特許第5944926号(P5944926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5944926型押し表皮材用の架橋性ポリオレフィン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944926
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】型押し表皮材用の架橋性ポリオレフィン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20160621BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C08L23/08
   C08K5/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-552589(P2013-552589)
(86)(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公表番号】特表2014-505772(P2014-505772A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】US2012023442
(87)【国際公開番号】WO2012106401
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年1月16日
(31)【優先権主張番号】61/439,492
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】テオドラ ドネバ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エイチ.クリー
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−531918(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0027250(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性ポリオレフィン組成物を用いて、自動車部品の被覆材料として用いられる型押し表皮材を成形する方法であって、以下の各工程:
(a)押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物を形成する工程であって、前記架橋性ポリオレフィン組成物が、(i)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して60〜75重量%の一以上のシラン架橋性ポリオレフィンポリマーと、(ii)湿気硬化型縮合触媒と、(iii)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して25〜40重量%の一以上のポリオレフィン系エラストマーであって、0.89g/cm3以下の密度及び50g/10分未満のメルトインデックス(I2)を有し、少なくとも一つのメタロセン触媒を用いて製造された前記エラストマーと、からなる組成物である、前記工程;
(b)前記押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物を、第1の面及び第2の面を有するシートへと押出成形する工程;
(c)工程(d)の前又は工程(d)において、前記シートの第1の面に型押しを付与する工程;及び
(d)前記シートを、前記架橋性ポリオレフィン組成物を含み、内側面と、型押し面が前記表皮材の外観面となるような外側面(又は外観面)とを有する型押し表皮材へと熱成形又は真空成形する工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記シラン架橋性ポリオレフィンポリマーがエチレンとビニルシランコモノマーとの共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シラン架橋性ポリオレフィンポリマーがエチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系エラストマーが0.885g/cm3以下の密度を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系エラストマーが、1〜40g/10分のメルトインデックス(I2)を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
熱成形又は真空成形された、自動車部品の被覆材料として用いられる型押し表皮材であって、該表皮材は、(a)押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物であって、(i)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して60〜75重量%の一以上のシラン架橋性ポリオレフィンポリマーと、(ii)湿気硬化型縮合触媒と、(iii)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して25〜40重量%の一以上のポリオレフィン系エラストマーであって、0.89g/cm3以下の密度及び50g/10分未満のメルトインデックス(I2)を有し、少なくとも一つのメタロセン触媒を用いて製造された前記エラストマーとを含む前記組成物から製造されたものである、前記型押し表皮材。
