(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945142
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】しわ改善効果について化粧料を評価する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/84 20060101AFI20160621BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20160621BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20160621BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
G01N21/84 Z
G01N21/17 A
G01N33/15 Z
A61B5/10 300Q
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-71065(P2012-71065)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-205053(P2013-205053A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】岩井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】原 祐輔
【審査官】
森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−232290(JP,A)
【文献】
特開2014−163405(JP,A)
【文献】
特開2012−32287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/958
A61B 5/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養角層シートに折りじわを付ける工程;
当該培養角層シートを候補化粧料に浸漬する工程;
当該培養角層シートを乾燥する工程;及び
当該培養角層シートの折りじわの改善度を測定する工程;
を含む、候補化粧料のしわ改善効果についての評価方法。
【請求項2】
折りじわの改善度の測定が目視により行われる、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
候補化粧料に浸漬工程前及び乾燥工程の後に、培養シートを撮影する工程を含む、請求項1に記載の評価方法。
【請求項4】
折りじわの改善度の測定が、撮影された培養シートの画像処理により行われる、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
しわ改善効果がのこりじわの改善効果であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の評価方法に関する。好ましくは、本発明は、しわ改善効果について化粧料を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
年をとるにつれて皮膚老化の1つの現象としてしわが増加するが、美容等の観点から特に女性においてしわの防止および改善に対する関心が非常に高まっている。しわは、大きく分けて、角層を含む表皮の機能低下によって発生する小じわと、表皮より深い真皮の機能低下によって発生する大じわ(又は表情じわ)に分けられる。角層を含む表皮の機能低下により生じるしわは、主に加齢、紫外線、低温度、低湿度などの影響で表皮の水分保持機能が低下することにより生じる。一方、真皮の機能低下により生じるしわは、老化や紫外線、そして機械的ストレスの影響で、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)が増減することにより、コラーゲンやエラスチンからなる皮膚の弾力構造状態が崩れることにより生じるとされている(特許文献1、非特許文献1、2及び3)。皮膚に生じた小じわの溝が深く刻まれることで大じわへと移行することが知られており(非特許文献4)、小じわと大じわは、それぞれ密接に関連している。
【0003】
乾燥が厳しい冬場において小じわが発生しやすいことは、多くの人にとって共通の認識であり、小じわの予防・改善のためには、化粧料、特に化粧水、乳液、クリーム、美容液などで保湿を行うこと、そして加湿器を用いて加湿することが重要であると考えられている。保湿を目的とした化粧料では特に、グリセリンやヒアルロン酸などの保湿剤を含む化粧料が用いられている。
【0004】
これまで、乾燥表皮を用いた肌荒れモデルを用いて、角層透明度を高める候補物質をスクリーニングする方法(特許文献2)や、角層細胞間脂質の構造変化を指標として皮膚バリア機能改善又は向上される候補物質をスクリーニングする方法(特許文献3)が知られていた。これらの方法は、角層透明度や皮膚バリア機能を改善する候補物質をスクリーニングしているが、しわを改善する候補物質のスクリーニングについての記載はなない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−201229号
【特許文献2】特開2010−172200号
【特許文献3】特開2010−175264号
【特許文献4】特開2010−119428号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arch Dermatol Res (2002)294:405−410
