(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池などによって生成される直流電力を交流電力に変換して、電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。
【0003】
図12は、従来の一般的な単相電力系統の系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。系統連系インバータシステムA100は、直流電源1が生成した電力を変換して単相電力系統B(以下、「電力系統B」とする。)に供給するものである。
【0004】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧をスイッチング素子(図示しない)のスイッチングにより交流電圧に変換する。フィルタ回路3は、インバータ回路2から出力される交流電圧に含まれるスイッチング周波数成分を除去する。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を電力系統Bの系統電圧に昇圧(または降圧)する。制御回路700は、電流センサ5および電圧センサ6などが検出した電流信号および電圧信号を入力され、これに基づいてPWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。インバータ回路2は、制御回路700から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行う。
【0005】
図13は、制御回路700の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0006】
電流センサ5から入力された電流信号は、ヒルベルト変換部73および回転座標変換部78に入力される。
【0007】
ヒルベルト変換部73は、ヒルベルト変換によって、入力された電流信号の位相をπ/2(90度)だけ遅らせるものである。理想的なヒルベルト変換は、下記(1)式に示す伝達関数H(ω)で表される。なお、ω
Sは標本化角周波数であり、jは虚数単位である。つまり、ヒルベルト変換とは、振幅特性は周波数によらず一定で、位相特性は正負の周波数領域でπ/2(90度)遅らせるフィルタ処理である。理想的なヒルベルト変換を実現することはできないので、例えばFIR(Finite impulse response)フィルタとして近似的に実現している。
【数1】
【0008】
ヒルベルト変換した信号は、元の信号の位相をπ/2だけ遅らせたものになる。したがって、ヒルベルト変換後の信号と元の信号とを用いることで、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うことができるので、単相交流の場合でも三相交流の場合と同様に、回転座標系での制御を行うことができる。
【0009】
回転座標変換部78は、電流センサ5から入力された電流信号(以下、「α軸電流信号Iα」とする。)およびヒルベルト変換部73から入力された電流信号(以下、「β軸電流信号Iβ」とする。)を、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部78は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。
【0010】
回転座標変換部78で行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
【数2】
【0011】
LPF74aおよびLPF75aは、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分に変換されている。PI制御部74bおよびPI制御部75bは、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分とその目標値との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)を行い、基本波補償信号Xd,Xqを出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、PI制御部74bおよびPI制御部75bは、精度のよい制御を行うことができる。
【0012】
静止座標変換部79は、PI制御部74bおよびPI制御部75bからそれぞれ入力される基本波補償信号Xd,Xqを、静止座標系の2つの基本波補償信号Xα,Xβに変換するものであり、回転座標変換部78とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部79は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の基本波補償信号Xd,Xqを、位相θに基づいて、静止座標系の基本波補償信号Xα,Xβに変換する。
【0013】
静止座標変換部79で行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
【数3】
【0014】
制御回路700には、電力系統Bから入力される高調波およびインバータ回路2から出力される高調波を抑制する機能が備えられている。高調波補償コントローラ800は、電流センサ5から入力された電流信号から高調波成分を抽出し、これを打ち消す高調波を出力するための高調波補償信号を出力する。系統連系インバータシステムA100は高調波補償信号に基づく高調波(すなわち、検出した高調波の逆位相の高調波)を出力して打ち消させることで、高調波を抑制する。
【0015】
図14は、高調波補償コントローラ800の内部構成を説明するためのブロック図である。電力系統Bまたはインバータ回路2からの高調波は、一般的に、5次高調波、7次高調波、および11次高調波が多い。これらの高調波を抑制するために、5次高調波を抑制するための5次高調波補償部810、7次高調波を抑制するための7次高調波補償部820、および11次高調波を抑制するための11次高調波補償部830が、高調波補償コントローラ800に備えられている。5次高調波補償部810は、回転座標変換部811、LPF812,813、I制御部814,815、および静止座標変換部816を備えている。なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830は5次高調波補償部810と同様の構成なので、
図14における記載および説明を省略している。
【0016】
回転座標変換部811は、電流センサ5から入力されたα軸電流信号Iαおよびヒルベルト変換部73から入力されたβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Id
5およびq軸電流信号Iq
5に変換するものである。この回転座標系は、系統電圧の基本波の角速度の5倍の角速度で逆の方向に回転する直交座標系である。回転座標変換部811は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Id
5およびq軸電流信号Iq
5に変換する。
【0017】
回転座標変換部811で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
