール、ムラグリタザール、アレグリタザール、インデグリタザール及びKRP297;PPAR-ガンマ/アルファ/デルタ調整物質、例えばロベグリタゾン;AMPK-アクチベーター、例えばAICAR;アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC1及びACC2)阻害剤;ジアシルグリセロール-アセチルトランスフェラーゼ(DGAT)阻害剤;膵臓ベータ細胞GCRPアゴニスト、例えばSMT3-レセプター-アゴニスト及びGPR119、例えばGPR119アゴニスト5-エチル-2-{4-[4-(4-テトラゾール-1-イル-フェノキシメチル)-チアゾル-2-イル]-ピペリジン-1-イル}-ピリミジン又は5-[1-(3-イソプロピル-[1,2,4]オキサジアゾル-5-イル)-ピペリジン-4-イルメトキシ]-2-(4-メタンスルホニル-フェニル)-ピリジン;11β-HSD-阻害剤;FGF19アゴニスト又はアナログ;アルファ-グルコシダーゼブロッカー、例えばアカルボース、ボグリボース及びミグリトール;アルファ2-アンタゴニスト;インスリン及びインスリンアナログ、例えばヒトインスリン、インスリンリスプロ、インスリングルシリン、r-DNA-インスリンアスパート、NPHインスリン、インスリンデテミアー、インスリンデグルデク、インスリントレゴピル、インスリン亜鉛懸濁物及びインスリングラルギン;胃抑制ペプチド(GIP);アミリン及びアミリンアナログ(例えばプラムリンチド又はダバリンチド);GLP-1及びGLP-1アナログ、例えばExendin-4、例えばエクセナチド、エクセナチドLAR、リラグリチド、タスポグリチド、リキシセナチド(AVE-0010)、LY-2428757(GLP-1のPEG化型)、デュラグルチド(LY-2189265)、セマグルチド又はアルビグルチド;SGLT2-阻害剤、例えばダパグリフロジン、セルグリフロジン(KGT-1251)、アチグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン又はトホグリフロジン;タンパク質チロシンホスファターゼの阻害剤(例えばトロデュスケミン);グルコース-6-ホスファターゼの阻害剤;フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ調整物質;グリコゲンホスホリラーゼ調整物質;グルカゴンレセプターアンタゴニスト;ホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ(PEPCK)阻害剤;ピルベートデヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)阻害剤;チロシンキナーゼの阻害剤(50mgから600mg)、例えばPDGF-レセプター-キナーゼ(EP-A-564409、WO 98/35958、US 5093330、WO 2004/005281及びWO 2006/041976参照)又はセリン/スレオニンキナーゼの阻害剤;グルコキナーゼ/調節タンパク質調整物質(グルコキナーゼアクチベーターを含む);グリコゲンシンターゼキナーゼ阻害剤;SH2-ドメイン含有イノシトール5-ホスファターゼ2型(SHIP2)の阻害剤;IKK阻害剤、例えば高用量サリチレート;JNK1阻害剤;タンパク質キナーゼC-シータ阻害剤;ベータ3アゴニスト、例えばリトベグロン、YM178、ソラベグロン、タリベグロン、N-5984、GRC-1087、ラファベグロン、FMP825;アルドースレダクターゼ阻害剤、例えばAS3201、ゼナレスタット、フィダレスタット、エパルレスタット、ラニレスタット、NZ-314、CP-744809及びCT-112;SGLT-1又はSGLT-2阻害剤;KV1.3チャネル阻害剤;GPR40調整物質、例えば[(3S)-6-({2’,6’-ジメチル-4’-[3-(メチルスルホニル)プロポキシ]ビフェニル-3-イル}メトキシ)-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-3-イル]酢酸;SCD-1阻害剤;CCR-2アンタゴニスト;ドーパミンレセプターアゴニスト(ブロモクリプチンメシレート[Cycloset]);4-(3-(2,6-ジメチルベンジルオキシ)フェニル)-4-オキソブタン酸;サーチュイン刺激物質;及び他のDPP IV阻害剤。
【0069】
メトフォルミンは、通常は約500mgから2000mg、1日当たり2500mgまでの用量で以下の多様な用量レジメンを用いて投与される:約100mgから500mg、又は200mgから850mg(1日1−3回)、又は約300mgから1000mgで1日1回若しくは2回、又は徐放性メトフォルミン、約100mgから1000mg又は好ましくは500mgから1000mgを1日1回若しくは2回、又は約500mgから2000mgを1日1回。具体的な投薬強度は、塩酸メトフォルミン250、500、625、750、850及び1000mgであり得る。
10から16歳の小児については、メトフォルミンの推奨開始用量は500mgの1日1回投与である。この用量が適切な結果をもたらさない場合は、用量を500mgの1日2回に増加させることができる。更なる増加は、最大1日用量を2000mgまで毎週500mg増加させることができ、分割用量として(例えば2から3回の分割用量)投与できる。メトフォルミンは食物と一緒に投与して吐き気を軽減することができる。
ピオグリタゾンの投薬量は、通常は約1−10mg、15mg、30mg又は45mg、1日1回である。
ロシグリタゾンは、通常は4から8mgを1日1回(又は2回に分割)の用量で投与される(典型的な投薬強度は2、4及び8mgである)。
グリベンクラミド(グリブリド)は、通常は2.5−20mgで1日1回(又は2回に分割)の用量で投与されるか(典型的な投薬強度は1.25、2.5及び5mgである)、又は微細化グリベンクラミドは0.75−3から12mgで1日1回(又は2回に分割)の用量で投与される(典型的な投薬強度は1.5、3、4.5及び6mgである)
グリピジドは、通常は2.5から10−20mgで1日1回(又は2回に分割して40mgまで)の用量で投与されるか(典型的な投薬強度は5及び10mg)、又は長期放出グリベンクラミドは5から10mg(20mgまで)で1日1回の用量で投与される(典型的な投薬強度は2.5、5及び10mgである)。
グリメピリドは、通常は1−2から4mg(8mgまで)で1日1回の用量で投与される(典型的な投薬強度は1、2及び4mgである)。
【0070】
