(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
火力発電所のボイラー(燃焼炉)等で石炭を燃焼させた際に生じる排ガスには、石炭が含有する微量の水銀が含まれている。このような排ガス中の水銀には、非水溶性の金属(0価)の水銀と、水溶性の2価水銀(Hg
2+)とが存在している。金属水銀は、気体として存在している水銀(Hg
0)と、燃焼灰に付着した粒子状水銀(Hg
P)との形態で存在している。また2価水銀は、他の陰イオンとイオン化合物(例えば塩化水銀HgCl
2)を形成している。
【0003】
ボイラーは、付帯設備として排ガス処理系を備えており、粒子状水銀(Hg
P)の大部分は、排ガス処理系が有する電気集塵機(Electrostatic Precipitator、EP)やバグフィルタなどの集塵装置にて除去される。また、水溶性のHg
2+は、排ガス処理系が有する湿式の排ガス脱硫装置(Fuel Gas Desulfurization、FGD)において硫黄酸化物(SO
x)を除去する際に、同時に高効率に除去される。
【0004】
しかしながら、非水溶性のHg
0は、EPやFGDで除去されにくいため、ハロゲン化物を石炭と混合燃焼させることで、排ガス中にハロゲンを供給し、系中でHg
0を塩化水銀(HgCl
2)、すなわちHg
2+とした後、湿式脱硫装置内で塩化水銀を吸収除去する方法が提案されている。
【0005】
また、排ガスに塩化水素を添加することにより、同様にHg
0をHg
2+とした後、湿式脱硫装置内で塩化水銀を吸収除去する方法が提案されている。例えば、塩化アンモニウムや塩化水素水溶液を加熱して塩化水素を発生させる塩化水素気化器を脱硝装置の前段に設け、煙道中の排ガス中に塩化水素を供給して、Hg
0を塩化水銀とした後、除去する方法および装置構成が記載されている(例えば特許文献1,2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2で示された装置構成では、排ガス処理系の煙道に塩化水素を供給する設備を取り付け、更に煙道内に均一において排ガスと塩化水素とを均一に混合させるための分散器を設けることとしている。
【0008】
しかし、このような構成を採用する場合、煙道内に塩化水素を供給するためには、煙道自体に大がかりな改修が必要となり、設置コストが増加する。また、上記特許文献1,2の構成により、現在稼働中の火力発電所について排ガスからのHg
0除去を試みる場合、煙道自体に改修が必要であるためにボイラーの燃焼を停止したのちに改修工事を行う必要がある。そのため、技術を導入しにくくHg
0対策として採用しにくいものであった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、既存の設備にも導入しやすく且つ効果的に排ガスからHg
0を除去することができる水銀除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の水銀除去装置は、煙道内を流動する排ガスに含まれる0価水銀を除去する水銀除去装置であって、還元性ガスが流動する第1配管と、前記第1配管に接続し前記煙道内に前記還元性ガスを供給するノズルと、を有し、前記排ガス中の窒素酸化物と前記還元性ガスとを反応させて前記窒素酸化物を還元する脱硝装置と、前記ノズルを介して前記煙道内に前記0価水銀を酸化する酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給装置と、前記煙道内の前記ノズルの下流側に設けられ、前記排ガスに洗浄水を接触させる除去部と、を備え、前記酸化性ガス供給装置は、加熱により前記酸化性ガスを生じる原料液を加熱する加熱部と、前記加熱部に前記原料液を供給する供給部と、前記加熱部と前記第1配管とを接続する第2配管と、を有し、前記加熱部が、前記煙道の外部に設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、腐食性の高い酸化性ガスを貯留する必要がなくなるとともに、原料液の濃度や加熱部への供給量を制御することにより、酸化性ガスの発生量の制御も容易となる。そのため、排ガス中の0価水銀の濃度が変動しても、素早く酸化性ガスの供給量を変動させて制御することができる。また、加熱部が煙道の外に設けられているため、既存の設備に対して付設が容易である。したがって、付設が容易であり既存の設備に導入しやすく、且つ効果的に排ガスから0価水銀を除去することができる水銀除去装置とすることができる。
【0012】
