(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の紙、段ボールシート及び箱の実施の形態を、適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0016】
<紙>
本発明の紙は、基紙と基紙の表面側に形成される防滑層を有する。
【0017】
(基紙)
上記基紙としては、特に限定されず、公知のライナー用基紙やその他の多層又は単層の基紙を用いることができる。これらの中でも、ライナー用基紙が好ましい。ライナー用基紙を用いることで、当該紙がプレプリントされた表ライナーとして好適に用いることができる。
【0018】
上記基紙は、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ、段ボール古紙、ライナー古紙、雑誌古紙、新聞古紙などをから再生した古紙パルプ、脱墨古紙パルプ等を原料として、これらパルプを1種類又は2種類以上組み合わせて抄紙して得ることができる。
【0019】
上記基紙(
図1に示す紙1の基紙)の表面側には、天面部2、底面部3、側面部4及び糊代部6を備える箱用の印刷がされている。当該紙1は、このような印刷が施されていることで、箱として用いられない切り取り部分5(
図1における斜線部分)を切り取って組み立てることにより、印刷が施された箱を形成することができる。なお、天面部2、底面部3及び側面部4には、様々な模様や文字等が印刷されるが、各部分全面に印刷される必要はなく、印刷がされていない部分があってもよい。また、例えば、底面部3などは全体に全く印刷が施されていなくてもよい。すなわち、箱用の印刷がされているとは、少なくとも箱の天面部2及び底面部3となる領域が特定できるように、基紙の表面の少なくとも一部に印刷が施されていることをいう。また、基紙の表面に直接印刷が施されていてもよく、基紙に塗工液が塗工されており、その上に印刷が施されていてもよい。さらには、後に詳述する防滑層の表面に印刷が施されていてもよい。
【0020】
上記基紙表面には、外添紙力剤(外添紙力剤を含む塗工液)が塗工されていること好ましい。なお、この外添紙力剤が塗工された基紙の表面に、防滑層を形成することとなる。外添紙力剤が塗工されていることで、強度に優れる紙を得ることができる。
【0021】
上記外添紙力剤としては、特に限定されず、公知のもの(ポリアクリルアミド等)を用いることができるが、高分子高分岐型ポリアクリルアミドが好ましい。上記高分子高分岐型ポリアクリルアミドは、固形分濃度15%、温度30℃での粘度が25cps以下である。上記高分子高分岐型ポリアクリルアミドの重量平均分子量は1万以上1000万以下が好ましい。この高分子高分岐型ポリアクリルアミドを主成分とする紙力剤からなる塗工液を加温して例えば28℃以上とすることにより、印刷機等での印刷塗工の固形分濃度が例えば、10〜15%で粘度を25cps以下とすることができる。このように、この塗工液を加温することで、低粘度で均一な塗工を行うことができるため、防滑層を塗工により形成する際に、吸水性の低下などがおきず、塗工ムラの発生等を抑制し、均一な防滑層を形成することができる。
【0022】
さらには、上記高分子高分岐型ポリアクリルアミドは、網目状の被膜を形成するため、上記防滑層を塗工により形成した際、防滑層の基紙に対する密着性が向上することなどにより、得られる当該紙の防滑機能を高めることができる。
【0023】
上記外添紙力剤としては、両イオン性高分子も好ましい。上記両イオン性高分子としては、両イオン性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。このような両イオン性高分子を外添紙力剤に用いることで、後に詳述するカチオン性又はアニオン性の塗工液により防滑層を形成する際にどちらの塗工液に対しても、親和性に優れるため、均一な防滑層を得ることができる。
【0024】
上記外添紙力剤の塗工量としては、特に限定されないが、例えば、片面あたり固形分換算で0.5g/m
2以上2.5g/m
2以下が好ましい。
【0025】
上記基紙表面において、EST(動的浸透性試験機)で測定した信号強度が、浸透時間0.5秒以内(より好ましくは0.2秒以内)において最大値を示し、かつ浸透時間1秒後において50%以下(より好ましくは40%以下)になることが好ましい。このように調整することで、この基紙表面に塗工により防滑層を形成する際、防滑層が均質に設けられ、高い防滑性を有する紙を得ることができる。
【0026】
なお、当該紙1から形成される箱は、天面部及び底面部を備える形状であれば特に限定されず、
図1に示すラップアラウンド型の他、A式、B式、C式、アメリカンロック式等の形状の箱に対応することができる。
【0027】
(防滑層)
