(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944661
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】感熱孔版印刷用原紙
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20160621BHJP
B41C 1/055 20060101ALI20160621BHJP
B41C 1/14 20060101ALI20160621BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B41N1/24 102
B41C1/055 511
B41C1/14 101
B32B27/00
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-285631(P2011-285631)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132858(P2013-132858A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂司
(72)【発明者】
【氏名】石田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】江連 真市
(72)【発明者】
【氏名】石川 正人
(72)【発明者】
【氏名】服部 順行
(72)【発明者】
【氏名】小山 宗央
(72)【発明者】
【氏名】井上 茂紀
(72)【発明者】
【氏名】片山 充祥
【審査官】
亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−267576(JP,A)
【文献】
特開平07−276843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/24
B32B 27/00
B41C 1/055
B41C 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙であって、前記感熱孔版印刷用原紙がリチウム元素換算で5〜50ppmのリチウム化合物を含有し、前記リチウム化合物がイミドリチウム誘導体である、感熱孔版印刷用原紙。
【請求項2】
多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙であって、前記感熱孔版印刷用原紙がリチウム元素換算で5〜50ppmのリチウム化合物を含有し、前記リチウム化合物が、ウレタン系接着剤および/またはウレタン系外添剤との混合物の形態で、前記熱可塑性樹脂フィルムおよび/または前記多孔性支持体に含有されている、感熱孔版印刷用原紙。
【請求項3】
多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙であって、前記感熱孔版印刷用原紙が、リチウム元素換算で5〜50ppmのリチウム化合物と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びシリコーンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも一種のポリオールおよび/または前記ポリオールから誘導される化合物とを含み、前記リチウム化合物がポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びシリコーンポリオールからなる群より選ばれる前記少なくとも一種のポリオールおよび/または前記ポリオールから誘導される前記化合物により担持されている、感熱孔版印刷用原紙。
【請求項4】
さらに、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びシリコーンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも一種のポリオールおよび/または前記ポリオールから誘導される化合物を含み、前記リチウム化合物がポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びシリコーンポリオールからなる群より選ばれる前記少なくとも一種のポリオールおよび/または前記ポリオールから誘導される前記化合物により担持されていることを特徴とする請求項1に記載の感熱孔版印刷用原紙。
【請求項5】
前記リチウム化合物が、ウレタン系接着剤および/またはウレタン系外添剤との混合物の形態で、前記熱可塑性樹脂フィルムおよび/または前記多孔性支持体に含有されていることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の感熱孔版印刷用原紙。
【請求項6】
前記リチウム化合物の分子量が2,000以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の感熱孔版印刷用原紙。
【請求項7】
前記リチウム化合物の分子量が800以下であることを特徴とする請求項6に記載の感熱孔版印刷用原紙。
【請求項8】
前記リチウム化合物が、炭素数1〜12のフッ素化炭化水素基を有する、ビス(パーフロロアルキルスルホニル)イミドリチウムであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の感熱孔版印刷用原紙。
【請求項9】
多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙の製造方法であって、