【請求項7】
前記型押し表皮材が、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、ドアトリム、リアパネル、ピラートリム、サンバイザー、トランクルームトリム、トランクリッドトリム、エアバッグカバー、シートバックル、ヘッドライナー、グローブボックス、ハンドル、キッキングプレート、チェンジレバーブーツ、スポイラー、サイドモール、ナンバープレートハウジング、ミラーハウジング、エアダムスカート、及び泥除け、から選択される自動車部品の被覆材料である、請求項6に記載の型押し表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟なポリオレフィン組成物、該組成物から製造されるシート及び自動車内装材用の型押し表皮材(textured skin)、並びに、前記組成物、前記シート及び前記型押し表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネルやドアトリムなどの自動車内装材用の型押し表皮材シートは、主に軟質ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)によって製造されていた。しかしながら、近年では、オレフィン系熱可塑性エラストマーが使用されている。オレフィン系熱可塑性エラストマーの型押し表皮材は、ポジティブ(positive)及びネガティブ(negative)の真空成形法を含む多くの手法によって製造される。ポジティブ真空成形法は、金型表面と、型押し表皮材シート(型押しは、真空成形前のエンボス加工により、押し出されたシートの外側面に形成される)との間を排気するための穴を有する、しぼが形成されていない(non-grained)金型を用いて、織地又はしぼ付シートを、型押しされた外側面が外部に曝されるように前記金型の内側面上に配置し、前記シートの下を排気することによって行われる。それゆえ、前記型押しシートの外側面の模様は、成形工程中に変形し易い。特に、オレフィン系熱可塑性エラストマーによって製造される型押し表皮材は、軟質PVCによって製造されたものと比べて、真空成形、特にポジティブ真空成形の際に模様が変形し易く、その結果、前記型押しを保持する能力が劣る。
【0003】
オレフィン系熱可塑性エラストマーのしぼ保持性を改良する試みとして、例えば、粘度及び低い曲げ弾性率を増加させるための動的熱処理(急熱処理)を受けたポリオレフィン系エラストマー含有量の多いポリプロピレン混合物の過酸化物処理などがあり、これによりしぼ保持性が向上するものである。例えば、米国特許第4,861,834号、米国特許第5,218,046号、米国特許第5,852,100号、米国特許第6,100,335号、米国特許第6,500,900号、米国特許第6,565,986号などを参照されたい。しかしながら、この手法は、ポリオレフィン系エラストマー混合物の反応押出成形を含み、ラジカル反応度を制御することが難しい。 また、熱成形性もエラストマーの架橋のために損なわれ得る。
【0004】
また、ポリオレフィン系エラストマー含有量の多い混合物のための別の手法として、電子線硬化法がある(例えば、米国特許第7,534,318号などを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,861,834号
【特許文献2】米国特許第5,218,046号
【特許文献3】米国特許第5,852,100号
【特許文献4】米国特許第6,100,335号
【特許文献5】米国特許第6,500,900号
【特許文献6】米国特許第6,565,986号
【特許文献7】米国特許第7,534,318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この手法は、しぼ保持性を概ね改良することができるものの、高価な電子ビーム技術を利用することができる製造者に限られ、かなり高価な問題解決策である。
【0007】
改良された架橋性ポリオレフィン組成物、及び該組成物のシートを型押し表皮材へと熱成形/真空成形する際に、しぼ保持性の改良されたものが得られる簡素な方法が、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、そのような架橋性ポリオレフィン組成物、及び押出成形された型押しシートを、しぼ保持性が改良された型押し表皮材へと真空成形する方法である。
【0009】
本発明の一実施形態は、架橋性ポリオレフィン組成物を用いて型押し表皮材を成形する方法であって、以下の各工程:
(a)押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物であって、(a.i)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して60〜75重量%の一以上のシラン架橋性ポリオレフィンポリマー、(a.ii)湿気硬化型縮合触媒、及び(a.iii)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して25〜40重量%の一以上のポリオレフィン系エラストマーであって、約0.89g/cm3以下の密度と、約50g/10分未満のメルトインデックス(I2)とを有し、少なくとも一つのメタロセン触媒を用いて製造された前記エラストマーを含む前記組成物を形成する工程;