上記防滑層は、上記天面部2及び底面部3となる領域の表面にそれぞれ対として形成されている。この防滑層が形成された上記天面部となる領域の表面同士及び底面部となる領域の表面同士の滑り角度は、それぞれ15°以上25°以下である。また、上記天面部となる領域の表面と底面部となる領域の表面との滑り角度は、25°を超える。
【0028】
当該紙1には、このように、箱を形成した際に天面部2となる領域同士及び底面部3となる領域同士の摩擦力は小さく、天面部2となる領域と底面部3となる領域とが接した際に、この間の摩擦力が大きくなるような防滑層が形成されている。従って、当該紙1によれば、段積みした際の防滑性に優れる箱を形成することができる。また、当該紙は、各表面単独での防滑性は低いため、例えばライナーとして用いた場合の貼合の際のコルゲーターの熱板汚れの発生等が抑えられるなど作業性に優れる。
【0029】
上記天面部となる領域の表面同士及び底面部となる領域の表面同士の滑り角度を15°未満とすることは、このような防滑層の形成が困難となる。逆に、上記天面部となる領域の表面同士及び底面部となる領域の表面同士の滑り角度が25°を超える場合は、摩擦が高すぎて、ブロッキングが生じやすくなったり、上述した貼合作業等を始めとした各種作業性等が低下する。
【0030】
上記天面部となる領域の表面と底面部となる領域の表面との滑り角度が25°未満の場合は、十分な防滑性を発揮できず、箱にして段積みした際に、荷崩れ等が生じやすくなる。一方、この滑り角度の上限は、特に制限されないが、防滑層の形成条件等から、例えば45°とすることができる。
【0031】
上記防滑層は、天面部2及び底面部3となる領域の全面に形成されていなくてもよい。全面に形成されていない場合、例えば、ドット状、ライン状、格子状等に防滑層を形成することができる。その他、上記防滑層により文字や図形、その他の模様を形成することもできる。
【0032】
上記防滑層は、上記印刷を施した基紙の表面に形成してもよいし、逆に、防滑層を形成した後、この防滑層の表面に上記印刷を施してもよく、これらを組み合わせてもよい。但し、防滑層の表面に印刷を施す際、防滑性能を発揮させるためには、防滑層の表面の少なくとも一部が露出するように印刷を施す必要がある。さらには、箱用の印刷の模様や文字等を防滑層により形成させてもよい。なお、印刷を施した基紙の表面に防滑層を設けることで、防滑層が印刷の保護層としても機能させることができる。
【0033】
なお、防滑性能を高めるためには、天面部2及び底面部3となる領域に対して防滑層が表面に露出している割合が、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%がさらに好ましい。
【0034】
上記防滑層は、材質又は表面性状等を調整することにより、上記性能を発揮させることができる。例えば、(1)一の防滑層の表面に複数の凸形状を形成し、他の防滑層の表面に上記凸形状に対応する凹形状を形成する、(2)一の防滑層に金属材料を含有させ、他の防滑層に磁性体材料を含有させる、(3)一の防滑層をカチオン性塗工液の塗工により形成し、他の防滑層をアニオン性塗工液の塗工により形成する、等といった方法により上記性能を有する一対の防滑層を形成することができる。
【0035】
上記防滑層としては、一の防滑層がカチオン性塗工液の塗工により形成され、他の防滑層がアニオン性塗工液の塗工により形成されていることが好ましい。ここで、塗工とは、塗工液を付着させることをいい、塗工液を用いた印刷、塗工液への浸漬等を含む概念である。このように防滑層をカチオン性塗工液及びアニオン性塗工液の塗工により形成することで、天面部となる領域と底面部となる領域とが接した際に、電気的作用により高い防滑性を発揮することができる。また、このような方法は、従来の塗工機又は印刷機等を用いて行うことができ、また、塗工液の成分調製により、防滑性の調整も容易であるため好ましい。
【0036】
(カチオン性塗工液)
上記カチオン性塗工液としては、カチオン性樹脂を含む塗工液を挙げることができる。上記カチオン性樹脂としては、樹脂中に1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基及び4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種のカチオン性の官能基を有し、かつ樹脂全体としてカチオン性であればノニオン性及び/又はアニオン性の官能基を有していてもよいが、官能基のうちカチオン性の官能基を主として有していること、つまりノニオン性官能基及びアニオン性官能基をほとんど含有しないことが好ましい。
【0037】
