(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、少なくとも、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子、高分子分散剤及び有機溶媒を含む分散液を用いて基材の表面に金属銅含有膜を形成する工程(a)、次いで、その金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマ処理する工程(b)を含む金属銅焼結膜の製造方法である。前記分散液とは、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。本発明で用いる金属銅粒子はその表面にゼラチンが存在したものであって、金属銅粒子の粒子径、銅以外の構成成分等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。金属銅粒子の粒子径は、入手し易いことから1nm〜10μm程度の平均粒子径を有する金属銅粒子を適宜用いるのが好ましく、1nm〜1μm程度の平均粒子径の金属銅粒子がより好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜200nm程度の平均粒子径を有する金属銅粒子が更に好ましく、より微細な電極、回路配線パターンを得るためには、5〜50nmの範囲の平均粒子径を有する金属銅粒子を用いるのが更に好ましい。金属銅粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属銅等の不純物を含有していてもよく、あるいは、金属銅粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物や錯化剤等の有機化合物などが含まれていても良い。
【0011】
金属銅粒子の表面に存在するゼラチンには特に制限はなく、一般に市販されているものを用いることができる。好ましくはアミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0以下であるとよく、より好ましくは−50〜0の範囲である。一般にゼラチンは、コラーゲンを親物質とする動物性タンパク質である。ゼラチンの製造工程において、牛骨、牛皮、豚皮等の原料から効率よく高品質のゼラチンを抽出するために、塩酸や硫酸などの無機酸もしくは石灰を用いて、原料の前処理を行うが、前者を酸処理ゼラチン、後者をアルカリ処理(もしくは石灰処理)ゼラチンと称する。ゼラチンの抽出工程中に、コラーゲン中の酸アマイドは加水分解され、アンモニアを遊離してカルボキシル基に変化するため、ゼラチンの等イオン点は低下する。特にアルカリ処理ゼラチンは、石灰漬工程で100%近く脱アミドされているため、等イオン点は酸性域にあり、ほぼpH5程度である。これに対し、酸処理ゼラチンでは、原料処理期間が短く、脱アミド率が低いので、アルカリ域の等イオン点をもち、コラーゲンに近いpH8〜9程度である。このようなことから、ゼラチンは塩基性基、水酸基をもつためアミン価を有し、酸性基をもつため酸価を有する。本発明において金属銅粒子の表面に存在するゼラチンは、好ましくはアルカリ処理ゼラチンであり、後述の方法で測定したアミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0以下であり、より好ましくは−50〜0の範囲である。アルカリ処理ゼラチンは、酸処理ゼラチンに比べて、金属銅粒子の保護コロイドとしての効果に優れており、好ましいものである。
【0012】
高分子分散剤は、金属銅粒子表面に吸着層を形成したり、金属銅粒子の表面電荷を増加させたり、立体障害により粒子間の反発力を高めるものであり、市販のものを用いることができる。本発明では、金属銅粒子の表面にゼラチンが存在しているが、ゼラチンの酸価の原因となる酸点あるいはアミン価の原因となる塩基点を中和するために、高分子分散剤を混合する。具体的に前記のアルカリ処理ゼラチンは酸価が高いため、それが存在した金属銅粒子は、溶媒中で解離して電気的に陰性となっており、有機溶媒中では凝集し易い。そのため、ゼラチンの酸価の原因となる酸点を中和するために、高分子分散剤を混合する。高分子分散剤もゼラチンと同様に水酸基、酸性基、塩基性基等を有することから、アミン価、酸価を有するが、上述のとおりゼラチンが有するアミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0以下の場合、ゼラチンのもつ酸価(酸点)、アミン価(塩基点)を補償(中和)する程度以上のアミン価(塩基点)、酸価(酸点)をもつ高分子分散剤を用いるのが好ましく、アミン価と酸価の差、すなわち(アミン価−酸価)が0〜50がより好ましく、更に好ましくは1〜30の範囲である。高分子分散剤は、その塩基点、酸点を介して、ゼラチンの酸点、塩基点と静電的に結合していても良い。このようなことから、(高分子分散剤のもつアミン価×高分子分散剤の重量)−(ゼラチンのもつ酸価×ゼラチンの重量)が0以上であることが好ましいと考えられる。
【0013】
ゼラチン、高分子分散剤のアミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に対して等量の水酸化カリウムのmg数で表す。また、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表す。具体的には、アミン価、酸価は下記のJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。
(アミン価の測定方法)
ゼラチン又は高分子分散剤5g、ブロモクレゾールグリーンエタノール溶液数滴を300mLのエタノールと純水の混合溶媒に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M HClエタノール溶液を添加し、ブロモクレゾールグリーン指示薬の黄色が30秒続いた時の0.1M HClエタノール溶液の滴定量からアミン価を算出する。
(酸価の測定方法)
