(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945132
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】加工状態表示装置を備えた旋盤
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20160621BHJP
G05B 19/4063 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B23Q15/00 Z
G05B19/4063 L
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-42235(P2012-42235)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-176822(P2013-176822A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】荒井 智則
【審査官】
牧 初
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−61565(JP,A)
【文献】
特開2005−190102(JP,A)
【文献】
特開昭61−103795(JP,A)
【文献】
特開平6−242812(JP,A)
【文献】
特開平11−298189(JP,A)
【文献】
特開2010−61662(JP,A)
【文献】
特開平3−190601(JP,A)
【文献】
特開平3−190602(JP,A)
【文献】
特開平4−105801(JP,A)
【文献】
特開2000−148219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁とドアで囲まれた加工空間内に設置されたカメラと、当該カメラが取得した画像を操作盤のディスプレイに表示する表示手段とを備えている複数の刃物台を備えた旋盤において、
主軸軸線方向の両側に位置する刃物台に装着された工具をその外側から撮影する少なくとも2個の前記カメラを備え、各カメラが、当該旋盤の加工動作を制御しているNC装置の刃物台ないし工具刃先の座標情報に基づいて、前記加工空間内を移動する工具によるワーク加工位置を追尾するように方向ないし位置を制御され、かつ、各カメラに対する前記座標情報を前記複数の刃物台の一方の座標情報から他方の座標情報に切り換える切換手段を備えていることを特徴とする、加工状態表示装置を備えた旋盤。
【請求項2】
隔壁とドアで囲まれた加工空間内に設置されたカメラと、当該カメラが取得した画像を操作盤のディスプレイに表示する表示手段とを備えている複数の刃物台を備えた旋盤において、
主軸軸線方向の両側に位置する刃物台に装着された工具をその外側から撮影する少なくとも2個の前記カメラを備え、各カメラの画像から切り出して前記ディスプレイに表示される画像の領域が、当該旋盤の加工動作を制御しているNC装置の刃物台ないし工具刃先の座標情報に基づいて、前記加工空間内を移動する工具によるワーク加工位置を追尾するように制御され、かつ、各カメラに対する前記座標情報を前記複数の刃物台の一方の座標情報から他方の座標情報に切り換える切換手段を備えていることを特徴とする、加工状態表示装置を備えた旋盤。
【請求項3】
前記カメラから前記ワーク加工位置までの距離を演算する演算手段を備え、前記カメラのズーム倍率ないしカメラ画像の切り出し領域が、前記ディスプレイに表示される撮影エリアが一定になるように制御されることを特徴とする、請求項1又は2記載の旋盤。
【請求項4】
複数の刃物台の少なくとも1個が、回転工具を取り付ける刃物台である、請求項1、2又は3記載の旋盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、
旋盤に関するもので、工具がワークを加工している状態をディスプレイに表示する装置
と複数の刃物台とを備えた
