特許第5945056号(P5945056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5945056
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】吸収性物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/15 20060101AFI20160621BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   A61F13/15 321
   A61F13/15 143
   A61F13/53 300
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-229865(P2015-229865)
(22)【出願日】2015年11月25日
(62)【分割の表示】特願2015-42069(P2015-42069)の分割
【原出願日】2015年3月4日
【審査請求日】2015年11月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】黒原 健志
【審査官】 北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0046587(US,A1)
【文献】 特開2001−172893(JP,A)
【文献】 特表平09−510754(JP,A)
【文献】 特開平09−108261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15 − 13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料から湿紙を形成し、前記湿紙に香料を添加した後、前記湿紙の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シートを得る抄紙工程と、前記パルプ原反シートを解繊し、この解繊した粉砕パルプを積繊して吸収体を製造する吸収性物品の加工工程とを含むことを特徴とする吸収性物品の製造方法。
【請求項2】
前記湿紙を多層式の円網抄紙機によって形成し、前記香料は多層に積層された紙層のうち、中間層となる紙層に添加されている請求項1記載の吸収性物品の製造方法。
【請求項3】
香料が混合された原料から湿紙を形成した後、前記湿紙の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シートを得る抄紙工程と、前記パルプ原反シートを解繊し、この解繊した粉砕パルプを積繊して吸収体を製造する吸収性物品の加工工程とを含むことを特徴とする吸収性物品の製造方法。
【請求項4】
前記湿紙を多層式の円網抄紙機によって形成し、前記香料は多層に積層された紙層のうち、中間層となる紙層を形成する原料に混合されている請求項3記載の吸収性物品の製造方法。
【請求項5】
前記香料は、シクロデキストリン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチンの群の中から選択されるいずれか一種以上からなる包接物質に内包されている請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香り付きの吸収体を備えた使い捨ておむつ、尿取りパッド、失禁パッド、生理用ナプキン等の吸収性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着用者が排泄をすると芳香・臭いを発生して、排泄物の臭気を和らげる或いは監護者・保護者などが着用者の排泄を知覚できるようにしたものが知られている。
【0003】
香料を吸収性物品に添加するには、香り成分の揮発を抑制するため、香料をシクロデキストリン等からなる包接物質に内包させ、吸収性物品に塗布等されている。これは、揮発による香料ロスを防止するとともに、香り付きの吸収性物品の場合には、使用前は香りが低く抑えられ、使用中から使用後にかけては香りが強く発生し、マスキングやハーモナイズド効果を発することが品質要求としてあるためである。
【0004】
吸収性物品への香料の添加方法としては、図8に示されるように、シクロデキストリンに包接した香料を吸収性物品の加工工程において直接吸収体に塗布するのが最も簡便な手法である。
【0005】
この他に、図9に示されるように、香料調合工程において、香料とシクロデキストリンとの包接反応溶液を乾燥して未包接香料を揮発させ、残留した香料包接化合物の粉体を回収した後、吸収性物品の製造工程において、吸収体に直接添加するか、油系溶媒に混合して塗布するという方法もある(下記特許文献1参照)。
