(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945118
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】シェル形針状ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20160621BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20160621BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20160621BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20160621BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/46
F16C33/78 G
F16C33/78 A
F16H57/04 Q
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-282645(P2011-282645)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-133833(P2013-133833A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉村 友悟
【審査官】
北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−060040(JP,A)
【文献】
特開2007−064429(JP,A)
【文献】
特開2010−060042(JP,A)
【文献】
特表2009−530554(JP,A)
【文献】
実開昭61−006024(JP,U)
【文献】
実開平07−020427(JP,U)
【文献】
特開2008−101652(JP,A)
【文献】
特開2002−323052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56、33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、その内径面に配置された針状ころ軸受と、その針状ころ軸受に対し潤滑油の流れの方向の下流側に配置されたシールリングとにより構成され、前記針状ころ軸受が保持器とその保持器に保持された多数の針状ころによって構成され、前記シールリングは前記外輪のツバ部と保持器の間に介在され、前記シールリングと回転軸の間に適宜なすき間が形成されたシェル形針状ころ軸受において、前記シールリングを弾性のある樹脂によって形成し、前記シールリングとこれに摺接する保持器の潤滑油の流れの方向におけるいずれか一方の摺接面又は前記シールリングとこれに摺接する前記ツバ部の潤滑油の流れの方向におけるいずれか一方の摺接面に、多数の凸部と凹部の集合による凹凸面が形成されたことを特徴とするシェル形針状ころ軸受。
【請求項2】
前記凹凸面が、当該摺接面の中心から放射方向に形成された多数の溝による凹部と、各凹部間の凸部の集合によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項3】
前記凹凸面が、格子状の溝によって形成された凹部と、各凹部間の凸部の集合によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項4】
前記凹凸面が、同心状の複数の溝によって形成された凹部と、各凹部間の凸部の集合によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項5】
前記凹凸面が、同心状の複数の溝によって形成された凹部と、各凹部間の環状の凸部と、全周にわたり周方向に一定の間隔をおいて形成された径方向の凹部の集合によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項6】
前記凹凸面が、分散状に設けられた多数の凸球面からなる凸部と、各凸部の周りの平坦面による凹部の集合によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項7】
前記シールリングは、全周の1個所において切り離し部が設けられ、その切り離し部の一方は他方の切り離し部に対して凸形をなし、当該他方の切り離し部は前記凸形に対して補完形状となる凹形をなし、前記凸形と凹形が周方向に一定のすき間をもって相互に嵌合していることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項8】
前記凸形が段差形に形成され、前記凹形が前記凸形に対し補完形状の段差形に形成されたことを特徴とする請求項7に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項9】
