特許第5945192号(P5945192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945192
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】表面増強ラマン散乱ユニット
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   G01N21/65
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-178773(P2012-178773)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-37974(P2014-37974A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】柴山 勝己
(72)【発明者】
【氏名】丸山 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将師
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−196992(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0166045(US,A1)
【文献】 特表2008−519254(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/021085(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
B82Y 15/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する基板と、
前記主面上に形成され、複数の凸部を有する微細構造部と、
前記微細構造部上に形成され、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部を構成する導電体層と、を備え、
前記凸部の外面には、陥凹領域が設けられており、
前記導電体層には、前記導電体層が前記陥凹領域に入り込むことにより、ギャップが形成されており、
前記凸部の根元部は、前記陥凹領域ではない領域を含み、
隣り合う一対の前記凸部に着目した場合に、一方の前記凸部の外面に形成された前記導電体層と、他方の前記凸部の外面に形成された前記導電体層との間の距離よりも、前記凸部の外面に設けられた前記陥凹領域に前記導電体層が入り込むことにより形成された前記ギャップの幅は小さくなっている、表面増強ラマン散乱ユニット。
【請求項2】
前記凸部は、前記主面に沿って周期的に配列されている、請求項記載の表面増強ラマン散乱ユニット。
【請求項3】
前記陥凹領域は、1つの前記凸部に対して複数設けられている、請求項又は記載の表面増強ラマン散乱ユニット。
【請求項4】
前記陥凹領域は、前記凸部の中心線に沿うように延在する溝である、請求項のいずれか一項記載の表面増強ラマン散乱ユニット。
【請求項5】
前記陥凹領域は、前記凸部の中心線を包囲するように延在する溝である、請求項のいずれか一項記載の表面増強ラマン散乱ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強ラマン散乱ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の表面増強ラマン散乱ユニットとして、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を生じさせる微小金属構造体を備えるものが知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。このような表面増強ラマン散乱ユニットにおいては、ラマン分光分析の対象となる試料が微小金属構造体に接触させられ、その状態で当該試料に励起光が照射されると、表面増強ラマン散乱が生じ、例えば10倍程度にまで増強されたラマン散乱光が放出される。
【0003】
ところで、例えば特許文献2には、基板の一面、及び当該基板の一面に形成された複数の微小突起部の上面(又は、当該基板の一面に形成された複数の微細孔の底面)のそれぞれに、非接触状態となるように(最短部分の間隔が5nm〜10μm程度となるように)金属層が形成された微小金属構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−33518号公報
【特許文献2】特開2009−222507号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Q-SERSTM G1 Substrate”、[online]、株式会社オプトサイエンス、[平成24年7月19日検索]、インターネット<URL:http://www.optoscience.com/maker/nanova/pdf/Q-SERS_G1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、いわゆるナノギャップが微小金属構造体に形成されていると、励起光が照射された際に局所的な電場の増強が起こり、表面増強ラマン散乱の強度が増大される。