旋盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削加工のようにワークの除去加工を行う工作機械は、加工部を冷却しかつ工具刃先を潤滑する目的で、切削液を供給しながら加工を行うのが普通である。また、除去加工は、その加工の性質上、切粉を発生する。この切削液や切粉が周囲に飛散して機械自体を汚損したり周囲の環境を悪化させるのを防止するために、通常、工作機械の加工空間(ワークを加工するときの工具の移動空間)を隔壁やドアで囲って切削液や切粉の飛散を防止している。ワークや加工の種類によっては、ドア全体を透明板で製作することもあるが、通常は鉄板製のドアに透明窓を設けてオペレータが加工空間を視認できるようにしている。
【0003】
NC工作機械の連続自動運転中は、オペレータが加工空間を視認する必要は殆どない。しかし、加工プログラムを確認するための試験加工のときやオペレータが手動で加工を行うときは、加工状態を視認しながら加工を行う必要がある。このようなとき、オペレータはドアに設けられた窓から加工状態を見ることとなり、操作盤のディスプレイと加工空間とを交互に見ながら確認や操作を行う必要がある。見る方向によっては、加工状態を見るために窓の近くまで行かなければならない場合もある。また、窓から加工状態を見ることができないときは、ドアを開けて確認する必要があり、作業が繁雑であると共にドアの中を覗き込んだりすると危険でもある。
【0004】
一方、加工空間内に加工状態を観察するカメラを設置し、このカメラの画像を操作盤のディスプレイに表示することにより、ドアを閉めた状態で加工状態を観察できるようにした工作機械が提供されている。この場合、カメラの方向や焦点距離、ズーム倍率などは操作盤から手動で操作するようになっている。また、このようなカメラを設けた工作機械では、カメラの画像をインターネットなどを通して管理コンピュータのディスプレイに表示することにより、機械の設置場所から離れた箇所で複数の工作機械の運転状態を確認したりメンテナンスを行ったりすることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドアに設ける窓は、特に金属加工を行う工作機械の場合には高温の切粉や切削液にさらされるため、強度上及び経年劣化の問題から、位置や面積に制限を受け、窓を通しての加工部の視認性は良いとは言えない。そのため、加工部を必要な方向から見ることができない場合が多く、加工部の工具の状態(折損や切粉の巻き付きなど)、工具とワークの接触確認、機械各部における切粉の堆積状態等を確認するためには、ドアを開けて確認しなければならないこともある。
【0006】
更に、ワークの試験加工、加工前の機械の段取り時には、ワーク、工具、加工に用いる治具などの位置関係や動きを、オペレータが操作盤で機械を手動操作しながら確認する必要があり、この場合もドアを開けて中を見ることが多く、作業性が悪く、オペレータの作業負担が大きい。
【0007】
また、加工空間内にカメラを設置した従来の工作機械では、加工部を詳細に観察しようとするとズーム倍率を手動で操作しなければならない、カメラの視野がワークや刃物台に遮られて加工部が視認できない、加工部が移動したときにいちいちカメラの方向や焦点距離を調整しなければならない、移動してゆく加工部を追尾するための操作が難しいために、加工部がカメラの画面から外れて連続的な観察が困難になる、などの問題があった。
【0008】
この発明は、
複数の刃物台を備えた旋盤において、試験加工時や手動運転時
に、オペレータが移動したりドアを開けたりすることなく、かつ移動する加工部を追尾するための操作を必要としないで、操作盤に設けられているディスプレイで加工部を観察することができる
旋盤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明
では、複数の刃物台を備えた旋盤の加工空間に複数のカメラ1(1a〜1d)を設置して、それらのカメラに工具2(2a〜2c)によるワーク3の加工部Tを自動的に追尾させ、当該カメラが取得した画像を操作盤のディスプレイに表示させ