【非特許文献2】Cell Motil Cytoskeleton 2000 Jan; 45(1):1−9
【非特許文献3】Matrix Biol. 2001 Nov; 20 (7):397−406
【非特許文献4】Skin Research and Technology 2011; 17: 135−140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
角層についたしわを、修復することができる化粧料の開発が望まれており、候補化粧料の角層のしわ改善能力を、迅速かつ大規模に実施可能な化粧料の評価方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、角層を含む表皮の機能低下によって発生する小じわの発生メカニズムについて鋭意研究を行ったところ、定着性の小じわは、角層の機能低下と皮膚の下に存在する筋肉の動きにより発生した非定着性の角層性のシワ(本明細書において「のこりじわ」と定義する)の溝が、入浴や化粧料による保湿などによって十分に回復されないまま長時間経過することにより生じることを見出した(
図1)。具体的に、角層に生じた非定着性ののこりじわは、皮膚の中で特に堅い角層についた折れ癖であり、堅い角層の溝がメカニカルストレスとなって表皮の溝へと定着することによりのこりジワより深い表皮性の小じわが形成することを見出した。
【0009】
小じわは、角層を含む表皮の機能低下により発生し、主に冬場の乾燥によって生じることが経験上知られている。小じわに対しては、化粧水や乳液を用いて十分に保湿を行うことにより、小じわを修復・改善することができることは知られているものの、ひとたび角層より内部の表皮(顆粒層、有棘層、基底層)にまで小じわが定着してしまうと、保湿を行っても、一時的には小じわが消滅するものの時間がたつと小じわが出現してしまうようになる。こうした表皮に定着した小じわを放置しておくと、さらに表皮の奥の真皮におけるコラーゲンやエラスチンなどの構造変化を伴う大じわを導く原因になり、大じわに対しては保湿を行っても修復が難しいことは周知の事実である。
【0010】
従来は、表皮の構造変化を伴う小じわについて、保湿により修復可能な軽度のものと、保湿によっても一時的にしかしわが消失しない重度のものがあると漠然と認識され、いずれにせよ小じわの予防には保湿が必要と考えられており、小じわを修復できる化粧料の評価を適切に行うことができていなかった。本発明者らの研究により、表皮の構造変化を伴うしわのうち、保湿により修復可能な軽度のものは、角層にのみ構造変化が生じたしわ(のこりじわ)であり、保湿によっても一時的な回復しか期待できない重度のものを、角層の他、顆粒層、有棘層、基底層を含めた表皮に構造変化が生じたしわ(本明細書で「小じわ」又は「定着性の小じわ」と定義する。)であることが見出された。
【0011】
本明細書で定義されたのこりじわは、角層以外の表皮及び真皮において構造変化が起きているわけではなく、皮下の筋肉の動きにより、乾燥などにより機能が低下した角層に対して、折り癖が付けられた状態である。かかる折り癖を放置していると、折り癖がメカニカルストレスとなり、角層を含めた表皮に構造変化が生じて、定着性の小じわに移行してしまう。なお長い期間をかけて小じわが大じわへと移行することは知られており(非特許文献4)、したがって、化粧料の開発において、残りじわにおける角層の折り癖を修復可能な化粧料を開発することが、定着性の小じわ形成の予防、ひいては大じわ形成の予防に重要であることを見出した。このような化粧料は、のこりじわによるメカニカルストレスを解放すること可能であることから、かかる化粧料をある程度長い期間連用することにより、すでに表皮に定着した小じわや真皮に定着した大じわに対しても改善の効果を発揮することができる。
【0012】
さらに本発明者らがのこりじわについて鋭意研究を行ったところ、驚くべきことに角層シートを使用してのこりじわをモデル化することが可能になった。すなわち、角層シートに折りじわを付けた状態こそが、まさに角層に対して、皮下の筋肉の動きにより折り癖が付けられた状態であるのこりじわをモデル化したものであり、この折りじわを適切に修復可能な化粧料は、しわ、特にのこりじわを適切に修復することができ、ひいては定着性小じわ及び大じわの改善にも寄与しうるということを見出した。
【0013】
そこで、本発明者らは、折りじわのついた角層シートを、候補化粧料に浸潤し、乾燥させることにより、しわ改善度を測ることができることを見出し、候補化粧料のしわ改善効果についての評価方法を発明した。
【0014】
より具体的に、本願発明は、以下のものに関する:
(1) 角層シートに折りじわを付ける工程;
候補化粧料に浸漬する工程;
乾燥する工程;及び
角層シートの折りじわの改善度を測定する工程;
を含む、候補化粧料のしわ改善効果についての評価方法。
(2) 折りじわの改善度の測定が目視により行われる項目1に記載の評価方法。
(3) 候補化粧料への浸漬工程前、及び乾燥工程の後に、角層シートを撮影する工程を含む、項目1に記載の評価方法。
(4) 折りじわの改善度の測定が、撮影された角層シートの画像処理により行われる、項目3に記載の評価方法。
(5) しわ改善効果がのこりじわの改善効果であることを特徴とする項目1〜4のいずれか一つに記載の評価方法。
【発明の効果】
【0015】
従来は、しわの評価には動物モデルや、実際のヒトの皮膚に対して試験を行う必要があり、個体差の問題や、倫理上の問題や、試験数に限界があったところ、本発明では、角層シートを用いて、候補化粧料を評価することができることから、製品開発の際の大規模で、均質のスクリーニングが可能になり、製品開発を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ヒトの顔の皮膚におけるのこりじわの形成を示す写真である。