【0007】
そこで、本発明は、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる表面増強ラマン散乱ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットは、主面を有する基板と、主面上に形成され、複数の凸部を有する微細構造部と、微細構造部上に形成され、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部を構成する導電体層と、を備え、凸部の外面には、陥凹領域が設けられており、導電体層には、導電体層が陥凹領域に入り込むことにより、ギャップが形成されている。
【0009】
この表面増強ラマン散乱ユニットでは、微細構造部の凸部の外面に設けられた陥凹領域に導電体層が入り込んでおり、それにより、光学機能部を構成する導電体層にギャップが形成されている。この導電体層に形成されたギャップは、局所的な電場の増強が起こるナノギャップとして好適に機能する。したがって、この表面増強ラマン散乱ユニットによれば、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる。
【0010】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、凸部は、主面に沿って周期的に配列されていてもよい。この構成によれば、表面増強ラマン散乱の強度を安定的に増大させることができる。
【0011】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、陥凹領域は、1つの凸部に対して複数設けられてもよい。この構成によれば、ナノギャップとして好適に機能するギャップを増加させることができる。
【0012】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、陥凹領域は、凸部の中心線に沿うように延在する溝であってもよいし、或いは、陥凹領域は、凸部の中心線を包囲するように延在する溝であってもよい。いずれの構成によっても、陥凹領域に対応する位置に形成されたギャップをナノギャップとして好適に機能させることができる。
【0013】
また、本発明の表面増強ラマン散乱ユニットは、主面を有する基板と、主面上に形成され、複数の凹部を有する微細構造部と、微細構造部上に形成され、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部を構成する導電体層と、を備え、凹部の内面には、陥凹領域が設けられており、導電体層には、導電体層が陥凹領域に入り込むことにより、ギャップが形成されている。
【0014】
この表面増強ラマン散乱ユニットでは、微細構造部の凹部の内面に設けられた陥凹領域に導電体層が入り込んでおり、それにより、光学機能部を構成する導電体層にギャップが形成されている。この導電体層に形成されたギャップは、局所的な電場の増強が起こるナノギャップとして好適に機能する。したがって、この表面増強ラマン散乱ユニットによれば、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる。
【0015】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、凹部は、主面に沿って周期的に配列されていてもよい。この構成によれば、表面増強ラマン散乱の強度を安定的に増大させることができる。
【0016】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、陥凹領域は、1つの凹部に対して複数設けられていてもよい。この構成によれば、ナノギャップとして好適に機能するギャップを増加させることができる。
【0017】
本発明の表面増強ラマン散乱ユニットでは、陥凹領域は、凹部の中心線に沿うように延在する溝であってもよいし、或いは、陥凹領域は、凹部の中心線を包囲するように延在する溝であってもよい。いずれの構成によっても、陥凹領域に対応する位置に形成されたギャップをナノギャップとして好適に機能させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる表面増強ラマン散乱ユニットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの平面図である。
図2図1のII−II線に沿っての断面図である。
図3図1の表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部の縦断面図である。
図4図3の光学機能部のピラー及び導電体層の平面図である。
図5図3の光学機能部のピラー及び導電体層の横断面図である。
図6図1の表面増強ラマン散乱ユニットの製造工程を示す断面図である。
図7図1の表面増強ラマン散乱ユニットの製造工程を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部の縦断面図である。
図9図8の光学機能部のピラー及び導電体層の縦断面図である。