る。操作盤のディスプレイには、カメラ1が取得した画像と共に、加工プログラムの対応箇所やブロック、機械の設定状態を同時表示することで、機械の段取りや加工プログラムのチェック、機械状況の把握などを容易に行うことができる。
【0010】
カメラ1による加工部Tの自動追尾は、加工部Tをカメラの画像から認識してそれを自動追尾するというのではなく、
各カメラ1の方向、焦点距離、ズーム倍率などを
刃物台4(4a〜4c)の工具刃先の動きに同期させることによって行う。すなわち、
各刃物台の工具刃先の位置Tは、NC装置によって制御されていることを利用して、NC装置から
各刃物台4に送られている座標信号をカメラの方向ないし画像の切り出し領域、焦点距離やズーム倍率を調整するアクチュエータの指令信号に変換してこれらのアクチュエータを駆動することにより、カメラ1が加工部Tを追尾するようにし
ている。複数の刃物台を備えた旋盤では、NC装置からそれぞれの刃物台に異なる座標信号が送られており、どの刃物台の座標信号をどのカメラのアクチュエータに与えるかにより、各カメラが追尾する工具を選択することができる。
【0011】
複数のカメラについて、各カメラが追尾する工具を選択できることから、加工に使用されている工具2の種類、工具刃先の向きや刃物台4の送り方向などによって、ディスプレイに画像を表示するカメラを切り換える
ことができ、また、ワーク自体や刃物台によって加工部Tに向かうカメラ1の視線bが遮られるのを防止することができる。。機械でアラームが発生したときは、発生している刃物台の加工部に画像を切り換える。
また、加工の進行に合わせて、必要なタイミング又は手動で、カメラ1を切り換える。通常、刃物台4の数より多い数のカメラを設置するのが好ましい。
【0012】
例えば、主軸軸線aの上下に刃物台4を配置した2主軸対向旋盤では、左右それぞれの主軸に把持されたワークの切削部を主軸軸線aの上下から見ることができるように、左右上下に合計4個のカメラ1を配置する。これらのカメラ1は、必要により、例えばZ軸方向に移動可能に設ける。
【0013】
各カメラ1の視野は、ズーム倍率を変更することにより、変更できるようにする。例えば、大きいワークや大きい工具のときは広角側、小さいワークや小さい工具のときは望遠側にというように、工具とワークの大きさはNC装置で認識できるから、それに応じて自動設定することができる。手動でも段階的に選択できるようにする。
【0014】
カメラ1が加工部Tを追尾しているときの視野は、カメラ1と加工部Tとの距離により変化するので、この変化が生じないように、視野を一定に保って追尾するのが好ましい。これは、カメラ1と加工部Tとの距離に応じてズーム倍率を自動的に変更することにより実現できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、オペレータが必要に応じてディスプレイに画像を表示するカメラを選択するという操作を行うだけで、オペレータが最も見たいと思う画像を表示することができ、しかもその画像は、加工の進行に合せて自動的に加工部を追尾してゆき、加工部に正確に焦点を合わせ続けることができることは勿論、ズーム倍率も自動調整して撮影エリアの大きさも一定に保つことができる。
【0016】
そのためオペレータは、ドアを開けて加工部を覗き込むというような動作を行う必要がなくなり、複数のカメラの設置場所を適切に選択することによって肉眼では見ることができない位置からの加工部の映像も見ることができるようになる。
【0017】
従ってこの発明により、工具の状態や切粉の巻き付き状態、工具とワークの接触状態、加工空間の各部の切粉の堆積状態など、ドアに設けた窓からでは確認できないような機械の状態を操作盤のディスプレイ上で見ることができ、ズーム倍率やコントラストを調整して、より見易い画像として、かつ操作盤の操作スイッチなどを操作している状態で見ることができる。
【0018】
更に、カメラの表示位置、焦点距離、ズーム倍率、更にカメラを複数設け