【
図2】
図2は、角層シートしわモデルにおけるしわ改善効果を示す図である。
【
図3】
図3は、in vivoにおける表情運動前後におけるしわの状態、並びに表情運動直後にモデル化粧水塗布後におけるしわの状態を対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第一の態様として、本発明は、候補化粧料のしわ改善効果についての評価方法を提供する。より具体的に、本発明の評価方法は、以下の工程:
角層シートに折りじわを付ける工程;
候補化粧料に浸漬する工程;
乾燥する工程;及び
角層シートの折りじわの改善度を測定する工程;
からなる群から選ばれる1以上の工程を含む。
【0018】
本発明の候補化粧料とは、しわの改善に効果を有する可能性を有する化粧料のことをいう。より具体的には、候補化粧料は、特に化粧水、乳液、クリーム、美容液をいうが、皮膚の改善を直接の目的とするものではないが、皮膚に塗布されるもの全てを含むことを意図し、例えば、日焼け止め剤、虫除け剤、脱毛剤、育毛剤、シェービングローションやアフターシェービングローションなども包含するものとする。角層シートへの浸潤、乾燥を介してしわ改善効果が発揮される観点から、水性の化粧料、例えば化粧水や美容液が好ましいと考えられる。
【0019】
しわ改善効果とは、皮膚に形成されたしわが消失することをいう。本発明の観点からは、角層に生じた折り癖であるのこりじわの消失又は減弱が好ましいが、それに限定されず、角層を含めた表皮の構造変化を伴う小じわ、及び真皮の構造変化を伴う大じわが消失、又は減弱することをいう。
【0020】
本発明において、角層シートは、生体の皮膚から調製した角層シート(調製角層シート)や、細胞培養により得られた角層シート(以下、培養角層シートという)を指すが、大規模かつ均一にスクリーニングする観点からは、培養角層シートが好ましい。
【0021】
調製角層シートの由来は限定されないが、特にヒトの皮膚における角層から調製したものが好ましい。より具体的に、外科的手段等の侵襲的な方法により取得されたものであってもよい。
【0022】
培養角層シートとは、in vitro培養により得られた角層のシートをいい、ヒトなどの皮膚から採取した皮膚組織を培養して維持したものから単離された角層シートや、線維芽細胞、又は幹細胞(例えば上皮幹細胞、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞)からin vitroで分化された線維芽細胞を、コラーゲン、フィブリン、ポリ乳酸などのポリマーや、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類により構成された培養支持体上で培養して得られた三次元培養皮膚から得られた角層シートが含まれる。角層シートは、培養下で維持された皮膚組織から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオン濃度を制御した生理食塩水中でタンパク質分解酵素によって処理する等の手法を用いて単離される。三次元培養皮膚として、LabCyte EPI−MODEL(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)から商業的に入手可能なヒト3次元培養表皮モデル製品が用いられる。商業的に入手可能な3次元培養表皮モデル製品から得られた培養角層シートは、ロット間の差異が少ないため異なるロットを用いて本発明の評価方法を実施することが可能であるが、ロット間の差異が出ないようにするため、1の培養角層シートを幾つかシート片に切り分けて、本発明に用いることが可能である。
【0023】
本発明において、角層シートを手で折りじわを付けることもできるが、一定の折じわをつけるために、ヒンジ部を有する板を用い、板を一定の角度まで折ることにより折りじわを付けることができる。予定する折りじわの深さにより、任意の角度を選択することができ、例えば30°、45°、60°、75°、90°、120°、135°、150°、180°から選択される。
【0024】
本発明において角層シートは、化粧料を通常用いる温度域で候補化粧料に浸漬される。浸漬温度は、好ましくは候補化粧料を使用する地域の温度にあわせて設定することができ、通常は、10℃〜40℃、好ましくは15℃〜30℃、好ましくは20℃〜30℃の範囲である。浸漬時間は、任意の時間が選択されてもよいが、浸漬時間を短くすれば、よりしわ改善能力の高い候補化粧料をスクリーニングすることができる。浸漬時間として、10秒、15秒、30秒、1分、2分、3分、5分、10分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間、3時間、又はそれら以上の時間、例えば4時間、8時間、12時間、24時間などが選択されうる。候補化粧料の皮膚に対する塗布が予定される場合、皮膚に塗布された候補化粧料は通常比較的短い時間で蒸発するため、10秒〜2分程度の比較的短い浸漬時間が選択される。一方、候補化粧料がパックなどを用いて適用される場合には、10分、20分、30分〜一晩といったより長い時間が選択される。
【0025】
