特許第5944923号(P5944923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国石油化工股▲ふん▼有限公司の特許一覧 ▶ 中国石化集団勝利石油管理局▲せん▼井工芸研究院の特許一覧

特許5944923物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置
<>
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000002
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000003
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000004
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000005
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000006
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000007
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000008
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000009
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000010
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000011
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000012
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000013
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000014
  • 特許5944923-物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944923
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】物理検層機器、物理検層方法、およびデータ処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   G01V3/08 C
【請求項の数】19
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-545012(P2013-545012)
(86)(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公表番号】特表2014-503819(P2014-503819A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】CN2011002099
(87)【国際公開番号】WO2012083585
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年9月5日
(31)【優先権主張番号】201010601287.5
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】513158047
【氏名又は名称】中国石化集団勝利石油管理局▲せん▼井工芸研究院
【氏名又は名称原語表記】SHENGLI DRILLING TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE OF SINOPEC
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】楊錦舟
(72)【発明者】
【氏名】李作会
(72)【発明者】
【氏名】林楠
(72)【発明者】
【氏名】魏宝君
(72)【発明者】
【氏名】劉慶龍
(72)【発明者】
【氏名】肖紅兵
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0101242(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0137301(US,A1)
【文献】 Stephen Prenssky et al.,Recent advances in LWD/MWD and formation evaluation,World Oil,2006年 3月,227(3),p.69-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理検層機器が、2つの連続した測定点を選択して、各測定点において少なくとも2つの連続測定を行うように構成されている、均質測定点を選択する工程(a)と、
2つの連続した上記測定点における測定に基づき、選択した2つの連続した上記測定点が均質地層の選択可能点として機能するかを決定し、そうであれば工程(c)に進む工程(b)と、
上記均質地層の2つの上記選択可能点から、目的の地層の地層比抵抗に対応する、上記物理検層機器によって生成された信号応答の振幅比本質値および位相差本質値を導き出す工程(c)と、
上記振幅比本質値および上記位相差本質値から、上記目的の地層の上記地層比抵抗に対応する、振幅比標準値および位相差標準値を導き出す工程(d)と、
上記振幅比標準値および上記位相差標準値に基づき、上記目的の地層のための上記地層の層外閾値を設定する工程(e)と、
次の測定点において少なくとも2つの測定を行うために、当該次の測定点を選択する(f)と、
現在の上記測定点において、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における変動量および位相差における変動量が、上記層外閾値よりも大きいかを決定し、そうであれば工程(h)に進む工程(g)と、
低比抵抗を有する地層が、上記物理検層機器の正面に表れたことを決定する工程(h)とを備えている物理検層方法。
【請求項2】
上記工程(b)は、選択された上記測定点のうちいずれも、均質地層の選択可能点として機能しないときに、他の2つの連続した測定点を選択するために工程(a)に戻ることをさらに備えている請求項1に記載の物理検層方法。
【請求項3】
上記工程(b)は、選択された1つの上記測定点における、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における変動量および位相差における変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあるとき、選択された1つの上記測定点は、均質地層の選択可能点として機能しうることをさらに備えている請求項1に記載の物理検層方法。
【請求項4】
上記工程(c)は、
均質地層の第1および第2の上記選択可能点において測定した、上記一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、上記振幅比本質値とみなし、
均質地層の第1および第2の上記選択可能点において測定した、上記一対の受信アンテナ間の誘発起電力の位相差の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、上記位相差本質値とみなすことをさらに備えている請求項1に記載の物理検層方法。
【請求項5】
上記工程(c)において、均質地層の第1および第2の上記選択可能点における地層比抵抗に関連する誘発起電力、振幅比、および/または位相差を含む地層信号応答を、機能的マトリックス法を用いた磁気双極子源の2項グリーン関数によって算出する請求項4に記載の物理検層方法。
【請求項6】
上記工程(d)は、上記振幅比本質値および上記位相差本質値を、様々なタイプの地層の対応する事前に設定された固有値と比較し、上記振幅比本質値および上記位相差本質値に最も近い地層のタイプの上記固有値を、測定された目的の上記地層の上記地層比抵抗に対応する上記振幅比標準値および上記位相差標準値として選択することをさらに備えている請求項1に記載の物理検層方法。
【請求項7】
工程(g)の結果が否定的のとき、現在の上記測定点における上記振幅比における変動量および上記位相差における変動量を保存し、現在の上記測定点が事前に設定されたn(4よりも大きい正の整数)番目の測定点であるかを決定し、そうでなければ工程(f)に戻る工程(i)をさらに備えている請求項1に記載の物理検層方法。
【請求項8】
上記工程(i)において、現在の上記測定点が事前に設定されたn番目の測定点であると決定されたとき、各測定点において以前に保存された振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量に応じて、上記振幅比における変動の傾向と上記位相差における変動の傾向とを決定する工程(j)をさらに備えている請求項7に記載の物理検層方法。
【請求項9】
変動の傾向が、振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量が3番目の測定点からn番目の測定点までの連続的な増加またはほぼ連続的な増加を維持しているものであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定し、または、変動の傾向が、連続的な増加およびほぼ連続的な増加のいずれも維持しなければ、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れていないことを決定する工程(k)をさらに備えている請求項8に記載の物理検層方法。
【請求項10】
物理検層機器によって現在選択されている2つの連続した測定点の双方が、均質地層の選択可能点として機能しうるか否かを決定するように構成されている、上記均質地層の上記選択可能点を決定する手段と、