【0006】
さらに、下記特許文献2では、ポリマーが濡れているとき香気の放出がポリマーの動的湿潤力により解発される香料の含浸されたヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを作るための方法であって、(i)固体担体および香料をヒドロゲル形成性吸収性ポリマーの重合ゲル化点の前のヒドロゲル形成性吸収性ポリマーの反応中間生成物と混合する工程、(ii)香料の含浸されたヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを形成する工程、(iii)香料の含浸されたヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを乾燥する工程を具備する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−177424号公報
【特許文献2】特許第3222480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図8に示される香料を吸収体に直接塗布する方法では、香料が吸収体とトップシートとの層間などに局在するため、香料と体液との接触が効率的に行われず水分と反応しにくい課題があった。上記特許文献1記載のものも、香料とシクロデキストリンとの鎖体を吸収性物品を構成する層間に接着剤によって接着しているので、同様の課題がある。
【0009】
また、上記特許文献1に記載された手法では、香料調合工程において、包接反応溶液を乾燥させる乾燥工程や、残留した香料包接化合物の粉体を回収する回収工程が別途必要になるため、製造工程が複雑化する課題があった。
【0010】
さらに、上記特許文献2記載のものでは、香料が含浸されたヒドロゲル形成性吸収性ポリマーを吸収体に含有しているため、ポリマーの包接性が強く、ゲルブロッキングもあり、感知可能なレベルの香りを発生させるためには、多量の香料が必要となるなど、コストが増大化する課題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、香料と体液との接触効率を高め、少量の香料で効果的に香りを発生できるようにするとともに、製造工程を簡略化した吸収性物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、原料から湿紙を形成し、前記湿紙に香料を添加した後、前記湿紙の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シートを得る抄紙工程と、前記パルプ原反シートを解繊し、この解繊した粉砕パルプを積繊して吸収体を製造する吸収性物品の加工工程とを含むことを特徴とする吸収性物品の製造方法が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明は、パルプ原反シートに香料を添加する第1形態例であり、湿紙を形成した後、この湿紙に香料を添加したものである。その後、吸収性物品の加工工程において前記香料が添加されたパルプ原反シートを解繊し、この解繊した粉砕パルプを積繊して吸収体を製造することにより、香料が吸収体の全体に亘ってほぼ均一に分散し、使用時に香料と体液との接触効率が高まり、少量の香料で効果的に香りを発することができるようになる。
【0014】
また、抄紙工程で湿紙を乾燥させるのと同時に、未包接香料が揮発するため、香料を調合する工程で乾燥工程や回収工程を別途設ける必要が無くなり、製造工程が簡略化できる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記湿紙を多層式の円網抄紙機によって形成し、前記香料は多層に積層された紙層のうち、中間層となる紙層に添加されている請求項1記載の吸収性物品の製造方法が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、多層式の円網抄紙機によって抄紙する場合において、複数の紙層からなる湿紙のうち、中間層となる紙層に前記香料を添加している。