(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
【0020】
図1は本発明の第1実施形態に係るエンジンを搭載した自動二輪車の側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、このメインフレーム1の後部に取り付けられて車体フレームFRの後半部を形成するシートレール2とを有している。メインフレーム1の前端に設けられたヘッドパイプ4に、図示しないステアリングシャフトを介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されて、このフロントフォーク8に前輪10が取り付けられている。フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0021】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、ピボット軸16を介してスイングアーム12が上下揺動自在に軸支され、このスイングアーム12の後端部に後輪14が回転自在に支持されている。メインフレーム1の下部にエンジンEが取り付けられている。エンジンEの回転が、車両駆動用の変速機であるトランスミッション13を介して、車体左側に配置されたチェーンのような伝達機構11に伝達され、この伝達機構11を介して後輪14が駆動される。
【0022】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、リヤフレーム2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、前記ヘッドパイプ4の前方を覆う樹脂製のフロントカウル22が装着されている。フロントカウル22には、外部からエンジンEへの吸気Iを取り入れる吸気取入口24が形成されている。
【0023】
エンジンEは、車幅方向に延びる回転軸であるクランクシャフト26を有する4気筒4サイクルの並列多気筒エンジンである。エンジンEの形式はこれに限定されない。エンジンEは、クランクシャフト26を支持するクランクケース28と、クランクケース28の上部に連結されたシリンダブロック30と、その上部に連結されたシリンダヘッド32と、シリンダヘッド32の上部に取り付けられたヘッドカバー32aと、クランクケース28の下部に取り付けられたオイルパン34とを有している。クランクケース28の後部は、トランスミッション(変速機)13を収納するミッションケースを構成している。クランクケース28は、割り面31において上下二つ割りとなったケース上半体280とケース下半体282とからなる。
【0024】
これらクランクケース28、シリンダブロック30、シリンダヘッド32、ヘッドカバー32a、およびオイルパン34によりエンジン本体EBが構成されている。エンジン本体EBのうち、クランクケース28、シリンダブロック30およびシリンダヘッド32は、アルミダイキャストにより型成形された成形品である。本実施形態では、クランクケース28のケース上半体280とシリンダブロック30とが型成形により一体に形成されている。
【0025】
シリンダブロック30およびシリンダヘッド32は若干前傾している。具体的には、エンジンEのピストン軸線が上方に向かって前方に傾斜して延びている。シリンダヘッド32の後部に吸気ポート47が設けられている。シリンダヘッド32の前面の排気ポートに接続された4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラ38に接続されている。シリンダブロック30の後方でクランクケース28の後部の上部に、外気を取り込んで吸気IとしてエンジンEに供給する過給機42が配置されている。すなわち、過給機42は、トランスミッション13の上方に位置している。
【0026】
過給機42は、吸込口46から吸引した外気を圧縮して、その圧力を高めたのち吐出口48から吐出して、エンジンEに供給する。これにより、エンジンEに供給する吸気量を増大させることができる。過給機42は、クランクケース28の後部の上方に左向きに開口した吸込口46が位置し、エンジンEの車幅方向の中央部に上方を向いた吐出口48が位置している。
【0027】
図2に示すように、過給機42は、遠心式過給機であり、車幅方向に延びる過給機回転軸44と、過給機回転軸44に固定されたインペラ50と、インペラ50を覆うインペラハウジング52と、エンジンEの動力をインペラ50に伝達する伝達機構54と、過給機回転軸44の一部と伝達機構54を覆うケーシング56とを有している。本実施形態では、伝達機構54として、遊星歯車装置からなる増速機54が用いられている。
【0028】
これらインペラハウジング52と、ケーシング56と、後述のスプロケットカバー103(
