特許第5944851号(P5944851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944851
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】無機複合ナノ繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20160621BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   D01F9/08 Z
   D01D5/04
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-49634(P2013-49634)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-173214(P2014-173214A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−183132(JP,A)
【文献】 特開2014−034739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D01F 9/08 − 9/32
D04H 1/728
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1無機酸化物の原料である第1曳糸性ゾル溶液と、前記第1無機酸化物とは異なる屈折率を有する第2無機酸化物の原料である第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とを混合して曳糸性混合ゾル溶液を調製する工程、
(2)前記曳糸性混合ゾル溶液を静電紡糸法により紡糸して複合ゲルナノ繊維を作製する工程、
(3)前記複合ゲルナノ繊維を焼成して無機複合ナノ繊維を製造する工程、
とを備える無機複合ナノ繊維の製造方法であり、前記曳糸性混合ゾル溶液の調製を、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液との水素イオン指数を合わせ、ゲル化させることなく実施することを特徴とする、無機複合ナノ繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機複合ナノ繊維の製造方法に関する。本発明の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維は、例えば、フィラー、触媒担体、構造材料、電極材料、フィルタ材料などを構成する素材として使用することができる。特に、本発明の製造方法によれば、屈折率を調節することが容易であるため、透明樹脂シートのフィラーとして好適に使用することができる無機複合ナノ繊維を容易に製造することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、透明樹脂シートの耐衝撃性、引張り強度などの機械的特性や熱膨張抑制などの熱的物性を高めるために、フィラーを添加することが行われている。このようなフィラーにおいては、前記特性付与に加えて、透明樹脂シートの透明性を損なわない必要がある。そのため、フィラーの屈折率を透明樹脂シートの屈折率に合わせることが行われている。
【0003】
例えば、「二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を必須成分として含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有し、各成分の含有量が質量%で表して、45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25であるガラス組成物からなるポリカーボネート樹脂用フィラー」(特許文献1)が提案されている。しかしながら、このフィラーはポリカーボネート樹脂に対してしか適用できないばかりでなく、少なくとも4種の成分を含有しているため、屈折率を調節することが難しいものであると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−132334号公報
【特許文献2】特開2003−73964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
なお、本願出願人は屈折率の調節を意図したものではないが、シリカ原液とアルミナ原液とを配合してゾル溶液を調製し、静電紡糸して繊維化した後、乾燥及び焼結して、シリカーアルミナ焼結極細長繊維からなる無機系構造体を製造したことを開示している(特許文献2)。そのため、この技術を応用して屈折率を調節することが可能であるかどうかを検討したが、屈折率の微調整が困難であり、また、屈折率が均一なシリカーアルミナ焼結極細長繊維を得るのが困難であった。
【0006】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、様々な種類の樹脂シートの屈折率に合う無機複合ナノ繊維を容易に製造することのできる、無機複合ナノ繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)第1無機酸化物の原料である第1曳糸性ゾル溶液と、前記第1無機酸化物とは異なる屈折率を有する第2無機酸化物の原料である第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とを混合して曳糸性混合ゾル溶液を調製する工程、(2)前記曳糸性混合ゾル溶液を静電紡糸法により紡糸して複合ゲルナノ繊維を作製する工程、(3)前記複合ゲルナノ繊維を焼成して無機複合ナノ繊維を製造する工程、とを備える無機複合ナノ繊維の製造方法であり、前記曳糸性混合ゾル溶液の調製を、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液との水素イオン指数を合わせ、ゲル化させることなく実施することを特徴とする、無機複合ナノ繊維の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、屈折率の異なる第1無機酸化物と第2無機酸化物の原料である第1曳糸性ゾル溶液と、第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とを、第1無機酸化物と第2無機酸化物の屈折率に応じて、水素イオン指数を合わせて混合し、ゲル化させることなく調製した曳糸性混合ゾル溶液を静電紡糸すると、所望の屈折率を有する無機複合ナノ繊維を容易に製造できることを見出したのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】静電紡糸装置の模式的断面図
図2】静電紡糸法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した、無機複合ナノ繊維シートにおける無機複合ナノ繊維の配置状態を模式的に表す平面図
