【文献】
J. Bacteriol.,2002年,Vol.184, No.2,p.337-343
【文献】
Biosci. Biotechnol. Biochem.,2006年,Vol.70, No.7,p.1794-1797
【文献】
Appl. Environ. Microbiol.,2004年,Vol.70, No.7,p.4249-4255
【文献】
Mol. Microbiol.,2006年,Vol.60, No.5,p.1091-1098
【文献】
Appl. Microbiol. Biotechnol.,2002年,Vol.59,p.9-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び前記枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、バチルス属菌の遺伝子である、請求項1記載の組換え枯草菌。
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、組換え枯草菌で自己複製可能なベクターに組み込まれている、請求項1又は2記載の組換え枯草菌。
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子の上流に、該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の組換え枯草菌。
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び前記枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、バチルス属菌の遺伝子である、請求項5記載の方法。
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、組換え枯草菌で自己複製可能なベクターに組み込まれている、請求項5又は6記載の方法。
前記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と前記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子の上流に、該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている、請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、PGAを高生産することができる組換え微生物、当該微生物の製造方法、及び当該微生物を用いたPGAの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、PGAを効率良く生産することができる微生物株の開発を進めた。その結果、本発明者は、野生株に比べてゲノムの大領域が欠失した枯草菌変異株に、枯草菌pgsB遺伝子及びpgsC遺伝子を導入し、但し枯草菌pgsA遺伝子は導入しないで得られた組換え枯草菌株が、顕著に高いPGA生産能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下に係るものである。
(1)組換え枯草菌であって、
prophage6領域、prophage1領域、prophage4領域、PBSX領域、prophage5領域、prophage3領域、spb領域、pks領域、skin領域、pps領域、prophage2領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域からなる群より選択される1以上が欠失したゲノムを有し、且つ、
枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とpgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とが導入されており、但し、枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子は導入されていない、
組換え枯草菌。
(2)上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a)〜(f)のいずれかである、(1)記載の組換え枯草菌:
(a)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すヌクレオチド配列と60%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(3)上記枯草菌pgsC遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a')〜(f')のいずれかである、(1)又は(2)記載の組換え枯草菌:
(a')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号3に示す塩基配列と55%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d')配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e')配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f')配列番号4に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(4)上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び上記枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、バチルス属菌の遺伝子である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の組換え枯草菌。
(5)上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、組換え枯草菌で自己複製可能なベクターに組み込まれている、(1)〜(4)のいずれか1に記載の組換え枯草菌。
(6)上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子の上流に、該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている、(1)〜(5)のいずれか1に記載の組換え枯草菌。
(7)組換え枯草菌の製造方法であって、
prophage6領域、prophage1領域、prophage4領域、PBSX領域、prophage5領域、prophage3領域、spb領域、pks領域、skin領域、pps領域、prophage2領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域からなる群より選択される1以上が欠失したゲノムを有する枯草菌変異株に、枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とpgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とを導入する工程を含み、但し、当該枯草菌変異株に枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子を導入する工程を含まない、方法。
(8)上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a)〜(f)のいずれかである、(7)記載の方法:
