特許第5944764号(P5944764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944764
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20160621BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20160621BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20160621BHJP
   C08F 8/48 20060101ALI20160621BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L15/00
   C08K3/36
   C08F8/48
   B60C1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-150586(P2012-150586)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-12768(P2014-12768A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野原 祐子
(72)【発明者】
【氏名】横山 結香
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
B60C 1/00
C08F 8/48
C08K 3/36
C08L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜200質量部、環化ゴムを0.1〜40質量部含み、
前記ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量が5質量%以上であり、
前記環化ゴムの環化率が0.1〜40%であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記環化ゴムは、環化天然ゴム、環化イソプレンゴム及び環化ブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを1〜100質量部含む請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
トレッドに使用される請求項1〜のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料代の高騰や環境規制の導入により、車の低燃費化への要求が強くなり、タイヤの中でも、特に占有比率の高いトレッドに対して優れた低燃費性が要求されている。従来からトレッドなどには、ゴム成分との相互作用が容易に得られ、補強効果に優れたカーボンブラックが充填剤として使用されてきたが、低燃費性を高めるため、これに代わってシリカが使用されるようになっている。
【0003】
タイヤ、特に重荷重用タイヤにおいて、低燃費性を改善するために、ゴム成分として天然ゴムやブタジエンゴムを使用することが一般的で、更に低燃費性を向上する方法として、シリカを使用する方法、充填剤を減量する方法などが知られている。しかし、これらの方法では、ゴム強度が低下し、良好な耐摩耗性能を維持できない場合があり、特に、重荷重用タイヤには、高いゴム強度が必要で、良好な耐チッピング性などの性能も要求されるため、上記方法を用いることは困難である。
【0004】
この点を解決する方法として、ゴム成分やシリカとの反応性を持つシランカップリング剤を使用することが提案されているが、シリカとの反応を充分に進行させることが難しく、未反応のシリカが分散不良のまま残存し、所望の性能が発揮されないことがある。更にこれを防止するために、多量のシランカップリング剤を配合すると、残存シランカップリング剤に起因して、加工中のゴム焼け、加硫ゴムの耐摩耗性や力学強度の低下を招くこともある。
【0005】
特許文献1には、シリカとゴムの相溶性を高める目的で、pHが8〜12の塩基性水溶液及びシリカを配合したタイヤ用ゴム組成物が開示されているが、ゴムとシリカとの相互作用が充分に得られず、低燃費性などの改善効果が充分満足いくものではない。したがって、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性及び加工性をバランス良く改善できるシリカ配合ゴムの提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−219779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性、及び加工性をバランス良く向上するタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた重荷重用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜200質量部、環化ゴムを0.1〜40質量部含み、前記ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量が5質量%以上であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0009】
前記環化ゴムの環化率は、0.1〜40%であることが好ましい。
前記環化ゴムは、環化天然ゴム、環化イソプレンゴム及び環化ブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを1〜100質量部含むことが好ましい。
トレッドに使用されることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する重荷重用タイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜200質量部、環化ゴムを0.1〜40質量部含み、前記ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量が5質量%以上であるタイヤ用ゴム組成物であるので、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性、及び加工性をバランス良く向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、所定量の天然ゴムを含むゴム成分に対して、シリカ及び環化ゴムを所定量配合したものである。
【0014】