本発明においては、前記加熱部は、前記原料液が供給される加熱部本体と、該加熱部本体を加熱する加熱手段と、を有し、前記加熱手段は、前記煙道から前記排ガスが導入されて熱源として用いることが望ましい。
この構成によれば、排ガスの熱エネルギーを利用することで、加熱部を加熱するためのエネルギーが不要となり、運転コストの低廉化に寄与することができる。
【0013】
本発明においては、前記煙道内に前記排ガスに含まれる前記酸化性ガスまたは前記0価水銀の少なくともいずれか一方の濃度を計測するセンサーを有し、前記酸化性ガス供給装置は、前記センサーの測定結果に基づいて、前記0価水銀を酸化するために必要な量の前記酸化性ガスを供給することが望ましい。
この構成によれば、測定結果を用いたフィードバック制御またはフィードフォワード制御により、無駄なく必要な量の酸化性ガスを供給することができる。したがって、例えば原料液の濃度が変動したとしても、酸化性ガスの供給量を好適に制御することができ、確実にHg
0の除去を行うことができる。
【0014】
本発明においては、前記原料液は、ハロゲン化アンモニウム水溶液であることが望ましい。
ハロゲン化アンモニウムを加熱すると、酸化性ガスであるハロゲン化水素と同時にアンモニアが生じる。アンモニアは脱硝装置にて供給し、排ガス中の窒素酸化物を還元するために用いることができるため、生成物を無駄なく利用することができる。また、ハロゲン化アンモニウムの分解によって生じるアンモニアの分だけ、脱硝装置から排ガス中に供給するアンモニアを減量することができるため、コストを低廉化することができ好適である。
【0015】
本発明において、前記原料液がハロゲン化アンモニウム水溶液である場合、前記煙道内に前記排ガスに含まれる前記還元性ガスまたは前記窒素酸化物の少なくともいずれか一方の濃度を計測する第2センサーを有し、前記脱硝装置は、前記第2センサーの測定結果に基づいて、前記窒素酸化物を還元するために必要な量の前記還元性ガスを供給することが望ましい。
この構成によれば、ハロゲン化アンモニウムから生成するアンモニアを用いて窒素酸化物を還元し、不足分の還元性ガスを必要分だけ供給することで、過不足なく還元性ガスを供給し、0価水銀を除去しつつ効果的に窒素酸化物も除去することができる。
【0016】
本発明において、前記第1配管内には、該第1配管内に乱流を発生させる乱流発生手段を有することが望ましい。
この構成によれば、第2配管から第1配管へ供給される酸化性ガスが第1配管内で生じる乱流により攪拌され濃度分布が均一になる。そのため、煙道内に酸化性ガスを均一に散布することが容易となり、効果的に排ガスから0価水銀を除去することができる水銀除去装置とすることができる。
【0017】
この場合、前記接続部において、前記第1配管の内部に侵入して接続された前記第2配管の端部を、前記乱流発生手段として用いることができる。
この構成によれば、第1配管に別途加工を加えることなく第1配管内に乱流を発生させることができる。
【0018】
本発明においては、前記除去部は、前記排ガスに含まれる硫黄酸化物を前記洗浄水に溶解して除去する脱硫装置であることが望ましい。
この構成によれば、通常備える設備を利用して水銀を除去することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、既存の設備にも導入しやすく且つ効果的に排ガスからHg
0を除去することができる水銀除去装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、
図1〜
図4を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る水銀除去装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0022】
図1は、本実施形態の水銀除去装置が適用された排ガス処理装置の系統図である。この図に示すように、この排ガス処理装置は、ボイラー1、脱硝装置2、電気集じん器3、一塔式の脱硫装置(除去部)4及び煙突5から構成されている。
【0023】
ボイラー1は、例えば火力発電所にて発電用水蒸気を発生させるためのものであり、石油、天然ガスあるいは石炭等を燃料として水蒸気を発生させる。このような燃料をボイラー1で燃焼させたことによって発生した排ガスは、ボイラー1から脱硝装置2に供給される。
【0024】
脱硝装置2は、上記排ガス中に含まれる窒素酸化物NO
xを除去するものである。この脱硝装置2では、触媒の存在下で排ガスにアンモニア(NH
3)を作用させることにより窒素酸化物NO
xを窒素(N
2)と水(H
2O)に分解する。また、本発明の水銀除去装置10としての機能も併せ持つものである。
【0025】