選択された2つの連続した測定点の双方が、均質地層の選択可能点として機能しうると決定されたとき、均質地層の2つの上記選択可能点から、目的の地層の地層比抵抗に対応する、上記物理検層機器によって生成された信号応答の振幅比本質値および位相差本質値を導き出すように構成されている、本質値を導き出す手段と、
上記振幅比本質値および上記位相差本質値から、上記目的の地層の上記地層比抵抗に対応する、振幅比標準値および位相差標準値を導き出すように構成されている、標準値を導き出す手段と、
上記振幅比標準値および上記位相差標準値に基づき、上記目的の地層の上記地層比抵抗の層外閾値を設定するように構成されている、層外閾値を設定する手段と、
次の測定点において少なくとも2つの測定を行うために、当該次の測定点を選択し、現在の上記測定点において、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における変動量および位相差における変動量が、上記層外閾値よりも大きいか否かを決定する、3番からn番目の上記測定点を選択して振幅比および位相差における上記変動量を算出する手段と、
現在の上記測定点における振幅比における上記変動量および/または位相差における上記変動量が、層外閾値よりも大きいかを決定するように構成されている、層外の発生を決定するユニット(14101)を備え、そうであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が現れると決定する、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段(1410)とを備えているデータ処理装置。
【請求項11】
均質地層の選択可能点を決定する上記手段(1403、1404)は、選択された上記測定点における、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあるかを決定し、そうであれば、決定時に選択された上記測定点が均質地層の選択可能点として機能しうるように構成されている請求項10に記載のデータ処理装置。
【請求項12】
均質地層の選択可能点を決定する上記手段(1403、1404)は、選択された測定点のうちいずれも均質地層の選択可能点として機能しないときに、他の2つの連続した測定点を選択するように物理検層機器に指示する請求項10に記載のデータ処理装置。
【請求項13】
本質値を導き出す上記手段(1406)は、
均質地層の第1および第2の上記選択可能点において測定した、上記一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、上記振幅比本質値とみなし、
均質地層の第1および第2の上記選択可能点において測定した、上記一対の受信アンテナ間の誘発起電力の位相差の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、上記位相差本質値とみなすようにさらに構成されている請求項10に記載のデータ処理装置。
【請求項14】
標準値を導き出す上記手段(1407)は、上記振幅比本質値および上記位相差本質値を、様々なタイプの地層の対応する事前に設定された固有値と比較し、上記振幅比本質値および上記位相差本質値に最も近い地層のタイプの上記固有値を、測定された目的の上記地層の上記地層比抵抗に対応する上記振幅比標準値および上記位相差標準値として選択するようにさらに構成されている請求項10に記載のデータ処理装置。
【請求項15】
低比抵抗を有する地層の存在を決定する上記手段(1410)は、測定点の数を決定するユニット(14102)と、振幅比および位相差における変動の傾向を決定するユニット(14103)とをさらに備え、
測定点の数を決定する上記ユニット(14102)は、層外の発生を決定する上記ユニット(14101)が、現在の上記測定点における振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量が、上記層外閾値よりも大きくないと決定したときに、現在選択されている上記測定点が、事前に設定されたn番目の測定点であるか否かを決定し、
現在選択されている上記測定点が、事前に設定されたn番目の測定点でなければ、3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する上記手段(1409)は、次の測定点を選択し、当該次の測定点において、振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量を算出するように指示され、
または、現在選択されている上記測定点が、事前に設定されたn番目の測定点であれば、振幅比および位相差における変動の傾向を決定する上記ユニット(14103)は、各測定点における事前に保存された振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量に応じた、振幅比および位相差における上記変動の傾向を決定するように指示される請求項10に記載のデータ処理装置。
【請求項16】
低比抵抗を有する地層の存在を決定する上記手段(1410)は、振幅比および位相差における変動の傾向を決定する上記ユニット(14103)によって決定された上記変動の傾向が、振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量が3番目の測定点からn番目の測定点までの連続的な増加を維持しているものか否かを決定するように構成されている、第1の傾向を決定するユニット(14104)をさらに備え、そうであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定する請求項15に記載のデータ処理装置。
【請求項17】
低比抵抗を有する地層の存在を決定する上記手段1410は、第1の傾向を決定するユニット(14104)の決定が否定的であるときに、上記変動の傾向が3番目の測定点からn番目の測定点までのほぼ連続的な増加を維持しているか否かを決定するように構成されている、第2の変動の傾向を決定するユニット(14105)をさらに備え、変動の傾向がほぼ連続的な増加を維持しているものならば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定し、あるいは、変動の傾向が、ほぼ連続的な増加を維持しなければ、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れていないことを決定する請求項16に記載のデータ処理装置。
【請求項18】
ドリル環本体(12)と、
アンテナアレイとを備え、
上記アンテナアレイは、四つの伝送アンテナT1(11)、T2(14)、T3(13)、およびT4(15)と、四つの受信アンテナR1(7)、R2(8)、R3(9)、およびR4(10)とを備えており、
上記アンテナアレイは、上記ドリル環本体(12)のドリル環尾部からドリル環頭部にかけて、上記受信アンテナR3、上記伝送アンテナT3、上記伝送アンテナT1、上記受信アンテナR1、上記伝送アンテナT2、上記受信アンテナR2、上記伝送アンテナT4、および上記受信アンテナR4の順で取り付けられており、
上記受信アンテナR1と上記受信アンテナR2との間の中間点が、測定点であり、
上記伝送アンテナT1およびT2は、上記測定点を境に対照的に取り付けられており、上記伝送アンテナT3およびT4は、上記測定点を境に対照的に取り付けられており、
上記受信アンテナR3およびR4の取り付け角度は、上記ドリル環尾部の軸に対して約45°および−45°にそれぞれ設定され、
物理検層機器において、いかなる上記伝送アンテナを、いかなる対の上記受信アンテナと、いかように組み合わせたとしても、軸方向前方探査のカーブを生成しうる物理検層機器。
【請求項19】
上記受信アンテナR1およびR2は、上記ドリル環尾部の軸に対して0°の取り付け角度を有しており、
上記受信アンテナR3およびR4は、ドリル環本体(12)の2つの端に配置される請求項18に記載の物理検層機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理検層の技術分野に関する。より詳細には、本発明は、掘削業界における掘削中測定(measurement while drilling、すなわちMWD)の技術分野に関する。特に、本発明は、物理検層機器、物理検層方法、およびこれらのデータ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石油およびガスの探索、コールベッドメタン、シェール地層内に捕らえられたシェールガス、掘削、採鉱、およびその他などの掘削産業におけるMWDの技術では、層序断面図を作成して、油飽和率、石炭構造からのガス含有量、および貯留層の鉱物破断を決定するために、地層比抵抗が一般的に用いられており、それゆえ地層比抵抗は、物理検層において石油、ガス、石炭、鉱物埋蔵量を解釈しかつ評価するための最も重要な基盤である。現在知られているlogging−while−drilling(LWD)比抵抗検層技術は、LWD水平方向比抵抗検層、LWD電磁波伝播比抵抗検層、およびLWD誘導比抵抗検層である。
【0003】
LWD水平方向比抵抗検層の原理は、第1に、電力供給電極から電流を共有すること、試掘穴周辺の地層内に電場を形成すること、地層内の電場の分布を測定すること、および地層比抵抗を取得することを含む。LWD水平方向比抵抗検層装置は、ドリルビットを電極として用い、ドリルビットの近くにあるループ電極および3つのボタン電極を、比抵抗測定のために用いても良い。ドリルビットが電極として機能する場合、試掘穴に泥が侵入するか、または、起こりうる損傷が試掘穴に与えられる前に、LWD水平方向比抵抗検層装置は、5〜10cmの薄い層の比抵抗を測定しうる。3ボタン電極アレイを用いる場合、高解像度の水平方向比抵抗測定が達成されうる。これによって、周辺の岩の影響を低減できうるので、海水泥または高い比抵抗を有する地層にさえおいても、確かな地層比抵抗応答を提供しうる。その上、ループ電極を用いれば、試掘穴周辺の360°の範囲内の地層比抵抗を取得しうる。