られたカメラの選択を自動で行うことが可能になるため、加工プログラムを確認するときの工具の実位置確認なども容易に行うことができ、ワークの試験加工時や機械の段取り時に、オペレータは、移動したりドアを開けたりしないで、操作盤を操作したままの姿勢で、ワーク、工具、治具などの位置関係や状態を、操作盤のディスプレイに表示される画像と加工プログラムのブロックなどとを比較対象しながら確認でき、作業性の大幅な向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に対向2主軸と、その主軸軸線を挟んだ両側に刃物台を備えた旋盤を例にして、この発明の実施形態を説明する。
図1及び
図2は、そのような旋盤の一例におけるカメラの配置を示した模式的な平面図(ベッド上面を上方から見た図)及び側面図である。主軸軸線aの両側にチャック5a、5bを対向させて主軸台6a、6bが設けられており、主軸軸線aの下側に2個、上側に1個の刃物台4a、4b、4cが設けられている。主軸台の一方6bは、主軸軸線方向(図の左右方向、Z軸方向)に移動位置決め可能である。下側の刃物台4a、4bは、タレット刃物台とし、上側の刃物台4cは、回転工具を取り付ける刃物台として図示されている。タレット刃物台4a、4bは、Z軸方向及び工具2a、2bの切込み方向(図の上下方向、X軸方向)に移動位置決め可能である。回転工具刃物台4cは、Z軸、X軸及びこの両軸と直交するY軸方向に移動位置決め可能で、更にY軸回り(B軸方向)に旋回可能である。
【0021】
2主軸対向旋盤では、
図3に示すように、ワーク3の左端面3a及び右端面3bの両方が加工される。主軸軸線aの下側と上側に各1台のカメラを設置して加工部を撮影したときには、ワーク自体の影になって加工部を撮影することができない。そこでカメラ1a〜1dを上下左右に1個ずつ、計4個設けている。下側のカメラ1a、1bは、下側の刃物台4a、4bの加工部を撮影するカメラであり、上側のカメラ4c、4dは、上側の刃物台4cの加工部を撮影するカメラである。カメラ1は
図2に示すように、刃物台4の上方(ベッド面から離れた位置)に設けて、主軸軸線aに向いた光軸(視線)bが刃物台4によって遮られないようにしている。
【0022】
各カメラ1は、カメラ中心(撮像素子の撮像面の中心)Cを通り、当該中心Cと主軸軸線aとを含む平面に直交する軸s回りの回転角φを制御可能にしてそれぞれ定位置に装着されている。具体的には、各カメラ1は、軸s回りに回転自在に設けたカメラ台11に搭載され、かつ当該カメラ台の軸s回りの回転角φを制御信号に従って設定するアクチュエータ(モータなど)が設けられている。各カメラ1としては、制御信号に基づいて焦点距離を設定する焦点距離設定手段及び制御信号に基づいてズーム倍率を設定するズーム倍率設定手段を備えたものが用いられる。焦点距離設定手段及びズーム倍率設定手段は、一般的な技術なので具体的な説明は省略するが、カメラに内蔵されたものである。
【0023】
図4〜6は、上記のようにして設置されたカメラの下側の1個と当該カメラで撮影されるタレット刃物台の工具2について、カメラ1の方向、焦点距離及びズーム倍率をどのように設定されるかを示した図で、
図4は平面図、
図5は側面図、
図6は斜視図である。加工されるワーク3のZ軸方向の基準位置Oは、チャック5の底面であり、カメラ中心Cのこの基準位置OからのZ軸方向の距離をz
0とする。カメラ中心Cの主軸軸線aからのX軸方向の距離をL、Y軸方向の高さをHとする。Qは、カメラ中心Cの主軸軸線a上の位置である。前述したように、カメラ1は、s軸回りの旋回角φが制御されており、その旋回によって、カメラ1の視線bは、主軸軸線a上を移動する。
【0024】
工具2の刃先の位置をT、点Tの座標をz、xとすると、座標z、xは、ワーク座標系におけるワーク表面の加工点の座標である。カメラの視線bが点Tを向くときの軸s回りのカメラの旋回角φをZ−X面に投影した角度をθとすると、
【0026】
【数2】
という関係が成り立つ。また、カメラ中心Cから刃先T迄の距離Fは、
【0028】
以上より、カメラ台11の旋回軸s回りの角度φ、カメラ中心から工具刃先までの距離Fは、工具刃先Tの座標z、xの関数として表される。よって、工具刃先Tの位置が判ればカメラ1の向き及びカメラ1から撮影対象Tまでの距離Fが演算により求められる。ここでz、xは、NC装置によって制御されている刃物台の座標から求めることができる値であり、カメラ中心Cから加工部Tまでの距離が判ればカメラ1の焦点を設定することができ、かつズーム倍率を距離Fに応じて連続的に変更すれば、追尾中の撮影エリアを一定の大きさに保持することができる。