グリベンクラミド/メトフォルミンの二剤組合せは、通常は1.25/250で1日1回から10/1000mgで1日2回の用量で投与される(典型的な投薬強度は1.25/250、2.5/500及び5/500mgである)。
グリピジド/メトフォルミンの二剤組合せは、通常は2.5/250から10/1000mgで1日2回の用量で投与される(典型的な投薬強度は2.5/250、2.5/500及び5/500mgである)。
グリメピリド/メトフォルミンの二剤組合せは、通常は1/250から4/1000mgで1日2回の用量で投与される。
ロシグリタゾン/グリメピリドの二剤組合せは、通常は4/1で1日1回又は2回から4/2mgで1日2回の用量で投与される(典型的な投薬強度は4/1、4/2、4/4、8/2及び8/4mgである)。
ピオグリタゾン/グリメピリドの二剤組合せは、通常は30/2から30/4mgで1日1回の用量で投与される(典型的な投薬強度は30/4及び45/4mgである)。
ロシグリタゾン/メトフォルミンの二剤組合せは、通常は1/500から4/1000mgで1日2回の用量で投与される(典型的な投薬強度は1/500、2/500、4/500、2/1000及び4/1000mgである)。
ピオグリタゾン/メトフォルミンの二剤組合せは、通常は15/500で1日1回若しくは2回から15/850mgで1日3回の用量で投与される(典型的な投薬強度は15/500及び15/850mgである)。
【0071】
非スルホニルウレアインスリン分泌促進剤のナテグリニドは、通常は60から120mgの用量で食事と一緒に投与され(360mg/日まで、典型的な投薬強度は60及び120mgである);レパグリニドは、通常は0.5mgから4mgの用量で食事と一緒に投与される(16mg/日まで、典型的な投薬強度は0.5、1及び2mgである)。レパグリニド/メトフォルミンの二剤組合せは、1/500及び2/850mgの投薬強度で利用できる。
アカルボースは、通常は25から100mgの用量で食事と一緒に投与される。ミグリトールは、通常は25から100mgの用量で食事と一緒に投与される。
血中の脂質レベルを低下させる組合せパートナーの例は、HMG-CoA-レダクターゼ阻害剤、例えばシムバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチン;フィブレート、例えばベザフィブレート、フェノフィブレート、クロフィブレート、ゲムフィブロジル、エトフィブレート及びエトフィリンクロフィブレート;ニコチン酸及びその誘導体、例えばアシピモクス;PPAR-アルファアゴニスト;PPAR-デルタアゴニスト、例えば{4-[(R)-2-エトキシ-3-(4-トリフルオロメチル-フェノキシ)-プロピルスルファニル]-2-メチル-ヘノキシ}-酢酸;アシル-補酵素A;コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT;EC2.3.1.26)、例えばアバシミブ;コレステロール吸収阻害剤、例えばエゼチミブ;胆汁酸結合物質、例えばコレスチラミン、コレスチポール及びコレセベラム;胆汁酸輸送阻害剤;HDL調整活性物質、例えばD4F、リバースD4F、LXR調整活性物質及びFXR調整活性物質;CETP阻害剤、例えばトルセトラピブ、JTT-705(ダルセトラピブ)又はWO 2007/005572の化合物(アナセトラピブ)又はエバセトラピブ;LDLレセプター調整物質;MTP阻害剤(例えばロミタピド);及びApoB100アンチセンスRNAである。
アトルバスタチンの用量は、通常は1mgから40mg又は10mgから80mgで1日1回である。
【0072】
血圧を低下させる組合せパートナーの例はベータブロッカー、例えばアテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、メトプロロール、ネビボロール及びカルベジロール;利尿剤、例えばヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、キシパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリド及びトリアムテレン;カルシウムチャネルブロッカー、例えばアムロジピン、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、ニカルジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニピジン、マニジピン、イスラジピン、ニルバジピン、ベラパミル、ガロパミル及びジルチアゼム;ACE阻害剤、例えばラミプリル、リシノプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、フォシノプリル及びトランドラプリル;並びにアンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン及びエプロサルタンである。
テルミサルタンの投薬量は、通常は20mgから320mg、又は40mgから160mg/日である。
血中のHDLレベルを増加させる組合せパートナーの例は、コレステリルエステル移送タンパク質(CETP)阻害剤;内皮リパーゼの阻害剤;ABC1の調節物質;LXRアルファアンタゴニスト;LXRベータアゴニスト;PPAR-デルタアゴニスト;LXRアルファ/ベータ調節物質、及びアポリポタンパク質A-Iの発現及び/又は血漿濃度を増加させる物質である。
【0073】
肥満治療のための組合せパートナーの例は、シブトラミン;テトラヒドロリプスタチン(オルリスタット);アリザイム(セチリスタット);デキスフェンフルラミン;アコキシン;カンナビノイドレセプター1アンタゴニスト、例えばCB1アンタゴニストリモノバント;MCH-1レセプターアンタゴニスト;MC4レセプターアゴニスト;NPY5、前記に加えてNPY2アンタゴニスト(例えばベルネペリト);ベータ3-ARアゴニスト、例えばSB-418790及びAD-9677;5HT2Cレセプターアゴニスト、例えばAPD356(ロルカセリン);ミオスタチン阻害剤;Acrp30及びアジポネクチン;ステロイルCoAデサツラーゼ(SCD1)阻害剤;脂肪酸シンターゼ(FAS)阻害剤;CCKレセプターアゴニスト;ゲーレリンレセプター調整物質;Pyy3-36;オレキシンレセプターアンタゴニスト;及びテソフェンシン;前記に加えて二剤組合せ物ブプロピオン/ナルトレキソン、ブプロピオン/ゾニサミド、トピラメイト/フェンターミン及びプラムリンチド/メトレレプチンである。