(1)ポリオール中に分散されたリチウム化合物と、ウレタン系接着剤および/またはウレタン系エマルジョンとの混合物を、前記熱可塑性樹脂フィルムおよび/または前記多孔性支持体に施与する工程、及び
(2)前記多孔性支持体の少なくとも一の面上に、前記熱可塑性樹脂フィルムを積層する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記リチウム化合物がイミドリチウム誘導体であることを特徴とする請求項9に記載の感熱孔版印刷用原紙の製造方法。
【請求項11】
前記イミドリチウム誘導体が、炭素数1〜12のフッ素化炭化水素基を有する、ビス(パーフロロアルキルスルホニル)イミドリチウムであることを特徴とする請求項10に記載の感熱孔版印刷用原紙の製造方法。
【請求項12】
前記ポリオールがポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及びシリコーンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項9〜11の何れか1項に記載の感熱孔版印刷用原紙の製造方法。
【請求項13】
前記工程(1)が、ポリオール中に分散されたイミドリチウム誘導体と、ウレタン系エマルジョンとの混合物を、外添剤として前記多孔性支持体に施与する工程であり、前記施与する工程の後に、前記外添剤を固化する工程をさらに含む、請求項9〜12の何れか1項に記載の感熱孔版印刷用原紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
感熱孔版印刷用の原紙は、一般的に、多孔性支持体(以下、「支持体」という場合がある)と、該支持体上に積層された熱可塑性樹脂フィルムからなる。このうちデジタル印刷機に用いられるものは、通常、長尺の帯状形状を有し、ロール状に巻き取られた状態で印刷機に装着され、印刷の際に、当該ロールから繰り出して使用される。
【0002】
多孔性支持体としては、薄葉紙、紗、不織布等が用いられている。薄葉紙(以下、「和紙」という場合がある)を使用する場合、低コスト化を目的として天然繊維を配合することが多いが、天然繊維は合成繊維に比べて極細のものが少なく、また夾雑物が混入しているため、支持体中のインク通過を阻害し、画像性が低下する原因となる。そこで、近年は高品質画像を目的に、支持体に天然繊維を使用していない原紙が使用されるようになっている。
【0003】
しかし、支持体に天然繊維を配合していない和紙を用いた原紙は、天然繊維を配合したものに比べて静電気を帯びやすく、搬送性が低いという問題がある。この帯電現象は低温低湿環境下で顕著に現れる。
【0004】
上記問題の解決策として、原紙に帯電防止剤を添加することが知られている。例えば、原紙に導電性カーボンを添加する方法(特許文献1)、イオン性高分子化合物を配合する方法(特許文献2、3)が挙げられる。さらに、添加した帯電防止剤の裏抜けを防止するために、カチオン性重合体を配合する方法(特許文献4)、低分子界面活性剤をマイクロカプセルに包んで添加する方法(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-127627号公報
【特許文献2】特開2006-312296号公報
【特許文献3】特開2006-315245号公報
【特許文献4】特開2007-8066号公報
【特許文献5】特開2009-137170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、帯電防止剤を添加した原紙で製版を重ねると、感熱孔版印刷機のサーマルヘッド素子部に帯電防止剤の堆積物が形成され、該堆積物にさらに異物が付着して、穿孔を阻害することがある。この現象が発生すると、印刷画像の主走査方向に白い線が入る。特に、リン酸系の帯電防止剤は、サーマルヘッドに付着して、熱によりリン酸塩に変じやすい。該塩は、通常の使用や手入れでは除去することができず、使用するにつれて増加し続ける。また、リン酸系の帯電防止剤も含め、界面活性剤タイプの帯電防止剤は、空気中の水分を捕捉することで帯電防止効果を発生するものが多く、湿度の高いところでは大きな効果を発揮するが、低湿度環境では効果が薄れるという問題もある。また、高分子帯電防止剤は添加量当たりの帯電防止能が低く、添加量が多くなりがちであるため、穿孔性の低下等の弊害を生じやすい。
【0007】
そこで、本発明は、感熱孔版印刷機のサーマルヘッド素子部に堆積物を生じることなく、少量の添加で、低湿度下でも帯電防止性に優れる、感熱孔版印刷用原紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙であって、該感熱孔版印刷用原紙がリチウム元素換算で5〜50ppmのリチウム化合物を含有することを特徴とする、感熱孔版印刷用原紙である。
また、本発明は、多孔性支持体の少なくとも一の面上に熱可塑性樹脂フィルムを設けた感熱孔版印刷用原紙の製造方法であって、
(1)ポリオール中に分散されたリチウム化合物と、ウレタン系接着剤および/またはウレタン系エマルジョンとの混合物を、該熱可塑性樹脂フィルムおよび/または該多孔性支持体に施与する工程、及び