電気集じん器3は、対向電極間の電場によって排ガス中に含まれる粉塵を吸着して除去するものである。
【0026】
脱硫装置4は、排ガス中に含まれる硫黄酸化物SO
xを除去する湿式の脱硫装置であり、塔内に導入される排ガスに対して塔上方から循環水を散水することにより、排ガス中の硫黄酸化物SO
xを循環水中に溶解させて除去するものである。また、本発明の水銀除去装置10としての機能も併せ持つものである。
【0027】
煙突5は、脱硫装置4から排出された排ガスを高所の外気に放出するものである。
【0028】
その他、排ガス処理装置の煙道には、排ガスの温度を制御するとともに排ガスが有する熱エネルギーを回収し、回収した熱エネルギーを設備の加熱に用いるための熱交換器が随所に設けられていることとしても良い。
【0029】
このように構成された排ガス処理装置においては、ボイラー1において燃料が燃焼されることによって発生した排ガスが脱硝装置2に供給される。排ガスは、脱硝装置2において窒素酸化物NO
xが除去され、電気集じん器3において粉塵が除去され、脱硫装置4において硫黄酸化物SO
x、微細な塵及び水銀が除去された後に、煙突5を介して外部に排出される。
【0030】
また、排ガス中には、非水溶性の金属水銀(0価水銀、Hg
0)、水溶性の2価水銀(Hg
2+)、燃焼灰に付着した粒子状水銀(Hg
P)が存在するが、Hg
2+については脱硫装置4における散水によって除去され、Hg
Pについては電気集じん器3によって除去される。
【0031】
さらに、本実施形態の水銀除去装置を有するため、窒素酸化物NO
xや硫黄酸化物SO
xの除去と同時に、排ガスに含まれるHg
0についても回収可能となっている。以下、説明する。
【0032】
図2は、脱硝装置2の一部構成であるアンモニア供給装置(還元性ガス供給装置)20を説明する説明図である。本実施形態の水銀除去装置は、構成の一部である酸化性ガス供給装置6がアンモニア供給装置20に接続する形で付設されている。
【0033】
アンモニア供給装置20は、排ガスが流動する煙道X内にアンモニア(還元性ガス)を供給するための設備であり、供給されるアンモニアは、煙道Xの下流側に設けられている不図示の触媒において、排ガスに作用させて窒素酸化物NO
xを分解するために用いられる。
【0034】
アンモニア供給装置20は、アンモニアを貯留するタンク21と、タンク21から払い出されたアンモニアを煙道X内に導入する配管(第1配管)22と、煙道X内でアンモニアを散布するためのノズル23と、を有している。
【0035】
アンモニアは、液化アンモニアとしてタンク21に貯留され、ポンプ24を介して払い出されて気化器25において気化する。ノズル23からは気化したアンモニアが散布される。
【0036】
酸化性ガス供給装置6は、アンモニア供給装置20において気化器25とノズル23との間に接続され、ノズル23を介して煙道X内に酸化性ガスを供給するために設けられている。
【0037】
ここで「酸化性ガス」とは、Hg
0を酸化することができるガスであり、具体的にはハロゲン化水素である。例えば、酸化性ガスとして塩化水素を用いた場合、下記の式1に示す反応式により、Hg
0がHg
2+に酸化される。
【0038】
[化1]
Hg
0+2HCl+1/4O
2 → HgCl
2+H
2O
【0039】
本実施形態の酸化性ガス供給装置6は、塩化アンモニウム(NH
4Cl)を加熱分解することによって生じるアンモニアと塩化水素とを煙道X内に供給する構成となっている。生じるアンモニアは、煙道X内に導入されることにより、窒素酸化物の還元に用いることが可能であるため、加熱分解によって生じるアンモニア量に応じて、アンモニア供給装置20からのアンモニア供給量を低減させることが可能となる。
【0040】
具体的には、酸化性ガス供給装置6は、塩化アンモニウム水溶液を貯留する原液タンク61と、原液タンク(供給部)61からポンプ(供給部)621を用いて払い出した塩化アンモニウム水溶液が流動する配管62と、配管62を介して供給される塩化アンモニウム水溶液を加熱し、蒸発させる蒸発部63と、蒸発した塩化アンモニウムを分解しアンモニアと塩化水素とを生成させる分解部(加熱部)64と、アンモニア供給装置20の配管22と一端が接続し、分解部64にて生成したアンモニアおよび塩化水素(以下、アンモニアと塩化水素とをあわせて、生成ガスと称する)を配管22内に供給する配管(第2配管)65と、を有している。
【0041】
その他、酸化性ガス供給装置6は、洗浄水を貯留する洗浄水タンク66と、洗浄水タンク66と配管62とを接続する配管661と、洗浄水タンク66から洗浄水を払い出すポンプ662と、を有し、配管62内を洗浄する洗浄設備を有している。洗浄設備は、通常は配管661に設けられたバルブ663を閉じておくとともに、必要に応じて配管62内に洗浄水を供給し、配管62内に塩化アンモニウムが析出し管が閉塞する不具合を抑制するためのものである。