アテローム性硬化症の治療のための組合せパートナーの例は、ホスホリパーゼA2阻害剤;チロシンキナーゼの阻害剤(50mgから600mg)、例えばPDGF-レセプターキナーゼ(EP-A-564409、WO 98/35958、US 5093330、WO 2004/005281及びWO 2006/041976参照);oxLDL抗体及びoxLDLワクチン;アポA-1 Milano;ASA;及びVCAM-1阻害剤である。
【0074】
さらにまた本発明の範囲内では、さらに任意でDPP-4阻害剤は1つ以上の抗酸化剤、抗炎症剤及び/又は血管内皮保護剤と組み合わせることができる。
抗酸化剤組合せパートナーの例はセレニウム、ベタイン、ビタミンC、ビタミンE及びベータカロテンである。
抗炎症剤組合せパートナーの例はペントキシフィリンであり、抗炎症剤組合せパートナーの別の例はPDE-4阻害剤、例えばテトミラスト、ロフルミラスト、又は3-[7-エチル-2-(メトキシメチル)-4-(5-メチル-3-ピリジニル)ピロロ[1,2-b]ピリザジン-3-イル]プロパン酸(又はUS 7153854、WO 2004/063197、US 7459451及び/又はWO 2006/004188に開示された他の種)である。
抗炎症パートナー薬のさらに別の例は、カスパーゼ阻害剤、例えば(3S)-5-フルオロ-3-({[(5R)-5-イソプロピル-3-(1-イソキノリニル)-4,5-ジヒドロ-5-イソキサゾリル]カルボニル}アミノ-4-オキソペンタン酸(又はWO 2005/021516及び/又はWO 2006/090997に開示された他の種)である。
血管内皮保護剤の例はPDE-5阻害剤、例えばシルデナフィル、バーデナフィル又はタダラフィルであり、血管内皮保護剤の別の例は酸化窒素ドナー又は刺激剤(例えばL-アルギニン又はテトラヒドロビオプテリン)である。
【0075】
さらにまた本発明の範囲内では、さらに任意でDPP-4阻害剤は、1つ以上の抗血小板薬剤、例えば(低用量)アスピリン(アセチルサリチル酸)、選択性COX-2又は非選択性COX-1/COX-2阻害剤、又はADPレセプター阻害剤、例えばチエノピリジン(例えばクレピドグレル又はプラスグレル)、エリノグレル又はチカグレラー、又はトロンビンレセプターアンタゴニスト、例えばボラパキサーと組み合わせることができる。
さらにまた本発明の範囲内では、さらに任意でDPP-4阻害剤は、1つ以上の抗凝固剤、例えばヘパリン、ワルファリン、又は直接的トロンビン阻害剤(例えばダビガトラン)、又はXa因子阻害剤(例えばリバロキサバン又はアピキサバン又はエドキサバン又はオタミキサバン)と組み合わせることができる。
さらにまた本発明の範囲内では、さらに任意でDPP-4阻害剤は、心不全の治療のために1つ以上の薬剤と組み合わせることができる。
心不全治療のための組合せパートナーの例は、ベータブロッカー、例えばアテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、メトプロロール及びネビボロール;利尿剤、例えばヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、キシパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリド及びトリアムテレン;ACE阻害剤、例えばラミプリル、リシノプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、フォシノプリル及びトランドラプリル;アンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン及びエプロサルタン;心臓グリコシド、例えばジゴキシン及びジギトキシン;結合アルファ/ベータブロッカー、例えばカルベジオール;血管拡張剤;抗不整脈薬;又はB型ナトリウム排泄増加ペプチド(BNP)及びBNP-誘導ペプチド及びBNP-融合生成物である。
さらにまた本発明の範囲内では、さらに任意でDPP-4阻害剤は、1つ以上のCCK-2又はガストリンアゴニスト、例えばプロトンポンプ阻害剤(H+/K+-ATPaseの可逆性阻害剤に加えて不可逆性阻害剤を含む)、例えばオメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール又はランソプラゾールと組み合わせることができる。
【0076】
本発明は、本明細書に記載した個々の実施態様によって範囲を限定されるべきではない。本明細書に記載したものに加えて多様な改変が本開示から当業者には明白となろう。そのような改変は本発明の範囲内に含まれるものである。
本明細書に引用した全ての特許出願は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
本発明のさらに別の実施態様、特色及び利点は以下の実施例から明らかとなろう。以下の実施例は、本発明を制限することなく本発明の原理を例証により詳述するために供される。
【実施例】
【0077】
抗酸化作用:
リナグリプチンの抗炎症性及び血管拡張性潜在能力
グリプチン(リナグリプチン、アログリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン)の直接的抗酸化作用は、キサンチンオキシダーゼ、ペルオキシ亜硝酸塩(真性及びSin-1誘導性)又は過酸化水素/ペルオキシダーゼ媒介1-電子-酸化による超酸化物生成の妨害によって評価される。これらの酸化は、フェノールの蛍光、ケミルミネセンス及び硝化(HPLCによりトレース)によって検出される。グリプチンの間接的抗酸化作用は、ホルボルエステルPDBu、エンドトキシンLPS及びチモサンA並びに化学走性ペプチドfMLPによって誘発される酸化バースト(NADPHオキシダーゼ活性化)の妨害によって単離ヒト白血球(PMN)で測定される。
グリプチンの直接的血管拡張作用は、単離大動脈輪断片における等長性緊張技術によって測定される。リナグリプチンの間接的抗酸化作用もまた、ニトログリセリン誘発硝酸塩耐性及びリナグリプチン処置(特別餌による7日間の3−10mg/kg/日)のラットモデルで、内皮機能(フェニルエフリン前収縮大動脈血管断片のアセチルコリン-依存弛緩)、平滑筋機能(ニトログリセリン依存弛緩)の等長性緊張記録による測定によって試験される。さらにまた、反応性酸素種及び窒素種(RONS)形成は、単離心臓ミトコンドリアで及び全血のLPS又はPDBu始動酸化バーストで測定される。さらにまた、リナグリプチンの抗炎症性潜在能力は、ウィスターラットのLPS(10mg/kgの24時間i.p.)誘発敗血症ショックの実験モデルで試験される。敗血症及びリナグリプチン共療法(7日間の特別餌3−10mg/kg/日)の影響は、等長性緊張記録、血管、心臓及び血管のRONS形成並びにウェスタンブロットによるタンパク質発現によって判定される。
