特許第5944711号(P5944711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944711
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】熱電材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20160621BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20160621BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20160621BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20160621BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   H01L35/14
   C22C23/00
   C22C28/00 B
   C22C13/00
   C22C1/04 C
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-66410(P2012-66410)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-197550(P2013-197550A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 篤
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037641(JP,A)
【文献】 特開2007−146283(JP,A)
【文献】 特開2010−050185(JP,A)
【文献】 特開2011−249742(JP,A)
【文献】 Y.ISODA et al.,Thermoelectric Properties of p-type Mg2.00Si0.25Sn0.75 with Li and Ag Double Doping,Journal of Electronic Materials,2010年,Vol.39, No.9,pp.1531-1535
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00−34
C22C 1/04
C22C 13/00
C22C 23/00
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)で示される化合物にLiがドープされた熱電材料であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)の200μm×200μmのマッピング測定(画素数256×256、サイクルタイム(1画素あたりの測定時間)60μs、スキャン24回)において、24Mg+が20カウント以上の領域が85%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が80%以上である微細構造を有する、熱電材料。
【請求項2】
前記24Mg+が20カウント以上の領域が90%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が90%以上である微細構造を有する、請求項1記載の熱電材料。
【請求項3】
Li含有量が、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.1mol以上5.3mol以下である、請求項2記載の熱電材料。
【請求項4】
O含有量が、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.7mol以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電材料。
【請求項5】
600℃におけるゼーベック係数が30μV・K−1以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電材料。
【請求項6】
前記XがSiを含み、MgX(220)とMgO(200)のX線回折のピーク高さ比が、MgO(200)/MgX(220)=0.03以下であり、MgX(220)とSiC−2H(002)のX線回折のピーク高さ比が、(SiC−2H(002)のピーク高さ)/(MgX(220)のピーク高さ)=0.003以下である微細構造を有する、請求項1〜5の何れか1項に記載の熱電材料。
【請求項7】
Mg、X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)、及びLiを含む原料を混合して焼成することにより、MgXで示される化合物にLiがドープされた熱電材料を製造する熱電材料の製造方法であって、前記原料が、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含む、熱電材料の製造方法。
【請求項8】
前記固溶体がMg−Li合金である、請求項7記載の熱電材料の製造方法。
【請求項9】
