(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
透明導電膜の形成方法として、例えばスクリーン印刷を行う場合では、静止している基板に対して、印刷方向(マシンディレクション)に沿ってスキージを移動させることによってナノワイヤインク液膜を形成していくため、液膜中のナノワイヤが印刷方向に沿って揃いやすい。また、特許文献1に記載の印刷方法のようなオフセット印刷によって透明導電膜を形成する場合でも、静止しているスリットダイから回転しているブランケットロールへインクを供給する工程において、ブランケットロールの回転方向の力が作用することによってインク中のナノワイヤの向きが揃いやすい。
【0007】
このような方法で形成された透明導電膜においては、ナノワイヤの向きが揃うことによって、印刷方向には電気抵抗が低く、印刷方向と垂直な方向には電気抵抗が高くなりやすく、抵抗値について異方性を持った導電膜が形成されてしまう問題があった。
【0008】
そこで本発明は、基板上へのナノワイヤインク液膜の形成過程においてナノワイヤの向きを揃えることなく、これにより、抵抗値の異方性の発生を抑えることのできる透明導電膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、基板の表面に、導電性のナノワイヤを含む透明導電膜を所定のパターンで形成する方法において、
ナノワイヤが分散しているナノワイヤインク
に版面を略水平にして浸した印刷版を、前記ナノワイヤインクの外へ垂直に引き上げることによって、前記ナノワイヤインクを、
前記印刷版の版面上に、前記版面と平行な向きに異方性を生じさせる力を与えずに設置して、所定のパターンのナノワイヤインク液膜を形成する液膜形成工程と、
前記版面上に形成した前記ナノワイヤインク液膜を、基板上に転写する転写工程とを有することを特徴としている。
【0010】
本明細書での透明導電膜とは、基板上に転写されたナノワイヤインク液膜をその後の乾燥等の処理によって固定させた膜である。異方性とは、ナノワイヤインク液膜の物理的性質、特に電気抵抗が、版面及び被転写面に平行な方向のうちの互いに直交する方向で異なることである。
【0011】
本発明の透明導電膜の形成方法は、液膜形成工程において、ナノワイヤインク液膜が、含まれるナノワイヤの延びる向きが揃わないように形成され、転写工程において、ナノワイヤインク液膜は、含まれるナノワイヤの延びる向きが揃わないように転写される。ナノワイヤの延びる向きが揃わないため異方性の発生を抑えることができる。
【0013】
印刷版を垂直に引き上げてナノワイヤインク液膜を形成すると、版面に平行な方向に向けてナノワイヤインク液膜に対して外力を加えることがないため、インク中のナノワイヤが版面に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0014】
本発明の透明導電膜の形成方法において、転写工程は、版面に垂直な方向に沿って基板と印刷版を互いに押しつけることによって行うことが好ましい。
【0015】
版面に垂直な方向に沿って基板と印刷版を互いに押しつけて転写すると、ナノワイヤインク液膜中のナノワイヤが基板の被転写面に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0016】
本発明の透明導電膜の形成方法は、転写工程が、版面上に形成したナノワイヤインク液膜をブランケットに転写する工程と、ブランケットに転写したナノワイヤインク液膜を基板上に転写する工程とを含むことが好ましい。
【0017】
ここで、前記転写工程において、ブランケットの表面の速度と基板の進行速度の相対速度がゼロであることが好ましい。
【0018】
相対速度をゼロにすることで、ナノワイヤインク液膜中のナノワイヤが基板の被転写面に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0019】
本発明の透明導電膜の形成方法は、印刷版は、外周面に版面を備えたロール状であり、前記転写工程において、印刷版の表面の回転速度と基板の進行速度の相対速度はゼロであることが好ましい。
【0020】
相対速度をゼロにすることで、ナノワイヤインク液膜中のナノワイヤが基板の被転写面に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0023】
本発明の透明導電膜の形成方法では、印刷版は、ナノワイヤインク液膜を形成する部分とそれ以外の部分でナノワイヤインクに対する親和性が異なることが好ましい。