(2)該多孔性支持体の少なくとも一の面上に、該熱可塑性樹脂フィルムを積層する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の感熱孔版印刷用原紙は、所定量のリチウム化合物を含むことによって、一般的な導電性フィラーや界面活性剤型の帯電防止剤を用いた場合の、上記各問題がなく、低湿度下でも、優れた帯電防止効果を示す。さらに、該リチウム系帯電防止剤を、ウレタン外添剤もしくは接着剤と組合わせて使用することによって、帯電防止能をより向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の感熱孔版印刷用原紙(以下、「原紙」という場合がある)において、熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはその共重合体等を用いることができ、これらのうち穿孔性の点で、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンが好ましく、より好ましくはポリエステルである。該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートと1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等が挙げられる。
【0011】
該熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の効果を阻害しない量で、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑材あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を含んでよい。また、該熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、原紙に要求される感度等によって適宜決定されるが、通常0.1〜10μmとされ、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜3μmである。該厚さが10μmを越えると穿孔性が低下する傾向があり、0.1μm未満ではフィルムの製膜安定性が悪い。
【0012】
多孔性支持体(以下「支持体」という場合がある)としては、合成繊維を主体とする短繊維を抄紙した薄葉紙、不織布、織物またはスクリーン紗などが好ましく用いられる。合成繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはそれらの共重合体などが用いられる。これらの合成繊維は、単体で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0013】
これらの中では、強度およびもしくは耐水性の点で、ポリエステル、ポリアクリロニトリルが好ましく、より好ましくはポリエステル製の和紙が使用される。該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートと1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等が挙げられる。該ポリエステル製の和紙に用いられるポリエステル繊維としては、一般にポリエチレンテレフタレート系延伸ポリエステル繊維や未延伸ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを芯成分とし、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどから構成させる非晶性共重合ポリエステルを鞘成分とするポリエステル系複合繊維などが挙げられる。
【0014】
多孔性支持体に用いられる合成繊維としては、原紙に求められる品質に応じて各種の繊維径のものを適宜使用することができ、単一の繊維径の合成繊維を用いてもよいが、2種以上の繊維径の合成繊維を併用することができる。たとえば、太繊維を配合して剛性や耐刷性能を向上させ、また、細繊維を配合して画像性を向上させてもよい。該支持体に用いる繊維の平均繊維径は、20μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm〜15μmである。
また、こうぞ、みつまた、麻、ケナフ等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維、ビニロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成繊維またはこれらの混合物を添加してもよい。
【0015】
また、該支持体には、本発明の効果を阻害しない量で、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑材あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
【0016】
該支持体は湿式抄紙法により作ることができ、繊維を分散およびフィルタリングした後にワイヤ上にすくい取り、脱水、及び乾燥させて製造することができる。
【0017】
該支持体の繊維の坪量は20g/m
2以下が好ましく、より好ましくは5g/m
2〜20g/m
2、さらに好ましくは5g/m
2〜15g/m
2である。坪量が前記上限値を超えると、インキの通過性が低下して画像鮮明性が低下しやすく、坪量が前記下限値より少ないと、支持体として十分な強度を得られない場合がある。さらに、引張り強さ(湿潤状態、抄紙流れ方向)が0.1kN/m以上であることが好ましく、より好ましくは0.4kN/m以上である。
【0018】
本発明の原紙は、リチウム元素換算で5〜50ppm、好ましくは15〜35ppmのリチウム化合物を含む。該リチウム量は、例えば、原紙をケルダール法によって処理した後、ICP発光分析を行なうことによって、測定することができる。リチウムは、全元素中で酸化還元電位が最も低いことから、特許文献2、3においてもリチウム塩が挙げられている。しかし、これらはアニオン性高分子のリチウム塩であるために、単位質量あたりのリチウム含有量が少ない。このため、所望の帯電防止能を達成しようとすると、自ずと配合量が多くなり、原紙の強度や穿孔性を低下するという問題がある。
