(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945144
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】法面保護用シート及び法面保護構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
E02D17/20 103B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-76229(P2012-76229)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204351(P2013-204351A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】502281127
【氏名又は名称】株式会社ファテック
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】菊地 洋司
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−164576(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0033337(US,A1)
【文献】
特開2005−023722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の緯糸と複数の経糸とが互いに直角に交錯するように織られ、緯糸が互いに隣接して又は一部重なりあって平行に並ぶように設けられ、経糸が緯糸間の間隔よりも広い間隔を隔てて平行に並ぶように設けられた法面保護用シートであって、
隣り合う経糸間の間隔が密に形成された間隔密部と、
隣り合う経糸間の間隔が間隔密部の間隔よりも粗く形成された間隔粗部と、
間隔密部の両側に形成された補強部とを備え、
前記補強部は、複数本の経糸が間隔密部の間隔より狭い間隔を隔てて並ぶように設けられた経糸の束により形成され、
前記間隔密部が緯糸の両端部に設けられ、当該間隔密部が固定手段により法面に固定されることを特徴とする法面保護用シート。
【請求項2】
緯糸がフラットヤーンにより形成されたことを特徴とする請求項1に記載の法面保護用シート。
【請求項3】
間隔密部が、緯糸の両端部間において緯糸に沿った方向に等間隔隔てて複数個設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の法面保護用シート。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の法面保護用シートの間隔密部が法面の傾斜に沿った方向に連続するように当該法面保護用シートが法面上に設置されて間隔密部の緯糸が固定手段により法面に固定されたことを特徴とする法面保護構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に固定されて法面を保護するための法面保護用シート及び当該法面保護用シートを備えた法面保護構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元網状構造体内の隙間に種子を含有した植生基盤材が充填される植生基盤層と、該植生基盤層の上面を覆う上面被覆シートと、植生基盤層の下面を覆う下面被覆シートと、を積層して形成された法面保護用シートが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−208604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の法面保護用シートは、三次元網状構造体が筒状空洞部の一側面にループ状のまま潰れた状態で堆積する被覆層により形成され、下面被覆シートが不織布により形成され、上面被覆シートが、藁、ジュート等により筵状に形成されたものであるので、固定用杭で地盤に固定された状態において、法面保護用シートに荷重が加わった場合に、法面保護用シートは荷重を固定用杭に伝達する力は小さく、また法面保護用シートはこの荷重を固定用杭を介して地盤に伝達する力が小さいという問題点があった。
本発明は、法面保護用シートに加わる荷重を法面の地盤に伝達する力を大きくできて、法面地盤の崩落防止効果の高い法面保護用シート及び法面保護構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る法面保護用シートは、複数の緯糸と複数の経糸とが互いに直角に交錯するように織られ、緯糸が互いに
隣接して又は一部重なりあって平行に並ぶように設けられ、経糸が
緯糸間の間隔よりも広い間隔を隔てて平行に並ぶように設けられた法面保護用シートであって、隣り合う経糸間の間隔が密に形成された間隔密部と、隣り合う経糸間の間隔が間隔密部の間隔よりも粗く形成された間隔粗部と、
間隔密部の両側に形成された補強部とを備え、前記補強部は、複数本の経糸が間隔密部の間隔より狭い間隔を隔てて並ぶように設けられた経糸の束により形成され、前記間隔密部が緯糸の両端部に設けられ、当該間隔密部が固定手段により法面に固定される構成を備えたので、
緯糸で法面を覆うことができるとともに、緯糸で降雨の打撃力を緩和できるため、地山が直接、降雨の打撃を受けないようになり、また、雨水が緯糸の表面を流下するので、法面保護効果が高くなり、また、固定手段を間隔密部を介して法面の地盤に固定するとともに固定手段で間隔密部の緯糸を法面に固定することにより、法面保護用シートに荷重が加わった場合に緯糸が伸び難くなって、荷重を伝達する力が大きくなり、法面地盤を安定的に保持でき