図6)とにより過給機ケースCSが構成されている。過給機ケースCSは、ボルト57によりエンジンEのクランクケース28の上面に固定されている。インペラハウジング52を挟んで車幅方向に伝達機構54とエアクリーナ40とが配置されている。インペラハウジング52は、ボルト53によりエアクリーナ40と連結されている。
【0029】
図3に示すように、クランクケース28の上面に開口OPが形成され、この開口OPが、クランクケース28の上面に支持された過給機ケースCS(
図2)により塞がれている。すなわち、過給機ケースCS(
図2)は開口OPの蓋部としても機能する。開口OPの周壁165の上面は、過給機ケースCS(
図2)との合わせ面166となる。
【0030】
過給機42の吸込口46にエアクリーナ40のクリーナ出口62が接続され、クリーナ入口60に、シリンダブロック30の前方を流れる走行風Aを過給機42に導入する吸気ダクト70が車幅方向外側から接続されている。クリーナ入口60と吸気ダクト70の導出口70bとは、それぞれの外周に設けられた連結用フランジ63,65を複数のボルト55で連結することにより接続されている。これら連結用フランジ63,65に、吸気Iを浄化するクリーナエレメント41が内蔵されている。
【0031】
過給機42の吐出口48と
図1のエンジンEの吸気ポート47との間に吸気チャンバ74が配置されている。吸気チャンバ74は、過給機42から吸気ポート47に供給される吸気Iを溜める。吸気チャンバ74は、過給機42の上方に配置され、その大部分がシリンダブロック30の後方に位置している。
【0032】
吸気チャンバ74とシリンダヘッド32との間には、スロットルボディ76が配置されている。このスロットルボディ76において、吸入空気中に燃料が噴射されて混合気が生成され、この混合気がシリンダ内に供給される。これら吸気チャンバ74およびスロットルボディ76の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0033】
吸気ダクト70は、前端開口70aをフロントカウル22の吸気取入口24に臨ませた配置でメインフレーム1に支持されており、開口70aから導入した走行風Aをラム効果により昇圧させ、吸気Iとして過給機42に導入する。吸気ダクト70は、車体の左側に配置され、側面視で、ハンドル6の先端部の下方からエンジンEのシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の外側を通過する。
【0034】
図3に示すように、エンジンEは、オイルパン34内の潤滑油OLをエンジン本体Eに圧送するオイルポンプ69と、オイルポンプ69の下流に配置されて潤滑油OLを浄化するオイルフィルタ71と、オイルフィルタ71の下流に配置されて潤滑油を冷却するオイルクーラ73とを備えている。オイルフィルタ71およびオイルクーラ73は、クランクケース28の前面28aに第1方向である車幅方向(左右方向)に並んで配置されている。
【0035】
図4に示すように、シリンダCY内にピストン75が配置され、ピストン75がコネクティングロッド77を介してクランクシャフト26に接続されている。
【0036】
図6に示すように、エンジンEのクランク軸26の車幅方向一方側である右側の端部に、クラッチ67を駆動するクラッチギヤ72が設けられ、このクラッチギヤ72よりも左側に過給機42を駆動する過給機用ギヤ80が設けられている。クランク軸26の過給機用ギヤ80に噛み合う従動側過給機用ギヤ84が過給機駆動軸78に一体回転するようにスプライン嵌合されている。過給機駆動軸78は、軸受87を介してクランクケース28に回転自在に支持されている。
【0037】
本実施形態では、
図4に示す過給機用ギヤ80は、クランク軸26と同じ方向に回転する第1のバランサ軸89を駆動するアイドラギヤを兼ねている。クランク軸26を挟んで過給機駆動軸78の反対側に、クランク軸26と逆方向に回転する第2のバランサ軸91が配置されている。
【0038】
図6のスタータギヤ86がころ軸受83を介して過給機駆動軸78に相対回転自在に支持され、従動側過給機用ギヤ84とスタータギヤ86との間にスタータワンウェイクラッチ85が介在されている。スタータギヤ86に、トルクリミッタ88を介してスタータモーター90が接続されている。
【0039】
過給機駆動軸78の右側端部にスプロケット92が設けられている。このスプロケット92の歯車92aに、エンジンEの動力を過給機42に伝達する無端動力伝達部材であるチェーン94が掛け渡されている。チェーン94は、過給機42の吸込口46の車幅方向反対側である右側に配置されている。
【0040】
クランク軸26の回転力が、過給機駆動軸78からチェーン94を介して、過給機回転軸44に連結された入力軸65に伝達されている。詳細には、入力軸65の右側端部に、スプロケット96が設けられ、このスプロケット96の歯車96aにチェーン94が掛け渡されている。入力軸65は、増速機54の回転軸である。