(a)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すヌクレオチド配列と60%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(9)上記枯草菌pgsC遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a')〜(f')のいずれかである、(7)又は(8)記載の方法:
(a')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号3に示す塩基配列と55%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d')配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e')配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f')配列番号4に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(10)上記枯草菌pgsB遺伝子に相当する遺伝子、上記枯草菌pgsC遺伝子に相当する遺伝子、及び上記枯草菌pgsA遺伝子に相当する遺伝子が、バチルス属菌の遺伝子である、(7)〜(9)のいずれか1に記載の方法。
(11)上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、枯草菌で自己複製可能なベクターに組み込まれている、(7)〜(10)のいずれか1に記載の方法。
(12)上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子の上流に、該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている、(7)〜(11)のいずれか1に記載の方法。
(13)上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の組換え枯草菌を用いるポリ−γ−グルタミン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組換え枯草菌は高いPGA生産能を有する。本発明の組換え枯草菌を用いることによりPGAを効率良く製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列の同一性はLipman−Pearson法(Lipman,DJ.,Pearson.WR.:Science,227,1435−1441,1985)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0016】
本明細書において、別途定義されない限り、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列におけるアミノ酸又は塩基の欠失、置換、付加又は挿入に関して使用される「1又は数個」とは、例えば、1〜12個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個であり得る。また本明細書において、アミノ酸又は塩基の「付加」には、配列の一末端及び両末端への1〜数個のアミノ酸の又は塩基の付加が含まれる。
【0017】
本明細書において、ハイブリダイゼーションに関する「ストリンジェントな条件下」としては、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)に記載の条件が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件であり得る。
【0018】
本明細書において、遺伝子の上流及び下流とは、それぞれ、対象として捉えている遺伝子又は領域の5’側及び3’側に続く領域を示す。別途定義されない限り、遺伝子の上流及び下流とは、遺伝子の翻訳開始点からの上流領域及び下流領域には限定されない。
【0019】
本明細書において、転写開始制御領域はプロモーター及び転写開始点を含む領域であり、翻訳開始制御領域は開始コドンと共にリボソーム結合部位を形成するShine−Dalgarno(SD)配列に相当する部位である(Shine,J.,Dalgarno,L.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,71,1342−1346,1974)。
【0020】
本明細書に記載の枯草菌の各遺伝子及びゲノム領域の名称は、JAFAN:Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開(bacillus.genome.ad.jp/、2006年1月18日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載されている。
【0021】
本発明の組換え枯草菌は、ゲノムの大領域が欠失した枯草菌変異株を親株(宿主)として用い、当該親株に、枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とpgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とを導入することによって作製される。但し、本発明の組換え枯草菌には、枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子は導入されていない。
【0022】
上記親株として用いられる枯草菌変異株は、枯草菌野生株(
Bacillus subtilis Marburg No.168;本明細書において以下、枯草菌168株又は単に168株、あるいは野生株と称する)のゲノムと比べて、そのゲノム中の大領域が欠失したゲノムを有する。すなわち、当該枯草菌変異株のゲノムにおいては、枯草菌野生株のゲノム中の、prophage6(yoaV−yobO)領域、prophage1(ybbU−ybdE)領域、prophage4(yjcM−yjdJ)領域、PBSX(ykdA−xlyA)領域、prophage5(ynxB−dut)領域、prophage3(ydiM−ydjC)領域、spb(yodU−ypqP)領域、pks(pksA−ymaC)領域、skin(spoIVCB−spoIIIC)領域、pps(ppsE−ppsA)領域、prophage2(ydcL−ydeJ)領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7(spoIVCB−yraK)領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域からなる群より選択される領域の1以上が欠失している。好ましくは、当該親株としては、枯草菌野生株のゲノム中の、prophage6(yoaV−yobO)領域、prophage1(ybbU−ybdE)領域、prophage4(yjcM−yjdJ)領域、PBSX(ykdA−xlyA)領域、prophage5(ynxB−dut)領域、prophage3(ydiM−ydjC)領域、spb(yodU−ypqP)領域、pks(pksA−ymaC)領域、skin(spoIVCB−spoIIIC)領域、pps(ppsE−ppsA)領域、prophage2(ydcL−ydeJ)領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7(spoIVCB−yraK)領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域からなる群より選択される領域の全てを欠失している枯草菌変異株が挙げられる。このような枯草菌変異株の例としては、特開2007−130013号公報に記載の枯草菌MGB874株が挙げられる。あるいは、当該枯草菌変異株MGB874株のゲノム領域から、さらに遺伝子又はゲノム領域を欠失させた枯草菌変異株を親株としてもよい。
【0023】