天然ゴムにシリカを配合した配合ゴムは、一般にシリカの分散性が低く、所望の性能を得ることが難しいが、本発明では、環化ゴムを配合することにより、シリカと天然ゴムなどのゴム成分との相互作用が高められる。従って、シリカの分散性が向上し、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性を同時に向上するとともに、良好な加工性も得られ、これらの性能バランスを相乗的に改善できる。
【0015】
さらに、所定の環化率を持つ環化ゴムを使用することで、シリカの分散性が劇的に向上し、前記性能バランスを顕著に改善することが可能になる。
【0016】
天然ゴム(NR)としては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0017】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。5質量%未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。上記NRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよいが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%である。
【0018】
本発明で使用できる他のゴム成分としては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブタジエンイソプレンゴムなどのジエン系ゴム、塩素化ブチルゴムなどのブチル系ゴムなどが挙げられ、また、これらのゴムを縮合したもの、変性したものなども使用可能である。なかでも、低燃費性を向上し、前記性能バランスを改善する点から、NRに加え、更にBRを併用することが好ましい。これらのゴム成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどの高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617などのシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBRなど、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0020】
本発明のゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、低燃費性が低下する傾向がある。上記BRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。60質量%を超えると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明において、前記性能バランスの観点から、ゴム成分100質量%中のNR及びBRの合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0022】
本発明で使用されるシリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0023】
前記シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、40m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、100m/g以上がさらに好ましく、150m/g以上が特に好ましい。40m/g未満では、加硫後の破壊強度が低下する傾向がある。また、前記シリカのNSAは、500m/g以下が好ましく、300m/g以下がより好ましい。500m/gを超えると、低発熱性、ゴムの加工性が低下する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0024】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。5質量部未満であると、低発熱性が不十分になるおそれがある。また、該含有量は、200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。200質量部を超えると、充填剤のゴムへの分散が困難になり、ゴムの加工性が悪化する傾向がある。
【0025】
本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を配合してもよい。
シランカップリング剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用でき、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。
【0026】
シランカップリング剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0〜20質量部が好ましい。20質量部を超えると、コストが上がる割に充填剤の分散効果が得られず、更には、補強性、耐摩耗性がかえって低下する場合があり、また、未反応のシランカップリング剤が残存すると、加工中のゴム焼け、加硫後のゴムの破壊性能の低下を招くおそれもある。下限は、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、上限は、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは9質量部以下である。
【0027】
本発明のゴム組成物には、カーボンブラックが配合されることが好ましい。これにより、優れた補強性が得られ、耐摩耗性、耐チッピング性が向上し、前記性能バランスを顕著に改善できる。カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、FF、GPFなどが挙げられる。
【0028】
カーボンブラックとしては、平均粒子径が31nm以下及び/又はDBP吸油量が100ml/100g以上のものが好ましい。このようなカーボンブラックを配合することにより、必要な補強性を付与し、ブロック剛性、耐偏摩耗性、破壊強度を確保するとともに、耐摩耗性、耐チッピング性が向上し、本発明の効果が顕著に得られる。
【0029】
カーボンブラックの平均粒子径が31nmを超えると、破断強度が大幅に悪化し、耐摩耗性の確保が困難になるおそれがある。該平均粒子径は、25nm以下がより好ましく、23nm以下がさらに好ましい。また、上記平均粒子径は、15nm以上が好ましく、19nm以上がより好ましい。15nm未満であると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。本発明において平均粒子径は数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0030】
カーボンブラックのDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)が100ml/100g未満であると、補強性が低く、耐摩耗性の確保が困難となるおそれがある。上記DBP吸油量は、105ml/100g以上がより好ましく、110ml/100g以上がさらに好ましい。また、上記DBP吸油量は、160ml/100g以下が好ましく、150ml/100g以下がより好ましい。160ml/100gを超えると、カーボンブラック自体の製造が困難である。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2001に準拠して測定される。
【0031】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、80m/g以上が好ましく、110m/g以上がより好ましい。80m/g未満であると、破断強度が大幅に悪化し、耐摩耗性の確保が困難になるおそれがある。また、該カーボンブラックのNSAは、200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定される。
【0032】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。2質量部未満では、補強性に劣るおそれがある。また、該含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。60質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0033】
シリカ及びカーボンブラックの合計100質量%中のカーボンブラック含有量(含有率)は、35質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、53質量%以上が更に好ましい。35質量%未満であると、耐チッピング性が低下する傾向がある。また、該含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。90質量%を超えると、低燃費性、耐摩耗性が低下し、本発明の効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0034】
本発明のゴム組成物は、他の充填剤を配合してもよく、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト、セルロース、各種短繊維、ガラスバルーン、卵殻等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
環化ゴムは、種々の化学構造を有する化合物が提案されているが、本発明における環化ゴムは、そのいずれかに特定されるものではなく、任意の化合物を使用できる。なお、本発明において、環化ゴムは、ゴム成分ではなく、シリカとゴム成分の相溶性を向上し、シリカ分散性を向上する作用を有する添加剤(シリカ分散向上剤)である。
【0036】
環化ゴムの環化率は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは3%以上である。0.1%未満であると、シリカとの相互作用が充分に得られず、低燃費性能が悪くなるおそれがある。該環化率は、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下である。40%を超えると、環化ゴムがゲル化したり、混練機に接着するおそれがある。
【0037】
なお、環化率とは、環化反応前の原料ゴム成分(共役ジエン重合体)の二重結合数に対して、環化反応により反応した二重結合の割合である。例えば、H−NMR分析により、原料として用いた共役ジエン重合体の環化反応前後における二重結合由来のプロトンのピーク面積をそれぞれ測定し、環化反応前を100としたときの環化反応後の環化物に残存する二重結合の割合を求め、計算式=(100−環化物中に残存する二重結合の割合)により表される値(%)として測定できる。
【0038】
環化ゴムの数平均分子量(Mn)は、1,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜300,000であることが更に好ましい。1,000未満であると、耐摩耗性や低燃費性が悪化するおそれがあり、1,000,000を超えると、粘度が上昇し、加工性が悪化するおそれがある。
【0039】
環化ゴムの分子量分布、すなわち重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は、4以下であることが好ましい。
なお、Mw/Mnは、GPCによって測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0040】
環化ゴムのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されず、通常−100〜100℃であるが、本発明の効果の点から、好ましくは−90〜80℃、より好ましくは−90〜40℃、特に好ましくは−90〜20℃、最も好ましいのは−90〜5℃である。
【0041】
環化ゴムのゲル量は、本発明の効果の点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、実質的にゲルを有しないものが特に好ましい。
【0042】
環化ゴムとしては、共役ジエン重合体環化物を好適に使用できる。共役ジエン重合体環化物は、共役ジエン単量体、又は共役ジエン単量体及び該共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体を、公知の方法で(共)重合させて作製した共役ジエン重合体を、環化させて得られるものなどが挙げられる。
【0043】
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどが挙げられる。これらの単量体は、単独でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−クロルスチレン、m−クロルスチレン、p−クロルスチレン、p−ブロモスチレン、2−メチル−1,4−ジクロルスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの鎖状オレフィン単量体;シクロペンテン、2−ノルボルネンなどの環状オレフィン単量体;1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエン単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)クリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらの単量体は、単独でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよいが、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。
