特許第5944735号(P5944735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944735
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20160621BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20160621BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20160621BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20160621BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20160621BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20160621BHJP
   B29C 43/58 20060101ALI20160621BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
   B29C43/34
   B29B15/08
   B32B5/24
   B32B5/28 Z
   B32B27/04 Z
   B29C43/18
   B29C43/58
   B29K105:08
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-102785(P2012-102785)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-230579(P2013-230579A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関山 政義
(72)【発明者】
【氏名】杉原 理規
(72)【発明者】
【氏名】川東 宏至
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−229209(JP,A)
【文献】 特開2011−021303(JP,A)
【文献】 特開2000−071339(JP,A)
【文献】 特開2001−129843(JP,A)
【文献】 特開2010−229238(JP,A)
【文献】 特開2008−230236(JP,A)
【文献】 特開2011−224968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
B29B 1/00−43/00
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)及び(B)を含む、炭素繊維強化樹脂成形体の製造方法。
(A):炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との質量比が30:70〜49:51であり、炭素繊維の平均径が10μm以上であり、目付けが100〜1000[g/m]である炭素繊維基材層であって、当該炭素繊維基材層における長さ10mm以上の炭素繊維含有量が炭素繊維を100質量%としたとき80質量%以上である炭素繊維基材層と、当該炭素繊維基材層より薄い熱可塑性樹脂層とを積層してなる積層体を、当該熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のMI(g/10分)が3.5以上となるまで、加熱する工程。
(B):工程(A)にて加熱された積層体を、工程(A)を超える圧力で圧縮し加熱する工程。
【請求項2】
工程(B)が深絞り加工工程であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状基材からなる不織布に樹脂を含浸させてなる繊維強化プリフォームの製造方法、およびこれを用いてなる深絞り加工品に関する。詳しくは、曲げ弾性率が高く、加工特性に優れるだけでなく、表面性にも優れた樹脂成形品、具体的には深絞り加工品を提供することが出来る、炭素繊維強化樹脂成形体の製造方法、炭素繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、産業分野等においては、従来から、その筐体や構造部材として、強度、剛性、熱伝導率に優れた炭素繊維を含む樹脂成形体が好適に用いられている。炭素繊維はその用途や樹脂成形体への所望特性に応じて、短繊維や長繊維状態のものを樹脂成形体中に分散させて使用したり、織布や不織布として使用されている。
【0003】
なかでも炭素繊維不織布は、織物加工された炭素繊維よりも安価で、その形状から断面がポーラス構造であるために、成形性や形状付与性、樹脂との接着性等にも優れ、また、電気遮蔽性、熱伝導性にも優れているため、広範な用途が期待されている。
【0004】
