【実施例】
【0073】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0074】
以下において、カチオン性ポリマーの製造及び評価には、以下に記載する装置類を用いた。
【0075】
<光源>
朝日分光社製300WキセノンランプMAX−301(アルカリガラスセルを使用することでフィルター機能を得、波長330〜400nmの混合光を照射することに相当する)
<照射強度計>
ウシオ電機社製積算光度計UIT−150に受光センサーUVD−405を装着して使用
<GPC>
移動相:DMF+30mM LiBr (関東化学社製)
装置:島津製作所社製LC−10Avp
カラム:Shodex社製Asahipack GF−710HQとAsahipack GF−510HQを連結
検量線:Shodex社製PEG標準品TSKシリーズ
<NMR>
Varian社製Gemini−300
<反応容器>
アルカリガラス製3mm厚直方体ガラスセル
<凍結乾燥設備>
EYELA社製FUD−2200とULVAC社製真空ポンプGCD−136X
<分子量分画>
装置:島津製作所社製LC−10Avp
カラム:Shodex社製GPCK−2005+GPC K−2004
移動相:クロロホルム+30mM トリエチルアミン
【0076】
合成用の試薬は、Aldrich社製又は関東化学社製の特級試薬を再結晶又は減圧蒸留で精製して使用した。
アデノウイルスは、市販の組換えアデノウイルス作製キットを使用した。完全長DNA(LacZをコード)を挿入してプラスミドを作成し、293細胞へプラスミドを導入して作製し(以下「Adウイルス」又は「Adv」と記す。)。
また、導入用の核酸には市販のホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAを使用した。
【0077】
[実施例1]
{6分岐スター型カチオン性ポリマーの合成}
(1) 6分岐イニファターの合成
イニファターとしての1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0078】
1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム30.0gをエタノール300mL中へ加え、遮光下、室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過回収し、3Lのメタノールへ投入して10分間攪拌して濾過した。この操作を計4回繰り返した。沈殿物をクロロホルム200mLへ溶解し、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で12時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。
【0079】
1H−NMR(in chloroform−d
1):δ1.26−1.31ppm(m,36H,−CH
2−CH
3),δ3.71−3.73ppm(q,12H,−N−CH
2−),δ3.99−4.01ppm(q,12H,−N−CH
2−),δ4.57ppm(s,12H,Ar−CH
2)
【0080】
【化1】
【0081】
(2) 6分岐スター型カチオン性ポリマーの合成
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートをモノマーとして用い、上記1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンよりなる6分岐スター型カチオン性ポリマーの合成を以下の2段重合で行った。
【0082】
暗室で1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを20mLのクロロホルムへ溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを混合して全量をクロロホルムで50mLとした。終濃度は1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが5mM(光解裂官能基として)、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが1.0Mとした。これを反応容器へ移し、高純度窒素ガスを10分間パージ(流量:2L/分)した。反応容器を密栓して激しく攪拌しながら光照射した。照射強度は2.5mW/cm
2に調整した。60分照射後に溶液をエバポレーターで濃縮後、n−ヘキサン/エーテル=50/50(V/V)で再沈殿した(1段目重合)。
ここへ2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート7.9gを加えて溶解し、クロロホルムで全量を50mLとし、上記と同じ操作を行った(2段目重合)。