【数4】
なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830の回転座標変換部は、上記(4)式において、(−5θ)をそれぞれ7θ、(−11θ)とした処理を行う。
【0018】
LPF812およびLPF813は、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Id
5およびq軸電流信号Iq
5の直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの5次高調波が、それぞれd軸電流信号Id
5およびq軸電流信号Iq
5の直流成分に変換されている。I制御部814およびI制御部815は、それぞれd軸電流信号Id
5およびq軸電流信号Iq
5の直流成分に基づいてI制御(積分制御)を行い、5次高調波補償信号Yd
5,Yq
5を出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、I制御部814およびI制御部815は、精度のよい制御を行うことができる。
【0019】
静止座標変換部816は、I制御部814およびI制御部815からそれぞれ入力される5次高調波補償信号Yd
5,Yq
5を、静止座標系の2つの5次高調波補償信号Yα
5,Yβ
5に変換するものであり、回転座標変換部811とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部816は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の5次高調波補償信号Yd
5,Yq
5を、位相θに基づいて、静止座標系の5次高調波補償信号Yα
5,Yβ
5に変換する。
【0020】
静止座標変換部816で行われる変換処理は、下記(5)式に示す行列式で表される。
【数5】
なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830の静止座標変換部は、上記(5)式において、(−5θ)をそれぞれ7θ、(−11θ)とした処理を行う。
【0021】
同様にして、7次高調波補償部820は7次高調波補償信号Yα
7,Yβ
7を生成し、11次高調波補償部830は11次高調波補償信号Yα
11,Yβ
11を生成する。5次高調波補償信号Yα
5、7次高調波補償信号Yα
7、および11次高調波補償信号Yα
11を加算した高調波補償信号Yαが、高調波補償コントローラ800から出力される。
【0022】
PWM信号生成部77は、静止座標変換部79から出力される基本波補償信号Xαと高調波補償コントローラ800から出力される高調波補償信号Yαとが加算された補正値信号X’αに基づいてPWM信号を生成して出力する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ヒルベルト変換部73は、理想的なヒルベルト変換を実現することができないので、例えばFIRフィルタで構成されて、近似的なヒルベルト変換を実現している。FIRフィルタでは群遅延が生じるので、ヒルベルト変換部73から出力されるβ軸電流信号Iβはα軸電流信号Iαに対して時間遅れが生じる。このため、
図12には示していないが、実際の処理では、電流センサ5と回転座標変換部78との間に遅延回路を設け、位相の調整を行う必要がある。ヒルベルト変換部73を構成するFIRフィルタは、次数nを大きくして変換帯域を広くすると、周波数特性におけるリプルを小さくできるが、群遅延が大きくなって検出が遅れるという特性がある。逆に、次数nを小さくして変換帯域を狭くすると、群遅延は抑制できるが、周波数特性におけるリプルが大きくなって検出精度が低下するという特性がある。
【0026】
したがって、ヒルベルト変換部73を用いた場合、検出速度と検出精度のトレードオフを考慮して、構成するFIRフィルタの次数nを設計しなければならないという煩わしさがある。また、ある程度の検出精度を得ようとすると、FIRフィルタの次数nを高くする必要があり、それによりヒルベルト変換部73の構成が大きくなるため、制御回路700が複雑化するという問題もある。
【0027】
また、電流制御のための制御系を設計することに大変な労力が必要であるという問題がある。最近の系統連系インバータシステムには、瞬低に対して所定の時間以内に出力を復帰させるなど、制御に高速な応答性が求められている。このような要求を満たすように制御系を設計するために、LPF74aおよびLPF75aのパラメータや、PI制御部74bおよびPI制御部75bの比例ゲインおよび積分ゲインを最適に設計する必要がある。しかし、回転座標変換部78および静止座標変換部79は非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができなかった。また、制御系が非線形時変処理を含むため、システム解析もできなかった。
【0028】
さらに、各高調波補償のための制御系を設計するために、LPF812,813のパラメータや、I制御部814,815の積分ゲインを最適に設計する必要がある。しかし、回転座標変換部811および静止座標変換部816は非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができなかった。また、制御系が非線形時変処理を含むため、システム解析もできなかった。
【0029】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、簡単な構成で高速かつ高い精度の電流制御を行うことができ、当該電流制御の制御系で併せて高調波補償も行い、かつ、当該制御系が線形性および時不変性を有する制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0031】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、単相交流に関する電力変換回路内の複数のスイッチング手段の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記電力変換回路の出力または入力に基づく信号とその基本波成分の目標値との偏差である偏差信号を生成する偏差信号生成手段と、前記偏差信号に含まれる基本波成分をゼロに制御し、かつ、前記偏差信号に含まれる所定の高調波成分を抑制制御するための補正値信号を生成する制御手段と、前記補正値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えており、前記制御手段は、周波数重みWを用いてロバスト制御設計法で設計された伝達関数によって、前記偏差信号を信号処理することで、前記補正値信号を生成し、前記単相交流の基本波の角周波数をω0とし、n次高調波を抑制する場合、前記周波数重みWの分母には
(s2+ω02)および各nに対応する{s2+(n・ω0)2}が乗算されており、分子には(s2+ω02)および各nに対応する{s2+(n・ω0)2}が乗算されていないことを特徴とする。
【0032】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記周波数重みWは、所定の実数をkとした場合、