【0046】
環化ゴムとして、前述の共役ジエン重合体環化物を使用できるが、なかでも、本発明の効果の点から、環化天然ゴム、環化イソプレンゴム、環化ブタジエンゴムなどが特に好ましい。
【0047】
前記のとおり、共役ジエン重合体環化物は、共役ジエン重合体を環化させて調製できるが、この環化反応は、公知の方法で実施でき、例えば、(共)重合反応後、そのままワンポット反応で環化触媒を添加し環化させる方法、(共)重合、更に乾燥処理された共役ジエン重合体から再度溶液を作製した後に環化させる方法などが挙げられる。
【0048】
ここで、環化反応は、例えば、公知の環化触媒を、直接生ゴムに作用させるか、又はゴム溶液に作用させ、ゴム分子中の鎖状分子の一部を環化して2重結合を減少させることにより実施でき、それにより、環化ゴムが得られる。環化触媒としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸類、クロロスルホン酸などが挙げられる。
【0049】
環化ゴムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。また、該含有量は、40質量部以下、好ましくは30質量部以下である。0.1質量部未満であると、シリカ分散の効果が充分ではなく、低燃費性の改善効果が得られにくい傾向がある。40質量部を超えると、ゴム物性が低下するとともに、高コストになる傾向がある。
【0050】
本発明のゴム組成物は、上記成分の他に、オイル、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などの添加剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤などを適宜配合してもよい。
【0051】
オイル含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。15質量部を超えると、耐摩耗性が低下し、本発明の効果が充分に得られない傾向がある。該オイル含有量の下限は特に限定さされず、オイルを含まなくもよいが、加工性の点から、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。
【0052】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の混練機で上記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。該ゴム組成物は、タイヤの各部材に用いることができ、トレッド(特に重荷重用タイヤのトレッド)に好適に使用できる。
【0053】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を配合する場合、混練温度は、通常50〜200℃であり、好ましくは80〜190℃であり、混練時間は、通常30秒〜30分であり、好ましくは1分〜30分である。また、加硫剤、加硫促進剤を配合する場合、混練温度は、通常100℃以下であり、好ましくは室温〜80℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を配合した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理を行って用いられる。加硫温度としては、通常120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造できる。
【0055】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、重荷重用タイヤ(トラック・バス用タイヤ)などに用いることができ、高い耐摩耗性が要求される重荷重用タイヤに特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0057】
(製造例1)
窒素置換した攪拌機付き耐圧反応器に、脱水トルエン1400g、n−ブチルリチウム18ミリモルを仕込み、内温を60℃に保持した。イソプレン487gを、15分間に亘り連続的に反応器に添加し、内温が75℃を超えないように制御した。その後70℃にて10.5時間反応させ、次いで、重合停止剤として、メタノールを1.4ミリモル添加して、重合反応を停止した。
重合反応を停止した後、80℃に昇温し、p−トルエンスルホン酸4.24gを添加し、80℃に維持した状態で、1時間環化反応を行った。続いて、炭酸ナトリウム1.70gを水5.1gに溶解した水溶液を添加して、環化反応を停止し、反応溶液をろ過して触媒残渣を除去した。この溶液に老化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)0.4gを添加した後、トルエンを留去し、減圧乾燥して環化ゴム1を得た。
【0058】
(製造例2)
窒素置換した攪拌機付き耐圧容器に、液状ポリイソプレン(クラレ製 LIR−30:Mn=28,000)300g、トルエン700gを仕込んだ。その混合物を80℃に加温して、ポリイソプレンを完全に溶解した後、p−トルエンスルホン酸2gを添加し、内温を80℃に維持しながら環化反応を行った。1時間反応後、炭酸ナトリウム0.8gを含む炭酸ナトリウム25%水溶液を添加して反応を停止し、80℃で30分間攪拌後、ろ過して触媒残渣を除去した。この溶液に老化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)0.3gを添加した後、トルエンを留去し、減圧乾燥して環化ゴム2を得た。
【0059】
(製造例3)
液状ポリイソプレンに代えて、液状ポリブタジエン(サートマー社製、ライコン150、Mn=5,200)を用いた以外は、製造例2と同様にして、環化ゴム3を得た。
【0060】
(製造例4)
液状ポリイソプレンに代えて、ポリブタジエン(宇部興産社製、UBEPOL 150L、Mn=250,000)を用い、環化反応時間を3時間に変更した以外は製造例2と同様にして環化ゴム4を得た。
【0061】
得られた環化ゴムは、以下の方法で物性を測定し、結果を表1に示した。
【0062】
(環化ゴムの環化率)
環化ゴムの環化率は、BRUKER社製AV400のNMR装置、データー解析ソフトTOP SPIN2.1を用いてH−NMR測定により、環化反応前後におけるポリマー中のプロトンのピーク面積比により求めた。なお、詳しい環化率計算方法は、下記の文献に記載のとおりである。