【0024】
ナノワイヤインクに対する親和性とは、主にナノワイヤインクに用いる溶媒に対する性質であって、例えば溶媒に水を用いた場合は、親水性を高めることによって親和性を高め、撥水性又は親油性を高めることによって親和性を低下させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、基板上へのナノワイヤインク液膜の形成過程においてナノワイヤの向きを揃えることがなく、これにより、異方性の発生を抑えることのできる透明導電膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る透明導電膜の形成方法について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0028】
<第1実施形態>
第1実施形態にかかる透明導電膜の形成方法は、(1)ナノワイヤインクに印刷版を浸漬した後に引き上げることによって、印刷版の版面上に、所定のパターンで導電性のナノワイヤインク液膜を形成する液膜形成工程と、(2)印刷版上に形成されたナノワイヤインク液膜に基板を押しつけてナノワイヤインク液膜を転写させることによって、液膜形成工程において版面上に形成したナノワイヤインク液膜を基板上に転写する転写工程とを含む。
【0029】
上記液膜形成工程においては、版面に平行な方向において異方性を生じないように、ナノワイヤインク液膜を形成し、転写工程において、基板の被転写面に平行な方向において異方性を生じないように、ナノワイヤインク液膜を転写するものである。ナノワイヤインク液膜の転写後は、ナノワイヤインク、基板、及び、作製する透明導電膜や静電タッチパネルその他の電子部品の仕様などに合わせて、オーバーコート、加熱、乾燥等の処理を行って固定して透明導電膜を完成させる。
【0030】
以下に、使用する材料、各工程などについて詳細に説明する。
図1を参照して、静電式タッチパネルとしての入力パネルにおけるナノワイヤインク液膜のパターン(以下、ナノワイヤパターンと呼ぶことがある)の例を説明する。
図1は、第1実施形態におけるナノワイヤインク液膜のパターンを示す平面図である。このパターンは、透明導電膜のパターンに対応する。
【0031】
図1に示すように、導電領域20は第1の電極部21と連結導電部22ならびに第2の電極部23に区分される。導電領域20は、本実施形態に係る形成方法で形成したナノワイヤパターンである。
【0032】
図1に示すように、第1の電極部21は、四角形状または菱形形状であり、Y方向に配列されている。Y方向に隣り合う第1の電極部21と第1の電極部21は連結導通部22で互いに導通されている。第1の電極部21と連結導通部22は連続して形成されている。
【0033】
第2の電極部23は、第1の電極部21と同じ形状で同じ面積に形成されており、X方向に配列されている。X方向に隣り合う第2の電極部23は、連結導通部22を挟むように互いに独立して形成されている。第1の電極部21ならびに連結導通部22と、第2の電極部23とは、その間の領域である非導電領域25を介して電気的に分離されている。
【0034】
入力パネル6の表面では、
図1に示すように、連結導電部22とその両側の非導電領域25とさらにその両側の第2の電極部23,23に渡って、有機絶縁層31が形成されている。有機絶縁層31はノボラック樹脂などのアクリル系の透光性の有機絶縁材料で形成されている。前記有機絶縁層31の表面にブリッジ配線32が形成され、ブリッジ配線32によって、X方向に配列する第2の電極部23どうしが導通している。
【0035】
ブリッジ配線32は、Cu、Ni、Ag、Au,ITOなどに代表される配線材料で形成される。あるいは、各種合金材によって単層に形成される。または、複数の導電性材料が積層された積層導電層で形成される。ブリッジ配線32は、目視しにくいように細く且つ薄く形成される。
【0036】
図1に示すように、Y方向に連結されている第1の電極部21にY引出電極層35が接続されている。このY引出電極層35は、入力パネル6のY方向の縁部に設けた複数の第1のランド部(不図示)にそれぞれ接続されている。ブリッジ配線32でX方向に連結されている第2の電極部23は、それぞれの横列ごとにX引出電極層37に接続されている。それぞれのX引出電極層37は、入力パネル6のX方向の縁部に設けた複数の第2のランド部(不図示)に個別に接続されている。
【0037】