図3】静電紡糸法以外の方法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した、無機複合ナノ繊維シートにおける無機複合ナノ繊維の配置状態を模式的に表す平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、まず、(1)第1無機酸化物の原料である第1曳糸性ゾル溶液と、前記第1無機酸化物とは異なる屈折率を有する第2無機酸化物の原料である第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とを混合して、曳糸性混合ゾル溶液を調製する工程を実施する。このように、少なくとも一方、好ましくは両方が曳糸性ゾルの状態で混合することによって、均一に複合化した無機複合ナノ繊維を製造できることを見出した。
【0011】
本発明における第1無機酸化物又は第2無機酸化物は特に限定するものではないが、例えば、次に例示するような金属元素の酸化物で、屈折率の異なる無機酸化物を使用することができる。
【0012】
(金属元素)
リチウム、ベリリウム、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなど。
【0013】
より具体的には、第1無機酸化物又は第2無機酸化物として、SiO、Al、TiO、ZrO、B、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができる。
【0014】
本発明においては、屈折率を調整しやすいように、低屈折率の第1無機酸化物又は第2無機酸化物と、高屈折率の第2無機酸化物又は第1無機酸化物とを選択するのが好ましい。より具体的には、低屈折率の無機酸化物として、二酸化珪素(SiO)を例示でき、高屈折率の無機酸化物として、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)を例示できる。
【0015】
なお、屈折率が1.8以上であるような高屈折率の無機複合ナノ繊維を製造したい場合には、酸化アルミニウムを低屈折率の無機酸化物として考え、酸化チタン(TiO)又は二酸化ジルコニウム(ZrO)を高屈折率の無機酸化物と考えるのが好ましい。
【0016】
本発明における屈折率は、接触液(=屈折液、島津製作所製)を用意するとともに、固形分量が10mass%となるように測定対象物を前記接触液に分散させた分散液を調製する。その後、この接触液及び分散液の、波長587.5nmの入射光における透過率を、分光光度計(UV−VIS)によりそれぞれ測定し、接触液(屈折液)の透過率(Ts)と分散液の透過率(Td)の、次の式で規定される一致率(Ar)が95%以上である時、測定対象物の屈折率は接触液の屈折率と同じ屈折率であるとみなす。
Ar=(Td/Ts)×100
【0017】
本発明の第1曳糸性ゾル溶液又は第2曳糸性ゾル溶液は、前述のような第1無機酸化物又は第2無機酸化物の原料である。つまり、第1曳糸性ゾル溶液又は第2曳糸性ゾル溶液は、第1無機酸化物又は第2無機酸化物を構成する金属元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、10〜100℃の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。
【0018】
前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)及び/又は水であることができる。
【0019】
前述の通り、第1無機酸化物又は第2無機酸化物として、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)又は二酸化ジルコニウム(ZrO)を好適に使用できるが、これらの原料溶液を構成する化合物は、例えば、無機酸化物が二酸化珪素の場合、テトラエトキシシランなどの珪素アルコキシド、無機酸化物が酸化アルミニウムの場合、アルミニウムsec−ブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、無機酸化物が酸化チタンの場合、チタンテトラノルマルブトキシドなどのチタンアルコキシド、無機酸化物が酸化ジルコニウムの場合、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドなどのジルコニウムアルコキシド、をそれぞれ挙げることができる。
【0020】
なお、原料溶液は、縮重合させるために、水及び/又は触媒(例えば、塩酸、硝酸などの酸触媒、又は水酸化テトラブチルアンモニウムなどの塩基触媒)を含んでいることができる。
【0021】
本発明において「曳糸性」とは、以下に示す条件で実際に静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定することができる。
【0022】
(判定法)
アースしたアルミ板に対して水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から、曳糸性を判断する溶液(固形分濃度:20〜50wt%)を押し出す(押出量:0.5〜1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1〜3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端に溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸して、アルミ板上にナノ繊維集合体を形成する。
【0023】
この形成したナノ繊維集合体の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、ナノ繊維の平均繊維径が5μm以下、かつアスペクト比が100以上のナノ繊維集合体を製造できる条件が存在する場合、その溶液を「曳糸性」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、固形分濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、或いはアスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、ナノ繊維集合体を製造できる条件が存在しない場合、その溶液を「非曳糸性」と判断する。
【0024】