これにより、香料が添加された中間層の両面にそれぞれ表層の紙層が被覆するため、香料の揮発が抑えられるとともに、抄紙フェルトに香料が移行して香料ロスや次生産品への香り付着などが防止できるようになる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、香料が混合された原料から湿紙を形成した後、前記湿紙の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シートを得る抄紙工程と、前記パルプ原反シートを解繊し、この解繊した粉砕パルプを積繊して吸収体を製造する吸収性物品の加工工程とを含むことを特徴とする吸収性物品の製造方法が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、パルプ原反シートに香料を添加する第2形態例であり、予め香料を原料に混合しておき、この香料が混合された原料で湿紙を形成したものである。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記湿紙を多層式の円網抄紙機によって形成し、前記香料は多層に積層された紙層のうち、中間層となる紙層を形成する原料に混合されている請求項3記載の吸収性物品の製造方法が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、多層式の円網抄紙機によって抄紙する場合において、複数の紙層からなる湿紙のうち、中間層となる湿紙の原料に香料を混合している。
【0021】
請求項に係る本発明として、前記香料は、シクロデキストリン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチンの群の中から選択されるいずれか一種以上からなる包接物質に内包されている請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品の製造方法が提供される。
【0022】
上記請求項記載の発明では、香料の包接物質として用いるのに好ましいものを列挙している。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、香料と体液との接触効率が高まり、少量の香料で効果的に香りが発生できるとともに、製造工程が簡略化できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1形態例に係る抄紙工程を示す概略図である。
図2】吸収体製造装置を示す概略図である。
図3】第1形態例に係る吸収性物品の製造要領を示す流れ図である。
図4】第2形態例に係る抄紙工程を示す概略図である。
図5】第2形態例に係る吸収性物品の製造要領を示す流れ図である。
図6参考形態例に係る吸収体製造装置を示す概略図である。
図7参考形態例に係る吸収性物品の製造要領を示す流れ図である。
図8】従来の吸収性物品の製造要領を示す流れ図(その1)である。
図9】従来の吸収性物品の製造要領を示す流れ図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0026】
本発明に係る吸収性物品は、有孔または無孔の不織布や孔開きプラスチックシート等からなる透液性トップシートとポリエチレン等からなる不透液性の防漏シートとの間に、綿状パルプ等からなる吸収体が介在された構造を備えるものであり、具体的には、使い捨ておむつ、尿取りパッド、失禁パッド、生理用ナプキン等が例示できる。
【0027】
本吸収性物品は、前記吸収体が、抄紙工程で得られたパルプ原反シートを解繊し、この解繊された粉砕パルプを積繊することにより構成されるとともに、解繊前の前記パルプ原反シートに香料を添加することにより、吸収体に香料が添加されたものである。
【0028】
前記香料としては、体液との接触によりはじめて香りを発し、接触前はほとんど香りを発しないように構成されたものを用いるのが好ましく、具体的には、香料成分自体が水分と反応して香りを発するもの、香料を包接物質に内包したものなどによって構成することができる。このうち、揮発による香料ロスを防止するとともに、使用前には香りが低く抑えられており、使用中から使用後にかけては香りが強く発生し、マスキングやハーモナイズド効果を発するという香り付きの吸収性物品に要求される品質を満たすため、香料を包接物質に内包したものとするのが好ましい。この香料は、前記吸収体に所定の方法で添加されている。
【0029】
前記香料としては、天然香料及び合成香料のいずれを用いてもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。香料の具体例としては、リュウゼン香、安息香、海狸香、霊猫香、丁字油、ガルバナム、ジャスミンアブソリュート、ラブタナム、マテ茶、メリロット、ミモザ、ムスクトンキン、ミルラ、オークモスまたはモスドシェーヌ、乳香、ビャクシ香、オリス、バチュリ、ローズマリー油、白檀油、ベチバー油、バイオレットリーフアブソリュートなどの天然香料、高級アルコール、アルデヒド、ベンズアルデヒド、安息香酸、ケイ皮酸、ケイ皮アルデヒド、ケイ皮アルコール、クマリン、エステル、インドール、ケトン、サリチル酸と関連化合物、テルペノイド、バニリンなどの各種の合成香料あるいはこれらの2つ以上の混合物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。香料として市販品のものを広く使用することもできる。前記香料は、揮発性の高い香料を使用するのが好ましい。