【0019】
本発明の原紙中に含有されるリチウム化合物の分子量は、約2000以下であることが好ましく、より好ましくは800以下の低分子リチウム化合物の形態で含まれる。該リチウム化合物としては、イミドリチウム誘導体が好ましく、より好ましくは下記式(1)で表されるビス(パーフロロアルキルスルホニル)イミドリチウム化合物である。
【化1】
上式において、R
1及びR
2は、夫々、独立に炭素数1〜12のフッ素化炭化水素基、好ましくは炭素数1〜8のフッ素化炭化水素基、例えば、CF
3−、C
2F
5−、CHF
2−等である。該スルホンイミドリチウム化合物自体は公知であるが(例えば特開2008-266155号公報)、感熱孔版印刷用原紙に使用された例は無い。該化合物は、その導電性効果が湿度の影響を受け難く、低湿度でも高い帯電防止効果を示す。
【0020】
好ましくは、リチウム化合物は、該化合物を分散もしくは溶解する担体もしくは媒体中に含まれる。該担体を変えることで水系・非水系の各種用途に使用でき、さらに、原紙中において、リチウム化合物が該担体および/又は該担体から誘導される構造、例えば高分子網目構造、中に担持されて、原紙中に強固に保持される。該担体としては、ポリオールもしくはその誘導体が好ましく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール、シリコーンポリオール等、およびそれらの誘導体が挙げられる。該リチウム化合物を接着剤に添加する場合には、グリコールのエーテル誘導体が、外添剤に添加する場合には、ポリエーテルポリオールが、夫々、担体として好ましい。
【0021】
本発明の原紙は、リチウム化合物に加え、フッ素元素量換算で100〜700ppm、好ましくは200〜500ppmのフッ素化炭化水素基をさらに含むことが好ましい。該フッ素量は、燃焼法および/もしくはイオンクロマトグラフ法により測定できる。また該フッ素量は、上記式(1)の化合物の添加により、達成することができる。
【0022】
本発明の原紙は、下記工程を含む方法で作ることができる。
(1)ポリオール中に分散されたリチウム化合物と、ウレタン系接着剤および/またはウレタン系エマルジョンとの混合物を、該熱可塑性樹脂フィルムおよび/または該多孔性支持体に施与する工程、及び
(2)該多孔性支持体の少なくとも一の面上に、該熱可塑性樹脂フィルムを積層する工程。
【0023】
工程(1)には、三種類の態様がある。第一の態様は、リチウム化合物を、熱可塑性樹脂フィルムと支持体の貼り合わせに用いる接着剤に添加して、熱可塑性樹脂フィルム及び/又は支持体上に施与する方法である。第二の態様はリチウム化合物を、支持体の外添剤、例えば紙力増強剤、撥水剤に添加して、支持体に施与した後、硬化する方法である。第三の態様は、これら双方を行なう方法であり、接着剤と外添剤の双方にリチウム化合物を添加する。第一の態様は、静電気の原因であるフィルムに帯電防止剤を含む接着剤が直接接触することから、効果的である。ただし、リチウム化合物の添加量が多くなると接着力が低下し、また、原紙の穿孔性を阻害する場合がある。そこで、帯電防止剤とその担体を合計した量での添加量の目安は、接着剤の固形分に対し5質量%〜30質量%、好ましくは5質量%〜15質量%である。該帯電防止剤を含む接着剤を、原紙に対して固形分で0.05g/m
2〜1.0g/m
2になるように塗布することで、上記リチウムの量を達成できる。
【0024】
熱可塑性樹脂フィルムと支持体の貼り合わせに用いる接着剤としては、酢酸ビニル系、アクリル系、塩化ビニル酢酸ビニル共重合系、ポリエステル系、ウレタン系などの加熱型接着剤、アクリレート系、ポリエステルアクリレート系、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリオールアクリレート系等の光硬化型の接着剤が挙げられ、これらのうちウレタンアクリレート系、ウレタン系が好ましく、これらを上記ポリオール系担体中の帯電防止剤と組み合わせて使用することが好ましい。工程(2)の積層工程中もしくは後の硬化過程において、ポリオールがウレタン高分子網目構造に固定されることによって、原紙中での帯電防止剤がより固定化される。
【0025】
該ウレタン系接着剤としては、一液型、二液型のいずれであってもよい。該ウレタンにおけるポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールが、イソシアネート成分としては、炭素数6〜16の、アルキレン基等の脂肪族基、シクロアルキレン基等の脂環式基、又はアリレーン基等の芳香族基を有するジイソシアネート、例えば、1,6−ジイソシアナートへキサン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
第二の態様では、帯電防止剤を含む外添剤、例えば紙力増強剤、撥水剤を支持体に塗布もしくは含浸させる。帯電防止剤の量としては、外添剤本来の機能である和紙の強度・剛性付与を妨げないように、帯電防止剤とその担体を合計した量での添加量の目安は、外添剤の固形分に対して1.0質量%〜30.0質量%であり、帯電防止剤を含む該外添剤を、原紙に対して固形分で0.01g/m
2〜1.0g/m
2の量になるように施与する。塗布後、加熱して外添剤を固化もしくは硬化する。
【0027】