【0041】
入力軸65は中空軸からなり、軸受98を介してケーシング56に回転自在に支持されている。入力軸65における右側端部65bの外周面にスプライン歯が形成され、この外周面にスプライン嵌合されたワンウェイクラッチ100を介して、前記スプロケット96が入力軸65に連結されている。
【0042】
入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、ワンウェイクラッチ100が、この雌ねじ部に螺合されたボルト102の頭部により、ワッシャ104を介して、右側端部65bに装着されている。これら増速機ワンウェイクラッチ100、第2スプロケット96およびボルト102は、ケーシング56の右側端部に連接されたスプロケットカバー103に収納されている。スプロケットカバー103の右側端部には、車体外側を向いた開口105が形成され、この開口105がキャップ107により塞がれている。スプロケットカバー103とケーシング56は一体に形成してもよい。
【0043】
過給機42の過給機回転軸44の左側端部44aに前記インペラ50が固定され、入力軸65の左側端部65aに、増速機54である遊星歯車装置106を介して過給機回転軸44の左側部44bが連結されている。
【0044】
過給機回転軸44は、軸受99を介してケーシング56に回転自在に支持されている。軸受99は、軸受ホルダ101に収納されている。ケーシング56は、入力軸65を支持する入力軸ケース部56Rと、過給機回転軸44を支持する回転軸ケース部56Lとからなり、これら入力軸ケース部56Rと回転軸ケース部56Lとが、ボルトのようなケーシング締結部材108を用いて連結されている。さらに、インペラハウジング52が、ボルトのようなハウジング締結部材110を用いてケーシング56の入力軸ケース部56Rに連結され、スプロケットカバー103が回転軸ケース部56Lに連結されている。インペラハウジング52には、左側に開口した前記吸込口46と上方に開口した前記吐出口48とが形成されている。
【0045】
スプロケットカバー103が、ボルト57(
図2)によりクランクケース28に固定されている。つまり、ケーシング56とインペラハウジング52は、スプロケットカバー103を介してクランクケース28に支持され、クランクケース28の上面に対して上下方向に隙間をあけて配置されている。換言すれば、ケーシング56およびインペラハウジング52は、スプロケットカバー103によって片持ち支持されている。
【0046】
図7に示す過給機ケースCSは、過給機42の過給機回転軸44を支持する軸受部56aと、クランクケース28の内部に形成された過給機潤滑通路130の出口130aに連通して、軸受部56aまで潤滑油を導く過給機ケース側潤滑油通路56bとを有している。クランクケース28は、走行風が衝突しやすく、さらに金属で形成されているので、放熱することで温度上昇が抑制される。過給機潤滑通路130は、クランクケース28のうち、シリンダブロック30から離れた部分や、車幅方向外側の走行風が接触しやすい部分等の比較的温度が低い部分に形成されるのが好ましい。過給機潤滑通路130の詳細は後述する。
【0047】
上述のように、
図6の遊星歯車装置106は入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、ケーシング56に支持されている。過給機回転軸44の右側端部44bに、外歯112が形成されており、この外歯112に複数の遊星歯車114が周方向に並んでギヤ連結されている。すなわち、過給機回転軸44の外歯112は、遊星歯車装置106の太陽歯車として機能する。さらに、遊星歯車114は径方向外側で大径の内歯車(リングギヤ)116にギヤ連結している。遊星歯車114は、ケーシング56に装着された軸受120によりキャリア軸122に回転自在に支持されている。
【0048】
キャリア軸122は固定部材118を有しており、この固定部材118がケーシング56にボルト124により固定されている。つまり、キャリア軸122は固定されている。内歯車116には入力軸65の左側端部に設けられた入力ギヤ126がギヤ連結されている。このように、内歯車116が入力軸65と同じ回転方向に回転するようにギヤ接続され、キャリア軸122が固定されて遊星歯車114は内歯車116と同じ回転方向に回転する。太陽歯車(外歯車112)は出力軸となる過給機回転軸44に形成されており、遊星歯車114と反対の回転方向に回転する。つまり、遊星歯車装置106は、入力軸65の回転を増速して、入力軸65と反対の回転方向で過給機回転軸44に伝達している。
【0049】
