【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、イットリウム化合物に被覆された水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを有する負極板を備えるニッケル水素蓄電池の製造方法であって、水素吸蔵合金粉末と上記Y
2O
3粉末とを混合した混合物を基材に塗工して負極板を作製する負極板作製工程と、作製した上記負極板をセパレータを介して正極板と積層して電極体を作製する電極体作製工程と、上記電極体を内部に収容した電池ケース内にアルカリ電解液を注液する注液工程と、を備え、上記負極板作製工程は、上記Y
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークの半価幅と上記混合物における上記Y
2O
3粉末の添加割合との第1積が0.03〜0.17deg・wt%となる添加割合で、上記水素吸蔵合金粉末と上記Y
2O
3粉末とを混合した上記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法
も好ましい。
【0007】
ところで、水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを混合した混合物において、添加するY
2O
3粉末の添加割合を一定とした場合、負極板に含まれるY
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークについての半価幅(deg)と、これを所定条件下でアルカリ電解液に浸漬した場合に溶出したイットリウムイオンの濃度との間に正の相関関係があることが判ってきた。即ち、Y
2O
3粉末の上述の半価幅が大きいほど、ニッケル水素蓄電池において電解液中に溶出したイットリウムイオンの濃度が高くなる。また、混合物中のY
2O
3粉末の添加量(添加割合)が増えるほど、アルカリ電解液中に溶出したイットリウムイオンの濃度が高くなる。
加えて、アルカリ電解液中に溶出したイットリウムイオンの濃度が高いほど、水素吸蔵合金粉末の表面に析出する水酸化イットリウムの析出量が多くなると考えられる。
【0008】
従って、Y
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークについての半価幅と、混合物におけるY
2O
3粉末の添加割合とを掛けた上述の第1積は、電池において、Y
2O
3粉末からアルカリ電解液中に溶出したイットリウムイオンの濃度、さらには水素吸蔵合金粉末上に析出する水酸化イットリウムの析出量と正の相関を示すことが判ってきた。
【0009】
また別途、上述の第1積と、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性との関係、及び、電池の内部抵抗との関係についてそれぞれ調査した。すると、この第1積が0.03deg・wt%以下では、第1積が増大するのと共に、ニッケル水素蓄電池における水素吸蔵合金粉末の耐蝕性も向上する。しかし、第1積が0.03deg・wt%以上になると、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性はほぼ一定になることが判ってきた。
一方、ニッケル水素蓄電池における内部抵抗は、第1積が増大すると徐々に増大することが判ってきた。
【0010】
上述の知見によれば、第1積が0.03deg・wt%よりも小さいと、イットリウム化合物が水素吸蔵合金粉末上に十分被覆されず水素吸蔵合金粉末の耐蝕性が低くなり、負極板ひいては電池の耐久性が低下してしまうため好ましくない。一方、第1積が0.17deg・wt%より大きいと、電池の内部抵抗が急激に大きくなってしまい好ましくない。これは、イットリウム化合物の膜厚が大きくなり過ぎて、拡散抵抗が増大するためと考えられる。
これに対し、前述のニッケル水素蓄電池の製造方法では、負極板作製工程において、第1積が0.03〜0.17deg・wt%となる添加割合で、水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを混合した混合物を用いる。従って、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させ、かつ、電池の内部抵抗の増大を適切に抑えた電池を製造することができる。
【0011】
なお、「水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを混合した混合物を基材に塗工して負極板を作製する」手法として、例えば、水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを混合した混合物に水を加えてできたペーストを、パンチングメタル等の導電性を有する基材に塗着し乾燥して、これらをプレスした後、所定の寸法に切断する手法が挙げられる。
また、Y
2O
3粉末の(222)面のピークについての半価幅とは、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θが28〜30degの付近に現れるピークについての半価幅をいう。