他方で、本発明の第2曳糸性ゾル溶液に替えて使用できる金属塩溶液は、前述のような金属元素の塩(例えば、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物など)を含む溶液であれば良い。なお、金属塩溶液における溶媒は金属塩を溶解させることのできる溶媒であれば良く、特に限定するものではないが、水、アルコール類、ケトン類、アミド類(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などを挙げることができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、上述のような第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とを混合して曳糸性混合ゾル溶液を調製するが、この混合時にゲル化してしまうと、均一に混合することができず、屈折率の調整が困難になるだけでなく、繊維を作製することができなくなるため、ゲル化しないように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液との水素イオン指数を合わせた上で混合する。例えば、第1曳糸性ゾル溶液が好適である二酸化珪素の原料である場合、第1曳糸性ゾル溶液は水素イオン指数の変化によってゲル化しやすいため、第1曳糸性ゾル溶液の水素イオン指数と同じか、第1曳糸性ゾル溶液の水素イオン指数よりも小さい水素イオン指数を有する第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液を混合する。より具体的には、第1曳糸性ゾル溶液の水素イオン指数が2である場合、水素イオン指数が2以下である第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液を混合する。しかしながら、水素イオン指数が2を超える第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液を混合してもゲル化しないのであれば、本発明において使用可能である。このように、本発明における「水素イオン指数を合わせる」とは、混合した際に、ゲル化させることなく、曳糸性混合ゾル溶液を調製できる水素イオン指数を意味する。この水素イオン指数は、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液との組合わせ、混合比率等によって異なるため、所望の組合せ、混合比率等で実験を行い、ゲル化させることなく、曳糸性混合ゾル溶液を調製できるかどうかを確認して決定することができる。なお、第1曳糸性ゾル溶液、第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液の水素イオン指数の調節は、第1曳糸性ゾル溶液又は第2曳糸性ゾル溶液を調製する際に使用する触媒の選択、又は酸又は塩基の添加によって、調整することができる。この水素イオン指数はpHメータ(例えば、HORIBA社製)で測定できる。
【0026】
本発明においては、第1曳糸性ゾル溶液に由来する第1無機酸化物と、第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液に由来する第2無機酸化物の混合比率を調節するだけで、無機複合ナノ繊維の屈折率を調節することができるため、容易に所望の屈折率を有する無機複合ナノ繊維を製造することができる。つまり、本発明においては、曳糸性の状態にある第1曳糸性ゾル溶液と、曳糸性の状態にある第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液とをゲル化させることなく混合し、曳糸性混合ゾル溶液を静電紡糸すると、これらを均一に複合できることから、容易に所望の屈折率を有する無機複合ナノ繊維を製造できることを見出した。
【0027】
より具体的には、無機複合ナノ繊維の所望屈折率(n)、第1曳糸性ゾル溶液から得られる第1無機酸化物の屈折率(n)、第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液から得られる第2無機酸化物の屈折率(n)、無機複合ナノ繊維の比重(ρ)、第1曳糸性ゾル溶液から得られる第1無機酸化物の比重(ρ)、第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液から得られる第2無機酸化物の比重(ρ)をもとに、ローレンツの理論式(下記(1)式)と、第1曳糸性ゾル溶液から得られる第1無機酸化物の比重(ρ)、第2曳糸性ゾル溶液から得られる第2無機酸化物の比重(ρ)、及び第1無機酸化物の質量分率(X=1−Y)又は第2無機酸化物の質量分率(Y=1−X)と無機複合ナノ繊維の比重(ρ)との関係式から、無機複合ナノ繊維の所望屈折率(n)と第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の質量分率(Y)との関係式を導き出すことができるため、このような第1無機酸化物と第2無機酸化物の質量分率(X、Y)となるように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液又は金属塩溶液を混合することによって、所望屈折率を有する無機複合ナノ繊維を製造することができる。
【0028】
なお、第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の質量分率(Y)と無機複合ナノ繊維の比重(ρ)との関係式は、(1)所望無機複合ナノ繊維を製造する際と同じ焼成温度で製造した時の第1無機酸化物からなる繊維の比重(ρ)、(2)所望無機複合ナノ繊維を製造する際と同じ焼成温度で製造した時の第2無機酸化物からなる繊維の比重(ρ)、(3)所望無機複合ナノ繊維を製造する際と同じ焼成温度で製造した時の、任意の質量分率の第1無機酸化物及び第2無機酸化物からなる繊維の比重(ρ)をもとに、[比重:ρ、ρ、ρ]と[第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の重量比(Y))]をプロットしたグラフをもとに、Microsoft Office Excel(商品名称)の近似式算出機能を利用して、導き出すことができる。
【0029】
なお、第1無機酸化物の比重(ρ)、第2無機酸化物の比重(ρ)及び無機複合ナノ繊維の比重(ρ)は、乾式自動密度計(株式会社島津製作所製、アキュピックII)で測定した密度と1気圧4℃の純水の密度との比より算出することができる。
【0030】
例えば、屈折率がnの二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維(焼成温度:800℃)を、二酸化珪素[屈折率(n):1.46(波長:500nm時)、比重(ρ)=2.01g/cm]の原料である第1曳糸性ゾル溶液と、二酸化ジルコニウム[屈折率(n):2.21(波長:500nm時)、比重(ρ)=5.71g/cm]の原料である第2曳糸性ゾル溶液をもとに製造する場合、二酸化ジルコニウムの質量分率(Y)と無機複合ナノ繊維の比重(ρ)との関係式は、実験により測定した比重[ρ、ρ、ρ]と[第2無機酸化物の重量比(Y))]をプロットしたグラフをもとに、Microsoft Office Excel(商品名称)の近似式算出機能を利用して、次の式(2)を導き出すことができる。
ρ=3.6955Y+2.0124 式(2)
【0031】
そのため、式(2)とローレンツの理論式から、二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維の屈折率(n)と二酸化ジルコニウムの質量分率(Y)との関係式を、屈折率[n、n、n]と[第2無機酸化物の重量比(Y))]をプロットしたグラフをもとに、Microsoft Office Excel(商品名称)の近似式算出機能を利用して、次の式(3)を導き出すことができる。