具体的には例えば、炭素繊維不織布の積層板によるプリフォーム成形や電子機器向けの筐体化等の特性に優れた技術が提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−235779号公報
【特許文献2】国際公開第2006/112516号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし炭素繊維不織布を用いたプレス加工品は、炭素繊維織物を使用した加工品に比べ、機械強度等の力学物性が低いという課題があった。更に、炭素繊維不織布を使用したプレス加工品では、炭素繊維不織布に用いる炭素繊維として、繊維長の長い炭素繊維の割合を増加すると、逆に賦形性が低下しプレス加工が困難となる課題があった。
【0007】
よってプレス加工においては、良好な成形性を求めた場合、用いる炭素繊維不織布中の炭素繊維長は短いものとなる為に、自ずと得られる炭素繊維強化樹脂成形体の機械強度および剛性の向上が困難となるばかりか、炭素繊維間の空隙によるボイドが発生し易くなり、物性低下や表面凹凸の発生等の問題が生じずるという課題が未だ残っていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題について本発明者らは、炭素繊維不織布への樹脂含浸工程に着目した。そして、用いる炭素繊維不織布における目付や炭素繊維の長さと、樹脂の含浸方法について更に詳細に検討した。
【0009】
その結果、特定の目付を有し、且つ炭素繊維長さの長い、具体的には用いる炭素繊維において長さ10mm以上の炭素繊維含有量が80質量%以上である炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との複合不織布からなる繊維基材層として用いた場合に、この特定の炭素繊維基材層の表面に、当該炭素繊維基材層よりも薄い熱可塑性樹脂層を特定溶融状態でプレス加工することによって、溶融したフィルムが炭素繊維不織布内部の空隙に充填され、従来のCF不織布プレス加工製品に比べて、賦形性が充分となるばかりではなく、表面凹凸がより軽減され、曲げ弾性率が80GPa以上と、大幅に向上した炭素繊維強化樹脂成形体を提供出来ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の(1)〜()の通りである。
【0011】
(1):以下の工程(A)及び(B)を含む、炭素繊維強化樹脂成形体の製造方法。
(A):炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との質量比が30:70〜49:51であり、炭素繊維の平均径が10μm以上であり、目付けが100〜1000[g/m]である炭素繊維基材層であって、当該炭素繊維基材層における長さ10mm以上の炭素繊維含有量が炭素繊維を100質量%としたとき80質量%以上である炭素繊維基材層と、当該炭素繊維基材層より薄い熱可塑性樹脂層とを積層してなる積層体を、当該熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のMI(g/10分)が3.5以上となるまで、加熱する工程。
(B):工程(A)にて加熱された積層体を、工程(A)を超える圧力で圧縮し加熱する工程。
【0012】
(2):工程(B)が深絞り加工工程であることを特徴とする、上述(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、従来の炭素繊維不織布を用いたプレス加工製品に比べて、賦形性が充分となるばかりではなく、曲げ弾性率が80GPa以上と大幅に向上し、更には表面性にも優れた、炭素繊維強化樹脂成形体を提供することが出来る。
【0017】
そして更に、本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は、上述の特性に加えて、例えば深絞り樹脂成形体とした際には、原料シートからの変形が著しいコーナー部分等においても、その表面性が良好で、光沢等が充分な炭素繊維強化樹脂成形体として提供することが出来る。
【0018】
また、ボス・アンダーカットなどの形状付与も良好に行うことが出来るだけでなく、意匠性の向上として、表層に平織り、UDなどの炭素繊維層を付与させることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、本発明に用いる炭素繊維基材層及び熱可塑性樹脂層について説明する。
【0020】
本発明に用いる炭素繊維基材層を構成する炭素繊維は、その原料や製造方法によらず、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、ナフタレンやフェナントレン等の縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチ等の縮合複素環化合物等を原料とするピッチ系炭素繊維や、ポリアクリロニトリル等を原料とするPAN系炭素繊維が挙げられる。
【0021】