【0012】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記負極板作製工程では、前記第1積が0.03〜0.12deg・wt%となる添加割合で、前記水素吸蔵合金粉末と前記Y
2O
3粉末とを混合した前記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法とするのが好ましい。
後述するように、第1積が0.12deg・wt%を超えると、内部抵抗が増大し始める。これに基づいて、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法では、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させると共に、電池の内部抵抗の増大を確実に抑えた電池を製造することができる。
【0013】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記負極板作製工程は、前記第1積が0.03〜0.09deg・wt%となる添加割合で、前記水素吸蔵合金粉末と前記Y
2O
3粉末とを混合した前記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法とすると良い。
【0014】
上述のニッケル水素蓄電池の製造方法のうち負極板作製工程では、第1積を0.03〜0.09deg・wt%とする。これにより、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させると共に、電池の内部抵抗の増大を確実に抑えた(具体的には、Y
2O
3粉末を含まない負極板を用いた電池よりも内部抵抗値を1.5%以内の増加に抑えた)電池を製造することができる。
【0015】
さらに、本発明
の一態様は、イットリウム及びイッテルビウムの少なくともいずれかの元素Mの化合物に被覆された水素吸蔵合金粉末と、上記元素Mを含むM
2O
3粉末と、を有する負極板を備えるニッケル水素蓄電池の製造方法であって、水素吸蔵合金粉末と上記M
2O
3粉末とを混合した混合物を基材に塗工して負極板を作製する負極板作製工程と、作製した上記負極板をセパレータを介して正極板と積層して電極体を作製する電極体作製工程と、上記電極体を内部に収容した電池ケース内にアルカリ電解液を注液する注液工程と、を備え、上記負極板作製工程は、上記M
2O
3粉末2.2mmolを、6.8mol/lの水酸化カリウム水溶液50mlに投入し撹拌して、45℃下で168時間静置した後の上澄み液における上記元素Mのイオンの濃度を標準溶解濃度とした場合、上記標準溶解濃度と上記混合物における上記M
2O
3粉末の添加割合との第2積が0.014〜0.082mmol/l・wt%となる添加割合で、上記水素吸蔵合金粉末と上記M
2O
3粉末とを混合した上記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法である。
【0016】
ところで、同じ希土類元素であるイットリウムとイッテルビウムとは、互いに似た化学的性質を有している。
具体的には、Y
2O
3粉末をなすイットリウムイオンと同様、Yb
2O
3粉末をなすイッテルビウムイオンもまた、その一部がアルカリ電解液に一旦溶出し、その後、水素吸蔵合金粉末の表面に、主に水酸化イッテルビウムのイッテルビウム化合物として析出して、この表面を被覆する。これにより水素吸蔵合金粉末の腐食を抑制できる。なお、Yb
2O
3粉末からアルカリ電解液に溶出したイッテルビウムイオンの濃度が高いほど、水素吸蔵合金粉末上に析出するイッテルビウム化合物の析出量は多くなる。
また、イットリウム化合物と同様に、水素吸蔵合金粉末の表面を被覆するイッテルビウム化合物も電池の抵抗成分となるため、水素吸蔵合金粉末の表面を被覆するイッテルビウム化合物の析出量が多くなるほど、電池の内部抵抗が増大する。
なお、イットリウム及びイッテルビウムの少なくともいずれかの元素Mを含むM
2O
3粉末から所定条件のアルカリ性水溶液に溶出する元素Mのイオンの溶出のしやすさを標準溶解濃度(mol/l)で評価することとする。この標準溶解濃度とは、6.8mol/lの水酸化カリウム水溶液である標準アルカリ性水溶液50ml中に、M
2O
3粉末を2.2mmol投入し攪拌して、45℃下で168時間静置した後の上澄み液について、ICP発光分光分析法を用いて測定したイットリウムイオン及びイッテルビウムイオンの濃度をいう。
【0017】
一方、電池において、混合物中のM
2O
3粉末の添加量(添加割合)が増えるほど、アルカリ電解液中に溶出した元素Mのイオンの濃度が高くなり、水素吸蔵合金粉末上に析出する元素Mの水酸化物の析出量が多くなる。
従って、上述の標準溶解濃度と、混合物におけるM
2O
3粉末の添加割合とを掛けた上述の第2積は、電池において、アルカリ電解液中に溶出した元素Mのイオンの濃度、及び、水素吸蔵合金粉末上に析出する元素Mの水酸化物の析出量と正の相関を示すことが判ってきた。