(b)前記押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物を、第1の表面及び第2の表面を有するシートへと押出成形する工程;
(c)工程(d)の前又は工程(d)において、前記シートの第1の表面に型押しする工程;及び
(d)前記シートを、前記架橋性ポリオレフィン組成物を含み、内側面と、前記型押しされた表面が前記表皮材の外観面となるような外側面(又は外観面)とを有する型押し表皮材へと熱成形又は真空成形する工程
を含む方法である。
【0010】
本発明の一実施形態は、上記方法において、前記シラン架橋性ポリオレフィンポリマーが、エチレンとビニルシランコモノマーとの共重合体である。
【0011】
上記本発明の方法の別の実施形態は、前記シラン架橋性ポリオレフィンポリマーが、エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体である。
【0012】
上記本発明の方法の更に別の実施形態は、前記ポリオレフィン系エラストマーが0.885g/cm3以下の密度を有するものである。
【0013】
上記本発明の方法の更に別の実施形態は、前記ポリオレフィン系エラストマーが、約1〜40g/10分のメルトインデックス(I2)を有するものである。
【0014】
本発明の別の実施形態は、熱成形又は真空成形された型押し表皮材であって、該表皮材は、(a)押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物であって、(a.i)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して60〜75重量%の一以上のシラン架橋性ポリオレフィンポリマーと、(a.ii)湿気硬化型縮合触媒と、(a.iii)架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して25〜40重量%の一以上のポリオレフィン系エラストマーであって、約0.89g/cm3以下の密度及び約50g/10分未満のメルトインデックス(I2)とを有し、少なくとも一つのメタロセン触媒を用いて製造された前記エラストマーとを含む前記組成物から製造されたものである。
【0015】
本発明の別の実施形態は、上記型押し表皮材が、自動車部品、スポーツ用品、住宅製品、建築製品、家具、工業製品、バッグ、ブリーフケース、玩具、又は、絵画若しくは写真の外枠の被覆材料として用いられる。
【0016】
本発明の更に別の実施形態は、上記型押し表皮材が、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、ドアトリム、リアパネル、ピラートリム、サンバイザー、トランクルームトリム、トランクリッドトリム、エアバッグカバー、シートバックル、ヘッドライナー、グローブボックス、ハンドル、キッキングプレート、チェンジレバーブーツ、スポイラー、サイドモール、ナンバープレートハウジング、ミラーハウジング、エアダムスカート又は泥除けなどの自動車部品の被覆材料として用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の架橋性ポリオレフィン組成物は、良好に熱成形/真空成形することができ、良好なしぼ保持性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の架橋性ポリオレフィン組成物は、好ましくは縮合触媒の存在下で、水(湿気)に接触又は曝されることによって硬化する、シラン架橋性ポリオレフィンポリマー(i)を含む。このようなポリマーは、ビニルシランモノマーの重合によって又はポリマー主鎖にシラン含有分子を分岐鎖として導入する数ある方法の一つによって製造される。そのような製造手法は、米国特許第3,646,155号明細書、米国特許第6,420,485号明細書、米国特許第6,331,597号剛明細書、米国特許第3,225,018号明細書、米国特許第4,574,133号明細書又は米国特許出願公開第2010/0181092号明細書に開示されており、これらのすべては、参照することによりそのままこの明細書に組み込まれる。好ましいシラン架橋性ポリオレフィンポリマーは、エチレンとビニルシランコモノマーとの共重合体である。その他の好ましいシラン架橋性ポリオレフィンポリマーは、エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体である。このようなポリマーとしては、ダウ ケミカル社(Dow Chemical Co.)から入手できるSi−LINKTM[エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体]又はボレアリス社(Borealis)から入手できるVISICOTMポリマーなどの市販品を用いることができる。
【0019】