【数6】
である。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基づく信号は、出力電流または入力電流を検出した信号である。
【0034】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基づく信号は、出力電圧または入力電圧を検出した信号である。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記伝達関数は、周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計される。
【0036】
本発明の第2の側面によって提供される系統連系インバータシステムは、インバータ回路と、本発明の第1の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【0037】
本発明の第3の側面によって提供される単相PWMコンバータシステムは、コンバータ回路と、本発明の第1の側面によって提供される制御回路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、出力または入力に基づく信号から位相を90度遅らせた信号を生成する必要がないので、ヒルベルト変換処理のためのFIRフィルタを設計するという煩わしさがない。また、構成を簡単なものとすることができる。また、本発明によれば、偏差信号を伝達関数によって信号処理することで、補正値信号を生成している。当該伝達関数は、分母に(s
2+ω
02)・{s
2+(n・ω
0)
2}が含まれる周波数重みWを用いて設計されたものなので、基本波とn次高調波とが同時に制御される。したがって、簡単な構成で高速かつ高い精度の電流制御を行うことができ、当該電流制御の制御系で併せて高調波補償も行うことができる。また、制御系が線形性および時不変性を有するので、線形制御理論に基づいた設計法を用いて制御系の設計を容易にすることができる。
【0039】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0042】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0043】
図1(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。
図1(a)に示す非線形時変の処理を、
図1(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0044】
図1(a)に示す回転座標変換は下記(6)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(7)式の行列式で表される。
【数7】
【0045】
したがって、
図1(a)に示す処理を、行列を用いて、
図2(a)のように表すことができる。
図2(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、
図1(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0046】
回転座標変換の行列は、下記(8)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数8】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数9】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0047】
【数10】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数11】
であることが、確認できる。
【0048】
また、静止座標変換の行列は、下記(9)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数12】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数13】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0049】
【数14】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数15】
であることが、確認できる。
【0050】
上記(8)式および(9)式を用いて、
図2(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(10)式のように計算される。
【数16】
【0051】
上記(10)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、
図3に示すブロック線図になる。
図3に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数17】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である。
【0052】
ここで、θ(t)=ω
0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω
0t−ω
0τ=ω
0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、
図3に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω
0)が得られる。また、
図3に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω
0)の入出力特性になる。
【0053】
したがって、上記(10)式からさらに計算を進めると、
【数18】
と計算される。
【0054】
これにより、
図2(a)に示す処理を、
図2(b)に示す処理に変換することができる。
図2(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0055】
PI制御(比例積分制御)コントローラの伝達関数は、比例ゲインおよび積分ゲインをそれぞれK
PおよびK
Iとすると、F(s)=K
P+K
I/sで表される。したがって、
図4に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
PIは、上記(11)式を用いて、下記(12)式のように算出される。
【数19】
【0056】
また、I制御(積分制御)コントローラの伝達関数は、積分ゲインをK
Iとすると、F(s)=K
I/sで表される。したがって、
図5に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
Iは、上記(11)式を用いて、下記(13)式のように算出される。
【数20】
【0057】
図6は、行列G
Iの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
Iの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