上記再沈殿を6回繰り返し、室温で1時間真空乾燥後、ベンゼンへ溶解して48時間凍結乾燥して精製した。
【0083】
GPC:Mn=25,000(Mw/Mn=1.40)
1H−NMR(in chloroform−d
1):δ0.8−1.2ppm(br,3H,−CH
3,m/r=1/2),δ1.6−2.0ppm(br,2H,−CH
2−CH
3−),δ2.2−2.4ppm(br,6H,N−CH
3),δ2.5−2.7ppm(br,2H,CH
2−N),δ4.0−4.2ppm(br,2H,O−CH
2)。
【0084】
【化2】
【0085】
(3) 6分岐スター型カチオン性ポリマーの分子量分画処理
上記(2)で合成した、Mn=25,000の6分岐スター型カチオン性ポリマーをサイズ排除カラムにて分画した。
分画後は、上記と同様の手法で精製し、凍結乾燥して、Mn=150,000(Mw/Mn=1.1)の超高分子量単分散分画を得た。
【0086】
{遺伝子導入実験}
細胞には株化細胞であるヒト子宮頚部ガン由来のHela細胞とヤギ胎児由来の心筋線維芽細胞の初代細胞(以下「FSHfb」と記す。)を使用した。
細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
【0087】
上記(3)で得た6分岐スター型カチオン性ポリマー(Mn=150,000)中の単位重量あたりの陽電荷数は、該6分岐スター型カチオン性ポリマーを構成するモノマー単位(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の分子量156から計算して求めた。一方、DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列MAPによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この6分岐スター型カチオン性ポリマーを生理食塩水へ溶解して濃度を0.26μg/μLへ調整した。DNAはTE緩衝溶液中へ溶解して濃度を0.33μg/μLに調整した。6分岐スター型カチオン性ポリマー溶液60μLとDNA溶液90μLを混合して30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の10倍となるように(CA比=10)調整したことになる。
【0088】
この150μL溶液(6分岐スター型カチオン性ポリマー含有量は約16μg)に、1/20濃度に希釈したAdウイルス溶液(6×10
6
TCID
50/mL)を0μL(添加せず),10μL,20μL,40μL,60μL又は80μL混合してからOPTI−MEM培養液100μLへ加えて混合し、30分間インキュベートしてからそれぞれ培養細胞へ加えた(いずれのWellにも0.5μgのDNAが投与されるように添加量を調整した)。
各Adウイルス溶液添加量におけるカチオン性ポリマー1gあたりに換算したAdウイルス添加量は以下の通りである。
添加量0μL=0 TCID
50
添加量10μL=3.8×10
9 TCID
50
添加量20μL=7.5×10
9 TCID
50
添加量40μL=1.5×10
10 TCID
50
添加量60μL=2.3×10
10 TCID
50
添加量80μL=3.0×10
10 TCID
50
【0089】
3時間の培養の後、OPTI−MEMを除去し、PBSで洗浄した後に完全培地を加えてさらに48時間培養を行った。48時間後にルシフェラーゼアッセイキットにより遺伝子導入活性の評価を行った。補正(規格化)は総タンパク濃度で行い、総タンパク定量はBio Rad社のBradford試薬で行った。
FSHfbへの導入結果を
図1に示す。Hela細胞への導入結果を
図2に示す。
【0090】
[
参考例]
{直鎖型カチオン性ポリマーの合成}
実施例1において、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンの代りにクロロメチルベンゼンを用い、カチオン性ポリマー鎖を1本のみ有する直鎖型カチオン性ポリマーを合成した。
【0091】
即ち、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(10.3g,46mmol)を含むエタノール溶液50mL中にクロロメチルベンゼン(4.8g,38mmol)を含むエタノール溶液10mLを窒素雰囲気下0℃で滴下し、反応溶液を室温で23時間撹拌した後、150mLの水を加え、ジエチルエーテルで抽出した(200mL×3回)。有機層を水洗いし(100mL×3回)、硫酸ナトリウムで乾燥させた。エバポレータを用いて減圧下で溶媒を留去し、N,N−ジエチルジチオカルバミルメチルベンゼンを得た(無色液体,収量17.6g(収率93%))。
【0092】
1H−NMR:δ7.407〜7.271ppm(m,5H,Ar−H)δ4.540ppm(s,2H,Ar−CH