シラン官能基化ポリオレフィンポリマー(i)は、架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して80重量%以下、好ましくは75重量%以下、更に好ましくは72重量%以下の量で含まれる。また、前記シラン官能基化ポリオレフィンポリマー(i)は、架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して60重量%を超える、好ましくは65重量%以上、更に好ましくは66重量%以上の量で含まれる。
【0020】
本発明において用いられる前記シラン官能基化ポリオレフィンポリマー(i)は、好ましくは触媒(ii)(湿気硬化型縮合触媒ともいう。)の存在下で、水(湿気)に接触又は曝すことによって硬化するものである。好適な触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、第一錫オクトアート、第一錫アセテート、ナフテン酸鉛、亜鉛オクトアート等のカルボン酸金属塩、チタンエステルやチタン酸テトラブチルなどのチタン錯体等の有機金属化合物、エチルアミン、ヘキシルアミン、ピペリジン等の有機塩基及び鉱酸や脂肪酸等の酸が挙げられる。周囲条件又は促進された硬化系では、一般的に芳香族スルホン酸等の速効性の縮合触媒を用いる。好ましい触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルジメトキシ錫、ジブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、第一錫オクトアート等の有機錫化合物及び芳香族スルホン酸である。このような湿気硬化型縮合触媒や触媒系は、市販品から容易に入手することができる。マスターバッチ形式の好適な触媒の市販品の例としては、これに限られないが、ダウ プラスチックス社(DOW Plastics)から入手できるDFDB 5480NT(錫触媒系)、 DFDA 5488NT(周囲条件硬化型触媒のマスターバッチ)又はボレアリス社(Borealis)のAMBICATTM 系LE 4476が挙げられる。
【0021】
前記シラン官能基化ポリオレフィンポリマーを十分に硬化させるための湿気硬化型縮合触媒(ii)の量は、一般に、選ぶ種類にもよるが、好ましくはシランポリマー100重量部当たり約0.01〜0.1重量部の範囲である。上記の触媒マスターバッチとして市販のポリマーマスターバッチ形式のものを添加する場合は、シラン共重合体95部に対して5部を添加する。
【0022】
本発明の前記シラン官能基化ポリオレフィンポリマー(i)及び触媒(ii)は、湿気硬化前に、更に一以上の低密度メタロセンポリオレフィン系エラストマー(iii)と混合される。湿気硬化については、以下に詳述するが、水(湿気)に曝されることによって開始する。前記シラン官能基化ポリオレフィンポリマー(i)、触媒(ii)及び一以上の低密度メタロセンポリオレフィン系エラストマー(iii)は、本発明の前記架橋性ポリオレフィン組成物が得られる特定の組み合わせで混合される。一般的には、前記ポリオレフィン系エラストマー(iii)はエチレン共重合体である。前記ポリオレフィン系エラストマーは、約0.89g/cm3以下、好ましくは約0.885g/cm3以下の密度を有するものがよい。本明細書及び特許請求の範囲内のすべてのポリマー密度の値は、ASDM D−792に基づいて測定されるものである。前記ポリオレフィン系エラストマーは、好ましくは約50g/10分未満、より好ましくは1〜40g/10分、更に好ましくは1〜30g/10分のメルトインデックス(I2)を有するものである。特に指定しない限り、本明細書及び特許請求の範囲内のすべてのメルトインデックスは、ASTM D−1238に基づいて190℃/2.16kgの条件で測定されるものである。
【0023】
前記ポリオレフィン系エラストマー(iii)は、前記架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して20重量%以上、好ましくは25重量%以上、更に好ましくは26重量%以上の量で含まれる。また、前記ポリオレフィン系エラストマー(iii)は、前記架橋性ポリオレフィン組成物の全重量に対して40重量%未満、好ましくは35重量%以下、更に好ましくは30重量%以下の量で含まれる。
【0024】
前記ポリオレフィン系エラストマー(iii)は、少なくとも一つのメタロセン触媒を用いて調製される。また、前記エラストマーは、複数のメタロセン触媒を用いて調製しても、異なるメタロセン触媒を用いて調製された複数のエラストマーを混合してもよい。いくつかの実施形態においては、前記エラストマーは、実質的に線状のエチレンポリマー又は線状のエチレンポリマー(S/LEP)である。S/LEPエラストマー及び他のメタロセン触媒系エラストマーは当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,272,236号明細書は、参照することによりそのままこの明細書に組み込まれる。また、前記エラストマーとしては、例えば、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手できるENGAGETM エラストマー樹脂のようなSLEPエラストマー、エクソン社(Exxon)から入手できるEXACTTMポリマー又は三井化学(Mitsui Chemicals)から入手できるTAFMERTMポリマーのようなLEPエラストマーなどの市販品を用いることができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記ポリオレフィン系エラストマー(iii)は、前記シラン官能基化ポリマー(i)に対して非相溶性(すなわち、非混和性)でなければならない。これは、ラジカルグラフト化法又はシラン共重合体の混合物を相溶性のある結晶性ポリエチレンで被覆するという従来技術の系とは対照的である。本発明者らは、前記シラン共重合体と前記オレフィン系エラストマーとが非相溶性であることによって、エラストマーの含有量が高含有量(最大40%程度)であっても、前記シラン共重合体は架橋ネットワークを形成することができるものと考えている。したがって、最終混合物は、優れた硬化特性、機械特性及び柔軟性を有しているのである。