【0004】
しかしながら、上述したLWD水平方向比抵抗検層装置は、次のような欠点を有している。水平方向比抵抗検層の技術は、DC電流検層の方法に属するため、すなわち、地層にDC電流を流すための電力供給電極を必要とし、それから地層内の特定箇所における電位を測定するための測定電極を用いるため、それゆえそのような水平方向比抵抗検層は、電流チャンネルを提供する導電性の泥が坑井内に存在する場合にのみ、用いられうる。しかしながら、石油掘削作業などの実用的な掘削作業中は、時に、地層内の原油飽和率を取得するために、石油混じりの泥を掘削したり、また、空掘削さえも行ったりする必要がある。これらの場合、DC電流検層方法は用いることができない。すなわち、これらの場合には、LWD水平方向比抵抗検層の方法はまったく適用できない。
【0005】
LWD電磁波伝播比抵抗検層装置は、マルチコイル機構を用いる。伝播周波数は1〜8MHzであり、コイル機構はドリル環の本体構造に基づき、コイル機構はドリル環の周囲に巻かれている。位相シフト浅部比抵抗および減退深部比抵抗が、異なる伝送コイルおよび受信コイル間の振幅比または位相差を測定し、その後に振幅比または位相差を見かけの地層比抵抗に変換することによって、算出される。理想的な場合、LWD電磁波伝播比抵抗検層装置における軸方向の解像度は、2つの受信コイル間の間隔に基づいており、探査時の複数段階の深さにおける測定データが、泥侵入の状態を解釈するために用いられうる。通常、当業者であれば、位相比抵抗の探査の深さがより小さく、一方、減退比抵抗の探査の深さがより深いことに賛同する。
【0006】
「電磁波比抵抗測定の精度を高め、その測定範囲を拡大する方法」と題された、公開中国特許出願CN101609169Aには、地層の比抵抗、回路のゼロ信号、および振幅減衰−比抵抗変換のグラフおよび位相差−比抵抗変換のグラフにおけるアンテナ機構のベース信号に関連しない相互誘発起電力が、伝達アンテナおよび受信アンテナ間の相互誘導起電力を算出することによって排除され、位相差および振幅減衰から地層の比抵抗への変換が得られることが、開示されている。
【0007】
さらに、「傾きアンテナを備えた電磁波伝播比抵抗LWD装置の基本理論と、そのジオステアリングへの応用」と題された、中国石油大学雑誌に出版された参照書類は、非等方性水平層状媒体内の磁気双極子源のグリーン関数を計算するための機能的マトリックス法を用いて、傾きアンテナを備えた電磁波伝播比抵抗LWD装置の応答を算出し、受信コイルの振幅比および位相差に対する、試掘穴の相対的傾きと受信コイルの伏角度の影響と、ツールの軸に対して直角方向において曲面ホーンアンテナへの応答を生成する従来ツールおよび新規ツールの特性とを解析し、これによって、地層境界の存在をより早期に予知する。
【0008】
しかしながら、現在の様々な電磁波伝播比抵抗検層LWD装置は、探査の様々な深度において比抵抗を測定しうるにも関わらず、次の示すような欠点を有している。
【0009】
第1に、電磁波伝播比抵抗検層LWD装置によって用いられる信号周波数が高すぎ、電磁波の伝播影響次第で探査の深度が限られてしまう。
【0010】
第2に、電磁波伝播比抵抗検層LWD装置の測定結果は、受信コイル間の地層領域にのみ限られるのではなく、伝送コイルおよび受信コイル間の地層全体のパラメータにも関連し、かつ、伝送コイル周辺の比較的小さい領域内の地層でさえも、測定結果に影響を与えるので、当該装置の測定結果は、地層的要因の影響、特に周囲の岩の影響を受ける。したがって、物理検層機器の軸方向解像度は、装置全体が配置される地層の比抵抗に強く依存する。
【0011】
第3に、電磁波伝播比抵抗検層LWD装置のコイル機構がドリル環の先端に巻かれているので、その製造工程が幾分複雑である。さらには、コイル機構は簡単にすり減ってしまうので、動作中に損傷を受けてしまう。また、試掘穴の大きさが変化する場合、コイルを巻き直す必要があるので、メンテナンスおよびオーバーホールが幾分複雑になり、メンテナンス費用が高くなる。加えて、LWD水平方向比抵抗検層装置と同様に、電磁波伝播比抵抗検層LWD装置は、石油混じりの泥では動作しない。
【0012】
LWD誘導比抵抗検層装置は、電磁誘導の原理を活用する。一定の振幅および周波数の交流電流が伝達コイルに与えられると、渦電流が前記コイル周辺の地層に誘発され、渦電流自体は第2の交流電磁場を形成する。第2の交流電磁場の影響下では、誘発される起電力は受信コイルにおいて生ずる。上記起電力の量は地層の導電性に関連しており、地層の比抵抗は誘発された起電力の測定を通じて得られる。
【0013】
現在のLWD誘導比抵抗検層装置のコイル機構は、1つの伝送コイルと2つの受信コイルとを用いる。2つの受信コイルのうち1つは、主受信コイルであり、他方は従コイルである。コイル機構は、ドリル環の側面上の反射層を備えたV字状の溝に配置される。物理検層の応答は、V字溝の前面における地層の比抵抗変動に対して鋭敏であり、それゆえ、方向性測定の特性を有する。LWD誘導比抵抗検層装置は、バッテリから電力の供給を受ける。バッテリの上部には、LWD誘導比抵抗検層装置から表面へとリアルタイムデータを転送するための、LWD誘導比抵抗検層装置の底部にあるジョイントバックルのメス部に結合されうるジョイントバックルのオス部が配されている。同様の探査サブが、異なる大きさの試掘穴が必要とされる場合に適用される。
【0014】
このようなLWD誘導比抵抗検層装置の利点は次の通りである。信号周波数が、高周波数装置の周波数よりもかなり低い20kHzなので、地層に吸収されることがない。さらに、探査深度が深く、かつ、測定範囲が0.1〜1000Ωmに到達しうるほど比較的大きい。なおかつ、このような装置の構造は簡素であり、1つの探査サブが、異なる大きさの試掘穴を必要とする場合に適用されうる。また、メンテナンスおよびオーバーホールが比較的簡単であり、かつ、異なる採掘液体に適用できる。
【0015】
しかしながら、LWD誘導比抵抗検層装置は、さらに、次のような欠点を有する。当該装置が、1つの伝送コイルおよび2つの受信コイルからなりかつ探査深度が固定されているコイルシステムを用いるので、当該装置は、探査の1つの経方向深度における地層の比抵抗を提供するのみであり、一方、複雑な浸食特性を解釈したり、腐食性地層を分離したりすることに用いることができない。加えて、腐食性地層に関していえば、泥の浸食によって、比抵抗が経方向において変動し、同じ深度の測定点においては、探査の1つの経方向深度における比抵抗値のみを得ることができるので、LWD誘導比抵抗検層装置を、地層の浸食条件、および、地層が泥によって浸食されかつ貯留層の透過性を決定できない条件を解釈することに用いることができない。これは、石油貯留層およびガス貯留層の解釈には不利であるので、正しい地層比抵抗を正確に算出することに用いることができない。さらには、異なる種類の泥浸食および探査の異なる経方向深度における比抵抗に関していえば、石油−ガス−水層の特性は異なる。石油およびガスは、石油−ガス−水層によって示される異なる特性と同様に、探査の異なる深度における多段比抵抗カーブに対する泥浸食影響の異なる程度に基づき特定される。それゆえ、多段深度比抵抗測定は、LWD装置に顕著なものである。しかしながら、現在のLWD誘導比抵抗検層装置は、この要求を満たすことができない。さらには、上記装置のコイル機構の設計構造が固定されているので、個々のコイル機構は、1つの深度における比抵抗を測定できるのみであり、探査の異なる深度における比抵抗を取得するために、異なるコイル機構を用いて多段階の測定を行わなければならない。その結果、実際の用途においては、このようなLWD誘導比抵抗検層を実行するのは難しい。
【0016】
まとめると、いずれのLWD比抵抗装置に関しても、多くの欠点がある。さらには、個々の上記LWD比抵抗装置は、探査の経方向深度を測定しかつ算出することにのみ用いられ、探査の軸方向−前方深度の測定を言及したり参照したりはしない。しかしながら、様々なLWD比抵抗検層装置の伝送アンテナおよび受信アンテナの数が継続的に増加すると、伝送周波数は減少する。したがって、軸方向深度探査は、掘削技術に対して大いに重要になっている。その結果、坑井掘削および検層の業界において、LWD軸方向−前方探査の方法の必要性が大いに増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】中国公開特許公報CN101609169A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
LWD比抵抗検層の従来技術に存在する、上述した1つまたはそれ以上の欠点を克服するため、本発明は、軸方向前方地層における比抵抗の変動をリアルタイムで掘削中において測定しうるのみならず、異なる比抵抗を有する軸方向前方地層の界面特性を掘削中に峻別しうる新たなlogging−while−drilling方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の1つの局面によると、
物理検層機器が、2つの連続した測定点を選択して、各測定点において少なくとも2つの連続測定を行うように構成されている、均質測定点を選択する工程(a)と、
2つの連続した上記測定点における測定に基づき、選択した2つの連続した上記測定点が均質地層の選択可能点として機能するかを決定し、そうであれば工程(c)に進む工程(b)と、
上記均質地層の2つの上記選択可能点から、目的の地層の地層比抵抗に対応する、上記物理検層機器によって生成された信号応答の振幅比本質値および位相差本質値を導き出す工程(c)と、
上記振幅比本質値および上記位相差本質値から、上記目的の地層の上記地層比抵抗に対応する、振幅比標準値および位相差標準値を導き出す工程(d)と、
上記振幅比標準値および上記位相差標準値に基づき、上記目的の地層のための上記地層の層外閾値を設定する工程(e)と、