上記親株は、例えば、168株等の任意の枯草菌株から上述のゲノム領域を欠失させることによって作製することができる。欠失させるべき目的のゲノム領域は、例えば、当該任意の枯草菌株のゲノムを、公開されている枯草菌168株のゲノムと対比することにより決定することができる。枯草菌168株の全ヌクレオチド配列及びゲノムの情報は、上述のBSORF DB、又はGenBank:AL009126.2(www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/38680335)から入手することができる。当業者は、これらの情報源から得た枯草菌168株のゲノム情報に基づいて、欠失させるべき目的のゲノム領域を決定することができる。ここで、欠失させるべきゲノム領域は、公開されている枯草菌168株における上述のゲノム領域のヌクレオチド配列に対して、1又は数個(例えば、1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1〜5個)の塩基における天然又は人工的に引き起こされた欠失、置換、挿入、付加等の変異を含むヌクレオチド配列を有するゲノム領域であり得る。あるいは、欠失させるべきゲノム領域は、公開されている枯草菌168株における上述のゲノム領域に対して、ヌクレオチド配列において50%以上同一、好ましくは60%以上同一、より好ましくは70%以上同一、さらに好ましくは80%以上同一、さらにより好ましくは90%以上同一、なお好ましくは95%以上同一なゲノム領域であり得る。
【0024】
あるいは、上記欠失させるべきゲノム領域は、表1に示す一対のオリゴヌクレオチドセットにより挟み込まれる領域として表すことができる。表1記載の領域を枯草菌ゲノム上から欠失させる方法としては、特に限定されないが、例えばSOE−PCR法(Gene,77,61,1989)等により調製された欠失用DNA断片を用いた2重交差法が挙げられる。当該方法により枯草菌野生株から所定のゲノム領域が欠失した変異株を作製する手順は、特開2007−130013号公報に詳述されているが、以下に概要を説明する。
【0026】
SOE−PCR法による欠失用DNA断片の調製と当該欠失用DNA断片を用いた2重交差法による目的領域の欠失の手順の概要を
図1に示す。初めに、SOE−PCR法により、欠失させるべき目的領域の上流に隣接する約0.1〜3kb領域に対応する断片(上流断片と称する)と、同じく下流に隣接する約0.1〜3kb領域に対応する断片(下流断片と称する)とを連結したDNA断片を調製する。好ましくは、目的領域の欠失を確認するために、当該上流断片と下流断片の間に薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子断片をさらに連結したDNA断片を調製する。
【0027】
まず、1回目のPCRによって、欠失させるべき領域の上流断片A及び下流断片B、並びに必要に応じてマーカー遺伝子断片(
図1中では、クロラムフェニコール耐性遺伝子断片Cm)の3断片を調製する。上流断片及び下流断片のPCR増幅の際には、後に連結される断片の末端10〜30塩基対の配列を付加したプライマーを使用する。例えば、上流断片A、薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cm、及び下流断片Bをこの順で連結させる場合、上流断片Aの下流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cmの上流側10〜30塩基に相当する配列を付加し(
図1、プライマーDR1)、また下流断片Bの上流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cmの下流側10〜30塩基に相当する配列を付加する(
図1、プライマーDF2)。このように設計したプライマーセットを用いて上流断片A及び下流断片BをPCRで増幅した場合、増幅された上流断片A’の下流側には薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cmの上流側に相当する領域が付加されることとなり、増幅された下流断片B’の上流側には薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cmの下流側に相当する領域が付加されることとなる。
【0028】
次に、1回目のPCRで調製した上流断片A’、薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cm、及び下流断片B’を混合して鋳型とし、上流断片の上流側に位置する(アニールする)プライマー(
図1、プライマーDF1)及び下流断片の下流側に位置する(アニールする)プライマー(
図1、プライマーDR2)からなる1対のプライマーを用いて2回目のPCRを行う。この2回目のPCRにより、上流断片A、薬剤耐性マーカー遺伝子断片Cm、及び下流断片Bをこの順で結合した欠失用DNA断片Dを増幅することができる。
【0029】
上述の方法などによって得られる欠失用DNA断片を、通常の制限酵素とDNAリガーゼを用いてプラスミドに挿入し、欠失導入用プラスミドを構築する。あるいは、上流断片及び下流断片を直接連結した欠失用DNA断片を調製した後、当該欠失用DNA断片を薬剤耐性マーカー遺伝子を含むプラスミドに挿入することで、上流断片及び下流断片に加えて薬剤耐性マーカー遺伝子断片を有する欠失導入用プラスミドを構築することができる。
【0030】
上記手順で構築された欠失導入用プラスミドを、コンピテントセル形質転換法等の通常の手法により、ゲノム領域を欠失させたい枯草菌に導入する。プラスミドの導入により、当該プラスミド上の上流断片及び下流断片と、枯草菌ゲノムのそれらに相同な領域との間で2重交差の相同組換えが生じ、欠失させるべき領域が薬剤耐性マーカー遺伝子に置き換えられた形質転換体が得られる(
図1)。形質転換体の選択は、欠失用DNA断片中に存在するクロラムフェニコール耐性遺伝子などのマーカー遺伝子の発現を指標に行えばよい。例えば、形質転換処理をした菌を、抗生物質(クロラムフェニコール等)を含む培地で培養し、生育したコロニーを回収することで、目的の領域が欠失しクロラムフェニコール耐性遺伝子に置き換えられた形質転換体を取得することができる。さらに、形質転換体のゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてPCRを行うことで、目的の領域が欠失されていることを確認することができる。
【0031】
次に、得られた形質転換体から、さらにゲノムDNAに挿入された上記マーカー遺伝子を除去する。除去の手順としては、特に限定されないが、
図2に示すような2段階相同組換え法を用いることができる。当該方法では、初めに第1相同組換えのためのDNA断片(供与体DNA)を調製する。調製の方法としては、特に限定されないが、上述したSOE−PCR法等が挙げられる。供与体DNAとしては、例えば、除去すべきマーカー遺伝子領域(すなわち、欠失された領域)の上流に隣接する領域に対応する約0.1〜3kb断片(上流断片)及び同じく下流に隣接する領域に対応する約0.1〜3kb断片(下流断片)が結合した断片と、当該除去すべきマーカー遺伝子下流領域の断片とが連結したDNA断片を用いることができる。好適には、当該下流断片と除去すべき第1のマーカー遺伝子下流領域断片との間に、相同組換えの指標となる第2のマーカー遺伝子等が挿入されたDNA断片が用いられる(
図2を参照)。
【0032】
次いで、調製された供与体DNAをコンピテントセル形質転換法等の通常の手法によって上記形質転換体に導入し、当該形質転換体ゲノム上の当該上流断片及び第1のマーカー遺伝子下流領域に相当する領域との間に相同組換えを起こさせる(第1相同組換え)。所望の相同組換えが生じた形質転換体は、供与体DNA中に挿入した第2のマーカー遺伝子の発現を指標に選択することができる。第1相同組換えが適切に生じた形質転換体のゲノムDNAでは、上流断片、下流断片、必要に応じて第2のマーカー遺伝子、第1のマーカー遺伝子下流領域、及び下流断片が順番に配置している(