上記カチオン性樹脂としては、例えば、アミン類とエピハロヒドリン類とを反応して得られる樹脂、カチオン性ビニルモノマーを単独で重合した樹脂(例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン塩)、カチオン性モノマーと他の共重合性モノマーとを共重合させた樹脂(例えばカチオン性アクリルアミド系樹脂)、ポリビニルアミン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ホフマン変性を行ったアクリルアミド系樹脂、マンニッヒ変性を行ったアクリルアミド系樹脂、ポリアルキレンポリアミド系樹脂、ポリアミドポリ尿素系樹脂等を挙げることができる。
【0038】
上記カチオン性塗工液が、アミン類とエピハロヒドリン類とを反応して得られるカチオン性樹脂(A1)、カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂(A2)、及びジアリルアミン類を重合して得られるカチオン性樹脂(A3)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0039】
アミン類とエピハロヒドリン類とを反応して得られるカチオン性樹脂(A1)
上記アミン類としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアルキレンポリアミン、アンモニア、アルカノールアミン等を挙げることができる。これらの中でも第2級アミンを含有していることが好ましい。上記エピハロヒドリン類としては、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、メチルエピクロロヒドリン等を挙げることができる。上記アミン類とエピハロヒドリン類との反応は、公知の方法で行うことができる。
【0040】
上記カチオン性樹脂(A1)の具体例としては、ジメチルアミンエピクロロヒドリン樹脂等を挙げることができる。
【0041】
カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂(A2)
上記カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂(A2)は、カチオン性ビニルモノマーと、アクリルアミド類とを含むモノマーを重合して得ることができる。この重合は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0042】
上記カチオン性ビニルモノマーとしては、1級アミノ基を有するビニルモノマー(アリルアミン等)、2級アミノ基を有するビニルモノマー(ジアリルアミン等)、3級アミノ基を有するビニルモノマー(ジメチルアミノエチルアクリレート等)及び4級アンモニウム塩類を有するビニルモノマー(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等)等を挙げることができる。上記カチオン性ビニルモノマーは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
上記カチオン性ビニルモノマーとしては、4級アンモニウム塩を含有するビニルモノマーが好ましく、ジアリルジメチルアンモニウム塩がより好ましい。
【0044】
上記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等を挙げることができる。上記アクリルアミド類は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
ジアリルアミン類を重合して得られるカチオン性樹脂(A3)
上記カチオン性樹脂(A3)は、ジアリルアミン類を単独重合して得られる樹脂又は上記ジアリルアミン類と他のモノマー類とを共重合して得られる樹脂を含み、ジアリルアミン類とジアリルアミン類以外のカチオン性モノマー、ノニオン性モノマーとを含んだモノマー混合物を共重合させた樹脂であってもよい。但し、ジアリルアミン類とアクリルアミド類と共重合させて得られるカチオン性樹脂はカチオン性樹脂(A2)の一例として分類し、カチオン性樹脂(A3)から除外する。なお、上記重合(共重合)は、公知の方法により行うことができる。
【0046】
上記ジアリルアミン類としては、ジ(2−プロペニル)アミン(即ち、ジアリルアミン)、N−メチルーN,N−ジ(2−プロペニル)アミン(即ち、ジアリルメチルアミン)、N,N−ジメチルーN,N−ジ(2−プロペニル)アンモニウムクロライド(即ち、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、及びN,N−ジエチルーN,N−ジ(2−プロペニル)アンモニウムブロマイド(即ち、ジアリルジエチルアンモニウムブロマイド)等を上げることができる。上記ジアリルアミン類としては、ジアリルジメチルアンモニウム塩が好ましい。
【0047】
上記カチオン性塗工液の固形分濃度としては特に限定されないが、例えば、1質量%以上30質量%以下が好ましい。なお、上記カチオン性塗工液には、上述した成分以外に、例えば、澱粉類、その他の水溶性高分子、表面サイズ剤、粘度調整剤等の他の成分が含有されていてもよい。