図10】本発明の第2実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの製造工程を示す断面図である。
図11】本発明の第2実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの製造工程を示す断面図である。
図12】本発明の第3実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部の縦断面図である。
図13図12の光学機能部の孔及び導電体層の平面図である。
図14図12の光学機能部の孔及び導電体層の横断面図である。
図15】本発明の第4実施形態の表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部の縦断面図である。
図16図15の光学機能部の孔及び導電体層の縦断面図である。
図17図3の光学機能部のピラーの変形例である。
図18図3の光学機能部のピラーの変形例である。
図19】表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
【0021】
図1及び図2に示されるように、第1実施形態のSERSユニット(表面増強ラマン散乱ユニット)1は、ハンドリング基板2と、ハンドリング基板2上に取り付けられたSERS素子(表面増強ラマン散乱素子)3と、を備えている。ハンドリング基板2は、矩形板状のスライドガラス、樹脂基板又はセラミック基板等である。SERS素子3は、ハンドリング基板2の長手方向における一方の端部に片寄った状態で、ハンドリング基板2の表面2aに配置されている。
【0022】
SERS素子3は、ハンドリング基板2上に取り付けられた基板4と、基板4上に形成された成形層5と、成形層5上に形成された導電体層6と、を備えている。基板4は、シリコン又はガラス等によって矩形板状に形成されており、数百μm×数百μm〜数十mm×数十mm程度の外形及び100μm〜2mm程度の厚さを有している。基板4の裏面4bは、ダイレクトボンディング、半田等の金属を用いた接合、共晶接合、レーザ光の照射等による溶融接合、陽極接合、又は樹脂を用いた接合によって、ハンドリング基板2の表面2aに固定されている。
【0023】
図3に示されるように、成形層5は、微細構造部7と、支持部8と、枠部9と、を含んでいる。微細構造部7は、周期的パターンを有する領域であり、成形層5の中央部において基板4と反対側の表層に形成されている。微細構造部7には、数nm〜数百nm程度の直径及び高さを有する円柱状の複数のピラー(凸部)11が、基板4の表面(主面)4aに沿って、数十nm〜数百nm程度(好ましくは、250nm〜800nm)のピッチで周期的に配列されている。微細構造部7は、基板4の厚さ方向から見た場合に、数百μm×数百μm〜数十mm×数十mm程度の矩形状の外形を有している。支持部8は、微細構造部7を支持する矩形状の領域であり、基板4の表面4aに形成されている。枠部9は、支持部8を包囲する矩形環状の領域であり、基板4の表面4aに形成されている。支持部8及び枠部9は、数十nm〜数十μm程度の厚さを有している。このような成形層5は、例えば、基板4上に配置された樹脂(アクリル系、フッ素系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、PET、ポリカーボネート、無機有機ハイブリット材料等)又は低融点ガラスをナノインプリント法によって成形することで、一体的に形成される。
【0024】
導電体層6は、微細構造部7から枠部9に渡って形成されている。微細構造部7においては、導電体層6は、基板4と反対側に露出する支持部8の表面8aに達している。導電体層6は、数nm〜数μm程度の厚さを有している。このような導電体層6は、例えば、ナノインプリント法によって成形された成形層5に金属(Au,Ag、Al、Cu又はPt等)等の導電体を蒸着することで、形成される。SERS素子3では、微細構造部7、及び支持部8の表面8aに形成された導電体層6によって、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部10が構成されている。
【0025】
図4及び図5に示されるように、各ピラー11の側面(外面)11aには、断面矩形状の溝(陥凹領域)12が設けられている。溝12は、ピラー11の中心線CLに沿うように延在しており、1つのピラー11に対して複数(第1実施形態のSERSユニット1では、中心線CLに対して90度ごとに4つ)設けられている。溝12は、数nm〜数十nm程度の幅及び深さを有している。導電体層6は、各ピラー11の外面に形成されており、各ピラー11の側面11aにおいて各溝12に入り込んでいる。これにより、光学機能部10を構成する導電体層6には、各溝12に沿ってギャップGが形成されている。ギャップGは、0〜数十nm程度の間隔を有している。なお、ピラー11の中心線CLとは、当該中心線CLに垂直なピラー11の各断面形状についてその重心を通る線である。
【0026】
以上のように構成されたSERSユニット1は、次のように使用される。まず、ハンドリング基板2の表面2aに、例えばシリコーン等からなる環状のスペーサを、SERS素子3を包囲するように配置する。続いて、ピペット等を用いて、スペーサの内側に溶液の試料(或いは、水又はエタノール等の溶液に粉体の試料を分散させたもの)を滴下し、光学機能部10上に試料を配置する。続いて、レンズ効果を低減させるために、スペーサ上にカバーガラスを載置し、溶液の試料と密着させる。