候補化粧料に含まれうる成分には、基剤として水、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのアルコール類、保湿剤としてグリシン、ベタイン、ピロリドンカルボン酸Naなどのアミノ酸類、フルクトース、マルチトール、マンニトール、トレハロースなどの糖類、界面活性剤としてオレイン酸グリセリル、イソステアリルグリセリル、植物エキス、油分としてホホバオイル、ツバキオイル、オリーブオイル、スクワランなど、さらに有効成分としてヒアルロン酸、コラーゲン、セラミド、アスコルビン酸、ビタミンEなど、そして賦形剤としてクエン酸ナトリウム、クエン酸、乳酸ナトリウム、防腐剤として安息香酸塩、ソルビン酸などが含まれていてもよいが、これらに限定されるものではなく、一般の化粧料に用いられる成分のいずれを含んでいてもよい。
【0026】
本発明において、浸漬により候補化粧料に浸潤された角層シートは、所定の浸漬時間の後に、乾燥される。乾燥工程は、任意の温度及び湿度で行われてもよいが、通常候補化粧料が使用されることが予測される温度及び湿度で行われることが好ましい。例えば、温度及び湿度は、候補化粧料の販売される地域などによって異なるが、それぞれ独立に10℃〜40℃、好ましくは15℃〜30℃、さらに好ましくは20℃〜30℃、そして湿度30〜90%、好ましくは40〜80%、さらに好ましくは50〜60%の範囲が選択される。スクリーニングの時間を短縮する観点から、通常候補化粧料が使用されることが予測される温度及び湿度よりも高い温度及び/又は低い湿度で乾燥工程が行われてもよい。
【0027】
角層シートの折りじわの改善度の測定は、折りじわの消失程度を目視により評価することによって行われる。例えば基準溶液、例えば10%グリセリン水溶液を用いて、同じ条件で折りじわの付加工程、浸漬工程、及び乾燥工程を経た場合の折りじわの消失程度を基準として、基準と同等か又は基準よりも折りじわが消失しているものを、優れたしわ改善効果を有する候補化粧料としてスクリーニングすることが可能である。逆に基準よりも折りじわが消失していないものは、しわ改善効果を有しない候補化粧料と判定される。ここで基準溶液としては任意の溶液が選択されうるが、すでに市販されている化粧料、美容液などを基準溶液として用いることも可能である。
【0028】
折りじわの改善度の測定は、折りじわの消失程度を画像処理により評価することもできる。その場合、折りじわの改善度の測定工程において、角層シートを撮影する工程、二値化処理を行う工程をさらに含んでもよい。二値化処理を行うことにより、折りじわの消失程度を数値化することが可能であり、多くの候補薬剤をハイスループットスクリーニングする観点では、画像処理による評価が好ましい。
【0029】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:のこりじわの形成
1名の被験者において、石鹸にて洗顔後、人工気候室(温度22〜24℃、湿度10〜45%RH)中で10〜30分間馴化を行い、馴化後に、目尻のしわを撮影した(
図1左)。続いて、強く目を閉じる、開けるの動作を5秒ごとに10回行い、これを表情運動とした。表情運動直後における目尻のしわを撮影した(
図1右)。
図1において矢印で示した通り、表情運動直後において、元々存在する大じわを延長するようにのこりじわが形成されることが示された。
【0031】
実施例2:折じわの改善に対する候補薬剤のスクリーニング
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングよりヒト表皮再構成モデルを購入した。これをトリプシン処理して角層シートを32℃、湿度60%で乾燥させて透明な角層シートを得る。これを角度90度に折り曲げ、元に戻すことにより角層シートに折れじわを形成させた。折れじわ部分は、角層透明度が低下しており、ダメージ部位が可視化された(
図2写真左)。折れじわ付き角層シートを、表情変化により皮膚が伸縮した際に皮膚表面で生じるのこりじわのモデルとして、美容法又は化粧料の評価に使用した。折れじわ付き角層シートを、室温(23℃)でモデル化粧水(10%グリセリン、3%エチルアルコール、0.3%HCO60(ポリエチレングリコール(60)水添硬化ひまし油エーテル(日光ケミカルズ株式会社))、0.09%クエン酸ナトリウム,0.01%クエン酸)、又はエタノールに30分間浸漬し、これを32℃、湿度60%で18時間乾燥させ、写真を撮影した(
図2)。その結果、モデル化粧水の方が、角層折れじわの修復に対し有効であることが示された。
【0032】
実施例3:in vivoにおける表情運動によるしわの形成、及びモデル化粧水塗布によるしわの改善
1名の被験者において、石鹸にて洗顔後、人工気候室(温度22〜24℃、湿度10〜45%RH)中で10〜30分間馴化を行い、馴化直後に記載の方法に従い皮膚レプリカを採取した。次にパネルに表情運動(強く目をつぶる動作を複数回)を行わせた後のレプリカを採取した。その後、モデル化粧水を塗布し、その10分後に先に行った方法によりレプリカを採取した。採取したレプリカに関しては、特許文献4に記載の方法に従い作成した画像解析ソフトを用いて3次元画像解析を行い、しわの面積率を算出した。結果を
図3に示す。この実験により、表情運動により形成されたのこりじわは、モデル化粧水の塗布などによりしわを改善することができることがin vivoの実験においても示され、折れじわ付き角層シートが、適切にのこりじわをモデル化しており、本願発明の折れじわ付き角層シートによる化粧料又は美容法のスクリーニング方法により選別された化粧料が実際にin vivoの実験においてもしわを改善可能であることが示された。
【0033】
このように、通常であれば、化粧料のしわに対する改善効果を調べるためには、数人〜数十人のモニターに対して数週間にわたる候補化粧料を使用するモニター試験が必要であったところ、折れじわ付き角層シートを、のこりじわのモデルとすることにより、しわに対する改善効果を有する候補化粧料を簡易かつ簡便に一次スクリーニングを行うことが可能となる。