図2参照)。このような配置を有するゲノムDNAにおいては、上記2つの下流断片同士の間で自然誘発的に相同組換えが起こり得る(ゲノム内相同組換え)。このゲノム内相同組換えによって、当該2つの下流断片の間に位置していた領域が欠失することにより、第1のマーカー遺伝子が形質転換体ゲノムから除去される。
【0033】
ゲノム内相同組換えを起こした形質転換体を選択する手段としては、第1のマーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子の場合は、薬剤耐性を持たない菌を選択する方法が挙げられる。例えば、ペニシリン系抗生物質は、増殖細胞に対して殺菌的に作用するが非増殖細胞には作用しない。したがって、薬剤とペニシリン系抗生物質の存在下で菌を培養すれば、薬剤存在下で増殖しない薬剤非耐性菌を選択的に濃縮することができる(Methods in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Labs,1970)。別の手段としては、致死遺伝子を導入する方法が挙げられる。例えば、上記第2のマーカーとしてchpA遺伝子等の致死遺伝子を菌に導入すれば、ゲノム内相同組換えが起こらなかった菌は当該致死遺伝子の作用で死滅するので、ゲノム内相同組換えを起こした形質転換体を選択することができる。選択された菌株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてPCRを行うことで、目的の領域が欠失されていることを確認することができる(特開2009-254350号公報を参照)。
【0034】
以上のようにして、ゲノム上の所定の領域を欠失した枯草菌変異株を作製することができる。さらに、当該手順を繰り返すことにより、上述のゲノム領域が全て欠失した枯草菌変異株を作製することができる。
【0035】
本発明の組換え枯草菌は、上述した親株に、枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と、枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とを導入することにより得ることができる。但し、本発明の組換え枯草菌には、枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子は導入されていない。上記遺伝子が導入された本発明の組換え枯草菌は、優れたPGA産生能を有する。
【0036】
上記枯草菌のpgsB遺伝子、pgsC遺伝子、pgsA遺伝子、又はそれらに相当する遺伝子とは、PGA合成に関与することができるバチルス属菌または他の微生物由来の遺伝子であり得る。例えば、枯草菌pgsB遺伝子は、ywsC遺伝子又はcapB遺伝子とも称され、上述のBSORFにBG12531として登録されている遺伝子であり得る。枯草菌pgsC遺伝は、ywtA遺伝子又はcapC遺伝子とも称され、上述のBSORFにBG12532として登録されている遺伝子であり得る。枯草菌pgsA遺伝子は、ywtB遺伝子又はcapA遺伝子とも称され、上述のBSORFにBG12533として登録されている遺伝子であり得る。これらの遺伝子は、染色体上でクラスター構造(オペロン)を構成していることが知られている(非特許文献1〜3参照)。
【0037】
上記枯草菌pgsB遺伝子、又は当該pgsB遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;及び、配列番号1に示す塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0038】
また、上記枯草菌pgsB遺伝子、又は当該pgsB遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0039】
さらに、上記枯草菌pgsB遺伝子、又は当該pgsB遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び、配列番号2に示すアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0040】
上記枯草菌pgsC遺伝子、又は当該pgsC遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;及び、配列番号3に示す塩基配列と55%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でPGAを生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0041】
また、上記枯草菌pgsC遺伝子、又は当該pgsC遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でPGAを生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0042】
さらに、上記枯草菌pgsC遺伝子、又は当該pgsC遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でPGAを生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び、配列番号4に示すアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でPGAを生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0043】
上記枯草菌pgsA伝子、又は当該pgsA遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号5に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;及び、配列番号5に示す塩基配列と45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又はその相当遺伝子との共存下、PGA合成活性を有すると推定されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0044】
また、上記枯草菌pgsA遺伝子、又は当該pgsA遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号5に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又はその相当遺伝子との共存下、PGA合成活性を有すると推定されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0045】
さらに、上記枯草菌pgsA遺伝子、又は当該pgsA遺伝子に相当する遺伝子としては、以下が挙げられる:配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;配列番号6に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又はその相当遺伝子との共存下、PGA合成活性を有すると推定されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び、配列番号6に示すアミノ酸配列と30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又はその相当遺伝子との共存下、PGA合成活性を有すると推定されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0046】
