(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両用スライドレール装置を搭載した車両が別の車両と正面衝突したり、あるいは車両用スライドレール装置を搭載した車両の後部に対して別の車両が後方から衝突すると、このときの衝突荷重によってアッパレールが上方へ移動してロアレールに激しくぶつかり、ロアレールとアッパレールが変形することがある。
このときのロアレールとアッパレールの変形量が大きい場合には、ロアレールの内面とアッパレールの外面とに接触していたベアリングボールがロアレール内で移動し、アッパレールを支持する機能を喪失してしまう。するとシートに掛かった乗客の反動(衝突による衝撃によって一旦シートから上方へ浮き上がった乗客が重力によって再びシートに着座することにより発生する下向きの荷重)によってアッパレールがロアレールに対して下降するので、乗客がロックレバーを操作していないにも拘わらず、ロック位置に位置していたロックレバーが係合していたロック溝の下端開口から下方に脱出し、アッパレールとロアレールのロック状態が不意に解除されてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、車両の衝突等に起因してロアレールとアッパレールが変形した場合においても、ロアレールとアッパレールのロック状態が不意に解除されるおそれを低減できる車両用スライドレール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用スライドレール装置は、前後方向に延びかつ上面が開放したチャンネル構造をなし、車両床面に対して移動不能なロアレールと、シートを支持し、かつ、少なくとも一部が上記ロアレールの内部空間内に位置する、上記ロアレールに対して前後方向にスライド可能なアッパレールと、上記ロアレールの内部空間に配設した、上記アッパレールの底面が上記ロアレールの底面から上方に離間するように、上記アッパレールを上記ロアレールに対してスライド可能として支持するアッパレール支持手段(と、上記ロアレールに前後方向に並べて形成した、上下方向に延びかつ下端が開放した複数のロック溝と、上記アッパレールと一緒に前後方向にスライドし、かつ、いずれかの上記ロック溝に対して選択的に係脱可能なロック部材と、を備え、上記ロアレール及び上記アッパレールが変形することに起因して上記アッパレール支持手段が上記アッパレールを支持する機能を喪失したときに、上記アッパレールの上記ロアレールに対する下降量を規制することにより、いずれかの上記ロック溝に対して係合している上記ロック部材を該ロック溝内にとどまらせるロック解除規制手段を備えることを特徴としている。
【0007】
上記アッパレールが、左右方向に対向する一対の側壁を有し、かつ下面が開放したチャンネル構造であり、該アッパレールの内面に、一対の上記側壁の内面に対して左右の側面がそれぞれ対向する、下面が開放したチャンネル構造のアッパレール固定部材を固定し、上記ロアレールの底面に、上方に向かって突出する当接部を形成し、上記アッパレール固定部材が、上記アッパレール支持手段が上記アッパレールを支持する機能を喪失したときに上記当接部の直上に位置する上記ロック解除規制手段を有してもよい。
【0008】
上記ロアレール及び上記アッパレールの変形前において、上記ロック部材のロック解除ストロークがL1であり、上記アッパレールが、上記ロアレール及び上記アッパレールの変形前においてL1より小さいL2だけ上記ロアレールから上方に離間する上記ロック解除規制手段を有してもよい。
【0009】
上記アッパレールに対して移動不能なアッパレール固定部材が、該アッパレールの側方において該アッパレールの上面より低い位置に向かって下向きに延び、かつ、上記ロアレールの直上に位置する上記ロック解除規制手段を備えてもよい。
【0010】
上記ロアレールが、底壁の左右両側縁部から上方に延びる左右一対の外壁部と、左右の該外壁部の上縁部から互いに近づく方向に延びる一対の天井部と、を備え、上記ロック解除規制手段の前端又は後端に、該ロック解除規制手段のその他の部位に比べて上記ロアレールの幅方向の中央部側に位置し、かつ、上記天井部の直上に位置するストッパを備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両用スライドレール装置を搭載した車両が別の車両と衝突すること等に起因して、ロック状態にあるロアレールとアッパレールに大きな荷重が掛かると、ロアレールとアッパレールが変形し、アッパレール支持手段がアッパレールを支持する機能を喪失することがある。するとアッパレール支持手段による支えを失ったアッパレールがロアレールに対して下降する。