【0048】
上記カチオン性塗工液としては、カチオン性を有していれば、例えば、印刷適性向上剤、防湿剤、及びその他の表面処理剤として市販されている塗工液を用いることもできる。なお、フレキソ印刷機を用いて防滑層を形成する場合は、カチオン性のフレキソ印刷適性を用いることが、得られる紙の外観等の点から好ましい。
【0049】
上記カチオン性塗工液は、無色であっても有色であってもよく、また、透明であっても不透明であってもよいが、印刷された基紙の表面に塗工する場合は、無色透明であることが好ましい。
【0050】
上記カチオン性塗工液の塗工量としては特に限定されないが、固形分換算で、0.5g/m
2以上4g/m
2以下が好ましい。このような塗工量とすることで、防滑性と作業性等の両立を図ることができる。塗工量が上記下限未満の場合は、十分な防滑性が発現されない場合がある。逆に塗工量が上記上限を超える場合は、乾燥に時間がかかったり、単独での防滑性が高まりすぎて、貼合等の作業性が低下する場合がある。
【0051】
(アニオン性塗工液)
上記アニオン性塗工液としては、アニオン性樹脂を含むものや、アニオン性界面活性剤を用いたエマルジョンを挙げることができる。上記アニオン性樹脂としては、アニオン性ビニルモノマーを単独又は他の重合性モノマーと共重合させたアニオン性樹脂を挙げることができる。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0052】
上記アニオン性塗工液としては、スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン及び水性ワックスエマルジョンを含むものが好ましい。
【0053】
スチレン−アクリル系樹脂エマルジョンとは、スチレン系樹脂エマルジョンとアクリル系樹脂エマルジョンの混合物及びスチレン−アクリル系共重合体エマルジョンをいう。これらのエマルジョンのうちスチレン−アクリル系共重合体エマルジョンが好ましい。スチレン−アクリル系共重合体エマルジョンは、例えばスチレン系とアクリル系のラジカル重合性モノマーとを高分子乳化剤を用いて乳化重合したものである。
【0054】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、炭素数が1〜4のアルキル基を有するアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0055】
アクリル系モノマーとしては、アルキル基が炭素数1〜4のアクリル酸アルキルエステル、アルキル基が炭素数1〜4のメタクリル酸アルキルエステルなどを挙げることができる。
【0056】
スチレン系モノマーとアクリル系モノマーの配合比率としては、10/90モル%から50/50モル%の範囲であることが好ましい。
【0057】
上記水性ワックスエマルジョンとは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、低融点ポリエチレンワックス、脂肪酸エステルワックス、脂肪酸ワックス、石油油脂ワックス、合成樹脂ワックス等のワックスを既知の方法で水性化して得られるエマルジョンである。特に、融点が、50〜120℃の範囲にあるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックスを水性化して得られるエマルジョンが好ましい。
【0058】
上記アニオン性塗工液の固形分濃度としては、例えば、1質量%以上30質量%以下が好ましい。なお、上記アニオン性塗工液には、上述した成分以外に、例えば、澱粉類、その他の水溶性高分子、表面サイズ剤、粘度調整剤等の他の成分が含有されていてもよい。
【0059】
上記アニオン性塗工液としては、アニオン性を有していれば、例えば、印刷適性向上剤、防湿剤、及びその他の表面処理剤として市販されている塗工液を用いることもできる。なお、フレキソ印刷機を用いて防滑層を形成する場合は、アニオン性のワックス系防湿剤を用いることが、得られる紙の外観等の点から好ましい。
【0060】
上記アニオン性塗工液は、無色であっても有色であってもよく、また、透明であっても不透明であってもよいが、印刷された基紙の表面に塗工する場合は、無色透明であることが好ましい。
【0061】
上記アニオン性塗工液の塗工量としては特に限定されないが、固形分換算で、0.5g/m
2以上4g/m
2以下が好ましい。このような塗工量とすることで、防滑性と作業性等の両立を図ることができる。塗工量が上記下限未満の場合は、十分な防滑性が発現されない場合がある。逆に塗工量が上記上限を超える場合は、乾燥に時間がかかったり、単独での防滑性が高まりすぎて、貼合等の作業性が低下する場合がある。
【0062】
(紙の製造方法)
