(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
クロルアルカリ電解に使用するイオン交換膜電解槽では、通常、陽極、イオン交換膜および水素発生陰極の三者を密着状態で配置して電解電圧の低下を図っている。しかし、電解面積が数平方メートルにも達する大型の電解槽においては、剛性部材の陽極および陰極を電極室に収容した場合、両電極をイオン交換膜に密着させて電極間隔を所定値に保持することは困難であった。
【0003】
電極間距離または電極と電極集電体間の距離を小さくするため、またはほぼ一定値に維持するための手段として、これらに材料として弾性材料を使用する電解槽が知られている。このような電解槽は、電極をイオン交換膜に均一に密着させてイオン交換膜の破損をさけるため、および陽−陰両電極間距離を最小に保つため、少なくとも一方の電極の極間距離方向への移動が自由な構造とし、電極を弾力性部材で押し狭持圧を調節している。この弾性材料としては、金属の細線の織布、不織布、網等の非剛性材料、および板バネ等の剛性材料が知られている。
【0004】
しかしながら、これまでの非剛性材料は、電解槽への装着後に、陽極側から過度に押圧された場合に、部分的に変形して電極間距離が不均一になったり、細線がイオン交換膜に突き刺さるといった欠点を有していた。また、板バネ等の剛性材料は、イオン交換膜を傷つけたり、塑性変形が生じて再使用が不可能になるといった欠点を有していた。さらに、食塩電解槽のようなイオン交換膜電解槽では、陽極や陰極をイオン交換膜に密着させて低電圧で運転を継続できることが望ましく、電極をイオン交換膜方向に押圧するための種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、従来用いられていた板バネや金属網状体に代わり、金属製コイル体を陰極と陰極端板の間に装着して陰極を隔膜方向に均一に押圧して各部材を密着させた電解槽が提案されている。また、特許文献2では、特許文献1の改良技術として、金属製コイル体を耐食性フレームに巻回して弾性クッション材を作製し、この弾性クッション材を水素発生陰極と陰極集電板との間に装着して水素発生陰極をイオン交換膜に均一に押圧させたイオン交換膜電解槽が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今日、
図11に示すような、剛性陽極31aと陽極隔壁31bとを有する陽極室31と、剛性陰極32aと陰極隔壁32bとを有する陰極室32と、を有する電解槽ユニット40が、イオン交換膜37を介して連続して配置された、いわゆるゼロギャップ電解槽が知られている。この電解槽ユニットは、剛性陰極32aと陰極隔壁32bとが、複数のV字バネ33を介して接合されており、V字バネ33の反力により、剛性陰極32aとイオン交換膜37と隣接する電解槽ユニットの剛性陽極とが密着させられてなる。このようなイオン交換膜電解槽に対しても、イオン交換膜37の破損防止および電解性能の向上を目的として、特許文献1および2にて提案されている金属製コイル体や弾性クッション材を適用した改良が可能である。また、電解性能のさらなる向上を目的として、V字バネ33の材質を低抵抗なものに変更することも考えられる。しかしながら、既存の複極式イオン交換膜電解槽におけるV字バネ33を取り換える作業は大掛かりなものであり、時間的にもコスト的にも好ましくない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、陰極隔壁と剛性陰極とが複数のV字バネを介して接合された既存の複極式イオン交換膜電解槽を、簡便な手法により、電解性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記イオン交換膜電解槽のV字バネを流れる電解電流の経路を最短にすることで、簡便に電解性能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のイオン交換膜電解槽は、イオン交換膜、剛性陰極、可撓性陰極、陰極隔壁、剛性陽極および陽極隔壁を備えるイオン交換膜電解槽であって、前記剛性陰極と金属弾性体と前記可撓性陰極と前記イオン交換膜とがこの順に積層されるとともに、前記剛性陰極と前記陰極隔壁とが複数のV字バネを介して接合され、前記陰極隔壁と前記陽極隔壁とが積層され、前記剛性陰極、前記V字バネ、および前記陰極隔壁により区画される陰極室と、前記剛性陽極、および前記陽極隔壁により区画される陽極室とを備えるイオン交換膜電解槽において、