前記Mg−Li合金のMgとLiのmol比が97:3〜70:30である、請求項記載の熱電材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電材料として、様々な材料系がこれまでに検討されているが、その1つであるMg−Si系熱電材料は、希少性や有害性の高い元素を用いないため、コストや安全性の点で他の熱電材料より優れており、注目を集めている。一方で、一般に熱電モジュールは、耐久性の観点から同じ材料系のp型/n型のセットで用いられるが、Mg−Si系熱電材料は、高性能なn型材料はあるものの、高性能なp型材料がないことが課題であった。特許文献1には、Mg2X(X=Si,Ge,Snから選ばれる1種以上)であって、アクセプターバンドとして、Liを含むように構成されたMg金属間化合物が記載されている。そして、シミュレーションによる結果でLiをドープすることで、Mg2Siがp型化することが記載されている。製造方法としては、Si,Mg,Liの原料粉末を混合・溶解して結晶成長させて製造する旨が記載されている。しかしながら、Liソースとして、Li金属粉末を用いると、Liは大気中で活性なため(大気中では酸化される)、原料の調合段階から不活性雰囲気で取り扱う必要があり、多大の労力・コストがかかる問題があった。さらに、具体的に作製された試料は記載されておらず、十分な導電率及びゼーベック係数を有する材料は記載されていない。
【0003】
特許文献2には、Mg,Si,およびSnに、AgとLiが添加され、MgxLizAgvSi1-ySny(0.75≦Y≦0.95、0.005≦Z≦0.025、0.005≦V≦0.025、1.98≦X+Z+V≦2.01)で表される熱電材料が記載されている。特許文献2では、Liは、単体では反応性が高く取り扱いに注意を要するため、有機酸の塩として用いるのが好ましいとされ、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウムなどを使用することが記載されている。しかしながら、これらの試料の導電率及びゼーベック係数は十分ではない。
【0004】
特許文献3には、Mg2X(Xは4族元素SiおよびGeおよびSnから選択される1種または複数の元素であって、少なくともSiとGeの一方を含む)の製造方法が記載され、各元素の粉末を混合して焼成した場合に、Pが蒸発してしまうことを回避するために、Xを構成する元素であるSiおよびまたはGeに予めPを添加したものを当該元素の原材料として使用する方法が記載されている。また、非特許文献1には、Mg2Siの原料として、Mg,Si,およびMg−Al−Zn合金(AZ61)を使用しても、性能劣化(抵抗上昇)が抑制されることが記載されている。しかしながら、これらの試料はゼーベック係数が負であり(n型材料)、p型材料ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−50185号公報
【特許文献2】特開2011−151329号公報
【特許文献3】特開2009−68090号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】粉体粉末冶金協会講演平成23年春季大会予稿集 講演番号1−1A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、導電率及びゼーベック係数等の特性の優れたMg−Si系のp型熱電材料、及びそれを容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、Liソースとして、酸化物、有機酸塩、炭酸塩のような大気中で安定なものを用いると、大気中で取り扱うことができるが、それらに含まれるOやC成分とMg2X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)原料のMgやXが反応してしまい、MgO、SiCなどの異相が粒界部に生成し、熱電性能を低下させてしまうことを見出した。また、Li成分等が局所的に高濃度で存在する場合に、Mg2X中の元素分布に偏りができ、熱電性能が低い問題が生じることを見出した。そして、Mg2Xのp型ドーパントとしてLiをドープする際に、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含む原料を用いると、合成時に生成する異相を抑制しつつ、大気中での取り扱いを容易にできることを見出した。また、原料の段階でMg、あるいはXのうちの1種以上とLiとが均一になっており、融点が低いため、Mg2X中にドープされたLiの元素分布も従来の熱電材料より均一になり、性能を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、Mg2X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)で示される化合物にLiがドープされた熱電材料であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)の200μm×200μmのマッピング測定(画素数256×256、サイクルタイム(1画素・1スキャンあたりの測定時間)60μs、スキャン24回)において、24Mg+が20カウント以上の領域が85%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が80%以上である微細構造を有する、熱電材料を提供する。