、さらに、間隔密部の緯糸の両端が補強部で支持されることから、固定手段を支持する力がより大きくなり、固定手段に法面保護シートからの力が加わった場合に緯糸がより伸び難くなって、法面地盤が安定する法面保護用シートとなる。
また、緯糸がフラットヤーンにより形成されたことにより、フラットヤーンの面で法面を覆うことができることから、降雨の打撃力を緩和し、地山が直接、降雨の打撃を受けないようになり、また、雨水はフラットヤーンの表面を流下するので、法面保護効果の高い法面保護用シートを得ることができる。
また、間隔密部が、緯糸の両端部間において緯糸に沿った方向に等間隔隔てて複数個設けられたので、固定手段に加わる荷重を複数の間隔密部で均等に受けることができるので、法面保護用シートに加わる荷重を支持する支持力を高めることができ、法面地盤の崩落防止効果の高い法面保護用シートを提供できる。
本発明に係る法面保護構造体は、前記法面保護用シートの間隔密部が法面の傾斜に沿った方向に連続するように当該法面保護用シートが法面上に設置されて間隔密部の緯糸が固定手段により法面に固定されたので、法面地盤が崩落しにくい法面保護構造体となる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図4】法面に法面保護用シートを固定した法面保護体を示す斜視図。
【
図5】法面に法面保護用シートを固定した法面保護体を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1に示すように、法面保護用シート1は、複数の緯糸2と複数の経糸3とが互いに直角に交錯するようにシート状に織られた織物であり、緯糸2が互いに近接して平行に並ぶように設けられ、経糸3が間隔を隔てて平行に並ぶように設けられたことによって、例えば、横長2m程度、縦長50m程度の帯状に形成される。
緯糸2が互いに近接して平行に並ぶように設けられるとは、緯糸2が互いに隣接して又は一部重なりあって又は所定の間隔(1mmに満たない僅かな間隔)を隔てて平行に並ぶように設けられることをいう。そして、経糸が少なくとも前記所定の間隔よりも広い間隔を隔てて平行に並ぶように複数列設けられる。
【0008】
緯糸2及び経糸3は例えばポリエチレン製の糸により形成される。
緯糸2は例えば幅2〜3mmの薄いテープ
状に形成されたフラットヤーンにより形成され、経糸3は例えばモノフィラメントにより形成される。
【0009】
法面保護用シート1は、隣り合う経糸3と経糸3との間隔H1が密に形成されて後述するアンカー21等の固定手段により法面20に固定される間隔密部10と、隣り合う経糸3と経糸3との間隔H2が間隔密部10の間隔H1よりも粗く形成された間隔粗部11とを備える。
【0010】
間隔密部10は、少なくとも緯糸2の両端部(複数の緯糸2;2…の両方の端部2a;2a)に設けられればよいが、緯糸2の両端部と緯糸2の両端部間とに設けられることが好ましく、この場合、緯糸2の両端部間に2つ以上の複数の間隔密部10;10…が等間隔てて設けられることが好ましい。尚、図では、各間隔密部10の横幅(間隔H1)の中心位置に、固定手段の打ち込み箇所の補強を目的として経糸3を設けた例を示したが、当該経糸3は無くてもよい。
【0011】
間隔粗部11は、隣り合う間隔密部10と間隔密部10との間において緯糸に沿った方向である横方向に等間隔隔てて複数個設けられることが好ましい。
【0012】
間隔密部10を形成する互いに隣り合う経糸3;3の近傍には間隔密部10の間隔H1より狭い間隔を隔てて経糸3が1本以上平行に並ぶように設けられたことによって、間隔密部10を区画する両側の経糸3;3が経糸3の束による補強部15に形成されている。
【0013】
図2及び
図3に基づいて具体的な法面保護用シート1の一例を説明する。
例えば、
図3に示すように、間隔密部10が、緯糸2の両端部に設けられるとともに緯糸2の両端部(端部2a;2a)間に横方向に等間隔隔てて4箇所に設けられることで合計6つ設けられ、間隔粗部11が、隣り合う間隔密部10の補強部15と間隔密部10の補強部15との間において横方向に等間隔隔てて5箇所に設けられた構成であって、間隔密部10を区画する隣り合う経糸3と経糸3との間隔H1が3.7cm、補強部15を区画する両外側の経糸3と経糸3との間隔H3が0.9cm、間隔粗部11を区画する隣り合う経糸3と経糸3との間隔H2が8.7cmに形成され、緯糸2の両端部に位置する補強部15より横方向に突出する余り代突出部の長さH4が2.0cmに形成されたことによって、横方向全長が254.5cm、縦方向全長が5000cmに形成される(間隔H1〜H4は
図2参照)。
即ち、横方向全長254.5=(3.7(間隔H1)+(0.9(間隔H3)×2))×6+(8.7(間隔H2)×5)×5+(2.0(余り代突出部の長さH4)×2)である。
また、補強部15は4〜5本の経糸3の束により形成され、補強部15を形成する互いに隣り合う経糸3と経糸3との間隔は2mm程度に形成される。
尚、法面保護用シート1の寸法、各部分の数、隣り合う間隔密部10;10間の間隔粗部11の数等は任意に決めればよい。
【0014】
次に法面保護用シート1を用いた法面保護構造体の構築方法について説明する。
帯状の法面保護用シート1をロール状に巻いて
図3;4に示す法面20の下端まで運搬し、法面保護用シート1をロールの一端から法面20に沿って引き上げていって一端部1aを法面20の上端側に固定することにより、