前記V字バネの開口側の両端部のうちの一方の端部近傍に導電性部材が配置され、該V字バネが圧縮されることにより、前記V字バネの開口側の両端部と前記導電性部材が電気的に接続されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記導電性部材は弾性を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の他のイオン交換膜電解槽は、イオン交換膜、剛性陰極、可撓性陰極、陰極隔壁、剛性陽極および陽極隔壁を備えるイオン交換膜電解槽であって、前記剛性陰極と金属弾性体と前記可撓性陰極と前記イオン交換膜とがこの順に積層されるとともに、前記剛性陰極と前記陰極隔壁とが複数のV字バネを介して接合され、前記陰極隔壁と前記陽極隔壁とが積層され、前記剛性陰極、前記V字バネ、および前記陰極隔壁により区画される陰極室と、前記剛性陽極、および前記陽極隔壁により区画される陽極室とを備えるイオン交換膜電解槽において、
前記複数のV字バネと接合していない剛性陰極の領域に、陰極隔壁方向に向けて凹部が形成され、該凹部と陰極隔壁とが電気的に接続されてなることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の他のイオン交換膜電解槽は、イオン交換膜、剛性陰極、可撓性陰極、陰極隔壁、剛性陽極および陽極隔壁を備えるイオン交換膜電解槽であって、前記剛性陰極と金属弾性体と前記可撓性陰極と前記イオン交換膜とがこの順に積層されるとともに、前記剛性陰極と前記陰極隔壁とが複数のV字バネを介して接合され、前記陰極隔壁と前記陽極隔壁とが積層され、前記剛性陰極、前記V字バネ、および前記陰極隔壁により区画される陰極室と、前記剛性陽極、および前記陽極隔壁により区画される陽極室とを備えるイオン交換膜電解槽において、
前記V字バネが圧縮されることにより、該V字バネの開口側の端部同士が電気的に接続されてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のイオン交換膜電解槽においては、前記金属製弾性体としては、耐食性フレームに金属製弾性体を巻回してなる弾性クッション材か、または、平板バネ状体保持部材から傾斜して延びる複数対の櫛状の平板バネ状体を好適に用いることができる。また、本発明のイオン交換膜電解槽においては、前記金属製弾性体は金属製コイル体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、陰極隔壁と剛性陰極とが複数のV字バネを介して接合された既存の複極式イオン交換膜電解槽を、簡便な手法により、電解性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明のイオン交換膜電解槽は、複極式電解槽ユニットの所定個数が、イオン交換膜を介して積層されて組み立てられてなる。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽の電解槽ユニットの電気的接続を示す概略部分断面図である。図示するように、電解槽ユニット10は、剛性陽極1aと陽極隔壁1bとを有する陽極室1と、剛性陰極2aと陰極隔壁2bとを有する陰極室2と、に区画されている。また、剛性陰極2aと陰極隔壁2bとはV字バネ3を介して接合されている。なお、図示例においては、陽極隔壁1bと陰極隔壁2bは凹凸を有する形状であり、チタン、ニッケル等の薄板で作製した電極室の剛性を高めている。
【0018】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽のV字バネ3近傍の説明図であり、(a)はV字バネ近傍の平面図であり、(b)は、V字バネの開口部側から見たV字バネ近傍の側面図であり、(c)は、A−A断面図であり、(d)はB−B断面図である。図示するように、V字バネ3の開口側の端部近傍に導電性部材4(図示例では、金属製棒状体)が配置され、この導電性部材4は隣り合うV字バネ3同士の隙間(図示例では、wの位置)で、剛性陰極2aとティグ溶接等により固定されている。本発明の電解槽は、V字バネ3が圧縮されることによって、すなわち、V字バネ3が押し潰されることによって、V字バネ3と導電性部材4とが電気的に接続されている。
【0019】
図3は、V字バネと導電性部材との電気的接続を説明する概略図であり、(a)はV字バネ圧縮前の状態であり、(b)はV字バネ圧縮後の状態である。従来の電解槽においては、電解電流はV字バネ3の形状に沿って流れていたが、本発明の第1の実施の形態に係る電解槽においては、電解電流は導電性部材4を介して最短経路を流れることになり(
図1および
図3(b)参照)、V字バネ3における電力ロスを抑制することができる。導電性部材4としては、良好な耐食性を示すニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、または銅等の固有抵抗の小さい金属に良好な耐食性を示すニッケル等をめっきで被覆して製造した棒状体や板状体、ステンレス鋼の棒状体や板状体をニッケル製のメッシュで覆ったものを用いることができる。