中でも本発明に用いる炭素繊維としては、賦形に伴う炭素繊維の折損抑制、製造コスト、工業的規模での実施における生産性の点からPAN系炭素繊維が好ましい。
【0022】
本発明に用いる炭素繊維基材層を構成する炭素繊維の繊維長としては、繊維長10mm以上の炭素繊維が80質量%以上であることが重要である。炭素繊維において、10mm以上の長い炭素繊維が80質量%に満たないと、得られる炭素繊維強化樹脂成形体の剛性が低下するので好ましくない。
【0023】
よって中でも、この長い繊維長を有する炭素繊維の含有量は85質量%以上であることが好ましく、特に90質量%以上であることが好ましく、通常、その上限は99%である。
【0024】
本発明においては、上述した様に炭素繊維における長繊維含有量をより好ましい範囲とすることによって、得られる炭素繊維強化樹脂成形体の機械強度を充分なものとし、且つ、プレス加工段階でのハンドリング性の向上や意匠性の改良等の効果を同時に奏することができる。
【0025】
なお、本発明における、炭素繊維基材層中の長さ10mm以上の炭素繊維含有量(質量%)とは、炭素繊維基材層における炭素繊維を100質量%とし、2mm間隔で炭素繊維長を測定した時における平均での繊維長の割合を表した値である。測定方法としては、炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合体をクロロホルム等の可溶溶媒に投入し、熱可塑性樹脂を溶解後、炭素繊維のみを取出し、各々約100本の長さを顕微鏡にて測定した。
【0026】
また本発明に用いる炭素繊維の平均径は適宜選択して決定すればよいが、細すぎると折損が目立ち、形状保持が困難となる場合が有る。逆に太すぎても成形加工性が低下する場合がある。よって通常、1〜20μmであり、中でも3〜17μm、特に5〜15μmであることが好ましい。
【0027】
とりわけ本発明においては、炭素繊維基材層として、熱可塑性樹脂繊維を含有する炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合体を用いる場合に於いて、炭素繊維の平均径が重要となる。即ち、この様な複合体に於いては、炭素繊維等の繊維状物質の間隙を熱可塑性樹脂で充填する際、複合体中の熱可塑性樹脂繊維が成形加工時に適切な粘度に溶融され炭素繊維間の空隙に含浸していく為であると考えられる。
【0028】
本発明に用いる炭素繊維基材層は、一枚のシート状として、又は二枚以上の複数からなる層として用いてもよい。本発明における炭素繊維基材層の厚みは、その合計厚み(総厚み)を示し、所望の炭素繊維強化樹脂成形体により適宜選択して決定すればよい。この総厚みが厚すぎると賦形性が困難となり、逆に薄すぎても得られる炭素繊維強化樹脂成形体の剛性が不充分となったり、プレス型内において充てん不足となる場合があるので、通常1〜40mmであり、中でも3〜30mm、特に5〜20mmであることが好ましい。
【0029】
本発明に用いる炭素繊維基材層は、その目付けが100〜1000[g/m]であることが重要である。この値が低すぎると嵩が大きくなりハンドリング性が低下し、逆に高すぎても成形加工性が低下する。よって炭素繊維基材層の目付は、中でも150〜800[g/m]、特に200〜600[g/m]であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いる炭素繊維基材層としては、具体的には例えば、炭素繊維不織布や、織布、一方向に炭素繊維を揃え配列したシート等が挙げられる。これらは一種または任意の組み合わせで二種以上を併用(積層)してもよい。
【0031】
本発明に用いる炭素繊維基材層の製造方法は任意であり、従来公知の任意の繊維集合体の製造方法により製造することができる。中でも、得られる炭素繊維強化樹脂成形体における炭素繊維が等方性とし、且つ樹脂の含浸を充分にし、そして得られる炭素繊維強化樹脂成形体の加工用途や加工成型品の品質を充分なものとする為には、炭素繊維基材層における炭素繊維の配向を等方性とすることが好ましい。
【0032】
そしてこの様なものの製造方法としては、具体的には例えば、CF短繊維をカードと呼ばれる機械にて一定方向に並ばせる、所謂、カード法が挙げられ、この方法で得られる炭素繊維基材層としては、炭素繊維不織布が好ましい。
【0033】
中でも本発明においては、炭素繊維基材層として、炭素繊維不織布と炭素繊維織布、中でも工程(A)において熱可塑性樹脂層と接触する側に炭素繊維織布を有する構成とすることが、剛性をはじめとした力学物性や意匠性がより良好となるので好ましい。
【0034】
本発明に用いる炭素繊維基材層には、更に、熱可塑性樹脂繊維を含有していることが好ましい。炭素繊維基材層として、熱可塑性樹脂繊維を含有したもの、即ち、炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合体を用いることによって本発明の工程(A)においては、熱可塑性樹脂繊維が炭素繊維同士または、炭素繊維基材層と表層の熱可塑性樹脂層とのバインダーとなり、工程(B)において、熱可塑性樹脂が炭素繊維間の空隙に充てんされ、得られる炭素繊維強化樹脂成形体における力学物性および外観をより良好とすることが出来るので好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂に特に制限は無く、従来公知の任意のものを使用できる。