Iの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
Iの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω
0=120πの場合)のものであり、積分ゲインK
Iを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0058】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、積分ゲインK
Iが大きくなると、振幅特性が大きくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
Iの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
Iの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
Iの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
【0059】
位相が90度異なる信号αおよび信号β(信号αの位相が信号βより90度進んでいるとする。)を行列G
Iで処理する場合を検討する。信号αに行列G
Iの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない(
図6(a)参照)。また、信号βに行列G
Iの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度進む(
図6(b)参照)。したがって、両者の位相が信号αと同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。一方、信号αに行列G
Iの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度遅れる(
図6(c)参照)。また、信号βに行列G
Iの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない。したがって、両者の位相が信号βと同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。
【0060】
行列G
Iの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理は、位相を変化させずに通過させる(
図6(a)参照)。したがって、上記(13)式に示す行列G
Iの(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にした下記(14)式に示す伝達関数の行列G’
Iを用いても、同様の処理を行うことができる。なお、下記(14)式の場合、上記(13)式の場合と比べて強め合う分がないので、積分ゲインK
Iをその分大きい値に設計する必要がある。
【数21】
【0061】
つまり、信号αおよび信号βに、下記(15)式に示す伝達関数G
I(s)に示す処理を行えば、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と同様の処理をすることになる。単相システムの場合、信号αにのみ処理を行えばよいので、位相を90度遅らせた信号βを生成する必要はない。
【数22】
【0062】
次に、高調波成分の制御を行う方法について説明する。
【0063】
上記(15)式に示す伝達関数G
I(s)は、基本波成分を制御するためのものである。n次高調波は基本波の角周波数をn倍した角周波数の成分である。したがって、n次高調波を制御する場合の伝達関数は、上記(15)式においてω
0をn・ω
0とした下記(16)式に示す伝達関数G
In(s)となる。
【数23】
【0064】
上記(15)式に示すように、基本波の制御を行う場合、下記(17)式に示す周波数重みW
1を用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計することができる。H∞ループ整形法を用いると、設計仕様を満足する最も安定なコントローラを設計することができる。
【数24】
【0065】
また、上記(16)式に示すように、n次高調波の制御を行う場合、下記(18)式に示す周波数重みW
nを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計することができる。
【数25】
【0066】
基本波の制御を行い、かつ、n次高調波の制御を行う場合、下記(19)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計すればよい。なお、kは応答速度に応じた実数である。
【数26】
【0067】
複数の高調波の制御を行う場合は、上記(19)式の分母に、対応する次数の項を追加すればよい。例えば、5次、7次、11次高調波の制御を行う場合、下記(20)式に示す周波数重みWを用いればよい。
【数27】
【0068】
図7は、上記(20)式に示す周波数重みWを解析するためのボード線図である。同図は、角周波数ω
0=120π、k=10
24の場合を示している。同図に示すように、周波数重みWは、ω
0(=120π≒377[rad/sec])、5ω
0(=600π≒1884[rad/sec])、7ω
0(=840π≒2638[rad/sec])、11ω
0(=1320π≒4145[rad/sec])をピークにするような特性を有する。
【0069】
この周波数重みWを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計すると、下記(21)式に示す伝達関数Kが算出される。なお、後述する
図9のフィルタ回路3が備えるLCフィルタのリアクトルのインダクタンスがL=1000μHで、コンデンサのキャパシタンスがC=20μFであり、変圧回路4の漏れインダクタンスをLT=500μHとした場合で算出している。
【数28】
【0070】
図8は、上記(21)式に示す伝達関数Kを解析するためのボード線図である。同図に示すように、伝達関数Kは、ω
0、5ω
0、7ω
0、11ω
0をピークにする特性を継承している。
【0071】
以下に、上記(20)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラを系統連系インバータシステムの制御回路に適用した場合を、本発明の第1実施形態として説明する。
【0072】
図9は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0073】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、および制御回路7を備えている。