【0027】
続いて、SERSユニット1をラマン分光分析装置にセットし、光学機能部10上に配置された試料に、カバーガラスを介して励起光を照射する。これにより、光学機能部10と試料との界面で表面増強ラマン散乱が生じ、試料由来のラマン散乱光が例えば10倍程度にまで増強されて放出される。よって、ラマン分光分析装置では、高精度なラマン分光分析が可能となる。
【0028】
なお、光学機能部10上への試料の配置の方法には、上述した方法の他に、次のような方法がある。例えば、ハンドリング基板2を把持して、溶液である試料(或いは、水又はエタノール等の溶液に粉体の試料を分散させたもの)に対してSERS素子3を浸漬させて引き上げ、ブローして試料を乾燥させてもよい。また、溶液である試料(或いは、水又はエタノール等の溶液に粉体の試料を分散させたもの)を光学機能部10上に微量滴下し、試料を自然乾燥させてもよい。また、粉体である試料をそのまま光学機能部10上に分散させてもよい。
【0029】
以上説明したように、第1実施形態のSERSユニット1では、微細構造部7のピラー11の側面11aに設けられた溝12に導電体層6が入り込んでおり、それにより、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGが形成されている。この導電体層6に形成されたギャップGは、局所的な電場の増強が起こるナノギャップとして好適に機能する。したがって、第1実施形態のSERSユニット1によれば、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる。
【0030】
また、複数のピラー11が基板4の表面4aに沿って周期的に配列されているので、表面増強ラマン散乱の強度を安定的に増大させることができる。
【0031】
また、溝12が1つのピラー11に対して複数設けられているので、ナノギャップとして好適に機能するギャップGを増加させることができる。
【0032】
次に、第1実施形態のSERSユニット1の製造方法の一例について説明する。まず、図6の(a)に示されるように、マスタモールドMM及びフィルム基材Fを用意する。マスタモールドMMは、微細構造部7に対応する微細構造部M7と、微細構造部M7を支持する支持部M8と、を含んでいる。支持部M8上には、複数の微細構造部M7がマトリックス状に配列されている。続いて、図6の(b)に示されるように、マスタモールドMMにフィルム基材Fを押し当て、その状態で加圧及び加熱することにより、複数の微細構造部M7のパターンをフィルム基材Fに転写する。続いて、図6の(c)に示されるように、フィルム基材FをマスタモールドMMから離型することにより、複数の微細構造部M7のパターンが転写されたレプリカモールド(レプリカフィルム)RMを得る。
【0033】
続いて、図7の(a)に示されるように、基板4となるシリコンウェハ40を用意し、その表面40aにUV硬化性の樹脂を塗布することにより、成形層5となるナノインプリント層50をシリコンウェハ40上に形成する。続いて、図7の(b)に示されるように、ナノインプリント層50にレプリカモールドRMを押し当て、その状態でUVを照射してナノインプリント層50を硬化させることにより、レプリカモールドRMのパターンをナノインプリント層50に転写する。続いて、図7の(c)に示されるように、レプリカモールドRMをナノインプリント層50から離型することにより、複数の微細構造部7が形成されたシリコンウェハ40を得る。なお、樹脂の硬化を確実にするために熱キュアを施してもよい。
【0034】
続いて、抵抗加熱蒸着や電子ビーム蒸着等の蒸着法又はスパッタ法によって、Au、Ag等の金属を成形層5上に成膜し、導電体層6を形成する。このとき、微細構造部7のピラー11の側面11aに設けられた溝12に導電体層6が入り込み、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGが形成される。続いて、微細構造部7ごとに(換言すれば、光学機能部10ごとに)シリコンウェハ40を切断することより、複数のSERS素子3を得る。続いて、SERS素子3をハンドリング基板2上に取り付けて、SERSユニット1を得る。
【0035】
なお、導電体層6を形成する場合には、蒸着源に対して自転及び公転するプラネタリに複数のシリコンウェハ40をセットして蒸着を行うプラネタリ式の蒸着法が有効である。プラネタリ式の蒸着法によれば、対向式や公転ドーム式の蒸着法に比べ、ピラー11の側面11aに導電体層6を均一に成膜することができ、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGを安定的に形成することができる。
【0036】
また、導電体層6を形成する場合には、スパッタ法も有効である。スパッタ法よれば、プラズマ放電により金属粒子が衝突しながら成形層5に付着するため、方向性がランダムとなり、ピラー11の側面11aへの金属粒子の回り込みが良い。したがって、スパッタ法よっても、ピラー11の側面11aに導電体層6を均一に成膜することができ、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGを安定的に形成することができる。