しかし、ロック解除規制手段がアッパレールのロアレールに対する下降量を規制することにより、ロック溝に係合していたロック部材を該ロック溝内にとどまらせるので、アッパレールとロアレールのロック状態が不意に解除されてしまうおそれを低減できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、簡易な構造でロック解除規制手段を実現できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、簡易な寸法管理によってロック解除規制手段を設定でき、不意のロック解除をより確実に低減できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、簡易な構造でロック解除規制手段を実現できる。
【0015】
請求項5の発明によれば、レール変形時のアッパレールの下降量をより小さめに抑えることが可能になるので、不意のロック解除をより確実に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1〜
図20を参照しながら本発明の第1の実施形態について説明する。なお、以下の説明中の方向は図中に記載した矢線方向を基準とする。
図示を省略した自動車(車両)の車内床面には2つのスライドレール装置10が左右に並べて設けてあり、スライドレール装置10(アッパレール30)の上面にはシート(図示略)が固定してある。以下のスライドレール装置10の説明は、左側(運転席:本実施形態の左右方向は自動車を前方から見たときの方向である)のスライドレール装置10に基づいて説明する。
【0018】
次にスライドレール装置10の詳しい構造について説明する。
スライドレール装置10は大きな構成要素として、左右一対のレールユニット20と、左右のレールユニット20の前端部同士を接続するループハンドル60と、を具備している。左右のレールユニット20は互いに左右対称であり、かつループハンドル60が左右対称形状なので、スライドレール装置10は全体として左右対称である。
左右のレールユニット20は以下の構造である。
レールユニット20は車内床面に対して固定したロアレール21を有している。ロアレール21は前後方向に延びかつ上面が開口した金属製のチャンネル材であり、略水平な底壁22と、底壁22の左右両側部から上方に延びる左右一対の外壁部23と、左右の外壁部23の上縁部から内側に延びる左右一対の天井部24と、左右の天井部24の内側縁部から下方に延びる左右一対の内壁部25と、を具備している。
図4等に示すように、左右の内壁部25の上縁部(天井部24に接続する部分)は前後方向に延びる基端支持部26となっている。左右の内壁部25の下縁部には、その上端部が基端支持部26に接続する多数のロック歯27が前後方向に等間隔で並べて形成してあり、隣り合うロック歯27の間に下端が開放したロック溝28が形成してある。
【0019】
ロアレール21の底壁22の後端近傍部には、樹脂製の落下物排出用固定部材57がスナップを利用して固定してある。落下物排出用固定部材57の前端部には前端傾斜面57aが形成してあり、落下物排出用固定部材57の上面の左右方向の中央部には中央仕切壁58が上向きに突設してある。
【0020】
レールユニット20は、ロアレール21に対して前後方向にスライド可能なアッパレール30を有している。アッパレール30は前後方向に延びかつ下面が開口した金属製のチャンネル材であり、断面形状が略下向きコ字形をなす基部31と、基部31の左右両側壁の下縁部の長手方向の中央部を除く部分から上方に延びる立上り壁32と、該中央部から上方に延びる被ロック壁33と、を具備している。
図2、
図3、
図5、
図8等に示すように、左右の被ロック壁33の下縁部と基部31の側壁部の下縁部とに跨る部分には4つの前後動規制溝34が上向きに形成してあり、さらに基部31の側壁部の前端近傍部の下縁部には前後動規制溝34の下端より下方まで延びる下向きの規制片35が一体的に突設してある。さらに
図5、