【0074】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、出力ラインに直列に接続されて、単相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0075】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0076】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、単相インバータであり、図示しない2組4個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0077】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0078】
電流センサ5は、変圧回路4から出力される交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号Iは、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号Vは、制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0079】
制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路7は、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電流を制御している。これにより、制御回路7は、各種フィードバック制御を行っている。また、制御回路7は、電力系統Bから入力される高調波を打ち消すための高調波をインバータ回路2に出力させることで、高調波の抑制を行う。
【0080】
図9においては、出力電流制御と高調波抑制制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。実際には、制御回路7は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)や無効電力制御(出力無効電力が予め設定された無効電力目標値となるように行うフィードバック制御)なども行っている。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
【0081】
制御回路7は、系統対抗分生成部72、電流コントローラ74、および、PWM信号生成部77を備えている。
【0082】
系統対抗分生成部72は、電圧センサ6から電圧信号Vを入力されて、系統指令値信号Kを生成して出力する。系統指令値信号Kは系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものであり、系統指令値信号Kが後述する補正値信号Xで補正されることにより指令値信号が生成される。
【0083】
電流コントローラ74は、電流センサ5が検出した電流信号Iと電流目標値との偏差を入力され、電流制御のための補正値信号Xを生成するものである。電流コントローラ74は、上記(20)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラである。電流コントローラ74で行われる処理は、線形時不変の処理である。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計を行うことができる。なお、角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、実数kもあらかじめ設定されている。また、電流コントローラ74は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分を補正するための位相の調整も行われている。なお、制御系設計に用いる設計方法はH∞ループ整形法に限定されず、例えば、最適制御、H∞制御理論、混合感度問題などのロバスト制御設計法を用いることもできる。
【0084】
電流コントローラ74は、電流信号Iに含まれる基本波成分を目標値に制御し、かつ、電流信号Iに含まれる5次、7次、11次高調波成分を抑制する制御を行う。
【0085】
なお、本実施形態では、電流コントローラ74が、5次、7次、11次高調波の抑制制御を行う場合について説明したが、これに限られない。周波数重みWは、抑制する必要がある高調波の次数に応じて設定すればよい。例えば、5次高調波のみを抑制したい場合は、上記(20)式に示す周波数重みWの分母を(s
2+ω
02)・{s
2+(5ω
0)
2}のみとすればよい。また、さらに13次高調波も抑制したい場合には、上記(20)式に示す周波数重みWの分母にさらに{s
2+(13ω
0)
2}をかければよい。
【0086】
本実施形態において、電流目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換して生成されたα軸上の電流目標値が用いられる。d軸電流目標値には図示しない直流電圧制御のための補正値が用いられ、q軸電流目標値には、図示しない無効電力制御のための補正値が用いられる。なお、α軸上の電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
【0087】
系統対抗分生成部72が出力する系統指令値信号Kと、電流コントローラ74が出力する補正値信号Xとが加算されて、指令値信号X’が算出され、PWM信号生成部77に入力される。
【0088】
PWM信号生成部77は、入力される指令値信号X’および指令値信号X’を反転させた信号と、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pp,Pnを生成する。三角波比較法では、例えば、指令値信号X’とキャリア信号とが比較され、指令値信号X’がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Ppとして生成される。また、同様に、反転させた信号とキャリア信号とが比較され、PWM信号Pnが生成される。生成されたPWM信号Pp,Pnは、インバータ回路2に出力される。また、PWM信号生成部77は、PWM信号Pp,Pnを反転させた信号も、インバータ回路2に出力する。
【0089】
本実施形態において、制御回路7は、電流信号Iから位相を90度遅らせた信号を生成する必要がないので、
図13に示すヒルベルト変換部73を設ける必要がない。また、電流信号Iのみを処理すればよいので(90度遅らせた信号を処理する必要がないので)、構成が簡単になる。さらに、ヒルベルト変換部73が不要なので、ヒルベルト変換部73を構成するFIRフィルタの次数nを設計するという煩わしさがない。
【0090】
また、電流コントローラ74は、
図13に示す回転座標変換部78、LPF74a,75a、PI制御部74b,75b、静止座標変換部79、および、高調波補償コントローラ800(
図14参照)と同様の処理を行っている。したがって、制御回路7は、簡単な構成で高速かつ高い精度の電流制御を行うことができ、当該電流制御の制御系で併せて高調波補償も行うことができる。
【0091】
さらに、電流コントローラ74で行われる処理は、線形時不変の処理である。また、制御回路7には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、制御回路7は静止座標系で制御を行っている。つまり、電流制御システム全体が線形時不変システムになっている。すなわち、電流制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理としている。したがって、制御系の設計に線形制御理論を用いることができ、制御系設計を容易にすることができる。