図8に示すように、前記オイルフィルタ71の流入路132に、前記オイルポンプ69の吐出通路134が接続され、オイルフィルタ71の流出路136と前記オイルクーラ73の流入路138とが、フィルタ・クーラ連通路140で連通している。オイルクーラ73の下流側の流出路142は、エンジン本体EBに潤滑油を供給するメイン潤滑通路であるエンジン潤滑通路144に連通している。これらオイルフィルタ71の流入路132、流出路136およびオイルクーラ73の流入路138、流出路142は、クランクケース28の前壁に形成され、前後方向に延びている。
【0050】
オイルフィルタ71とオイルクーラ73との間、詳細には、フィルタ・クーラ連通路140に、トランスミッション13、過給機42、過給機駆動軸78等に潤滑油Oを供給するサブ潤滑通路146が接続されている。つまり、オイルポンプ69は、メイン潤滑通路(エンジン潤滑通路群)144とサブ潤滑通路146の両方に共通の潤滑油Oを供給する。
【0051】
メイン潤滑通路144は、オイルクーラ73の流出路142に接続されて左右方向(第1方向)に延びる第1のエンジン潤滑通路148と、第1のエンジン潤滑通路148に接続されて、前方(オイルフィルタ側)に延びる第2のエンジン潤滑通路150とを有している。第2のエンジン潤滑通路150、オイルフィルタ71の流入路132、流出路136およびオイルクーラ73の流入路138、流出路142が、エンジン本体EBの壁内に、互いに平行に形成されている。
【0052】
第1のエンジン潤滑通路148の一部とフィルタ・クーラ連通路140とは、クランクケース28の壁の内部に互いに平行に形成されている。つまり、第1のエンジン潤滑通路148の一部とフィルタ・クーラ連通路140は、左右方向(第1方向)に延びている。
【0053】
まず、エンジン潤滑通路群からなるメイン潤滑通路144について説明する。
図9および
図10は、クランクケース28およびシリンダブロック30の壁に内部に形成された潤滑通路を示す。
図9に示すように、左右方向に延びる第1のエンジン潤滑通路148から5本のクランクシャフト軸受潤滑通路152が上方に延びている。クランクシャフト軸受潤滑通路152は、
図6のクランクケース28における軸受部29の内部に形成されて、クランクシャフト26の軸受面を潤滑する。
【0054】
図10のメイン潤滑通路144は、さらに、第2のエンジン潤滑通路150から第2方向である上方に延びる第3のエンジン潤滑通路154を有している。詳細には、第3のエンジン潤滑通路154は、
図5に示すように、第2のエンジン潤滑通路150から、クランクケース28の壁内を前方斜め上方に延び、上下二つ割りのクランクケース28の割り面31から後方斜め上方に延び、さらに、シリンダCYの前壁W内を左右方向に延びている。
【0055】
図10に示すように、第3のエンジン潤滑通路154における左右方向に延びた部分に、クランクケース28の壁内で下方に向いた出口通路部154aが4つ形成されている。出口通路部154aの下端の出口端に、
図4に示す潤滑油吹付けノズル156が接続されている。潤滑油吹付けノズル156は、シリンダCYの前面側からピストン75の後面に向けて上方に潤滑油をジェット噴射する。つまり、第3のエンジン潤滑通路154は、ピストン75に向けて潤滑油を噴射するピストンジェット用潤滑通路である。
【0056】
図10に示す前向きの第2のエンジン潤滑通路150の前端部は、閉塞部材151により閉塞されている。閉塞部材151は、外部から見えないように、オイルフィルタ71の内側、つまり後側に配置されている。
【0057】
さらに、最も右側のクランクシャフト軸受潤滑通路152には、上方に延びて第4のエンジン潤滑通路153,155を有している。第4のエンジン潤滑通路153,155は、シリンダの壁面、およびカムシャフトを駆動するカムチェーン(図示せず)に潤滑油OLを供給する。この第4のエンジン潤滑通路153,155は、クランクケース28およびシリンダブロック30の壁内に形成されている。
【0058】
第4のエンジン潤滑通路153,155からシリンダの壁面に供給された潤滑油は、
図9に示す潤滑油戻り通路158を通って、オイルフィルタ71の下流側でオイルクーラ73の上流側に戻される。詳細には、潤滑油戻り通路158は、
図5に示すように、シリンダブロック30の前壁内を前方斜め下方に延び、クランクケース28の割り面31から後方斜め下方に延びている。潤滑油戻り通路158からオイルクーラ73の上流側に戻された潤滑油は、オイルクーラ73により冷却されて、再びエンジン潤滑通路148に供給される。
【0059】
つづいて、サブ潤滑通路146について説明する。
図10に示すように、サブ潤滑通路146は、クランクケース28の壁内でフィルタ・クーラ連通路140から後方斜め上方に延び、クランクケース28の壁内でクランクシャフト26(