Y.Tanaka and H.Sato,J.Polym.Sci: Poly.Chem.Ed.,17,3027(1979)
【0063】
(環化ゴムの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw))
ポリスチレンを標準物質、テトラヒドロフランを溶媒とし、温度40℃において、環化ゴムのゲルパーミエーション(透過)クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製)を行い、得られた分子量分布曲線から求めた検量線を用いて計算し、Mn、Mwを求めた。
【0064】
(環化ゴムのガラス転移温度Tg)
環化ゴムのガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)社製:SSC5200)を用いて、開始温度−100℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0065】
(環化ゴムのゲル量)
2mm角に裁断した試料0.2gを、トルエン100mlに、48時間浸漬した後、80メッシュの金網上に残るゲル分の乾燥重量の割合を百分率で示した。
【0066】
【表1】
【0067】
以下に、実施例および比較例で使用した薬品をまとめて示す。
NR:RSS#3
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(シス1,4結合量97%、ML1+4(100℃)40、Mw/Mn3.3)
環化ゴム1〜4:製造例1〜4
シリカ:EVONIK−DEGUSSA社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFカーボン、平均粒子径23nm、DBP吸油量114ml/100g)
シランカップリング剤:EVONIK−DEGUSSA社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140(芳香族系プロセスオイル)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0068】
<実施例及び比較例>
表2の配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を充填率が58%になるように充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練りして混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加して混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。
さらに、得られた未加硫ゴム組成物を所定のサイズに成形し、150℃の条件下で20分間プレス加硫することにより加硫ゴム組成物を得、約2mm×130mm×130mmの加硫ゴムスラブシートを作製した。
【0069】
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃で30分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:11R22.5)を製造した。
【0070】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムスラブシート、試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
(加工性)
JIS K6300−1に基づいて、ムーニー粘度(ML1+4)を130℃で測定し、比較例1を100として、下記式から加工性指数を計算した。指数が大きいほど、未加硫時の加工性が良好であることを示す。
(加工性指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0072】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%および周波数10Hzの条件下で加硫ゴムスラブシートの損失正接(tanδ)を測定し、比較例1の転がり抵抗指数を100とし、下記式により、転がり抵抗を指数表示した。転がり抵抗指数が大きいほど、転がり抵抗が低減され、好ましいことを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0073】
(耐摩耗性能)
試験用タイヤを国産2−D車に装着し、走行距離5万km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、比較例1のタイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を100とし、下記式により指数化した。指数が大きいほど、耐摩耗性が良好である。
(耐摩耗指数)=(各配合のタイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離)×100
【0074】
(耐チッピング性能)
耐チッピング性は、下記に示す測定を行い、評価した。
すなわち、1面の1片が45mmの正三角形からなる鉄製の六面体の各面に径5mmの鉄製焼き入れピン3本を埋め込んだ針山ブロックを、内径が155mm、高さ177mmの円筒状鉄製容器内面に、成形枠を使用して加硫成形し、予め重量を測定した120mm×82mm×5mm(厚み)のサンプルゴム(加硫ゴムスラブシート)を6枚ドラム内に固定した。その後、ドラム内の温度を約70℃に保持して7日間、36rpmの速度で回転させたのち、針山ブロックを取り出し、サンプルゴムをドラムから外して付着しているゴム屑を完全に除去してその重量を測定し、比重から体積に換算することにより、体積変化率を求めた。指数が大きいほど、耐チッピング性が良好であることを示す。
【0075】
【表2】
【0076】
比較例1に対し、オイルを増量した比較例2では、加工性、低燃費性(転がり抵抗)は向上したものの、耐摩耗性や耐チッピング性が低下し、性能バランスの良好な改善は見られなかった。一方、シリカ配合ゴムに環化ゴムを10部添加した実施例1〜4では、加工性、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性を同時に改善でき、これらの性能バランスを相乗的に向上できることが明らかとなった。また、環化ゴムの添加量を増量した実施例5〜6でも実用的に問題のない範囲の加工性指数「98」、「96」を維持しながら、低燃費性、耐摩耗性、耐チッピング性を顕著に改善できた。