【0078】
結果:
(
図1−6を参照)
直接的抗酸化特性:
全てのグリプチンのみが不十分な直接的抗酸化能力を示した。超酸化物形成のわずか(ただし有意)な抑制が、ペルオキシ亜硝酸塩形成/-媒介硝化に応答してビルダグリプチン及びリナグリプチンについて観察される。サキサグリプチンを除くすべてのグリプチンが過酸化水素/ペルオキシダーゼ系による1-電子酸化の有意な妨害を示し、リナグリプチンがもっとも強力な化合物である。
単離ヒト好中球における間接的抗酸化特性:リナグリプチンは、LPS及びチモサンAによるNADPHオキシダーゼ活性化に応答して、単離ヒト白血球の酸化バーストの最良の阻害を示す。L-012強化ケミルミネセンスを用いたとき、LPS(0.5、5及び50μg/mL)はPMN由来RONSシグナルを濃度依存態様で増加させ、リナグリプチンはこのシグナルを濃度依存的に抑制する。
ケミルミネセンスを強化するルミノ/ペルオキシダーゼによる実験では、リナグリプチンは、単離PMNのLPS又はチモサンA始動酸化バーストの抑制において他のグリプチンよりはるかに有効である。このアッセイでは、リナグリプチンはネビボロールと同程度に有効である。LPS依存RONS形成を阻害するこの有効性は、チモサンA始動RONSに対する抑制作用よりもいくぶん強い。これらの測定の全てが、他のグリプチンと比較したとき単離好中球におけるリナグリプチンの優れた抗酸化作用を支持している。
活性化好中球の内皮細胞への粘着の阻害:LPS刺激ヒト好中球の培養内皮細胞への粘着を調べることにより(粘着PMNの数はPDBu始動酸化バースト(アンプレクスレッド/ペルオキシダーゼ蛍光の測定であり得る)と相関する)、リナグリプチンは、LPS存在下での白血球の内皮細胞への粘着を抑制する。
【0079】
血管の機能不全及び/又は酸化ストレスの治療:
硝酸塩耐性ラットにおける血管の機能不全及び酸化ストレスに対するリナグリプチン治療の影響:器官浴での等長性緊張実験は、ニトログリセリン及びLPS処置は顕著な内皮機能不全及び硝酸塩耐性を誘発することを明らかにする。両因子によって惹起される内皮機能不全は、リナグリプチン療法によって顕著に改善されるが(
図8A及び8B)、硝酸塩耐性は変化しない。ニトログリセリン処置は、心臓ミトコンドリアのROS形成及び全血のLPS/チモサンA始動酸化バーストを引き起こす。これらの副作用のいずれもリナグリプチン治療によって改善される(
図7)。ニトログリセリン処置もリナグリプチン処置も動物の体重に影響を与えないが、血中グルコースレベルはニトログリセリングループでわずかに増加し、前記はリナグリプチン処置によって正常化される。
要約すれば、リナグリプチンのin vivo処置は、ニトログリセリン誘発内皮機能不全を軽減し、さらに単離心臓ミトコンドリアのROS形成及び硝酸塩耐性ラット由来全血の酸化バーストでわずかな改善を示す。
敗血症ラットにおける血管の機能不全及び酸化ストレスに対するリナグリプチンの影響:非常に類似するリナグリプチンの保護的作用が敗血症ショックの実験モデルで観察される。血管機能(Ach-、GTN-、及びジエチルアミンNONOate-依存弛緩)はLPSによって大きく障害され、前記はリナグリプチン処置によってほぼ正常化される。ミトコンドリア及び全血の(LPS、PDBu刺激)RONS生成はLPSによって劇的に増加し、リナグリプチン処置によって改善される。血管の酸化ストレス(DHE依存蛍光顕微鏡法により測定)及び血管炎症マーカー(VCAM-1、Cox-2、及びNOS-2)はLPS処置によって劇的に増加し、リナグリプチン療法によって顕著に改善される。同様な作用が、大動脈タンパク質チロシン硝化及びマロンジアルデヒド含有量(両者は酸化ストレスのマーカーである)および大動脈NADPHオキシダーゼサブユニット発現(Nox1及びNox2)について観察される。概念の証拠として、DPP-4活性及びGLP-1レベルが対応する動物で検出され、DPP-4の強力な阻害及び血漿GLP-1レベルのほぼ10倍の増加が明らかである。
グリプチンの直接的血管拡張作用:等長性緊張記録は、いくつかのグリプチンは10−100μMの濃度範囲で直接的血管拡張作用を示すことを明示している。リナグリプチンはもっとも強力な化合物であり、アログリプチン及びビルダグリプチンがその後に続き、一方、シタグリプチン及びサキサグリプチンは、血管拡張の誘発では溶媒コントロール(DMSO)より有効ではない(
図9A及び9B参照)。
これらの観察は、リナグリプチンの多面的な抗酸化及び抗炎症特性を支持し、前記特性は他のグリプチンとは共有されない(又はわずかな程度しか共有されない)。さらにまた、リナグリプチンは、LPSの存在による内皮細胞への白血球の粘着を低下させ、さらにニトログリセリン誘発及び炎症誘発内皮機能不全並びに酸化ストレスを改善する。このことは、リナグリプチンの内皮機能の改善及び心臓保護作用の支持に寄与し得る。したがって、リナグリプチンは、心脈管系疾患(高レベルの有病率及び死亡率を示す糖尿病合併症に続発する)に有利な影響を与える抗酸化作用を付与するという証拠が存在する。
【0080】
糖尿病腎症及びアルブミン尿症の治療:
内皮の損傷は2型糖尿病の特徴であり、末期腎疾患への進行の一因である。さらにまた、血管内皮のNOシンターゼ(eNOS)活性はT2Dで変化し、対応する遺伝子(NOS3)の遺伝的異常は、1型及び2型糖尿病の患者の更なる糖尿病性腎症の進行と密接に関係する。この遺伝的表現型(eNOS-/-)でT2Dを誘発するために低用量のSTZを使用することが最近報告され(Brosius et al. JASN 2009)、DNの有効な実験モデルとなっている。ストレプトゾトシン(2日連続100mg/kg/日)の腹腔内注射により8週齢のeNOS-/-マウスを糖尿病にする。糖尿病発症(血中グルコースが>250mg/dLと定義される)はストレプトゾシン注射の1週間後に立証される。インスリンは糖尿病腎症の発症を予防し得るので投与されない。以下によりマウスを4週間治療する:
1)非糖尿病コントロールマウス、プラセボ(ナトロソール)(n=14)
2)偽似処置糖尿病eNOS koマウス、プラセボ(ナトロソール)(n=17)
3)テルミサルタン(p.o. 1mg/kg)処置糖尿病eNOS koマウス(n=17)
4)リナグリプチン阻害剤(p.o. 3mg/kg)処置糖尿病eNOS koマウス(n=14)