2S)、δ4.082〜4.012ppm(q,2H,−N−CH
2−)、δ3.763ppm〜3.692ppm(q,2H,−N−CH
2−)、δ1.311〜1.252ppm(m,6H,−CH
2−CH
3)
【0093】
次に、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(3.9g,24.96mmol)とN,N−ジメチルジチオカルバミルメチルベンゼン(23.94mg,0.1mmol)の混合物をメタノールで希釈し、全量20mLの溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm
2)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレータにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することでカチオン性ポリマーを析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去し、カチオン性ポリマーを水に溶解し、凍結乾燥させた。凍結乾燥後、GPCにて得られたカチオン性ポリマーの分子量を測定したところ、Mn=約25,000であった。
【0094】
1H−NMR:δ7.8〜7.4ppm(br,1H,−NH)、δ3.43〜3.0ppm(br,2H,−NH−CH
2−CH
2−)、δ2.4〜2.2ppm(br,2H,−CH
2−CH
2−NR
2)、δ2.2〜2.1ppm(br,6H,−N−CH
3)、δ1.8〜1.5ppm(br,2H,−CH
2−CH
2−CH
2−)
【0095】
{遺伝子導入実験}
細胞にはヤギ胎児由来の心筋線維芽細胞の初代細胞(FSHfb)を使用した。
細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
上記で得た直鎖型カチオン性ポリマー(Mn=25,000)中の単位重量あたりの陽電荷数は、該直鎖型カチオン性ポリマーを構成するモノマー単位(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の分子量156から計算して求めた。一方、DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列MAPによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この直鎖型カチオン性ポリマーをDNAと150μLのTE緩衝溶液中で混合して30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の10倍となるように(CA比=10)調整した(直鎖型カチオン性ポリマーを15.8μg、DNAを3.0μg)。
この150μL溶液に、1/20濃度に希釈したAdウイルス溶液(6×10
6
TCID
50/mL)を60μL(直鎖型カチオン性ポリマー1gあたりに換算したAdウイルス混合量は2.3×10
10 TCID
50)混合してからOPTI−MEM培養液100μLへ加えて混合し、30分間インキュベートしてから培養細胞へ加えた(いずれのWellにも0.5μgのDNAが投与されるように添加量を調整した)。3時間の培養の後、OPTI−MEMを除去し、PBSで洗浄した後に完全培地を加えてさらに48時間培養を行った。48時間後にルシフェラーゼアッセイキットにより遺伝子導入活性の評価を行った。補正は総タンパク濃度で行い、総タンパク定量はBio Rad社のBradford試薬で行った。
FSHfbへの導入結果を
図3に示す。
【0096】
[実施例3]
直鎖型カチオン性ポリマーの代りに、実施例1の(2)で得た6分岐スター型カチオン性ポリマー(Mn=25,000)を用いたこと以外は、
参考例と同様にして遺伝子導入実験を行い、結果を
図3に示した。
【0097】
[比較例1]
核酸複合体を用いず、Adウイルスのみを用い、Adウイルス溶液(6×10
6TCID
50/mL)を60μLをOPTI−MEM培養液100μLへ加えて混合し、30分間インキュベートしてから培養細胞へ加えたこと以外は、
参考例と同様にして遺伝子導入実験を行い、結果を
図3に示した。
【0098】
[Adウイルスのタイターに関する検討]
市販のキットで作製したAdウイルスを未精製又は精製の状態で濃度を1/20濃度に希釈して使用した。精製は以下のようにして行なった。
225mm2フラスコで293細胞培養し、6×10
6TCID
50/mLのAdウイルス液300μLと5%FCS含有DMEM培地5mLを加えて37℃で4日間培養した。培養溶液を3000rpm、4℃で15分間遠心分離し、沈殿を超音波処理で粉砕し10,000rpm、4℃で15分間遠心分離した。このウイルス原液を4.0Mの塩化セシウム溶液と2.2Mの塩化セシウム溶液の密度勾配遠心法により分離し、両セシウム溶液の中間に配置されたウイルスバンドを採取し、PBS溶液で透析して塩化セシウムを除去して精製ウイルス溶液を得た。力価は3×10