【0037】
以上説明したように、第1実施形態のSERSユニット1の製造方法では、ピラー11の側面11aに設けられた溝12を利用して、導電体層6にギャップGを形成する。これにより、導電体層6の成膜状態が安定し難いピラー11の根元部にギャップGを形成するような場合に比べ、ナノギャップとして好適に機能するギャップGを安定的に得ることができる。
【0038】
また、レプリカモールドRMの2次元形状のパターンを転写するのみで、ピラー11の中心線CLに沿うように延在する溝12をピラー11の側面11aに形成することができる。レプリカモールドRMにおいて2次元形状のパターンを設計変更することは容易であるため、表面増強ラマン散乱の強度を増大させ得る好適なナノギャップが形成されたSERS素子3を歩留まり良く製造することができる。
【0039】
なお、ナノインプリント法としては、上述したUVナノインプリントの他に、熱ナノインプリントを用いることもできる。熱ナノインプリントの場合には、モールド材としてニッケルやシリコンなどを用いることができる。
【0040】
なお、上述したナノインプリント法に代えて、2次元形状のパターンを有するマスクをホトエッチや電子ビーム描写等によって形成し、当該マスクを用いたエッチングによって、基板4上に微細構造部7を形成してもよい。この場合にも、マスクにおいて2次元形状のパターンを設計変更することは容易であるため、表面増強ラマン散乱の強度を増大させ得る好適なナノギャップが形成されたSERS素子3を歩留まり良く製造することができる。
[第2実施形態]
【0041】
図8に示されるように、第2実施形態のSERSユニット1は、微細構造部7が基板4の表面4aに形成されている点、及び溝12がピラー11の中心線CLを包囲するように延在している点で、上述した第1実施形態のSERSユニット1と主に相違している。第2実施形態のSERSユニット1においては、微細構造部7は、基板4の表面4aの中央部に形成されており、基板4の厚さ方向から見た場合に、数百μm×数百μm〜数十mm×数十mm程度の矩形状の外形を有している。微細構造部7のピラー11は、基板4の表面4aに沿って、数十nm〜数百nm程度(好ましくは、250nm〜800nm)のピッチで周期的に配列されている。
【0042】
導電体層6は、微細構造部7から基板4の表面4aに渡って形成されている。導電体層6は、微細構造部7において露出する基板4の表面4aに達している。SERS素子3では、微細構造部7、及び微細構造部7において露出する基板4の表面4aに形成された導電体層6によって、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部10が構成されている。
【0043】
図9に示されるように、溝12は、ピラー11の中心線CLを包囲するように円環状に延在しており、1つのピラー11に対して1つ設けられている。導電体層6は、各ピラー11の外面に形成されており、各ピラー11の側面11aにおいて各溝12に入り込んでいる。これにより、光学機能部10を構成する導電体層6には、各溝12に沿ってギャップGが形成されている。なお、溝12は、例えば中心線CLに沿って並設されるように、1つのピラー11に対して複数設けられていてもよい。
【0044】
以上のように構成された第2実施形態のSERSユニット1によっても、上述した第1実施形態のSERSユニット1と同様の効果が奏される。
【0045】
次に、第2実施形態のSERSユニット1の製造方法の一例について説明する。まず、図10の(a)に示されるように、基板4となるシリコンウェハ40を用意する。続いて、図10の(b)に示されるように、シリコンウェハ40の表面40aに、SiOからなる犠牲層13を形成する。続いて、図10の(c)に示されるように、犠牲層13の表面13aに、ポリシリコンからなる表層14を形成する。
【0046】
続いて、図11の(a)に示されるように、表層14の表面14aに、レジスト層RLを形成する。レジスト層RLは、ホトエッチによって形成されたパターンを有している。レジスト層RLのパターンは、複数の微細構造部7に対応しており、微細構造部7ごとに、ピラー11に対応する部分をマスクしている。続いて、図11の(b)に示されるように、レジスト層RLをマスクとしたドライエッチングによって、レジスト層RLにマスクされていなかった領域の表層14、犠牲層13及びシリコンウェハ40の表層を除去し、その後に、残ったレジスト層RLを除去する。続いて、図11の(c)に示されるように、側方に露出した犠牲層13の表層を、別のエッチャントによるドライエッチング又はウェットエッチングによって選択的に除去し、ピラー11の側面11aに溝12を形成する。これにより、複数の微細構造部7が形成されたシリコンウェハ40を得る。
【0047】