さらに、上記24Mg+が20カウント以上の領域が90%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が90%以上である微細構造を有することが好ましい。
また、Li含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.07〜8.0molであることが好ましい。
さらに、O含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、1.0mol以下であることが好ましい。
さらにまた、600℃におけるゼーベック係数は30μV・K-1以上であることが好ましい。
また、本発明の熱電材料では、上記XがSiを含み、Mg2X(220)とMgO(200)のX線回折のピーク高さ比が、MgO(200)/Mg2X(220)=0.03以下であり、Mg2X(220)とSiC−2H(002)のX線回折のピーク高さ比が、(SiC−2H(002)のピーク高さ)/(Mg2X(220)のピーク高さ)=0.003以下である微細構造を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明は、Mg、X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)、及びLiを含む原料を混合して焼成することにより、Mg2Xで示される化合物にLiがドープされた熱電材料を製造する熱電材料の製造方法であって、上記原料が、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含む、熱電材料の製造方法を提供する。
また、上記固溶体のOおよびC含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、10mol以下であることが好ましい。
さらに、上記固溶体は、Mg−Li合金であることが好ましい。
さらにまた、上記Mg−Li合金のMgとLiのmol比は、97:3〜70:30であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
Mg2Xのp型ドーパントとしてLiをドープする際に、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含む原料を用いることで、合成時に生成する異相を抑制しつつ、大気中での取り扱いを容易にできる。また、原料の段階でMg、あるいはXのうちの1種以上とLiとが均一になっており、Mg2X中にドープされたLiの元素分布も従来の熱電材料より均一になり、性能を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)熱電材料
本発明の熱電材料は、Mg2X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)で示される化合物にLiがドープされた熱電材料であって、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)の200μm×200μmのマッピング測定(画素数256×256、サイクルタイム(1画素・1スキャンあたりの測定時間)60μs、スキャン24回)において、24Mg+が20カウント以上の領域が85%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が80%以上である微細構造を有している。このため、Mg,X,Liの各元素の材料中での均一性が非常に高く、高い導電率とゼーベック係数を実現している。
【0013】
導電率は、50S/cm超であることが好ましく、65S/cm超であることがより好ましく、130S/cm超であることがさらに好ましい。また、p型材料としては、ゼーベック係数は、10μV・K-1以上であることが好ましく、30μV・K-1以上であることがより好ましく、100μV・K-1以上であることがさらに好ましく、200μV・K-1以上であることが特に好ましい。
【0014】
(1−1)飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)の200μm×200μmのマッピング測定
飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)の測定前に、試料表面を鏡面研磨し、さらに測定試料表面の汚染を取り除くため、TOF−SIMS装置内で試料表面をO2+のイオンビーム(0.5keV)にて数nm程度エッチングすることが好ましい。TOF−SIMSでは、原子の分布を100nm以下の空間分解能で観察でき、試料表面の構造解析を行うことができる。具体的には、数十keVのパルス状一次イオン(Bi)を照射量が1×1012(ions/cm2)以下になるような条件で試料(固体表面)に照射し、スパッタアウトされた二次イオンを分析して得られるスペクトルより試料表面の構造解析を行う。測定条件の例としては、一次イオン種Bi+、一次イオンエネルギー25kV、パルス幅100ns、バンチングなし(高空間分解能測定)、帯電中和なし、質量範囲0〜220、スキャン数24、ピクセル数256×256、サイクルタイム(1画素・1スキャンあたりの測定時間)60μs、後段加速10kV、測定真空度4×10-7Paで行うことができる。ここでは、試料表面の200μm×200μmの領域においてマッピング測定を行い、二次イオンとして24Mg+が20カウント以上、ならびに7Li+が1〜10カウントの領域(面積)の割合を測定することにより、MgとLiの分布構造を測定する。飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)は、例えば、ION−TOF社製のTOF.SIMS5を用いて行うことができる。