8TCID
50/mLとなった。さらに未精製品を1/80,1/160,1/320,1/640,又は1/1280濃度に希釈することで力価を下げて遺伝子導入活性を比較評価する実験を行った。
【0099】
細胞にはヤギ胎児由来の心筋線維芽細胞の初代細胞(FSHfb)を使用した。
細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
実施例1の上記(2)で得た6分岐スター型カチオン性ポリマー(Mn=25,000)中の単位重量あたりの陽電荷数は、該6分岐スター型カチオン性ポリマーを構成するモノマー単位(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の分子量156から計算して求めた。一方、DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列MAPによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この6分岐スター型カチオン性ポリマーをDNAと150μLのTE緩衝溶液中で混合して30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の15倍となるように(CA比=15)調整した。
この150μL溶液に、上記希釈したAdウイルス溶液をそれぞれ60μL混合してからOPTI−MEM培養液100μLへ加えて混合し、30分間インキュベートしてから培養細胞へ加えた(各Wellに0.5μgのDNAを投与した)。3時間の培養の後、OPTI−MEMを除去し、PBSで洗浄した後に完全培地を加えてさらに48時間培養を行った。48時間後にルシフェラーゼアッセイキットにより遺伝子導入活性の評価を行った。補正(規格化)は総タンパク濃度で行い、総タンパク定量はBio Rad社のBradford試薬で行った。
FSHfbへの導入結果を
図4に示す。
【0100】
なお、各Adウイルス溶液の6分岐スター型カチオン性ポリマー1gあたりに換算した混合量は以下の通りである。
精製品1/20倍希釈:6.3×10
12TCID
50
未精製品1/20倍希釈:7.6×10
8TCID
50
未精製品1/80倍希釈:1.9×10
8TCID
50
未精製品1/160倍希釈:9.5×10
7TCID
50
未精製品1/320倍希釈:4.8×10
7TCID
50
未精製品1/640倍希釈:2.4×10
7TCID
50
未精製品1/1280倍希釈:1.2×10
7TCID
50
【0101】
[考察]
図1〜4より次のことが分かる。
【0102】
図1より、核酸複合体へAdウイルスを混合することで初めてカチオン性ポリマーベクターによるFSHfbへの遺伝子導入が可能となったことが分かる。ただしAdウイルス混合の効果は濃度依存性に向上する傾向ではなく、むしろ混合量が少ない方で顕著な効果が得られていることと、Adウイルスへ挿入したDNAはLacZをコードする遺伝子であり、このホタルルシフェラーゼの活性とは無関係であることより、Adウイルスへ挿入されたDNAの導入との相乗効果ではないことが確認された。
【0103】
図2より、株化されたHela細胞ではAdウイルスを混合しなくとも6分岐スター型ポリマー単体でも遺伝子導入が可能であることが分かる。これは本発明者らが報告してきた公知事実である。一方、Adウイルスを混合することでHela細胞でも遺伝子導入活性が向上し、株化細胞への導入でも本発明は有効であることが分かる。
【0104】
図3より、Adウイルスを混合しなければFSHfbでは導入活性が得られないカチオン性ポリマーベクターの構造において、直鎖型と6分岐スター型とで遺伝子導入活性に差異が認められ、同じ分子量であれば分岐構造が有利であることが示唆された。
また、
図1と
図3との結果から、同じ6分岐スター型構造でも、分子量が高い方が高い遺伝子導入活性を得られる可能性が高いことが分かる。
また、Adウイルス単体での活性の評価ではホタルルシフェラーゼの活性は認められず、今回の実施例で使用したAdウイルスへ挿入したLacZ(β−ガラクトシダーゼ)が非特異的にホタルルシフェラーゼ活性評価反応に寄与していないことも示された。
【0105】
図4より、Adウイルスは未精製でも核酸複合体へ混合すれば効果が得られることが分かる。通常は精製処理を行って高タイターとして細胞への遺伝子導入に使用される事実からすれば、未精製品で高活性が発現されることは画期的である。未精製品を希釈して1/160の濃度としたもので活性が発現されていることから、Adウイルスは核酸複合体へ微量に混合されている状態で効果を発現していることが分かり、細胞へ何らかの作用を印加し、核酸複合体自体の遺伝子導入活性を助長している可能性があることが推測される。