n=0.7427Y+1.4695 式(3)
【0032】
したがって、例えば、ポリアクリロニトリルと同じ屈折率である屈折率(n)が1.51の二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維を製造する場合には、前記式(3)を満たすような、二酸化珪素及び二酸化ジルコニウムの重量比となるように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液とを混合して曳糸性混合ゾル溶液を調製すれば、屈折率が1.51の二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維を製造することができる。この場合、(二酸化珪素)対(二酸化ジルコニウム)の重量比が0.945:0.055となるように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液とを混合して曳糸性混合ゾル溶液を調製すれば、屈折率が1.51の二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維を製造することができる。
【0033】
以上の例示は二酸化珪素/二酸化ジルコニウム複合ナノ繊維を製造する場合に関してであるが、他の金属酸化物の組合せからなる複合ナノ繊維を製造する場合も同様に、第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の質量分率(Y)と無機複合ナノ繊維の比重(ρ)との関係式を求めた後、この関係式とローレンツの理論式から、無機複合ナノ繊維の屈折率(n)と第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の質量分率(Y)との関係式を導き出すことができる。そのため、この無機複合ナノ繊維の屈折率(n)と第1無機酸化物の質量分率(X)又は第2無機酸化物の質量分率(Y)との関係式をもとに、無機複合ナノ繊維の屈折率(n)として、所望の屈折率を想定すれば、第1無機酸化物の質量分率(X)及び第2無機酸化物の質量分率(Y=1−X)を算出することができる。
【0034】
以上から理解できるように、第1無機酸化物が低屈折率の二酸化珪素(SiO)からなり、第2無機酸化物が高屈折率の二酸化チタン(TiO)である場合には、無機複合ナノ繊維の屈折率を二酸化珪素の屈折率に相当する1.46程度(波長:500nm)から、二酸化チタンの屈折率に相当する2.4程度(波長:500nm)までの、広範囲にわたって屈折率を調整することが可能である。
【0035】
このように調製した曳糸性混合ゾル溶液は静電紡糸しやすいように、粘度が10mPa〜10Pa・sであるのが好ましく、50mPa〜5Pa・sであるのがより好ましく、100mPa〜3Pa・sであるのが更に好ましい。粘度が10Pa・sを超えると、細い複合ゲルナノ繊維を紡糸することが困難となり、10mPa・s未満になると、繊維形状自体が得られなくなる傾向があるためである。なお、静電紡糸する際にノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を曳糸性混合ゾル溶液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、10Pa・sを超える曳糸性混合ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0036】
なお、曳糸性混合ゾル溶液は有機成分を含んでいても良い。例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、接着性、柔軟性又は硬度(もろさ)を調整できるポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物、化合物を安定化させるキレート剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物などを含んでいても良い。より具体的には、前記第1曳糸性ゾル溶液又は第2曳糸性ゾル溶液の原料溶液に含まれる化合物がシラン系化合物である場合には、メチル基やエポキシ基で有機修飾されたシラン系化合物が縮重合したものを含んでいても良い。このような有機成分は、縮重合を行う前、縮重合を行う際、縮重合後に添加することができる。また、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液とを混合する際、又は混合後に添加することができる。
【0037】
また、前記曳糸性混合ゾル溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、細胞親和性、触媒機能、タンパク質吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。
【0038】
次いで、(2)前述の曳糸性混合ゾル溶液を静電紡糸法により紡糸して複合ゲルナノ繊維を作製する工程を実施する。この静電紡糸法は公知の方法であり、曳糸性混合ゾル溶液に対して電界を作用させることにより、曳糸性混合ゾル溶液を延伸し、繊維化できる。静電紡糸法について、特開2005−194675号公報に開示の静電紡糸装置の模式的断面図である図1をもとに、簡単に説明する。
【0039】
図1の静電紡糸装置は、曳糸性混合ゾル溶液(紡糸原液)をノズル2へ供給できる紡糸原液供給装置1、紡糸原液供給装置1から供給された紡糸原液を吐出するノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された複合ゲルナノ繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
【0040】
このような静電紡糸装置の場合、曳糸性混合ゾル溶液(紡糸原液)は紡糸原液供給装置1によってノズル2へ供給される。この供給された紡糸原液はノズル2から吐出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する。そして、この飛翔した複合ゲルナノ繊維を、直接、捕集体3上に集積する。
【0041】
なお、紡糸原液供給装置1としては、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。また、ノズル2に替えて、ノコギリ状歯車、ワイヤー、スリットなどを使用し、曳糸性混合ゾル溶液(紡糸原液)を紡糸空間へ供給することができる。更に、図1における捕集体3はドラム形態であるが、コンベア形態であっても良い。更に、図1においては、捕集体3がアースされているが、ノズル2をアースし、捕集体3に対して電圧を印加しても良いし、ノズル2と捕集体3のいずれに対しても電圧を印加するものの、電位差を有するように電圧を印加しても良い。
【0042】