【0030】
また、前記香料として、香料自体に消臭効果があるものや、排泄物の不快臭と調和して新たに不快を感じさせない香りを発生させるハーモナイズド香料を使用することも可能である。
【0031】
香料成分自体が水分と反応して香りを発するものとしては、香料ベースをアルコールと水で溶解、抽出した飲料などに使用される水溶性香料(エッセンス)などがある。
【0032】
前記香料は、シクロデキストリン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチンの群の中から選択されるいずれか一種以上からなる包接物質で内包するのが好ましい。特に、シクロデキストリンは、香りを発するだけでなく、排泄物の臭い成分を吸着するのに有効であるため好ましい。
【0033】
このように、解繊前のパルプ原反シートに前記香料を添加することにより、以下の効果が奏される。
【0034】
先ず第1に、本吸収性物品では、前記香料が添加されたパルプ原反シートを製造しておき、このパルプ原反シートを解繊し、解繊された粉砕パルプを積繊することにより前記吸収体が製造されるため、香料が吸収体の全体にほぼ均一に分散されるようになる。従って、従来のように所定の層間に香料が局在したものに比べ、吸収性物品の使用時に、香料と体液との接触効率が高まり、香りが発生しやすくなるとともに、少量の香料で効果的に香りが発生できるようになる。
【0035】
第2に、パルプ原反シートの抄紙工程において、湿紙を乾燥させる前のウェットパートに香料を添加した場合には、抄紙工程の湿紙を乾燥させるのと同時に未包接香料を揮発させることが可能となるため、香料を調合する工程で、包接反応溶液を乾燥させる乾燥工程や、残留した香料包接化合物を回収する回収工程(図9参照。)を別途設ける必要が無くなり、製造工程が簡略化できるようになる。
【0036】
本明細書において、前記「包接物質」とは、自身の分子構造の内部空間に他の物質を取り込む作用を持つ物質を意味し、「包接化合物」とは、包接物質が香料等の被包接物質を取り込んだ状態の物質を意味する。
【0037】
次に、本吸収性物品の製造方法のうち、吸収体の製造方法について詳細に説明する。
【0038】
〔第1形態例〕
第1形態例に係る吸収性物品の製造方法は、図1及び図3に示されるように、円網抄紙機1によって、原料Pから湿紙2を形成し、前記湿紙2に香料3を添加した後、前記湿紙2の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シート4を得る抄紙工程と、図2及び図3に示されるように、吸収体製造装置20によって、前記パルプ原反シート4を解繊し、この解繊した粉砕パルプ5を積繊して吸収体6を製造する吸収性物品の加工工程とを含んでいる。また、本製造方法では、図3に示されるように、香料と包接物質との水溶液を撹拌タンク内で混合し、香料を包接物質によって被覆する香料調合工程を備えている。
【0039】
前記抄紙工程で使用される抄紙機としては、円網抄紙機や長網抄紙機など公知の抄紙機を使用できるが、図1に示されるように、円網抄紙機1を用いるのが好ましい。
【0040】
前記円網抄紙機1は、図1に示されるように、ワイヤー部、プレス部、ドライヤー部、リール部を備えたもので、基本構造において従来のものと変わらないものを使用できる。
【0041】
前記円網抄紙機1の前記ワイヤー部について簡単に説明すると、上面が開放された槽をなし、内部に吸収体6の原料となるパルプなどの繊維材料からなる原料Pが水に分散されて貯留された抄槽7と、前記抄槽7内の原料液中を回転し、表面の抄網に湿紙を形成する円網シリンダー8と、前記円網シリンダー8の表面に形成された湿紙を抄紙フェルト9に移し取るクーチロール10とからなる円網抄紙部11が流れ方向に複数段に亘って、好ましくは3段以上、図示例では5段で備えられている。前記円網抄紙部11を複数段設けることにより、各段の円網シリンダー8によって移し取られた紙層が順次積層されて、多層に抄き合わされたパルプ原反シート4を得ることができるようになる。
【0042】