ゼラチン又は高分子分散剤5g、フェノールフタレイン液数滴を300mLの純水に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M KOHエタノール溶液を添加する。フェノールフタレイン指示薬の薄紅色が30秒続いた時の0.1M KOHエタノール溶液の滴定量から酸価を算出する。
【0014】
高分子分散剤としては、例えば、第3級アミノ基、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基等の塩基性基を有する高分子や共重合物であり、カルボキシル基等の酸性基を有していても良く、そのため、高分子分散剤のもつアミン価と酸価が相殺されて(アミン価−酸価)は0であっても良い。高分子分散剤は、アミン価が酸価よりも高いものが好ましく、(アミン価−酸価)は1〜30の範囲が好ましい。高分子分散剤の塩基性基又は酸性基は、ゼラチン被覆金属銅粒子に対して親和性のある官能基となるため、高分子の主鎖及び/又は側鎖に1個以上もつものが好ましく、数個もつものがより好ましい。塩基性基、酸性基は、高分子の主鎖の片末端及び/又は側鎖の片末端に有していても良い。高分子分散剤は、A−Bブロック型高分子等の直鎖状の高分子、複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子等を用いることができる。高分子分散剤の重量平均分子量には制限がないが、ゲル浸透クロマトグラフィー法で測定した重量平均分子量が2000〜1000000の範囲が好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり易い。より好ましくは4000〜1000000の範囲であり、更に好ましくは10000〜1000000の範囲である。また、高分子分散剤にはリン、ナトリウム、カリウムの元素が少ないものが好ましく、それらの元素が含まれていないものがより好ましい。高分子分散剤にリン、ナトリウム、カリウムの元素が含まれていると、加熱焼成して電極や配線パターン等を作製した際に、灰分として残存するため好ましくない。このような高分子分散剤の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0015】
高分子分散剤としては具体的には、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような高分子分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ディスパービック(DISPERBYK)(登録商標)112、ディスパービック(DISPERBYK)130、ディスパービック(DISPERBYK)140、ディスパービック(DISPERBYK)160、ディスパービック(DISPERBYK)161、ディスパービック(DISPERBYK)162、ディスパービック(DISPERBYK)163、ディスパービック(DISPERBYK)164、ディスパービック(DISPERBYK)166、ディスパービック(DISPERBYK)167、ディスパービック(DISPERBYK)168、ディスパービック(DISPERBYK)182、ディスパービック(DISPERBYK)2155、ディスパービック(DISPERBYK)2163、ディスパービック(DISPERBYK)2164、ディスパービック(DISPERBYK)180、ディスパービック(DISPERBYK)2000、ディスパービック(DISPERBYK)2009、ディスパービック(DISPERBYK)2050、ディスパービック(DISPERBYK)2163、ディスパービック(DISPERBYK)2164、BYK(登録商標)9076、BYK 9077(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−15BHFS、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−44、フローレンDOPA−17HF、フローレンTG−662C、フローレンKTG−2400(以上共栄社化学社製)、ED−117、ED−118、ED−212、ED−213、ED−214、ED−216(以上楠本化成社製)等を挙げることができる。
【0016】
有機溶媒は適宜選択することができ、具体的にはトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン等の炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール、IPA(イソプロピルアルコール)、ノルマルプロピルアルコール、2−ブタノール、TBA(ターシャリーブタノール)、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、テルピネオール、パインオイル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、ジヒドロターピニルアセテート、ターピニルメチルエーテル等のエステル系容媒、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。有機溶媒は、金属銅分散液の低粘度化に適応するために、低粘度のものが好ましく、1〜20mPa・sの範囲のものが好ましい。このような有機溶剤としては、トルエン、ブチルカルビトール、ブタノール、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、ブチルセロソルブ、テトラデカン等が好適に用いられる。
【0017】
ゼラチンは金属銅粒子100重量部に対し、0.1〜15重量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は0.1〜10重量部程度である。高分子分散剤は金属銅粒子100重量部に対し0.1〜20重量部の範囲であれば所望の効果が得られるので好ましく、この範囲より少なすぎると本発明の効果が得られ難いため好ましくなく、多すぎると電極材料用途では導電性を阻害し、装飾用途では白濁などを生じ仕上り外観が低下する場合があるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.1〜10重量部である。本発明の効果を阻害しない範囲で、一部のみゼラチンにより被覆された粒子や、ゼラチンにより被覆されていない粒子が混じっていてもよい。分散液中の金属銅粒子の濃度は適宜調整することができ、具体的には金属銅粒子の濃度を10重量%以上に調整することができ、好ましくは10〜80重量%であり、20〜70重量%程度がより好ましい。