【0029】
なお、カメラ1がY軸方向にLだけ高い位置から主軸軸線aを見ているので、上記のカメラ1の軸s回りの旋回角φの制御だけでは撮影される加工部(工具刃先)Tが画像の中心からe(
図5参照)だけずれた位置になる。適切なズーム倍率を選んでやれば、加工部Tをカメラ1の撮影エリア内に留めておくことができるが、加工部Tを常に画像の中心に置いておきたいのであれば、カメラ1をY軸方向に移動する昇降台12を設けて、その昇降位置を
e=xH/L
の関係で制御してやればよい。
【0030】
上記は、カメラ1の軸s回りの旋回とY軸方向の昇降で加工部Tを追尾するものであるが、軸s回りの旋回に代えてカメラ1のZ軸方向の移動とすることや、Y軸方向の昇降に代えて主軸軸線aと平行な軸回りのカメラの伏仰動作とすることもできる。更に、カメラの視線bが遮られたときにカメラを移動できるように、カメラ1の軸s回りの旋回とZ軸方向の移動とを併用することもできる。この場合は、カメラ1のZ軸方向の移動に応じての計算式におけるz
0を変更してやればよい。
【0031】
更に上記の例では、カメラの光軸の方向ないしカメラの位置を移動しているが、
図7に示すように、広い視野を備えたカメラの方向を定位置に固定し、カメラの画像Aから切り出してディスプレイに表示される画像の切り出し領域Bを加工部Tの移動に対応して変更することにより、加工部を追尾することが可能である。この場合の画像の切り出し領域Bは、上記で演算されるカメラの旋回角φ及び昇降位置eをカメラの画像面A上の切り出し中心の位置に変換し、距離Fから演算されるズーム倍率を用いて画像の大きさを決めることにより、設定できる。
【0032】
NC
旋盤の加工プログラムは、ワークの形状、すなわち工具刃先の座標Tを基にして作成される。一般的なNC装置は、加工プログラムで指定された座標(ワーク座標)を、使用している工具のオフセット値や刃物台の機械原点位置に基づいて、機械座標系に変換して刃物台4を制御している。従って、一続きの加工の始点と終点における工具刃先の座標は、NC装置から取得できるが、加工途中の、たとえば円弧補正によって円弧運動をしている工具の刃先の座標は、NC装置から直接取得することはできない。しかし、NC装置はワーク座標系から機械座標系に変換する変換式が既に登録されているので、それを逆方向に変換すれば、NC装置から各刃物台に与えられている指令値から工具刃先の座標を演算することができる。従って、そのようにして機械座標から逆演算したワーク座標のz、x値を用いて上記のようにカメラを制御することができる。
【0033】
図1の旋盤は、下側に2個の刃物台を持っている。それぞれの刃物台について上述したようにしてそれぞれの刃物台に装着された工具刃先Tにカメラ1a、1bを向けることができる。両側のカメラ1a、1bに同じ刃物台の制御データを送ることにより、視線bを同じ工具の刃先Tに向け、カメラ1a、1bの画像のどちらを選択してディスプレイに表示するかにより、加工部を見る方向を変更できる。すなわち、カメラ1a、1bを切り換える切換スイッチの操作で同じ加工部を異なる方向から観察することができ、たとえば左側カメラの視線が他の機器によって遮られたときに画面を右側のカメラの画像に切り換えて観察を続けることができる。また、加工に使用する工具が交換されたとき、工具2の刃先の向き(
図3参照)などに応じて上記の切換スイッチを自動で切り換えることにより、加工部Tを見る方向を自動で切り換えることができる。
【0034】