図4)の後方で左右方向に延びる水平部分146aを有している。
【0060】
水平部分146aの左端部に、クランクケース28の壁内で上方に延びる変速機入力軸潤滑通路160が形成されている。変速機入力軸潤滑通路160は、クランクケース28の合面の溝形状によって後方に向かって延びて、
図4に示すトランスミッション13の入力軸13aに潤滑油を供給する。
【0061】
図9に示す水平部分146aの右端に、後方に延びる変速機出力軸潤滑通路162が形成されている。変速機出力軸潤滑通路162は、水平部分146aの右端部からトランスミッションホルダのパイプ形状によって後方に延びて、
図4に示すトランスミッション13の出力軸13bに潤滑油を供給する。これら変速機入力軸潤滑通路160と変速機出力軸潤滑通路162とでトランスミッション13を潤滑する変速機潤滑通路を構成している。
【0062】
図9に示す水平部分146aの左端部に、上方に延びるアイドラ潤滑通路164が形成されている。すなわち、アイドラ潤滑通路164は、クランクケース28の壁内で変速機入力軸潤滑通路160の内側(右側)を上方に延びている。
図5に示すように、アイドラ潤滑通路164は、クランクケース28の壁内を上方に延びて過給機駆動軸78に潤滑油OLを供給し、さらにクランクケース28の壁内を上方に延び、第1のバランサ軸89に潤滑油を供給している。
【0063】
詳細には、
図6に示すように、アイドラ潤滑通路164は、中空軸である過給機駆動軸78の左側端から、過給機駆動軸78の内部に潤滑油OLを供給し、ころ軸受83、スプロケット92に潤滑油を供給している。
【0064】
図5に示すアイドラ潤滑通路164における過給機駆動軸78に潤滑油を供給する部分の近傍に、後方に延びる前記過給機潤滑通路130が形成されている。過給機潤滑通路130は、クランクケース28の壁内をクランクケース28の後部まで延びた後、右側(紙面の裏側)に延び、さらに、上方に延びて過給機42の過給機回転軸44に潤滑油を供給する。つまり、過給機潤滑通路130は、クランクケース28の上部まで、低温のクランクケース28の壁内に形成されている。このように、過給機潤滑通路130の一部が、トランスミッション13の上方のクランクケース28の上面付近を通過する。したがって、クランクケース28の上面で放熱されることで、過給機42へ供給される潤滑油の温度を抑えることができる。
【0065】
詳細には、
図3に示すように、過給機潤滑通路130の出口130aが、クランクケース28における過給機ケースCSとの合わせ面166に形成されている。過給機潤滑通路130は、
図7に示す前記過給機ケース側潤滑油通路56bに直接接続され、過給機ケースCSの軸受部56aに潤滑油を供給している。
【0066】
この合わせ面166に、第2オイルフィルタ(図示せず)が配置されている。第2オイルフィルタは、クランクケース28から過給機ケースCS内に流れ込むオイルをろ過して、過給機42の潤滑において液詰まりが発生するのを防ぐ。第2オイルフィルタは、メインのオイルフィルタ71に比べて小形で、流路抵抗が小さく、細かい混入物を除去するために用いられる。第2オイルフィルタは、過給機潤滑通路130に配置すればよく、配置場所は合わせ面166に限らない。これら変速機潤滑通路160、162、アイドラ潤滑通路164および過給機潤滑通路130で、
図8に示すサブ潤滑通路146を構成している。
【0067】
図7に示すように、過給機42に導入された潤滑油は、ケーシング56の内部を通って軸受部56aに供給される。クランクケース28とスプロケットカバー103との合わせ面、およびスプロケットカバー103とケーシング56との合わせ面には、シール部材(図示せず)がそれぞれ配置されている。これにより、潤滑通路の周囲に隙間が形成されるのを抑制して、油漏れを防ぐことができる。スプロケットカバー103とケーシング56とを連結するボルト内に潤滑油通路の一部を形成してもよい。
【0068】
図11は、過給機潤滑通路130と過給機ケース側潤滑油通路56bとの接続部の別の例を示す。この例では、過給機潤滑通路130の出口130aが、過給機ケースCSの軸受部56aの近傍に形成され、過給機潤滑通路130の出口130aと過給機ケース側潤滑油通路56bとが筒状のパイプ168を介して接続されている。パイプ168とクランクケース28との間、およびパイプ168と過給機ケースCSとの間には、それぞれO−リングのようなシール部材169,170が介装されている。これによりパイプ168の傾きが吸収される。
【0069】