次の測定点において少なくとも2つの測定を行うために、当該次の測定点を選択する(f)と、
現在の上記測定点において、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における変動量および位相差における変動量が、上記層外閾値よりも大きいかを決定し、そうであれば工程(h)に進む工程(g)と、
低比抵抗を有する地層が、上記物理検層機器の正面に表れたことを決定する工程(h)とを備えている物理検層方法が提供される。
【0020】
本発明の他の局面によると、
物理検層機器によって現在選択されている2つの連続した上記測定点の双方が、均質地層の選択可能点として機能しうるか否かを決定するように構成されている、上記均質地層の上記選択可能点を決定する手段と、
選択された2つの連続した測定点の双方が、均質地層の選択可能点として機能しうると決定されたとき、均質地層の2つの上記選択可能点から、目的の地層の地層比抵抗に対応する、上記物理検層機器によって生成された信号応答の振幅比本質値および位相差本質値を導き出すように構成されている、本質値を導き出す手段と、
上記振幅比本質値および上記位相差本質値から、上記目的の地層の上記地層比抵抗に対応する、振幅比標準値および位相差標準値を導き出すように構成されている、標準値を導き出す手段と、
上記振幅比標準値および上記位相差標準値に基づき、上記目的の地層の上記地層比抵抗の層外閾値を設定するように構成されている、層外閾値を設定する手段と、
次の測定点において少なくとも2つの測定を行うために、当該次の測定点を選択し、現在の上記測定点において、上記物理検層機器の一対の受信アンテナ間の誘発起電力の振幅比における上記変動量および位相差における上記変動量が、上記層外閾値よりも大きいか否かを決定する、3番からn番目の上記測定点を選択して振幅比および位相差における上記変動量を算出する手段と、
現在の上記測定点における振幅比における上記変動量および/または位相差における上記変動量が、層外閾値よりも大きいかを決定するように構成されている、層外の発生を決定するユニットを備え、そうであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が現れると決定する、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段とを備えているデータ処理装置が提供される。
【0021】
本発明のさらに他の局面によると、ドリル環本体と、アンテナアレイとを備え、上記アンテナアレイは、一対の伝送アンテナおよび受信アンテナを少なくとも備え、上記伝送アンテナおよび上記受信アンテナは、探査の軸方向前方深度のカーブを生成するように構成されている物理検層機器が提供される。
【発明の効果】
【0022】
軽方向探査に比べると、本発明に係る軸方向深度探査は、次の利点を有している。
【0023】
まず第1に、本発明に係る軸方向深度探査は、ドリル工学における傾斜部の経路を有効に制御しうる。地層の水平部分の周知の測定は、通常、水平層の配置を仮定し、偏向が始まるとき、比抵抗検層装置は、水平層地層に対してほぼ垂直である。したがって、経方向探査の応答は、特定の層における測定された地層の比抵抗における変動を反映するに過ぎず、一方、軸方向探査の応答は、複数の異なる掘削深度における、測定された地層の比抵抗における変動を反映し、地層境界および石油−水接触面を効果的に特定し、そして偏向ラジアンを調整して正確かつなめらかにし、それによって傾斜部における掘削品質を改善しうる、探査の複数の軸方向の層を有する。
【0024】
さらに、複雑でありかつ大きくそれた坑井または水平開口に侵入するとき、本発明に係る軸方向深度探査は、掘削移動方向に沿って、地層の異なる深度における軸方向探査を実行しうる。したがって、経方向深度の方法に比べて、より直接かつ正確であり、薄い貯留層、複雑に折り重なり積層された地層を事前に決定でき、それによって、効果的に断層から遠ざけ、良く窪んだ貯留層に沿って長い距離を掘削し、石油およびガスの最も高い効果的な掘削捕獲率を得る。
【0025】
本発明に係る物理検層方法および対応するデータ処理装置は、掘削処理中の地層比抵抗の変動特性および変動率をリアルタイムで測定し、地層境界と石油−水界面とをリアルタイムで区別し、石油およびガス貯留層に侵入する最適な機会を捉えることができる。さらには、本方法は、ドリルビット前方の地形情報をより早く予測し、良く窪みかつ非等方性地層の水平坑井において試掘穴の経路を適宜調節し、最大の石油接触面を得るように、石油貯留層の最適な位置を通過するために掘削道具を制御しうる。したがって、石油工学におけるジオステアリングにきわめて良く適応できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器を示す。
図2】本発明に係る物理検層方法によって用いられる二層地層のモデル図を示す。
図3】10/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図4】10/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図5】50/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図6】50/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図7】200/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図8】200/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置とともに変動する関係を示す図を図示する。
図9】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナ機構T2−R1−R2によって2MHzの周波数において生成される、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値の参照テーブルを示す。
図10】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナ機構T2−R1−R2によって400Hzの周波数において生成される、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値の参照テーブルを示す。
図11】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナ機構T1−R1−R2によって2MHzの周波数において生成される、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値の参照テーブルを示す。
図12】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナ機構T1−R1−R2によって400Hzの周波数において生成される、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値の参照テーブルを示す。
図13】本発明の好ましい実施形態に係るlogging−while−drilling方法のフローチャートを示す。
図14】本発明の好ましい実施形態に係る物理検層データ処理装置のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
いくつかの用語は、出願書類を通じて、特定のシステム要素を示すために用いられる。当業者によって賛同されるように、異なる指定は、通常、同じ部材を示すために用いられてもよく、それゆえ、出願書類には、機能ではなく名称のみが異なる部材を区別する意図はない。出願書類では、「備える」「含む」「有する」はオープン方式で用いられるので、これらは、「備えるがこれに限られない」という意味に解釈されるべきである。加えて、ここで用いられうる用語「実質的に」、「本質的に」、「およそ」は、対応する用語に対して産業的に受け入れられる許容に関する。ここで用いられうる「結合される」は、直接の結合と、他の部材、要素、回路、またはモジュールを介し、当該中間の部材、要素、回路、またはモジュールが信号の情報を変更せず、その電流レベル、電圧レベル、および/またはパワーレベルを調整しうるような間接的な結合とを含む。推論結合、たとえば、1つの要素が他の要素と推論によって結合している結合は、「結合される」と同様に、2つの要素間の直接および間接の結合を含む。
【0028】
以下の記述には、説明の目的のため、多くの特定の詳細が、発明の全体的な理解を提供するために用意されている。しかしながら、当業者にとっては、本発明の装置、方法、および機器は、これらの特定の詳細が無くとも実現うることは明らかである。説明における「実施形態」「実施例」または同様の言葉に対する参照は、実施形態または実施例に関連づけて記述された特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも上記実施形態または実施例において備わっているが、他の実施形態または実施例には必ずしも備わっている必要は無いことを意味する。説明内の異なる箇所における「実施形態において」、「好ましい実施形態において」また同様の言い回しの様々な例は、すべて必ずしも同じ実施形態を参照するわけではない。
【0029】
本発明は、好ましい実施形態およびそれに対応する図面に関連づけて、以下にさらに説明される。
【0030】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器を示す。このような好ましい実施形態では、物理検層機器は、ドリル環本体12と、アンテナアレイ7〜11,13〜15と、内部電気回路(不図示)と、各部材を結合するための個体化封印部とを備えている電磁波伝播比抵抗検層装置である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態では、ドリル環本体12は、好ましくは、軸方向のビアホールを有する円筒状のステンレス鋼材料でできている。好ましくは円形状または楕円形状の複数の溝が、ドリル環本体12の外表面に刻まれている。上記溝は、伝送アンテナまたは受信アンテナの取り付けに用いられる。