外添剤、特に紙力増強剤としては、一般の紙基材に用いられる、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、デンプンおよびカチオン化デンプン等の変性デンプン、ゼラチン、カゼイン等のたんぱく質、アニオン化ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のアミド系樹脂、アクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等のスチレン系樹脂、等を挙げることができ、これらの水溶液もしくはエマルジョンが用いられる。さらにこれらは単独もしくは併用することができる。これらのうち、ウレタン系樹脂のエマルジョン、ウレタンアクリレート系樹脂のエマルジョンが好ましく、上記ポリオール系担体中の帯電防止剤と組み合わせて使用することが好ましい。外添剤は、工程(2)の前に加熱硬化する。得られた支持体上に、工程(2)において、熱可塑性樹脂フィルムを、熱融着、もしくは接着剤を用いて、積層する。
【0028】
上記三種類の態様のうち、第二または第三の態様が好ましく、第ニの態様が最も好ましい。これは、原紙における重量構成比で支持体が原紙の大部分を占めることから、接着剤に添加する場合よりも多くの帯電防止剤を添加しやすい事、また、原紙は巻き重ねられた状態でフィルム表面に接触しているため、外添剤として添加した方が搬送性の向上に寄与し易い事などが理由である。
【0029】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
ウレタン系エマルジョン(商品名スーパーフレックス800、固形分35%、第一工業製薬製)97.5g中に、ポリエーテルポリオールを担体とするイミドリチウム型の帯電防止剤(サンコノールPEO−20R、式(1)のR
1、R
2がともにCF
3SO
2−、分子量287、イミドリチウム成分20%、三光化学製)を2.5g添加し、得られた混合物を、ポリエステル繊維のみで抄紙された支持体(厚み40ミクロン、坪量12g/m
2)に2.8g/m
2の量で塗布し、加熱硬化した。次いで、ポリエステルフィルム(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み2ミクロン)の片面にUV硬化型接着剤(ウレタン(メタ)アクリレート系)を、0.45g/m
2の量で塗布し、上記支持体を積層した後、ポリエステルフィルム側から紫外線(オーク製作所製OHD−320M)を照射して硬化させ、原紙を作製した。該原紙中のリチウム含有量は24ppmであった。
【実施例2】
【0031】
テトラエチレングリコールジメチルエーテルを担体とするイミドリチウム型の帯電防止剤(サンコノールTGR、式(1)のR
1、R
2ともにCF
3SO
2−、分子量287、イミドリチウム成分56%、三光化学製)10gを、UV硬化型接着剤(ウレタン(メタ)アクリレート系)90gに添加して、撹拌し、接着液を得た。これを実施例1で使用したものと同様のポリエステルフィルムに0.45g/m
2の量で塗布した。別途、ポリウレタン水系ラテックスに、リチウム化合物を配合しなかったことを除き、実施例1と同様に処理したポリエステル繊維製和紙を処理した。これを、接着剤層の上に積層した後、実施例1と同様にして、紫外線で硬化させて原紙を作製した。該原紙中のリチウム含有量は34ppmであった。
【0032】
<比較例1>
接着剤にリチウム化合物を添加しなかったことを除き、実施例2と同様に原紙を作製した。
【0033】
<比較例2>
リチウム化合物に代えて、リン酸エステル型の帯電防止剤(デートロンN−20、固形分22%、日華化学製)1.99gをウレタン系エマルジョンに添加したことを除き、実施例1と同様にして、原紙を作成した。和紙への実塗布量と原紙全体の総重量から算出したリン酸エステルの含有量は約347ppmであった。
【0034】
<比較例3>
リチウム化合物に代えて、帯電防止効果を持つN-ブチル-3-メチルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(CIL312、主成分量99%以上、日本カーリット製)10gをUV硬化型接着剤に添加したことを除き、実施例2と同様にして原紙を作成した。フィルムへの実塗布量と原紙全体の総重量から算出したイオン性液体の含有量は約497ppmであった。
【0035】
各原紙を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
<表面固有抵抗>
温度/湿度が23℃/50%および5℃/30%の条件下で、極超絶縁計SM−8220(日置電機製)を用いて、原紙の表面固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。表1中、「>1.0×10
16[Ω/□]」は、該極超絶縁計の測定上限を超えたことを意味する。
【0036】
<サーマルヘッド表面への異物の堆積状態>
作製した原紙をリソグラフMD6650W(理想科学工業製)に装着して、網点原稿を2,000版連続製版した後に、サーマルヘッド表面への異物の堆積状態をサーフテスト(ミツトヨ製)にて観察した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、リチウム化合物は、リチウム量として数十ppm程度のわずかな添加量で、リン酸エステルと同等以上の帯電防止効果を発揮し、低温・低湿度でも安定した効果を示すのに加え、サーマルヘッド上の堆積物も顕著に少ない。また、リチウム化合物を和紙の外添剤に添加することで(実施例1)、より高い効果が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の感熱孔版印刷用原紙は、サーマルヘッドの素子部に堆積物を形成することなく、低温・低湿度下でも帯電防止性に優れる。