図1に示されるように、前記湿紙2を多層式の円網抄紙機1によって形成する場合、前記香料3は、多層に積層される紙層のうち、中間層となる紙層に添加するのが好ましい。すなわち、図示例のように、5段の円網抄紙部11、11…を設けた場合、上流側から2段目〜4段目の円網抄紙部11によって形成された紙層に対しそれぞれ香料3を添加し、最上流側の1段目及び最下流側の5段目の円網抄紙部11によって形成された紙層に対しては、香料3を添加しない構造とするのが好ましい。
【0043】
これにより、香料3が添加された中間の紙層の両面がそれぞれ表層の紙層で被覆されるため、香料3の揮発が抑えられるとともに、抄紙フェルト9に香料が移行して香料ロスや次生産品への香りの付着などが発生するのが防止できるようになる。
【0044】
前記香料3を湿紙に添加するには、別途香料調合工程において、香料3を水又は油系溶媒に混合するとともに、前記包接物質を添加した香料含有溶液を調合し、図1に示されるように、この香料含有溶液を噴射ノズル12からスプレー塗布するのが好ましい。
【0045】
前記香料含有溶液の構成例としては、水88.4重量%、α−シクロデキストリン10.3重量%、香料1重量%、キサンタンガム0.3重量%とすることができる。ここで、包接物質としてα−シクロデキストリンとともにキサンタンガムを添加することにより、香料のα−シクロデキストリンへの包接性が高まり、水分を含んだ湿紙2に塗布した直後に一時的に水分率が上昇することによって香料が離脱するのが抑制できる。
【0046】
前記香料3の塗布量の具体例としては、5段の円網抄紙部11を備えた円網抄紙機1によって、1層当たり130g/m、5層で合計650g/mのパルプ原反シート4を抄紙する場合、湿紙2のうち中間の3層の紙層にそれぞれ13g/m、合計39g/mの香料含有溶液をスプレー塗布することができる。これは、標準的なベビー用の使い捨ておむつに使用される吸収体の重量6gに対し、香料含有溶液が0.36g(香料単体では、0.0036g)となる計算である。ただし、本技術はベビー用の使い捨ておむつに限るものではなく、大人用などの広く一般的な使い捨ておむつにも有効である。
【0047】
次いで、前記吸収性物品の加工工程のうち、吸収体6の製造工程について詳細に説明すると、吸収体6の製造には、図2に示されるように、吸収体製造装置20が用いられる。前記吸収体製造装置20は、外周面に周方向に適宜の間隔で複数の積繊集積用凹部が形成された積繊用回転ドラム21と、パルプ原反シート4を粉砕する解繊装置22と、該解繊装置22で粉砕された粉砕パルプ5を空気流に乗せて前記積繊用回転ドラム21まで搬送するための繊維供給路23とから構成されている。なお、図示しないが、前記繊維供給路23にポリマー投入口を設け、所定量の割合でポリマー粒子等を粉砕パルプ5中に混合するようにしてもよい。
【0048】
前記吸収体製造装置20では、前記抄紙工程で抄造されたパルプ原反シート4から繰り出されたシートが前記解繊装置22に導入され、細かく粉砕される。粉砕された粉砕パルプ5は、積繊用回転ドラム21からの吸引作用によって前記繊維供給路23を構成するケーシング内を空気流に乗って下流側の積繊用回転ドラム21まで搬送され、積繊用回転ドラム21に形成された繊維集積用凹部に堆積する。
【0049】
前記吸収体製造装置20を用いて製造された吸収体6は、香料3が添加されたパルプ原反シート4を前記解繊装置22で細かく粉砕した後、堆積させることにより形成されるため、香料3が吸収体6の厚み方向及び平面方向の全体に亘ってほぼ均一に分散するようになる。
【0050】
〔第2形態例〕
第2形態例に係る吸収性物品の製造方法は、図4及び図5に示されるように、予め原料液に香料3を混合しておき、この香料3が混合された原料Pから湿紙2を形成した後、前記湿紙2の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シート4を得る抄紙工程と、前記パルプ原反シート4を解繊し、この解繊した粉砕パルプ5を積繊して吸収体6を製造する吸収性物品の加工工程とを含むものである。
【0051】
前記香料3は、図4に示されるように、前記円網抄紙機1を用いる場合、円網抄紙部11の抄槽7に貯留された原料P内に添加される。前記香料3を添加するには、上記第1形態例と同様に、香料調合工程において、香料3を水又は油系溶媒に混合するとともに、前記包接物質を添加した香料含有溶液を調合した上で添加する。
【0052】
これによって、湿紙2に香料3が均一に分散した状態で添加されるため、パルプ原反シート4を解繊して吸収体6を製造することにより、吸収体6内に香料3がより均一に分散するようになる。
【0053】