入力パネル6は、第1の電極部21と第2の電極部23との間に静電容量が形成されているが、カバーパネル(図示省略)の表面に指を接触させると、第1の電極部21または第2の電極部23と指との間に静電容量が形成される。
【0038】
第1の電極部21に対して列ごとに順番にパルス状の駆動電力を印加し、全ての第2の電極部23から検出される電流値を計測することで、複数の第1の電極部21のどれが指に最も接近しているかを算出できる。また、第2の電極部23に対して列ごとに順番にパルス状の駆動電力を印加し、全ての第1の電極部21から検出される電流値を計測することで、複数の第2の電極部23のどれが最も指に接近しているかを算出できる。
【0039】
次に、使用する材料について説明する。
ナノワイヤパターンを形成する基板は、例えば、透明性を有する無機基板或いはプラスチック基板である。基板の形状としては、例えば、透明性を有するフィルム、シート、基板などを用いることができる。
【0040】
無機基板の材料としては、例えば、石英、サファイア、ガラスなどが挙げられる。プラスチック基板の材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、具体的には例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)などがあげられる。プラスチック基板の厚さは、生産性の観点から38〜500μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。
【0041】
基板は、ナノワイヤインク液膜との密着性を高めるため、転写工程の前に密着性改善処理を施すことが好ましい。密着性改善処理としては、例えば、水や薬品を使った洗浄、及び/又は、密着性を高める密着剤の付与がある。この処理は、基板表面における、ナノワイヤインク液膜の溶媒に対する親和性を高めるものである。また、研磨等により、基板の表面の面粗度を所定の範囲まで高めておくことも好ましい。
【0042】
ナノワイヤパターンを形成するナノワイヤインクは、ナノワイヤ、分散剤、バインダを含む。
【0043】
導電性のナノワイヤは、Ag、Au、Ni、Cu、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Fe、Co、Snより選択される1種類以上で構成されるナノワイヤであることが好ましい。ナノワイヤの平均短軸径は、好ましく1nmよりも大きく500nm以下、また、平均長軸長は、好ましくは1μmよりも大きく1000μm以下である。平均短軸径が1nmよりも小さい場合、ワイヤの導電率が劣化して塗布後に導電層として機能しにくい。また、平均短軸径が500nmよりも大きい場合、全光線透過率が劣化してしまう。平均長軸長が1μmよりも短い場合、ワイヤ同士がつながりにくく、塗布後に導電層として機能しにくい。また、平均長軸長が1000μmよりも長い場合、全光線透過率が劣化してしまう。或いは、塗料化した際のナノワイヤの分散性が劣化する傾向にある。
【0044】
ナノワイヤインク中でのナノワイヤの分散性向上のため、ナノワイヤは、PVP、ポリエチレンイミンなどのアミノ基含有化合物で表面処理されていても良い。塗膜化した際に導電性が劣化しない程度の添加量にすることが好ましい。その他、スルホ基(スルホン酸塩含む)、スルホニル基、スルホンアミド基、カルボン酸基(カルボン酸塩含む)、アミド基、リン酸基(リン酸塩、リン酸エステル含む)、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基、カルビノール基などの官能基を有する化合物で金属に吸着可能なものを分散剤として用いても良い。
【0045】
ナノワイヤインクの分散剤としては、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなど)、アノン(例えば、シクロヘキサノン、シクロペンタノン)、アミド(DMF)、スルフィド(DMSO)から選択される少なくとも1種類以上を用いる。
【0046】
基板上や印刷版の版面上でのインクの乾燥ムラやクラックを抑えるため、高沸点溶媒をさらに添加して、溶剤の蒸発速度をコントロールすることもできる。例えば、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、ブチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールイソプロピルエーテル、メチルグリコールが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いられてもよく、また、複数を組み合わせてもよい。