加えて、上述の第2積と、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性との関係、及び、電池の内部抵抗との関係についてそれぞれ調査した。この第2積が0.014mmol/l・wt%になるまでは第2積が増大するのと共に、ニッケル水素蓄電池における水素吸蔵合金粉末の耐蝕性も向上する。しかし、第2積が0.014mmol/l・wt%以上になると、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性はほぼ一定になることが判ってきた。一方、ニッケル水素蓄電池の内部抵抗は、第2積が増大すると徐々に増大することが判ってきた。
【0018】
上述の知見によれば、第2積が0.014mmol/l・wt%よりも小さいと、元素Mの化合物が水素吸蔵合金粉末上に十分に被覆されず水素吸蔵合金粉末の耐蝕性が低くなり、負極板ひいては電池の耐久性が低下してしまうため好ましくない。一方、第2積が0.084mmol/l・wt%より大きいと、電池の内部抵抗が急激に大きくなってしまい好ましくない。これは、元素Mの化合物の膜厚が大きくなり過ぎて、拡散抵抗が増大するためと考えられる。
これに対し、上述の負極板作製工程において、第2積が0.014〜0.082mmol/l・wt%となる添加割合で、水素吸蔵合金粉末とM
2O
3粉末とを混合した混合物を用いるとした上述のニッケル水素蓄電池の製造方法では、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させ、かつ、電池の内部抵抗の増大を適切に抑えた電池を製造することができる。
【0019】
なお、元素Mの化合物としては、イットリウム化合物及びイッテルビウム化合物の少なくともいずれかの化合物が挙げられる。
【0020】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記負極板作製工程は、前記第2積が0.014〜0.055mmol/l・wt%となる添加割合で、前記水素吸蔵合金粉末と前記M
2O
3粉末とを混合した前記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法とするのが好ましい。
後述するように、第2積が0.055mmol/l・wt%を超えると、内部抵抗が増大し始める。これに基づいて、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法では、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させると共に、電池の内部抵抗の増大を確実に抑えた電池を製造することができる。
【0021】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記負極板作製工程は、前記第2積が0.014〜0.044mmol/l・wt%となる添加割合で、前記水素吸蔵合金粉末と前記M
2O
3粉末とを混合した前記混合物を用いるニッケル水素蓄電池の製造方法とすると良い。
【0022】
上述のニッケル水素蓄電池の製造方法のうち負極板作製工程では、第2積を0.014〜0.044mmol/l・wt%とする。これにより、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させると共に、電池の内部抵抗の増大を確実に抑えた(具体的には、M
2O
3粉末を含まない負極板を用いた電池よりも内部抵抗値を1.5%以内の増加に抑えた)電池を製造することができる。
【0023】
さらに、上述のいずれかのニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記M
2O
3粉末は、Y
2O
3粉末であり、前記水素吸蔵合金粉末は、イットリウム化合物で被覆されてなるニッケル水素蓄電池の製造方法とすると良い。
【0024】
上述のニッケル水素蓄電池の製造方法では、M
2O
3粉末がY
2O
3粉末であり、水素吸蔵合金粉末がイットリウム化合物で被覆されている。このため、水素吸蔵合金粉末の耐蝕性を確実に向上させて負極板ひいては電池の耐久性を向上させると共に、電池の内部抵抗の増大を確実に抑えた電池を製造することができる。
【0025】
さらに
、イットリウム化合物に被覆された水素吸蔵合金粉末とY
2O
3粉末とを有する負極板を備えるニッケル水素蓄電池であって、上記Y
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークについての半価幅と上記水素吸蔵合金粉末及び上記Y
2O
3粉末の混合物における上記Y
2O
3粉末の添加割合との第1積が、0.03〜0.17deg・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池
も好ましい。
【0026】
上述のニッケル水素蓄電池は、上述の第1積が0.03〜0.17deg・wt%の範囲内であるため、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を抑えた電池とすることができる。