【0015】
本発明の熱電材料では、上記マッピング測定において、24Mg+が20カウント以上の領域が85%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が80%以上である微細構造を有している。これより、本発明の熱電材料は、主相成分であるMgが薄い部分がなく、ドーパント成分であるLiが偏析して濃化している部分がなく、10nmレベルで非常に均一に分散した微細構造を有していると考えられる。本発明の熱電材料はこのような微細構造を有しているため、導電率が高く且つゼーベック係数が高いという、熱電材料として優れた特性を有している。上記マッピング測定において、24Mg+が20カウント以上の領域は90%以上かつ、7Li+が1〜10カウントの領域が90%以上であることが好ましい。
【0016】
(1−2)熱電材料中のLi含有量
本発明の熱電材料では、Li含有量は例えば、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.05〜8.5molとすることができる。Li含有量がこのような範囲にある場合に、優れた導電率とゼーベック係数を実現できる。Liが0.05mol未満の場合には、n型となってしまう場合があり、8.5molより大きい場合には、キャリア濃度の増大に伴い、ゼーベック係数が減少する場合がある。Li含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.07〜8.0molが好ましく、0.2〜4.5molがより好ましい。
【0017】
(1−3)熱電材料中のO(酸素原子)、ならびにC(炭素原子)含有量
O(酸素原子)含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、2mol以下(例えば0.01〜2mol)であることが好ましく、1.5mol以下(例えば0.05〜1.5mol)であることがより好ましく、0.1〜1.0molであることがさらに好ましい。O含有量がこのような範囲にある場合に、熱電材料中の異相の発生が抑えられやすくなり、導電率が高くなりやすく且つゼーベック係数が高くなりやすいため好ましい。同様に、C(炭素原子)含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.3mol以下(例えば0.01〜0.3mol)であることが好ましい。C含有量がこのような範囲にある場合に、合成時、熱電材料中の異相の発生が抑えられやすくなり、導電率が高くなりやすく且つゼーベック係数が高くなりやすいため好ましい。
【0018】
(1−4)X線回折のピーク高さ比
本発明の熱電材料は、好ましくは、上記XがSiを含み、Mg2X(220)(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)とMgO(200)のX線回折のピーク高さ比が、MgO(200)/Mg2X(220)=0.03以下(例えば、0〜0.03、ここでMgO(200)のピーク高さが検出限界以下の場合の高さを0とする)であり、Mg2XとSiC−2HのX線回折のピーク高さ比が、(SiC−2H(002)のピーク高さ)/(Mg2X(220)のピーク高さ)=0.003以下(例えば、0〜0.003、ここでSiC−2H(002)のピーク高さが検出限界以下の場合の高さを0とする)である微細構造を有する。この場合に、Mg2Xが主相であり、MgOならびにSiC−2Hは異相である。本発明の熱電材料では、X線回折のピーク高さが好ましくは上記の関係を有し、この場合に異相が極めて少ない構造となる。このため、導電率が高くなりやすく且つゼーベック係数が高くなりやすい。
【0019】
(2)熱電材料の製造方法
本発明の熱電材料の製造方法では、Mg、X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)、及びLiを含む原料を混合して焼成することにより、Mg2Xで示される化合物にLiがドープされたp型熱電材料を製造する。原料は、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含んでいる。
【0020】
(2−1)原料
(2−1−1)固溶体
Mg、あるいはX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)のうちの1種以上とLiとの固溶体としては任意の組み合わせの固溶体が使用できる。上記固溶体としては、例えば、LiとMgとを含む固溶体、又はLiとXとを含む固溶体が挙げられる。これらの固溶体は、Li原料として、大気中で取り扱うことができるため好ましい。固溶体(Li原料)中の酸素および炭素含有量は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、20mol以下が好ましく、10mol以下がより好ましく、5mol以下であることがさらに好ましく、1mol以下(例えば0.01〜1mol)であることが特に好ましい。