【0032】
図1に示す好ましい実施形態では、アンテナアレイは、4つの伝送アンテナT1(部材番号11で示す)、T2(部材番号14で示す)、T3(部材番号13で示す)、およびT4(部材番号15で示す)と、4つの受信アンテナR1(部材番号7で示す)、R2(部材番号8で示す)、R3(部材番号9で示す)、およびR4(部材番号10で示す)とを備えている。
【0033】
図1に示すように、伝送アンテナおよび受信アンテナは、図1の左側から図1の右側にかけて(すなわちドリル環本体12のドリル環尾部からドリル環頭部にかけて)、好ましくは受信アンテナR3、伝送アンテナT3、伝送アンテナT1、受信アンテナR1、伝送アンテナT2、受信アンテナR2、伝送アンテナT4、および受信アンテナR4の順で取り付けられている。
【0034】
好ましい実施形態では、受信アンテナR1と受信アンテナR2との間の中間点が測定点である。伝送アンテナT1、T2、T3、およびT4は、上記測定点を境に対照的に取り付けられていることが好ましい。図1に示すように、受信アンテナR1および受信アンテナR2は、好ましくは、取り付け角度が0°である一対のアンテナであり、受信アンテナR3および受信アンテナR4は、上記測定点を境に対照的な他のアンテナ対である。受信アンテナR3および受信アンテナR4は、好ましくはドリル環の2つの端に配置される。受信アンテナR3および受信アンテナR4の取り付け角度は、いかようにも適切に設定されればよく、好ましい実施形態では、好ましくは45°および−45°に設定される(しかしこれらに限定されない)。
【0035】
いずれの伝送アンテナおよびいずれの受信アンテナ対(たとえば伝送アンテナT1、受信アンテナR1、および受信アンテナR2)であっても、伝送アンテナが励起された場合、電磁的信号は周辺の地層およびドリル環本体を通じて伝播する。電磁的信号は、地層によって反射されかつ伝送され、受信アンテナにおいて電磁誘導信号を生み出す。電磁誘導信号は、受信アンテナによって集められ、内部電子回路によって増幅かつフィルタされ、最後に、電磁誘導信号が通過する地層の比抵抗の関数に変換される。
【0036】
穴の下方で動作する物理検層機器(たとえば電磁波伝播比抵抗検層装置)の場合、装置の正面における地層の電気的パラメータ(たとえば地層の比抵抗比)が実質的に一定であれば、それは地層境界が表れていないことを示す。このとき、受信アンテナ上に反射される電磁的信号は、実質的に一定である。これに対して、装置の正面における地層の電気的パラメータが変動すれば、それは地層境界が表れていることを示す。このとき、受信アンテナ上に反射される電磁的信号は変動し、それゆえ信号の差異が生ずる。信号の差異を継続的に収集しかつ計算することによって、軸方向前方探査の距離を得ることができる。
【0037】
本発明に係る物理検層機器において、いかなる伝送アンテナを、いかなる対の受信アンテナと、いかように組み合わせたとしても、軸方向前方探査のカーブを生成しうる。軸方向前方探査の全てのカーブを比較しかつ処理することによって、環境の影響(たとえば試掘穴の影響)および測定エラーを除去することができ、これによって、物理検層機器の軸方向前方探査精度が改善されうる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態に係る好ましいlogging−while−drilling方法を、図面に関連づけて詳細に説明する。
【0039】
図13に示すように、本発明の好ましい実施形態に係るlogging−while−drilling方法、たとえば、電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層方法は、次に示す工程を備えている。
【0040】
工程1301において、logging−while−drilling装置(たとえば、図1に示す電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層装置)を、高比抵抗を有する目的の地層内の一定の深さに配置する。物理検層機器は掘削中に継続して測定を行い、探査の方向は物理検層機器の軸方向の移動方向に一致する。
【0041】
工程1302において、2つの連続した測定点(たとえば、第1の測定点および第2の測定点)を選択して、各測定点において少なくとも2つの連続測定を行う。
【0042】
工程1303において、第1の測定点における少なくとも2つの連続した測定から、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあることが決定された場合、第1の測定点を、均質地層の第1の選択可能点として保存する。たとえば、振幅比における変動量の事前に設定された閾値範囲は、0〜0.03dBまたは他の適切な事前に設定された閾値範囲であればよい。位相差における変動量の事前に設定された閾値範囲は、0°〜0.1°または他の適切な事前に設定された閾値範囲であればよい。
【0043】
工程1304において、第2の測定点における少なくとも2つの連続した測定から、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあることが決定された場合、第2の測定点を、均質地層の第2の選択可能点として保存する。
【0044】
工程1303および1304において、第1および第2の測定の双方のうち任意のいずれか1つが上述した要件を満たさない場合、現在選択している2つの測定点の双方が上述した要件を満たすまで、工程1302に戻って、掘削中のさらなる測定を続け、かつ他の2つの連続した測定点を選択する。
【0045】
工程1303および1304を通じて、均質地層の第1および第2の選択可能点を決定した後、工程1305において、均質地層の第1および第2の選択可能点において測定した、第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する、物理検層によって生成された信号応答の振幅比本質値Att0とみなす。同様に、均質地層の第1および第2の選択可能点の双方において測定した位相差の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する位相差本質値PSD0とみなす。
【0046】
次に、工程1306において、測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する標準値を、導き出しかつ保存している。特に、高比抵抗を有する測定された目的の地層の上記振幅比本質値Att0および上記位相差本質値PSD0を、様々なタイプの地層における対応する所定の固有値と比較し、次に、振幅比本質値Att0および位相差本質値PSD0に最も近い地層のタイプの固有値を、高比抵抗を有する測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する振幅比標準値および位相差標準値として選択することができる。振幅比標準値および位相差標準値はメモリに保存される。
【0047】
必要に応じて、工程1307において、高比抵抗を有する測定された目的の地層の層外閾値を、高比抵抗を有する測定された目的の地層に対応する振幅比標準値および位相差標準値に応じて設定する。特に、低比抵抗を有する地層の境界に物理検層機器が近づいたとき、物理検層機器の軸方向における第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比および位相差が変動する。低比抵抗を有する地層の境界に物理検層機器がより近づくほど、振幅比標準値および位相差標準値に対する実際に測定された振幅比および位相差の変動値がより大きくなる。振幅比および位相差における変動値が、事前に設定された値に到達するか、当該値を超えたとき、低比抵抗を有する地層が物理検層機器の正面に表れたと通常はみなされる。上記事前に設定された値は、層外閾値と命名される。
【0048】
なお、測定された異なる地層に対する層外閾値は、実際に測定された地層と測定条件に応じて、当業者によって、異なる事前に設定された値に設定されうる。一般に、層外閾値は、現在測定される地層と、軸方向前方の地層との2つの地層間の比抵抗比から導き出されうる。好ましくは、現在測定される地層と、軸方向前方の地層との2つの地層間の比抵抗比がどれほど似ていても、層外閾値は、振幅比標準値および位相差標準値の1%〜30%に設定されうる。より好ましくは、上記比抵抗比が1/10であるとき、層外閾値は、振幅比標準値および位相差標準値の10%に設定されうる。層外閾値を決定する上述した手法と、層外閾値の特定の値とは、制限を目的としたというよりは、説明のみを目的にしたものにすぎない。当業者であれば、習慣に基づき、他の方法によって、適切な値を選択しうる。
【0049】
図13に示すように、工程1308において、次の測定点を選択する前に、次の選択点において少なくとも2回の測定を行い、そのような測定点における、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量を算出する。
【0050】
工程1309において、工程1308において算出された振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、層外閾値を上回るかを決定する。そうであれば、低比抵抗を有する地層が、物理検層機器の正面に表れたと決定する。そうでなければ、振幅比ΔAttにおける現在の変動量および位相差ΔPSDにおける現在変動量を保存し、次に、現在選択されている測定点が、事前に設定されたn回目の測定点であるかを決定し、そうでなければ、工程1308に戻って、次の測定点の選択を続けるとともに振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量の算出を行う;または現在選択されている測定点が、事前に設定されたn回目の測定点であれば、工程1310に移動する。