図6等に示すように、基部31の水平な天井部31aの中央部近傍には下方に向かった後に後方に延びる係止片36が切り起こしにより形成してあり、基部31の左右側壁の中央部よりやや前側に位置する部分には内向きの係止片37がそれぞれ切り起こしにより形成してある。さらに基部31の前端近傍部には、左右側壁の下縁から内向きに延びる略水平な下側支持部38が一体的に突設してある。さらにアッパレール30の後端開口部には樹脂製のリアプロテクタ39が固定してある。
【0021】
右側のアッパレール30の上面には、金属製のアッパリンフォース12(アッパレール固定部材)が固定してある。
アッパレール30の一部を構成するアッパリンフォース12は、天井部31aの上面に接触しかつリベット18を介して天井部31aに固定される固定部13と、固定部13の左右両側縁部から上向きに延びた部分から下方に向かって延びる左右一対の下向延出部14と、左側の下向延出部14の後端部から後方に延びる後方延長部15と、を具備している。後方延長部15の後端近傍部は右側に向けて曲折してあり、後方延長部15の後端部は後方延長部15の前部に比べて一段右側に位置する後端ストッパ16(ロック解除規制手段)となっている。
図12〜
図20等に示すように左右の下向延出部14及び後方延長部15(後端ストッパ16)の下端面は、正面視で基部31の側方に位置しており、かつ、アッパレール30の天井部31a及び固定部13の下面より下方に位置している。
さらに運転席の右側のアッパレール30の上面には、アッパリンフォース12を上方から覆う態様で、金属製のベルトアンカーブラケット19がボルトにより固定してある。ベルトアンカーブラケット19の後部にはアンカー(図示略。シートベルトと係脱する部材)を固定するためのアンカー固定部19aが形成してある。
【0022】
さらにアッパレール30の基部31の内面には、金属製のインナリンフォース45(アッパレール固定部材)が固定してある。
アッパレール30の一部を構成するインナリンフォース45は、天井部31aの下面に接触しかつリベット18を介して天井部31aに固定される固定部46と、固定部46の左右両側縁部から下向きに延びる一対の側部47(側壁)と、左右の側部47の後部から下向きに延びる一対の下向延出部48と、を具備している。
図12に示すように左右の側部47(及び下向延出部48)は、アッパレール30の基部31の左右の側壁部と隙間をもって対向している。
【0023】
レールユニット20はさらにアッパレール30に装着したロック解除レバー40とロックバネ50(ロック部材)とを具備している。
ロック解除レバー40は金属板をプレス成形した前後方向に延びかつ下面が開口した金属製のチャンネル材であり、左右一対の側壁41を具備している。
図2、
図4、
図9、
図10等に示すようにロック解除レバー40の上面には左右方向に延びる回転接触凸部42が突設してある。またロック解除レバー40の後端部には左右一対の略水平なバネ押圧片43がそれぞれ突設してあり、左右の側壁41の前部(回転接触凸部42より前方に位置する部分)の下縁部には上向きのバネ掛け溝44が凹設してある。
ロックバネ50は金属製の線材を曲折加工した左右対称な部材である。ロックバネ50の左右両側部の長手方向の中央部よりやや後方に位置する部分には外側に向かって略水平に延びる前後一対のロック部51が形成してある。ロック部51より後方に位置する部分(ただし後端部を除く)は自由状態において略水平であり、ロック部51より前方に位置する部分は自由状態において略水平である。ロックバネ50の前端には左右一対の前端係止片52が外向き略水平に突設してあり、ロックバネ50の後端部は側面視で上向きに傾斜する後端係止部53を構成している。
ロック解除レバー40はアッパレール30の前端開口部(基部31の前端部と下側支持部38の間)から略全体をアッパレール30内に収納してあり、回転接触凸部42が基部31の天井面に接触している(
図9、
図10の接触部P参照。ロック解除レバー40の上面における回転接触凸部42以外の部分と基部31の天井面の間には空間が形成されている)。
図5〜
図7、
図9、及び、
図10に示すようにロックバネ50は、後端係止部53を係止片36に係止し(
図9の三角印を参照)、左右両側部のロック部51よりやや前側に位置する部分を左右の係止片37にそれぞれ係止し(