過給機潤滑通路130から過給機42に導入された潤滑油は、過給機回転軸44の軸受99や、軸受ホルダ101と過給機ケースCSとの間に形成されるオイル膜(図示せず)に供給される。本実施形態では、遊星歯車装置106による軸ブレが生じても、過給機回転軸44を支持できるように、このオイル膜が形成されている。そのため、過給機42への潤滑油の供給が必要である。また、本実施形態では、遠心式過給機を用いており、過給機42は高速回転するから、過給機42の回転部への潤滑油を供給する必要が高い。さらに、増速機54を備えているので、高速回転する部分が多くなり、要求される潤滑油の供給量が多くなる。
【0070】
該潤滑油は、さらに、遊星歯車装置106(増速機54)の各歯車の歯面や、遊星歯車114を支持する軸受120にも供給される。さらに、過給機42に導入された潤滑油により、動力伝達機構、具体的には、スプロケット96、ワンウェイクラッチ100等を潤滑してもよい。これにより、別途動力伝達手段へのオイル供給通路を形成する必要がなく、設計の自由度が向上する。
【0071】
図5の過給機42は、オイルフィルタ71(
図1)からトランスミッション13よりも離れた位置に配置され、過給機潤滑通路130は、トランスミッション13に潤滑油を供給する変速機潤滑通路160,162から分岐している。これによりサブ潤滑通路146が不所望に長くなることを防ぐことができる。さらに過給機潤滑通路130は、エンジンの一部を構成する過給機駆動軸78、第1のバランサ軸89を潤滑するアイドラ潤滑通路164から分岐している。これにより、さらにサブ潤滑通路146を短くすることができる。このように過給機潤滑通路130は、オイルポンプ69、オイルフィルタ71以外に、潤滑通路の一部も、エンジンと兼用している。
【0072】
サブ潤滑通路146から潤滑油が供給される潤滑対象として、トランスミッション13過給機駆動軸78、第1のバランサ軸89のほか、バランサ、スタータモータ用歯車等の冷却要求が低いものが好ましい。冷却要求が低い潤滑対象は、たとえば
図4のピストン75およびクランクシャフト26が配置される空間から仕切られた位置に配置され、気筒内の燃料の爆発による温度上昇の影響が少ないものである。
【0073】
図12は、本発明のエンジンの潤滑システムの製造工程を示す。エンジンEのエンジン本体は型成形によって成形され、エンジン本体の内部に第1〜第3の潤滑通路148,150,154(
図8)が形成される。エンジンの潤滑システムの製造工程は、成形工程S1と、第2潤滑通路切削工程S2と、第3潤滑通路形成工程S3と、閉塞工程S4と、取付工程S5とを備えている。
【0074】
成形工程S1では、
図8のオイルフィルタ71の流入路、流出路132,136、オイルクーラ73の流入路、流出路138,142および第2のエンジン潤滑通路150を同じ型部材を用いて粗形成する。第2潤滑通路切削工程S2(
図12)では、成形工程S1で粗形成された第2のエンジン潤滑通路150を切削加工する。
【0075】
第3潤滑通路形成工程S3(
図12)では、第2のエンジン潤滑通路150に接続される第3のエンジン潤滑通路154を形成する。閉塞工程S4(
図12)では、第2のエンジン潤滑通路150の開口を閉塞部材151により塞ぐ。取付工程S5(
図12)では、オイルフィルタ71およびオイルクーラ73をエンジン本体の外面に取付ける。
【0076】
本実施形態では、第2のエンジン潤滑通路150は、オイルフィルタ71の流入路、流出路132,136、オイルクーラ73の流入路、流出路138,142のそれぞれに平行に配置されているが、これらの流路の少なくとも一方と平行に配置されていてもよい。ただし、本実施形態のように、すべての流路に平行であることが好ましく、各流路に平行に型抜き方向が設定されることが好ましい。これによって成形後に流路形成にあたって切削量を少なくすることができ、材料費を低減することができる。
【0077】
本実施形態では、第2のエンジン潤滑通路150が、オイルフィルタ73とオイルクーラ73の左右方向(第1方向)の間に配置され、オイルクーラ73よりも外形が大きいオイルフィルタ71の裏側に形成されている。したがって、オイルクーラ73の裏側に形成する場合に比べて、第2のエンジン潤滑通路150を目立たなくできる。オイルフィルタ71とオイルクーラ73との間に形成することで、成形型の大形化が抑制されて、製造コストを低減できる。また、成形型でなく切削により通路を形成する場合でも、工具の移動量が少なくてすみ作業性がよい。ただし、第2のエンジン潤滑通路150は、オイルフィルタ73およびオイルクーラ73の左右方向(第1方向)外側に配置してもよい。
【0078】
図10に示すオイルフィルタ71の流入路132と流出路136とは上下に並んで配置されている。具体的には、流出路136が流入路132の上方に配置されている。第2のエンジン潤滑通路150は、流入路132および流出路136よりもさらに上方に配置されている。これにより、流入路132および流出路136との干渉を防ぐとともに、上方に延びる第3のエンジン潤滑通路154を短くすることができる。
【0079】