【0021】
LiとMgとを含む固溶体、又はLiとXとを含む固溶体を使用する場合、Li原料中における固溶体の使用割合は、全原料に対して50〜100wt%とすることが好ましく、80〜100wt%がより好ましく、90〜100wt%がさらに好ましい。
【0022】
上記固溶体としては、Mg−Li合金であることがさらに好ましい。Mg−Li合金としては任意の比率の合金が使用できるが、Mg−Li合金のMgとLiのmol比としては、例えば99:1〜50:50が挙げられ、97:3〜60:40であることが好ましく、97:3〜70:30であることがさらに好ましい。
【0023】
上記固溶体としては、粒状、角板状など任意の形状のものが使用できる。粒状の場合、任意の粒径のものを使用できるが、粒径が1000μm以下のものが好ましく、200μm以下のものがより好ましい。角板状の場合、1〜1000μm程度の厚さの、2〜5mm角板等が使用できる。
【0024】
(2−1−2)他の原料
Mg原料としては、上記固溶体の他に、Mg粉末などを使用できる。Mg粉末は任意の粒径のものを使用できるが、粒径が1000μm以下のものが好ましく、200μm以下のものがより好ましい。上記Xの原料としては、上記固溶体の他に、粉末状のXなどを使用できる。粉末状のXとしては任意の粒径のものを使用できるが、粒径が1000μm以下のものが好ましく、200μm以下のものがより好ましく、100μm以下のものがさらに好ましい。Li原料としては、上記固溶体の他に、Li粉末などを使用してもよい。Li粉末は任意の粒径のものを使用できるが、粒径が1000μm以下のものが好ましく、200μm以下のものがより好ましい。
【0025】
(2−1−3)配合割合
各元素の配合割合は、mol比で、Mg:X:Li=2:1:0.001〜0.6とすることができる。Liの配合割合は、Mg及びX(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)の合計100molに対して、0.09〜15molであることが好ましい。
【0026】
(2−2)混合・焼成
予備混合を行った原料粉を、例えばアルゴン等の不活性雰囲気下、600〜800℃で0.5〜4時間焼成し、LiドープMg2X粉を得る。得られたMg2X粉を20〜100kg・cm-2の圧力でプレス成形を行い、ホットプレス焼成を行い、LiドープMg2X焼結体(熱電材料)を得る。ホットプレスは、アルゴン等の不活性雰囲気下、プレス圧力100〜600kg・cm-2、700〜1100℃で1〜4時間行うことができる。プレス成形前に、LiドープMg2X粉を、例えば50μm以下まで粉砕してもよい。
【0027】
得られた焼結体は、p型熱電材料として性能の優れた熱電材料となる。
前記焼結体は、目的に応じて所定の大きさに切り出し、研磨した後、熱電性能をはじめとする測定を行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜17、および比較例1〜9
表1に示す元素割合になるように、表1の各原料を調合し、予備混合を行った。また、原料として用いたマグネシウムは180μmパスの粉末、シリコン、およびスズは45μmパスの粉末を用いた。実施例の原料として用いたマグネシウム−リチウム合金は板状であるため、3mm角に切断して、他の原料と混合した。表1においてマグネシウム−リチウム合金のMg:Liはmol比で示した。比較例の原料として用いたLi2CO3、およびCH3COOLiはボールミルで1μmまで粉砕したものを用いた。
【0030】
予備混合を行った原料粉をカーボンるつぼに封入し、カーボン炉において、アルゴン雰囲気下、700℃で2時間焼成を行うことで、Mg2X’(X’は、シリコン、およびスズ)粉を合成した。そのMg2X合成粉を20μm以下まで粉砕を行い、φ50金型を用いて、50kgcm-2の圧力でプレス成形を行った。プレス成形体をカーボン治具にセットし、ホットプレス焼成を行い、Mg2X’焼結体を得た。ホットプレスの焼成雰囲気はアルゴン、プレス圧力は200kgcm-2とした。また、実施例1〜11、および比較例1〜9は焼成温度950℃(X’=Siの場合)で、実施例12〜17は焼成温度800℃(X’=Si+Snの場合)でそれぞれ2時間保持し、熱電材料を得た。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1〜17及び比較例1〜9で得られた熱電材料について、以下の測定を行った。それぞれの結果を表2に示す。
【0033】
<元素分布>
元素分布の測定は、ION−TOF社製のTOF.SIMS5を用いて行った。各焼結体の測定面を、鏡面研磨し、さらに測定試料表面の汚染を取り除くため、TOF−SIMS装置内で試料表面をO2+のイオンビーム(0.5keV)にて数nm程度エッチングしてから、測定を行った。測定は、一次イオン種Bi+、一次イオンエネルギー25kV、パルス幅100ns、バンチングなし(高空間分解能測定)、帯電中和なし、質量範囲0〜220、スキャン数24、ピクセル数256×256、サイクルタイム(1画素・1スキャンあたりの測定時間)60μs、後段加速10kV、測定真空度4×10-7Paで、試料表面の200μm×200μmの領域においてマッピング測定を行い、二次イオンとして24Mg+が20カウント以上、ならびに7Li+が1〜10カウントの領域(面積)の割合を測定した。