本明細書において、タンパク質の「アミドリガーゼ活性」は、グルタミン酸及びATP又はGTPを基質とし、これに塩化マンガン加えた反応溶液中におけるPGAの生成を検出することにより測定することができる(Urushibata Y.et al.,J.Bacteriol.,184,337−343,2002)。
【0047】
あるいは、上述のpgsB又はその相当遺伝子がコードするタンパク質の「アミドリガーゼ活性」とは、当該pgsB又はその相当遺伝子を、上記pgsC又はその相当遺伝子とともに上述した親株に導入した際に、当該株におけるPGAの生産と菌体外への分泌をもたらす能力であり得る。所定の微生物におけるPGA生産能の評価は、例えばグルタミン酸又はその塩を含有するPGA生産寒天培地に培養したときにコロニー周辺に形成される半透明の粘性物質を目視によって観察する方法、SDS−PAGEによってPGAを検出する方法(Yamaguchi F.et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.60,255−258,1996)、酸加水分解後にアミノ酸分析装置を用いて定量する方法(Ogawa Y.et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,61,1684−1687,1997)、培養液から精製し乾燥重量を求める定量法(Ashiuchi M.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,263,6−12,1999)、ゲルろ過カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による定量/定性法(Kubota H.,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,57,1212−1213,1993)等によって行うことができる。
【0048】
また本明細書において、上述のpgsC又はその相当遺伝子がコードするタンパク質の「枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能」とは、上述の親株にて上記pgsB遺伝子又はその相当遺伝子とともに当該pgsC遺伝子又はその相当遺伝子を発現させた際に、当該株にPGAを生産させる能力であり得る。このことは、pgsB遺伝子を単独で発現させた株ではPGAが生産されず、pgsB遺伝子とともにpgsC遺伝子を発現させた株ではPGAが生産されるという本発明者らが見出した知見に基づいている。
【0049】
さらに、上記枯草菌pgsB遺伝子に相当する遺伝子、枯草菌pgsC遺伝子に相当する遺伝子、及び枯草菌pgsA遺伝子に相当する遺伝子は、微生物から通常の方法に従って同定することができる。上記微生物は、PGA生産能を有する微生物でもPGA非生産微生物でもよい。PGA生産能を有する微生物としては、
Bacillus subtilisの他に、
Bacillus amyloliquefaciens、
Bacillus pumilus、
Bacillus licheniformis、
Bacillus megaterium、
Bacillus anthracis、
Bacillus halodurans、
Natrialba aegyptiaca、
Hydra等を挙げることができる。PGA非生産微生物としては、
Oceanobacillus iheyensis等を挙げることができる。pgsB、pgsC又はpgsAに相当する遺伝子は、例えば、上記の微生物からゲノムDNAを抽出し、上記配列番号1、3又は5で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドやそのフラグメントをプローブとしたサザンハイブリダイゼーションによって同定することができる。また例えば、公知のゲノム配列情報に基づいて上記微生物のゲノムのヌクレオチド配列と枯草菌のpgsB遺伝子、pgsC遺伝子、又はpgsA遺伝子のヌクレオチド配列とを比較することによって、pgsB、pgsC又はpgsAに相当する遺伝子を同定することができる。
【0050】
例えば、
Bacillus sp.KSM−366株(FERM BP−6262)、
Bacillus licheniformis ATCC14580株、
Bacillus amyloliquefacience FZB42株、及び
Oceanobacillus iheyensis HTE831株由来のpgsB遺伝子は、枯草菌168株のpgsB遺伝子との同一性が、ヌクレオチド配列において、それぞれ99.9%、79%、82%及び62%であり、またそれらのコードするアミノ酸配列において、それぞれ99.7%、90%、93%及び55%である。これらは、枯草菌pgsB遺伝子に相当する遺伝子であり得る(特開2010−213664号公報)。
また例えば、
Bacillus sp.KSM−366株(FERM BP−6262)、
Bacillus licheniformis ATCC14580株、
Bacillus amyloliquefacience FZB42株、及び
Oceanobacillus iheyensis HTE831株由来のpgsC遺伝子は、枯草菌168株のpgsC遺伝子との同一性が、ヌクレオチド配列において、それぞれ100%、78%、84%及び59%であり、またそれらのコードするアミノ酸配列において、それぞれ100%、90%、94%及び51%である。これらは、枯草菌pgsC遺伝子に相当する遺伝子であり得る(特開2010−213664号公報)。
また例えば、
Bacillus sp.KSM−366株(FERM BP−6262)、
Bacillus licheniformis ATCC14580株、
Bacillus amyloliquefacience FZB42株、及び
Oceanobacillus iheyensis HTE831株由来のpgsA遺伝子は、枯草菌168株のpgsA遺伝子との同一性が、ヌクレオチド配列においてそれぞれ100%、69%、75%及び49%であり、またそのアミノ酸配列においてそれぞれ100%、67%、79%及び30%である。これらは、枯草菌pgsA遺伝子に相当する遺伝子であり得る(特開2010−213664号公報)。
【0051】
上記枯草菌遺伝子pgsB、pgsC又はpgsAに相当する遺伝子の好適な例としては、表2に示す塩基配列からなる遺伝子や、表2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられる。具体的には、枯草菌pgsB遺伝子に相当する遺伝子としては、配列番号9、15、21又は27に示すアミノ酸配列又はそれぞれのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号8、14、20又は26に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド)が挙げられる。
【0052】
また、枯草菌pgsC遺伝子に相当する遺伝子としては、配列番号11、17、23又は29に示すアミノ酸配列又はそれぞれのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つPgsBタンパク質の共存下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号10、16、22又は28に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド)が挙げられる。
【0053】