【0047】
ナノワイヤインクに適用可能なバインダ材料としては、既知の透明な天然高分子樹脂または合成高分子樹脂から広く選択して使用することができる。例えば、透明な熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)や、熱・光・電子線・放射線で硬化する透明硬化性樹脂(例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、イソシアネート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケートなどのシリコン樹脂)を使用することができる。さらに添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、分散剤、硬化促進触媒、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤などの安定剤などが挙げられる。
【0048】
つづいて各工程について説明する。
図2は、第1実施形態に係る透明導電膜の形成方法の各工程を示す図である。
図2(A)は、ナノワイヤインク41に印刷版50を浸漬した状態を示す断面図、
図2(B)はインク槽40から印刷版50を引き上げた状態を示す側面図、
図2(C)は引き上げた印刷版50に対して基板70を押しつけた状態を示す側面図である。
【0049】
第1実施形態における透明導電膜の形成方法では、
図2に示すように、ナノワイヤインク41を入れたインク槽40、非画線部51bに対して画線部51aが突起した版面51を備えた印刷版50、印刷版50をインク槽40に対して上下方向に出し入れ可能とする昇降部材60を用いる。
【0050】
インク槽40は、収容したナノワイヤインク41の温度を調整可能な温度調整機能を備えた保温性の高いケースである。
【0051】
昇降部材60は、例えば外部に設けた駆動機構によって、印刷版50を水平に保持した状態で上下する部材であり、その表面がナノワイヤインクに対して親和性がないことが好ましい。
【0052】
ナノワイヤインク41は、液膜形成工程及び転写工程において、画線部51a上にナノワイヤインク液膜が維持されるという点、基板70への転写性などを考慮すると、濃度が0.05〜2.0wt%の範囲、表面張力が20〜73mN/mの範囲であることが好ましい。
【0053】
印刷版50は、凸版の印刷版であり、エッチングなどの手段によって、非画線部51bよりも画線部51aが突出するような版面51の形状が形成されている。版面51においては、画線部51aはナノワイヤインクに対して親和性を高くし、非画線部51bは親和性を低くするように処理してあり、これにより、印刷版50をナノワイヤインク41に浸漬して引き上げることで画線部51aにナノワイヤインク液膜が形成され、非画線部51bにはナノワイヤインク液膜が形成されにくくなる。したがって、印刷版50から基板70へ転写されるナノワイヤパターンは画線部51aの形状を正確に移したものにすることができる。
【0054】
印刷版50は、
図2に示すような平板形状のほか、液膜形成工程の後、転写工程終了までにナノワイヤインク液膜を保持できればローラ形状であってもよい。この場合、基板70をローラ形状の圧胴の外周面に配置して、ローラ状の印刷版の回転速度と圧胴の回転速度の相対速度をゼロとして、印刷版からナノワイヤインク液膜を転写する。
【0055】
(1)液膜形成工程
液膜形成工程においては、まず、昇降部材60によって、水平に保たれた印刷版50をインク槽40のナノワイヤインク41内に浸漬する(
図2(A))。ナノワイヤインク41は常温に維持されており、ナノワイヤインク 41中のナノワイヤは適宜分散されて異方性を持たない状態となっている。印刷版50の浸漬後所定時間経過後、昇降部材60を上方向(
図2のU方向:重力方向である垂直方向)に移動させることによって、印刷版50をナノワイヤインク41内からインク槽40の外部へ引き上げると、画線部51a上にはナノワイヤインク液膜52が所定量形成された状態となる(
図2(B))。
【0056】
ここで、印刷版50の浸漬時間及び引き上げ速度は、ナノワイヤインク41の粘度・表面張力などの物性、形成する透明導電膜の膜厚、ナノワイヤインク41と画線部51aの親和性等に基づいて定める。
【0057】