図9の三角印を参照)、各ロック部51を対応する前後動規制溝34に下方から係合し、さらに左右の前端係止片52を下方からバネ掛け溝44に係止してあり、ロックバネ50の一対のロック部51の間に位置する部分の上面にバネ押圧片43が上方から当接している。このようにしてロックバネ50をアッパレール30及びロック解除レバー40に取り付けると、ロックバネ50はアッパレール30に対して、ロックバネ50の後端係止部53と係止片36の係止が解除されず、かつ、前端係止片52がバネ掛け溝44との係止を維持する微小範囲内で前後方向に移動可能となる。またロックバネ50は弾性変形することにより上向きの付勢力(弾性力)を発生するため(
図9の↑印を参照)、この付勢力によってロック解除レバー40の回転接触凸部42が基部31の天井部31aに押しつけられ、ロック解除レバー40は天井部31aと回転接触凸部42の接触部Pを中心にして回転接触凸部42回りに(左右方向の仮想回転軸回りに)回転可能となり、ロック解除レバー40の前端部に上向きの外力を掛けないときロック解除レバー40は
図9に示すロック位置に保持される。一方、ロックバネ50の付勢力に抗してロック解除レバー40の前端部に上向きの外力を掛けるとロック解除レバー40は
図10に示すアンロック位置まで回転する。するとロック解除レバー40のバネ押圧片43が一対のロック部51の間に位置する部分を下方に押し下げるので、各ロック部51が対応するロック溝28から下方に脱出する(
図8に仮想線で描かれたロック部51を参照)。
【0024】
このようにして一体化したアッパレール30、ロック解除レバー40、及び、ロックバネ50を、ロアレール21の前端開口又は後端開口からロアレール21の内部に挿入することによりアッセンブリしたものがレールユニット20である。レールユニット20をアッセンブリすると
図12〜14等に示すように、アッパレール30の立上り壁32及び被ロック壁33が外壁部23と内壁部25の間に形成された空間に入り込む。さらに
図13に示すように、ロアレール21の外壁部23とアッパレール30の立上り壁32との間に形成された左右の空間には、4つの金属製のベアリングボール56を回転可能に支持したリテーナ55(アッパレール支持手段)が配設してあり、各リテーナ55に設けた各ベアリングボール56(アッパレール支持手段)が立上り壁32の外面と外壁部23の内面にそれぞれ回転可能に接触する。そのため、各ベアリングボール56が(外壁部23、及び)立上り壁32に及ぼす支持力によって、アッパレール30はその下面がロアレール21の底壁22から上方に離間した状態に維持される。さらにアッパレール30(及びロック解除レバー40、ロックバネ50)がロアレール21に対して前後方向にスライド可能となる。さらにアッパレール30とロアレール21の間には図示を省略した前端ストッパ手段と後端ストッパ手段が設けてあるので、アッパレール30はロアレール21に対して前端位置(図示略)と後端位置(
図1の位置)の間をスライド可能である。各リテーナ55(ベアリングボール56)は、アッパレール30のロアレール21に対するスライド動作に伴ってロアレール21及びアッパレール30に対して前後方向に相対移動し、アッパレール30が上記前端位置と上記後端位置の間のいずれの位置に位置するときもベアリングボール56は立上り壁32の外面と外壁部23の内面にそれぞれ接触する。
このようにしてレールユニット20を組み立てると、ロック部51の上端からロック溝28の下端までの上下方向の直線距離(ロック解除ストローク)がL1となり、後端ストッパ16(及び、下向延出部14、後方延長部15)の下端から、その直下に位置する天井部24の上面までの上下方向の直線距離がL1より小さいL2となる。
またロック解除レバー40がロック位置に位置するときは、
図8の実線で示すように各ロック部51が対応する前後動規制溝34及びロック溝28に下方から係合するので、アッパレール30のロアレール21に対するスライドは規制される。一方、ロック解除レバー40をアンロック位置まで下方に回転させると、
図8の仮想線で示すように各ロック部51が係合していたロック溝28から下方に脱出するので、アッパレール30はロアレール21に対してスライド可能となる。
アッセンブリされた左右一対のレールユニット20は、互いを平行にしかつ互いの前後位置を合わせた上で(アッパレール30のロアレール21に対するスライド位置も一致させる)、アッパレール30の上面にシート(図示略)の座部が固定される。
【0025】
このようにして左右のレールユニット20とシート11を一体化したら、左右のロック解除レバー40に対してループハンドル60を接続する。