【0092】
上記第1実施形態においては、出力電流を制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、出力電圧を制御するようにしてもよい。以下に、出力電圧を制御する場合について、第2実施形態として説明する。
【0093】
図10は、第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、
図9に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0094】
図10に示すインバータシステムA’は、電力系統Bではなく負荷Lに電力を供給する点で、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA(
図9参照)と異なる。負荷Lに供給される電圧を制御する必要があるので、制御回路8は、出力電流ではなく出力電圧を制御する。制御回路8は、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいてPWM信号を生成する点で、第1実施形態に係る制御回路7(
図9参照)と異なる。インバータシステムA’は、出力電圧をフィードバック制御によって目標値に制御しながら、負荷Lに電力を供給する。
【0095】
電圧コントローラ84は、電圧センサ6が検出した電圧信号Vと電圧目標値との偏差を入力され、電圧制御のための補正値信号Xを生成するものである。電圧コントローラ84は、上記(20)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラである。
【0096】
本実施形態においても、制御回路8は、電圧信号Vから位相を90度遅らせた信号を生成する必要がない。また、電圧コントローラ84は、電圧制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理としている。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0097】
上記第1または第2実施形態においては、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステム(インバータシステム)に用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、例えば、電力用アクティブフィルタ、静止型無効電力補償装置(SVC、SVG)、無停電電源装置(UPS)などに用いられる高調波補償を行うインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、直流を単相交流に変換するインバータ回路を制御する場合に限られず、例えば、単相交流を直流に変換するコンバータ回路や、単相交流の周波数を変換するサイクロコンバータなどの制御回路にも適用することができる。以下に、本発明をコンバータ回路の制御回路に適用した場合を、第3実施形態として説明する。
【0098】
図11は、第3実施形態に係る単相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。同図において、
図9に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0099】
図11に示す単相PWMコンバータシステムCは、電力系統Bから供給される交流電力を直流電力に変換して負荷L’に供給するものである。負荷L’は、直流負荷である。単相PWMコンバータシステムCは、変圧回路4、フィルタ回路3、電流センサ5、電圧センサ6、コンバータ回路9、および制御回路7を備えている。
【0100】
変圧回路4は、電力系統Bから入力される交流電圧を所定のレベルに昇圧または降圧する。フィルタ回路3は、変圧回路4より入力される交流電圧から高周波成分を除去して、コンバータ回路9に出力する。電流センサ5は、コンバータ回路9に入力される交流電流を検出する。検出された電流信号Iは、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、コンバータ回路9に入力される交流電圧を検出するものである。検出された電圧信号Vは、制御回路7に入力される。コンバータ回路9は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、負荷L’に出力する。コンバータ回路9は、単相PWMコンバータであり、図示しない2組4個のスイッチング素子を備えた電圧型コンバータ回路である。コンバータ回路9は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。なお、コンバータ回路9はこれに限定されず、電流型コンバータ回路であってもよい。
【0101】
制御回路7は、コンバータ回路9を制御するものである。制御回路7は、第1実施形態の制御回路7と同様に、PWM信号を生成してコンバータ回路9に出力する。
図11においては、入力電流制御および高調波補償を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。図示していないが、制御回路7は、直流電圧コントローラおよび無効電力コントローラも備えており、出力電圧および入力無効電力も制御している。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、コンバータ回路9が電流型コンバータ回路の場合、出力電圧制御に代えて、出力電流制御を行うようにすればよい。
【0102】
本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。すなわち、単相PWMコンバータシステムCにおいては入力電流の高調波を抑制するための高調波補償が必要となるが、本実施形態においては、電流制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理とすることで、線形制御理論を用いて制御系設計を容易にすることができる。また、電流信号Iから位相を90度遅らせた信号を生成する必要がないので、
図13に示すヒルベルト変換部73を設けてFIRフィルタの次数nを設計するという煩わしさがなく、電流信号Iのみを処理すればよいので、構成が簡単になる。
【0103】
なお、単相PWMコンバータシステムCの構成は上記に限られない。例えば、制御回路7に代えて、制御回路8を用いるようにしてもよい。また、コンバータ回路9の出力側にインバータ回路を設け、直流電力をさらに交流電力に変換して交流負荷に供給する、いわゆるサイクロコンバータとしてもよい。
【0104】
本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび単相PWMコンバータシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび単相PWMコンバータシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。