【0020】
図3においては、導電性部材4の断面形状は円形であるが、本発明の電解槽においては、導電性部材4の断面形状はこれに限られるものではない。導電性部材4の断面形状としては、円形以外にも、楕円形、三角形、矩形等を採用してもよいが、剛性陰極2a表面で発生した水素ガスがイオン交換膜の反対側に抜けるのを妨げないよう、剛性陰極2aと導電性部材4が線接触することが好ましい。そのため、導電性部材4の断面形状は、好ましくは円形または楕円形である。
【0021】
本発明の第1の実施の形態に係る電解槽においては、導電性部材4は弾性を有していることが好ましい。導電性部材4が金属製棒状体のような剛性部材である場合、V字バネ3と導電性部材4を全面的に接触させることは製作上困難な場合もある。この場合、V字バネ3と導電性部材4の接触が部分的となってしまい、接触抵抗を十分に低下させることができない。そこで、導電性部材4に弾性を持たせることで、V字バネ3と導電性部材4との接触面積を増加させ、これにより接触抵抗をさらに低下させることができ、結果として、V字バネ3における電力ロスを最小限に抑えることが可能となる。
【0022】
図4は、弾性を有する導電性部材の一好適例を示す図であり、(a)弾性を有する導電性部材の平面図であり、(b)は弾性を有する導電性部材の側面図である。
図4に示す弾性を有する導電性部材4は、金属製棒状体4aに導電性メッシュ4bを、撓みを持たせた状態で溶接等により固定したものであるが、本発明の実施の形態はこれに限られるものではなく、これ以外にも、ニッケル等のメッシュで作製した筒等を用いてもよい。
【0023】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電解槽においては、剛性陰極2aのV字バネ3接合面の反対面に、金属製弾性体5(図示例においては、金属製コイル体)と可撓性陰極6とが順に重ねて配置されてなることが好ましい。これにより、V字バネ3を圧縮することによって生じた、剛性陰極2aとイオン交換膜7との間のゼロギャップ化を図っている。すなわち、金属製弾性体5が可撓性陰極6をイオン交換膜7方向に均一に押圧することになり、イオン交換膜7を破損することなく、可撓性陰極6とイオン交換膜7と隣接する電解槽ユニットの剛性陽極とが密着することになる。これにより、イオン交換膜電解槽の電解性能を向上させることができる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽について説明する。
本発明の第2の実施の形態においても、イオン交換膜電解槽は、複極式の電解槽ユニットの所定個数が、イオン交換膜を介して積層されて組み立てられてなる。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽の電解槽ユニットの電気的接続を示す概略部分断面図である。図示するように、電解槽ユニット20は、剛性陽極11aと陽極隔壁11bとを有する陽極室11と、剛性陰極12aと陰極隔壁12bとを有する陰極室12と、に区画されている。また、剛性陰極12aと陰極隔壁12bとはV字バネ13を介して接合されている。なお、図示例においては、陽極隔壁11bと陰極隔壁12bは凹凸を有する形状であり、チタン、ニッケル等の薄板で作製した電極室の剛性を高めている。
【0025】
本発明の第2の実施の形態に係る電解槽においては、剛性陰極12aの複数のV字バネ13が接触していない領域に凹部18を設ける。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽のV字バネ近傍の一例の拡大部分斜視図である。本実施の形態においては、
図6に示すように、剛性陰極12aの複数のV字バネ13と接合していない領域(隣り合うV字バネが同士の間であり、
図6中の丸で囲まれた領域S)に凹部18を形成し、この凹部18を、直接、陰極隔壁12bに接触させる。これにより、従来V字バネ13を経由して流れていた電解電流が、V字バネ13を経由することなく陰極隔壁12bに流れることになり(
図5参照)、電力ロスを最小限に抑えることができる。
【0026】
なお、本実施の形態において、剛性陰極12aに凹部18を設ける手法については特に制限はなく、例えば、金槌を用いて凹部18を形成すればよい。また、この凹部18と陰極隔壁12bをティグ溶接等により固定することで、接触抵抗を低減させることができる。本発明の第2の実施の形態に係る電解槽は、第1の実施の形態に係る電解槽と異なり、新たに他の部材を導入する必要はなく、既存の剛性陰極12aに陰極隔壁12bに向かう凹部18を設けるだけであるため、その加工が容易であるという利点を有している。