なお、SOIウェハを用いても同様に製作することが可能である。また、ピラー11の材質はシリコンに限ったものではなく、犠牲層13の材質はSiOに限ったものではない。ピラー11の材質及び犠牲層13の材質は、それぞれ、犠牲層13がピラー11に対して選択的にエッチングされるものであればよい。また、基板4の材質とピラー11の先端部の材質とが同一である必要もない。例えば、基板4がシリコンウェハであり、犠牲層がSiOであり、ピラー11の先端部が樹脂であってもよい。ピラー11の先端部が樹脂の場合には、ナノインプリント法によって形成してもよい。
【0048】
続いて、抵抗加熱蒸着や電子ビーム蒸着等の蒸着法又はスパッタ法によって、Au、Ag等の金属をシリコンウェハ40上に成膜し、導電体層6を形成する。このとき、微細構造部7のピラー11の側面11aに設けられた溝12に導電体層6が入り込み、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGが形成される。続いて、微細構造部7ごとに(換言すれば、光学機能部10ごとに)シリコンウェハ40を切断することより、複数のSERS素子3を得る。続いて、SERS素子3をハンドリング基板2上に取り付けて、SERSユニット1を得る。
【0049】
以上説明したように、第2実施形態のSERSユニット1の製造方法では、ピラー11の側面11aに設けられた溝12を利用して、導電体層6にギャップGを形成する。これにより、導電体層6の成膜状態が安定し難いピラー11の根元部にギャップGを形成するような場合に比べ、ナノギャップとして好適に機能するギャップGを安定的に得ることができる。
【0050】
また、犠牲層13の厚さや位置を調整するのみで溝12の幅を容易に変更することができ、犠牲層13の表層のエッチング条件を調整するのみで溝12の深さを容易に変更することができるので、表面増強ラマン散乱の強度を増大させ得る好適なナノギャップが形成されたSERS素子3を歩留まり良く製造することができる。
[第3実施形態]
【0051】
図12に示されるように、第3実施形態のSERSユニット1は、ピラー11の代わりに孔(凹部)15が成形層5に形成されている点で、上述した第1実施形態のSERSユニット1と主に相違している。第3実施形態のSERSユニット1においては、微細構造部7には、数nm〜数百nm程度の直径及び深さを有する円柱状の複数の孔15が、基板4の表面4aに沿って、数十nm〜数百nm程度(好ましくは、250nm〜800nm)のピッチで周期的に配列されている。
【0052】
導電体層6は、微細構造部7から枠部9に渡って形成されている。微細構造部7においては、導電体層6は、基板4と反対側に露出する支持部8の表面8a(すなわち、各孔15の底面)に達している。SERS素子3では、微細構造部7、及び支持部8の表面8aに形成された導電体層6によって、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部10が構成されている。
【0053】
図13及び図14に示されるように、各孔15の側面(内面)15aには、断面矩形状の溝12が設けられている。溝12は、孔15の中心線CLに沿うように延在しており、1つの孔15に対して複数(第3実施形態のSERSユニット1では、中心線CLに対して90度ごとに4つ)設けられている。導電体層6は、各孔15の内面に形成されており、各孔15の側面15aにおいて各溝12に入り込んでいる。これにより、光学機能部10を構成する導電体層6には、各溝12に沿ってギャップGが形成されている。なお、孔15の中心線CLとは、当該中心線CLに垂直な孔15の各断面形状についてその重心を通る線である。
【0054】
以上のように構成された第3実施形態のSERSユニット1では、微細構造部7の孔15の側面15aに設けられた溝12に導電体層6が入り込んでおり、それにより、光学機能部10を構成する導電体層6にギャップGが形成されている。この導電体層6に形成されたギャップGは、局所的な電場の増強が起こるナノギャップとして好適に機能する。したがって、第3実施形態のSERSユニット1によれば、好適なナノギャップによって表面増強ラマン散乱の強度を増大させることができる。
【0055】
また、複数の孔15が基板4の表面4aに沿って周期的に配列されているので、表面増強ラマン散乱の強度を安定的に増大させることができる。
【0056】
また、溝12が1つの孔15に対して複数設けられているので、ナノギャップとして好適に機能するギャップGを増加させることができる。
【0057】
なお、第3実施形態のSERSユニット1は、上述した第1実施形態のSERSユニット1と同様に、ナノインプリント法によって成形層5に微細構造部7を形成することができる。或いは、2次元形状のパターンを有するマスク(上述した第1実施形態のマスクに対して、マスク部分と開口部分とを反転させたもの)を用いたエッチングによって、基板4上に微細構造部7を形成してもよい。
[第4実施形態]
【0058】
図15に示されるように、第4実施形態のSERSユニット1は、微細構造部7が基板4の表面4aに形成されている点、及び溝12が孔15の中心線CLを包囲するように延在している点で、上述した第3実施形態のSERSユニット1と主に相違している。第4実施形態のSERSユニット1においては、微細構造部7は、基板4の表面4aの中央部に形成されており、基板4の厚さ方向から見た場合に、数百μm×数百μm〜数十mm×数十mm程度の矩形状の外形を有している。微細構造部7の孔15は、基板4の表面4aに沿って、数十nm〜数百nm程度(好ましくは、250nm〜800nm)のピッチで周期的に配列されている。