前記凸形と凹形の周方向の面が相互にすき間なく接触することにより潤滑油の軸方向への通過を遮断することを特徴とする請求項7又は8に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受を用いたことを特徴とする変速機用オイルポンプ。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受を用いたことを特徴とする変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シェル形針状ころ軸受に関し、特に潤滑油の流量制御が可能なシールリング付きシェル形針状ころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の自動変速機の軸を支持する軸受や、変速機のオイルポンプ部に使用される軸受として、潤滑油の流量制御が可能であり薄型軽トルクであること等から、従来のブッシュに代えてシールリング付きシェル形針状ころ軸受が用いられるようになっている(特許文献1)。
【0003】
シールリング付きシェル形針状ころ軸受は、
図18に示したように、シェル形の外輪1と、その内径面に配置された針状ころ軸受2と、その針状ころ軸受2に対し潤滑油の流れの方向(矢印a参照)の下流側に配置されたシールリング3とにより構成される。
【0004】
前記の外輪1は軸方向の両端部に内向きのツバ部4を有する。針状ころ軸受2は、保持器5によって保持された多数の針状ころ6によって構成される。シールリング3は、下流側のツバ部4の内側面と外輪1の内径面に接するように嵌合される。シールリング3と回転軸7との間に適宜なすき間δが形成され、そのすき間δによって潤滑油の流量制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−60040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のシールリング付きシェル形針状ころ軸受は、その使用時において、潤滑油の流れの上流側に配置された針状ころ軸受2の保持器5が、潤滑油の油圧により下流側に配置されたシールリング3に押し付けられる。保持器5のシールリング3に対する摩擦が、シールリング3の外輪4に対する摩擦より小さい場合は保持器5がシールリング3に対して回転するため、保持器5の端面がシールリング3の端面に対して摺接する。
【0007】
また、逆に保持器5のシールリング3に対する摩擦の方が大きい場合は、保持器5と一体にシールリング3が外輪4に対して回転するため、シールリング3の外端面がツバ部4に対して摺接する。いずれの場合もトルク損失が増えるとともに摺接面において摩耗が発生する問題がある。
【0008】
そこで、この発明はこれらの摺接面おけるトルク損失を低減させ、摺接面の耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、外輪と、その内径面に配置された針状ころ軸受と、その針状ころ軸受に対し潤滑油の流れの方向の下流側に配置されたシールリングとにより構成され、前記針状ころ軸受が保持器とその保持器に保持された多数の針状ころによって構成され、前記シールリングは前記外輪のツバ部と保持器の間に介在され、前記シールリングと回転軸の間に適宜なすき間が形成されたシェル形針状ころ軸受において、
前記シールリングを弾性のある樹脂によって形成し、前記シールリングとこれに摺接する保持器の
軸方向におけるいずれか一方の摺接面又は前記シールリングとこれに摺接する前記ツバ部の
軸方向におけるいずれか一方の摺接面に、多数の凸部と凹部の集合による凹凸面が形成された構成としたものである。
【0010】
前記の凹凸面のパターンは、摺接面の中心から放射方向に形成された多数の溝による凹部と、各凹部間の凸部の集合によって形成されるものなど、種々のパターンがある。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、シールリングと保持器の
軸方向におけるいずれか一方の摺接面又はシールリングと外輪のツバ部の
軸方向におけるいずれか一方の摺接面に、多数の凸部と凹部による凹凸面を形成することにより接触面積が減少し、トルク損失が軽減される。また、凹部が潤滑油の油溜まりとなるので潤滑性も向上し、摺接面の耐久性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】
図5は、
図2の他の例の場合のX2−X2線の断面図である。
【
図6】
図6は、シールリングの他の例の正面図である。
【
図8】
図8は、シールリングの他の例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0014】
実施形態1のシールリング付きシェル形針状ころ軸受の基本的な構成は、
図1に示したようなものであり、前述の従来例のもの(
図18参照)と共通している。即ち、シェル形の外輪11と、その内径面に配置された針状ころ軸受12と、その針状ころ軸受12に対し潤滑油の流れの方向(矢印a参照)の下流側に配置されたシールリング13とにより構成される。
【0015】
前記の外輪11は軸方向の両端部に内向きのツバ部14を有する。針状ころ軸受12は、保持器15によって保持された多数の針状ころ16によって構成される。シールリング13は、下流側のツバ部14の内側面と外輪11の内径面に接するように嵌合される。シールリング13と回転軸17との間に適宜なすき間δが形成され、そのすき間δによって潤滑油の流量制御を行う。
【0016】
従来例と相違する点は、潤滑油の圧力によって相互に摺接するシールリング13と保持器15のうちシールリング13の摺接面18の形状にある。即ち、この実施形態1の場合のシールリング13の摺接面18には、
図2及び
図3に示したような凹凸面19が形成されている。
【0017】
この場合の凹凸面19のパターンは、摺接面18の中心から放射方向に形成された多数の溝による凹部21と、各凹部21間の凸部22の集合によって形成されたものである。