図4に示すように、法面保護用シート1の間隔密部10が法面20の傾斜に沿った方向に連続するように当該法面保護用シート1が法面20上に設置される。そして、
図4に示すように、間隔密部10に対して法面20の上下方向に所定間隔(例えば1m間隔)を隔てた部分毎に固定手段としてのアンカー21を打設する。アンカー21は、例えば、一端に図外の係合部を備え他端に図外のねじ部を備えたアンカーロッド22と、アンカーロッド22の他端に装着される押え板23と、アンカーロッド22の他端のねじ部に締結されるナット24とを備える(
図5参照)。
例えば予め法面20のアンカー設置位置の地盤30を1m〜数mの深さに削孔してアンカーロッド挿入孔25を形成しておいて、アンカーロッド22を一端側からアンカーロッド挿入孔25に挿入してアンカーロッド挿入孔25にセメントミルクやモルタルを注入してアンカーロッド22を地盤30に固定しておく。法面20に法面保護用シート1を敷設して、アンカーロッド22の他端のねじ部を間隔密部10の緯糸2の間から間隔密部10よりも上方に突出させておく。そして、間隔密部10よりも上方に突出させたねじ部に押え板23を挿入してねじ部にナット24を締結することで押え板23を間隔密部10の緯糸2に押し付け、当該緯糸2を法面20に押し付けることにより、法面保護用シート1が法面20に固定された法面保護構造体31が構築される。
【0015】
尚、固定手段としては、法面20に設置された法面保護用シート1の間隔密部10の上から法面20の地盤30に打ち込まれて間隔密部10の緯糸2を法面20に押し付けて法面保護用シート1を法面20に固定する杭状のものを用いてもよい。
【0016】
実施形態の法面保護用シート1によれば、隣り合う経糸3と経糸3との間隔H1が密に形成された間隔密部10を備えているので、間隔密部10の隣り合う経糸3と経糸3との間隔H1を適切に調整することで、間隔粗部11の緯糸2に加わる荷重をその緯糸2を介して間隔密部10の緯糸2に伝達し、間隔密部10に設置されたアンカー21を介して法面20に伝達するため、法面保護用シート1に加わる荷重の支持力を大きくすることができる。
言い換えれば、間隔密部10の緯糸2を法面20に固定するための固定手段に所定の力が加わっても緯糸2が伸びないように、間隔密部10の隣り合う経糸3と経糸3との間隔H1を調整する。所定の力は、例えば1トン以下である。
【0017】
法面保護用シート1によれば、間隔密部10を形成する互いに隣り合う経糸3;3の近傍には間隔密部10の間隔H1より狭い間隔を隔てて経糸3が1本以上平行に並ぶように設けられ、間隔密部10を区画する両側の経糸3が経糸3の束による補強部15に形成されているので、間隔密部10の緯糸2の両端が補強部15で支持されていることから、間隔密部10の緯糸2を法面20に固定するための固定手段を支持する力がより大きくなり、固定手段に法面20の地盤の崩落力が加わった場合でも緯糸2がより伸び難くなって、法面20の地盤が崩落しにくくなる法面地盤崩落防止効果の高い法面保護用シート1となる。
言い換えれば、間隔密部10の緯糸2を法面20に固定するために地盤に打ち込まれた固定手段に所定の崩落力が加わっても緯糸2が伸びないように、補強部15の強度を調整する。所定の崩落力は、例えば、1トン以下である。
【0018】
法面保護用シート1によれば、隣り合う経糸3と経糸3との間隔が密に形成された間隔密部10を備え、かつ、間隔密部10を区画する両側の経糸3;3が経糸3の束による補強部15に形成されているので、間隔密部10の緯糸2およびアンカー21を介して間隔粗部11に加わる荷重を法面20に伝達できる力をより大きくでき、固定手段に力が加わった場合でも緯糸がより伸び難いように構成でき、法面地盤の崩落防止効果の高い法面保護用シートを提供できる。
【0019】
また、間隔密部10が、緯糸2の両端部間において緯糸2に沿った方向に等間隔隔てて複数個設けられた構成とすれば、地盤30に打ち込まれた固定手段に加わる荷重を複数の間隔密部10で均等に受けることができるので、法面保護用シート1に加わる荷重を支持する支持力を高めることができ、法面地盤の崩落防止効果の高い法面保護用シートを提供できる。
【0020】
さらに、間隔粗部11を備えるので、法面保護用シート1の上に植生基盤を形成した場合には、間隔粗部11は、隣り合う経糸3と経糸3との間隔H2が間隔密部10の間隔H1よりも粗いので、植生基盤より生育する植物の根が間隔粗部11の緯糸2と緯糸2との間に入り込んで法面地盤に根付きやすくなる。
法面保護用シート1の下に植生基盤を形成した場合であっても、植生基盤より生育する植物の茎が間隔粗部11の緯糸2と緯糸2との間を通り抜けて生育しやすくなる。
【0021】
また、緯糸2としてフラットヤーンを用い、フラットヤーンが互いに隣接して又は一部重なりあって平行に並ぶように設けられた構成を備えたことにより、フラットヤーンの面で法面20を覆うことができ、法面保護効果の高い法面保護用シート1を得ることができる。
また、緯糸2を幅のあるフラットヤーンとしたことで、降雨の打撃力を緩和し、地山が直接、降雨の打撃を受けないようになり、また、雨水は緯糸2の表面を流下するので、法面保護効果の高い法面保護用シート1を得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 法面保護用シート、2 緯糸、2a 緯糸の端部、3 経糸、10 間隔密部、
11 間隔粗部、20 法面、21 アンカー(固定手段)。