更に、電圧印加装置4としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができ、空気の絶縁破壊を生じることなく、紡糸原液を紡糸して繊維化できるように、電界強度が0.2〜5kV/cmとなるように印加するのが好ましい。また、印加する電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良いが、複合ゲルナノ繊維の拡がりを抑制し、複合ゲルナノ繊維が均一に分散するように、曳糸性混合ゾル溶液(紡糸原液)の特性に合わせて適宜、極性を選択する。
【0043】
図1の静電紡糸装置においては、紡糸容器6に気体供給装置7(例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、温湿度調整機能を備えた送風機など)及び排気装置8(例えば、ファン)が接続されており、紡糸容器6内の雰囲気を一定にすることができるため、繊維径の揃った複合ゲルナノ繊維を作製することができる。
【0044】
そして、(3)前述の複合ゲルナノ繊維を焼成し、無機複合ナノ繊維を製造する工程を実施して、無機複合ナノ繊維を製造することができる。この焼成は従来から公知の方法により実施することができ、例えば、オーブン、焼結炉等を用いて実施することができる。その焼成温度、時間は複合ゲルナノ繊維を構成する無機成分によって適宜設定する。なお、無機複合ナノ繊維を構成する無機酸化物として、二酸化珪素、酸化チタン又は二酸化ジルコニウムを含む場合には、温度300℃程度で1時間程度、仮焼成を行って有機成分を焼き飛ばした後に、温度800℃程度で2時間程度、本焼成を行うのが好ましい。
【0045】
本発明の製造方法により無機複合ナノ繊維を製造した場合、静電紡糸法により複合ゲルナノ繊維を形成し、捕集体で捕集する際に、複合ゲルナノ繊維同士が接着して、複合ゲルナノ繊維がランダムに分散した繊維シート形態となりやすいため、これを焼成して製造した無機複合ナノ繊維も繊維シート形態となりやすい。そのため、本発明の無機複合ナノ繊維を繊維シート形態で使用する場合には特に問題はないが、個々の無機複合ナノ繊維からなる短繊維(例えば、フィラー)として使用する場合には、個々の無機複合ナノ繊維となるように粉砕する必要がある。このように、個々の無機複合ナノ繊維となるように粉砕する場合、無機複合ナノ繊維の繊維長が揃っている必要がないのであれば、乳鉢を使用する方法、ボールミルを使用する方法など、従来から公知の方法により粉砕すれば良いが、フィラーとして使用する場合のように、樹脂シートの機械的特性及び熱的物性を均一に高めるのが好ましい場合には、無機複合ナノ繊維の繊維長が揃っているのが好ましい。このような繊維長の揃った無機複合ナノ繊維は、例えば、無機複合ナノ繊維シートをプレス機により加圧し、粉砕して得ることができる。
【0046】
つまり、静電紡糸法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した無機複合ナノ繊維シートは平均孔径が小さく、しかも孔径の揃った、無機複合ナノ繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃った状態にあるため、この状態の無機複合ナノ繊維シートに対して、無機複合ナノ繊維の配向を変動させないように、プレス機により加圧すると、無機複合ナノ繊維同士の交差点が強く加圧され、無機複合ナノ繊維は剛性が高く、変形しにくいことも相俟って、無機複合ナノ繊維同士の交差点で破断されやすいため、繊維長が短く、かつ繊維長の揃った無機複合ナノ繊維を製造できる。つまり、無機複合ナノ繊維同士の交差点は無機複合ナノ繊維同士が重なって、微視的には、無機複合ナノ繊維シートの厚さが厚くなった箇所に相当するため、プレス機による圧力は無機複合ナノ繊維同士の交差点に対して優先的に作用する。したがって、繊維長が短く、かつ繊維長の揃った無機複合ナノ繊維を製造できる。
【0047】
この点について、静電紡糸法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した無機複合ナノ繊維シートにおける無機複合ナノ繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図2と、静電紡糸法以外の方法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した無機複合ナノ繊維シートにおける無機複合ナノ繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図3をもとに説明すると、例えば、図2に示すように、静電紡糸法に作製した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した無機複合ナノ繊維シートは、無機複合ナノ繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃った状態にある。また、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5では、2本の無機複合ナノ繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図2の無機複合ナノ繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5に対して優先的に圧力が加わり、無機複合ナノ繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5で無機複合ナノ繊維が破断する。そのため、平均繊維長が短く(100μm未満)、繊維長のCV値の揃った(0.7以下)無機複合ナノ繊維を製造することができる。
【0048】
これに対して、図3における、静電紡糸法以外の方法により形成した複合ゲルナノ繊維シートを焼成した無機複合ナノ繊維シートは、無機複合ナノ繊維同士の交差点間の距離のバラツキが大きい状態にある。また、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5では、2本の無機複合ナノ繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図3の無機複合ナノ繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5に対して優先的に圧力が加わり、無機複合ナノ繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5で無機複合ナノ繊維が破断する。そのため、繊維長のCV値の揃った(0.7以下)無機複合ナノ繊維を製造することができない。
【0049】
なお、プレス機によりプレスする際の加圧力は、繊維長の揃った(CV値:0.7以下)無機複合ナノ繊維を製造することができる限り、特に限定するものではなく、実験により、繊維長のCV値を確認し、適切な加圧力を選択する。
【0050】