図4に示されるように、5段の円網抄紙部11、11…が備えられた多層式の円網抄紙機1を用いた場合、最上流側の1段目及び最下流側の5段目の円網抄紙部11、11を除く、中間の2段目〜4段目の円網抄紙部11、11…の抄槽7内に、前記香料3を添加するのが好ましい。これにより、上記第1形態例と同様に、香料3の揮発が抑えられるとともに、抄紙フェルト9に香料が移行するのが防止できるようになる。
【0054】
前記香料3を添加した香料含有溶液の構成例としては、上記第1形態例と同様とすることができる。前記香料含有溶液の添加量は、1%の原料Pに対し、2.0〜4.0kg/t、好ましくは3.0kg/t程度とするのがよい。上記の割合で構成した香料3を、1%の原料Pに3.0kg/tの量で添加した場合、標準的なベビー用の使い捨ておむつに用いられる吸収体6gに対し、香料含有溶液3が1.08g配合される計算になる。ただし、本技術はベビー用の使い捨ておむつに限るものではなく、大人用などの広く一般的な使い捨ておむつにも有効である。
【0055】
参考形態例〕
参考形態例に係る吸収性物品の製造方法は、図6及び図7に示されるように、原料Pから湿紙2を形成した後、前記湿紙2の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シート4を得る抄紙工程と、前記パルプ原反シート4に香料3を添加した後、前記パルプ原反シート4を解繊し、この解繊した粉砕パルプ5を積繊して吸収体6を製造する吸収性物品の加工工程とを含むものである。
【0056】
本製造方法では、通常の抄紙工程によってパルプ原反シート4を製造した後、パルプ原反シート4を解繊する直前に香料3を添加しているため、パルプ原反シート4に対する香料3の添加が比較的容易となり、製造工程を簡略化できるようになる。
【0057】
また、香料3を添加したパルプ原反シート4の解繊工程では、未包接の香料が揮発する乾燥効果も期待できる。つまり、パルプ原反シート4を解繊する工程と、細かく解繊された粉砕パルプ5が空気流に乗って積繊ドラムに達するまでの工程で、若干の乾燥効果を有している。この乾燥効果は、上記第1形態例及び第2形態例ほどではないが、通常の製造方法に比べて高くなっている。このことは、後段で詳述する実施例(表1)に示されるように、比較例3参考形態例)の使用前の香りの強さが実施例1(上記第1形態例)や実施例2〜4(上記第2形態例)ほど低くはないが、比較例1、2と比べると低くなっている(1.0→0.8)ことからも明らかである。
【0058】
前記香料3の添加は、香料がパルプ原反シート4の表面に均一に分散するように、香料3を水等に混合した香料含有溶液を調合しておき、この香料含有溶液を塗布装置24によってスプレー塗布等するのが好ましい。このとき、前記香料含有溶液を塗布したことにより製造された吸収体6の水分量が高まりカビの発生が懸念されるため、カビ発生の防止対策として、香料含有溶液に防腐剤を添加するのが好ましい。
【0059】
前記香料含有溶液の構成例としては、水86.9重量%、α−シクロデキストリン10.3重量%、香料1重量%、防腐剤1.8重量%とすることができる。前記香料含有溶液の塗布量は、39g/mとすることができる。これは、標準的なベビー用の使い捨ておむつに使用される吸収体6g当たりに香料含有溶液が0.36g配合される量となる。ただし、本技術はベビー用の使い捨ておむつに限るものではなく、大人用などの広く一般的な使い捨ておむつにも有効である。
【実施例】
【0060】
表1に示されるように、吸収体の製造方法に係る上記形態例に準じて吸収体を手作りにて製造し(パルプ原反シートを手漉き、シート粉砕、吸収体形成、各々の工程で香料を添加)、使用前後の香りの強さを相対的に評価した。
【0061】
前記香料含有溶液は、A溶液として、水88.4%、α−シクロデキストリン10.3%、香料1.0%、キサンタンガム0.3%からなるものを使用し、B溶液として、水86.9%、α−シクロデキストリン10.3%、香料1.0%、防腐剤1.8%からなるものを使用した。実施例1〜4及び比較例1では前記A溶液を、比較例3及び比較例2では前記B溶液を用いた。
【0062】
吸収体の作成手順は、次のとおりである。
手順1:(1)イオン交換水にNBKPを懸濁し1%溶液を作成する。(2)角型シートマシン(25cm×25cm)で坪量130g/mの手漉きシート(パルプ原反シート)を作製する(NBKP1%溶液を濾水層で撹拌し濾水→香料含有溶液をスポイトでシート全体に滴下→プレス・ドライヤー乾燥)。(3)調理用ミキサーで前記シートを綿状に粉砕する。(4)粉砕パルプ6gと吸収性ポリマー10gとを混合し、幅10cm×長さ35cm×厚み1cmの吸収体を作成する。(5)前記吸収体を坪量18g/mのクレープ紙で包装する。(6)その外周を更に坪量18g/mの親水性不織布で包装する。