【0059】
導電体層6は、微細構造部7から基板4の表面4aに渡って形成されている。導電体層6は、微細構造部7において露出する基板4の表面(すなわち、各孔15の底面)に達している。SERS素子3では、微細構造部7、及び微細構造部7において露出する基板4の表面に形成された導電体層6によって、表面増強ラマン散乱を生じさせる光学機能部10が構成されている。
【0060】
図16に示されるように、溝12は、孔15の中心線CLを包囲するように円環状に延在しており、1つの孔15に対して1つ設けられている。導電体層6は、各孔15の内面に形成されており、各孔15の側面15aにおいて各溝12に入り込んでいる。これにより、光学機能部10を構成する導電体層6には、各溝12に沿ってギャップGが形成されている。なお、溝12は、例えば中心線CLに沿って並設されるように、1つの孔15に対して複数設けられていてもよい。
【0061】
以上のように構成された第4実施形態のSERSユニット1によっても、上述した第3実施形態のSERSユニット1と同様の効果が奏される。なお、第4実施形態のSERSユニット1は、上述した第2実施形態のSERSユニット1と同様に、2次元形状のパターンを有するマスク(上述した第2実施形態のマスクに対して、マスク部分と開口部分とを反転させたもの)を用いたエッチングによって、基板4上に微細構造部7を形成することができる。
【0062】
以上、本発明の第1〜第4実施形態について説明したが、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、ピラー11及び孔15の配列構造は、2次元配列に限定されず、1次元配列であってもよいし、正方格子状の配列に限定されず、三角格子状の配列であってもよい。また、ピラー11及び孔15の断面形状は、円形に限定されず、楕円、或いは三角形や四角形等の多角形であってもよい。このように、SERSユニット1の各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を適用することができる。
【0063】
また、微細構造部7は、第1実施形態及び第3実施形態のように、例えば支持部8を介して、基板4の表面4a上に間接的に形成されていてもよいし、第2実施形態及び第4実施形態のように、基板4の表面4a上に直接的に形成されていてもよい。また、導電体層6は、微細構造部7上に直接的に形成されたものに限定されず、微細構造部7に対する金属の密着性を向上させるためのバッファ金属(Ti、Cr等)層等、何らかの層を介して、微細構造部7上に間接的に形成されたものであってもよい。
【0064】
また、溝12の断面形状は、矩形状に限定されず、U字状やV字状等であってもよい。導電体層6が溝12に入り込んでギャップGが形成されていれば、溝12内において、導電体層6は、繋がっていてもよいし、離れていてもよい。また、ピラー11のような凸部の外面や、孔15のような凹部の内面に、溝12以外の陥凹領域が設けられていてもよい。つまり、凸部の外面や凹部の内面に形成された切欠き部、陥没部等の陥凹領域(凹んだ領域、窪んだ領域、落ち込んだ領域)に導電体層6が入り込むことにより、ギャップGが形成されていれば、入込み部である陥凹領域の形状は限定されない。一例として、図17に示されるように、ピラー11の側面11aにおいて山と谷とが繰り返されているような場合には、谷の部分が陥凹領域となる。孔15の側面15aにおいて山と谷とが繰り返されているような場合にも、同様に、谷の部分が陥凹領域となる。また、図18に示されるように、ピラー11の側面11aに多数の突起が設けられているような場合には、隣り合う突起間の部分が陥凹領域となる。孔15の側面15aに多数の突起が設けられているような場合にも、同様に、隣り合う突起間の部分が陥凹領域となる。
【0065】
ここで、隣り合う一対の凸部(ピラー11に対応するもの)に着目した場合に、一方の凸部の外面に形成された導電体層と、他方の凸部の外面に形成された導電体層との間の距離よりも、凸部の外面に設けられた陥凹領域に導電体層が入り込むことにより形成されたギャップの幅は小さくなっている。これにより、微細構造部の構造のみでは得られないような狭いギャップ(ナノギャップとして好適に機能するギャップ)を容易に且つ安定的に形成することができる。
【0066】
参考として、表面増強ラマン散乱ユニットの光学機能部のSEM写真について説明する。図19に示される光学機能部は、所定のピッチ(中心線間距離360nm)で周期的に配列された複数のピラー(直径120nm、高さ180nm)を有するナノインプリント樹脂製の微細構造部に、導電体層として、膜厚が50nmとなるようにAuを蒸着したものである。
【符号の説明】
【0067】
1…SERSユニット(表面増強ラマン散乱ユニット)、4…基板、4a…表面(主面)、6…導電体層、7…微細構造部、10…光学機能部、11…ピラー(凸部)、11a…側面(外面)、12…溝(陥凹領域)、15…孔(凹部)、15a…側面(内面)、G…ギャップ、CL…中心線。
図1
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