当該紙1の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。すなわち、基紙2の表面に箱用の模様や文字等の印刷を施し、次いで、防滑層を塗工(印刷)等により形成する方法や、逆に基紙2の表面に防滑層を形成し、次いで、防滑層の表面の少なくとも一部を含む基紙の表面に印刷を施す方法等を挙げることができる。以下に、具体的に、
図2を参照に印刷機10を用いた当該紙の製造方法を一例として説明する。
【0063】
図2の印刷機10は、フレキソ印刷機であり、基紙供給部分11、印刷部分12、検査部分13及び製品巻取部分14を備える。基紙が基紙供給部分11から供給され、印刷部分12にて、防滑層の形成も含む印刷が行われ、検査部分13を経て、得られた紙が製品巻取部分14で巻き取られる。
【0064】
印刷部分12は、7つの印刷部(12a〜12g)及びドライヤーを備える。各印刷部は、インキチャンバー(図示しない)、インキロール15、版胴16及び圧胴17を有している。
【0065】
上記インキチャンバーは、インキロール15にインキを供給するものである。インキチャンバー内にはインキが充填されており、インキチャンバーの上下にはドクターブレードが取り付けられている。ドクターブレードは、インキチャンバーからインキが漏れるのを防止する役目と、インキロール15表面の余分なインキを除去する役目とを有する。
【0066】
上記インキロール15は、インキチャンバーから供給されたインキを版胴16に転移させる。上記インキロール15は、無数の穴(セル)が設けられたアニックスロール等が採用される。
【0067】
防滑層を形成する際、このアニックスロールの線数としては、100線以上800線以下が好ましく、120線以上200線以下がより好ましい。この線数とは、1インチあたりの上記穴の数を言う。また、このアニックスロールのセル容積としては、10cc/m
2以上50cc/m
2以下が好ましい。このような線数及びセル容積とすることで、適度な防滑性を備える防滑層を効率的に形成することができる。
【0068】
上記版胴16は、絵柄印刷の場合は、表面に樹脂板が積層されて用いられる。全面塗工の場合は、ゴムロール等が用いられる。印刷される基紙は、版胴16と圧胴17との間をとおり印刷される。
【0069】
基紙は、第一印刷部12a、第二印刷部12b、第三印刷部12c、第四印刷部12d、第五印刷部12e、第六印刷部12f及び第七印刷部12gの順に各印刷部をとおり、表面に印刷が施される。例えば、第一印刷部12aにてアンダーコートを行い、第二〜第五印刷部12b〜12eにて四色の印刷を施し、第六及び七印刷部12f及び12gにて、カチオン性塗工液及びアニオン性塗工液を用いて、防滑層を形成することができる。この際、第二〜第五印刷部12b〜12eにおいて、図柄や文字等の箱用の印刷が施され、第六印刷部12fにおいて、箱の天面部又は底面部となる領域の一方の表面にカチオン性塗工液又はアニオン性塗工液の一方が塗工(印刷)され、第七印刷部12gにおいて、天面部又は底面部となる領域の他方の表面にカチオン性塗工液又はアニオン性塗工液の他方が塗工(印刷)される。
【0070】
各印刷部で印刷される際のインキ(カチオン性塗工液及びアニオン性塗工液も含む)の粘度としては、特に限定されないが、ザーンカップ粘度計4番にて測定した値が、7秒以上60秒以下が好ましく、10秒以上20秒以下がより好ましい。上記粘度が7秒未満の場合は、インキチャンバーのシールからの漏れが生じやすくなったり、アニックスロールのセルからインキが飛散しやすくなるため、印刷速度を落とす必要が生じる場合がある。逆に、上記粘度が60秒を超えると、インキポンプへの負担が大きくなり、必要量のインキを供給しにくくなったり、版表面に紙粉が付着しやすくなる。
【0071】
印刷機10には、アンダーコート等を行う第一印刷部12aの後、4色目の印刷を行う第5印刷部12eの後、及び2つ目の防滑層の印刷を行う第7印刷部12gの後には、それぞれ乾燥機18が備わっている。
【0072】
上記乾燥機16としては、例えば熱風が基紙の裏面側へ送風されるように構成されたものが用いられる。上記熱風の温度としては、100℃以上180℃以下が好ましい。上記温度が100℃未満の場合は十分な乾燥が行われない場合がある。逆に、この温度が180℃を超える場合は、紙面の水分が急激に減少し、シワや縮の発生が生じやすくなる。
【0073】
<段ボールシート>
本発明の段ボールシートは、当該紙を表ライナーとして備える。当該紙の防滑層が形成された表面側が、当該段ボールシートにおける表面側に配置される。当該段ボールシートは、上記防滑層が形成された当該紙をプレプリントが施された表ライナーとして備えるため、箱を形成し、段積みした際の防滑性に優れ、かつ、製造の際の作業性にも優れる。
【0074】
当該段ボールシートの構造としては、特に限定されず、表ライナー、中芯及び裏ライナーとを備える両面段ボールシートであってもよいし、その他裏ライナーを備えない片面段ボールシート等であってもよい。