図2、3においては、無機複合ナノ繊維シートにおける無機複合ナノ繊維の配置状態を模式的に表しており、無機複合ナノ繊維同士の交差点が2本の無機複合ナノ繊維が交差した状態を表しているが、実際には、3本の無機複合ナノ繊維が交差した交差点もあれば、4本以上の無機複合ナノ繊維が交差した交差点もあるため、交差点によって、厚さが異なる。そのため、無機複合ナノ繊維の交差数の多い交差点ほど、強い圧力が作用するため、弱い圧力を作用させた場合には、無機複合ナノ繊維の交差数の多い交差点で無機複合ナノ繊維が粉砕し、作用させる圧力を強くするにしたがって、無機複合ナノ繊維の交差数の少ない交差点でも無機複合ナノ繊維が粉砕することになる。そのため、作用させる圧力によって、ある程度、無機複合ナノ繊維の繊維長を制御できる。また、静電紡糸法によれば、繊維径の揃った複合ゲルナノ繊維を紡糸でき、結果として、繊維径の揃った無機複合ナノ繊維を製造できる。そのため、プレス機により加圧して粉砕すると、アスペクト比(繊維長/繊維径)を制御できる。
【0051】
本発明の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維は所望の屈折率を有するものであるため、透明樹脂のフィラーとして使用することによって、透明樹脂の透明性を損なうことなく、耐衝撃性、引張り強度などの機械的特性や熱膨張抑制などの熱的物性を高めることができる。なお、無機複合ナノ繊維と樹脂との親和性を高めるために、無機複合ナノ繊維表面をシランカップリング剤などの表面処理剤によって、改質するのが好ましい。
【0052】
なお、本発明の無機複合ナノ繊維の製造方法においては、静電紡糸法により複合ゲルナノ繊維を作製しているため、結果として得られる無機複合ナノ繊維の平均繊維径は2μm以下であることができる。平均繊維径が小さければ小さい程、より薄膜化した樹脂シートに対応できるなど、近年の軽薄短小化に対応できるため、無機複合ナノ繊維の平均繊維径は1μm以下であるのが好ましい。平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当であり、0.05μm以上であるのが好ましい。本発明における「平均繊維径」は繊維50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は繊維を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、繊維の長さ方向に対して直交する方向における長さをいう。
【0053】
また、本発明の製造方法で製造した無機複合ナノ繊維をプレス機により加圧して粉砕した場合、従来の繊維切断装置では得ることのできなかった100μm未満という平均繊維長であることができる。そのため、薄く、均一な物性を有する樹脂シートを形成することができる。例えば、従来は困難であった、厚さが100μm未満であるような、薄膜化した樹脂シートのフィラーとして使用したとしても、樹脂シートからフィラーが突出しにくいため、実用上問題なく使用できる。この平均繊維長は無機複合ナノ繊維の使用用途によって変化するため、特に限定するものではないが、95μm以下であることができ、90μm以下であることができ、85μm以下であることができ、80μm以下であることができる。一方で、無機複合ナノ繊維の平均繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1μmが適当である。この「平均繊維長」は繊維50本における繊維長の算術平均値をいい、「繊維長」は繊維を撮影した500〜5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、繊維の長さ方向における長さをいう。
【0054】
更に、本発明の無機複合ナノ繊維をプレス機により加圧して粉砕した場合、繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃っており、品質が安定したものであることができる。そのため、薄く、均一な物性を有する樹脂シートを形成することができる。例えば、薄膜化した樹脂シートのフィラーとして使用した場合であっても、品質の安定した樹脂シートを作製することができる。この繊維長のCV値が小さければ小さい程、繊維長が揃っていることを意味するため、繊維長のCV値は0.6以下であるのが好ましく、0.5以下であるのがより好ましく、0.4以下であるのが更に好ましく、0.3以下であるのが更に好ましく、理想としては0である。この繊維長のCV値は、繊維長の標準偏差を平均繊維長で除した値、つまり、(繊維長の標準偏差/平均繊維長)である。なお、「標準偏差」は平均繊維長測定時の繊維50本の繊維長から得られる値である。
【0055】
本発明の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維は所望屈折率を有するものであることができるため、透明樹脂の補強材として使用することができる。前述の通り、本発明の無機複合ナノ繊維は平均繊維径が2μm以下と細く、平均繊維長が100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下の繊維長の揃った無機複合ナノ繊維であることができるため、この無機複合ナノ繊維を含む透明樹脂複合体は透明であるのは勿論のこと、均一な物性を有することができる。
【0056】
なお、透明樹脂と無機複合ナノ繊維との複合体の形態は用途によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、シート状形態、直方体、円柱、角柱、円錐、角錐などの立体的形態であることができる。特に、無機複合ナノ繊維の平均繊維長が100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下の繊維長の揃った無機複合ナノ繊維である場合には、厚さ100μm未満の薄膜化した透明樹脂膜であっても、無機複合ナノ繊維が表面から突出しにくいため、実用上問題のない複合透明樹脂膜である。なお、このような複合体は常法により製造することができる。例えば、無機複合ナノ繊維とマトリックス樹脂とを混合し、成形して製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下、具体例によって本発明を説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
ポリアクリロニトリル樹脂の屈折率(1.51)となるように、次の手順により、無機複合ナノ繊維を製造した。
【0059】
まず、オルトケイ酸テトラエチル、水及び塩酸を1:2:0.0025のモル比で混合し、温度80℃で15時間加熱撹拌した。そして、エバポレータにより、シリカ濃度が45wt%になるまで濃縮した後、粘度が200〜300mPa・sになるまで増粘させて、第1曳糸性シリカゾル溶液[水素イオン指数(pH)=2.00、シリカの屈折率:1.46、シリカの比重:2.01g/cm]を得た。
【0060】
一方で、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド[Zr(OnBu)]、アセト酢酸エチル、塩化ヒドラジニウム、水を1:1.75:0.02:1.5のモル比で混合し、室温下3日間攪拌した。そして、エバポレータにより、ジルコニア濃度が30wt%になるまで濃縮した後、粘度が2100〜2700mPa・sになるまで増粘させて、第2曳糸性ジルコニアゾル溶液[水素イオン指数(pH)=2.00、ジルコニアの屈折率:2.21、ジルコニアの比重:5.71g/cm]を得た。