【0042】
蒸発部63と分解部64の内部には、蒸発部63側から分解部64側にキャリアガスが流動しており、塩化アンモニウム及び生成するアンモニアと塩化水素とを配管22に向けて流動させる構成となっている。キャリアガスとしては、設備維持費用の低廉化の観点から空気を用いることが好ましい。
【0043】
蒸発部63は、塩化アンモニウム水溶液が供給される中空筒状の本体631と、本体631を囲んで設けられ本体631の内部空間を加熱するヒーター632とを有している。同様に分解部64も、蒸発部63で蒸発した塩化アンモニウムが接続配管633を介して供給される本体641と、本体641を囲んで設けられ本体641の内部空間を加熱するヒーター642と、を有している。
【0044】
塩化アンモニウムは、337℃で昇華し、分解してアンモニアと塩化水素と生じることが知られ、また500℃以上に加熱するとアンモニアが分解することが知られている。そこで、蒸発部63および分解部64においては、本体631,641内の温度を例えば350℃から500℃に保ち、塩化アンモニウムの昇華と分解とを行う。
【0045】
蒸発部63と分解部64との内部温度は、同じ温度であっても良く、異なる温度であっても良い。たとえば、分解を促進することを目的として蒸発部63の内部温度を分解部64よりも高くすることとしても良く、逆に塩化アンモニウムの分解反応を十分に行うために分解部64の内部温度を蒸発部63よりも高くすることとしても良い。
【0046】
図では、蒸発部63と分解部64とを、接続配管633で接続された別体の構成として図示しているが、一体に設けることとしても良い。すなわち、本体631,641を連通した一体の筒状部材として設け、周囲に複数のヒーターを配置して筒状部材内において温度環境が異なる複数の領域を形成するように構成することとしても構わない。
【0047】
蒸発部63と分解部64とは、塩化アンモニウムが十分に分解する時間だけ内部を流動することが可能な長さを有しており、内部に導入される塩化アンモニウムは、蒸発部63および分解部64の内部を連続的に流動する間に分解する。
【0048】
上述のようにして蒸発部63および分解部64で生成する生成ガスは、配管65内を流動し、図において符号Aで示す配管22と配管65との接続部から配管22内に供給される。
【0049】
図3は接続部Aを示す説明図である。
図3に示すように、接続部Aにおいては、配管22におけるアンモニアの流れ方向に交差する方向に配管65が接続され、配管65から生成ガスが供給される。配管22内のアンモニアと、配管65内の生成ガスが合流する箇所では、相対的な流速の違いから乱流が発生し、下流側へ流動ながら均一に混合され、混合ガスGを生じる。
【0050】
図4は、接続部Aの構成の変形例である。まず、
図4(a)に示すように、接続部Aにおいては元の配管65から分岐した複数の配管(図では配管65a,65bの2つ)を対向させて接続することとしても良い。
図3の構成では、配管65から供給される生成ガスは、配管22において配管65が接続する側(符号22a)から混合されながら対向側(符号22b)に拡散することとなるが、
図4(a)の構成では配管22の両側から生成ガスの混合および拡散が起こるため、配管22内のアンモニアに対して素早く均一に塩化水素を混合して混合ガスGとすることができる。
【0051】
また、
図4(b)に示すように、配管65の端部(乱流発生手段)651を配管22の内部にまで導入し、たとえば配管22の幅方向における中央付近から生成ガスを放出する構成としても良い。図では端部651を配管22における下流側に向け、配管22内のアンモニアの流れ方向に、生成ガスを放出している。端部651が配管22における上流側に向く構成であっても良い。このような構成でも、配管22内のアンモニアに対して素早く均一に塩化水素を混合して混合ガスGとすることができる。
【0052】
図2に戻って、接続部Aにおいて混合され生じる混合ガスは、ノズル23を介して煙道X内に供給される。通常、脱硝装置2のアンモニア供給装置20が有するノズル23は、煙道X内の排ガスに対してできるだけ均一にアンモニアを供給することが可能なように作り上げられている。
【0053】
また、煙道Xの上流には、排ガス中のHg
0、窒素酸化物の濃度を測定するセンサー(第1センサー、第2センサー)7が設けられている。例えば、煙道Xの上流に設けられたエコノマイザー(節炭器)の出口付近に設けられる。
【0054】