このように印刷版50を引き上げることによってナノワイヤインク液膜を形成すると、版面51に平行な方向において、ナノワイヤインク液膜に外力を加えることがないため、インク中のナノワイヤが版面51に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0058】
(2)転写工程
転写工程は常温下で行われ、液膜形成工程においてナノワイヤインク液膜が形成された印刷版50を昇降部材60によって水平に固定保持した状態で、下向き(
図2のD方向)に所定の圧力で基板70を印刷版50に押しつけ、所定時間経過後に基板70を上方に引き上げることによって、画線部51a上のナノワイヤインク液膜52を基板70に転写する(
図2(C))。これにより、基板70の下面である被転写面71に所定パターンのナノワイヤインク液膜が形成される。
【0059】
ここで、基板70を印刷版50に押しつける圧力と時間、及び引き上げる速度は、ナノワイヤインク液膜52(ナノワイヤインク41)の粘度・表面張力などの物性、基板70の表面張力等に基づいて定める。例えば、ナノワイヤインクとして銀ナノワイヤ、基板70としてPETフィルムを用いた場合、基板70に加える圧力は80kPa、基板70を印刷版50に押しつける時間は10秒、基板70を引き上げる速度は15mm/秒である。
【0060】
なお、転写工程において、印刷版50は、昇降部材60に保持させるのではなく、昇降部材60とは別個の台上に固定させていてもよい。
【0061】
また、基板70を印刷版50に押しつけるのではなく、基板70を固定して印刷版50を上昇させて基板70に対して上向きに加圧してもよいし、基板70と印刷版50の両方を移動可能として、版面51に垂直な方向に沿って互いに加圧してもよい。
【0062】
基板70へ転写されたナノワイヤインク液膜52は、その後、ナノワイヤインク、基板、及び、作製する透明導電膜や静電タッチパネルその他の電子部品の仕様などに合わせて、オーバーコートの塗布、加熱、乾燥等の処理を経て透明導電膜となる。
【0063】
このように、印刷版50から基板70へのナノワイヤインク液膜の転写は、印刷版50と基板70を版面51に平行な方向に移動させることなく、基板70を下方向、すなわち版面51に垂直な方向に加圧して行うため、ナノワイヤインク液膜中のナノワイヤが基板70の被転写面71に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0064】
以上のように、液膜形成工程及び転写工程のいずれにおいても、版面51に平行な方向及び被転写面71に平行な方向において、内包するナノワイヤの向きが揃ってしまうことがなく、これにより異方性を生じることなく透明導電膜を形成することが可能となる。
【0065】
図3(A)は、第1実施形態に係る透明導電膜の形成方法によって形成した透明導電膜中のナノワイヤの状態を拡大して示す図であり、
図3(B)は、従来の方法によって形成した透明導電膜中のナノワイヤの状態を拡大して示す図である。
図3(B)において、上下方向は印刷方向MD(Machine Direction)であり、左右方向は印刷方向MDに垂直な方向TD(Transverse Direction)である。
【0066】
図3(B)に示す従来の形成方法で形成した透明導電膜は、ナノワイヤが印刷方向MDに沿って並んでおり、印刷方向MDの抵抗値とこれに垂直な方向TDの抵抗値の比は1:1.1〜1.3であった。したがって、従来の形成方法では異方性が生じていることが分かる。
【0067】
これに対して、
図3(A)に示す第1実施形態における形成方法で形成した透明導電膜は、ナノワイヤは一定の方向に並ぶことなくランダムな向きで存在しており、印刷方向MDの抵抗値とこれに垂直な方向TDの抵抗値の比は1:1であった。したがって、第1実施形態に係る透明導電膜の形成方法によれば、異方性の発生を抑えることができることが分かる。
【0068】
<第2実施形態>
つづいて、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、主に、ナノワイヤインクから引き上げた印刷版上のナノワイヤインク液膜がブランケットを介して基板に転写される点が第1実施形態と異なる。ナノワイヤインク液膜のパターン、使用する材料については、第1実施形態と同様にものを使用することが可能であるため、これらの例についての詳細な説明は省略する。
【0069】
図4は、第2実施形態に係る透明導電膜の形成方法において、ナノワイヤインク81に印刷版90を浸漬した状態を示す断面図である。