ループハンドル60は金属製のパイプ材を曲げ加工したものであり、左右方向に延びる操作部61と、左右両端部に設けた後方に向かって直線的に延びる一対の後端接続部62と、操作部61の左右両端部と左右の後端接続部62とを接続する一対の湾曲部と、を具備している。ループハンドル60は、左右の後端接続部62を左右のロック解除レバー40の前端部に対してそれぞれ固定してある。
【0026】
アッセンブリしたスライドシート装置10は、左右のロアレール21を車内床面に固定することにより、車内床面に取り付けられる。
【0027】
続いてスライドレール装置10の動作について説明する。
乗客が手で操作部61を掴んでループハンドル60全体を上方に回転させると、この回転力が後端接続部62からロック解除レバー40の前端部に伝わりロック解除レバー40が後端接続部62と一緒に上方に回転する。するとロック位置に位置していたロック解除レバー40がアンロック位置まで回転するので、ロアレール21に対するスライドが規制されていたアッパレール30がロアレール21に対してスライド可能となる。
また乗客がロアレール21の上面開口からライター等の小物をリアプロテクタ39より後方に位置するロアレール21の内部空間(底壁22の上面)に落とした場合に、アッパレール30をロアレール21に対して後方にスライドさせると、リアプロテクタ39が当該小物を後方に押圧する。すると小物は前端傾斜面57aから落下物排出用固定部材57の上面に載り、落下物排出用固定部材57の上面を後方に向かってスライドし、ロアレール21の後端開口からロアレール21の後方に排出される。
【0028】
シートに乗客が着座しているスライドレール装置10のベルトアンカーブラケット19(アンカー固定部19a)に固定したアンカーにシートベルトの係止端部を係止した状態で、アッパレール30を上記後端位置に位置させたときに、スライドレール装置10を搭載した自動車の前部が障害物(例えば別の自動車)に対して正面衝突すると、自動車のボディに生じた衝撃力がシートベルトからベルトアンカーブラケット19に伝わり、ベルトアンカーブラケット19及びアッパレール30の後部(及び乗客)がロアレール21に対して瞬間的に上方に持ち上げられる。するとアッパレール30の後部の立上り壁32がロアレール21の天井部24の後端部に対して下方から激しく衝突するので、ロアレール21の後端部が大きく変形する。
図15〜
図17は、ロアレール21及びアッパレール30が最も大きく上方に変形した状態を表しており、このときアッパレール30は、基部31の下側開口の左右幅が狭くなるとともに(基部31の左右の側壁部の下端同士が接近するとともに)、左右の立上り壁32(及び被ロック壁33)が外側(下方)に開き、一方、ロアレール21は、内壁部25が内側(上方)に開くと共に外壁部23が外側に倒れ、さらに底壁22が変形して底壁22の左右両側部が車両床面から上方に離れる。するとロアレール21の外壁部23とアッパレール30の立上り壁32との間に形成された左右の空間(の左右幅)が広がるので、当該空間に位置していた後方のリテーナ55(及びベアリングボール56)が下方に滑り落ちる(
図16参照)。
さらにロアレール21及びアッパレール30は、上記の最大変形状態を経た後に、乗客の反動によってアッパレール30がロアレール21に対して下降した最終変形状態になる(
図18〜
図20参照)。
上記のようにロアレール21の外壁部23とアッパレール30の立上り壁32との間に形成された左右の空間に位置していたリテーナ55(ベアリングボール56)が下方に滑り落ちると、各ベアリングボール56が(外壁部23、及び)立上り壁32に及ぼしていた支持力が喪失する。そのため、一時的にロアレール21に対して浮き上がった乗客が反動により下方に落ちることによりアッパレール30が下向きに押圧されると、ベアリングボール56による支えを失ったアッパレール30がロアレール21に対して下降する(
図18〜
図20参照)。アッパレール30がベアリングボール56による支えを失うタイミングが上記最大変形状態と最終変形状態の間のいずれのタイミングであっても、ロック部51が対応するロック溝28の下端開口から下方に脱落する前に、後端ストッパ16の下端が直下に位置する天井部24に当接する。特に本実施形態では後方延長部15の後端部に、後方延長部15の前部に比べて内側に位置する後端ストッパ16を形成し、ロアレール21及びアッパレール30が変形したときに天井部24の中で初期状態からの上昇量が最も大きくなる天井部24の内側縁部の直上に後端ストッパ16を位置させているので、アッパレール30のロアレール21に対する下降量が極めて小さいときに後端ストッパ16の下端が直下に位置する天井部24の内側端部に当接する。そのため上記正面衝突によってロアレール21とアッパレール30の間のロック状態が不意に解除されてしまうおそれを低減できる。