【0018】
本発明に用いる金属銅分散液は、金属銅粒子が十分分散しているため高濃度であっても分散液の粘度を比較的低く調整することができ、例えば、分散液の粘度を好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは1〜30mPa・s、更に好ましくは1〜20mPa・sとすることができる。また、分散液中の金属銅粒子の濃度を高くすると粘度が高くなり易いが、本発明に用いる分散液は金属銅粒子の濃度を15重量%以上としても前記の粘度を維持することができ、このように低粘度、高濃度であるためにインクジェット印刷、スプレー塗装等に好適に用いることができる。本発明に用いる分散液に分散した金属銅粒子を動的光散乱法粒度分布測定装置で測定したメジアン径(累積中位径、50%粒子径)は、使用する金属銅粒子の大きさに依存するものの、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは1〜200nm程度、更に好ましくは1〜100nm程度である。このようなことから、本発明に用いる金属銅分散液の好ましい態様は、金属銅粒子の濃度が15重量%以上であり、金属銅粒子のメジアン径が1〜200nmであって、分散液の粘度が100mPa・s以下である。
【0019】
本発明に用いる金属銅分散液には、前記の金属銅粒子、有機溶媒、高分子分散剤の他に、硬化性樹脂、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、界面活性剤、非界面活性型分散剤、表面調整剤(レベリング剤)等を必要に応じて適宜配合することもできる。硬化性樹脂は、塗布物と基材との密着性を一層向上させることができる。硬化性樹脂としては、低極性非水溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等を制限なく用いることができる。また、硬化性樹脂の樹脂種としては、公知のタンパク質系高分子、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、セルロース等を制限なく用いることができる。硬化性樹脂成分の配合量は、金属銅粒子100重量部に対し10重量部以下が好ましく、より好ましい範囲は8重量部以下であり、5重量部以下であれば更に好ましい。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤が好ましく、水性溶媒中で解離して電気的に陽性を示す部分が、界面活性能を有する化合物である。例えば、(1)4級アンモニウム塩((a)脂肪族4級アンモニウム塩([RN(CH
3)
3]
+X
−、[RR'N(CH
3)
2]
+X
−、[RR'R''N(CH
3)]
+X
−、[RR'R''R'''N]
+X
−等:ここでR、R'、R''、R'''は同種又は異種のアルキル基を、XはCl、Br、I等のハロゲン原子を表す、以下同じ)、(b)芳香族4級アンモニウム塩([R
3N(CH
2Ar)]
+X
−、[RR'N(CH
2Ar)
2]
+X
−等:ここでArはアリール基を表す)、(c)複素環4級アンモニウム塩(ピリジニウム塩([C
6H
5N−R]
+X
−)、イミダゾリニウム塩([R−CN(CNR'R'')C
2H
4]
+X
−)等)、(2)アルキルアミン塩(RH
2NY、RR'HNY、RR'R''NY等:ここでYは有機酸、無機酸等を表す)が挙げられ、これらを1種用いても2種以上用いても良い。具体的には、脂肪族4級アンモニウム塩としては、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリステアリルメチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム等が挙げられる。芳香族4級アンモニウム塩としては、塩化デシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。複素環4級アンモニウム塩としては、塩化セチルピリジニウム、臭化アルキルイソキノリウム等が挙げられる。アルキルアミン塩としては、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ヤシ油アミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、トリオクチルアミン、トリステアリルアミン、ジオクチルメチルアミン等を塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や、酢酸等のカルボン酸等で中和した中和生成物が挙げられる。あるいは、金属銅粒子表面のメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とアルキルアミンを反応させて得られる中和生成物を、アルキルアミン塩として用いても良い。4級アンモニウム塩の中では、特に炭素数が8以上のアルキル基又はベンジル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのような4級アンモニウム塩としては、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(アルキル基の炭素数:18)、塩化オクチルトリメチルアンモニウム(同:8)、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(同:12)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(同:16)、臭化テトラオクチルアンモニウム(同:8)、塩化ジメチルテトラデシルベンジルアンモニウム(同:14)、塩化ジステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム(同:18)、塩化ベンザルコニウム(同:12〜18)が挙げられる。