【0018】
前記凸部22の表面が保持器15との摺接面18となる結果、全面が摺接する従来例に比べて接触面積が減少し摺接時の回転トルクが軽減される。また凹部21は潤滑油の油溜まりとなり潤滑性の改善に寄与する。凹部21と凸部22の周方向長さは、図示の場合、凹部21が凸部22より短く形成されているが、この逆であってもよく、同じであってもよい。
【0019】
前記のシールリング13は、66ナイロン、46ナイロン等の弾性ある樹脂により製作され、拡径方向への弾性を付与するために、全周の1個所に切り離し部23が設けられる。その切り離し部23において切り離し端が周方向に分離することを防止するために、
図4に示したように、切り離し部23の一方は他方の切り離し部に対して凸形24をなし、当該他方の切り離し部23は前記凸形24に対して補完形状となる凹形25をなしている。
【0020】
前記凸形24と凹形25が周方向のすき間xをもって相互に嵌合している。周方向のすき間xは、シールリング13の径を弾性的に収縮させるための余裕となる。
【0021】
前記のすき間xの範囲内で拡径方向の弾性を発揮させて外輪11の内径面とツバ部14のコーナー部に装着する。これにより、シールリング13は外輪11の内径面に接し、同時に軸との間に所要のすき間δを生じさせる。すき間δの大きさの範囲内で潤滑油の流量が制御される。
【0022】
切り離し部23の形状は、
図5に示したように、凸形24が段差形に形成され、前記凹形25が凸形24に対し補完形状の段差形よって形成されたものでもよい。
【0023】
図4及び
図5のいずれの場合も、相互に嵌合した凸形24と凹形25の周方向の面26が相互にすき間なく接触することにより潤滑油の軸方向への通過を遮断する。
【0024】
凹凸面19を構成する凹部21と凸部22のパターンの他の例を以下に示す。
図6及び
図7に示した凹凸面19のパターンは、格子状の溝によって形成された凹部21と、各凹部21によって囲まれた四角形の凸部22の集合によって形成されたものである。
【0025】
図8及び
図9に示した凹凸面19は、同心状の複数の溝によって形成された凹部21と、各凹部21間の環状の凸部22の集合によって形成されたものである。
【0026】
図10から
図12に示した凹凸面19は、同心状の複数の溝と放射方向の複数の溝によって形成された凹部21と、各凹部21間の環状の凸部22と、全周にわたり周方向に一定の間隔をおいて形成された径方向の凹部21aの集合によって形成されたものである。
【0027】
図13及び
図14に示した凹凸面19は、全面にわたり分散状に設けられた多数の凸球面からなる凸部22と、各凸部22の周りの平坦面による凹部21の集合によって形成されたものである。
【0028】
実施形態1は以上のようなものであり、潤滑油の圧力によって針状ころ軸受12の保持器15がシールリング13に押し付けられたとき、その摩擦がシールリング13のツバ部14に対する摩擦より小さいときは、シールリング13は静止し保持器15が回転するため、保持器15がシールリング13に対し摺接する。この場合、シールリング13の摺接面18には凹凸面19が形成されているので、全面的に接触する場合に比べ接触面積が少ない。その結果回転トルクが軽減され、またその凹部21が油溜まりの機能を発揮し潤滑機能も向上する。
[実施形態2]
【0029】
図15に示した実施形態2のシールリング付きシェル形針状ころ軸受の基本的構成は前記の実施形態1の場合と同様であるが、この場合はシールリング13に対向した保持器15の摺接面18に凹凸面19が形成される。凹凸面19のパターンは、前記実施形態1の場合の凹凸面19(
図2、
図6、
図8、
図10及び
図13参照)と同様であるのでその説明を省略する。
【0030】
保持器15がシールリング13に対して回転する場合において、保持器15の摺接面18に凹凸面19が形成されているために、接触面積が少なくなり回転トルクが軽減される等の効果も同様である。摺接面18の凹凸面19によって接触面積が減少し回転トルクが軽減されること、凹凸面19の凹部21が油溜まりとなり潤滑機能を向上させる点は、前述の場合と同様である。
[実施形態3]
【0031】
図16に示した実施形態3のシールリング付きシェル形針状ころ軸受は、シールリング13と外輪11との摺接による回転トルクの軽減を図るものである。即ち、潤滑油の圧力によって針状ころ軸受12の保持器15がシールリング13に押し付けられたとき、その摩擦がシールリング13のツバ部14に対する摩擦より大であるときは、シールリング13は保持器15と一体に回転し外輪13に対して摺接する。この場合の回転トルクを軽減するために、シールリング13のツバ部14に対向した摺接面18に前述の凹凸面19を形成する。
[実施形態4]
【0032】
また、同様の場合において、
図17に示した実施形態4のように、ツバ部14のシールリング13に対向した摺接面18に凹凸面19を形成してもよい。
【0033】
実施形態3、4のいずれの場合も、摺接面18に形成した凹凸面19によって接触面積が減少し回転トルクが軽減される点、凹凸面19の凹部21が油溜まりとなり潤滑機能を向上させる点は前述の場合と同様である。
【符号の説明】
【0034】
δ すき間
11 外輪
12 針状ころ軸受
13 シールリング
14 ツバ部
15 保持器
16 針状ころ
17 回転軸
18 摺接面
19 凹凸面
21、21a 凹部
22 凸部
23 切り離し部
24 凸形
25 凹形
26 周方向の面