5)テルミサルタン(1mg/kg)+リナグリプチン(3mg/kg)処置糖尿病eNOS koマウス(n=12)
腎機能(s-クレアチニン、アルブミン)及び血中グルコースレベルが検出される。
リナグリプチン、テルミサルタン又は前記の組合せとプラセボとの間でSTZ処置動物の血糖に有意な相違は検出されない(
図10参照)。
血中グルコースに対する影響が検出されないにもかかわらず、アルブミン/クレアチニン比はリナグリプチン+テルミサルタン投与グループで顕著に低下する(中央の棒線、
図11の5)。対応する1剤治療もまたアルブミン/クレアチニン比を低下させるが、有意ではない。非糖尿病対糖尿病動物のアルブミン/クレアチニン比もまた有意に低下する(
図11参照)。これらの効果は、腎臓保護及び糖尿病腎症及びアルブミン尿症の治療及び/又は予防でリナグリプチン及びテルミサルタンを使用することを支持する。リナグリプチンとテルミサルタンの組合せは、糖尿病腎症及びアルブミン尿症の患者又はそのリスクがある患者のための新規な治療アプローチを提供する。
【0081】
うっ血性心不全及び心臓肥大の治療:
我々は、グルコース/エネルギー供給は、心臓肥大を特徴とする心機能不全で特に重要であるという仮説を提唱する。不適切なエネルギー供給は、心機能不全をもたらす代償性から代償障害左心室肥大へのもっとも重要な工程の1つと考えられる。長期持続左心室不全及び病理学的リモデリングにより生じる高血圧誘発左心室肥大の古典的モデルは、2腎臓1腎血管狭窄高血圧(ゴールドバット)モデル(2K1Cモデル)である。
動物は3カ月間以下のレジメンで処置される:
1.2K1C-ラット、飲料水にテルミサルタン(10mg/kg KG)(n=14)
2.2K1C-ラット、餌にリナグリプチン(Bl1356)(89ppm、3−10mg/kg経口胃管栄養に匹敵)(n=15)
3.2K1C-ラット、餌にテルミサルタン(10mg/kg)+リナグリプチン(Bl1356)(89ppm)(n=15)
4.2K1C-ラット、プラセボ(n=17)
5.SHAM-ラット、プラセボ(n=11)
非侵襲性、収縮期血圧を複数の時点で全グループにおいて測定する(それぞれの化合物について、1.処置前;2.処置の1週間後;3.処置の4週間後;4.処置の6週間後;5.処置の12週間後;及び6.処置の6週間後)。
処置前に偽似処置動物のみ他のグループに対して有意な相違を示す。処置1週目から実験の終わりまで、テルミサルタン及びテルミサルタンとリナグリプチンとの組合せは賦形剤処置動物に対して常に有意である。テルミサルタンとリナグリプチンとの組合せは、プラセボ偽似処置動物のレベルに達し、さらにテルミサルタン1剤処置に加えて付加的効果を示す(
図12参照)。これらの効果は、心肥大及び/又はうっ血性心不全の治療及び/又は予防にリナグリプチン及びテルミサルタンを使用することを支持する。リナグリプチンとテルミサルタンとの組合せは、心肥大及び/又はうっ血性心不全の患者又はそのリスクがある患者のための新規な治療アプローチを提供する。
【0082】
尿毒症性心筋症の治療:
尿毒症性心筋症は、慢性腎疾患(前記はまた2型糖尿病の頻繁に見られる合併症である)を有する患者の有病率及び死亡率の実質的な一因である。グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は心臓機能を改善することができ、GLP-1は主としてジペプチジルペプチダーゼ(DPP-4)によって分解される。リナグリプチンは、腎不全の全病期で用量調節を実施することなく臨床的に(例えば2型糖尿病及び糖尿病腎症の患者で)用いることができる唯一のDPP-4阻害剤である。
慢性の腎の機能不全を有するラットモデルでリナグリプチンを精査する(5/6腎摘出[5/6N]):5/6N又は偽似手術から8週後に、ラットを3.3mg/kgのリナグリプチン又は賦形剤で4週間経口的に処置し、続いてDPP-4活性及びGLP-1レベルの定量のために血漿を72時間サンプリングする。実験の終了時に心臓組織をmRNA分析のために採集する。
5/6Nは、顕著な(p<0.01)GFRの低下(クレアチニンクリアランスにより測定)(偽似手術で2510±210mU24h;5/6Nで1665±104.3mU24h)及びシスタチンレベルの増加(偽似手術で700±35.7ng/mL;5/6Nで1434±77.6ng/mL)を引き起こす。DPP-4活性は全ての時点で顕著に低下し、偽似手術と5/6N動物との間で相違はない。対照的に、活性なGLP-1レベルは、最大血漿濃度(C
max;5/6Nでは6.36±2.58pg/mL、偽似手術では3.91±1.86pg/mL)及びAUC
(0-72h)(5/6Nでは201pg.h/mL、偽似手術では114 pg.h/mL;p<0.001)によって測定したとき、5/6N動物で顕著に増加する。心線維症マーカー(前線維症因子)、例えばTGF-β、マトリックスメタロプロテイナーゼ1の組織阻害剤(TIMP-1)並びにコラーゲン1α1及び3α1に加えて左心室機能不全マーカー、例えば脳ナトリウム排泄増加ペプチド(BNP)のmRNAレベルは、偽似手術動物に対して5/6Nでいずれも顕著に増加し、結果的にリナグリプチン処置によって低下又は正常化される(全てp<0.05、
図13参照)。
リナグリプチンは、ラットの腎不全モデルでGLP-1のAUCをほぼ2倍増加させ、さらに尿毒症ラットの心臓でBNP(左心室機能不全のマーカー)に加えて心線維症のマーカー(TGF-β、TIMP-1、Col1α1及びCol3α1)の遺伝子発現を低下させる。これらの効果は、尿毒症性心筋症の治療及び/又は予防でリナグリプチンを使用することを支持する。リナグリプチンは尿毒症性心筋症の患者に新規な治療アプローチを提供する。
【0083】
心筋虚血/再灌流後の梗塞サイズ及び心機能に対する影響:
この実験の目的は、本発明のキサンチン系DPP-4阻害剤の心臓作用(特に心筋虚血/再灌流、心臓機能又は梗塞サイズに対する影響)を、例えば間質細胞由来因子-1アルファ(SDF-1α)が関与する症状で評価することである。
雄のウィスターラットを以下の3グループに分ける:偽似手術、虚血/再灌流(I/R)、及びI/R+本発明のDPP-4阻害剤;n=10/グループ。DPP-4阻害剤はI/Rの2日前から始めて1日1回投与される。左腹側下降冠状動脈を30分間結紮する。5日後に心エコー検査を実施し、7日後に心臓カテーテル設置を実施する。DPP-4阻害剤は、絶対的梗塞サイズ(-27.8%;p<0.05)、全リスク面積に対する梗塞組織の割合(-18.5%;p<0.05)、及び心筋線維症の範囲(-31.6%;p<0.05)を顕著に低下させる。DPP-4阻害剤は、CD34-、CXCR4-及びC-kit-発現を特徴とする幹細胞/前駆細胞の蓄積及び梗塞心筋の活性SDF-1αに対する心臓免疫反応性を顕著に増加させる。左心室拍出分画は7日後に全MIグループで類似するが、DPP-4阻害は梗塞サイズを減少させ、線維性リモデリングを低下させ、さらにSDF-1αの分解を阻止することによって梗塞領域の幹細胞密度を増加させる。