また、アルキルアミン塩のアルキルアミンの中でも、炭素数が8以上のアルキル基を少なくとも1個有しているものが好ましく、そのようなアルキルアミンとしては、オクチルアミン(同:8)、ラウリルアミン(同:12)、ステアリルアミン(同:18)、ジオクチルアミン(同:8)、ジラウリルアミン(同:12)、ジステアリルアミン(同:18)、トリオクチルアミン(同:8)、トリラウリルアミン(同:12)が挙げられる。また、表面調整剤は有機溶剤分散体の表面張力をコントロールして、ハジキ、クレーター等の欠陥を防止するものであり、アクリル系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。界面活性剤、表面調整剤の添加量は適宜調整することができ、例えば金属銅粒子100重量部に対し2.0重量部以下が好ましく、0.2重量部以下がより好ましい。
【0020】
本発明に用いる金属銅分散液は、例えば以下の方法で製造することができる。ゼラチンの存在下、水系溶媒中で銅酸化物を還元した後、固液分離し、次いで、得られたゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子と高分子分散剤を有機溶媒に混合して分散させると、分散安定性の良い分散液が得られため好ましい。
【0021】
前記の方法において、ゼラチンの存在下で、銅酸化物と還元剤とを水系溶媒中で混合し、還元すると、ゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子が生成する。ゼラチンは保護コロイドとして作用し、アミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が0以下のゼラチンを用いるのが好ましい。前記のゼラチンを用いることにより、生成した金属銅粒子の表面にゼラチンが存在して、水系溶媒中では凝集粒子が少なく分散性の良いものを製造することができる。ゼラチンの使用量は、銅酸化物100重量部に対し1〜100重量部の範囲にすると、生成した銅微粒子が分散安定化し易いので好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましく、3〜15重量部が更に好ましい。銅酸化物としては2価の銅酸化物を用いることが好ましい。「2価の銅酸化物」は、銅の原子価が2価(Cu
2+)であり、酸化第二銅、水酸化第二銅及びこれらの混合物を包含する。銅酸化物には、その他の金属、金属化合物や非金属化合物などの不純物を適宜含んでいても良い。
【0022】
還元剤としては、還元反応中に1価の銅酸化物が生成及び/又は残存しないように、還元力が強いものを用いるのが好ましく、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いても良い。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、銅酸化物から銅微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、銅酸化物中に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、金属銅粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の金属銅粒子が得られ難いため好ましくない。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0023】
水系溶媒とは水が含まれている溶媒であり、例えば、水又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、工業的には水媒液を用いるのが好ましい。反応温度は、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば微細な金属銅微粒子が得られるためより好ましく、60〜95℃の範囲が更に好ましく、80〜95℃の範囲が特に好ましい。反応液のpHを酸又はアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、銅酸化物の沈降を防ぎ、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。
【0024】
また、還元の際には、必要に応じて錯化剤を用いることもできる。必要に応じて用いる錯化剤は、銅酸化物から銅イオンが溶出するか、又は銅酸化物が還元されて金属銅が生成する過程で作用すると考えられ、これが有する配位子のドナー原子と銅イオン又は金属銅と結合して銅錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。具体的には、
(1)窒素がドナー原子である錯化剤としては、(a)アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等の1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及び、ピペリジン、ピロリジン等のイミン類等の2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するもの等)、(b)窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン等)、(c)ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)及びシアン化合物、(d)アンモニア及びアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)、(e)オキシム類等が挙げられる。