【0061】
次いで、シリカ−ジルコニア複合ナノ繊維を800℃で焼成した場合の、シリカ−ジルコニア複合ナノ繊維の屈折率(n)と二酸化ジルコニウムの質量分率(Y)との関係式は、式(4)であったことから、(二酸化珪素)対(二酸化ジルコニウム)の質量分率が0.945:0.055となるように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液とを混合して、ゲル化させることなく曳糸性混合ゾル溶液を調製した。
n=0.7427Y+1.4695 式(4)
【0062】
続いて、この曳糸性混合ゾル溶液を、図1のような静電紡糸装置を用い、次の紡糸条件で紡糸して複合ゲルナノ繊維を作製した後、次の焼成条件で焼成して、平均繊維径1μmのシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維シートを製造した。
【0063】
(紡糸条件)
・シリンジポンプから供給された曳糸性混合ゾル溶液のノズルからの吐出量:0.5g/時間
・ノズル内径:0.33mm
・捕集体(アース):ステンレス製ドラム(外径:35cm)
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器:アクリル樹脂製立方体容器(一辺:1m)、排気口あり
・紡糸容器内の温湿度:25℃/25%RHの空気を温湿度調湿機により供給
・直流高電圧発生装置によるノズルへの印加電圧:+10kV
(焼結炉での焼成条件)
・800℃/2時間
【0064】
次いで、このシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維シートを約1g量取り、シリカ−ジルコニア複合ナノ繊維シートを重ねて約1.5cmの厚さとした後、プレス機により、2MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1μm、平均繊維長100μm、繊維長のCV値0.294、アスペクト比100、屈折率1.51(屈折液との一致率:97%)のシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維を得た。
【0065】
<実施例2>
ポリイミド樹脂の屈折率(1.56)となるように、実施例1と同様の関係式から、(二酸化珪素)対(二酸化ジルコニウム)の質量分率が0.878:0.122となるように、第1曳糸性ゾル溶液と第2曳糸性ゾル溶液とを混合して、ゲル化させることなく曳糸性混合ゾル溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均繊維径1μm、平均繊維長100μm、繊維長のCV値0.265、アスペクト比100、屈折率1.56(屈折液との一致率:97%)のシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維を得た。
【0066】
<実施例3>
ポリアクリロニトリル樹脂の屈折率(1.51)となるように、次の手順により、無機複合ナノ繊維を製造した。
【0067】
つまり、実施例1と同様にして、曳糸性混合ゾル溶液を調製した後、この曳糸性混合ゾル溶液の無機酸化物となる固形分量と、ポリビニルピロリドン、及びN,N−ジメチルホルムアミドとの質量比率が、3:1:16となるように混合して調製した、希釈化曳糸性混合ゾル溶液を紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして、平均繊維径200nm、平均繊維長20μm、繊維長のCV値0.288、アスペクト比100、屈折率1.51(屈折液との一致率:97%)のシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維を得た。
【0068】
<比較例1>
ポリアクリロニトリル樹脂の屈折率(1.51)となるように、次の手順により、無機複合ナノ繊維を製造した。
【0069】
まず、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド:オルトケイ酸テトラエチル:アセト酢酸エチル:塩酸:水:2−プロパノールを、0.067:1:0.134:0.0025:1:25のモル比で混合し、室温で3日間撹拌した後、シリカージルコニア複合酸化物に換算した濃度が30wt%となるように濃縮して、曳糸性シリカージルコニアゾル溶液を得た。なお、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドとオルトケイ酸テトラエチルが無機原料、アセト酢酸エチルが配位子、塩酸が触媒として、それぞれ機能する。
【0070】
続いて、この曳糸性シリカージルコニアゾル溶液を紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして、平均繊維径500nm、平均繊維長50μm、繊維長のCV値0.243、アスペクト比100、屈折率1.50(屈折液との一致率:96%)のシリカ−ジルコニア複合ナノ繊維を得た。
【0071】
<比較例2>
実施例1と同様にして、第1曳糸性シリカゾル溶液を調製した後、この第1曳糸性シリカゾル溶液の無機酸化物となる固形分量と、ポリビニルピロリドン、及びN,N−ジメチルホルムアミドとの質量比率が、3:1:16となるように混合して調製した、希釈化曳糸性混合ゾル溶液を紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして、平均繊維径200nm、平均繊維長20μm、繊維長のCV値0.164、アスペクト比100、屈折率1.46のシリカナノ繊維を得た。
【0072】
<透過率の測定1>
実施例1、3及び比較例1の複合ナノ繊維又は比較例2のシリカナノ繊維を、ポリアクリロニトリル溶液(SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000、固形分濃度:15%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)にそれぞれ混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、複合シート(複合ナノ繊維量:ポリアクリロニトリル樹脂の固形分量の10%)をそれぞれ製造した。そして、これら複合シートの波長500nmの入射光における透過率を、分光光度計(UV−VIS)によりそれぞれ測定した。この測定結果は表1に示す通りであった。
【0073】
なお、複合ナノ繊維を混合することなく製膜したポリアクリロニトリル樹脂シート(PAN樹脂シート、SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000)の透過率は91%であった。
【0074】
また、参考として、ポリアクリロニトリル溶液に、シリカ粒子(登録商標:アドマファイン、株式会社アドマッテクス社製、平均粒子径:250nm)を10mass%混合して製膜した複合シートを<参考例>として、表1に併記した。
【0075】
【表1】
【0076】
<透過率の測定2>