本発明のキサンチン系DPP-4阻害剤は心筋梗塞後の梗塞サイズを減少させることができる。作用メカニズムは、SDF-1αの分解低下とその後の循環CXCR-4
+幹細胞の補充の増加及び/又はインクレチンレセプター依存経路を含むことができる。
これらのデータは、心筋虚血/再灌流の治療又は予防及び/又は心臓保護で、幹細胞の補充の増加、組織修復の改善、心筋再生の活性化、梗塞サイズの減少、線維性リモデリングの低下及び/又は梗塞心臓領域における幹細胞の密度の増加における本発明のキサンチン系DPP-4阻害剤の有用性を強化する。
梗塞サイズは将来のイベント(死亡率を含む)の予測因子であるということによれば、本発明のキサンチン系DPP-4阻害剤は,心臓(収縮期)機能、心臓収縮性及び/又は心筋虚血/再灌流後の死亡率の改善にさらに有用であり得る。
【0084】
心筋虚血/再灌流後の梗塞サイズ及び心臓機能に対するリナグリプチンの影響:
材料と方法:雄のウィスターラットを以下の3グループに分ける:偽似手術、I/R、及びI/R+リナグリプチン(n=16−18/グループ)。リナグリプチンはI/Rの30日前に開始し1日1回投与される(3mg/kg)。IRは、左腹側下降冠状動脈の30分間結紮によって誘発し、58日後に心エコー検査を実施し、60日後に心臓カテーテル設置を実施する。
リナグリプチンは、この虚血再灌流損傷モデルで、全リスク面積に対する梗塞組織の割合(-21%;p<0.001)に加えて絶対的梗塞サイズ(-18%;p<0.05)を減少させる。さらにまた、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)レベルは18倍増加し(p<0.0001)、さらにDPP-4活性は78%低下する(p<0.0001)。左心室左端拡張期及び収縮期圧に加えて心エコー検査のパラメーターはグループ間で類似し、等容性収縮性インデックス(dP/dT
min)の顕著な改善(-4771±79mmHg/sから-4957±73mmHg/s)又は左心室圧の降下の最大速度の改善を示す。これらのデータはさらに急性心筋梗塞の開始におけるリナグリプチンの心臓保護機能を支持する。
【0085】
ARB耐性糖尿病腎症の治療:
糖尿病性腎症のための改善治療の要求は、アンギオテンシンレセプターブロッカー(ARB)に適切に応答しない患者で極めて高い。本実験では、糖尿病eNOS koマウス(ヒトの病理に近似する新規モデル)の糖尿病腎症の進行における、単独又はARBテルミサルタン併用リナグリプチンの影響が精査される。
65匹の雄のeNOSノックアウトC57BL/6Jマウスを、高用量ストレプトゾシンの腹腔内投与後に以下の4グループに分割した:テルミサルタン(1mg/kg)、リナグリプチン(3mg/kg)、リナグリプチン+テルミサルタン(3+1mg/kg)、及び賦形剤。14匹のマウスを非糖尿病コントロールとして用いる。12週後、尿及び血液を入手し、さらに血圧を測定する。グルコース濃度は増加し、これは全糖尿病グループで同様である。テルミサルタン単独は、糖尿病コントロールに対して軽度に(5.9mmHg)血圧を低下させ(111.2±2.3mmHg vs 117.1±2.2mmHg;平均±SEM;それぞれn=14;p=0.071)、他の処置はいずれも有意ではない。併用治療は、糖尿病コントロールと比較してアルブミン尿症を有意に緩和するが(71.7±15.3μg/24h vs 170.8±34.2μg/24h;n=12−13;p=0.017)、テルミサルタン(97.8±26.4μg/24h;n=14)又はリナグリプチン(120.8±37.7μg/24h;n=11)のどちらかによる単独治療の効果は統計的には有意ではない(
図14参照)。リナグリプチン(単独及び併用)は、テルミサルタン単独(値は糖尿病コントロールと類似する)と比較して有意に低い血漿オステオポンチンレベルをもたらす。血漿TNF-α濃度は、全処置グループで賦形剤処置グループよりも有意に低い。血漿好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)レベルは、未処置糖尿病コントロールと比較してテルミサルタンによる処置後に顕著に増加し、この影響はリナグリプチンとの併用治療によって予防される。
さらにまた、リナグリプチン(単独及びテルミサルタンとの併用)は、組織学的スコアによって測定したとき糖尿病コントロールと比較して腎臓の糸球体硬化症を有意に緩和するが(2.1+/-0.0 vs 2.4+/-0.0;p<0.05)、テルミサルタン単独で達成される緩和は有意な相違ではない。結論すれば、リナグリプチンは、ARB難治性である糖尿病eNOSノックアウトマウスで(例えば血圧非依存性態様で)尿中アルブミン排泄を有意に減少させる。これらの作用は、腎臓保護において及びARB耐性糖尿病腎症の治療及び/又は予防においてリナグリプチンを使用することを支持し得る。リナグリプチンは、ARB治療に耐性を示す患者のための新規な治療アプローチを提供できる。
【0086】
糖尿病の開始を遅らせ、非肥満1型糖尿病でベータ細胞機能を保持する:
膵臓T細胞遊走の低下及びサイトカイン産生の変化はインスリン炎発症の重要な要素と考えられるが、膵臓細胞プールにおける正確なメカニズム及び作用はなお完全には理解されていない。膵臓の炎症及びベータ-細胞量に対するリナグリプチンの影響を評価する試みで、60日の実験期間に及ぶ非肥満糖尿病(NOD)マウスの糖尿病進行を、膵臓の細胞性変化の終末血清学的評価と組み合わせて調査する。
60匹の雌のNODマウス(10週齢)を本実験に含め、実験期間を通して通常飼料又はリナグリプチン含有(0.083gリナグリプチン/kg飼料;3−10mg/kg(p.o.)に対応する)飼料を給餌する。2週間毎に血漿サンプルを入手して、糖尿病の開始を決定する(BG>11mmol/L)。終了時に膵臓を取り出し、終末血液サンプルを活性なGLP-1レベルの評価のために入手する。