(2)酸素がドナー原子である錯化剤としては、(a)カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類等)、(b)ケトン類(例えば、アセトン等のモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のジケトン類等)、(c)アルデヒド類、(d)アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類等)、(e)キノン類、(f)エーテル類、(g)リン酸(正リン酸)及びリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等)、(h)スルホン酸又はスルホン酸系化合物等が挙げられる。
(3)硫黄がドナー原子である錯化剤としては、(a)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン等)、(b)脂環式チオール類(シクロヘキシルチオール等)、(c)芳香族チオール類(チオフェノール等)、(d)チオケトン類、(e)チオエーテル類、(f)ポリチオール類、(g)チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、(h)硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピラン等)、(i)チオシアナート類及びイソチオシアナート類、(j)無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素等)等が挙げられる。
(4)2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、(a)アミノ酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類)、(b)アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)等)、(c)アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(d)ニトロソ化合物及びニトロシル化合物(ドナー原子が窒素及び酸素)、(e)メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸等)、(f)チオグリコール類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコール等)、(g)チオン酸類(ドナーが硫黄及び酸素)、(h)チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄及び酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、(i)アミノチオール類(ドナーが硫黄及び窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(j)チオアミド類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えば、チオホルムアミド等)、(k)チオ尿素類(ドナー原子が硫黄及び窒素)、(l)チアゾール類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾール等)、(m)含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素及び酸素:システイン、メチオニン等)等が挙げられる。
(5)上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム等のそれらのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステル等が挙げられる。
このような錯化剤のうち、少なくとも1種を用いることができる。錯化剤の使用量は錯化剤の種類により最適量が異なるため、その種類に応じて適宜設定する。錯化剤の使用量を少なくすると、金属銅微粒子の一次粒子を小さくすることができ、使用量を多くすると、一次粒子を大きくすることができる。
【0025】
錯化剤に関して、窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含むものが好ましい。具体的には、アミン類、窒素含有複素環式化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類、又はそれらの塩又は誘導体から選ばれる少なくとも1種であればより好ましく、カルボン酸類の中ではオキシカルボン酸類が、ケトン類の中ではジケトン類が、アミノ酸類の中では塩基性及び酸性アミノ酸類が好ましい。更に、錯化剤が、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸又はそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸又はそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸又はそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であれば好ましい。これらの酸素系又は窒素系の錯化剤の使用量は、前記のように銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲が好ましく、0.1〜200重量部の範囲がより好ましく、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。
【0026】