【0026】
前記架橋性ポリオレフィン組成物は、例えば、酸化防止剤(例えば、チバ スペシャルティ ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals)の登録商標であるIRGANOXTM1010等のヒンダードフェノール類など)、亜リン酸エステル類(例えば、チバ スペシャルティ ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals)の登録商標であるIRGAFOSTM168など)、UV安定剤、粘着性添加剤(cling additives)、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン類など)、可塑剤(例えば、ジオクチルフタレートやエポキシ化大豆油など)、熱安定剤、離型剤、粘着付与剤(例えば、炭化水素系粘着付与剤など)、ワックス(例えば、ポリエチレンワックスなど)、加工助剤(例えば、オイルやステアリン酸等の有機酸、有機酸の金属塩など)、及び、着色剤若しくは顔料などの一般的な樹脂用の他の成分/添加剤を、本発明の組成物の所望の物理特性又は機械特性に干渉しない程度に含有してもよい。
【0027】
本発明の組成物は、個々の成分及び添加剤を単にドライブレンド又は溶融ブレンドすることにより製造することができる。便宜上、前記成分のいくつかを、溶融加工などによって、マスターバッチに予め混合してもよい。このようなマスターバッチは、各成分の均一な分散を促進し、エンドユーザの施設で配合する必要がある成分の数を最小限に抑えるのに有用である。
【0028】
混合又は溶融ブレンドを、混合物を溶融してフィルム又はシートを製造するための押出機、カレンダー加工装置又は他の種類の成形装置により行ってもよく、これは、時にはインラインコンパウンディングとも称されている。或いは、本発明の押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物は、添加剤の有無にかかわらず、(一般的にはペレットの形態の)混合物が得られる従来の押出成形によって溶融ブレンドされてもよい。その後、得られた混合物(又はペレット)は、フィルム又はシート状に押し出される。添加剤は、濃縮物及び/又はマスターバッチとして、前記混合工程の生材料(neat)、言い換えれば、標準状態(すなわち、液体及び/又は紛体として)の材料に添加することができる。
【0029】
本発明の押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物は、カレンダー加工、キャスティング又は最も好ましい(共)押出成形法などの公知の方法によって、フィルム及び/又はシート又は単層若しくは多層のシートに加工される。押し出されたシートは、第1の面及び第2の面を有する。限定するものではないが、慣例によれば、シートの押出しは水平となるように押し出される(押出方向は、重力方向と直交する方向である)。このような慣例によれば、押し出される際の地面と直交する前記シートの高さ(厚み)により、前記シートの上面は地面から最も遠く、前記シートの底面は地面に最も近くなる。
【0030】
本発明の押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物を含む前記シートは、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上、更に好ましくは0.5mm以上の厚さを有する。また、前記シートは、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1mm以下の厚さを有する。
【0031】
本発明の前記押出成形が可能な架橋性組成物は、一以上の樹脂組成物を含む一以上の層と共押出しをしてもよい。好ましい実施形態としては、本発明の前記押出成形が可能な架橋性組成物は、発泡ポリウレタンと共押出しされる。この実施形態で成形すると、押出成形が可能な架橋性組成物を含む、発泡裏打ち材付きの型押し表皮材が得られる。
【0032】
本発明の一実施形態では、前記シートが、その後、熱成形か、好ましくは真空成形法によって本発明の型押し表皮材へと成形される。ネガティブ成形方法(時には「雌」成形とも称される)又は好ましくはポジティブ成形方法(時には「雄」成形とも称される)のいずれも、所望形状の型押し表皮材を成形するのに好適である。前記型押し表皮材は、内側面と、時には外観面とも称される外側面とを有する。
【0033】
ポジティブ成形方法においては、型押し表皮材を製造するための前記シートに形状を付与する金型表面が、成形後の表皮材の内側面となるシート面に接触する。
【0034】