実験期間終了時に、糖尿病発症率は、コントロール群(30匹のマウスのうち18匹;p=0.021)と比較してリナグリプチン処置マウス(30匹のマウスのうち9匹)で有意に減少する。その後のベータ細胞量(インスリン免疫反応性によって同定)の血清学的評価は、リナグリプチン処置マウスで顕著に高いベータ細胞量(賦形剤0.18±0.03mg;リナグリプチン0.48±0.09mg、p<0.01)及び全島量(賦形剤0.40±0.04mg;リナグリプチン0.70±0.09mg、p<0.01)を示す。リナグリプチンには島周囲浸潤リンパ球減少の傾向がある(1.06±0.15;リナグリプチン0.79±0.12mg;p=0.17)。予想したように、活性な血漿GLP-1はリナグリプチン処置マウスで高い。
要約すれば、本データは、リナグリプチンは1型糖尿病モデル(NODマウス)で糖尿病の発症を遅らせることができることを示している。この動物モデルで観察できる強いベータ細胞慰撫作用は、そのようなDPP-4阻害剤は活性なGLP-1レベルを増加させることによってベータ細胞を保護するだけでなく、直接的又は間接的抗炎症作用を示すことができることを示している。これらの効果は、1型糖尿病又は成人の潜伏性自己免疫糖尿病(LADA)の治療及び/又は予防でリナグリプチンを使用することを支持し得る。リナグリプチンは、1型糖尿病又はLADAの患者又は前記のリスクがある患者のための新規な治療アプローチを提供し得る。
【0087】
体重、全体脂肪、肝臓脂肪及び筋細胞内脂肪に対するリナグリプチンの影響:
さらに別の実験では、食事誘導肥満(DIO)の非糖尿病モデルの体重、全体脂肪、筋細胞内脂肪及び肝脂肪に対するリナグリプチンの長期治療の影響が、食欲抑制サブトラミンと比較して精査される。
ラットに高脂肪食を3カ月間給餌し、さらに賦形剤、リナグリプチン(10mg/kg)又はシブトラミン(5mg/kg)をさらに6週間投与しながら高脂肪食を継続する。全体脂肪、筋肉脂肪及び肝臓脂肪の磁気共鳴分光(MRS)分析を処置前及び実験終了時に実施する。
シブトラミンは、コントロールに比して顕著な体重減少(-12%)を引き起こすが、リナグリプチンは有意な影響を示さない。全体脂肪はまたシブトラミンによって有意に減少するが(-12%)、リナグリプチン処置動物は有意な低下を示さない(-5%)。しかしながら、リナグリプチン及びシブトラミンは、筋細胞内脂肪の強い低下をもたらす(それぞれ-24%及び-34%)。さらにまた、リナグリプチン処置は肝脂肪の激しい低下(-39%)をもたらすが、シブトラミン(-30%)の影響は有意ではない(下表参照)。したがって、リナグリプチンは重量に関しては不明確であるが、筋細胞内脂質及び肝脂質蓄積を改善する。組織学的スコアリングによって測定した肝臓の脂肪症、炎症及び線維症の緩和もまたリナグリプチン処置について観察される。
【0088】
表:体重、全体脂肪、肝臓脂肪及び筋肉細胞内脂肪に対するリナグリプチンの影響
結論すれば、リナグリプチン処置は、筋細胞内脂質及び肝脂質の強い低下を惹起し、前記は両方とも体重低下とは別個である。リナグリプチン処置は、さらに別に肝脂肪症(例えばNAFLD)の影響を受ける糖尿病患者に対し更なる利益を提供する。シブトラミンの筋肉脂肪及び肝臓脂肪に対する影響は、主としてこの化合物によって誘発される既知の体重低下による。
【0089】
リナグリプチンはグリメピリドと同様の有効性を有するが、メトフォルミンで不適切に管理された2型糖尿病患者で2年間にわたって心脈管系の安全性を改善する:
2年ダブルブラインド試験で、2型糖尿病治療のために使用中のメトフォルミンにリナグリプチン又はグリメピリドを付加することの長期有効性及び安全性が精査される。10週間以上の安定メトフォルミン(1500mg/日以上)適用T2DM患者を、2年間にわたるリナグリプチン(5mg/日、N=764)又はグリメピリド(1−4mg/日、N=755)適用のために任意抽出する。有効性の分析は、完全分析セット(FAS)集団及び各プロトコル(PP)集団におけるHbA1cの基準線からの変化を基にする。安全性評価には、予め指定した予測的でさらに裁定が実施される心脈管系(CV)イベント(CV死、非致死的心筋梗塞又は卒中、入院を伴う不安定狭心症)の捕捉が含まれる。基準線の特徴は2グループで良好に均衡を保つ(両グループについてHbA1c 7.7%)。PP集団では、基準線からの調整平均(±SE)HbA1c変化はリナグリプチン(5mg/日)については-0.4%(±0.04%)に対しグリメピリド(平均用量3mg/日)については-0.5%(±0.04%)である。グループ間の平均差は0.17%である(95% CI、0.08−0.27%;ノンインフェリオリティーを示すp=0.0001)。同様な結果がFAS集団でも観察される。グリメピリドよりもリナグリプチンを用いたときにはるかに少ない患者が、調査者が規定する薬剤関連低血糖を経験する(7.5% vs 36.1%;p<0.0001)。体重はリナグリプチンで減少し、グリメピリドで増加する(-1.4kg vs +1.3kg;調整平均差、-2.7kg;p<0.0001)。CVイベントは、26人のグリメピリド患者(3.4%)に対し13人のリナグリプチン患者(1.7%)で発生し、総合したCV終了点のための相対的リスクで有意な50%減少を示す(RR、0.50;95% CI、0.26−0.96;p=0.04)。結論すれば、メトフォルミン単独療法に付加するとき、リナグリプチンはグリメピリドと同様なHbA1c低下を提供するが、リナグリプチンは低血糖、相対的体重減少が少なく、さらに裁定が実施されたCVイベントの数は有意に少ない。
【0090】
2型糖尿病患者のリナグリプチンによる心脈管系リスク:フェースIII広範囲プログラムに基づく予め指定の予測的でさらに裁定が実施される後解析:
2型真性糖尿病(T2DM)のグルコース低下における心脈管系(CV)の利点は、特に血糖低下が強すぎる場合には現在のところ論争がある。いくつかの薬剤使用は、予想に反して悪化したCVの結果を伴うことが報告されている。
リナグリプチンは、腎機能低下のための用量調節が不要の1回服用として利用できる、最初の1日1回のDPP-4阻害剤である。リナグリプチンは、体重増加又は低血糖リスク増加のない(CVの利点となり得る)血糖管理を達成する。
DPP-4阻害剤リナグリプチンのCVプロフィールを精査するために、8つのフェースIII任意抽出ダブルブラインド管理試験(12週間以上)から得られる全てのCVイベントに関し予め指定の後分析を実施する。CVイベントは事前に情報を与えられていない無関係のエキスパート委員会によって予測的に裁定される。この分析の第一次終了点は、CV死、非致死的卒中、非致死的心筋梗塞(MI)及び不安定狭心症のための入院(UAP)の複合物である。他の二次及び三次終了点(FDAの慣行的主要CVイベント副作用(MACE)を含む)もまた評価される。