また、ドナー原子の少なくとも一つが硫黄である錯化剤を用い、この錯化剤を、銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲で用いると、一層微細な金属銅粒子の生成を制御し易くなる。硫黄を含む錯化剤としては、前記のメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類、脂肪族チオール類、脂環式チオール類、芳香族チオール類、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類、硫黄含有複素環式化合物、チオシアナート類及びイソチオシアナート類、無機硫黄化合物、チオン酸類、アミノチオール類、チオアミド類、チオ尿素類、チアゾール類又はそれらの塩又は誘導体等が挙げられる。中でもメルカプトカルボン酸類、メルカプトエタノール等のチオグルコール類、含硫黄アミノ酸類が効果が高いので好ましく、分子量が200以下であるのがより好ましく、180以下であれば一層好ましい。そのようなメルカプトカルボン酸として、例えば、メルカプトプロピオン酸(分子量106)、メルカプト酢酸(同92)、チオジプロピオン酸(同178)、メルカプトコハク酸(同149)、ジメルカプトコハク酸(同180)、チオジグリコール酸(同150)、システイン(同121)等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。より好ましい使用量は、0.05〜1重量部の範囲であり、0.05重量部以上0.5重量部未満であれば更に好ましい。
【0027】
銅酸化物と還元剤とを混合する際のそれぞれの原材料の添加順序には制限はなく、例えば、(1)ゼラチンを含む水系溶媒に、銅酸化物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(2)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、還元剤を添加する方法等が挙げられる。また、還元の際に錯化剤を添加しても良く、その場合は例えば、(3)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、錯化剤と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(4)ゼラチン、銅酸化物を含む水系溶媒に、錯化剤と還元剤の混合液を添加する方法等が挙げられる。中でも(3)、(4)の方法が反応を制御し易いので好ましく、(4)の方法が特に好ましい。銅酸化物、還元剤、ゼラチン、錯化剤は還元反応に用いる前に予め水系溶媒に懸濁あるいは溶解して用いても良い。尚、「同時並行的添加」とは、反応期間中において銅酸化物と還元剤あるいは錯化剤と還元剤とをそれぞれ別々に同時期に添加する方法をいい、両者を反応期間中継続して添加する他に、一方あるいは両者を間欠的に添加することも含む。
【0028】
前記の方法によりゼラチンを粒子表面に有する金属銅粒子を生成した後、金属銅粒子を固液分離し、洗浄して、金属銅粒子の固形物を得る。固液分離する手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。次いで、必要に応じて、金属銅粒子の固形物を通常の方法により乾燥しても良い。金属銅粒子は酸化され易いので、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。
【0029】
次いで、金属銅粒子の固形物あるいは乾燥物を有機溶媒に混合して分散させる際に、高分子分散剤を添加する。有機溶媒、高分子分散剤は前記のものを用いることができ、混合方法としては湿式混合機を用い、例えば、撹拌機、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル等の湿式粉砕機、ペイントシェーカー等の振とう機、超音波分散機等の分散機などを用いることができる。高分子分散剤としてはアミン価と酸価の差(アミン価−酸価)が0〜50のものを用いると好適である。このようにして、金属銅粒子を有機溶媒に分散した金属銅分散液が得られる。また、混合の前に必要に応じて、圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いて、金属銅粒子を粉砕しても良く、また、粉砕の際に同時に混合しても良い。
【0030】
次に、前記の金属銅分散液を用いて基材の表面に金属銅含有膜を形成する(工程(a))。まず、前記金属銅分散液を基材に付着させる(以下では代表して「塗布する」と記載する)。金属銅分散液の塗布には、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷又はオフセット印刷等の汎用の印刷方法や転写方法、スプレー、スリットコーター、カーテンコーター、バーコーター、刷毛、筆又はスピンコーター等を使用した汎用の塗装法を用いることができる。塗布層の厚みについては特に規制はなく、使用目的、用途に応じて適宜選択できるが、0.001〜100μmが好ましく、0.005〜70μmがより好ましい。このときの塗布パターンは、基材の全面に塗布することも、パターン状や模様状に塗布することもできる。塗布方法や使用目的、用途に応じて、金属銅粒子の粒径や高分子分散剤、有機溶媒及びその他配合物の種類を適宜選択できる。また、分散液の粘度や金属銅濃度についても同様に適宜選択できる。
【0031】
前記の金属銅分散液は低粘度、高銅濃度という特徴を有しているため、特にインクジェット印刷、スプレー塗装等に好適に用いることができる。インクジェット印刷とは、分散液の液滴を微細な孔から吐出して基材に着弾させることで所定の形状のパターンを形成する方法である。この方法を用いると、インクジェットプリンタとパソコン等のコンピューターを接続することにより、コンピューターに入力された図形情報により、金属銅分散液の吐出口であるノズルと、基材との相対的な位置を変化させて任意の場所に分散液を吐出でき、それにより所望のパターンを基材上に描くことができる。また、ノズル径、分散液の吐出量、及びノズルと吐出物が形成される基材との移動速度の相対的な関係によって、形成する金属銅含有膜の厚みや幅を調整できる。このため、微細な金属銅含有膜を作製することができるし、一辺が1〜2mを超えるような大面積の基材上においても、所望の箇所に金属銅含有膜を精度よく吐出形成することができる。また、隣り合う膜パターンとの不整合が生じないため、歩留まりを向上させることができ、また、必要部分にのみ分散液を塗着することができるため、金属銅分散液のロスを減らすことができる。インクジェット印刷には金属銅分散液の吐出方式により各種のタイプがあり、例えば、圧電素子型、バブルジェット(登録商標)型、空気流型、静電誘導型、音響インクプリント型、電気粘性インク型、連続噴射型などがあるが、パターンの形状や厚さ、金属銅分散液の種類などにより適宜選択することができる。