【0027】
本実施の形態においても、剛性陰極12aのV字バネ13接合面の反対面に、金属製弾性体14(図示例においては、金属製コイル体)と可撓性陰極15とが順に重ねて配置されてなることが好ましい。これにより、V字バネ13を圧縮することによって生じた、剛性陰極12aとイオン交換膜17との間の隙間を、金属製弾性体15と可撓性陰極16によりゼロギャップ化を図っている。
【0028】
次に、本発明の第3の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽について説明する。
本発明の第3の実施の形態においても、やはり、イオン交換膜電解槽は、複極式の電解槽ユニットの所定個数が、イオン交換膜を介して積層されて組み立てられてなる。
図7は、本発明の第3の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽の陰極室の電気的接続を示す概略部分断面図である。図示例においては、電解槽ユニット30は、剛性陽極21aと陽極隔壁21bとを有する陽極室21と、剛性陰極22aと陰極隔壁22bとを有する陰極室22と、に区画されている。また、剛性陰極22aと陰極隔壁22bとはV字バネ23を介して接合されている。なお、図示例においては、陽極隔壁21bと陰極隔壁22bは凹凸を有する形状であり、チタン、ニッケル等の薄板で作製した電極室の剛性を高めている。
【0029】
また、本発明の第3の実施の形態に係る電解槽においては、V字バネ23が圧縮されることにより、V字バネ23の開口側の端部同士が接触し、電気的に接続されている。すなわち、V字バネ23が完全に押し潰された状態となっている。かかる状態とすることで、従来、V字バネ23の形状に沿って流れていた電解電流が、最短経路で流れることになり、電力ロスを最小限に抑えることができる。V字バネ23の端部同士は、ティグ溶接等により固定することで、さらに接触抵抗を低減させることができる。なお、第3の実施の形態に係る電解槽においても、新たな部材を導入する必要がないため、加工が容易であるという利点を有している。
【0030】
本発明の第3の実施の形態に係る電解槽においても、剛性陰極22aのV字バネ23接合面の反対面に、金属製弾性体25(図示例においては、金属製コイル体)と可撓性陰極26とが順に重ねて配置されてなることが好ましい。これにより、V字バネ23を圧縮することによって生じた、剛性陰極22aとイオン交換膜27との間の隙間を金属製弾性体25と可撓性陰極26によりゼロギャップ化を図っている。なお、本実施の形態においては、V字バネ23が押し潰された状態となっているため、第1の実施の形態および第2の実施の形態に係る電解槽10、20よりも金属製弾性体25の厚みが必要となる。
【0031】
本発明の第1〜3の実施の形態に係るイオン交換膜電解槽においては、金属製弾性体5、15、25として金属製コイル体を例に挙げているが、本発明のイオン交換膜電解槽においては、金属製弾性体5、15、25は導電性材料からなり、かつ、弾性的性質を有するものであって、柔軟な可撓性陰極6、16、26をイオン交換膜7、17、27に押し付けて給電することができるものであれば、特に制限はない。例えば、金属製コイル体以外にも、後述する、平板バネ状体保持部材から傾斜して延びる平板バネ状体を用いてもよい。
【0032】
金属製弾性体5、15、25として金属製コイル体を用いる場合は、例えば、良好な耐食性を示すニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、または銅等の固有抵抗の小さい金属に良好な耐食性を示すニッケル等をめっき等で被覆して製造した線材をロール加工により螺旋コイルに加工することにより得られる。得られた線材の断面形状は、イオン交換膜の損傷を防止するという観点から、円、楕円、角部が丸い矩形等であることが好ましい。具体的には、直径0.17mmのニッケル線(NW2201)をロール加工すると、断面形状が約0.05mm×0.5mmの角部が丸い矩形となり、巻き径が約6mmであるコイル線を得ることができる。
【0033】
図1、5および7においては、金属製弾性体5、15、25(図示例では金属製コイル体)はそのまま電解槽内の剛性陰極2a、12a、22aと可撓性陰極6、16、26間に配置されているが、本発明のイオン交換膜電解槽においては、金属製コイル体に代えて、耐食性フレームに金属製コイル体を巻回して構成した弾性クッション材を用いてもよい。
図8(a)は、弾性クッション材に用いる耐食性フレームの一好適例を示す斜視図であり、(b)は弾性クッション材の例を示す斜視図である。