含まれる5239人の患者(HbA
1cの平均基準線は8.0%)のうち、3319人がリナグリプチンを1日1回投与され(5mg:3159人、10mg:160人)、1920人が比較物質(プラセボ:997人、グリメピリド:781人、ボグリボース:162人)を投与される。累積曝露(各人年数)はリナグリプチンについて2060及び比較物質について1372である。結果として、裁定が実施された一次CVイベントは、リナグリプチン投与患者は11人(0.3%)で、比較物質投与は23人(1.2%)で発生する。一次終了点についてのハザード比は比較物質に対してリナグリプチンで有意に低く、他の終了点の全てについての比較物質に対するハザード比はリナグリプチンで同様であるか、又は有意に低い(TABLE)。
これは、広範囲フェースIIIプログラムにおける、DPP-4阻害剤の予め指定の予測的で別個に裁定が実施された最初のCV後分析である。明らかな限界を有する後分析であるが、このデータはリナグリプチンの潜在的なCVイベントの低下を支持する。
【0091】
TABLE:
*有意に低いハザード比(上限95%CI<1.0;p<0.05)
【0092】
心脈管系リスクが高い2型真性糖尿病患者の治療:
2型真性糖尿病患者の関連集団におけるリナグリプチン治療の心脈管系有病率及び死亡率並びに関連する有効性パラメーターに対する長期的影響を以下のように精査する:
不十分な血糖管理(治療にナイーブであるか又は現時点で例えばメトフォルミン及び/又はアルファ-グルコシダーゼ阻害剤(1剤又は2剤療法)で治療されているか(例えばHbA1cが6.5−8.5%)、又は現時点でメトフォルミン又はアルファ-グルコシダーゼ阻害剤の存在下若しくは非存在下で例えばスルホニルウレア又はグリニド(1剤又は2剤療法)で治療されている(例えばHbA1cが7.5−8.5%))、及び高い心脈管系イベントリスク(例えば下記に示すリスク因子A)、B)、C)及びD)の1つ以上に規定される)を有する2型糖尿病患者を、リナグリプチン(場合によって1つ以上の他の活性物質(例えば本明細書に記載されているもの)と併用される)で一定の期間(例えば2年以上、4−5年又は1−6年)治療し、さらに他の抗糖尿病医薬(例えばスルホニルウレア、例えばグリメピリド)又はプラセボで処置した患者と比較する。他の抗糖尿病医薬又はプラセボ処置患者と比較して治療が成功しているという証拠は、単一合併症又は複数合併症の数が少ないことで(合併症は、例えば心脈管系又は脳血管性イベント、例えば心脈管系死、心筋梗塞、卒中又は入院(例えば急性冠状動脈症候群、脚切断、緊急脈管再生術のため又は不安定狭心症のための入院))、又は好ましくはそのような合併症の最初の出現に要する時間がより長くなることで(例えば以下の一次複合終了点の構成要素(心脈管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中、及び不安定狭心症による入院)のいずれかの最初の出現の時間が長くなることで)知ることができる。
さらに別の治療的成功は、試験治療を受けている患者のより大きな割合で、試験終了時に救急医療の必要が無くかつ体重増加(例えば2%以上)も無く血糖管理(例えばHbA1cが7%以下)が維持されていることで知ることができる。さらに別の治療的成功は、試験治療を受けている患者のより大きな割合で、試験終了時に救急医療の必要が無くかつ中等度/重度の低血糖エピソードが無くかつ体重増加(例えば2%以上)も無く血糖管理(例えばHbA1cが7%以下)が維持されていることで知ることができる。
さらに別の治療的成功は、グリメピリドによる治療に比して、リスク低下(例えば好ましくは20%のリスク低下)を示すリナグリプチンによる治療のCV優良性で知ることができる。
心脈管系イベントのリスク因子A)、B)、C)及びD)は以下のとおりである:
A)以前の脈管系疾患(例えば年齢40−85歳):
−心筋梗塞(例えば6週間以上)、
−冠状動脈疾患(例えば血管造影図において左の主冠状動脈又は少なくとも2つの主要な冠状動脈で管腔径の50%以上の狭窄)、
−経皮冠状動脈介入(例えば6週間以上)、
−冠状動脈バイパス移植(例えば4年以上、又は手術後再発狭心症を示す)、
−虚血性又は出血性発作(例えば3カ月以上)、
−末梢閉塞性動脈疾患(例えば以前の四肢バイパス手術又は経皮的管腔貫通血管形成術;循環不全による以前の四肢又は脚切断;血管造影又は超音波により検出された、主要な四肢動脈(総腸骨動脈、内部腸骨動脈、外部腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈)の重大な血管狭窄(50%を超える狭窄)、間歇的跛行の病歴(足根関節に関する);少なくとも一側の腕の血圧比が0.90未満)、
B)血管関連末端器官疾患(例えば年齢40−85歳):
−腎機能障害(MDRD処方箋によって規定される例えば中等度の腎機能障害でeGFRF30−59mL/分/1.73m
2)、
−ミクロアルブミン又はマクロアルブミン尿症(例えばミクロアルブミン尿症、又はランダムスポット尿アルブミン:クレアチン比が30μg/mg以上)、
−網膜症(例えば増殖性網膜症、又は網膜新生血管形成若しくは以前の網膜レーザー凝固療法)、
C)高齢(例えば年齢が70歳以上):
D)以下の心脈管系リスク因子の少なくとも2つ(例えば年齢40−85歳):
−進行した2型真性糖尿病(例えば10年を超える期間)、
−高血圧(例えば収縮期血圧>140mmHg又は少なくとも1つの血圧低下治療)、
−現時点で毎日の喫煙、
−(アテローム形成性)異常脂肪血症又はLDLコレステロールの高い血中レベル(例えばLDLコレステロールが135mg/dL以上)又は少なくとも1つの脂質異常の治療、
−(内臓及び/又は腹部)肥満(例えば体容積指数が45kg/m
2以上)、
−年齢が40歳以上で80歳以下。
【0093】
認知機能(例えば認知低下、精神運動速度の変化、心理学的安定)、β細胞機能(例えば3h食事耐性試験に関するインスリン分泌速度、長期β細胞機能)、腎機能パラメーター、日周期グルコースパターン(例えば行動時グルコースプロフィール、血糖変動性、酸化、炎症及び内皮機能のバイオマーカー、認知、及びCV有病率/死亡率)、無症状MI(例えばECGパラメーター、CV予防特性)、LADA(例えば救急治療法の使用又はLADAにおける疾患の進行)、及び/又はβ細胞自己抗体状態(例えばGAD)でのグルコース管理の持続性に対するリナグリプチン治療の有益な効果(例えば改善)が支流試験で精査される。