センサー7による測定結果は制御装置8に送られ、制御装置8は、アンモニア供給装置20によるアンモニアの供給量や、酸化性ガス供給装置6による塩化水素およびアンモニアの供給量を制御(フィードフォワード制御)する。制御は、例えば、配管22に設けられたバルブ29や配管65に設けられたバルブ69の開度調節、アンモニア供給装置20のポンプ24や酸化性ガス供給装置6のポンプ621の運転制御によって行う。
【0055】
具体的には、センサー7によってHg
0の濃度を測定することにより、酸化性ガス供給装置6から供給する塩化水素の量の必要量を知ることができ、必要十分な量の塩化水素を供給するようにバルブ29やポンプ24の運転を制御する。
【0056】
同様に、センサー7によって窒素酸化物の濃度を測定することにより、アンモニア供給装置20から供給するアンモニアの必要量を知ることができる。酸化性ガス供給装置6からは、塩化水素と同時にアンモニアも供給されるため、不足分のアンモニアを供給するようにバルブ69やポンプ621の運転を制御することができる。
【0057】
また、煙道Xの下流にセンサーを設け、アンモニア供給装置20や酸化性ガス供給装置6をフィードバック制御することとしても良い。
【0058】
例えば、センサーによってHg
0や塩化水素の濃度を測定することにより、酸化性ガス供給装置6から供給する塩化水素の量の過不足を知ることができる。塩化水素の供給量が不足していればHg
0が高濃度に検出され、塩化水素の供給量が過剰であれば塩化水素が高濃度に検出されるためである。制御装置は、測定結果に基づいて必要十分な量の塩化水素を供給するようにバルブ29やポンプ24の運転を制御する。
【0059】
同様に、センサーによって窒素酸化物やアンモニアの濃度を測定することにより、アンモニア供給装置20から供給するアンモニアの量の過不足を知ることができる。アンモニアの供給量が不足していれば窒素酸化物が高濃度に検出され、アンモニアの供給量が過剰であればアンモニアが高濃度に検出されるためである。制御装置は、測定結果に基づいて必要十分な量のアンモニアを供給するようにバルブ69やポンプ621の運転を制御することができる。
【0060】
本実施形態の水銀除去装置では、酸化性ガス供給装置6から供給する塩化水素を、脱硝装置2のアンモニア供給装置20が有するノズル23を利用して煙道X内に供給することによって、煙道X内の排ガスに均一に塩化水素を供給することが可能となっている。これにより、排ガスに含まれるHg
0は、上述の式1に従って効果的にHg
2+に酸化され、
図1に示す脱硫装置4において除去することが可能となる。
【0061】
以上のような構成の水銀除去装置によれば、脱硝装置2が有するアンモニア供給装置20に酸化性ガス供給装置6を付設することで、ノズル23を介して煙道X内に塩化水素を供給することができるため、付設が容易であるとともに、煙道X内に塩化水素を均一に散布することが容易となる。したがって、既存の設備に導入しやすく、且つ効果的に排ガスからHg
0を除去することができる水銀除去装置とすることができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、塩化アンモニウム水溶液を原料液とし、塩化アンモニウム水溶液を加熱して塩化水素を得ることとしたが、これに限らず、Hg
0を酸化することができる酸化性ガスが得られるならば、他の原料液を用いることとしても構わない。
【0063】
例えば、塩化アンモニウムの他のハロゲン化アンモニウムを用いることもでき、また、塩化ナトリウム水溶液や塩化カルシウム水溶液などの金属塩水溶液を用いることもできる。加えて、金属塩水溶液として海水を用いることも可能である。
【0064】
更には、酸化性ガスとしてハロゲン化水素を用いず、ハロゲンガスそのものを用いても良い。
【0065】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る水銀除去装置の説明図であり、
図2に対応する図である。
【0066】
本実施形態の水銀除去装置は、第1実施形態の水銀除去装置と一部共通している。異なるのは、第1実施形態の酸化性ガス供給装置6においては、塩化アンモニウムを分解する蒸発部63,分解部64をそれぞれが有するヒーター632,642を用いて加熱していたところ、本実施形態では、煙道X内を流動する排ガスの熱を利用して加熱することである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0067】