【0032】
インクジェット印刷においては、金属銅分散液の粘度は100mPa・s以下が好ましく、1〜20mPa・sがより一層好適であるが、これは、前述の吐出口ノズルが目詰まりすることなく分散液を円滑に吐出できるようにするためである。金属銅粒子の粒径は、ノズルの径や所望のパターン形状などに依存するが、ノズルの目詰まり防止や高精細なパターン作製のため1〜200nmが好ましく、1〜100nmがより好ましい。
【0033】
基材としては、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイアガラスなどのガラス類、Al
2O
3、MgO、BeO、ZrO
2、Y
2O
3、CaO、GGG(ガドリウム・ガリウム・ガーネット)等の無機材料、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の有機材料、その有機材料に直径数nmの無機粒子が分散された複合材料で形成される基板、シリコンウエハ、金属板等を用いることができる。用途に応じてこれらの材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基材または剛性のある基材とすることがきる。なお、その大きさについては制限はなく、形状も円盤状、カード状、シート状などいずれの形状であってもよく、基材の表面も平面である必要はなく、凹凸又は曲面を有するものでもよい。
【0034】
前記基材上には、前記基材表面の平面性の改善、接着力の向上及び金属銅含有膜の変質防止などの目的で、下地層が設けられていてもよい。該下地層の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、N−メチロールアクリルアミド、スチレン・ビニルトルエン共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の高分子物質、熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂、カップリング材などの表面改質剤等が挙げられる。前記下地層の材料としては、基材と金属銅含有膜の密着性に優れている材料が好ましく、具体的には、熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂、及びカップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ゲルマニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤など)などの表面改質剤、コロイダルシリカ等が好ましい。
【0035】
前記下地層は、上記材料を適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調整し、該塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコートなどの塗布方法を利用して基材表面に塗布することにより形成することができる。前記下地層の層厚(乾燥時)は、一般に0.001〜20μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0036】
次に、必要に応じて、金属銅分散液塗布後の膜を適当な温度で加熱して金属銅含有膜中の有機溶媒(種類によってはその他低沸点配合物を含む)を蒸発除去(以降、「加熱乾燥」と記載する)してもよい。加熱乾燥温度は適宜設定することができるが、金属銅の酸化を抑制するため150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。加熱時間も適宜設定することができる。雰囲気も適宜設定することができ、不活性ガス雰囲気下または還元性ガス雰囲気下、酸素ガス含有雰囲気下(大気中など)で実施することもできる。不活性ガスには窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができる。なお、有機溶媒等の蒸発除去は、加熱乾燥に限定されるわけではなく、自然乾燥法や減圧乾燥法を用いてもよい。減圧乾燥の場合は大気圧よりも低い圧力下で行い、具体的には真空圧下、超真空圧下で行っても良い。
【0037】
次いで、前記の工程(a)で作製した金属銅含有膜の全領域又は一部領域にプラズマ処理を行い、金属銅焼結膜を作製する(工程(b))。この工程で、ゼラチンや高分子分散剤等の金属銅含有膜に含まれる有機化合物を分解あるいは気化させるとともに、金属銅粒子同士の融着を起こさせる。プラズマ処理は公知の方法を適宜選択することができる。例えば、金属銅含有膜をプラズマ処理装置に入れ、ガスを導入し、エネルギーを加えると、ガスはイオン化され、プラズマ状態となる。ガスに供給される励起エネルギーは、放電、直流、無線周波数、マイクロ波又は電磁放射線等である。また、一般的には、2つの電極間に電圧を加えて電場を形成してもプラズマを発生することができる。プラズマ処理に好適なガスとしては、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、空気、亜酸化窒素、アンモニア、二酸化炭素、酸素等を挙げることができ、酸素ガス、水素ガス、酸素とヘリウム又はアルゴンの混合ガス、水素とヘリウム又はアルゴンの混合ガスがより好ましい。プラズマ処理は、大気条件で実施でき、あるいはプラズマを低圧又は真空条件に維持することのできる装置内で行ってもよい。圧力は、約10ミリトル〜760トル(約1.333〜101325Pa)の範囲内が好ましい。
【0038】