【0036】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン類、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂などの結晶性樹脂;
【0037】
スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)などの非晶性樹脂、;
【0038】
その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0039】
中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリカーボネート(PC)やポリエステル、ポリオレフィンが好ましく、中でも表面性や剛性、耐衝撃性、成形性の観点からポリカーボネート(PC)やポリエステルが好ましく、特にポリカーボネートの様な非晶性樹脂が好ましい。
【0040】
本発明にて炭素繊維基材層として用いる、炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維複合体における炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との質量比は任意で有り、適宜選択して決定すればよいが、中でも高剛性、寸法安定性等の炭素繊維特有の物性の再現性や繊維同士のバインダー効果維持等の理由から、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維との質量比は30:70〜49:51であることが好ましく、更には35:65〜47:53、特に40:60〜45:55であることが好ましい。
【0041】
そして上述した熱可塑性樹脂繊維と炭素繊維との質量比が好ましい範囲内に有る場合、炭素繊維基材層における炭素繊維の平均径は、10μm以上であることが好ましい。この様な構成とすることによって、不織布マットとしての形状保持が良好となるので好ましい。
【0042】
次に、本発明の各工程(A)、(B)について説明する。
【0043】
本発明において工程(A)は、上述してきた炭素繊維基材層と、当該炭素繊維基材層より薄い熱可塑性樹脂層とを積層してなる積層体を、当該熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のMI(g/10分)が3.5以上となるまで、加熱する工程である。
【0044】
本発明においては、この様に炭素繊維基材層と積層する熱可塑性樹脂層の総厚みが、炭素繊維基材層よりも薄いことが重要となる。この熱可塑性樹脂層の厚みが炭素繊維基材層と同じか又は厚い場合には賦形加工が困難となり、また、成形加工した複合材において炭素繊維の特性の発現性が低下してしまう。
【0045】
尚、本発明において、熱可塑性樹脂層の総厚みとは、熱可塑性樹脂層として1枚の熱可塑性樹脂シートを用いた際にはそのシート厚みを示し、複数枚用いた場合には、用いた熱可塑性樹脂シートの合計厚みを示す。
【0046】
本発明の工程(A)では、当該熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のMI(g/1
0分)が3.5以上となるまで、炭素繊維基材層と加熱圧縮する。

【0047】
この工程(A)によって、熱可塑性樹脂との圧着による炭素繊維基材層における炭素繊維の配列崩れを抑制し、且つ熱可塑性樹脂を充分に軟化させて、次工程である工程(B)での加熱圧縮にて充分に炭素繊維基材層へ熱可塑性樹脂を含浸させることが出来る。
【0048】
工程(A)における熱可塑性樹脂の到達MIとしては、3.5(g/10分)以上であれば任意であり適宜選択して決定すればよいが、MIが低すぎると熱可塑性樹脂の含浸性が低下する場合がある。
【0049】
逆に高くし過ぎても経済的では無いばかりか、過度に流動性が高められてしまうと、得られる炭素繊維強化樹脂成形体における樹脂含浸量にばらつきが生ずる場合がある。よって工程(A)における熱可塑性樹脂の到達MIとしては通常、30[g/10分]以下であり、中でも20[g/10分]以下、特に10[g/10分]以下であることが好ましい。
【0050】
工程(A)における圧力は任意で有り、適宜選択して決定すればよく、加圧圧力としては通常、0〜1[MPa]である。中でも工程(A)では、加圧せずに、炭素繊維基材層と熱可塑性樹脂層とを重ねた積層体を加熱することが好ましい。これは、加圧工程前に充分に加熱することによって炭素繊維基材層および熱可塑性樹脂層を軟化させ、賦形性、接着性、含浸性が充分になる為である。