【0034】
<X線回折(XRD)ピーク高さ比の測定方法>
実施例1〜17及び比較例1〜9で得られた熱電材料について、X線回折(XRD)ピーク高さ比の測定を行った。X線回折のピーク高さの測定は、リガク社製のRINT2000を用いて行った。焼結体を粉砕し、粉末XRD測定を行い、管電圧50kV、管電流300mAにて測定を行った。
【0035】
<Li含有量>
実施例1〜17及び比較例1〜9で得られた熱電材料について、各サンプルを酸あるいは、アルカリを用いて、水に溶解させ、原子吸光光度法にてLi含有量を測定した。Li含有量は、Mg、Si、及びSnの合計100molに対するmol数として、表2に示した。
【0036】
<OならびにC含有量>
実施例1〜17及び比較例1〜9で得られた熱電材料について、各サンプルのOを不活性ガス融解−赤外線吸収法(JIS R1603)、およびC含有量を高周波加熱−赤外線吸収法(JIS R1603)により測定した。OならびにC含有量は、Mg、Si、及びSnの合計100molに対するmol数として、表2に示した。また、Li原料中のO含有量についても同様にした。
【0037】
<熱電性能>
実施例1〜17、及び比較例1〜9で得られた熱電材料の熱電性能を、ゼーベック係数、および導電率により評価した。
【0038】
導電率測定
導電率測定は、4端子法にて真空雰囲気下、600℃で行った。電流源より一定電流を流して、デジタルマルチメーターにて電圧値を読み取り、導電率を算出した。結果を以下のように評価した。
◎(優): 130S/cm超
○(良): 65S/cm超130S/cm以下
△(やや良): 50S/cm超 65S/cm以下
×(不良): 50S/cm以下
【0039】
ゼーベック係数
ゼーベック係数測定は、東洋テクニカ製のResi Test 8300を用いて、真空雰囲気で600℃で行った。p型材料の性能評価のため、結果を以下のように評価した。
◎(優): 200μV・K-1以上
○(良): 30μV・K-1以上200μV・K-1未満
△(やや良): 10μV・K-1以上30μV・K-1未満
×(不良): 10μV・K-1未満
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、実施例1〜17において、Li原料としてMgとLiの固溶体であるMg−Li合金を用いた場合には質量数24Mg+が20カウント以上の面積が85%以上かつ、質量数7Li+が1〜10カウントの面積が80%以上となり、導電率が高くp型化した。質量数24Mg+が20カウント以上の面積が90%以上かつ、質量数7Li+が1〜10カウントの面積が90%以上の場合(実施例1〜10、実施例12〜17)では、特に導電率が高くp型化した。比較例1においてLiをドープしなかった場合には、ゼーベック係数が−300V・K-1以下であった。比較例2〜9において、MgとLiが固溶体ではない炭酸リチウムや酢酸リチウムを用いた場合には、MgやLiのムラができ、主成分であるMgが薄い部分やドーパント原料であるLiの濃い部分が発生し、導電率が低下した。
【0042】
また、実施例1〜17において、Li原料としてMg−Li合金を用いた場合、MgO/Mg2X’(X’は、シリコン及びスズ)のXRDピーク高さ比が0.03以下かつSiC−2H/Mg2X’のXRDピーク高さ比が0.003以下となり、この場合には、特に異相が少なくなり、導電率・ゼーベック係数がより高くなった。比較例2〜9において炭酸リチウムや酢酸リチウムを用いた場合には、異相が多く、導電率が低下した。
【0043】
さらに、質量数24Mg+が20カウント以上の面積が90%以上かつ、質量数7Li+が1〜10カウントの面積が90%以上で、且つLiがMg、Si及びSnの合計100molに対して0.07〜8.0molの範囲内にある場合(実施例2〜7、9、10、12〜17)に、ゼーベック係数が正となりp型化しやすく、導電率もより高い値を示した。Liが、Mg、Si及びSnの合計100molに対して、0.05mol未満の場合にはn型となってしまう場合があり、8.5molより大きい場合には、キャリア濃度の増大に伴い、ゼーベック係数が大幅に減少する場合があった。調合量に対して、Li含有量が約半減しているのは焼結時にLiが揮発しているためと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱電材料の製造方法では、Mg2X(Xは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される一種以上の元素)のp型ドーパントとしてLiをドープする際に、Mg、あるいはXのうちの1種以上とLiとの固溶体を含む原料を用いることで、合成時に生成する異相を抑制しつつ、大気中での取り扱いを容易にできる。また、本発明の熱電材料では、原料の段階でMg、あるいはXのうちの1種以上とLiとが均一になっており、Mg2X中にドープされたLiの元素分布も従来の熱電材料より均一であり、性能が向上する。