【0034】
図8(a)および(b)に示す例では、本発明に係る耐食性フレーム50は金属丸棒で長方形の枠51の長手方向の1対の丸棒間に掛け渡された補強杆52から成っている。この金属丸棒としては、例えば、直径約1.2mmのニッケル製金属丸棒を好適に用いることができる。本発明に係る弾性クッション材53は、耐食性フレーム50の長手方向の1対の丸棒間のほぼ全長に渡って、金属製弾性体54(図示例においては、金属製コイル体)を巻回することにより、得ることができる(
図8(b))。このようにして得られた弾性クッション材53は、金属製弾性体54が耐食性フレーム50に巻回されているため、耐食性フレーム50の形状のまま保持され、金属製弾性体54が耐食性フレーム50から離脱することはほとんどなく、金属製弾性体54を耐食性フレーム50と一体化したものとして取り扱うことができる。金属製弾性体54を耐食性フレーム50に巻回することにより、以下の利点を得ることができる。
【0035】
すなわち、金属製弾性体54は変形率が高いため、取扱い難く、作業員の意図通りに電解槽の所定箇所に設置することが困難になることが多い。さらに容易に変形する(強度が不十分である)ため、一旦電解槽の所定箇所に設置しても電解槽内の電解液や生成ガスにより偏位して各部材の均一密着が困難になることがある。これに対して弾性クッション材53は、例えば、
図8(a)に示すように、長方形状の耐食性フレーム4本の枠杆からなる。このうち対向する2本の間に、ほぼ均一密度になるように金属製弾性体54を巻回すことにより得られる(
図8(b)参照)。なお、本発明においては、弾性クッション材に用いる金属製弾製体として金属製コイル体を例に用いて説明してきたが、金属製コイル体以外にも、金属製不織布等の上記金属製弾性体を用いてもよい。
【0036】
金属製弾性体として金属製コイル体を用いた場合、金属製コイル体や金属製コイル体を巻回して得られた弾性クッション材53においては、金属製コイル体の径(コイルの見掛け上の直径)は電解槽内に装着されることにより通常10〜70%まで縮んで弾性が生じ、この弾性により剛性陰極2a、12a、22aと可撓性陰極6、16、26とを弾性的に接続して電極への給電が容易になる。線径の小さい金属製コイル体を使用すれば必然的に剛性陰極2a、12a、22aや可撓性陰極6、16、26と弾性クッション材との接触点の数が多くなり、均一接触が可能になる。また、電解槽に装着された後の弾性クッション材53は、その耐食性フレーム50により形状が保持されるため、塑性変形を受けることがほとんどなく、電解槽の解体−再組立時にもほとんどの場合再使用できる。
【0037】
また、本発明の電解槽においては、上述の通り、金属製弾性体として平板バネ状体を用いてもよい。
図9は、本発明のイオン交換膜電解槽に用いることができる平板バネ状体の一好適例を示す部分斜視図である。本発明のイオン交換膜電解槽においては、平板バネ状体は全て同一の方向へ斜めに延びるものでもよいが、
図9に示すように、隣接する平板バネ状体60は相互に対向して斜めに伸びているものが好ましい。平板バネ状体60が相互に反対方向に延びていれば、可撓性陰極に対して垂直方向にのみ力が作用することになる。そのため、可撓性陰極は水平方向にのみ移動することになり、イオン交換膜の表面を傷つける等の不具合を回避することができるからである。
【0038】
さらに、平板バネ状体60の先端は、図示するように平板バネ状体保持部61とほぼ平行に折り曲げられ、可撓性陰極と接触する接触部60aを有していることが好ましい。接触部60aを設けることにより、平板バネ状体60が可撓性陰極を傷つけることを回避することができるとともに、可撓性陰極とイオン交換膜との接触を良好なものとすることができる。なお、図示例では、平板バネ状体は板材に切り込みを入れ、その後、切り込みを起こして作製したものを用いているが、平板にバネ状体を任意の方法によって接合して作製したものを用いてもよい。
【0039】
ここまで、本発明のイオン交換膜電解槽に係る金属製弾性部材として、金属製コイル体、弾性クッション材および平板バネ状体を例に用いて説明してきたが、本発明のイオン交換膜電解槽においては、これら以外にも、金属細線に波形型付けしたものを用いてもよく、また、金属製の不織布を用いてもよい。なお、これ以外にも金属製弾性体としては、金属ワイヤーからなる編物、織物およびこれらの積層体、または三次元的に編んであるか、三次元的に編んだ後これにうねり加工等を施した形状のものを用いてもよい。
【0040】
本発明のイオン交換膜電解槽においては、金属製弾性体や、弾性クッション材を含むイオン交換膜電解槽を組み立てる際には、剛性陰極2a、12a、22aと可撓性陰極6、16、26に弾性クッション材等を位置させ、その後は通常通りに組立てれば所定の位置に弾性クッション材等が保持されたイオン交換膜電解槽が得られる。