ネガティブ成形方法においては、前記型押し表皮材を製造するための前記シートに形状を付与する金型表面が、成形後の表皮材の外側面又は外観面となるシート面に接触する。
【0035】
成形は、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、更に好ましくは150℃以下で行われる。また、成形は、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、更に好ましくは130℃以上で行われる。本発明の前記架橋性ポリオレフィン組成物を含むシートを成形するための好ましい目標温度は140℃である。
【0036】
本発明の型押し表皮材は、織地又は「しぼ」の外観を有する。型押しを付与する工程は、前記押出成形が可能な架橋性ポリオレフィン組成物の押出しと同時に行っても、或いは、前記組成物をシート状に押し出した後の別の工程として行ってもよいが、表皮材へと成形する工程の前又は該工程の間に、型押しを付与してもよい。
【0037】
例えば、そのような型押し表皮材を製造する一つの方法は、初めにエンボスシート、すなわち少なくとも一方の面(一般的には上面であるが、前記方法及び装置の調整次第では底面又は両面もあり得る)に織地又はしぼの外観を有するシートを押出成形することである。押し出されたシートは、二つのロール間の隙間を通過する。ここで、前記2つのロールのうちの一方のロールには、該ロールに接触することによって前記シートの一方の表面に付与される、ネガティブな型押し面が設けられている。
【0038】
時には、型押し面はシートの第1の面と称され、型押しのない面はシートの第2の面と称される。或いは、型押し面がシートの第2の面と称され、型押しのない面がシートの第1の面と称されてもよい。型押しを付与する工程は、シートの製造と同じ(オンライン)又は異なる(オフライン)工程で行うことができる。また、オフラインで型押しを付与するのに適した方法、例えば、エンボス加工や型押成形(stamping)などのいずれを採用してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態においては、一方の面に型押しを有するシートが、ポジティブ成形法による本発明の型押し表皮材の製造に用いられる。前記シートは、成形前に、型押し面が型押し表皮材の外側面(又は外観面)となるように配置される。言い換えれば、ポジティブ成形法における成形工程の間、前記シートの型押し面が型押し表皮材の外側面となるように、前記シートの型押しのない面が金型表面に接触する。
【0040】
本発明の別の実施形態においては、型押しのないシート、時には、型押しなしシートと称されるシートを、ネガティブ成形法によって本発明の型押し表皮材へと成形することもできる。なお、前記ネガティブ成形法は、表皮材成形用のシートに型押しを付与する成形工程において、型押し型が用いられる。
【0041】
本発明の更に別の実施形態においては、雄型及び雌型による圧縮成形法を、本発明の型押し表皮材の成形に用いることができる。また、この成形法では、型押しなしシートも型押しの有るシートも用いることができる。型押しなしシートの場合は、雌型が、型押し表皮材を成形するための型押し面を備える。
【0042】
本発明の架橋性ポリオレフィン組成物の湿気硬化は、前記組成物がシート状に押し出されると始まる。硬化は、空気に曝すことにより(周囲条件硬化)又はその他の適宜の方法によって行うことができる。本発明の方法の一実施形態では、前記架橋性ポリオレフィン組成物が押し出され、型押しシートへとエンボス加工される。エンボス加工に続いて空気中に曝すことは、湿気硬化を誘発する好ましい方法である。他の好ましい実施形態では、エンボス加工後に架橋を促進させることができる。すなわち、前記型押しシートに水や熱水を噴霧することによって、又は、前記型押しシートがエンボスロール間から出るとき又は出た後の真空成形前に、前記型押しシートを、例えば、蒸気室、連続蒸気加硫トンネル、熱水サウナなどで蒸気に曝すことによって、前記型押し保持性を改良することができる。
【0043】
本発明のその他の実施形態では、型押し表皮材へ成形される押出しシートに含まれる前記架橋性組成物の硬化は、周囲条件硬化又は促進することによって完遂させることができる。更に別の実施形態では、型押し保持性を改良するために、成形された表皮材に水や熱水を噴霧したり、又は、前記成形された表皮材を、例えば、蒸気室、連続蒸気加硫トンネル、熱水サウナなどで蒸気に曝したりすることができる。
【0044】
本発明による型押し表皮材は、以下の様々な分野における製品の被覆材料として有用である。(i)自動車分野では、例えば、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、ドアトリム、リアパネル、ピラートリム、サンバイザー、トランクルームトリム、トランクリッドトリム、エアバッグカバー、シートバックル、ヘッドライナー、グローブボックス、ハンドルカバー、内装用成形品として、例えば、キッキングプレート、チェンジレバーブーツ、外装用部品として、例えば、スポイラー、サイドモール、ナンバープレートハウジング、ミラーハウジング、エアダムスカート、泥除け、自動車部品のその他成形品、(ii)スポーツ用品の分野では、運動靴の装飾部品、ラケットのグリップ、様々な球技の用具や用品、自転車やオートバイ、三輪車などのハンドルグリップやサドルの被覆材料、(iii)住宅や建築の分野では、家具、机、椅子などの被覆材料、門、ドア、フェンスなどの被覆材料、壁の装飾用材料、カーテンウォールの被覆材料、キッチン、洗面所、トイレなどの屋内用床材、ベランダ、テラス、バルコニー、車庫(carport)などの屋外用床材、玄関又は戸口のマット、テーブルクロス、コースター、灰皿用敷物などのカーペット類、(iv)工業部品の分野では、電動工具などのグリップやホース、及びそれらの被覆材料、包装材料、そして、(v)その他の分野では、バッグ、ブリーフケース、箱、ファイル、文庫本、アルバム、文房具、カメラ本体、人形及びその他の玩具、腕時計バンドや絵画若しくは写真の外枠のような成形品の被覆材料である。