なお、正面衝突によるロアレール21の後端部及びアッパレール30の変形量は、理論上、アッパレール30が後端位置に位置するときに最も大きくなるが、アッパレール30が後端位置以外の位置に位置する状態で正面衝突が生じた場合においてもロアレール21及びアッパレール30が変形するので、この場合においてもアッパリンフォース12(後端ストッパ16)は有効に機能する。
【0029】
続いて本発明の第2の実施形態について
図21〜
図29を参照しながら説明する。なお従前の実施形態と同じ部材には同じ符号を付すに止めて、その詳細な説明は省略する。
本実施形態のレールユニット20’’は、アッパリンフォース12’’、インナリンフォース45’’、及び、落下物排出用固定部材57’’の形状が第1の実施形態のものと異なる。
アッパリンフォース12’’(アッパレール固定部材)の下向延出部14’’の上下寸法は下向延出部14より短く、下向延出部14’’の下端は固定部13の下面が位置する平面上に位置している。さらにアッパリンフォース12’’は後方延長部15及び後端ストッパ16を具備していない。インナリンフォース45’’の左右の下向延出部48の下面の前端部には、下方に向かって延びる下端ストッパ49がそれぞれ突設してある。アッパリンフォース12’’とインナリンフォース45’’(アッパレール固定部材)は、第1の実施形態と同様に、リベット18を用いてアッパレール30に固定してある。
落下物排出用固定部材57’’の上面には、その前端から後端まで直線的に延びる左右一対の逃げ溝59が凹設してある。さらに左右の逃げ溝59の間に位置する部位は、周辺部に対して上方に突出した当接用突部59a(当接部)を構成している。落下物排出用固定部材57’’は、第1の実施形態と同様に、スナップを利用して底壁22の後端近傍部に固定してある。
【0030】
レールユニット20’’をアッセンブリすると、
図24〜
図29に示すように、アッパレール30の立上り壁32及び被ロック壁33が外壁部23と内壁部25の間に形成された空間に入り込む。さらに、第1の実施形態と同様に、ロアレール21の外壁部23とアッパレール30の立上り壁32との間に形成された左右の空間にリテーナ55が配設してあり(
図24〜
図29ではリテーナ55及びベアリングボール56の図示略)、各リテーナ55に設けた各ベアリングボール56が立上り壁32の外面と外壁部23の内面にそれぞれ回転可能に接触している。そのため、各ベアリングボール56が(外壁部23、及び)立上り壁32に及ぼす支持力によって、アッパレール30はその下面がロアレール21の底壁22から上方に離間した状態に維持される。さらにアッパレール30(及びロック解除レバー40、ロックバネ50)はロアレール21に対して前後方向にスライド可能である。なお、左右の下端ストッパ49の下端は当接用突部59aの上面より下方に位置するが、落下物排出用固定部材57’’の上面には左右の下端ストッパ49の下端を受け入れる(避ける)逃げ溝59が凹設してあるので、アッパレール30がロアレール21に対して前後方向にスライドするときに下端ストッパ49と落下物排出用固定部材57’’は干渉しない(
図25参照)。
【0031】
シートに乗客が着座しているスライドレール装置10のベルトアンカーブラケット19(アンカー固定部19a)に固定したアンカーにシートベルトの係止端部を係止した状態で、アッパレール30を上記後端位置に位置させたときに、スライドレール装置10を搭載した自動車の前部が障害物(例えば別の自動車)に対して正面衝突すると、第1の実施形態と同様に、アッパレール30の後部の立上り壁32がロアレール21の天井部24の後端部に対して下方から激しく衝突するので、ロアレール21の後端部が大きく変形する。
図26、
図27は、ロアレール21及びアッパレール30の最も大きく変形した状態を表しており、ロアレール21とアッパレール30は第1の実施形態と同様の態様で変形するので、ロアレール21の外壁部23と後部の立上り壁32との間に形成された左右の空間に位置していた後方のリテーナ55(及びベアリングボール56)が下方に滑り落ちる(図示略)。また、アッパレール30の基部31の左右の側壁部が内側に変形すると、基部31の側壁部が左右の側部47を内側に変形させるので、左右の下端ストッパ49が当接用突部59aの直上に移動する。