【0051】
工程(A)における加熱温度は任意で有り、上述した様に熱可塑性樹脂の到達MIが3.5(g/10分)となればよいので、樹脂種により適宜選択して決定すればよいが通常、180〜300[℃]である。昇温条件も任意であるが通常、10〜50[℃/分]である。
【0052】
本発明に用いる熱可塑性樹脂層は、一枚のシート状として、又は二枚以上の複数からなる層として用いてもよい。本発明における熱可塑性樹脂の厚みは、その合計厚み(総厚み)を示し、所望の炭素繊維強化樹脂成形体により、炭素繊維基材層よりも薄い範囲内にて適宜選択して決定すればよい。
【0053】
この熱可塑性樹脂層の総厚みが厚すぎると、炭素繊維基材層中への溶融樹脂の含浸が困難となったり、また得られる強化樹脂成形体の厚み方向において強度が著しく高くなり、深絞り加工等への適用が困難となる場合がある。
【0054】
逆に、熱可塑性樹脂層の総厚みが薄すぎても得られる炭素繊維強化樹脂成形体の強度が不充分となったり、表面性が低下する場合があるので、通常0〜1000μmであり、中でも50〜700μm、特に100〜400μmであることが好ましい。
【0055】
(B)工程製造方法
本発明における工程(B)は、(B):工程(A)にて加熱された積層体を、工程(A)を超える圧力で圧縮し加熱する工程である。
【0056】
中でも、工程(A)を超える圧力で圧縮しながら加熱・深絞り加工することが、熱可塑性樹脂の含浸性、複合体の賦形性、および金型表面の再現性の点で好ましい。
【0057】
本発明の工程(B)での加圧圧力は、工程(A)を超える圧力であれば適宜選択して決定すればよいが、通常、1〜50[MPa]であり、中でも 10〜40[MPa]である。この圧力範囲とすることによって、複合体の賦形性および熱可塑性樹脂の炭素繊維間への含浸性が良好となるので好ましい。
【0058】
本発明の製造方法で得られる炭素繊維強化樹脂成形体は、剛性、寸法安定性、表面光沢性、賦形性に優れるという特徴を有する、優れたものである。中でも本発明は、曲げ弾性率が80GPa以上で、且つ表面性に優れた炭素繊維強化樹脂成形体を,化学産業上優位に、得ることが出来る。
【0059】
本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は、化学工業的に多様な用途へ適応することが出来る。本発明により得られる炭素繊維強化樹脂成形体を用いて得られる成形品としては、具体的には例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケース」などの電気、電子機器部品;
【0060】
「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品;「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム、プロペラシャフト、ホイール、ギアボックスなどの、サスペンション、アクセル、またはステアリング部品」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの、外板、またはボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツなど外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュールなどの内装部品」、または「モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク、燃料ポンプ、エアーインテーク、インテークマニホールド、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」などの自動車、二輪車用構造部品、「その他、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、スペアタイヤカバー、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、スカッフプレート、フェイシャー」、などの自動車、二輪車用部品、;
【0061】
「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ」などの航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点より、電気、電子機器用の筐体、土木、建材用のパネル、自動車用の構造部品、航空機用の部品に好ましく用いられる。とりわけ、機械強度や等方性、表面性等の観点から電気、電子機器用筐体等へ適用した際、効果が顕著となる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例、比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない範囲に於いて、以下の実施例に制限されるものではない。
【0063】