【0045】
例えば、耐引掻き性や耐疵性を向上させるために、TPUスプレーやラッカー等によってコーティングするなどの一以上の上塗り処理を、成形後の型押し表皮材に適用してもよい。
【実施例】
【0046】
実施例1〜3及び比較例A〜Eは、シラン架橋性ポリオレフィンポリマー、エラストマー及び硬化触媒を表1に示す組成で含むものである。表1において:
「DFDB 5451 NT」は、190℃、2.16kg荷重下におけるメルトインデックスが1.5g/10分であり、0.920g/cm3の密度を有する架橋性エチレン−ビニルトリメチルシラン共重合体であり、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手でき;
「DFDA 5488 NT」は、架橋硬化性ポリマー用の周囲条件又は促進された硬化を行う低密度ポリエチレン(LDPE)の触媒マスターバッチであり、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手でき;
「ENGAGE 8100」は、190℃、2.16kg荷重下におけるメルトインデックスが1g/10分であり、0.870g/cm3の密度を有する実質的に線状のエチレン−オクテン共重合体エラストマーであり、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手でき;
「ENGAGE 7256」は、190℃、2.16kg荷重下におけるメルトインデックスが2g/10分であり、0.885g/cm3の密度を有する実質的に線状のエチレン−オクテン共重合体エラストマーであり、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手でき;そして、
「LDPE 400E」は、190℃、2.16kg荷重下におけるメルトインデックスが1g/10分であり、0.925g/cm3の密度を有する低密度ポリエチレンポリマーであり、ダウ ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手できる。
【0047】
小型の密閉式混合機を用いて、三成分を160℃で計10分間混合し、試料を調製した。混合した組成物を直ぐに圧縮して、ホットセット性試験用の厚さ2mmのプレートと、機械特性及びしぼ保持性評価用の厚さ1mmのプレートとを作製した。
【0048】
硬化及び硬化の評価手順:前記プレートを60℃の水浴中に入れ、直ちに硬化時間を記録した。ホットセット性は、IEC規格540の14節及び英国規格6469のセクション3.3に従って、200℃、0.2メガパスカル(MPa)、水浴中の硬化時間の関数として規格通りに測定される重量に基づいて測定した。ホットセット試験の合格は、試料が破壊されないか、200℃、15分間で175%の伸長条件を上回ることを必要とし、175%の伸長に達するまでの時間及びエンドポイント(%)を報告した。さらに、完全に硬化した試料(すなわち、ホットセットが最小となる場合)について以下の特性を測定した。その結果を表1に示す。表1において:
「引張強度」及び「引張伸び」は、5A試料を用いて、ISO 527に従ってZwick社のZ010試験機により測定し;
「曲げ弾性率」は、1mm/分の試験速度で、ISO 178に従ってZwick社のZ010試験機により測定し;そして、
「収縮率」は、1mmプレートの元の長さと、冷却緩和後のプレートの長さとを測定し、収縮量を百分率で示したものである。収縮率(%)=(冷却緩和後のプレートの長さ − 元の長さ)/元の長さ ×100である。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例2、3、比較例D及びEは、コーン形状の漏斗によって真空成形したものである。試験は、試料の熱成形性としぼ保持性の定性的な比較ができるように設定した。この試験では、各圧縮成形されたプレートを、オーブン内で10分間、140℃に加熱された金属製フレームで固定した後、真空漏斗の上に置き、そして、0.4バールの圧力でコーン(漏斗)の形状に熱成形した。試料プレートが破断したかどうか、漏斗型の形状及びしぼがどの程度反映されたかを記録した。その結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
各試料のしぼ保持性を、それぞれ定性的評価1(不可)、3(不十分)、7(可)及び10(良)によって評価し、熱性成形評価は両評価の合計とした。比較例Dは、広範な架橋によりコーン形状に完全に成形することができなかった。また、比較例Eは破断した。実施例2及び3は、良好に熱成形することができ、良好なしぼ保持性を示した。