実施例2の複合ナノ繊維を、透明ポリイミド溶液(固形分濃度:10%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥し、更に温度270℃で30分間乾燥して、複合シート(複合ナノ繊維量:透明ポリイミド樹脂の固形分量の10%)を製造した。そして、この複合シートの波長500nmの入射光における透過率を、分光光度計(UV−VIS)により測定した。
【0077】
この測定の結果、複合シートの透過率は82%であった。なお、複合ナノ繊維を混合することなく製膜したポリイミド樹脂シートの透過率は89%であった。
【0078】
以上の透過率の測定1、2から、本発明の無機複合ナノ繊維の製造方法によれば、所望の屈折率を有する無機複合ナノ繊維を製造することができるため、透明樹脂と複合した場合には、透明樹脂が本来有する透明性を損なわないことがわかった。
【0079】
<平均線膨張係数の測定>
実施例1の複合ナノ繊維(平均繊維径:1μm)を、ポリアクリロニトリル溶液(SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000、固形分濃度:15%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、それぞれ複合シートA(5mass%混合)、複合シートB(10mass%混合)を作製した。
【0080】
また、実施例3の複合ナノ繊維(平均繊維径:200nm)を、ポリアクリロニトリル溶液(SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000、固形分濃度:15%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、それぞれ複合シートC(5mass%混合)、複合シートD(10mass%混合)を作製した。
【0081】
更に、シリカ粒子(登録商標:アドマファイン、株式会社アドマッテクス社製、平均粒子径:250nm)を、ポリアクリロニトリル溶液(SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000、固形分濃度:15%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、それぞれ複合シートE(5mass%混合)、複合シートF(10mass%混合)を作製した。
【0082】
更に、シリカ粒子(登録商標:アドマファイン、株式会社アドマテックス社製、平均粒子径:1μm)を、ポリアクリロニトリル溶液(SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000、固形分濃度:15%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、それぞれ複合シートG(5mass%混合)、複合シートH(10mass%混合)を作製した。
【0083】
その後、複合シートA〜Hの平均線膨張係数をJIS K 7197に規定するTMA法により、次の条件により測定した。なお、複合ナノ繊維又はシリカ粒子を混合することなく製膜したポリアクリロニトリル樹脂シート(PAN樹脂シート、SIGMA−ALDRICH製、平均分子量:150,000)の平均線膨張係数も測定した。これらの結果は表2に示す通りであった。
【0084】
測定条件:30℃〜100℃
昇温速度:5℃/min.
サンプルサイズ:膜厚20μm、幅5mm、長さ10mm
【0085】
【表2】
【0086】
以上の平均線膨張係数の測定から、本発明の無機複合ナノ繊維の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維を透明樹脂と複合した場合には、透明樹脂の平均線膨張係数を下げることができ、透明樹脂の熱的物性を改善できることがわかった。
【0087】
<引張強度の測定>
実施例1の複合ナノ繊維(平均繊維径:1μm)を、ポリイミド溶液(固形分濃度:10%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、更に温度270℃で30分間乾燥して、それぞれ複合シートI(5mass%混合)、複合シートJ(10mass%混合)を作製した。
【0088】
また、シリカ粒子(登録商標:アドマファイン、株式会社アドマッテクス社製、平均粒子径:1μm)を、透明ポリイミド溶液(固形分濃度:10%、溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)に対して、固形分で5mass%又は10mass%となるように混合し、脱泡機で10分間攪拌(回転数:2000rpm)した後、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で90分間乾燥して、更に温度270℃で30分間乾燥して、それぞれ複合シートK(5mass%混合)、複合シートL(10mass%混合)を作製した。
【0089】
その後、複合シートI〜Lの引張り強度を、引張り試験機(オリエンテック製、UCT−100)を用いて、次の条件により測定した。なお、複合ナノ繊維又はシリカ粒子を混合することなく製膜した透明ポリイミド樹脂シート(PIシート)の引張り強度も測定した。これらの結果は表3に示す通りであった。
【0090】
(測定条件)
チャック間:5cm
引張り速度:50mm/min.
(サンプルサイズ)
幅5mm、長さ7cm、厚さ20μm
【0091】
【表3】
【0092】
以上の引張り強さの測定から、本発明の無機複合ナノ繊維の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維を透明樹脂と複合した場合には、透明樹脂の引張り強さを高めることができ、透明樹脂の機械的強度を改善できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の無機複合ナノ繊維の製造方法によれば、所望の屈折率を有する無機複合ナノ繊維を製造することができる。また、シート状の無機複合ナノ繊維を、プレス機により破断した場合には、平均繊維径2μm以下、平均繊維長100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃った無機複合ナノ繊維を製造することができる。本発明の製造方法により製造した無機複合ナノ繊維は透明樹脂シートの透明性を損なうことなく、透明樹脂シートの機械的特性や熱的物性を高めることができるため、フィラーとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 紡糸原液供給装置
2 ノズル
3 捕集体
4 電圧印加装置
5 紡糸空間
6 紡糸容器
7 気体供給装置
8 排気装置
a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6、e1〜e5 繊維同士の交差点
A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6、E1〜E5 繊維同士の交差点
図1
図2
図3