以下に評価方法を記す。
【0064】
(1)賦形品のボス・アンダーカット付与
賦形用金型として、ボス(φ5.0mm)、及びアンダーカット(深さ1mm)形状を有する金型を用いて深絞り加工を実施した。得られた炭素繊維強化樹脂成形体について、当該ボス、アンダーカット形状の金型追随を目視で、以下の様に判断した。
○:金型形状の再現が充分で且つ樹脂成形体表面性も他の領域と差が無いもの。
△:金型形状の再現が充分であるが樹脂成形体表面性が他の領域よりも低い。
×:金型形状の追従性が不充分である場合には
【0065】
(2)炭素繊維不織布に含有される強化繊維長分布の測定
炭素繊維/熱可塑性樹(ポリカーボネート樹脂。以下、「PC」と記す場合がある。)繊維不織布をクロロホルムに投入し、PC成分を溶解させた。その後、溶液中の炭素繊維をランダムに取出し、約100本顕微鏡観察により繊維長を測定した。
【0066】
(3)熱可塑性樹脂のMI測定
炭素繊維/PC繊維不織布をクロロホルムに投入し、その溶液をろ過した。ろ液の溶媒を蒸発させることによってPC成分を取出し、MIを測定した。
【0067】
試験方法としてはJIS K−7210に準拠し、A法自動カット法を用い、測定時の荷重としては11.77Nとした。結果、240℃において約3.5(g/10分)であり、230℃以下のときはPCは流れ出ず、250℃以上のときは、PCは余熱時に全て流れ出ている結果となった。
【0068】
(4)炭素繊維強化樹脂成形体の表面粗度測定
プレス加工した2種(表層PCフィルム有無)の炭素繊維/PC賦形品の表面粗度を測定したところ、表層にPCフィルムを付与することによって、表面粗度が改良されていることを確認した。
【0069】
(5)炭素繊維強化樹脂成形体の曲げ物性測定
プレス加工した2種(表層PCフィルム有無)の炭素繊維/PC賦形品の曲げ物性を測定したところ、表層PCフィルムが無いサンプルの曲げ弾性率が約70GPaであるのに対し、表層にPCフィルムを付与しているサンプルの曲げ弾性率は約85GPaであり、表層PCフィルム付与により曲げ物性が向上された。
【0070】
(6)炭素繊維強化樹脂成形体の断面観察
プレス加工した2種(表層PCフィルム有無)の炭素繊維/PC賦形品の断面観察を実施したところ、表層フィルム付与無しのサンプルでは空隙が多数観察されたのに対し、表層フィルム付与サンプルでは空隙はほぼ見られなかった。これにより、表層に熱可塑性樹脂フィルムを付与した状態でプレス加工することによって、溶融した表層フィルムが内部の空隙に充てんしたと考えられる。
【0071】
(7)炭素繊維不織布の動的粘弾性測定
炭素繊維/PC繊維不織布のプレス成形体を作製し、動的粘弾性を測定した。測定方法としては引張り法とし、温度範囲は室温から210℃とした。
【0072】
(8)炭素繊維不織布の熱伝導率測定
炭素繊維/PC繊維不織布のプレス成形体を作製し、熱伝導率を測定した。測定方法としてはレーザーフラッシュ法にて実施した。
【0073】
(8)炭素繊維不織布の線膨張係数測定
炭素繊維/PC繊維不織布のプレス成形体を作製し、短冊状に切削加工した後、線膨張係数を測定した。
【0074】
(実施例1)
PAN系炭素繊維(平均直径:10μm、平均繊維長:12mm、長さ10mm以上の炭素繊維の含有率:80質量%)と、ポリカーボネート樹脂繊維(平均直径:30μm、平均長さ12mm)からなる複合不織布シート(目付:250[g/m]、質量比55:45、シート厚み:4mm)を4枚(総厚み0.6mm。)と、ポリカーボネート樹脂シート(三菱瓦斯化学社製 ユーピロン(登録商標)FE2000N−7。厚さ0.1mm。)2枚(総厚み0.2mm)を積層した後平均昇温速度40℃/分にて室温から210℃まで圧力を加えずに加熱した。
【0075】
次いで30[MPa]の圧力をシート全体に、絞り深さ25mmを有する金型を用いて1分間加熱圧縮して賦形し、炭素繊維強化樹脂成形体を得た。尚、温度は210℃±5℃とした。得られた炭素繊維強化樹脂成形体について評価を行った。結果を表1に記した。
【0076】
(実施例2)
炭素繊維/ポリカーボネート樹脂繊維複合不織布層を5層、ポリカーボネート樹脂シート層を1層とした以外は実施例1と同様にして炭素繊維強化樹脂成形体を得て、同様に評価した。結果を表1に記した。
【0077】
(比較例1)
CF/ポリカーボネート樹脂繊維複合不織布層を3層、ポリカーボネート樹脂シート層を3層とした以外は実施例1と同様にして炭素繊維強化樹脂成形体を得て、同様に評価した。結果を表1に記した。
【0078】
(比較例2)
炭素繊維/ポリカーボネート樹脂繊維複合不織布層を6層、ポリカーボネート樹脂シート層を0層とした以外は実施例1と同様にして炭素繊維強化樹脂成形体を得て、同様に評価した。結果を表1に記した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から、本発明の製造方法により得られた炭素繊維強化樹脂成形体は、諸特性が同時に発言する、優れたものとなることが判る。