また、カメラ1a、1bを制御するz、x座標を左側の刃物台4aの制御信号から取得するか、右側の刃物台4bの制御信号から取得するかによって、カメラ1a、1bをどちらの刃物台の工具刃先に向けるかを選択することができる。従って、取得する信号の切換スイッチの操作で取得する座標信号を切り換えることにより、左側の刃物台の工具の加工部から右側の刃物台の工具の加工部へ、またその逆へと、ディスプレイに表示する画像を切り換えることができる。例えば2主軸対向旋盤の2主軸間でのワークの受け渡し加工を行うような場合には、左側主軸でワークを加工しているときは、左側の刃物台の信号を取得し、ワークの受け渡しが行われるときに取得する信号の切り換えを自動で行ってやれば、ワークの加工順序に対応した加工部の継続的な観察が可能である。
【0035】
上記の例では簡単のためにZ軸及びX軸方向にのみ移動するタレット刃物台4a、4bについて説明したが、刃物台がY軸方向に移動するときは、前述した昇降台12を設けて刃物台4cのY軸移動に呼応してカメラ1をY軸方向に移動させれば良い。加工部のワーク座標z、x、yは、刃物台4を制御する指令値の基となっているワーク座標のデータであり、そのデータを機械座標系に変換する変換式は、どのような動きをする刃物台であってもNC装置に登録されている。工具がB軸方向にも移動する刃物台4であっても、工具刃先の位置Tは、そのときの機械座標をワーク座標に逆変換することにより演算できる。そのような演算式を予め操作盤に登録しておくか、逆変換されたワーク座標をNC装置から取得することにより、どのような構造の刃物台においても、この発明の方法により、カメラで加工部を追尾することができる。
【0036】
図8は、この発明の
旋盤における加工状態表示装置の一例を示すブロック図である。加工状態表示装置PCは、座標情報取得部21で
旋盤を制御しているNC装置20から機械座標情報、ワーク座標と機械座標の変換データ及びアラーム情報などを取得する。データ変換部22は、取得した変換データを参照して、NC装置20から取得した機械座標をワーク座標(z、x、y座標)に変換する。
【0037】
フォーカス演算部23は、取得したワーク座標z、x、yからカメラの旋回角φ、カメラCから撮影対象(加工部)Tまでの距離Fを演算する。また、NC装置20から取得した工具の種類や刃物台の送り方向などにより、予め登録された選択基準に従って画像を表示するカメラを選択する。また、演算されたカメラから撮影対象物までの距離Fに応じて、撮影エリアが一定となるようにズーム倍率を演算する。撮影エリアの大きさは、手動入力部24の操作により、5段階程度に設定可能になっており、またこの手動入力部24からの手動操作により、画像を表示するカメラを強制的に選択(変更)することが可能である。
【0038】
カメラ操作部25は、フォーカス演算部23の演算結果を受けて選択されたカメラについて、カメラ台11の旋回、カメラ1(1a、1b)の焦点距離の調整及びズーム倍率の調整を行う。これによりカメラ1は、所定の加工部Tの画像を取得し、当該画像を画像表示処理部26に送る。画像表示処理部26は、ディスプレイ27に取得した画像を表示する。
【0039】
一方、表示データ取得部28は、NC装置20から
旋盤が行っている加工工程、当該工程におけるワークの略図、加工プログラムのブロックなどを内容とする表示データを取得し、カメラ1が取得した画像と共にディスプレイ27に表示する。オペレータは、必要に応じて手動入力操作をしながらディスプレイ27に表示された工程情報や加工プログラムのブロックとカメラが取得した加工部の画像とを対比することによって、加工が適切に行われているかどうかを確認することができる。また、NC装置20からアラーム情報が発せられたときには、ディスプレイ27にアラーム情報が表示されると共に、アラームが発生した刃物台の加工部がディスプレイ27に表示される。
【0040】
なお、NC装置20が機械をワーク座標系で制御しているNC装置であれば、座標情報取得部21は、NC装置から直接ワーク座標(工具刃先のz、x、y座標)を取得できるので、データ変換部22は不要であり、取得したワーク座標を直接フォーカス演算部23に送ることとなる。
【符号の説明】
【0041】
1(1a〜1d) カメラ
2(2a〜2c) 工具
3 ワーク
4(4a〜4c) 刃物台
11 カメラ台
12 昇降台
a 主軸軸線
b カメラの視線
C カメラ中心
e 昇降位置
F カメラ中心から刃先迄の距離
T 加工部
s 旋回軸
φ 旋回角