【0063】
手順2:(1)イオン交換水にNBKPを懸濁し1%溶液を作成する。(2)この溶液に香料含有溶液を添加する。(3)角型シートマシン(25cm×25cm)で坪量130g/mの手漉きシート(パルプ原反シート)を作製する(香料含有NBKP1%溶液を濾水層で撹拌し濾水→プレス・ドライヤー乾燥)。(4)以下、手順1の(3)〜(6)と同じ。
【0064】
手順3:(1)イオン交換水にNBKPを懸濁し1%溶液を作成する。(2)角型シートマシン(25cm×25cm)で坪量130g/mの手漉きシート(パルプ原反シート)を作製する(NBKP1%溶液を濾水層で撹拌し濾水→プレス・ドライヤー乾燥→香料含有溶液をスポイトでシート全体に滴下)。(3)以下、手順1の(3)〜(6)と同じ。
【0065】
手順4:(1)イオン交換水にNBKPを懸濁し1%溶液を作成する。(2)角型シートマシン(25cm×25cm)で坪量130g/mの手漉きシート(パルプ原反シート)を作製する(NBKP1%溶液を濾水層で撹拌し濾水→プレス・ドライヤー乾燥)。(3)調理用ミキサーで前記シートを綿状に粉砕する。(4)粉砕パルプ6gと吸収性ポリマー10gとを混合し、幅10cm×長さ35cm×厚み1cmの吸収体を作成する。(5)香料含有溶液をスポイトで吸収体全体に滴下する。(6)前記吸収体を坪量18g/mのクレープ紙で包装する。(7)その外周を更に坪量18g/mの親水性不織布で包装する。
【0066】
上記手順1〜3では、手漉きシート(パルプ原反シート)を作製した後、シートを温度25℃、湿度50%の恒温室内に1週間静置した。また、上記手順4では、親水性不織布で包装した後、吸収体を温度25℃、湿度50%の恒温室内に1週間静置した。
【0067】
香りの強さの評価方法は、使用前の香りの強さと、使用後の香りの強さをそれぞれ官能評価し、比較例1の使用前の香りの強さを1.0として相対評価した。
【0068】
使用前の香りの強さは、上記手順で作成した吸収体をそれぞれチャック付きビニール袋に入れ、チャックを閉じてから5分後にチャックを開け、袋内の香りを嗅いだときの香りの強さを5段階(0、0.5、1.0、1.5、2.0点)で評価した。これを30人(N=30)の評価者に行い、平均点を使用前の香りの強さとした。
【0069】
使用後の香りの強さは、吸収性物品の装着時に体液によって吸収体が湿潤したときを想定した香りの強さであり、上記手順で作成した吸収体に対し、150ccのイオン交換水を吸収体全体に均一に吸収させ、チャック付きビニール袋に入れ、チャックを閉じてから5分後にチャックを開け、袋内の臭いを嗅いだときの香りの強さを5段階(0、0.5、1.0、1.5、2.0点)で評価した。これを30人(N=30)の評価者に行い、平均点を使用後の香りの強さとした。
【0070】
香りの強さの相対評価は、使用前後のそれぞれの香りの強さ(平均値)を、比較例1の使用前の香りの強さを1.0とした比率に換算することにより行う。数値が高い程、香りが強いことを表している。
【0071】
その結果、表1に示されるように、本発明に係る実施例1〜は、香料を吸収体に散布した比較例1、2と比べて、使用前の香りが抑えられ、使用後に十分な香りが感じられる結果が得られた。また、比較例3は、水分と効率的に反応し、比較例2の使用後の香りの強さよりも強い香りを発生させる結果となった
【表1】
【符号の説明】
【0072】
1…円網抄紙機、2…湿紙、3…香料、4…パルプ原反シート、5…粉砕パルプ、6…吸収体、7…抄槽、8…円網シリンダー、9…抄紙フェルト、10…クーチロール、11…円網抄紙部、20…吸収体製造装置、21…積繊用回転ドラム、22…解繊装置、23…繊維供給路、P…原料
【要約】
【課題】香料と体液との接触効率を高め、少量の香料で効果的に香りを発生できるようにするとともに、製造工程を簡略化する。
【解決手段】パルプ原反シート4を解繊し、解繊された粉砕パルプ5を積繊してなる吸収体6を備え、解繊前の前記パルプ原反シート4に香料3を添加する。製造方法としては、原料Pから湿紙2を形成し、前記湿紙2に香料3を添加した後、前記湿紙2の脱水及び乾燥を経てパルプ原反シート4を得る抄紙工程と、前記パルプ原反シート4を解繊し、この解繊した粉砕パルプ5を積繊して吸収体6を製造する吸収性物品の加工工程とを含む。
【選択図】図1
図1
図2
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図9