原液タンク61から供給される塩化アンモニウム水溶液は、蒸発分解部67内に導入される。蒸発分解部67には煙道X内から高温の排ガスを分収し蒸発分解部67を加熱する分収配管68が接続されている。分収配管68は、煙道Xから排ガスを分収し蒸発分解部67に供給する第1分収配管681と、蒸発分解部67を加熱するために用いた排ガスを再び煙道Xに戻すために、蒸発分解部67と煙道Xとを接続する第2分収配管682とを有する。
【0068】
蒸発分解部67は、中空筒状の蒸発部671と、蒸発部671と連通する分解部672と、蒸発部671および分解部672の周囲を覆い、分収配管68が接続されて高温の排ガスが流動する加熱装置(加熱手段)673が設けられている。蒸発部671および分解部672と、加熱装置673と、は熱交換器を形成している。
【0069】
脱硝装置2が有する脱硝触媒は、350℃〜400℃付近で最も反応効率が高くなるため、通常、排ガスは熱交換器(エコノマイザー、節炭器)により除熱され、脱硝触媒に導入される前には排ガスの温度が350℃〜400℃程度となるように設計されている。蒸発分解部67では、この熱を利用して加熱している。
【0070】
このような構成の酸化性ガス供給装置6を有する水銀除去装置では、塩化アンモニウムの分解に必要な加熱のためのエネルギーを排ガスから得ることができるため、設備のランニングコストを低減し、省エネルギー化を実現することができる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例は、本発明の効果を検証するために行ったものであり、この実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0073】
図6は、実施例にて用いた試験装置100を説明する説明図である。試験装置100は、電気加熱式のいわゆる落下管炉(Drop Tube Furnace)であり、管状反応炉110と、管状反応炉110の一端側から内部に塩化アンモニウムとHg
0と一酸化窒素(NO)を供給する供給装置120と、管状反応炉110内に設けられた脱硝触媒130と、管状反応炉110内の他端側に接続され内部の気体を排気するブロア140と、管状反応炉110内の気体を取り出し分析する分析装置150と、を有している。
【0074】
管状反応炉110は、電気炉111とマントルヒーター112とによって構成され、それぞれの内部には、互いに筒状に連通した反応炉110Aが形成されている。反応炉110Aは、一端側に加熱されていない領域AR1が設定され、他端側に加熱されている領域AR2が設定されている。領域AR2には、脱硝触媒130が配置されている。
【0075】
供給装置120は、タンク121からポンプ123によって吸い上げた塩化アンモニウム水溶液をマスフローコントローラー122で流速を制御した空気によって第1噴霧ノズル124を介して反応炉110A内の領域AR1に噴霧する構成となっている。また、第1噴霧ノズル124とは別体に設けられた第2噴霧ノズル125を介して、反応炉110A内の領域AR1にHg
0および一酸化窒素を供給する。
【0076】
分析装置150は、反応炉110A内の気体をサンプリングし、反応炉110A内に供給する塩化アンモニウムとHg
0と一酸化窒素により反応を分析する。領域AR2に配置される脱硝触媒130の上流側の気体は、排出口151a、フィルタ151b、バルブ151cを有する第1サンプリング部151からサンプリングされ、脱硝触媒130の下流側の気体は、排出口152a、フィルタ152b、バルブ152cを有する第2サンプリング部152からサンプリングされる。サンプリングした気体は、水銀分析計153にてHg
0濃度が検出される。同様に、冷却器154およびダイヤフラムポンプ155を介してガス分析計156に導入され、一酸化窒素濃度が検出される。
【0077】
このような試験装置100を用い、脱硝反応とHg
0の酸化反応とが同時に生じることを確かめた。試験条件は、反応炉温度:350℃、ガス流量:3.3NL/min、塩化アンモニウム供給量:100ppm、Hg
0供給量:10μg/m
3、一酸化窒素供給量:176ppmであった。
【0078】
試験結果として、下記式1,2に従い水銀酸化率および脱硝率をそれぞれ求めた。試験結果を表1に示す。
【0079】
【数1】
【0080】
【数2】
【0081】
【表1】
【0082】
以上の結果より、塩化アンモニウムの分解によって生じた塩化水素によって水銀が酸化されていることが確かめられた。また、アンモニアを別途供給しなくても塩化アンモニウムの分解によって生じたアンモニアによって脱硝反応が進行していることが確かめられ、本発明の方法により脱硝装置に用いるアンモニアの使用量を低減させることが可能であることも確かめられた。これらのことより、本発明の有用性が確かめられた。