【0051】
なお、数字「n」は、測定される地層の測定および測定速度に基づき、当業者によって事前に設定される。たとえば、測定される地層がより柔らかい地層(たとえば海岸領域の砂岩)であれば、nはより小さくできる。一方、測定される地層がより堅い地層(たとえば頁岩)であれば、nはより大きくできる。典型的には、一般的な地層に対しては、nは20〜30に事前に設定されるが、しかし、本発明は決してそのような範囲の値には限定されず、nに対して、他の適切な値を事前に設定することができる。
【0052】
工程1310において、各測定点において以前に保存された振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量に応じて、振幅比における変動の傾向と位相差における変動の傾向とを決定する。
【0053】
変動の傾向が、振幅比における変動量および位相差における変動量が3番目の測定点からn番目の測定点までの連続的な増加を維持している(すなわち、m=1、2、・・・n+1の場合に、m+1番目の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量が、m番目の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量よりも大きい)ものであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定する。
【0054】
あるいは、変動の傾向が、振幅比における変動量および位相差における変動量が3番目の測定点からn番目の測定点までのほぼ連続的な増加を維持しているものであれば、同様に、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定する。当業者によって賛同されるように、ここでいう「ほぼ連続的な増加」とは、変動の傾向にある程度の波がある(言い換えると、ある測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量が、その直前の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量よりも小さい)としても、たとえば少なくとも70%の測定点において連続的な増加を維持していることを意味する。このパーセンテージもまた、当業者によって習慣に基づき事前に設定されることが可能であり、かつ、70%のパーセンテージは、制限というよりはむしろ例示のみのものである。
【0055】
あるいは、変動の傾向が、連続的な増加またはほぼ連続的な増加を維持しなければ、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れていないことを決定する。
【0056】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、工程1305において本質値を導き出す上記処理の間、均質地層の第1および第2の選択可能点における地層比抵抗、振幅比、および位相差を、機能的マトリックス法を用いた磁気双極子源の2項グリーン関数によって算出できる。たとえば、図9図12は、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値のためのいくつかの参照テーブルの例を示す。上記参照テーブルにおける、対応する物理量は、機能的マトリックス法を用いた磁気双極子源の2項グリーン関数によって算出できる。
【0057】
図9は、2MHzにおける、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナシステムT2−R1−R2によって生成された、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値のための参照テーブルを示す。図10は、400kHzにおける、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナシステムT2−R1−R2によって生成された、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値のための参照テーブルを示す。図11は、2MHzにおける、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナシステムT1−R1−R2によって生成された、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値のための参照テーブルを示す。図12は、400kHzにおける、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層機器のアンテナシステムT1−R1−R2によって生成された、様々なタイプの地層の比抵抗、振幅比、および位相差の固有値のための参照テーブルを示す。
【0058】
さらには、本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、上記物理検層方法は、低比抵抗を有する軸方向前方地層から、物理検層の現在の測定点までの距離を、追加でゾンマーフェルト積分を用いることによって算出する工程を、好ましくはさらに備えていても良い。
【0059】
図2は、本発明に係る物理検層機器および方法によって用いられる、二層地層モデルを示す図である。
【0060】
図2に示すように、参照番号1は、地層1を示す;参照番号2は、他の地層2を示す;参照番号3は、地層1と地層2との間の境界を示す;参照番号4は、電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層装置の主軸を示す;参照番号5は、電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層装置の測定点を示す;参照番号6は、測定点5から地層境界3までの距離を示す;参照番号7は、取り付け角度がゼロ度の受信アンテナR1を示す;参照番号8は、好ましくは取り付け角度がゼロ度の受信アンテナR2を示す;参照番号9は、好ましくは取り付け角度が45°の受信アンテナR3を示す;参照番号10は、好ましくは取り付け角度が−45°の受信アンテナR4を示す;参照番号8は、取り付け角度がゼロ度の送信アンテナT1を示す。
【0061】
上記二層地層モデルによれば、上記電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層装置は、地層1内に配置され、地層1と地層2との間の地層境界3に対して垂直である。異なる比抵抗比を有する地層の振幅比および位相差における変動は、地層境界3から装置の中心点までの距離を変動させることによって、得られる。
【0062】
図3は、10/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。図4は、10/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。図5は、50/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。図6は、50/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。図7は、200/1の比抵抗比を有する地層の振幅比応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。図8は、200/1の比抵抗比を有する地層の位相差応答が、地層境界の位置によって変動する関係を示す図である。
【0063】
図3図8では、x軸は、地層境界3から装置の中心点までの距離を表し、y軸は、二層地層内に配置されたアンテナアレイによって生成される信号応答と、地層1と同じ比抵抗を有する均質地層内に配置されたアンテナアレイによって生成される信号応答との差異を示す。
【0064】
本発明の好ましい実施形態に係る電磁波伝播比抵抗軸方向前方検層装置の振幅比の閾値は0.02dBであり、かつ、位相差の閾値は0.1°(図3図8に横線で示す)であると仮定すると、図3図8から、異なる比抵抗比を有する様々な地層に配置された物理検層機器のアンテナ対の探査の軸方向深度が、図3図8からわかる。
【0065】
たとえば、10/1の比抵抗比を有する地層では、伝送および受信アンテナ対の周波数が2MHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ41インチおよび26インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ56インチおよび37インチである。伝送および受信アンテナ対の周波数が400kHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ43インチおよび35インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ67インチおよび48インチである。
【0066】
50/1の比抵抗比を有する地層では、上記周波数が2MHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ55インチおよび35インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ77インチおよび46インチである。上記周波数が400kHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ49インチおよび44インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ82インチおよび62インチである。
【0067】