第1のエンジン潤滑通路148は、フィルタ・クーラ連通路140と平行で、フィルタ・クーラ連通路140よりも上方且つ前方に配置されている。フィルタ・クーラ連通路140が後方に配置されることで、第1のエンジン潤滑通路148との干渉を防いで、エンジン後部に配置されるトランスミッション13(
図1)や過給機42(
図1)への潤滑通路を形成しやすい。フィルタ・クーラ連通路140は、左右方向に延びて、オイルフィルタ71の流出路136とオイルクーラ73の流入路132とを接続する。つまり、オイルフィルタ71の流出路136とオイルクーラ73の流入路132は、同じ高さ位置に配置される。
【0080】
図9のオイルクーラ73の流出路142は、オイルクーラ73の流入路138よりも上方に配置されている。オイルクーラ73の流出路142と第2のエンジン潤滑通路150とは、同じ高さ位置に配置されている。第1のエンジン潤滑通路148は、左右方向に延びて、オイルクーラ73の流出路142と第2のエンジン潤滑通路150とを接続する。
【0081】
本実施形態では、
図8の第2のエンジン潤滑通路150に第3のエンジン潤滑通路154を接続している。オイルクーラ73の流出路142では、第3のエンジン潤滑通路154以外にも潤滑油を供給する都合上、通路径の設定範囲が限られる。これに対して第2のエンジン潤滑通路150は、第3のエンジン潤滑通路154以外に潤滑油を供給しないので、第3のエンジン潤滑通路154への潤滑油の供給に適した径に設定できる。このように、第2のエンジン潤滑通路150に第3のエンジン潤滑通路154を形成するほうが、オイルクーラ73の流出路142に形成する場合に比べて、通路径を任意に設定することができる。その結果、通路配置の設計の自由度が向上して、他の部材との干渉を防ぐ位置に通路を配置しやすくなる。
【0082】
図6に示すクランク軸26が回転すると、過給機駆動軸78が、過給機用ギヤ80と従動側過給機用ギヤ84との噛み合いによりクランク軸26に連動して回転する。過給機駆動軸78が回転すると、チェーン94を介して入力軸65が回転し、さらに、遊星歯車装置106を介して過給機回転軸44が回転して過給機42が始動する。
【0083】
自動二輪車が走行すると、
図1に示す走行風Aは、吸気取入口24から吸気ダクト70に入って動圧(ラム圧)により圧縮され、吸気ダクト70を通ってエアクリーナ40に入り、エアクリーナ40で清浄化されたのち過給機42に導入される。過給機42に導入された吸気Iは、過給機42により加圧されて、吸気チャンバ74およびスロットルボディ76を介してエンジンEへ導入される。このようなラム圧と過給機42による加圧との相乗効果により、エンジンEに高圧の吸気Iを供給することができる。
【0084】
エンジンEが回転すると、
図8のオイルポンプ69が連動して駆動する。オイルポンプ69により吐出された潤滑油OLは、オイルフィルタ71で浄化された後、オイルクーラ73に流入する。
【0085】
オイルフィルタ71で浄化された潤滑油OLの一部は、オイルクーラ73を経ずにサブ潤滑通路146を通って、
図5に示すトランスミッション13の入出力軸13a,13b、過給機駆動軸78、第1のバランサ軸89、過給機回転軸44に供給される。このように、オイルクーラ73の上流側から潤滑油OLを供給することで、オイルクーラ73の下流側のメイン潤滑通路144の圧力が、サブ潤滑通路146の形成によって低下するのを抑制できる。
【0086】
また、
図8のオイルクーラ73の下流側からメイン潤滑通路144を通ってエンジン本体に、冷却された潤滑油Oが供給される。具体的には、メイン潤滑通路144を通る潤滑油Oは、
図5のシリンダCYの内壁面の冷却、第2のバランサ軸91の潤滑、
図4のピストン75への吹き付け、および
図6のクランクケース28におけるクランクシャフト26の軸受部29の潤滑に使用される。
【0087】
上記構成において、
図8の単一のオイルポンプ69、オイルパン34、オイルフィルタ71によりエンジン本体EB、トランスミッション13、過給機42を潤滑できるので、オイルポンプ69、オイルフィルタ71等をエンジンと過給機と別々に設ける場合に比べてエンジン周辺の構造を簡素化して、エンジンEが大形化するのを抑制することができる。
【0088】
図5の過給機潤滑通路130、変速機潤滑通路160,162およびアイドラ潤滑通路164がオイルクーラ73に対して潤滑油流れ方向の上流側に配置されているので、これらの通路を形成することによる、オイルクーラ73の潤滑油流れ方向下流側のメイン潤滑通路144の圧力低下を抑制できる。また、アイドラ潤滑通路164と過給機潤滑通路130が直列に接続されているので、通路が簡素化される。
【0089】