また、枯草菌pgsA遺伝子に相当する遺伝子としては、配列番号13、19、25又は31に示すアミノ酸配列又はそれぞれのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つPgsB及びPgsCタンパク質との共存下でポリ−γ−グルタミン酸合成能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号12、18、24又は30に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド)が挙げられる。
【0055】
上記pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記pgsC遺伝子又はその相当遺伝子の宿主への導入には、プラスミド等の通常のベクターを使用することができる。当該ベクターの種類は、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。また当該ベクターは、宿主内で自己複製可能なベクター(例えばプラスミド)であることが好ましく、多コピーのベクターであることがより好ましい。さらに、そのプラスミドのコピー数が宿主ゲノム(染色体)に対し、2以上100コピー以下であれば良く、好ましくは2以上50コピー以下、より好ましくは2以上30コピー以下であれば良い。好ましいプラスミドの例としては、例えば、pT181、pC194、pUB110、pE194、pSN2、pHY300PLK等が挙げられる。
【0056】
好ましくは、親株に導入される枯草菌pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と枯草菌pgsC遺伝子又はその相当遺伝子の上流には、当該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている。当該制御領域としては、転写開始制御領域及び翻訳開始制御領域が挙げられる。当該制御領域は、好ましくは、宿主内における下流の遺伝子の発現を高める機能を有し、より好ましくは、下流遺伝子を構成的に発現又は高発現させる機能を有する。当該制御領域の例としては、バチルス属細菌由来のα−アミラーゼ遺伝子の制御領域、プロテアーゼ遺伝子の制御領域、aprE遺伝子の制御領域、spoVG遺伝子の制御領域、
Bacillus sp.KSM−S237株のセルラーゼ遺伝子の制御領域、
Staphylococcus aureus由来のカナマイシン耐性遺伝子の制御領域、クロラムフェニコール耐性遺伝子の制御領域等(いずれも、特開2009−089708号公報を参照)が例示されるが、特に限定されない。
【0057】
本明細書において「制御領域と作動可能に連結された遺伝子」とは、当該制御領域による制御の下に発現し得るように配置されている遺伝子をいう。
【0058】
好ましい例として、
Bacillus sp.KSM−S237株のセルラーゼ遺伝子の制御領域であるセルラーゼ遺伝子の翻訳開始点の上流0.4〜1.0kb領域の塩基配列を配列番号7に示す。また好ましい制御領域としては、配列番号7に示す塩基配列に対して80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ当該制御領域と同等の機能を有する塩基配列が挙げられる。
【0059】
上記pgsB遺伝子又はその相当遺伝子と上記pgsC遺伝子又はその相当遺伝子、あるいは上記制御領域のベクターへの挿入は、当該分野における通常の方法に従って行うことができる。例えば、上記pgsB遺伝子又はその相当遺伝子、pgsC遺伝子又はその相当遺伝子、及び制御領域の断片をPCR等によって増幅し、これらの断片を制限酵素法等によってプラスミド等のベクターに挿入し、連結すればよい。あるいは、上記遺伝子及び制御領域の断片を予め連結した断片を作製し、これをプラスミド等のベクターに挿入してもよい。その際、ベクター上において、上流から制御領域断片、pgsB遺伝子又はその相当遺伝子の断片、pgsC遺伝子又はその相当遺伝子の断片の順で連結されているようにする。
【0060】
構築された目的遺伝子を含むベクターは、通常の手法、例えばプロトプラスト法(Chamg S.&Cohen,SH.,Mol.Gen.Genet.,168,111−115,1979)やコンピテントセル法(Young FE.&Spizizen J.,J.Bacteriol.,86,392−400,1963)により、宿主に導入され得る。
【0061】
以上の手順で、ゲノムの大領域が欠失したゲノムを有する枯草菌変異株に、枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とpgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とが導入された、本発明の組換え枯草菌を作製することができる。本発明の組換え枯草菌は高いPGA生産能を有しているので、当該本発明の組換え枯草菌を用いることにより、PGAを効率よく製造することが可能になる。したがって、本発明の別の態様は、上述した本発明の組換え枯草菌を用いるPGAの製造方法に関する。
【0062】
本発明のPGAの製造方法においては、先ず、適切な培地において上記本発明の組換え枯草菌を培養し、菌体外に生産されたPGAを培地から回収する。培地としては、グリセロール、グルコース、フルクトース、マルトース、キシロース、アラビノース、各種有機酸等の炭素源、各種アミノ酸、ポリペプトン、トリプトン、硫酸アンモニウムや尿素等の窒素源、ナトリウム塩等の無機塩類及びその他必要な栄養源、微量金属塩等を含有する組成の培地を使用できる。当該培地は、合成培地であっても天然培地であってもよい。
【0063】
PGAの生産性をより向上させるためには、本発明の組換え枯草菌が生育に最低限必要とするグルタミン酸量よりも過剰量のグルタミン酸が添加された培地で、当該組換え枯草菌を培養することが好ましい。グルタミン酸は、培地中へはグルタミン酸ナトリウムとして添加することが好ましいが、その濃度(グルタミン酸換算)は、例えば培地中、好ましくは0.005〜600g/L、より好ましくは0.05〜500g/L、より好ましくは0.1〜400g/L、より好ましくは0.5〜300g/Lであり得る。培地中のグルタミン酸濃度は、PGAの生産性向上の点から、0.005g/L以上であることが好ましく、他方、グルタミン酸ナトリウムの飽和溶解度を超えることによる培地中のグルタミン酸ナトリウムやその他の培地成分の析出を回避する点から、グルタミン酸濃度600g/L以下であることが好ましい。
【0064】
培養条件として、至適温度は、好ましくは10〜40℃であり、より好ましくは30〜40℃である。至適pHは、好ましくはpH4〜8であり、より好ましくは5〜8である。また、培養日数は、菌接種後、好ましくは1〜10日間であり、より好ましくは2〜5日間である。培養は、特に限定されないが、振とう培養、攪拌培養、通気培養、静置培養などが挙げられる。
【0065】
培地中に蓄積されたPGAを回収する際には、PGAを生産させた菌体と分離する必要がある。PGAを分離する手段としては、遠心分離、限外濾過膜、電気透析法、pHをPGAの等電点付近に維持することで沈殿として回収する方法、さらに上記手法の組み合わせ等が挙げられる。
【0066】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、あるいは用途を本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0067】
<1>組換え枯草菌であって、
prophage6領域、prophage1領域、prophage4領域、PBSX領域、prophage5領域、prophage3領域、spb領域、pks領域、skin領域、pps領域、prophage2領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域からなる群より選択される1以上が欠失したゲノムを有し、且つ、
枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とpgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子とが導入されており、但し、枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子は導入されていない、組換え枯草菌。
【0068】
<2>上記prophage6領域、prophage1領域、prophage4領域、PBSX領域、prophage5領域、prophage3領域、spb領域、pks領域、skin領域、pps領域、prophage2領域、ydcL−ydeK−ydhU領域、yisB−yitD領域、yunA−yurT領域、cgeE−ypmQ領域、yeeK−yesX領域、pdp−rocR領域、ycxB−sipU領域、SKIN−Pro7領域、sbo−ywhH領域、yybP−yyaJ領域及びyncM−fosB領域が欠失したゲノムを有する、<1>記載の組換え枯草菌。
【0069】
<3>上記各領域が上述の表1記載の各ヌクレオチドセットによって挟み込まれる領域である、<1>又は<2>記載の組換え枯草菌。
【0070】
<4>上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a)〜(f)のいずれかである、<1>〜<3>のいずれか1項記載の組換え枯草菌:
(a)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すヌクレオチド配列と60%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号2に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つアミドリガーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0071】
<5>上記枯草菌pgsC遺伝子又はそれに相当する遺伝子が以下の(a')〜(f')のいずれかである、<1>〜<4>のいずれか1項記載の組換え枯草菌
(a')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号3に示す塩基配列と55%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c')配列番号3に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d')配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e')配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f')配列番号4に示すアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり且つ上記枯草菌pgsB遺伝子又はそれに相当する遺伝子がコードするタンパク質の存在下でポリ−γ−グルタミン酸を生成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0072】
<6>上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び上記枯草菌pgsA遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、バチルス属菌の遺伝子である、<1>〜<5>のいずれか1項記載の組換え枯草菌。
【0073】
<7>上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子、及び上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子が、組換え枯草菌で自己複製可能なベクターに組み込まれている、<1>〜<6>のいずれか1項記載の組換え枯草菌。
【0074】
<8>上記自己複製可能なベクターがpT181、pC194、pUB110、pE194、pSN2、又はpHY300PLKである、<7>記載の組換え枯草菌。
【0075】
<9>上記枯草菌pgsB遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子と上記枯草菌pgsC遺伝子又は当該遺伝子に相当する遺伝子の上流に、該遺伝子の発現を正的に制御する制御領域が作動可能に連結されている、<1>〜<8>のいずれか1記載の組換え枯草菌。
【0076】
<10>上記制御領域がバチルス属細菌由来のα−アミラーゼ遺伝子の制御領域、プロテアーゼ遺伝子の制御領域、aprE遺伝子の制御領域、spoVG遺伝子の制御領域、
Bacillus sp.KSM−S237株のセルラーゼ遺伝子の制御領域、
Staphylococcus aureus由来のカナマイシン耐性遺伝子の制御領域、又はクロラムフェニコール耐性遺伝子の制御領域である、<9>記載の組換え枯草菌。
【0077】
<11>上記
Bacillus sp.KSM−S237株のセルラーゼ遺伝子の制御領域が配列番号7に示す塩基配列に対して80%以上の同一性を有し、且つ当該制御領域と同等の機能を有する塩基配列である<10>記載の組換え枯草菌。
【0078】
<12>上記
Bacillus sp.KSM−S237株のセルラーゼ遺伝子の制御領域が配列番号7に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、且つ当該制御領域と同等の機能を有する塩基配列である<10>記載の組換え枯草菌。
【0079】
<13><1>〜<12>のいずれか1記載の組換え枯草菌を用いるポリ−γ−グルタミン酸の製造方法。
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
(製造例1)ベクターの構築
本製造例は、PGA合成に関与する遺伝子群のクローニング方法を示す(
図3参照)。
まず、
Bacillus sp.KSM−366株(FERM BP−6262)から調製した染色体DNAを鋳型とし、表3に示したP-S237/BSpgsB atg FW(配列番号32)及びHindIII_BSpgsBC RV(配列番号33)のプライマーセットを用いてpgsBC遺伝子1.7kbのDNA断片(BC)をそれぞれ調製した。
Bacillus sp.KSM−366株のpgsB遺伝子の塩基配列を配列番号8に、上記pgsB遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号9に、pgsC遺伝子の塩基配列を配列番号10に、上記pgsC遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号11に示す。さらに、
Bacillus sp.KSM−S237株(FERM BP−7875)から調製した染色体DNAを鋳型とし、表3に示したCm_S237 FW(配列番号34)とP_S237-RV(配列番号35)のプライマーセットを用いて、KSM−S237株由来のセルラーゼ遺伝子(特開2000−210081号公報参照)プロモーター領域0.6kbのDNA断片(P_S237)(配列番号7)を調製した。
【0082】
次に、断片(P_S237)及び(BC)を鋳型とし、Cm_S237 FWとHindIII_BSpgsBC RVとのプライマーセットを用いたSOE−PCR法にて(P_S237)及び(BC)を1断片化した2.3kbのDNA断片(P_BC)を得た。続いて、このDNA断片(P_BC)を制限酵素BamHI及びHindIIIにて制限酵素処理し、それぞれを同様の制限酵素処理を施したプラスミドベクターpHY300PLK(Takara)とDNA Ligation kit Ver.2(Takara)を用いてライゲーション反応(結合化)を行なった。