図5は、インク槽80から引き上げた印刷版90からブランケット100へナノワイヤインク液膜92を転写する工程を示す側面図である。
図6は、ブランケット100から圧胴110上の基板120上にナノワイヤインク液膜92を転写する工程を示す側面図である。
【0070】
第2実施形態における透明導電膜の形成方法では、
図4〜
図6に示すように、ナノワイヤインク81を入れたインク槽80、非画線部91bに対して画線部91aが突起した版面91を備えた印刷版90、シリンダ状(ロール状)のブランケット100、シリンダ形状の外周面にフィルム状の基板120を配置した圧胴110を用いる。
【0071】
また、図示しないが、第1実施形態の昇降部材60と同様に印刷版90をインク槽80に対して上下方向に出し入れ可能とする昇降部材を用いる。
【0072】
インク槽80は、収容したナノワイヤインク81の温度を調整可能な温度調整機能を備えた保温性の高いケースであり、注入口82からナノワイヤインクを注入し、印刷版90の出し入れは開口部83で行う。
【0073】
ナノワイヤインク81は、各工程に渡って画線部91a上にナノワイヤインク液膜が維持されるという点、基板120への転写性などを考慮すると、濃度が0.05〜2.0wt%の範囲、表面張力が20〜73mN/mの範囲であることが好ましい。
【0074】
また、インク槽80中のナノワイヤインク81の表面に、ナノワイヤインクの基材120への密着性を向上させる密着剤や、印刷版90上のナノワイヤインク液膜の乾燥を防止する乾燥防止剤を配置すると、印刷版90をインク槽80から引き上げるときに、ナノワイヤインク液膜の表面にこれらの物質84による層が形成されるため好ましい。これらの物質84は、インク槽80内に印刷版90を浸漬した後にナノワイヤインク81に添加することが好ましく、比重がナノワイヤインクの比重より小さいもの、例えば、テルソルブTHA−90(日本テルペン化学株式会社製)を用いる。
【0075】
なお、密着剤や乾燥防止剤の付与は、印刷版90をインク槽80から引き上げた後、転写工程の前に行っても良い。この場合、ナノワイヤインク液膜92中のナノワイヤの向きが揃わないように、例えばスプレー装置による噴霧によって行う。
【0076】
印刷版90は、凸版の印刷版であり、エッチングなどの手段によって、非画線部91bよりも画線部91aが突出するような版面91の形状が形成されている。版面91においては、画線部91aはナノワイヤインクに対して親和性を高くし、非画線部91bは親和性を低くするように処理してあり、これにより、印刷版90をナノワイヤインク81に浸漬して引き上げることで画線部91aにナノワイヤインク液膜が形成され、非画線部91bにはナノワイヤインク液膜が形成されにくくなる。したがって、印刷版90からブランケット100へ転写されるナノワイヤパターンは画線部91aの形状を正確に移したものにすることができる。
【0077】
ここで、画線部91aはナノワイヤインクに対する親和性を高くし、非画線部91bは親和性を低くするように処理する場合、版面91は、画線部91aを突出させない平版、又は、画線部91aが非画線部91bよりも凹んだ凹版としてもよい。
【0078】
(1)液膜形成工程
液膜形成工程においては、まず、昇降部材(不図示)によって、水平に保たれた印刷版90を、開口部83から、インク槽80のナノワイヤインク81内に浸漬する(
図4)。ナノワイヤインク81は、常温に維持されており、ナノワイヤインク 41中のナノワイヤは適宜分散されて異方性を持たない状態となっている。印刷版 90の浸漬後所定時間経過後、昇降部材(不図示)を上方向(
図4のU方向)に移動させることによって、印刷版90をナノワイヤインク81内からインク槽80の外部へ引き上げると、画線部91a上にはナノワイヤインク液膜92が所定量形成された状態となる(
図5)。
【0079】
ここで、印刷版90の浸漬時間及び引き上げ速度は、ナノワイヤインク81の粘度・表面張力などの物性、形成する透明導電膜の膜厚、ナノワイヤインク81と画線部91aの親和性等に基づいて定める。例えば、ナノワイヤインクとして銀ナノワイヤインクを用いた場合、浸漬時間は30秒、引き上げ速度は5〜10mm/秒である。
【0080】
このように印刷版90を水平に保ちながら引き上げることによってナノワイヤインク液膜を形成すると、版面91に平行な方向において、ナノワイヤインク液膜に外力を加えることがないため、インク中のナノワイヤが版面91に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0081】
(2)転写工程