さらにロアレール21及びアッパレール30は、上記の最大変形状態を経た後に、乗客の反動によってアッパレール30がロアレール21に対して下降した最終変形状態になる(
図28、
図29参照)。
上記のようにロアレール21の外壁部23とアッパレール30の立上り壁32との間に形成された左右の空間に位置していたリテーナ55(ベアリングボール56)が下方に滑り落ちると、各ベアリングボール56が(外壁部23、及び)立上り壁32に及ぼしていた支持力が喪失するので、一時的にロアレール21に対して浮き上がった乗客が反動により下方に落ちることによりアッパレール30が下向きに押圧されると、ベアリングボール56による支えを失ったアッパレール30がロアレール21に対して下降する(
図28、
図29参照)。アッパレール30がベアリングボール56による支えを失うタイミングが上記最大変形状態と最終変形状態の間のいずれのタイミングであっても、ロック部51が対応するロック溝28の下端開口から下方に脱落する前に、下端ストッパ49(ロック解除規制手段)の下端が直下に位置する当接用突部59aの上面に当接する。そのため上記正面衝突によってロアレール21とアッパレール30の間のロック状態が不意に解除されてしまうおそれを低減できる。
なお、本実施形態のインナリンフォース45’’の下端ストッパ49及び落下物排出用固定部材57’’(当接用突部59a)も、第1の実施形態と同様に、アッパレール30が後端位置以外の位置に位置する状態で正面衝突が生じた場合においても有効に機能する。
【0032】
以上、第1、及び、第2の実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明は様々な変更を施しながら実施可能である。
例えば、一つのアッパリンフォース12の左右の下向延出部14の後端部に後方延長部15及び後端ストッパ16を形成してもよく、この場合は下向延出部14の後端部が「ロック解除規制手段」として機能する。また、後端ストッパ16のみを省略してもよく、この場合は後方延長部15の後端部が「ロック解除規制手段」として機能する。
また、(左右の、又は、左右いずれかの)下向延出部14の前端部に前方に向かって延びる前方延長部(後方延長部15に対応するもの)及び前端ストッパ(後端ストッパ16に対応するもの。この前端ストッパは省略可能)を形成してもよい。このようにすれば、シートに乗客が着座しているスライドレール装置10のベルトアンカーブラケット19(アンカー固定部19a)に固定したアンカーにシートベルトの係止端部を係止した状態で、アッパレール30を上記前端位置に位置させたときに(前端位置以外でもよい)、スライドレール装置10を搭載した自動車の後部に別の自動車が衝突(後突)することにより、アッパレール30の前部がロアレール21に対して上方に移動してロアレール21(天井部24)の前端部に衝突したときに、ロアレール21とアッパレール30の間のロック状態が不意に解除されてしまうおそれを低減できる。
同様に、ロアレール21(底壁22)の前部に落下物排出用固定部材57’’を固定すれば、スライドレール装置10を搭載した自動車の後部に別の自動車が衝突(後突)することにより、アッパレール30の前部がロアレール21に対して上方に移動してロアレール21(天井部24)の前端部に衝突したときに、ロアレール21とアッパレール30の間のロック状態が不意に解除されてしまうおそれをインナリンフォース45’’の下端ストッパ49と落下物排出用固定部材57’’によって低減できる。
【0033】
また、例えばアッパレール30の一部を切り起こすことにより、下向延出部14、後方延長部15(後端ストッパ16)、又は、下端ストッパ49に相当する部位をアッパレール30に一体的に形成したり、ロアレール21の一部を切り起こすことにより、当接用突部59aに相当する部位をロアレール21に一体的に形成してもよい。
【0034】
ロック部材としてロックバネ50以外のものを利用してもよい。例えば、実質的に弾性を有さず、かつ、ロック部51に相当する部位を有するレバーを「ロック部材」として利用し、バネ等の付勢手段によって、このレバーをロック位置側に回転付勢してもよい。
さらに、リテーナ55及びベアリングボール56の代わりのアッパレール支持手段として別の部材、例えば、立上り壁32の外面と外壁部23の内面にそれぞれ接触する合成樹脂製のシューを利用してもよい。