具体的には次のような例で行うことができる。まず、金属銅含有膜をプラズマ処理装置に入れ、必要に応じて基材を大気中で加熱する。加熱温度は、基材の材質に応じて設定することができるが、耐熱性の低いプラスチックを用いる場合180℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。下限値は20℃程度が実用的である。次に、低圧又は真空条件下にして加熱するのが好ましく、加熱温度は180℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。上記の加熱時間は適宜設定することができる。そして、引き続き加熱しながら、プラズマ処理装置内にガスを導入し、プラズマを発生させ、金属銅含有膜の全領域又は一部領域に照射する。周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給してマイクロ波表面波プラズマを発生させるのが好ましい。一部領域にプラズマを照射する場合、マスクパターンを金属銅含有膜の上に置き、プラズマが照射されないように保護することもできる。プラズマ照射時間は、適宜設定することができ、例えば、約0.01〜30分程度であり、0.01〜10分程度が適当である。プラズマ照射は二段階で行うことができ、一段目は酸素ガスの存在下でプラズマを照射してゼラチン等の有機化合物を分解し、その後、二段目に還元性ガスの存在下で照射して金属銅粒子を焼結させることもできる。
【0039】
更に、必要に応じて、金属銅焼結膜のうち不必要な部分、あるいは、前記工程(b)のプラズマを照射していない部分は適当な溶媒を用いるなどして除去しても良い(工程(c))。工程(c)で用いる溶媒は、アルコール系、グリコールエーテル系、芳香族系、など種々の溶媒を用いることができる。このような溶媒に基材を浸漬したり、溶媒を浸した布や紙で拭き取るなどしたりして除去することができる。次に、必要に応じて、前記の工程(b)又は工程(c)の後に、基材上に作製した金属焼結膜の全領域又は一部領域を、別の基材に転写することもできる(工程(d))。工程(d)を行うことにより金属銅焼結膜を直接形成することが困難なものにも簡便に金属銅焼結膜を作製することができる。
【0040】
本発明の方法で作製した金属銅焼結膜は、全体が焼結していると抵抗値が低くなるため好ましく、そのために十分な時間、強さのプラズマ照射を行うのが好ましい。しかしながら、金属銅焼結膜の表面部だけが焼結し、内部は焼結していなくても良く、表面部の一部だけが焼結していても差し支えなく、使用に必要な抵抗値等の性能が得られるのであれば良い。金属銅焼結膜の体積抵抗値は、50μΩ・cm以下が好ましく、20μΩ・cm以下がより好ましく、10μΩ・cm以下が更に好ましい。このような金属銅焼結膜は、厚み、大きさ、形状等は制限がなく、薄膜、厚膜であっても良く、基材全面又は一部を覆っていても良い。あるいは、基材の一部に形成された微細な線状、大きな幅の線状であっても良く、微細な点状であっても良い。例えば、厚みは、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。具体的な用途としては、金属銅の導電性を利用して電極、配線パターンに用いることができ、金属銅の色調や抗菌作用を利用して装飾用途、抗菌用途にも用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0042】
金属銅分散液の作製
工業用酸化第二銅(エヌシーテック社製N−120)24g、保護コロイドとしてゼラチン(アミン価23、酸価29、アミン価−酸価=−6)2.8gを150ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%の3−メルカプトプロピオン酸溶液0.24gと、80%のヒドラジン一水和物10gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化銅と反応させ、ゼラチンで被覆した銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、ゼラチンで被覆した金属銅粒子を得た。
上記方法にて合成したゼラチンで被覆した平均粒子径50nmの金属銅粒子20gと高分子分散剤を溶解した有機溶媒(用いた高分子分散剤の種類、その酸価、アミン価、(アミン価−酸価)、添加量と有機溶媒の種類を表1に示す。)20gを混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、金属銅分散液(試料A、B)を得た。
なお、ゼラチン、高分子分散剤の酸価、アミン価は前記のJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1〜4
前記の金属銅分散液(試料A、B)をポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製 カプトン(登録商標)フィルム 300Vタイプ 75μm厚)にバーコーター#3で塗布し、金属銅含有膜を作製した。その後、(株)ニッシン製 MicroLabo-PSを用いて、プラズマ処理を次のように行い、金属銅焼結膜を得た。
まず、金属銅含有膜をプラズマ装置内の100℃又は150℃の所定温度に加熱したステージに置き、180秒又は30秒の所定時間加熱した。その後、装置内を60秒減圧し、3%H
2−Heガスを装置内に30秒充填し、プラズマ照射を表2に記載の所定時間行った。プラズマ処理後、90秒、N
2ガスをパージすることで冷却し、金属銅焼結膜を得た。
【0045】
比較例1
前記の試料Aを100ppm−O
2−N
2混合ガス気流中、200℃で予備加熱を行い、3%水素含有窒素ガス気流中250℃で行った。加熱には光洋サーモシステム社 電気管状炉(KTF085N)を使用し、昇温および降温は10℃/分とし、加熱時間は各工程とも1時間とした。
【0046】
<膜厚の測定と体積抵抗値の測定>
得られた金属銅焼結膜の表面と断面に白金を蒸着した後、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、膜厚を測定した。また、金属銅焼結膜の体積抵抗値の測定には、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いた。結果を表2、3に示す。本金属銅含有膜をプラズマ処理することで、加熱焼成法と同等に抵抗値の低い良好な金属銅焼結膜が得られた。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】