【0083】
上記ライゲーション試料を用いて、大腸菌(HB101株)をコンピテントセル法にて形質転換し、テトラサイクリン−塩酸塩(SIGMA−ALDRICH)を15ppm添加したLB寒天培地(LBTc寒天培地)上に出現したコロニーを形質転換体とした。得られた形質転換体を再度LBTc寒天培地にて生育させ、得られた菌体からハイピュア プラスミドアイソレーションキット(ロッシュ・ダイアグノスティックス)を用い組換えプラスミドを調製した。これらを制限酵素BamHI及びHindIIIにて制限酵素処理し、電気泳動法にてプラスミドベクター上のBamHI及びHindIII制限酵素認識部位に目的とする上記DNA断片(P_BC)が挿入していることを確認した。
DNA断片(P_BC)の挿入が確認できた組換えプラスミドをPGA組換え生産用ベクターpHY_PS237/pgsBCとした。本製造例において、PCR反応はGeneAmp9700(PE Applied Biosystems)とTaKaRa LA Taq(Takara)を用い、キット添付のプロトコールに従い実施した。
【0084】
【表3】
【0085】
(実施例1)pgsBCが導入された組換え枯草菌の作製
枯草菌168株、及び枯草菌野生株ゲノムの大領域が欠失したゲノムを有する枯草菌変異株MGB874株(特開2007−130013号公報)を宿主とした。
製造例1で構築したPGA組換え生産用ベクターpHY_PS237/pgsBCを用いて、プロトプラスト形質転換法(Mol.Gen.Genet.,168,111,1979)により両宿主を形質転換した。テトラサイクリン−塩酸塩50ppmを添加したDM3プロトプラスト再生培地(0.5Mコハク酸ナトリウム(pH7.3)、0.5%カザミノ酸(ディフコ社製)、0.5%酵母エキス(ディフコ社製)、0.35% K
2HPO
4、0.15% KH
2PO
4、0.5%グルコース、20mM MgCl
2、0.01%牛血清アルブミン(シグマ社製)、1%バクト寒天(ディフコ社製))上に生育したコロニーを目的とする枯草菌形質転換体として選抜した。
以上の手順により、枯草菌168株及びMGB874株に
Bacillus sp.KSM−S237株(FERM BP−7875)由来のセルラーゼ遺伝子(特開2000−210081)のプロモーター領域及び
Bacillus sp.KSM−366株(FERM BP−6262)由来のpgsB及びpgsC遺伝子を導入した株を得た。
【0086】
(実施例2)PGA生産性評価(1)
実施例1にて得られた形質転換体を15ppmのテトラサイクリンを含む5mLのLB培地(1.0%トリプトン(ディフコ社製)、0.5%酵母エキス(ディフコ社製)、1.0%NaCl)で30℃において15時間振盪培養を行い、さらにこの培養液に、OD≒0.05になるように30mLの2×L−マルトース+MSG培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、7.5%マルトース、8%グルタミン酸ナトリウム1水和物、7.5ppm硫酸マンガン4−5水和物、15ppmテトラサイクリン)に接種し、37℃、210rpmで3日間、振盪培養を行った(N=5)。培養終了後、下記測定例に示す分析条件にてPGA生産量及び分子量を測定した。PGA生産量は、プラスミドpHY_PS237/pgsBCAを導入した枯草菌168株(特開2009−89708号公報)におけるPGA生産量を100%とした場合の相対値で示した。
【0087】
結果を表4及び表5に示す。MGB874株にpgsBCを導入した組換え枯草菌は、培養2日目及び3日目において、168株からの組換え枯草菌と比較してPGA生産量が高かった(表4)。また、特開2010−213664号公報に記載の1遺伝子欠失株(例えばΔcod株)と比べても、高いPGA生産性を有していた。さらに、MGB874
株にpgsBCを導入した組換え枯草菌は、168株からの組換え枯草菌と比較して、培養1日目ではより高分子量のPGAを生産し、培養2日目及び3日目ではより低分子量のPGAを生産した(表5)。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
(実施例3)PGA生産性評価(2)
実施例1にて得られた形質転換体を15ppmのテトラサイクリンを含む5mLのLB培地で30℃において15時間振盪培養を行い、さらにこの培養液にOD≒0.05になるようにM培地(Biosci. Biotechnol. Biochem., 1996, 60:1239-1242)にグルタミン酸ナトリウム1水和物(MSG)を添加した培地(10%グルコース、1.8%塩化アンモニウム、0.15%リン酸水素2カリウム、0.035%硫酸マグネシウム7水和物、0.005%硫酸マンガン5水和物、3%炭酸カルシウム、その他微量金属、8%グルタミン酸ナトリウム1水和物、15ppmテトラサイクリン)30mLに接種し、37℃、210rpmで3日間、振盪培養を行った(N=5)。培養終了後、下記測定例に示す分析条件にてPGA生産量及び分子量を測定した。PGA生産量は、プラスミドpHY_PS237/pgsBCを導入した枯草菌168株(特開2009−89708号公報)におけるPGA生産量を100%とした場合の相対値で示した。
【0091】
結果を表6及び表7に示す。MGB874株にpgsBCを導入した組換え枯草菌は、168株からの組換え枯草菌と比較してPGA生産量が高かった(表6)。またMGB874株にpgsBCを導入した組換え枯草菌は、168株からの組換え枯草菌と比較して、より高分子量のPGAを生産した(表7)。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
(測定例)PGAの定量分析及び分子量分析
培養終了後の培養液試料を、室温にて14,800rpmで30分間の遠心分離(日立工機、himacCF15RX)に供し、得られた遠心分離後の試料上清中に含まれるPGAについて、HPLC法にて定量分析及び分子量分析を行った。使用したHPLC装置は、送液ポンプ(島津、LC−9A)、オートサンプラー(日立計測機器、AS−2000)、カラムオーブン(島津、CTO−6A)、UV検出計(島津、SPD−10A)、脱ガス装置(GLサイエンス、DG660B)及びクロマトデータ解析装置(日立計測機器、D−2500)を接続して用いた。分析カラムは、排除限界の異なる2種類の東ソー製の親水性ポリマー用ゲルろ過カラムTSKgel G6000PWXL(7.8mm I.D.×30cm、排除限界>5×10
7)及びTSKgel G4000PWXL(7.8mm I.D.×30cm、排除限界1×10
6)を用い、これら分析カラムの直前にガードカラムTSK guardcolumn PWXL(6.0mm I.D.×4.0cm)を接続した。溶離液には0.1M硫酸ナトリウム、流速1.0mL/分、カラム温度は50℃、溶出ピークの検出波長は210nmを用いた。試料注入量はサンプルループ(レオダイン)を用い、1分析あたり20μLとした。HPLC分析に供するサンプルは、不溶物を除くための前処理としてMULTI SCREEN MNHV45(MILLIPORE製、0.45μmデュラポア膜)にてフィルターろ過処理し調製した。濃度検定には分子量80万のPGA(明治フードマテリアル)を用いて検量線を作成した。さらに、分子量検定には、プルラン Shodex STANRD P−82(昭和電工)を用いて予め重量平均分子量を求めた各種分子量の異なるポリグルタミン酸(和光純薬工業:162−21411及び162−21401、SIGMA−ALDRICH:P−4886及びP−4761、明治フードマテリアル:分子量88万)を用いた。