200/1の比抵抗比を有する地層では、上記周波数が2MHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ61インチおよび43インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ92インチおよび57インチである。上記周波数が400kHzであれば、16/22インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ50インチおよび47インチであり、32/38インチのアンテナ対の振幅比および位相差のための探査の軸方向深度は、それぞれ87インチおよび71インチである。
【0068】
図3図8からわかるように、地層比抵抗比が上昇するにつれ、地層境界の位置の変動に比べた振幅比応答または位相差応答における変動は、より平坦になる。地層比抵抗比または1つの伝送アンテナと1つの受信アンテナとの間の距離が上昇するにつれ、上記検層装置の探査の軸方向深度はより上昇する。同じ比抵抗比を有する地層では、同じ1つのアンテナ対の振幅比カーブの探査の軸方向深度は、位相差カーブの探査の軸方向深度よりも大きい。
【0069】
掘削装置による前方向掘削の間、地層境界または石油/水界面の存在は、本発明に係るlogging−while−drilling装置による振幅比または位相差における変動のリアルタイム測定によって決定してもよい。このとき、掘削ツールを、石油貯留層の最適位置を通過するように制御することができる。掘削装置による前方向掘削の間、logging−while−drilling装置によって測定された振幅比および位相差が変動しなければ、上記logging−while−drilling装置によって生成された振幅比および位相差の読み込みが実質的に一定であることを意味し、このことは、logging−while−drilling装置の正面に、低比抵抗を有する地層が存在しないことを示す。前方掘削中に振幅比および位相差の読み込みがもはや一定でない場合、掘削の装置の正面に、低比抵抗を有する地層が存在する示す可能性があり、低比抵抗を有する地層への掘削を避けるために、試掘穴の経路をうまく調整する必要がある。その結果、掘削装置は、常に、高比抵抗を有しかつ石油を含んだ目的地層内に配置されることができ、それゆえ、掘削およびジオステアリングの前に、地層境界を予測することができる。
【0070】
本発明は、石油掘削に関する好ましい実施形態を記述するが、本発明に係る物理検層機器および方法は、石油掘削の技術分野に限定されず、より広く、石炭採掘、採掘、および他の掘削産業に適用することができることに、当業者は賛同する。
【0071】
これ以降、本発明の好ましい実施形態に係る物理検層方法を実行するデータ処理装置について、その詳細を後に明らかにする。
【0072】
図14に示すように、本発明に係るデータ処理装置は、第1および第2の測定点を選択する手段1400、振幅比および位相差における第1の変動量を算出する手段1401、振幅比および位相差における第2の変動量を算出する手段1402、均質地層における第1の選択可能点を決定する手段1403、均質地層における第2の選択可能点を決定する手段1404、メモリ1405、本質値を導き出す手段1406、標準値を導き出す手段1407、層外閾値を設定する手段1408、3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する手段1409、および低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410を好ましくは備えている。
【0073】
第1および第2の測定点を選択する上記手段1400は、2つの連続した測定点(すなわち、第1の測定点および第2の測定点)を選択し、物理検層機器に対して、各測定点において少なくとも2つの連続した測定を行うように指示する。
【0074】
第1および第2の測定点を選択する手段上記1400は、振幅比および位相差における第1の変動量を算出する手段1401および振幅比および位相差における第2の変動量を算出する手段1402にそれぞれ接続されている。
【0075】
振幅比および位相差における第1の変動量を算出する手段1401は、第1の測定点における少なくとも2つの連続した測定から、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量を算出するように構成される。
【0076】
振幅比および位相差における第2の変動量を算出する手段1402は、第2の測定点における少なくとも2つの連続した測定から、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量を算出するように構成される。
【0077】
均質地層における第1の選択可能点を決定する手段1403は、振幅比および位相差における第1の変動量を算出する手段1401に接続されており、第1の測定点における振幅比ΔAttにおける第1の変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあるかを決定する。そうであれば、第1の測定点が、均質地層の第1の測定可能点としてメモリ1405に保存される。そうでなければ、第1および第2の測定点を選択する手段1400は、他の2つの測定点を選択するように指示される。好ましくは、振幅比における変動量の事前に設定された閾値範囲は、0〜0.03dBまたは他の適切な閾値範囲に設定されてもよく、位相差における変動量の事前に設定された閾値範囲は、0°〜0.1°または他の適切な閾値範囲に設定されてもよい。
【0078】
均質地層における第2の選択可能点を決定する手段1404は、振幅比および位相差における第2の変動量を算出する手段1402に接続されており、第2の測定点における振幅比ΔAttおよび位相差ΔPSDにおける第2の変動量が、それぞれの事前に設定された閾値範囲内にあるかを決定する。そうであれば、第2の測定点が、均質地層の第2の測定可能点としてメモリ1405に保存される。そうでなければ、第1および第2の測定点を選択する手段1400は、他の2つの測定点を選択するように指示される。
【0079】
本質値を導き出す手段1406は、メモリ1405に接続されており、物理検層機器によて生成された、高比抵抗を有する測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する信号応答の、振幅比本質値Att0および位相差本質値PSD0を決定するように構成されている。好ましい実施形態によれば、本質値を導き出す手段1406は、均質地層の第1および第2の選択可能点において測定した、第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、振幅比本質値Att0として取得する。同様に、本質値を導き出す手段1406は、均質地層の第1および第2の選択可能点の双方において測定した位相差の複数の測定の平均値または二乗平均平方根を、位相差本質値PSD0として取得する。
【0080】
好ましくは、本質値を導き出す上記手段1406は、均質地層の第1および第2の選択可能点における地層比抵抗、振幅比、および位相差を、機能的マトリックス法を用いた磁気双極子源の2項グリーン関数によって算出できる。当業者によって賛同されるように、本質値を導き出す手段1406は、均質地層の第1および第2の選択可能点における地層比抵抗、振幅比、および位相差を、他の優先関数またはアルゴリズムを用いても算出できる。
【0081】
標準値を導き出す手段1407は、本質値を導き出す上記手段1406およびメモリ1405に接続されており、高比抵抗を有する測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する標準値を導き出して保存するように構成されている。好ましい実施形態によれば、標準値を導き出す手段1407は、高比抵抗を有する測定された目的の地層の上記振幅比本質値Att0および上記位相差本質値PSD0を、様々なタイプの地層における対応する所定の固有値と比較する。次に、振幅比本質値Att0および位相差本質値PSD0に最も近い地層のタイプの固有値を、高比抵抗を有する測定された目的の地層の地層比抵抗に対応する振幅比標準値および位相差標準値として選択することができる。振幅比標準値および位相差標準値はメモリ1405に保存される。
【0082】
層外閾値を設定する手段1408は、標準値を導き出す手段1407およびメモリ1405に接続されており、高比抵抗を有する測定された目的の地層の層外閾値を設定するように構成されている。好ましい実施形態によれば、層外閾値を設定する手段1408は、高比抵抗を有する測定された目的の地層の層外閾値を、高比抵抗を有する測定された目的の地層に対応する振幅比標準値および位相差標準値に応じて設定する。その後、層外閾値は上記メモリ1405に保存することができる。
【0083】
特に、低比抵抗を有する地層の境界に物理検層機器が近づいたとき、物理検層機器の軸方向における第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比および位相差が変動する。低比抵抗を有する地層の境界により物理検層機器が近づくほど、振幅比標準値および位相差標準値に対する実際に測定された振幅比および位相差の変動値がより大きくなる。振幅比および位相差における変動値が、事前に設定された値に到達するか、または当該値を超えるとき、低比抵抗を有する地層が物理検層機器の正面に表れたと通常はみなされる。上記事前に設定された値は、層外閾値と命名される。
【0084】
なお、測定された異なる地層に対する層外閾値は、当業者によって、実際に測定された地層と測定条件とに応じて、異なる事前に設定された値に設定されうる。一般に層外閾値は、現在測定される地層と、軸方向前方の地層との2つの地層間の比抵抗比とによって導き出される。好ましくは、現在測定される地層と、軸方向前方の地層との2つの地層間の比抵抗比がどれほど似ていても、層外閾値は、振幅比標準値および位相差標準値の1%〜30%に設定されうる。より好ましくは、上記比抵抗比が1/10であるとき、層外閾値は、振幅比標準値および位相差標準値の10%に設定されうる。層外閾値を決定する上述した手法と、層外閾値の特定の値とは、制限を目的としたというよりは、説明のみを目的にしたものにすぎない。当業者であれば、習慣に基づき、他の方法によって、適切な値を選択しうる。