メイン潤滑通路144からクランクシャフト用の軸受部29、ピストン75およびシリンダCYの壁面に潤滑油OLが供給されている。これらの部位はエンジンEを構成する部位であり、燃料の爆発燃焼を受けて高温化しやすく冷却が必要であるから、オイルクーラ73を通過した後の冷却された潤滑油OLを供給することで、効果的に冷却できる。
【0090】
過給機潤滑通路130がクランクケース28の上部までクランクケース28の壁内に形成されているので、過給機潤滑通路130内を流れる潤滑油Oがクランクケース28の放熱により冷却される。また、過給機潤滑通路130がクランクケース28から露出することがなく、エンジンの外観が向上するうえに、潤滑油Oがクランクケース28の外に漏れるのを防ぐことができる。
【0091】
図3の過給機潤滑通路130の出口130aが、クランクケース28と過給機ケースCSとの合わせ面166に形成され、過給機潤滑通路130の出口130aが、
図7の過給機ケース側潤滑油通路56bに連通しているので、過給機ケースCSをクランクケース28に取り付けるだけで、過給機ケースCSの軸受部56aに至る流路が形成される。これにより、作業性が向上する。また、ホース等によって、過給機ケースCSの外方に通路を形成する必要がないので、ホースとケースとの接続部分に生じるようなオイル漏れを防ぐことができるとともに、美観が向上する。
【0092】
図11に示すように、過給機潤滑通路130の出口130aと過給機ケース側潤滑油通路56bとをパイプ168を介して接続する場合、クランクケース28内部に形成する過給機潤滑通路130を短くできる。
【0093】
図8に示すように、オイルフィルタ71の流入路132,流出路136と第2のエンジン潤滑通路150とが平行に形成されているので、これらの通路をエンジン本体EBの型成形により同時に形成可能である。これにより、複数の潤滑油通路をエンジン本体EBに容易に形成することができる。
【0094】
図9に示す閉塞部材151がオイルフィルタ71の内側に配置されているので、閉塞部材151がエンジンEの外部に露出せず、エンジンEの外観が向上する。
【0095】
図5に示すピストンジェット用潤滑通路である第3のエンジン潤滑通路154が、エンジン本体EBの壁の内部に形成されているので、エンジン本体EBの外部に設けるのに比べて、部品点数を低減できる。
【0096】
図8に示すように、フィルタ・クーラ連通路140と第1のエンジン潤滑通路148とが平行に形成されているので、これらの通路140,148を同一方向からの機械加工で形成できる。これにより、複数の潤滑油通路をエンジン本体EBに容易に形成することができる。
【0097】
オイルフィルタ71およびオイルクーラ73がクランクケース28の前面に配置され、オイルフィルタ71の流入路132,流出路136と、オイルクーラの流入路138,流出路142が、クランクケース28の前壁に形成され、第1のエンジン潤滑通路148の一部とフィルタ・クーラ連通路140とが、クランクケース28の内部を左右方向(車幅方向)に延びている。これにより、オイルフィルタ71とオイルクーラ73が車幅方向に突出して外観を損なうことがなく、かつ、フィルタ・クーラ連通路140と第1のエンジン潤滑通路148を同一方向(左右方向)からの機械加工で形成できる。
【0098】
エンジン本体EBは精密な成形が可能なアルミダイキャスト法により成形されているので、複数の潤滑通路が単独形状で近接配置されても、単独配管とすることで鋳巣の発生を防ぐことができる。また、グラビティ鋳造とすることで、近接配管であっても鋳巣の発生を防ぐことができる。
【0099】
上記実施形態では、型成形によってオイルフィルタ71の流入路132、流出路136、オイルクーラ73の流入路138、流出路142および第2のエンジン潤滑通路150とを粗形成しているが、型成形せずに、それらを切削加工することもできる。型成形しない場合であっても、各流路132、136、138、142および第2のエンジン潤滑通路150の向きが同じであるので、切削対象と工具との姿勢を変えることなく、工具の位置を変えるだけで、各流路132、136、138、142および第2のエンジン潤滑通路150を順次形成することができる。これにより、複数の潤滑通路をエンジン本体に容易に形成することができる。
【0100】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、第2のエンジン潤滑通路150は、オイルフィルタ71の流入路132および流出路136と平行に配置されていたが、流入路132および流出路136の少なくとも一方と平行に配置されていればよい。また、上記実施形態では、メイン潤滑通路144は、クランクシャフト26用の軸受、ピストン75およびシリンダCYの壁面に潤滑油OLを供給しているが、これらの少なくとも1つに潤滑油を供給すればよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。