【0027】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池であって、前記第1積が、0.03〜0.12deg・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池とするのが好ましい。
このニッケル水素蓄電池は、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を確実に抑えた電池とすることができる。
【0028】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池であって、前記第1積が、0.03〜0.09deg・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池とすると良い。
【0029】
このニッケル水素蓄電池は、第1積が0.03〜0.09deg・wt%の範囲内であるため、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を確実に抑えた電池とすることができる。
【0030】
さらに
、イットリウム及びイッテルビウムの少なくともいずれかの元素Mの化合物に被覆された水素吸蔵合金粉末と、上記元素Mを含むM
2O
3粉末と、を有する負極板を備えるニッケル水素蓄電池であって、上記M
2O
3粉末2.2mmolを、6.8mol/lの水酸化カリウム水溶液50mlに投入し撹拌して、45℃下で168時間静置した後の上澄み液における上記元素Mのイオンの濃度を標準溶解濃度とした場合、上記標準溶解濃度と上記水素吸蔵合金粉末及び上記M
2O
3粉末の混合物における上記M
2O
3粉末の添加割合との第2積が、0.014〜0.082mmol/l・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池
も好ましい。
【0031】
上述のニッケル水素蓄電池は、上述の第2積が0.014〜0.082mmol/l・wt%の範囲内であるため、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を抑えた電池とすることができる。
【0032】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池であって、前記第2積が0.014〜0.055mmol/l・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池とするのが好ましい。
このニッケル水素蓄電池は、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を確実に抑えた電池とすることができる。
【0033】
さらに、上述のニッケル水素蓄電池であって、前記第2積が、0.014〜0.044mmol/l・wt%の範囲内であるニッケル水素蓄電池とすると良い。
【0034】
このニッケル水素蓄電池は、第2積が0.014〜0.044mmol/l・wt%の範囲内であるため、負極板ひいては電池自身の耐久性を向上させると共に、内部抵抗の増大を確実に抑えた電池とすることができる。
【0035】
さらに、上述のいずれかのニッケル水素蓄電池であって、前記M
2O
3粉末は、Y
2O
3粉末であり、前記水素吸蔵合金粉末は、イットリウム化合物で被覆されてなるニッケル水素蓄電池とすると良い。
【0036】
上述のニッケル水素蓄電池では、M
2O
3粉末がY
2O
3粉末であり、水素吸蔵合金粉末がイットリウム化合物で被覆されている。このため、負極板ひいては電池自身の耐久性を確実に向上させると共に、内部抵抗の増大を確実に抑えた電池とすることができる。
【0037】
さらに
、所定条件下でY
2O
3粉末をアルカリ性水溶液に浸漬した場合に、上記アルカリ性水溶液における上記Y
2O
3粉末から溶出したイットリウムイオンの溶解濃度と、上記Y
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークについての半価幅との相関関係を用いて、上記Y
2O
3粉末の上記半価幅の大きさから、上記イットリウムイオンの上記溶解濃度を推定するイットリウムイオンの溶解濃度の推定方法
も好ましい。
【0038】
Y
2O
3粉末をアルカリ性水溶液に浸漬した場合に、このアルカリ性水溶液における、Y
2O
3粉末から溶出したイットリウムイオンの濃度(溶解濃度)と、Y
2O
3粉末の粉末X線回折で観察される(222)面のピークについての半価幅との間には、正の相関関係があることが判ってきた。
これに基づき、上述のイットリウムイオンの溶解濃度の推定方法では、所定条件下での溶解濃度と半価幅との相関関係を用いて、Y
2O
3粉末の物性値である半価幅の大きさから、上述の条件における溶解濃度を推定する。このため、Y
2O
3粉末をアルカリ性水溶液に浸漬してイットリウムイオンの溶解濃度を測定しなくとも、Y
2O
3粉末の物性値(上述の半価幅の大きさ)に基づいてイットリウムイオンの溶解濃度を容易に推定できる。
なお、溶解濃度として、例えば、前述の標準溶解濃度を用いることもできる。