【0085】
3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する手段1409は、次の測定点を選択して、当該次の測定点における少なくとも2つの測定を行い、そのような測定点における、物理検層機器の軸方向に沿った第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとの間の誘発起電力の振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量を算出するように構成される。
【0086】
低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410は、メモリ1405、層外閾値を設定する手段1408、および3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する手段1409に接続されている。
【0087】
好ましい実施形態によれば、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410は、3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する上記手段1409によって算出された、現在の測定点における振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、層外閾値よりも大きいかを決定するように構成されている、層外の発生を決定するユニット14101を備えている。そうであれば、物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が存在すると決定される。そうでなければ、現在の測定点における振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が、メモリ1405に保存される。
【0088】
他の好ましい実施形態によれば、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410は、測定点の数を決定するユニット14102と、振幅比および位相差における変動の傾向を決定するユニット14103とをさらに備えている。
【0089】
測定点の数を決定するユニット14102は、層外の発生を決定するユニット14101が、現在の測定点における振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量が層外閾値よりも大きくないと決定したときに、現在選択されている測定点が、事前に設定されたn番目の測定点であるかを決定する。そうでなければ、3番からn番目の測定点を選択して振幅比および位相差における変動量を算出する手段1409は、次の測定点を選択し、振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量を算出するように指示される。または、現在選択されている測定点が、事前に設定されたn番目の測定点であれば、振幅比および位相差における変動の傾向を決定するユニット14103は、各測定点(すなわち3番目、4番目、5番目、・・・n番目の測定点)における事前に保存された振幅比ΔAttにおける変動量および位相差ΔPSDにおける変動量に応じた、振幅比および位相差における変動の傾向を決定するように指示される。
【0090】
以前に議論したように、数字「n」は、測定される地層の測定および測定速度に基づき、当業者によって事前に設定される。たとえば、測定される地層がより柔らかい地層(たとえば海岸領域の砂岩)であれば、nはより小さくできる。一方、測定される地層がより堅い地層(たとえば頁岩)であれば、nはより大きくできる。典型的には、一般的な地層に対しては、nは20〜30に事前に設定されるが、しかし、本発明は決してそのような範囲の値には限定されず、nに対して、他の適切な値を事前に設定することができる。
【0091】
さらに他の実施形態によれば、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410は、上記ユニット14103によって決定された変動の傾向が、振幅比における変動量および位相差における変動量が3番目の測定点からn番目の測定点までの連続的な増加を維持している(すなわち、m=1、2、・・・n+1の場合に、m+1番目の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量が、m番目の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量よりも大きい)ものかを決定するように構成されている、第1の傾向を決定するユニット14104をさらに備えている。そうであれば、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有するとが表れたことを決定する。
【0092】
他のさらなる実施形態によれば、低比抵抗を有する地層の存在を決定する手段1410は、第1の傾向を決定するユニットの決定が否定的であるときに、変動の傾向が3番目の測定点からn番目の測定点までのほぼ連続的な増加を維持しているかを決定するように構成されている、第2の変動の傾向を決定するユニット14105をさらに備えている。も動の傾向がほぼ連続的な増加を維持しているものであれば、同様に、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れたことを決定する。あるいは、変動の傾向が、ほぼ連続的な増加を維持しなければ、上記物理検層機器の正面に、低比抵抗を有する地層が表れていないことを決定する。
【0093】
上述したように、ここでいう「ほぼ連続的な増加」とは、変動の傾向にある程度の波がある(言い換えると、ある測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量が、その直前の測定点における振幅比における変動量および位相差における変動量よりも小さい)としても、たとえば少なくとも70%の測定点において連続的な増加を維持していることを意味する。このパーセンテージもまた、当業者によって観衆に基づき事前に設定されることが可能であり、かつ、70%のパーセンテージは、制限というよりはむしろ例示のみのものである。
【0094】
なお、本発明の好ましい実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、およびファームウェアのいずれか1つまたは任意にの組み合わせによって、実装されうる。いくつかの実施形態では、装置の構成要素は、メモリに保存され、適切な指令実行システムによって実行されるソフトウェアまたはファームウェアによって実装される。たとえばいくつかの実施形態において、ハードウェアによって実装されるならば、装置の構成要素は、当業者に周知の以下に示す技術のいずれか1つまたは任意の組み合わせによって実装されうる:データ信号に対する論理機能を実行する論理ゲートを有するディスクリート論理回路、適切な論理ゲートの組み合わせを備えた特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブルゲートアレイ(PGA)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)およびその他。
【0095】
ソフトウェア構成要素は、指令実行システム、装置、または機器によって用いられるかまたはこれらに接続されている、任意のコンピュータ読み取り可能な媒体において実体化されうる論理機能を実行するための実行可能な指令の順序リストを含みうる。上記指令実行システム、装置、または機器は、たとえば、コンピュータシステム、プロセッサを含むシステム、または指令実行システム、装置、または機器から指令を取得して実行できる他のシステムである。加えて、本開示の範囲は、1つまたは複数の実施形態を、ハードウェアまたはソフトウェアによって構成される媒体において実現される論理において実現する機能を含む。
【0096】
本開示の実施形態は、説明の目的のために開示されている。これらは網羅的なものではなく、また、本開示を開示された正確な形式に限定するものでもない。上記の開示によれば、当業者にとっては、実施形態の数多くの変形および改良が自明である。上記の例は、制限的であることを意図しない。上述した数多くの特徴を備えた装置、方法、および機器の追加の実施形態が、さらに、予見可能である。本開示の他の装置、方法、機器、特徴、および利点は、詳細な説明および添付図面を参照した後、当業者にとってはよりいっそう自明である。そのような他の装置、方法、特徴、および利点は、本発明の保護範囲内に含まれることが意図される。
【0097】
特に指定しない限り、「できる」、「可能である」、「しうる」、「てもよい」、「ればよい」およびその他の条件用語は、通常、いくつかの実施形態が、いくつかの特徴、要素、および/または工程を備えていても良いが必ずしもそうではないことを意図している。したがって、そのような条件用語は、通常、1つまたはそれ以上の実施形態が、特徴、要素、および/または工程を備える必要があるとの着想を与えることを意図しない。
【0098】
説明的なブロック図およびフローチャートは、具体的な論理機能または処理における工程を実装するための1つまたはそれ以上の実行可能指令を含むモジュール、セグメント、またはコードの一部を表しうる処理工程またはブロックを図示する。特定の例が、具体的な工程または行為を示すにもかかわらず、多くの他の実装が可能であり、単純な設計選択によって共通してなされる。行為および工程は、機能、目的、基準への一致、従来の構造、およびその他に基づき、具体的な本記述とは異なる順序で実行してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14