転写工程は常温下で行われ、ブランケット100への掬い上げ(
図5)と基板120への転写(
図6)の順に行う。
【0082】
(2−1)ブランケット100への掬い上げ(
図5)
まず、液膜形成工程においてナノワイヤインク液膜が形成された印刷版90を水平に固定保持した状態で、版面91上でブランケット100を回転させつつ水平方向に移動させることによって、画線部91a上のナノワイヤインク液膜92をブランケット100の外周面に掬い取る。この掬い取りにおいては、ブランケット100の回転速度及び印刷版90に対する圧力は、画線部91a上のナノワイヤインク液膜92を掬い取れる程度に小さくしている。別言すると、ナノワイヤインク液膜92の中のナノワイヤの向きを変えるほどの圧力と回転速度は必要ない。
【0083】
ここで、ブランケット100を印刷版90に押しつける圧力と回転速度は、ナノワイヤインク液膜92(ナノワイヤインク81)の粘度・表面張力などの物性、ブランケット100の表面張力等に基づいて定める。例えば、ナノワイヤインクとして銀ナノワイヤインクを用いた場合、ブランケット100を印刷版90に押しつける圧力は20〜80kPa、ブランケット100の回転周速度は20〜100mm/秒である。
【0084】
このような条件で、ナノワイヤインク液膜92を印刷版90からブランケット100へ掬い取るため、この過程でインク中のナノワイヤが版面91に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性が生じることを抑えることができる。
【0085】
(2−2)基板120への転写(
図6)
次に、ナノワイヤインク液膜92が転写されたブランケット100から、ブランケット100の回転にともなって摺動回転する圧胴110の外周面に固定された基板120へナノワイヤインク液膜92を転写する。ブランケット100と基板120との間隔、並びに、ブランケット100及び圧胴110の回転速度は、ナノワイヤインク液膜92が確実に基板120上に転写でき、かつ内包するナノワイヤに強い力がかからない程度に設定する。これにより、基板120の被転写面121に所定パターンのナノワイヤインク液膜が形成される。
【0086】
ここで、ブランケット100を圧胴110に押しつける圧力と回転速度は、ナノワイヤインク液膜92(ナノワイヤインク81)の粘度・表面張力などの物性、ブランケット100と基板120の表面張力等に基づいて定める。例えば、ナノワイヤインクとして銀ナノワイヤ、基板120としてPETフィルムを用いた場合、ブランケット100を圧胴110に押しつける圧力は50〜100kPa、ブランケット100及び圧胴110の回転周速度は同一であって50〜120mm/秒である。
【0087】
基板120へ転写されたナノワイヤインク液膜92は、その後、ナノワイヤインク、基板、及び、作製する透明導電膜や静電タッチパネルその他の電子部品の仕様などに合わせて、オーバーコート、加熱、乾燥等の処理を経て透明導電膜となる。
【0088】
このような条件でナノワイヤインク液膜92をブランケット100から圧胴110上の基板120へ転写するため、すなわち、ブランケット100と基板120の間の圧力を所定値とし、ブランケット100と圧胴110の相対速度をゼロとすることにより、この過程でナノワイヤインク液膜中のナノワイヤが版面91に平行な方向に揃ってしまうことがなく、これにより異方性の発生を抑えることができる。
【0089】
以上のように、液膜形成工程及び転写工程のいずれにおいても、版面91に平行な方向及び被転写面121に平行な方向において、内包するナノワイヤの向きが揃ってしまうことがなく、これにより異方性を生じることなく透明導電膜を形成することが可能となる。
なお、その他の構成、作用、効果、変形例は第1実施形態と同様である。
【0092】
(1)第2実施形態における液膜形成工程と同様に、第1実施形態における液膜形成工程中、又は、液膜形成工程後で転写工程の前に、ナノワイヤインクの基材への密着性を向上させる密着剤や、印刷版上のナノワイヤインク液膜の乾燥を防止する乾燥防止剤を用いてもよい。
【0093】
(2)第1実施形態及び第2実施形態の液膜形成工程の後に、平板状の部材で上下方向に沿って版面を加圧することが好ましい。これにより、画線部に部分的に載っていたナノワイヤインクが画線部全体に広がるため、その後の転写工程において所望の形状のパターン形状が正確に転写される。
【0094】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。