【0041】
金属製弾性体を使用する弾性クッション材の組立は、電解槽外の作業であるため、容易に行うことができ、得られた弾性クッション材は、電解槽組立時に、電解槽内の対象電極と装着の集電体を電気的に接続するように装着するようにすればよい。この装着時にも弾性クッション材自体は耐食性フレームの強度により組立に支障が出る程には変形しないため、容易に所定箇所に設置できる。本発明においては、通常、電気は接触通電方式で流すことにする。
【0042】
本発明のイオン交換膜電解槽は、イオン交換膜により、陽極と陽極隔壁とを有する陽極室と、剛性陰極と陰極隔壁とを有する陰極室と、に区画され、剛性陰極が陰極隔壁に接合された複数のV字バネにより支持されてなるイオン交換膜電解槽の改良に係るものであり、上記構成を満足することのみが重要であり、それ以外の構造については、従来から用いられている構造を適宜用いることができ、特に制限はない。
【0043】
例えば、可撓性陰極6、16、26については、金属製弾性体5、15、25または弾性クッション材により押圧されてイオン交換膜7、17、27に接触するものであるのであれば特に制限はなく、通常、電解用に用いられるものであれば、いかなるものをも用いることができるが、触媒皮膜が薄くとも高活性であって、かつ、皮膜表面が平滑で、イオン交換膜を機械的に傷つけることのない、Ru−La−Pt系、Ru−Ce系、Pt−Ce系、および、Pt−Ni系からなる群から選択される熱分解型活性陰極が好適である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
<実施例1>
イオン交換膜により、剛性陽極と陽極隔壁とを有する陽極室と、剛性陰極と陰極隔壁とを有する陰極室と、に区画され、剛性陰極が陰極隔壁に接合された複数のV字バネにより支持されてなる既存のイオン交換膜電解槽(クロリンエンジニアズ株式会社製:BiTAC(登録商標))のV字バネの開口側端部近傍に、SUS310Sからなる直径3.0mmの棒状体に導電性メッシュを溶接したものを導電性部材として配置した。その後、隣り合うV字バネ間からのぞく導電性部材と陰極メッシュをティグ溶接により固定した。
【0045】
線径が0.17mmで、引張強度620〜680N/m
2のニッケル線(NW2201)をロール加工により約0.5mm幅のコイル線を作製した。得られたコイル線を用いて、コイルの巻き径が約6mmの金属製コイル体を作製した。この金属製コイル体を、直径1.2mmのニッケル丸棒製枠(耐食性フレーム)に巻回して直方体状に形状を整え、概略サイズが厚さ10mm×幅110mm×長さ350mmの弾性クッション材を作製した。この弾性クッション材のコイル線密度は約7g/dm
2であった。得られた弾性クッション材を、剛性陰極と可撓性陰極間に弾性クッション材に弾性が生じるように挿入し、電流密度4kA/m
2で30日間電解を行った。
【0046】
なお、陽極としては、ペルメレック電極株式会社製の寸法安定性電極を、可撓性陰極としては、ニッケル製マイクロメッシュ基材の活性陰極を、剛性陰極としては、ニッケル製エキスパンデッドメタルを用いた。陽極および陰極の反応面サイズはそれぞれ幅110mm、高さ1400mmとした。イオン交換膜は旭硝子株式会社製のFlemionF−8020を用いた。
【0047】
<実施例2>
V字バネの開口側の端部近傍に導電性部材を配置せず、剛性陰極のV字バネ接触部以外を、金槌を用いて凹ませて凹部を形成し、この凹部を陰極隔壁に接触させた。その後、この接触部をティグ溶接により固定した。これ以外は、実施例1と同様の手順で電解を行った。
【0048】
<実施例3>
V字バネを完全に押し潰して、その上に巻き径が8mmの金属製コイル体および可撓性陰極を、順に重ねて配置したこと以外は実施例と同様の手順で電解を行った。
【0049】
<従来例>
クロリンエンジニアズ株式会社製:BiTAC(登録商標)を用いて通常通り電解を行った。
【0050】
実施例1〜3および従来例の電解槽のV字バネの両端に導線を溶接して、その電位差をデジタルボルトメーターで測定した。
図10(a)〜(d)は、実施例1〜3および従来例の電解槽のV字バネ近傍の拡大図であり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3、(d)は従来例である。また、図中のwは導線の溶接位置である。
【0051】
電位差の測定結果は、従来例は25mVであった。これに対して、実施例1は13mV、実施例2は10mV、実施例3は7mVであり、いずれも従来例と比較して、電圧が低減できていることが確認できた。