【0075】
当該段ボールシートは、表ライナーとしての当該紙と、中芯と、裏ライナーとを公知の方法で貼合することで製造することができる。なお、当該段ボールシートは、当該紙を用いており、防滑層を有するにもかかわらず単独での摩擦力は抑えられているため、上記貼合の際、コルゲーターの熱板汚れの発生等が抑えられる。
【0076】
<箱>
本発明の箱は、当該紙又は段ボールシートから形成される。当該箱における天面部及び底面部の外面には、上記防滑層が形成されている。当該箱としては、例えば
図1の紙1を元に形成される場合は、アップアラウンド型の箱となる。当該箱は、この形状に限定されるものではなく、A式、B式、C式、アメリカンロック式等の形状の箱であってもよい。
【0077】
当該箱は、天面部外面と底面部外面との摩擦力が大きいため、段積みした際の防滑性に優れる。一方、天面部外面と底面部外面とが接しない場合の天面部又は底面部単独での摩擦力は大きくないため、作業性にも優れる。従って、当該箱は、特に飲料品等の重量のある製品を梱包する箱(段ボール箱)等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
なお、用いた基紙、塗工液、印刷機は、以下のとおりである。
基紙:大王製紙社製 ライナーJEK210g/m
2
カチオン性塗工液A:星光PMC社製 カチオン性フレキソ印刷適性向上剤(FP5500)
カチオン性塗工液B:星光PMC社製 カチオン性表面サイズ剤(BLS720)
カチオン性塗工液C:三晶社製 カチオン化澱粉
アニオン性塗工液A:サカタインクス社製 アニオン性ワックス系防湿剤(FC−3062:スチレン−アクリル系樹脂エマルジョンと水性ワックスエマルジョンとを含む。)
アニオン性塗工液B:荒川化学工業社製 アニオン性表面サイズ剤(ポリマロン1329)
アニオン性塗工液C:ハリマ化成株式会社製 アニオン性表面紙力増強剤(ハリーコートG50)
印刷機:フレキソ輪転印刷機(型番DF93、F&K社製、
図2の形状)
【0080】
[実施例1]
上記印刷機(
図2の形状のフレキソ印刷機)を用いて、上記基紙に対し、第2〜5印刷部による4色の印刷、並びに第6及び7印刷部によるカチオン性塗工液(カチオン性塗工液A)及びアニオン性塗工液(アニオン性塗工液A)を用いた印刷による防滑層の形成を行い、実施例1の紙を得た。カチオン性塗工液Aは天面部となる領域全面に塗工(印刷)し、アニオン性塗工液Aは底面部となる領域全面に塗工(印刷)した。
各印刷部に備わるアニックスロールの線数は、165線とした。カチオン性塗工液A及びアニオン性塗工液Aの塗工液は、共に2g/m
2(固形分換算)となるように調整した。また、第5印刷部及び第7印刷部の後の乾燥機において、120℃の熱風を送風し、乾燥させた。
【0081】
[実施例2〜11並びに比較例1〜7]
使用したカチオン性塗工液及びアニオン性塗工液の種類及び塗工量(固形分換算)を表1に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜11並びに比較例1〜7の各紙を得た。
【0082】
[実施例12]
基紙として、上記基紙の表面に外添紙力剤として高分子高分岐型ポリアクリルアミド(星光PMC社製)を固形分換算で1g/m
2塗工したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例12の紙を得た。
【0083】
[実施例13]
基紙として、上記基紙の表面に外添紙力剤として両イオン性ポリアクリルアミド(星光PMC社製)を固形分換算で1g/m
2塗工したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例13の紙を得た。
【0084】
[評価]
(滑り角度)
得られた紙の天面部となる領域及び底面部となる領域を切り取り、各面における滑り角度を測定した。なお、滑り角度の評価は、JIS−P8147「紙及び板紙の摩擦係数試験方法3.2傾斜法」にて流れ方向の値を3回測定し、その平均値をとった。結果を表1に示す。
【0085】
(外観評価)
得られた紙の天面部及び底面部表面の外観を目視にて、以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
◎:均一に印刷が施されており、支障ない。
○:一方の面に若干のムラが見られる。
△:両方の面にムラが見られる。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、各実施例の紙においては、同じ面同士の滑り角度は25°以下と低く、天面部と底面部との滑り角度は25°を超えていることがわかる。また、フレキソ印刷機で製造するにおいては、外観の点から、カチオン性フレキソ印刷適性向上剤及びアニオン性ワックス系防湿剤を用いることが好ましいことがわかる。